⇒メディア時評

★取材「する側」と「される側」の論理

★取材「する側」と「される側」の論理

   テレビ朝日の女性記者が上司に財務事務次官のセクハラ発言を番組で取り上げるよう訴えたが却下されたことが一方で問題と指摘されている。朝日新聞(20日付)は社会面で専修大学の山田健太教授(言論法)のコメントとして「社会に根強く残るセクハラを許容する風潮を変える機会を逸し、残念だ。これは報道機関に共通する課題。これを機に各社とも。社内体制と報道姿勢自体を見直すことを願う」と記載している。コメントにある「報道機関に共通する課題」とは何か。これがむしろ大問題なのだ。

   昨年2017年6月、スイス・ジュネーブでの国連人権理事会で、国連の「表現の自由の促進」に関する特別報告者として、カリフォルニア大学教授のデービッド・ケイ氏が指摘した問題の一つが「記者クラブ」だった。ケイ氏は「調査報道を萎縮させる」と指摘した。そもそも記者クラブとは何か。「官公署などで取材する記者間の親睦をはかり、かつ、共同会見などに便利なように組織した団体。また、そのための詰所」(広辞苑)とある。公的機関が報道機関向けに行う発表する場合は通常、記者クラブが主催する記者会見で行い、幹事社が加盟社に記者会見がある旨を連絡する。このシステムについて日本新聞協会は「情報開示に消極的な公的機関に対して、記者クラブという形で結集して公開を迫ってきた」「公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務」(同協会2002年見解)など評価している。

    記者クラブ所属の記者は「番記者」と呼ばれ、例えば内閣府に食い込み取材を通じて、親しくなることでネタ(記事)を取る。親しくなりすぎて「シガラミ」が発生することもある。それでもベテランの記者ほど「虎穴に入らずば虎児を得ず」と言う。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない。という意味だ。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っているのだ。

   一方で、ケイ氏が指摘したように、こうした記者クラブの環境のもとでは政府や官公署のストーリーをそのまま発信しがちになり、権力側の圧力を跳ね返せないのではないか、ましてや権力に対し調査報道をする能力にも影響が出る、と。ケイ氏は、記者クラブは「虎穴の入り口」だと日本のメディアに警告を発しているのだと解釈している。

    話は冒頭に戻る。テレビ朝日の女性記者は事務次官のセクハラ発言を告発するため上司に提案したが却下された。おそらく、上司はこれまでテレ朝として築き上げてきた財務省との情報のパイプを壊したくなかったのだ。あるいは財務省記者クラブに加盟している他社に配慮したのではなか、と推察する。いずれにしても「仕事の論理」に「#MeToo」セクハラ告発は相応しくないと判断したのだろう。「君の仕事はセクハラ告発ではない。事務次官からスクープを取ることだよ」と。この状況は何もテレ朝に限ったことではなく「報道機関に共通する課題」だと考察している。

    今後、名誉棄損の裁判が始まるだろう。次官は「セクハラ発言」を否定している。事実認定をすることになる。公表された音声データの本人確認と内容確認。取材の在り様、たとえば飲食費を誰が払ったのか。次官が女性に電話して飲食店に誘ったと報道されているが、取材目的ならば経費は記者が、懇親会ならば次官と記者の折半、次官の接待ならば次官が支払っているだろう。会話のやり取りの意味合いもこうした状況によって違ってくるのではないか。裁判ではセクハラの認定をめぐり厳密な審理が行われる。

⇒20日(金)朝・金沢の天気     はれ

☆続々々・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

☆続々々・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

   前回(18日)のブログを更新した後に、テレビ朝日の報道局長が記者会見を開きし、セクハラ発言を受けたとする女性記者は同社の社員であると発表した。けさの新聞各紙は報じている。女性記者は会社の上司に相談したが、消極的だったという。そこで、女性記者は週刊誌に音声データを提供したと経過説明をしたというのが経緯のようだ。財務事務次官が報道陣に向かって辞任を表明したのが18日午後7時ごろ、テレビ朝日側が記者会見を開いたのは19日午前0時すぎ。この5時間のタイムラグの意味は何だろう。

