⇒メディア時評

☆過払い金回収ビジネスとメディア

☆過払い金回収ビジネスとメディア

  最近テレビを視聴していて気になっているのが、一時ブームのように盛り上がり、最近は下火にになっていた、消費者金融に払い過ぎた「過払い金」を取り戻すというCMが最近再び目立つようになってきたことだ。

  先日もロ-カルCMで石川県で過払い金請求の相談会をするとの内容で、東京の法律事務所の司法書士と弁護士がコンビで出ていた。なぜ、司法書士と弁護士がペアで相談会に回るのかというと、司法書士が扱う訴訟は簡易裁判所で訴訟の額は140万円までと制限があり、弁護士は140万円以上の過払い金請求訴訟を地方裁判所で起こすという図式になっているからのようだ。テレビだけでなく、新聞広告やチラシでも盛んにCMを打っている東京のある法律事務所のホームページをのぞいてみると、「過払い金回収実績」というページがあって、これまでに34万件1970億円を回収したと誇っている。

   過払い金の回収は、消費者金融が「利息制限法」で定められている、金を貸す際に守らなければならない金利の上限(金額に応じて15-20%)を超えた金利を受け取っていた場合、借りた側がその超過部分の金を貸金業者から返還してもらうことだと解釈しているが、ここではその仕組みを論じるつもりはない。金融は素人だ。冒頭で気になると述べたのは、一度下火になった過払い回収がなぜ今再びという、ちょっとした疑問だ。

  今は消費者金融とメディアも称しているが、1970年代の高度成長には「サラ金」(サラリーマン金融)と呼んで、テレビCMなどで盛んに宣伝されていた。ところが、「サラ金地獄」といった債務問題が社会問題化する。日本民間放送連盟(民放連)などは1977年に消費者金融のCMを排除を申し合わせたほどだった。

  ところが、再び消費者金融が復活する。きっかけは1990年代のいわゆる「バブル経済」の崩壊だった。経済的に苦しい消費者が激増した。消費者金融の大手などは「むじんくん」や「お自動さん」といった自動契約機を各地で設置して借りやすい環境を整えていた。1980年代後半で54.75%だった出資法の上限金利も、1990年代には40.004%になり以前と比べ下がっていた。

  また、そのころ消費者金融のテレにビCMも深夜帯に限って復活していた。1995年にはテレビCMが「解禁」となり、ゴールデンタイムなどにも流れ始めた。これらの追い風を受けて、個人向け融資の全盛期を迎え、2006年には消費者向け貸付残高が20兆9千億円(金融庁貸金業関係資料集より)にもなった。一方で利用者が複数の消費者金融業者からローンを借りる「多重債務」が社会問題化していた。

  こうした状況下で2006年1月13日、最高裁の注目すべき判決があった。それまで出資法上の上限金利(当時29.2%)と利息制限法上の上限金利(15-20%)の差、いわゆる「グレーゾーン金利」について、利用者(債務者)が利息として任意に払い、契約時や弁済時に契約内容を示す書面が交付されてれば、それは「みなし弁済」ということで有効とされていた。ところが、最高裁判決では、特段の事情がない限り、利息制限法を超過する金利はすべて無効であり、「みなし弁済」は適応されないと判断した。つまり、過払い金として返還請求を全面的に認めたのだ。

  この最高裁の判断によって翌年2007年には貸金業法が大幅な改正向けて動き出し、グレーゾーン金利そのものの撤廃や、新規の借入総額を年収の3分の1までとする「総量規制」が2010年6月までに完全施行された。消費者金融も2007年には貸付金利を大幅に下げて対応した。

  法律事務所による過払い金回収のテレビCMなどが目立ってきたのはこのころだ。改正貸金業法では、消費者金融が金利20%を超えてお金を貸すと出資法違反で刑事罰が課せられ、利息制限法と出資法の上限金利の間で貸付けると貸金業法違反で行政処分の対象になる。過払い金の時効は10年なので法律事務所は「過払い金回収ビジネス」を加速させた。

  2007年からの貸金業法の大幅な改正からことしで10年。上記で述べたように、過払い金を請求できる期限は完済した時から10年なので、ことしが「過払い金回収ビジネス」のラストチャンス。だから、業界が熱くなってCMが増えているのだろう。  
  
