⇒メディア時評

★トランプ流「歩み寄り」

★トランプ流「歩み寄り」

   アメリカと北朝鮮の関係がさらに悪化しそうだ。アメリカの「CNN」Web版(日本語)によると、アメリカ司法省は9日、制裁違反を理由に北朝鮮の貨物船「M/Vワイズ・オネスト」を差し押さえたと発表した。貨物船は北朝鮮で2番目の大型商船で、石炭を中国など他国で販売目的で輸送する目的で使われていた。輸送船の差し押さえは初めて。北朝鮮へ「最大限の圧力」をかける取り組みの一環だと司法省は説明している、と伝えている。

   トランプ大統領がツイッターで予告していた通り、アメリカは東部時間10日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)、2000億㌦分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。関税の引き上げ対象は5700品目で、食料品や家電、家具といった生活必需品も多い。

    トランプ氏は上げた関税での税収の使い方についてこんなふうにツイッターで述べている。「….agricultural products from our Great Farmers, in larger amounts than China ever did, and ship it to poor & starving countries in the form of humanitarian assistance. (アメリカの農産物を、中国が買っていたより多く購入し、人道援助のかたちで貧困や飢餓に苦しむ国々に出荷するつもりだ)」と。このツイッターを素直に読むと、今度は中国からの報復関税によって厳しい立場に追い込まれるアメリカ国内農家の救済手段を講じると表明しているようにも読める。

   冒頭の北朝鮮の貨物船の拿捕、そして中国への制裁関税、同時並行で起きているこのアメリカ、あるいはトランプ氏の戦略はどこにあるのか。アメリカの「ニューヨークイムズ」が見出しでこう表現している。「Trump Increases China Tariffs as Trade Deal Hangs in the Balance(貿易取引が均衡に収まるにつれてトランプは中国の関税を引き上げる)」。記事を読みながら見出しの意味を咀嚼(そしゃく)してみる。互いに譲歩して歩み寄るのではなく、歩み寄りながら譲歩を迫る。あるいは、交渉相手との人間関係は緊密にしながら、交渉では脅しの闘いをする。または、交渉も人間関係も切れないようにぎりぎりで維持しながら長期戦に持ち込み優位を得る。という意味合いだろうか。トランプ流の交渉術は難解だ。

⇒10日(金)夜・金沢の天気   はれ

☆「おもやい」という時間のシェア

☆「おもやい」という時間のシェア

  きのう(3日)の話の続き。この時季に庭に咲くアメリカ八角蓮(はっかくれん)は葉の切れ込みが深く、葉の下に白い花が咲く。形状も面白いが、その名前になぜ「アメリカ」とつくのか。ネットで調べてみる。六角蓮や八角蓮と呼ばれる植物はもともと台湾や中国の深山に生える大型の植物で、ハスに似た葉の角の数からそう名付けられている。サイズが花生けにちょうどよい、北アメリカ原産の種が日本に入ってきて、重宝されてアメリカ八角蓮と花名がつけられた。

  生けて床の間に飾ってみる。蓮なので銅の花入れ。野にある花には格付けはないが、床の間に飾るとなるとそれがある。よく言われるのは「青磁に牡丹(ぼたん)」のたとえ。その花に似合う器というものがある。しかも、床の間ではデコレーションするのではなく、自然のありのままの姿を花器に入れる。千利休は「花は野にあるように」と教えている。そこで、アメリカ八角蓮を耳付き銅の花入れに生ける。漆塗り丸敷板の上に。掛け軸は季節のものを選び、『五月晴 燕 自画賛』(即中斎筆)を下げた。

  じっと床の間と向き合っていると掛け軸に描かれたツバメがハスの葉の上を飛んでいるように見えてきた=写真=。意識して配置した訳ではない。気づきだった。何気ない床の間が一体化して一つの自然の風景のように思えるから不思議なものだ。

  話は変わるが、茶道の先生から「おもやい」という言葉を習った。もやい(催合い)に美化語をつけた言葉。共同で一つの事をしたり一つの物を所有したりすること(デジタル大辞泉)。茶道ではどのようなときに使うかというと、茶席の終了の時間が迫ってきたとき、ゲストの正客がホストの亭主に「おもやいで」と声掛けする。すると、一つの茶碗に二人分を点ててくれる。茶碗を受け取った最初の客は飲み口を懐紙で拭き取り、次の客に送る。ひと碗ひと碗点てると時間を要する。そこで、客側の提案で茶碗を共有することでゲストとホストの時間を短縮する。