    一連の報道を注視しているが気になる点がある。音声データを公開している新潮社のニュースサイト「デイリー新潮」でその音声を聞くと事務次官が、女性記者の「森友問題」の取材し対し「胸触っていい」「予算が通ったら浮気するか」「抱きしめていい」などと話す言葉が聞くことができる。気になるのはバックのノイズだ。飲食店での会話だと想像されるが、鉄板の上でステーキを焼くようなカチャカチャという音や、カラオケのような音声も聞こえる。ここから推測すると、複数の店での会話を録音であることが分かる。つまり、公開されている音声は場所が異なるいくつかの会話を切り取って編集されているのだ。テレビ局の記者らしく「セクハラ発言の特集」をつくっていた。

    上記のことを積極的に評価するとすれば、女性記者は事務次官をセクハラ発言に耐えかねて、番組で訴えようと準備していた。そのため、これまでの発言の数々を別途編集していた。そう考えると、女性記者は報道番組で自ら出演して、記者として「#MeToo」、セクハラ告発を事実として訴えよう、と。その女性記者の志(こころざし)に冷や水を浴びせたのは、ほかならぬ職場の上司だった。報じられているテレビ朝日側は会見内容で「放送すると本人が特定され、二次被害がある。報道は難しい」と却下したと述べているが、もし本人が自ら番組に出演して「#MeToo」を訴えたいと提案していたにもかかわらず、却下したとするならば、むしろ問われるべきは報道機関としての対応だろう。

    その報道番組への企画が通らず、女性記者は取材し編集した素材(音声データ)を週刊誌側に提供した。おそらく無念の思いだったろうことは想像に難くない。記者が取材活動で得た素材をまったくの第三者に渡すということはそれ相当の覚悟があってのこと、つまり懲戒免職も覚悟の上ということだ。今回のセクハラ発言の一件、いろいろと考えさせられる。

⇒19日(木)朝・金沢の天気    はれ

★続々・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

★続々・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

        では、なぜ、セクハラ発言を受けた女性記者が所属するメディア企業は動かないのか。取材だから、当然勤務時間中でのことだ。そして、会社組織として、財務省事務次官に対してセクハラ発言への抗議を申し込まなかったのだろうか。理解に苦しむ。

   きょう18日のニュースで、麻生財務大臣が、女性記者にセクハラ発言をしていたと週刊誌に報じられた事務次官から辞任の申し出があったと述べたと報じられている。辞任の理由は、このような状況下で次官の職責を果たすことが困難と考えたようだ。次官はきょう財務省内で記者団の取材に応じ、セクハラ発言の事実を否定し、名誉棄損で裁判に訴え争うという。

   裁判となると、当然、セクハラ発言を受けた女性記者に対して、法廷での証言が求められるだろう。顔出しをする必要はないが、記者としてそのセクハラ発言にどう対応したのか聴きたい。もし、出廷しなかった場合、裁判は成立するのだろうか。週刊誌報道は被害者と加害者という構図で構成がされているので、被害者の証言がない場合は事実認定は難しくなるだろう。その場合、週刊誌側に不利になるのではないだろうか。

   女性記者が出廷して証言した場合はどうか。「セクハラ」と感じたと女性記者が証言したとして、なぜ自身の自らのメディアで報じなかったのか問われるだろう。週刊誌に音声データを渡した理由と経緯も問いただされるでのはないだろうか。

   フリージャーナリストの女性が元TBSの記者の男性を、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして民事訴訟で訴えている。報道によると、女性は2015年4月、就職の相談をしようと都内で男性と会食し、その後意識を失ってホテルで望まない性行為をされたと訴えている。この問題が浮き上がった当初はハリウッドで起きた「#MeToo」、セクハラ告発が日本でもムーブメントとして起きたとの新鮮な印象だった。顔をメディアに出しての告発だ。

   警視庁はこの件を男性による準強姦罪の容疑で捜査したが、東京地検は2017年4月、嫌疑不十分で不起訴処分。女性は5月に司法記者クラブで会見し、検察審査会に不服を申し立てたことを公表したが、検察審査会は9月に「不起訴相当」との議決を出した。女性はめげずに民事訴訟で訴えた。2017年10月、日本外国特派員協会での記者会見も行っている。女性は氏名も明かしている。評価はいろいろあるが、戦うジャーナリストの姿がそこにある。   