  最近面白いCM現象がある。過払い金回収のテレビCMをよそに、銀行の「カードローン」のCMがやたらと目につく。消費者金融の貸出は減り、CMも減った。銀行の消費者ローンが増えている。銀行とすれば、1%程度の住宅ローン金利に比べれば、年3-15%の消費者ローンは魅力だろう。それに、銀行は上記の改正貸金業法の対象外で総量規制などはない。

  こうして眺めるとメディアは役得だ。消費者金融が立っても転んでもニュースになり、CMも得る。法律事務所の過払い金回収ビジネス、銀行のカードローンでもCMの恩恵に預かる。それが今後社会問題化すればさらにニュースも預かる。なんと恵まれたビジネスモデルであることか。

⇒7日(火)午後・金沢の天気   ゆき

☆ネット同時配信の成功モデルはラジオにある

☆ネット同時配信の成功モデルはラジオにある

   先日(今月23日)広告代理店「電通」が「2016年 日本の広告費」を発表した。毎年このデータに注目している。それによると、2016年の総広告費は6兆2880億円で前年比101.9%と5年連続でプラスとなった。注目しているのは、通称「4マス」と呼ばれるマスコミ4媒体の広告費だ。テレビメディア(地上波、衛星)の広告費は2兆8596億円(前年比101.7%増)、新聞は5431億円(同95.6%)、雑誌は2223億円(同91.0%)だった。これに対して、ラジオは1285億円(102.5%)。インターネットはさらに伸び率が高く1兆3100億円(同113.0%)だった。

   4マスでの伸び率で言えばラジオが健闘した。これまでだと、ラジオが伸ることはありえなかったかもしれない。ところが、電通の分析はこうだ。ラジオの伸びは年間を通して好調に推移していて、業種別ではシェアの高い「外食・各種サービス」が同110.5%と2桁成長し、11年連続で増加した。そのほか「不動産・住宅設備」「自動車・関連品」なども増加している。とくに、「radiko(ラジコ)」は月間ユニークユーザ-数およびプレミアム会員数が前年に引き続き堅調に推移。また、リアルタイム以外でもラジオ番組が聴けるタイムフリーサービスがスタート(2016年10月)し、利用が促進された、としている。このラジコこそ、ラジオのネット同時配信なのだ。

   ラジコは2010年に、関東と関西のラジオ放送局、そして電通が共同で立ち上げた。全国82のラジオ局と放送大学が参加し、リスナーは今いる地域の放送局の番組は無料で聴ける仕組みだ。2014年からは月350円(税別)で全国のラジオ放送が、昨年2016年10月からは地元のラジオ局の1週間分の番組が無料で聴けるようになった。

   この仕組みをテレビ局でも応用できないだろうか。テレビ局のネット同時配信は東京キー局の番組が全国に配信できるようになれば、ローカル局が「炭焼き小屋」になりかねない、経営危機に陥るという懸念がテレビ業界、特にローカル局にある。が、ラジオもテレビも同じ構図だった。ラジコのシステムと同じように、月額料金を払えば他のテレビ局も視聴できるようにすれば、視聴者に選択肢が広がる。関東圏や関西圏の視聴者のローカル局の視聴ニーズが高いとされている。さらに、スポンサーとすればテレビ局の新たな広告価値も広がるのではないだろうか。

   現状では、ネット上でさまざまな動画サイトが乱立し、テレビ局は視聴者を奪われつつある。これが一番の危機と認識して、テレビ局はネット同時配信を急ぐべきではないだろうか。もちろん、肖像権や音楽著作権など乗り越えるべき壁はあるが、勢いで取り組めばそう難しい話ではない。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    あめ

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-下

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-下

   放送のネット同時配信を想定してすでに「イーメジトレーニング」を実践している人たちがいる。NHKの受信契約の営業マンだ。放送法64条では、NHK番組を実際に見ているかどうかに関係なく、NHKを受信できる設備(テレビ)を持っている人は、受信料を支払う契約をする必要がある。大学の新入生がやってくる3月下旬ごろになると、NHKの営業マンたちがうごめく。学生アパートを訪ね、放送法をかざして受信料契約を迫る。「テレビは部屋にない」と学生が反論すると、「あなたが持っているスマホのワンセグでテレビが視聴できるでしょう」とさらに迫ってくる。ある学生は「なじみのない放送法に学生たちは脅威を感じていますよ」と。