  茶席という「もてなし」空間で、時間をシェア(share)する言葉である。

⇒4日(土)夜・金沢の天気     はれ

☆即位の見出し 読み比べ

☆即位の見出し 読み比べ

   新天皇が即位し、新元号になったということを新聞社はどのように伝えているのか。4月30日付と5月1日付の各紙の一面の見出しを比較してみた=写真=。すると各社の編集の在り様が見えてくる。

   一面の見出しで目立つのが「天皇」と「天皇陛下」の表記だ。共同通信『記者ハンドブック(第13版)新聞用字用語集』(2017年版)によると、「見出しでは敬語、敬称を省略してよい」としている。見出しなので字数を減らす必要があるので当然と考える。「新天皇即位」(北陸中日新聞)や「新天皇即位 令和元年」(朝日新聞)、「新天皇ご即位」(産経新聞)などは「陛下」を省略している。ところが、「新天皇陛下 即位」(日経新聞)、「新天皇陛下即位」(読売新聞)などは「陛下」の敬称を入れている。もちろん、共同通信の記者ハンドブックなので各社はそれに従う必要もない。ただ、読者サイドからは主見出しに「天皇陛下」の4文字は重くないだろうか。丁寧と言えば丁寧なのだが、あえて見出しで「陛下」を入れる意義はどこにあるのだろうか。

   読売の横の主見出しはいわゆる「ぶち抜き」といわれる、紙面左端から右端まで通すかたちで、新聞社としては最大級の扱いという意味だ。しかし、「新天皇即位」の5文字ではよほど文字を大きくしないと、ぶち抜きスペースは埋まらない。そこで、「陛下」の2文字をあえて入れたのではないだろうか。日経はぶち抜きではないが同じ理由ではないか。あくまでも推察だ。

   記者ハンドブックでは、「『御』は固有名詞以外はなるべく『お』『ご』と平仮名書きにするが、基本的には不要」としている。必要最小限での字数で表現する見出しの場合はなおさらだろう。ところが産経は「新天皇ご即位」としている。「ご即位」としているのは産経だけだ。これはおそらく、「新天皇即位」とすると漢字のみが5字並び、読者サイドの見出しの印象が強く重いので、あえて「ご」を入れたのではないかと編集サイドの気持ちを推し測ってみた。うがった見方をすれば、産経も読売と同様にぶち抜きであり、「新天皇即位」の5文字では埋まらない。そこで、あえて「ご」を入れて6文字にし、さらに文字を拡大することでスペースを埋めたということだろうか。文字の大きさは産経が一番大きい。

   見出し文字はいわゆる「黒字のみ」なのだが、読売は「白抜きベタ」を使っている。白抜きベタの見出しは異常事態を読者に印象づけるためによく使われ、慶事の記事では余り見たことがない。今回も主見出しの白抜きベタは読売のみだ。しかも、「新天皇陛下即位」の漢字7文字の連続は、読者としは正直読みにくい。同じ漢字7文字の日経は「新天皇陛下 即位」と「新天皇陛下」と「即位」の間に文字の空きを入れている。漢字9文字の朝日は「新天皇即位」と「令和元年」の間に空きを入れ、さらに字体を明朝体にすることで連続漢字の強さの印象を和らげる工夫をしている。ちなみに漢字だけを並べた見出しを「戒名見出し」と称したりする。

         石川県の地元紙の北國新聞は主見出しで「令和 幕開け」と新たな時代の始まりを強調している。脇見出しで「新天皇陛下 即位」と白抜きベタを使っている。サイドの見出しだが、主見出しと同等に目立つようにとの工夫だろう。主見出しで「令和」の文字を入れたのは朝日の「新天皇即位 令和元年」と合わせ2紙だ。

   では読者サイドとして読みやすい印象の見出しはどの新聞かとなると、産経かもしれない。あえて「ご」を入れることで「新天皇」と「ご即位」の字数バランスをうまく取っている。見出しについては特に決められたルールがあるわけでもない。読みやすく目立つようにすればよい。その編集者の意図と工夫が見出しから読めてくる。