⇒18日(水)夜・金沢の天気   はれ
  

☆続・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

☆続・いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

  週刊誌で報道された財務省の福田淳一事務次官による女性記者へのセクハラ発言について、腑に落ちないことがいくつかある。一つには、前回コラムで述べたように、女性記者が福田氏への取材過程でこれはセクハラ発言と受け止めたのであれば、なぜ記者本人が告発しないのだろうか。また、その録音データを週刊誌サイドに渡し、週刊誌での告発としたのだろうか。

   女性記者は上司に報告しなかったのだろうか。その報告を受けて、会社として対応できるのではないか。。たとえば、部長クラスが財務省に出向き、事務次官に「今後言動を慎んでほしい」と申し入れすべきではないか。

  16日財務省が発表した福田氏からの聞き取りの調査が、時事通信Webサイトで掲載されていたので引用する。

【(1)週刊誌報道・音声データにある女性記者とのやりとりの真偽】
  週刊誌報道では、真面目に質問をする「財務省担当の女性記者」に対して私(福田事務次官)が悪ふざけの回答をするやりとりが詳細に記載されているが、私(福田事務次官)は女性記者との間でこのようなやりとりをしたことはない。音声データによればかなりにぎやかな店のようであるが、そのような店で女性記者と会食をした覚えもない。音声データからは、発言の相手がどのような人であるか、本当に女性記者なのかも全く分からない。また、冒頭からの会話の流れがどうだったか、相手の反応がどうだったのかも全く分からない。

【(2)週刊誌報道・音声データにある女性記者の心当たり】
  業務時間終了後、男性・女性を問わず記者と会食に行くことはあるが、そもそも私(福田事務次官)は、女性記者との間で、週刊誌報道で詳細に記載されているようなやりとり(また、音声データおよび女性記者の発言として画面に表示されたテロップで構成されるやりとり)をしたことはなく、心当たりを問われても答えようがない。

  上記の福田氏のコメントを読むと、音声データの内容を完全に否定しているようにも感じる。聴取したのは、麻生財務大臣の指示を受けた矢野大臣官房長。福田氏は今回の週刊誌報道が事実と異なり、名誉毀損で提訴に向けて準備を進めているようだ。

   そして、財務省が異例の対応を記者クラブに対して行っている。以下引用。

本日(4月16日)、財務省の記者クラブ(財政研究会)の加盟各社に対して、各社内の女性記者に以下を周知いただくよう、要請した。【各社内の女性記者への周知を要請した内容】 一 福田事務次官との間で週刊誌報道に示されたようなやりとりをした女性記者の方がいらっしゃれば、調査への協力をお願いしたいこと。 一 協力いただける方の不利益が生じないよう、責任を持って対応させていただくこと。

   要するに、このようなセクハラ被害を受けた女性記者は名乗り出てほしいとメディア各社に要請したのだ。メディア各社から果たして返答はあるのか。なければ、音声データの真贋が問われる。財務省側は先手を打った。

⇒16日(月)夜・金沢の天気    くもり 

   

★いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

★いま伝えるべきこと、誰が伝えるのか

          日本のマスメディアに指摘されている問題点の一つとして、自らに降りかかった問題をその場で質さないことだと思う。その典型的な事例が、最近ニュースで報じられている、財務省の福田淳一事務次官が女性記者にセクハラ発言を繰り返したと週刊誌が報じ、野党が本人を更迭するよう求めている一件だ。

   福田氏が飲食店で30代の女性記者に「胸触っていい」「予算が通ったら浮気するか」「抱きしめていい」などと話したとする音声データを新潮社がニュースサイト「デイリー新潮」で公開した。女性記者は「森友問題」の件を取材したのだが、セクハラ発言でうまくかわされている。「渦中の省」が問題となっている矢先、そのトップの事務次官として脇が甘いと感じるのは当然だが、一方で、セクハラ発言を浴びせられ、まさに「#MeToo」を地で行く状態なのに当事者でもある記者はなぜ記事で暴かないのだろうか。福田氏は記者の身内でもなんでもなく、かばう必要もまったくない。記者はあくまでも取材者としての立場で、自ら体験したことをドキュメントとして記事にすればよいのだ。ここが不可解なのだ。