   そこで私は、視聴者コールセンターに電話したことがある。1)学生は勉強をするために大学にきているので、受信契約は親元がしていれば、親と同一生計である学生は契約する必要がないのではないか、2)携帯電話(ワンセグ付き)の購入の際、受信契約の説明が何もないのもおかしい、携帯所持後に受信契約を云々するのでは誰も納得しない、3)そもそも、放送法にある受信機の「設置」を「携帯」と拡大解釈するのは間違いではないか、と。これに対し、電話対応の男性は「ワンセグは受信契約の対象になります。いろいろご事情はあるかと思いますが、別居の学生さんの場合は家族割引がありますのでご利用ください」と回答するのみだった。

   放送法と受信契約をめぐってさまざま裁判が起きている。昨年2016年8月26日、さいたま地裁でワンセグ付きの携帯電話を所有する人はNHK受信契約を結ぶ義務があるかどうかを争った訴訟の判決があり、契約義務がないとの判断が示された。放送法64条は「受信設備を設置した者は受信契約をしなければならない」とし、NHKは64条の「設置」に「携帯」の意味も含まれると主張してきた。判決の骨子は、1)携帯電話は「携帯」するものであり、放送法に言う「設置」にあたらない、2)携帯電話の所持は、放送の受信を目的としたものではない、というものだった。つまり、64条で定める「設置」に、電話の「携帯」の意味を含めるのは「無理がある」と判断したのだ。この判決にNHKは控訴した。

   注目されるのは最高裁の大法廷での初判断だ。昨年2016年11月2日、テレビがあるのに受信契約の締結を拒んだ東京の男性に、NHKが受信料を請求できるかが争われた裁判の上告審で、最高裁第3小法廷は審理を大法廷に回付した。大法廷では憲法判断や判例変更を行う場合などに回付される。この裁判はNHK側が2012年に受信契約を結び受信料を払うよう、男性を訴えた。テレビを有している男性はNHKが契約申込書を送ったが契約しなかった。1審の東京地裁は、申込書を送っただけでは契約は成立しないとしたが、放送法に基づいて男性にNHKと契約を結んだ上で受信料20万円を支払うよう命じ、2審の東京高裁も支持した。

   論点は、放送法64条では受信設備を設置したらNHKと契約する必要があると定めるが、憲法29条が保障する「契約の自由」の観点から「放送法の規定はそもそも違憲だ」と男性は主張してきた。が、29条はその2項で公共の福祉を理由とするなら、契約の自由を制限することが可能だとしている点で争われてきた。1審判決では「規定は不偏不党を貫く放送のため、テレビ設置者から広く公平に受信料を徴収することを目的としており、公共の福祉に適合する」として判断し、男性に受信料の支払い義務があるとした。

   最高裁の大法廷での求めらる判断は、果たしてNHKは公共の福祉であり、放送法は合憲なのか、という点だろう。最高裁がもし「放送法は違憲」と判断すれば、NHKは経営危機に陥る。ただ、今回そこまでの判断はしないのではないか。むしろ、NHK側が受信契約を求めるためにあえて裁判を起こす必要性などが問われるのではないか。

   ネット同時配信の時代を迎えるが、考えてみると、NHK側は受信料契約がとてもやりやすくなる。電波(ワンセグ)とネットと同時に番組が視聴できるという盤石な放送インフラになれば、あとは放送法の改定を整えればよいという段階に入る。

   ちなみにNHKが手本としているイギリス、ドイツの場合。イギリスはテレビやパソコン、スマホなどを持つ世帯に受信許可料(年145ポンド)を支払うよう義務づけている。ドイツでは、テレビが設置されていなくても、全世帯と事業所に公共放送負担金(年210ユーロ)を課している。こうした事例を挙げて、NHK側はネット同時配信で新しく法改正を求め、スマホやPCで番組を視聴する層に対し、新しい受信料を課す制度を設けてくるかもしれない。たとえば、最高裁が「NHKの受信契約は合憲」と初判断すれば、受信料の徴収は大っぴらになる。つまり、NHK側がスマホを提供する主要キャリア3社(NTTドコモ、au、ソフトバンク)などと提携して、親と同居していない学生など若い層から受信料を徴収ということも・・・そんなことが現実になってくるのではないかと想像している。

