⇒メディア時評

★岸田総理への警鐘 読売トップ「支持率24%は危険水域」

★岸田総理への警鐘 読売トップ「支持率24%は危険水域」

   きょう20日付の読売新聞の一面トップは「内閣支持率急落24% 経済対策『評価せず』66% 本社世論調査」だ。調査は今月17-19日で行われ、前回調査(10月13-15日)の支持率34%から10ポイントも下落した。読売が自社の世論調査を一面トップに持ってきたのはそれ相当の理由があるからだろう。

   調査内容を読むと、不支持は前回49%から13ポイントも上昇し62%となっている。支持率の下降、不支持率の上昇の背景にある数値の分析も詳しく行われている。支持低下の要因は見出しにあるように、経済対策を「評価しない」が66%で、「評価する」は23%にとどまっている。経済対策が企業の賃上げにつながると「思う」が18%で、「思わない」が74%に上っている。所得税など4万円の定額減税も「評価しない」が61%に。その理由が、「選挙対策に見えるから」が44%、「家計の支えには不十分だから」が25%となっている。この数値から「有権者をみくびるな」との声が聞こえてくる。

   支持率の下降、不支持率の上昇の背景はこれだけではない。いわゆる「辞任ドミノ」。9月の内閣改造以降で、政務三役である文科政務官や法務副大臣、財務副大臣が相次いで不祥事で辞任している。岸田内閣の政権運営に「影響がある」かとの問いに、「大いに」23%、「ある程度」45%と計68%が「影響がある」と答えている。世論調査はさらに突っ込んで質問をしている。どのくらい総理を続けてほしいかとの問いでは、「自民党総裁の任期が切れる来年9月まで」が52%、「すぐに交代してほしい」33%だった。

   話は冒頭に戻る。なぜ読売は世論調査の結果を一面トップに持ってきたのか。メディア関係者の間では、読売の調査で内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」とよく言われる。第一次安倍改造内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%(2007年9月調査)だった。その後の福田内閣は28%(2008年9月退陣)、麻生内閣は18%(2009年9月退陣)。民主党政権が安倍内閣にバトンタッチした2012年12月の野田内閣の支持率は19%だった。岸田内閣は「危険水域」だ。支持率は落ち始めると急カーブを描く。それが世論調査の怖さだ。読売の一面トップは岸田内閣に対する警鐘、と読んだ。

⇒20日(月)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

☆ジャニー問題で露見した報道姿勢と企業ガバナンス

☆ジャニー問題で露見した報道姿勢と企業ガバナンス

   ジャニー喜多川の性加害の問題が連日報道されている。ジャニーズ事務所本社では、61年の歴史に幕を下ろすため、看板の撤去が行われたようだ。事務所側はこれまで「ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたい」とコメントしていたので、社名変更と看板撤去はその手始めなのだろう。

    きょうのTBS番組「報道特集」もジャニーズとテレビ局、広告代理店、そしてスポンサーの相関関係を報じていた。その中で、TBSの報道や制作、編成の担当者80人におよぶ社内調査の結果を公表した。そのポイントの一つだったのがこの問題だった。

   週刊誌「週刊文春」は1999年10月から14週にわたってジャニー喜多川社長の性加害問題を告発する連載キャンペーンを張った。記事に対して、ジャニーズ事務所とジャニー社長は発行元の文藝春秋社を名誉毀損で提訴。二審の東京高裁は2003年5月、性加害を認定。ジャニーズ側は上告したが、最高裁は2004年に上告を退け、記事の真実性を認める東京高裁の判決が確定した。ところが、TBSなどマスメディアは判決を報道せず、判決後もジャニー社長による性的搾取が続いていた。報道しなかったことは、ジャニーズ事務所とジャニー社長への忖度だったのか。

   TBSの社内調査では、「忖度があったという証言は出てこなかった」とした。報道しなかった理由として、報道目線では、週刊誌ネタや芸能ネタを軽んじる傾向があり、ニュースとして取り上げる判断をしなかったのだ。当時の社会部デスクだった番組のキャスターは「伝えるべき事を伝えなかったのは一種の職務怠慢で、その結果、人権被害が広がったことを忘れてはならない」と話していた。「ビジネスと人権」の報道目線が欠如していた。さらに、編成の目線では、「圧力を感じたことは一度もない。忖度を強要されたこともない」との証言がある一方、「なぜ、忖度するかというと番組出演をなくされるのを恐れていたから」という現場の生々しい声が紹介された。

   番組の中で、スポンサー企業の事例も紹介していた。日本の企業はこの性加害をなぜ長年放置してきたのか。利益追求を優先するメディアと広告代理店、スポンサー企業が一体化して、売上げ至上主義にまい進していた。その中で、ネスレ日本はジャニーズ喜多川の性加害の噂を耳にした段階で、所属タレントを起用しない判断をした。ネスレ日本の前社長は「企業のガバナンス」という言葉を使い、取引先のグレーな噂や情報を得た段階で動くことが、「転ばぬ先の杖」として企業には大切、ネットの時代だからなおさら、とコメントしていたのが印象的だった。

   スピード感をもった企業のガバナンスが問われている。「君子(企業のガバナンス)危うきに近寄らず」のことわざを思い浮かべた。

(※写真は、ことし3月7日に放送されたBBCのドキュメンター番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop 」の紹介記事。この放送がなければ、ジャニー問題は日本で白日の下にさらされることはなかった)