⇒2日(木)朝・金沢の天気   あめ後はれ 

★ノートルダム大聖堂の炎上、バトルの再燃

★ノートルダム大聖堂の炎上、バトルの再燃

      パリのノートルダム大聖堂で起きた火災(現地時間今月15日夜)。高さが90㍍もある尖塔が焼け、屋根が崩れ落ちる映像は世界のメディアやネットで流れた。映像を初めて見たときはテロかと脳裏をよぎったが、その後ニュースでは尖塔の中腹部で補修工事が行われていて、工事器具が発火して、アーチ型天井の裏にある屋根を支える木材部分に引火したのではないかと報じられている(16日付NHKニュース)。(※写真・上はフランス「ル・モンド」Web版「Notre-Dame de Paris : vidéos de l’incendie」より)

   ゴシック様式の建築で800年の歴史を有し、ユネスコ世界遺産に登録されている。今回の被災に世界の多くの人が惜しんだだろう。日産の資金を不正送金したとして特別背任容疑で4度目の逮捕となったカルロス・ゴーン氏は東京拘置所でこの火災のニュースを知らされ、どのような思いだったろうかと想像を膨らませた。ひょっとして「復興に役立てください。愛するパリのために」などと称して100万ユーロ(1億2千万円)くらいは寄付を申し出るのではないか、と。そうなれば、日本のマスメディアはビッグニュースで報じるかもしれない。何しろこの逮捕前にフランスのテレビ局「LCI」がスカイプでのインタビューをネット映像で公開していて、ゴーン氏は「私は無罪だ」「フランス政府に言いたい。私はフランス人だ。フランス人としての権利を守ること求める」と訴えている(日経新聞Web版)。このタイミングでの高額寄付はフランス世論を味方につける絶好のチャンスではないか。

  ところが、私が描くゴーン氏の思惑の先手を打つかのように、日産はノートルダム大聖堂の再建のため10万ユーロ(1200万円)を寄付すると発表した。19日付の同社のニュースリリース=写真・下=によると、「日産は20年にわたるルノーとのアライアンスを通じ、フランス共和国とフランス国民の皆さまとは近しい関係にあります。ノートルダム大聖堂の火災という事態に触れ、ルノー社員やフランス国民の心情に心を寄せ、寺院の再建に貢献したいという考えに至りました。」と。まるでゴーン氏の手の内を読んだようなスピード感のある対応だ。金額も妥当だろう。こうなると先手を打たれたゴーン氏は金額で勝負するしかない。500万ユーロ、6億か。オマーンルートでキックバックさせたくらいの金額でないとフランス国民を納得させることはできないかもしれない、と勝手に想像をたくましくする。

   ところで、ノートルダム大聖堂の火災では、フランスの高級ブランドや化粧品メーカーなどが相次いで寄付による支援を表明し、すでに総額1000億円を超えるようだ。こうした多額の寄付をめぐっては、現場を視察したマクロン大統領が緊急会見で、世界中から寄付を募り5年以内に修復を完了させると述べたことも、大きな成果だったろう。一方で、低給与と燃料価格の高騰で政府に不満を募らせる「黄色いベスト運動」のデモ参加者らは「人よりも大聖堂への支援が優先されている」と怒りの声を上げている。確かに、大聖堂の再建に寄付が集中すれば、慈善事業などへの寄付は減るかもしれない。ここでもバトルが再燃している。

⇒21日(日)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

☆ウイキリークス創設者アサンジ氏の功と罪

☆ウイキリークス創設者アサンジ氏の功と罪

        匿名により政府、企業などに関する機密情報を公開する内部告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」の創設者ジュリアン・アサンジ氏が、政治亡命で逃げ込んでいたロンドンのエクアドル大使館で逮捕されたことは、ある意味で衝撃的だった。その2つの理由。7年ぶりに大使館から出てきた47歳の姿はかつての精かんな面構えではなく、白ひげの老人の様相だった。もう一つが、サイバー空間だから可能になった内部告発のシステムに限界か、と感じたことだ。