⇒20日(月)朝・金沢の天気   あめ

☆放送のネット同時配信をめぐる不協和音-中

☆放送のネット同時配信をめぐる不協和音-中

  これはテレビ業界では知られた言葉なのだが、かつて「ローカル局炭焼き小屋論」というのがあった。2000年12月にNHKと東京キー局などBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々にダイレクトに東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といったネット同時配信でささやかれるローカル局側の議論とまったく同じような懸念が業界で渦巻いた。何しろ日本のテレビ局には県域というものがあり、東京キー局の系列テレビ局が地方に110社余りある。

  では、BSデジタル放送が開始されて、系列テレビ局が倒産の憂き目に遭ったかというとそれはない。もちろん、東京キー局側でも地上波をそのまま同時再送信するような放送コンテンツを避けて、独自色のある番組制作をしている。「炭焼き小屋論」は杞憂だった。ただし、今回のネット同時配信では、「ローカル局炭焼き小屋論」が再度沸騰するかもしれない。が、もっと前向きに考えれば、ビジネスチャンスが訪れるかもしれない。

  地方の情報のニーズはある。地域情報をもっと詳しく欲しいという層は地域住民だけではなく、企業のビジネスや全国に各地に転居した人、あるいは世界の各地に住んでいる日本人などいろいろある。ネットで地域情報が映像で視聴できることは新たなビジネスチャンスだ。また、若者の世代では部屋にテレビはないが、スマホで動画を視聴するという層が多い。ならば、スマホへ放送番組を提供できることになれば、間違いなく大きなチャンスだ。さらに、ネット同時配信により、テレビ局と視聴者の双方向性が加速する。これまでテレビ局は一方通行だったが、視聴者のコメントがどんどんと寄せられる。それを視聴動向の分析データすることで、スポンサーへのハイレベルのサービスが可能になるのではないか。

  動画コンテンツの優れた制作技術を背景に、ネット上の動画コンテンツのレベルを全体に高めるくらいの志(こころざし)をもって、ネット同時配信に挑んでほしいと願っている。つまり、ローカル番組が日本全体、世界に打って出るチャンスに恵まれたのである。そう思えば未来可能性が見えてくる。

  冒頭で「炭焼き小屋」の話をした。私が知る炭焼き小屋は能登半島の先端にある。炭焼き2代目だ。一時廃業も考えたが、今では未来の構想をもって仕事をしている。10年かけて、炭焼き小屋の周囲にクヌギの木を植え、今では8000本となった。クヌギはお茶炭(菊炭)の木材だ。炭焼きの技術と山の資源を日本の伝統文化である茶道用の炭に集中し特化した。彼の炉用の茶炭は茶道界できちんと評価され、1㌔3000円の高値がする。彼は自信をつけた。日本の茶道を支える一人になりたいと。そして今後は同じ志を持つ若手を育成したいと夢を膨らませている。

⇒19日(日)夜・金沢の天気   くもり

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-上

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-上

    最近テレビ業界の人と会うたびに出てくる言葉の一つに「放送のネット同時配信でローカル局はどうしたらよいか、ざわざわしている」と。あるテレビ局の幹部からいただいたことしの年賀状にも「放送コンテンツのネット同時配信に向けて動きが本格化しています。ネットワークの在り方にも変化が出始めました」と意味深な内容だった。このネットワークの在り方の変化というのは、東京キー局とローカル局と関係性に不協和音が出始めたという意味だと直感した。

    この不協和音の震源は昨年(2016年)11月4日に開催された、総務省のネット同時配信に向けた課題を話し合う有識者会議で、2020年までに同時配信の本格実現をめざす方向性が確認されたことだろう。これを受けて、同月9日に開催された第64回民間放送全国大会(東京)で日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ会長)でこれまで慎重だった民放のネット同時配信について「民放は技術の進歩に積極的に対応していく」と述べている。また、NHKについても総務省は同月11日、NHKの改革を検討する有識者会議でネット同時配信解禁に向けた議論を始めている。