   ケースは異なるが同様のことを感じた一件がある。2017年7月5日に富山商工会議所で記者会見した、産業用ロボット製造メーカー「不二越」の会長が本社機能を富山市から東京に移すことを発表した。この会見の発言の中で、「(富山生まれは)極力採用しません」「閉鎖的な考えが強いです」と発言した。ところが、そのことが問題発言として記事になったのは1週間たった12日付の地元紙の紙面だった。

   記者会見の場にいた記者たちはなぜ、その場で地域に対する差別的な発言を質し、記事にしなかったのだろうか。取材の録音テープは当然残しているはずだ。なぜ1週間も後に記事になるのか、そのタイムラグは一体どういう経過があったのだろうか。これは想像だが、経済担当の記者はあくまでも経済面を埋める記事を書くことが優先なので、不二越本社の東京移転がメイン。差別的な発言に関しては、後にそのことを経済部の記者から聞いた社会部の記者が「その方がニュースだろう」との思いで記事にしたのではないだろうか。
   
   メディアにおけるジャーナリズムと何か。大学のメディア論の講義でもよく問う。ジャーナリズムは「理念」をさしている。民主的な手続きによって「権力」が成立しても、権力による不正は生じる。不正をただす有権者らの「知る権利」を守る。いま伝えなければならないことを、いま伝える。いま言わなければならないことを、いま言う。それがジャーナリズムだと学生たちに教えている。

   その事実を知った記者自身がジャーナリストとしての自らの感性でセクハラ発言や地域差別的な発言を質して記事にするのが本来の在り様ではないだろうか。

⇒14日(土)夜・金沢の天気    はれ

   

★国会の「まな板の鯉」あがく

★国会の「まな板の鯉」あがく

   きょう27日午後、循環器系のカテーテル検査がある。午前10時から点滴が始まるので病室で待機。「そろそろ始まるぞ」と思い、テレビのリモコンをオンにした。国税庁長官を辞任した佐川宣寿氏に対する参院予算委員会での証人喚問が午前9時30分に始まった。自民の丸川珠代氏が、森友学園との国有地取引に安倍総理や夫人の影響があったかを尋ねた。佐川氏は「昨年の国会答弁を通じて過去の文書を見ている。その中では一切、総理や総理夫人の影響があったとは私は全く考えていません」と否定した。

   また、丸川氏は国有地の取り引きについて国有地取引に関する決裁文書では書き換え前に「特例的」とか「特殊性」といった表現が記載されていたことについて「総理夫人の関与を意味しているか」と質問した。佐川氏は「通常は国有財産は売却するが、貸し付ける場合の期間は通達に3年間と書いており、その期間は特例承認をもらって変えることができる。特例とはそういう意味だと昨年も答弁している」と述べ、「本件の特殊性」という記述は政治家の関与を意味しているものではないとした。

   午前10時、点滴を受けながらテレビを食い入るように見た。証人喚問の中継を視聴していて、気になったのが、「私がどのように関わったかの問題そのものなので、告発されている身なので答弁は控える」「刑事訴追のおそれがあるので答弁は控えたい」と繰り返し答弁を拒んだことだ。佐川氏は補佐人の弁護士にたびたび助言を求め、「刑事訴追の恐れ」を繰り返し証言を拒否する場面が目立った。

   うがった見方かもしれないが、佐川氏については、理財局長だった当時「森友学園との交渉記録を破棄した」として、東京大学名誉教授らの市民団体が昨年10月、公文書等毀棄などの容疑で告発し、受理した大阪地検特捜部が調べることになっている。きょうの証人喚問の終了降、特捜部は任意で佐川氏に事情を聴くことが決まっていて、すでに本人に連絡が入っているのではないか。だから佐川氏の気持ちは国会ではなく特捜部に向いていて、国会で言質を取られないように必死に予防線を張っている。何しろ国家公務員の場合、刑事訴追が現実になれば、退職金がゼロになる場合もあるのだ。

   もう一つ。総理夫人付の政府職員がFAXと電話で問い合わせた財務省理財局の田村室長について、佐川氏は「田村、いや田村室長」と何度も繰り返した。かつての職場での上下関係とは言え、名前の呼び捨てを繰り返したことで、理財局の内部の雰囲気が十分に伝わってきた。上下関係が支配する怖い職場なのだと。午前11時40分ごろに参院予算委員会の証人喚問が終わった。