   2007年から始まったウィキリークスによる内部告発はこれまでの既存のマスメディア(新聞・テレビ)の手法とはまったく違っていた。2009年1月、国連平和維持軍の不祥事などについての600件以上の国連内部レポートが公表され、10年4月には、イラクでアメリカ軍のヘリが民間人18人を射殺する軍の内部映像が暴露された。犠牲者のうち2人がロイター通信の記者だったことから、マスメディアにも衝撃が走った。同年11月にはアメリカの外交公電(国務省と274の在外公館の通信)の公表を始めた。当初はイギリスのガーディアンやニューヨークタイムズ、ドイツのシュピーゲルなどの新聞などメディアと連携し、10年7月にメディア3社とウィキリークスが同日、同時間でアフガニスタンをめぐるアメリカ軍文書を掲載した。ウィキリークスの情報開示には既存メディアによる裏付け作業があった。

   ところが、11年9月、ウィキリークスは一転、アメリカの外交公電(1966-2010)25万件を未編集で公開した。中には情報提供者の実名も記されたものもあり、連携してきた新聞などメディアは逆に批判を始め、究極の透明性(暴露)が民主主義をもたらすと方針転換したウィキリークスと一線を画すようになった。ウィキリークス側とすれば、公表に値するかどうかをメディアの調査能力に委ねることに限界、あるいは方針にそぐわないと感じたのだろう。広く情報を集めて暴露するが、その信ぴょう性は保証はしない。暴露(リーク)と報道との違い。国益の整合性を取る既存メディアと、取らない多国籍型のウィキリークスという違いが際立ってきた。

   ウィキリークスはある意味で内部告発のさきがけとなった。10年9月に尖閣諸島沖での中国漁船との衝突事故で海上保安庁の職員がビデオをユーチューブにアップした。13年6月、アメリカ国家安全保障局(NSA)の元職員のエドワード・スノーデンがアメリカは世界中の通信データを傍受し監視しているという実態をガーディアンやワシントン・ポストなどメディアを通じて告発。「ウィキリークスの時代」を予感させる出来事が相次いだ。

       社会に情報を発信する既存メディアは報道の自由を行使し民主主義の発展に寄与してきた。情報の真贋の精査や報道の価値判断、客観的な取材手法、そして情報源を守ることを旨としてきた。ウオッチドッグ(番犬)といわれる政権批判はもとよりだ。一方でインターネットの進展で既存メディアが情報発信を独占する状況ではなくなり、個人メディアの時代に入った。それは情報の自由な広がりと同時に、フェイクニュースがたやすく拡散する状況も生み出し、社会の安全をも脅かすことにもなりかねない。

   ジュリアン・アサンジ氏は、イラクとアフガニスタンにおける戦争に関連するアメリカ軍機密情報や外交公電をウィキリークスで公表したかどで起訴されていた。一方、アサンジ氏をかくまってきたエクアドルでは17年5月の大統領選で反米の政権からアメリカ寄りの政権にシフトしている。エクアドルがアサンジ氏の亡命を取り消すのは時間の問題だった。
 

   今後、アサンジ氏の身柄はアメリカに引き渡されることになるだろう。ただ、アメリカ合衆国憲法には言論・出版の自由は制限されないとの条文(修正第1条)がある。ウィキリークスの暴露が言論の自由の範囲内と見なされた場合は、裁判で無罪になる可能性もあるのではないか。(※写真は、4月12日付イギリスBBCニュースWeb版より)

⇒14日(日)夜・金沢の天気    あめ

☆平和で一人ひとりが輝く「令和」を願う

☆平和で一人ひとりが輝く「令和」を願う

     「大化」(645年)から248番目の元号が「令和」に決まった。午前11時35分から総理官邸で開かれた会見で、菅官房長官が墨書を掲げて新元号を公表する様子をネットの動画中継を観ていた。なんと平和なことか。昭和、平成、そして令和の時代を生きることは喜びではないかのか、ふと気づかされた。平成の世と同じく、令和も戦争のない平和な時代であってほしいと願うばかりだ。

  令和は万葉集の梅の花の歌三十二首の序文にある『初春の令月にして 気淑く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は珮後の香を薫らす』から引用したもの(菅官房長官の説明)。万葉集は1200年前の奈良時代に編纂された日本最古の歌集である。この万葉集の序文を読み解いてみる。「初春の良い月に さわやかな風が心地よく吹いている 梅の花は鏡の前の白粉(おしろい)のように美しく咲いて」と、ここまでは読める。しかし、「蘭は珮後の香を薫らす」の「珮後(はいご)」の意味がよく分からない。「珮」は腰帯とそれにつりさげた玉・金属などの総称とある(三省堂『大辞林』)。「蘭は腰帯に付けた香りの飾りのように薫っている」という意味だろうか。