    一般のネットユーザーの立場からすれば、2020年などと言わずに今からでも同時配信をやってほしいと思って当然だろう。ところが、NHK、民放それぞれに超えるべき壁がいくつかある。まずは、民放から。私が住んでいる金沢市で東京キー局の番組を同時に視聴することはできない。それはテレビ局はいわる「県域」というものがあり、東京キー局の放送は関東エリア(東京都、神奈川県、千葉県、 埼玉県、茨城県、群馬県、栃木県の1都6県のカバー)に限定される。逆に、関東エリアに住む人が遠く離れた故郷のニュースや番組をテレビで視聴したいと思ってもそれはかなわない。

    民放のネット同時配信の懸念は、東京キー局よりローカル局の方が強い。たとえば、東京キー局の放送番組をネットで視聴できるようになれば、ローカル局が作成する地元情報の番組などは見られなくなるのではないか。また、ローカル局のCMが東京キー局にストローにように吸い上げられ、ローカル局の経営が一層厳しくなるのではないか。そうなれば、ローカル局の存在意義すらなくなるのではないか。

    放送が全国で一元化されているNHKの場合、民放のような悩みとはまったく別の懸念を抱える。それは、国との関係、受信者との関係である。NHKのネット同時配信の一番の問題は受信料だろう。テレビを設置している世帯や会社などはNHKと受信契約を結ぶ義務があるが、テレビを有している世帯のうち実際に受信契約を結び受信料を支払っているのは77%と推計されている。テレビを持たずパソコンやスマホでテレビを見る人が増えれば、受信料を払う人がさらに減少しかねない。

    放送法64条では受信設備(テレビ)を設置している世帯が受信契約を結ぶことになっているが、ネット同時配信によって、スマホを有するすべての人が受信契約の対象になる。そうなると放送法の改正をめぐって国とNHKの間で、さらにもともとネットは無料という意識があるネットユーザーとNHKの間で新たな確執が生まれて来るのはないか。

⇒17日(金)朝・金沢の天気   くもり

★日米同盟を担保した北のミサイル

★日米同盟を担保した北のミサイル

   北朝鮮がきょう12日午前7時55分ごろ、日本海に向けて弾道ミサイルを発射したというニュースがテレビメディアで一斉に流れた。北の弾道ミサイル発射は安倍外交にとって、日米同盟を確かなものにする絶妙なタイミングだったかもしれない。

   対応が素早かった。アメリカ訪問中の安倍氏は日本時間12日午後0時30分すぎ、この北朝鮮による弾道ミサイルの発射を受けて、フロリダ州パームビーチでトランプ大統領とともに記者会見し、「北朝鮮のミサイル発射は断じて容認できない。北朝鮮は、国連決議を完全に順守すべきだ。先ほど、トランプ大統領との首脳会談で米国は常に100%、日本とともにあると明言した。トランプ大統領はその意思を示すために私の隣に立っている」と述べた。

   続いて、トランプ氏も「すべての人は、アメリカが偉大な同盟国・日本と100%ともにあることを知るべきだ」と強調し、日本とアメリカが緊密に連携して北朝鮮に対処していく考えを示した。今回の記者会見では記者から質問も飛んだが、答えることもなく1分余りで終わった。記者会見というより、共同で声明を発表したというカタチだろう。発射後わずか4時間半で日米の首脳が顔をそろえて北朝鮮を非難したのである。もし、日米首脳会談で不協和音が生じていたら、このような会見の場を設定することすらできなかっただろう。

   絶妙なタイミングというのは、前日11日の共同会見で、トランプ大統領は「北朝鮮のミサイルと核の脅威からの防衛など、私たちが共有する多くの利益があり、私たちはともに取り組みます。私はこれらが非常に重要度の高いものだと考えています」と述べていた。より日本とアメリカの緊密さを強調しながら、北朝鮮に対峙する姿勢を示していた。まさにその翌日、「重要度の高いもの」が実際に飛んできたのである。