   心臓カテーテル検査のため昼食は抜きだった。点滴のまま車イスに乗せられ、検査室へ。午後1時、カテーテル検査が始まった。右手首の血管にプラスチック製のチューブ(カテーテル)が挿入された。造影剤を注入されると右手が急に一瞬熱くなった。血管を造影することで狭窄や閉塞(血管が細くなっている部分、詰まっている部分)が調べられた。20分余りの検査だったが長く感じた。検査を終えた医師はひと言。「早めに見つかってよかった」

   病室に戻りテレビをつけると、今度は衆院予算委員会で佐川氏の証人喚問が行われていた。私は検査台の上では完全に「まな板の鯉」で静かに横たわっていた。しかし、国会の「まな板の鯉」の佐川氏は最後まで「刑事訴追のおそれがあるので答弁は控えたい」とあがいていた。

⇒27日(火)夜・金沢の天気    はれ 
   
   

☆「関与」の混同、国会の混乱

☆「関与」の混同、国会の混乱

     26日午後、循環器系のカテーテル検査のため金沢市内の病院に入院した。個室を予約していて、部屋に入った。バスやトレイ、テレビなどはあるが、シャンプーや石鹸などのアメニティ用品を持参するのを忘れ、病院の売店で買い整えた。一息ついて、テレビのリモコンボタンを押すと、NHKで国会の予算委員会の中継があり、社民党の福島瑞穂議員が質問をしていた。午後3時50分ごろだった。福島氏は、きょう(26日)午前中に大阪拘置所を訪れ、詐欺罪などで起訴され拘留中の籠池泰典被告と面会したと述べていた。

     その語り口調は、自信に満ちている印象だった。「きょうの接見をベースに質問をします。しっかりした証言を得ました」と言わんばかり。弁護士出身の議員なのだ。一連の国会質問のキーワードは「関与」と「改ざん」もしくは「書き換え」ではないだろうか。「関与」とは、安倍総理夫人の関与だ。近畿財務局による国有地の売却価格に絡んで、夫人が「いい土地ですから、前に進めてください」と述べ、夫人付の政府職員がFAXなどで関連部局に問い合わせした、ということが問題になっている。国有地取引に関する決裁文書では当初「いい土地ですから、前に進めてください」と記されていたが、その後に削除され、財務省の改ざん、書き換えが新たな問題として浮上している。

     夫人の関与は夫人付の政府職員によるFAXと電話による問い合わせが何よりの証拠だと福島氏も述べていたが、そもそも関与の定義があいまいで混乱している。夫人が名誉校長であった事実をもって「関与だ」と主張していた議員がいた。言葉の概念と経緯からして、国有地の価格引き下げに直接関わることが「関与」だろう。また、夫人付の政府職員にしても、問い合わせは「関与」に当たるだろうか。これが裁判へと展開すれば、おそらく関与の証拠にはならない。

     国会での質問で野党側が熱くなってはいるが、「関与」の言葉は定義があいまで、それぞれが勝手な解釈で使っている限り、議論は混乱するだけだろう。野党側は、安倍総理夫人による土地取引における関与をどこまで立証するのか、立証できなければ司法に託すべきだろう。

     朝日新聞が今月17、18日に実施した世論調査(電話)によると、内閣の支持率は31%(2月の前回調査44%)と急落、第2次安倍内閣の発足以降で最低となった。不支持率は48%(同37%)。政党支持率は自民32%(同35%)、立憲民主11%(同10%)、希望1%(同1%)だった。内閣支持率の低迷はさもありなんと思うのだが、野党への期待度も高まっていない。ただ政治の混乱、有権者にとってこんな不幸なことはない。

⇒26日(月)夜・金沢の天気      はれ

★告発する理由

★告発する理由

    世の中が告発を煽る風潮になっている。もちろん告発は許される。企業の内部告発では、通報者が解雇など不利益をこうむらないための公益通報者保護法もある。ただ、問題は告発を煽るシステムがつくられ、誰かが利益を得る仕掛けとなっているのではないかということだ。そうなると、告発は正義でもなんでもない、ビジネスだ。