  自然と人の営みを美しく表現している歌だと思う。この序文の中の「令」と「和」を取って令和とした。安倍総理は記者会見で、「春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように一人ひとりが明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたいとの願いを込めて決定した」と述べた。

  知人に「令和」の印象をメールで送った。「この言葉に込められた意義がすこし分かりにくいと感じながらも、語感とするとスマートな感じがします」と。さっそく返信があった。「『令』という字がちょっと冷たい感じがするものの、『和』があることでバランスがとれているかな、というのが最初の印象です。たしかにスマートですね。首相談話を読んで、日本人としての誇り、世界の平和を希求する心が感じられ、心が豊かになるように感じました。そして、この令和の書体が大好きです。平成のときの書体はどうしても好きになれなかったのですが、この書体もあって、個人的な好感度がアップしました。」と。

  厳しい寒さの後に咲き誇る梅の花のように、未来への希望とともに、一人ひとりが輝く国であってほしい。(※写真・上は総理官邸ホームページより)

⇒1日(月)夜・金沢の天気    あめ

☆平成最後、不正のウミ出し切る

☆平成最後、不正のウミ出し切る

  大阪大学はきょう29日、大学院高等司法研究科の教授(63歳)が通勤・住居手当や出張旅費を不正請求し、総額9195万円を受け取っていたと発表した。ネットのニュースで報じられていたので、阪大の公式ホームページに入ると詳細な報告が記載されている。

  HPの報告を以下要約する。昨年(平成30年)7 月18 日、大学の監査室に大学院高等司法研究科の教授であり、知的基盤総合センタ ー長の教授が公的研究費の不正使用をしている疑いがあるとの通報があった。通報の内容は2項目あり、1)毎年欧州各国を学生と一緒に旅行(ゼミ旅行)しており、教授は調査・研究の出張として旅費申請しているが、その成果を示す研究実績(論文など)はほとんど存在せず、旅費申請したレンタカー代やガソリン代を学生からも別途徴収しているようである。 2)教授が用務外私用と思われる国内外旅行を旅費申請している。

   大学では通報を受けて、予備的な調査を行い、9月13日に「公的研究費の不正使用にかかわる調査委員会」を設置した。そこで認定された事実が、長期にわたる不正受給だった。教授は平成16 年4 月に阪大に採用された際、「岡山県の市内の借家に居住し、そこから本学へ通勤する」という内容の住居届と通勤届を大学に提出し、現在まで住居手当を毎月2万7000円、通勤手当を6ヵ月ごとに33万 円を受給している。 しかし、住居届の賃貸借契約の証明書と領収書は偽造されたもので、居住と通勤の事実のないことが確認された。これまで大学が支払った通勤手当(平成16 年4 月-31 年3 月分)990万円、住居手当483万円は不正受給と判明した。

   では、実際どこで居住していたのか。教授が提出した旅費請求書類で宿泊地を集計すると、東京での宿泊日数が年間の約半分前後も占めており、生活の本拠(自宅)は東京であるとことが判った。教授本人への聴き取り調査では、平成22 年10 月以降は大学用務(授業、会議)のある平日は学内の宿泊施設に宿泊し、それ以外の日は土・日曜日を含めて東京に旅行して滞在する出張を繰り返していることが判明した。これがさらなる不正の連鎖だった。週末から週初めにかけて東京出張を繰り返し、出張目的はデジタルサイネージ・コンテンツに関する実態調査、それらに関するワーキンググループ、資料収集、中央省庁との打ち合わせと申請していたが、中央省庁との打ち合わせを除けば、調査研究の事実がなく、事実があっても業務としては認められない虚偽の用務だった。旅費の虚偽請求による不正使用は平成21-30年度で604件7522万円にのぼる。

   岡山県に住んでいると届け出、実際には学内宿舎に住み、自宅のある東京には調査研究の出張と称して帰省する。この不正請求は実に計画性を感じる。報道によると、大学側は教授に返還を求めるとともに処分と刑事告訴を検討しているようだ。阪大の西尾章治郎学長は「コンプライアンスの徹底等に取り組んできました。しかしながら、今回このような事案が発生したことを真摯に受け止め、今後とも、不正経理等の根絶に向けて全学をあげて取り組み、信頼回復に鋭意務めてまいります」とのコメントをHPで出している。