   これにより、トランプ氏は極東における不安定要因をまざまざと実感し、日米同盟の必要性を痛感したに違いない。「同盟国・日本と100%ともにあることを知るべきだ」。トランプ氏の言葉はその心情を率直に物語る。日米首脳会談中の一発の弾道ミサイルが日米同盟をより強固なものに担保した。こんな絶妙なタイミングは外交上の演出では到底、不可能だ。安倍総理の「運の良さ」を感じる。

⇒12日(日)午後・金沢の天気  ゆき

★トランプと豊洲のニュース

★トランプと豊洲のニュース

  最近もう飽きたニュースがある。東京都の豊洲市場をめぐる一連の問題だ。都議会の特別委員会が元知事の石原慎太郎氏の参考人招致を決めたことについて、小池百合子知事はきょう10日の記者会見で「『記憶にありません』と逃げる姿勢も、国民がしっかり見ることになる」と述べ、石原氏をけん制した、という。テレビ局はその参考人招致の今後の成り行きを懸命に伝えているのだが、おそらく東京エリアの視聴率も低いのではないだろうか。豊洲市場の問題は東京都が結論を出せばよい話で全国ニュースではない。そもそも東京ローカルのニュースだ。こんなことをいつまで全国ニュースで伝えるのだろうか。

  むしろ国民の耳目は「安倍VSトランプ」に集まっている。そもそもトランプ大統領の挙動が連日トップニュースになっている。大統領令でできることなら何でも手当たり次第にやっているとの印象だ。テロリストの入国阻止という目的で中東・アフリカの7ヵ国からの入国を一時禁止する大統領令などはその典型だろう。さすがにこれは、ニューヨークやワシントン州の司法長官が信仰の自由を侵害し「危険で憲法違反だ」と非難する共同声明を発表し、ワシントン州連邦地裁が大統領令の一時差し止めを命じた。トランプ大統領が今のままの手法でやり続けるなら、政権は数ヶ月も持たないのではないかと思うくらいだ。

   さて、いよいよこれから、安倍総理がホワイトハウスでトランプ大統領と初めて会談する。トランプ大統領は安倍総理の訪米を利用したいところだろう。では、どのように利用するのか。アジア太平洋地域での日本とアメリカの同盟関係を重視している姿勢を示すことで、世界の同盟諸国を安心させるシンボルにしたいのではないだろうか。先日来日したアメリカのマティス国防長官は、北朝鮮の核開発や中国の軍事的台頭に対抗するための重要なパートナーとして日本をとらえていることを述べている。
   
   一方、安倍総理は強固な日米同盟を国内外に示すほか、通商分野でもさまざまな提案をするのだろう。トランプ氏が大統領就任後、外国の首脳と公式会談するのは、イギリスのメイ首相に続き、2番目だ。その後、マイアミでのゴルフ外交がどうなるのか。メイ首相とは手をつなぎ、安倍総理とはゴルフをする。そのトランプ氏の真意はどこにあるのだろうか。

   改めて、ニュース価値はどこにあるのか。東京都の豊洲市場をめぐる一連の問題は論点整理もなされないまま、ともすれば元知事と現知事の遺恨の話題で取り上げられている。こんな切り口のニュースだったら、キー局が東京のローカルニュース枠でやればよい。

⇒10日(金)夜・金沢の天気    ゆき

☆アメリカ・ファースト

☆アメリカ・ファースト

   最近ニュース報道はトランプ大統領の就任とその一挙手一投足に注目が集まっている。メディア上では東京都の小池知事の存在感が一気に薄れたような感じもある。東京都議選の行方より、はやり、アメリカの行先と未来、世界の動向に関心が集まる。その意味で、「アメリカは偉大」だ。どのような人物が大統領になろうと、アメリカはアメリカ、世界の耳目が集まる。トランプ氏が声高に言うまでもなく、すでに「アメリカ・ファ-スト」だ。

   21日未明のアメリカ大統領の就任式の模様を視聴した。反対する人たち、就任を歓迎しない人たちの声がこれほど大きく、デモも随所にあり、波乱の幕開けを予感した。その就任の演説で連呼した「アメリカ・ファースト」。すべての政策でアメリカを優先し、メリットを勝ち取ると宣言していた。そこで感じたことだが、公職に就任するとその言葉の重みを意識して声のトーンも穏やかで慎重になるが、トランプ氏の言葉は選挙の時と同じようにエキサイトして聞こえた。さらに演説の内容もさほど変わらない。既視感(きしかん)が脳裏に漂った。