    最近不思議に思った告発は「レスリング女子の伊調馨選手へのパワハラ」問題だった。レスリング女子でオリンピック4連覇の伊調選手が日本レスリング協会の栄和人強化本部長からパワーハラスメントを受けたとする告発状が内閣府の公益認定等委員会に提出された(1月18日)。日本レスリング協会は公益財団法人であることから、告発状をあえて第三者の審議機関に出したのだろう。報道によると、告発状では、伊調選手が練習に通っていた警視庁の施設への出入りを、栄氏が禁じたと訴えている。

    これに対し、日本レスリング協会は告発内容を否定し、伊調選手も「告発状には関わっていない。しかるべき機関から正式に問い合わせがあった場合はご説明することも検討したい」としている。本人が関知しない告発状の意味は一体どこにあるのか。うがった見方をすれば、わざわざ内閣府に告発状を出し、同時に週刊誌にリークして、ことを大きくして世間の注目を浴びることに長けた「告発のプロ」が背後にいる。なぜそのような仕掛けをするのか、ニュースを聴いていぶかっている。ひょっとして、裏取引を仕掛ける告発ビジネスではないのか、と。内閣府の調査が待たれる。

    自称フリージャーナリストの女性が元TBSの記者の男性を、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして民事訴訟で訴えている問題。1100万円の損害賠償を求めた訴訟だ。報道によると、女性は2015年4月、就職の相談をしようと都内で男性と会食し、その後意識を失ってホテルで望まない性行為をされたと訴えている。この問題が浮き上がった当初はハリウッドで起きた「#MeToo」(ハッシュタグミートゥー)、セクハラ告発が日本でもムーブメントとして起きたとの新鮮な印象だった。顔をメディアに出しての告発で、勇気ある女性とも思った。

   ところが、事件性は徐々に消えていった。警視庁はこの件を男性による準強姦罪の容疑で捜査したが、東京地検は2017年4月、嫌疑不十分で不起訴処分。女性は5月に司法記者クラブで会見し、検察審査会に不服を申し立てたことを公表したが、検察審査会は9月に「不起訴相当」との議決を出した。女性はめげずに民事訴訟で訴えた。行動に少々違和感を感じたのは、2017年10月、日本外国特派員協会での記者会見だった。女性はそれまで「詩織」と名を明かしていたが、この会見で姓も明かした。そして席上、同じ月に手記を出版したことを公表したのだ。

   ニュースの流れを素直に読めば、一連の流れは著書を売るために出版社と組んだ、告発ビジネスではないかと誰もが想像するだろう。もちろん、元TBS記者の男性を擁護するつもりは一切ない。

⇒25日(日)午前・金沢の天気     はれ

☆潮目は変わったのか

☆潮目は変わったのか

       アメリカのトランプ大統領の8日付の公式ツイッター=写真=そのものがリアルな国際政治だ。「金総書記は韓国代表に凍結だけでなく、非核化についても話した。また、この期間中の北朝鮮によるミサイル発射もない。大きな進展が見られるが、合意に至るまで制裁は続く。会議が計画中だ!」

   「凍結」は核開発の凍結、「合意」とは非核化の正式な合意、「最大限の圧力」とは国連の経済制裁による最大限の圧力のことだろう。このツイッターを素直に読めば、トランプ大統領は「オレは戦わずして勝った!」と誇示しているように思える。

   9日付の韓国「朝鮮日報」の電子版は、韓国の特使が8日、アメリカのトランプ大統領に北朝鮮の金正恩労働党委員長からの親書を手渡し、「金委員長は非核化の意思を持っている」と伝え、これに対し、トランプは5月までに金委員長と会う意向があると述べた、と伝えている。トランプ氏あての親書には、1)北朝鮮の非核化意思に関する内容、2)核とミサイル実験を中止するという内容、3)トランプ大統領と早期に会談を希望するという内容などが書かれているという。トランプのツイッターの文と、朝鮮日報の記事は一致するので、双方の内容には信憑性を感じる。

    また、朝鮮日報の記事で「米韓の軍事演習が継続される必要があることを理解している」とあることに疑問符がついた。軍事演習に関しては、最近まで北朝鮮の朝鮮中央通信は「南北関係改善の流れを必死に遮ろうとしている」(2月2日)とアメリカを非難していたではないか。