   通報があったゼミ旅行だけを調査していたら、「事件」にはならなかったのかもしれない。この報告書を読んで、調査委員会が学内の不正のウミを平成最後の年度末に出し切りたいと議論を重ね奮戦した様子が伝わってきた。(※写真は、大阪大学がHPで公開している調査委員会の報告書をダウンロードしたもの)

⇒29日(金)夜・金沢の天気      くもり

☆親の体罰と懲戒権、そして善意の通報

☆親の体罰と懲戒権、そして善意の通報

    「三寒四温」とはよく言ったものだ。冬から春への季節の変わり目では気温がめまぐるしく変わる。毛布2枚で就寝する夜もあれば、3枚でも寒い朝がある。だから、この時節は目覚めがよくない。20日付の朝刊を読んで、さらに考え込んでしまった。「親の体罰禁止 閣議決定」というニュースを読んで、だ。親の子への虐待防止のため、罰則規定はないが、しつけでも体罰を禁止するのだ、という。

    さらに詳細に各紙に目を通してみる。改正案されるのは児童虐待防止法と児童福祉法で、親など(親権者)は児童のしつけに際し、体罰を加えてはならない。民法の懲戒権のあり方は、施行後2年をめどに検討する。児童相談所で一時保護など「介入」対応をする職員と、保護者支援をする職員を分ける。ドメスティックバイオレンス(DV)対応機関、たとえば配偶者暴力相談センターや警察などとの連携を強化する。学校、教育委員会、児童福祉施設の職員に守秘義務を課す。これらの改正案は来年4月施行を目指すとしている。

    こうした改正案が出てきた背景は、しつけが転じて虐待になることが問題視されているからだろう。昨年1年間、児童虐待の疑いがあるとして全国の警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数が8万人余りで、前年比で1万4600人増と22%も増えて過去最多だという。日本では「しつけ」と虐待の線引きがあいまいであるがゆえに虐待が見逃されケースが多い。子に対する体罰を一切認めない立場に立てば、両者の線引きの問題は生じなくなる。児童虐待を単なる家庭の問題としではなく、社会犯罪と明確に位置付ける必要があるだろう。

    問題は、親の子に対する懲戒権が将来放棄されるのではないかとの懸念だ。懲戒は子の利益(民法第820条)のため、ひいては教育の目的を達成するためのものであるから、その目的のために必要な範囲内でのみ認められている。子が危険にさらされると直感すれば、親は子を叩いてでもそれの行動を阻止するものだ。子ども同士のケンカには親は口出しをしない方がよいが、子ども同士がエスカレートして危害を加えそうになるなどの場合、親は体罰で子を制止するケースもあるだろう。

    懲戒権のあり方は、施行後2年をめどに検討するとしているが、子どもの利益を守るための行動は体罰というより、防衛本能による行動だ。懲戒権のあり方を議論するより、むしろ社会的に必要なのは「善意の通報」ではないだろうか。日本では目の前で親から子へのあからさまな暴力があったとしても、「関知せず」であえて見過ごすケースが多々ある。アメリカでは人権侵害としての児童虐待の観念が徹底しているので第三者が通報する。法律の問題より、むしろ日本の社会性が問われているような気がしてならない。

⇒21日(祝)夜・金沢の天気      くもり

★北陸新幹線、5年目に

★北陸新幹線、5年目に

    きょう15日朝のニュースでは、イギリス議会下院がEUからの離脱の延期をEUに求める動議を賛成多数で可決したと報じている。20日までにイギリスとEUでまとめた離脱案をイギリス議会が承認した場合に、3月31日の離脱期限を6月30日まで延期する。ただ、延期の明確な理由が必要と主張するEUとの協議が難航する可能性があるようだ。確かにイギリスの一方的な決議に対して、EUは果たして応じるだろうか。EUはもう面倒を見切れない勝手にやって、つまり「合意なき離脱をどうぞ」という状況ではないだろうか。

  同じ15日、北陸新幹線が金沢と東京を結ぶようになり5年目に入った(開業2015年3月14日)。JR西日本金沢支社が発表した数字では、4年目の利用者840万人で、開業初年度に比べ6%減っているものの、開業効果を勘案しても高水準が続いている。開業前の在来線特急の利用者と比べると2.8倍となる。