   政策も大統領選での公言と変わらない。「移民を認めない」。果たしてこれでよいのかと疑問に思う。アメリカが牽引するIT産業では、例えばフェイスブックやアップル、グーグル、マイクロソフトといった企業には有能なクリエーター、エンジニアがいるが、アメリカ人ばかりではない。インドからの移民だって多い。それを排斥するというのならば、むしろ産業力や国力の衰退につながるのではないか。

   また、トランプ氏がお得意の「アメリカ国内に工場を戻せ」の言葉で自動車産業界を揺さぶっているが、単純に重厚長大型の産業の復活をイメージしているのだろうか。むしろ、オートドライブ(自動運転)など車社会におけるイノベーションが求められ、産業構造に変化が起きようとしているのに、かつての栄光を生産現場の雇用拡大のみでアピ-ルするのは時代錯誤ではないだろうか。

   オバマ氏のイニシアティブ進めていたTPP(環太平洋連携協定)の脱退をさっそく表明した。それだけでなく、NAFTA(北米自由貿易協定)を再交渉し、応じない場合は離脱するという徹底ぶりだ。

   こうしたアメリカの政策転換を眺めて見ると、単純に「社会分断」「国際的な孤立」「技術革新の疎外」などいろいろなマイナスイメージの言葉が浮かんでくる。天下動乱の幕開けなのか、見る分には面白い時代に突入したものだ。アメリカ・ファーストの行方をウオッチ(見守り)したい。

⇒23日(月)朝・金沢の天気  ゆき

☆ハイブリッド戦争

☆ハイブリッド戦争

  昨日(12日)未明のトランプ時期大統領の初めての記者会見をテレビで視聴していて、この大荒れの会見が次の時代の到来を端的に象徴してると実感した。注目したのは、CNNのホワイトハウス担当記者が「報道機関を攻撃するのであれば質問のチャンスを与えてください」と訴えたの対し、トランプ氏は「あなたのところ偽ニュースだ」と質問をさせなかった。

  この偽ニュースとは、会見の前日(11日)に報道されたロシアのアメリカ大統領選への関与かんするニュースだ。以下、11日付のCNNウエッブ版(日本語)。「ロシアがトランプ氏の個人情報や財政情報も集めていたことを示す極秘文書が含まれていたことが分かった。事情を知る複数の米当局者がCNNに語った。」「添付文書の内容からは、ロシアがもともと米民主、共和両党について情報を収集していながら、民主党のクリントン陣営に不利な情報だけを公開していたことがうかがえる。ロシア政権がトランプ氏に肩入れしていた事実が裏付けられたと指摘する当局者もいる。」「文書の基になっているのは、英国の情報機関、対外情報部(MI6)の元工作員がまとめた35ページ分のメモだ。CNNはメモ自体の内容も入手したが、その詳細については独自の確認が取れていないため報道を差し控える。」

  少々長くなったが、要点はロシアはトランプ氏に有利に大統領選挙を進めるためにサイバー攻撃など行い、それだけでなく、ロシアはトランプ氏の個人情報や財政情報なども収集していた。しかし、この程度の記事で怒りの矛先がCNN記者に向かうものだろうか、と。

  というのも、ロシアがアメリカ大統領選の期間中、民主党のクリントン陣営幹部らにサイバー攻撃を仕掛け、メールを含む大量の情報を収集し、クリントン陣営に不利な情報だけを告発サイト『ウィキリークス』などに提供した疑いがあるということは、この記者会見でトランプ氏も「ロシアがやったと思う」と認めているのである。

  事の真贋は別として、この記者会見での様子を見て、「ハイブリッド戦争」という言葉を思い起こした。2014年ロシアが宣戦布告をせずにウクライナのクリミア半島に非正規軍を送り込んで制圧し併合した手法が「ハイブリッド戦争」と世界で言われるようになった。従来の国家と国家という争いの構図ではなく、非国家組織(極右や極左集団、テログループ、民兵などの非正規軍、サイバー攻撃集団、経済詐欺集団など)が、国家レベルではなく、狭い範囲で戦争に起こす構図だ。