   国際政治の潮目が変われば、さまざまに逆転現象が起きる。南北首脳会談の合意(6日)を受けて北朝鮮リスクが後退したことから、機雷など生産する防衛関連株で知られる石川製作所(本社・石川県白山市)の7日の株価はストップ安(マイナス500円)となった。きょう9日も261円安、11%下げの2130円で引けた。北朝鮮に絡む懸念が後退するとともに、売りが膨らんでいる。昨年10月16日に4205円(終値)をつけていたのでほぼ50%の下落となった。

   この防衛関連株の様子を見れば、いわゆる「地政学的リスク」が弱まったということだろうか。一方で、毎日のように日本海側の海岸線に北朝鮮の木造漁船が漂着とのニュースが伝えられている。6日に石川県輪島市に漂着した船は全長4.5㍍、幅2.2㍍の小船だ。乗組員や遺留品は見つかっていない。こんな小船を冬の日本海の荒波に駆り出す北の政治体制はいったいどうなっているのか。北朝鮮沿岸の日本海漁場での操業権を中国漁船に売り、結果として北朝鮮の漁船は沿岸から遠く離れた漁場に駆り出されているとも伝えられている。

   平昌冬季オリンピックの南北合同参加をきっかけとした潮目の変わりで果たしてどれだけ北の危機を緩和できるのだろうか。現実に朝鮮半島の危機はより深まっているのではないか。木造漁船の漂着は「大量の難民船」の予兆ではないかの。日本海を眺めているとそんなことを考える。

⇒9日(金)午後・金沢の天気  あめ

★美女軍団がチアガールだったら

★美女軍団がチアガールだったら

   「既視感(きしかん)」という言葉をよく使う業界はテレビ業界ではないだろうか。これは私の経験でもあるが、ディレクターが番組を制作する際、過去の映像がよく出てくると、「既視感があるよね。別の映像に差し替えができないか」などとプロデューサーが注文をつけることがある。この既視感という言葉はもととも心理学用語のようだが、テレビ業界では、同じシーンが出てきて新味がないので視聴者の心象に残らない、との意味で使わる。

    最近のテレビ映像で自身が既視感を感じたのは、平昌冬季オリンピックでの、例の北朝鮮の美女軍団の応援風景だった。2005年9月に韓国・仁川で開かれた陸上アジア選手権での応援を初めてテレビで見た。体を左右にリズムよく動かす一糸乱れぬ動作、統制された笑顔、このシーンは当時世界中で話題になった。これが「北朝鮮らしい応援」との印象が残っていた。今回の平昌での応援もまったく同じ、既視感が漂った。ただ、美女軍団が一斉に着けた、謎の男子の面のシーンは新味があった。

    平昌での応援シーンを見て、多くの視聴者は「北朝鮮は相変わっていない」と印象を持ったのではないだろうか。「相変わっていない」という意味は、美女軍団の応援ぶりだけでなく、支配体制そのものも変わっていないというマイナスイメージである。その既視感もさめやらぬうちに、今度は「4月の南北首脳会談」のニュース=写真=が6日、世界に流れた。すると、このトップニュースもどうしてもマイナスイメージで伝わる。「北朝鮮が一番脅威に感じているのはトランプ大統領に違いない。アメリカの軍事力行使をなんとか防ぐために文在寅大統領を巻き込んで、対話だ対話だと言っているのだろう」と。

    思い付きだが、オリンピックでの美女軍団のイメージをがらりと変えていれば、上記の南北会談のニュースも読み方が変わったかもしれない。応援がたとえば、チアガール(リーダー)のスタイルだったらどうだろう。「へぇ、北朝鮮も変わったな」と好感を持って世界のトップニュースに伝えられたに違いない。そして、メディアは「これはアメリカに対する強い友好のメッセージに違いない」と米朝会談への期待が一気に膨らんだことだろう。

    現実は、南北首脳会談への期待は薄い。そこで提案されるであろう米朝会談では、北朝鮮が直接アメリカと「核対話」の用意があると報じられている。北朝鮮は核保有を認めろとアメリカに主張して意見は平行線、それを既成事実化して核保有国への道を突き進む。そんなシナオリだろう、と。「ひょっとして、米朝首脳会談が北とアメリカの中間点の東京で開催されるかも。でも、それはいかがなものか」とまた考え込んでしまう。

⇒8日(木)朝・金沢の天気    あめ