  新幹線が北陸地域に与えた影響は、金沢に住む者にとっても想定以上と実感する。それはJR金沢駅周辺に行けば一目瞭然で理解できる。ホテルの建設ラッシュなのだ。現在11ものホテルが開業を予定している。金沢市のまとめでは、2018年末の市内の客室は9800室だが、これが2020年には1万2000室に増える。すべてシングルユースとして換算すると1日当たり1万2千人の宿泊が可能となり、これまでの金沢では開催が難しいとされてきた1万人規模の学術学会の開催が可能となる。たとえば、1万人規模の学会が多数ある医学系学会のニーズは高まるだろう。

  もう一つ新幹線効果で一目瞭然なのはインバウンド観光の増加だ。国の名勝、兼六園に入ると四方から中国語や英語などの会話が聞こえてくる。兼六園管理事務所が発表した2018年の外国人観光客数は42万8500人で、初めて40万台に乗った。全体の入園者数は279万9600人(2017年度)なので15%がインバウンド客になる。これがなぜ新幹線効果かというと、北陸を訪れたインバウンド客のうち28%が東京とセットで、25%が京都とセットで旅行をしている(日本政策投資銀行金沢支店2018年度リポート)。在来線での東京と金沢は上越新幹線・越後湯沢駅での乗り換えだった。それが北陸新幹線で初めて直行便になり、インバウンド観光も東京とセットになったのではないだろうか。新幹線を利用すると、カップルや家族連れのインバウンド客をよく目にする。

  北陸新幹線の金沢以西は、2023年に福井県敦賀までの開業を予定している。クルーズ客船とのセット観光が楽しめるかもしれない。

⇒15日(金)夜・珠洲市の天気      あめ

★米朝首脳会談がダナンで、ならば

★米朝首脳会談がダナンで、ならば

   次なるアメリカと北朝鮮の首脳会談が気になるところ。トランプ大統領が5日の一般教書演説で再会談の日程や場所を発表する可能性があるとも報じられている。2日付の韓国の中央日報Web(日本版)は日朝首脳会談に関連する社説を掲載している。以下引用。

    「米国が韓半島(朝鮮半島)で戦争を終える終戦宣言の意志に言及した。ビーガン北朝鮮担当特別代表の言葉だ。ビーガン代表は一昨日、米カリフォルニア州スタンフォード大ウォルター・H・ ショレンスティン・アジア太平洋研究センターが主催した講演で『トランプ大統領は朝鮮戦争を終わらせる準備ができている』とし『北朝鮮侵攻や政権転覆を追求しないはず』と明らかにした。また『最後の核兵器が北朝鮮を離れて制裁が解除されれば、大使館に国旗が掲げられ、平和条約が締結されるだろう』と述べた。ビーガン代表が今月末に開かれる見通しの2回目の米朝首脳会談を控え、米国の立場を公開したとみられる。」

    北朝鮮の核兵器が撤廃されれば、アメリカと北朝鮮の間で平和条約が締結される可能性があるとの内容だ。この文脈は、米朝首脳会談ではトランプ大統領は金正恩委員長に対し核兵器廃絶と引き換えに平和条約を結ぶことを明言する。同紙はこうも述べている。

   「しかし今回の交渉が失敗すれば『コンティンジェンシープラン(非常計画)』が避けられないとビーガン代表は警告した。コンティンジェンシープランとは軍事オプションを含む米国の積極的な対応を意味する。 敗すれば『コンティンジェンシープラン(非常計画)』が避けられないとビーガン代表は警告した。コンティンジェンシープランとは軍事オプションを含む米国の積極的な対応を意味する。」

    そのまま読めば、トランプ大統領は軍事オプションをちらつかせながら、金委員長に対し核兵器廃絶を迫るのではないか、とイメージを膨らませてしまう。首脳会談の場所は、ベトナムのダナンで開かれることが有力視されていている(3日付・NHKニュース)。ダナンはハノイとサイゴンのちょうど中間地点にあり、2017年11月にアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開かれている=写真、外務省ホームページより=。ただ、「ベトナム戦争」の記憶が残る場所だけに、トランプ大統領は金委員長に対し高圧的に核兵器廃絶を迫ったりはできないのではないか、と考えたりもする。

⇒3日(日)夜・金沢の天気   あめ