  ロシアが前回のアメリカ大統領選で、民主党のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたのも、明らかにハイブリッド戦争だろう。サイバー攻撃だけでなく、経済的手段やメディアを利用する方法もある。相手の社会に深く入り込んで、内部から政治的な意思を突き崩す方法である。おそらく、トランプ氏もこのハイブリッド戦争の仕掛け人になるのではないか。それも陰に隠れてではなく、堂々と実行するのがトランプ流かもしれない。この手法にメディアは無力だ。なぜなら、本来アメリカでもウオッチドッグ(権力監視)がメディアの役目だが、そんなものは不要というのが、あのトランプ氏が記者会見で見せた攻撃的なスタンスだった。

  なぜ、トランプ氏がCNNを目の敵にという理由をもう一つ。それは日本のメディアとはまったく異なる状況がアメリカにはあるからだ。日本のテレビ局は放送法の中で定められている、政治、とくに選挙での公平中立を守らなくてはならない。ところが、アメリカでは公平中立を旨としたフェアネス・ドクトリンがとっくの昔(1987年)に廃止され、テレビ局は政党色を強く押し出して報道している。たとえば、FOXは共和党、CNNは民主といったところが代表的だ。だから、もともとトランプ氏は民主党色が強いCNNを嫌っていたのだろう。このままだとメディアは無力化することになるのではないか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

★涙の演説、荒れる会見

★涙の演説、荒れる会見

  アメリカのオバマ大統領が昨日(11日)在職2期8年の締めくくりの演説を行った。次期大統領のトランプ氏はきょう12日、当選後初めての記者会見を開いた。その二人の様子が余りにも対象的だったので、感想を述べてみたい。

  オバマ氏はイリノイ州シカゴでの退任演説で、リーマンショックとその後の景気回復、キューバとの国交回復、医療保険制度改革(オバマケア)、イランとの核合意など政権の政策の実績を述べ、「Legacy(政治的遺産)」を強調した。

  ちょっと感動したのはこの一節だった。Our Constitution is a remarkable, beautiful gift. But it’s really just a piece of parchment. It has no power on its own. We, the people, give it power – with our participation, and the choices we make. Whether or not we stand up for our freedoms. Whether or not we respect and enforce the rule of law. America is no fragile thing. But the gains of our long journey to freedom are not assured. 意訳すると、憲法は美しい贈り物だが、私たちが政治的に参加し責任ある選択をしなければ憲法はただの紙である。  

  本来、大統領の退任演説はホワイトハウスでするのが通例だが、今回オバマ氏の希望で、2008年大統領選で勝利演説をしたシカゴで市民を前に退任演説した。締めくくった言葉は、2008年と同じ「Yes We Can(私たちにはできる)」と、「Yes We Did(私たちは成し遂げた)」だった。この場所設定と締めくくりの言葉でも想像できるように、オバマ氏は「演出家」なのだ。自らのヒロシマ訪問、真珠湾への安倍総理の招へいもそうだ。演説中には涙をぬぐって見せた。役者でもある。

  一方、12日未明にあったトランプ氏の当選後初めての記者会見はテレビのニュースで見る限り荒れ模様だった。自身に不都合な情報を伝えてきたCNNテレビのリポーターからの質問を拒否する一方で、報道に手加減してきたテレビ局や新聞社には謝意を示すなど、メディアの選別を露わにした。このことを逆にCNNはどう伝えたか。12日付のCNNウエッブ版(日本語)は「ニューヨーク市内のトランプ・タワーで行われた記者会見では、メディアや政敵にも容赦ない批判を浴びせ、20日に就任した後も攻撃的なスタイルを変えない姿勢をはっきりさせた。」と記事で応戦している。

  そのほか記者会見では、20日の就任後は即座に医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃に乗り出し、メキシコとの国境を隔てる壁の建設を急ぐことなどが語られたようだ。ツイッターによる攻撃、「ツイ撃」から今度は本人の「口撃」が本格化しそうだ。

⇒12日(木)朝・金沢の天気    くもり時々はれ