⇒7日(土)夜・金沢の天気     くもり 

☆ジャニーズ事務所の会見 メディアの質問なぜ荒れた

☆ジャニーズ事務所の会見 メディアの質問なぜ荒れた

           ジャニー喜多川の性加害の問題をめぐりジャニーズ事務所が今月2日に記者会見を開いた際、会見の運営を任されていたコンサル会社のスタッフが、質問の指名をしないようにする記者やフリージャーナリストの名前や写真を載せた「NGリスト」を会場で携えていたことが問題となっている。メディア各社が報じている。「NGリスト」と聞くと報道の自由を阻害するかのような印象なのだが、冷静に考えれば会見の運営をスムーズに運ぶための必携のペーパーだったのだろう。ところが、生中継で会見を視聴していたが、それでも、この会見は荒れていた。

   記者会見はジャニーズ事務所側が開催。一通りの説明を終えたあと、記者からの質問タイムとなった。質問に関しては「1社1問」で司会者が手を挙げた記者を指名した。ところが、指名を受けた記者が1社1問の原則にもかかわらず複数の質問をしたり、まるで説教のように長々と質問をする、など雰囲気が荒っぽくなり、司会者も「1問1社でお願いします」「質問は1つだけでお願いします」とルールを無視する記者に困惑していた。

   さらに、指名を受けていない記者が質問を乱発する場面もあった。司会者が「発言が求められてないので静かにお願いします」と注意を促したものの、それでも発言を続ける記者もいた。過熱する会見にジャニーズ事務所側のスタッフが「みなさん、落ち着いていきましょう」と呼びかけるほどだった。NGリストそのものが無意味だった。

   では、なぜこのような荒れた会見になったのか。以下、憶測だ。記者側には「締め切り」という時間的な制約がある。これはよくあることなのだが、記者はすでに記事を想定しているので、質問では事前説明をして最後に「これについてどう思いますか」と質問相手に振り、「その通りです」というコメントさえもらえば記事が書ける。そのために長々とした事前説明になったり、複数の質問になったりする。今回、司会者から指名を受けた記者がジャニーズ事務所側に求めた質問もそのような形式の内容だった。

   一方、会場には300人ほどの記者、フリージャーナリストがいたようだ。すると1社1問では記者側すべてに質問の順番は回ってこない。そこで、順番待ちに苛立った記者が不規則に質問をすると、一気に会見の雰囲気が荒れる。

   本来、記者会見はメディア側、たとえば記者クラブが設定するものだ。事前に事務所側と打ち合わせをして、司会者もメディア側で人選する。身内なので、長々と質問する記者には「手短に」と催促したり、不規則な質問を注意する。ジャニーズ事務所の会見が次回もあるとすれば、メディア側に設定を委ねてもよいのではないか。そうすれば、会見は荒れることもない、NGリストも必要ない。

(※写真はジャニーズ事務所の記者会見=10月2日付・NHKニュースWeb版)

⇒5日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆「ジャニーズ事務所」は廃業へ マスメディアは沈黙か

☆「ジャニーズ事務所」は廃業へ マスメディアは沈黙か

   ジャニー喜多川の性加害問題をめぐって、ジャニーズ事務所はきょう記者会見を行い、現在の社名を「SMILE-UP.」に変更し、この会社で被害者への補償を行ったうえで、将来的には廃業すると発表した。そして、タレントのマネージメントなどを行う新たな会社を設立し、社名はファンクラブで公募するとした。創業者であるジャニー氏の名前を完全に消去することで、この問題にけじめをつけるようだ。さらに詳しく会見内容をチェックする。

   ジャニーズ事務局の会見内容は公式サイトで掲載されている。以下、記事を抜粋。【社名について】 ジャニー喜多川の氏名に由来している以上、社名を変更する必要があるとの結論に達しました。新しい社名は、2018年7月に弊社が立ち上げた社会貢献活動「Smile Up!Project」に由来するものです。この活動は、常日頃応援してくださる皆様のために、どのように社会的責務や使命を果たすことができるかについて、タレント、社員が一丸となって考え、多くのファンの皆様のご支援の元に行動に移すことができたものです。

   【新会社の設立】 弊社は同族経営の弊害を排するとともに、ジャニー喜多川及び過去の弊社との完全な決別をするべく、今後新会社を設立の上、所属タレント(ジャニーズJrを含みます。)及び社員については希望者全員が新会社に移籍し、新会社がエージェント会社となり弊社は補償に特化することを想定しております。新会社には藤島家の資本は入れず、また藤島ジュリー景子は新会社の役員とはならず、経営に一切関与しません。

   【被害者救済】 9月13日付で「被害者救済委員会」を設置の上、同月15日に被害補償の受付窓口を開設いたしました。9月30日時点で478人の方からご連絡があり、そのうち被害を申告して補償を求めているのは325人です。現在、弊社に在籍されていたかどうかの確認を進めながら、被害者救済委員会による補償額の算定のための聞き取り等の手続を進めております。支払開始時期は11月を予定しております。

   この問題がクローズアップさせたのは国連の動きだった。各国の人権状況を調査する国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家チーム(2人)が7月24日から8月4日にわたり、省庁や地方自治体、企業の代表、労働組合、市民団体、人権活動家などと会談し、人権上の義務と責任にどう取り組んでいるかを聞き取りした。その中で、ジャニー喜多川の性加害問題について被害者から聞き取りを行ったことから、にわかにクローズアップされることになった。

   最終日の4日に日本記者クラブで記者会見した専門家チームは、エンターテインメント業界に「性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化」があると言及。その事例として、ジャニー喜多川氏の性加害問題が2003年の東京高裁の判決で「性加害がある」と認定されたにも関わらず、事実を伝えてこなかったメディア業界、とくにテレビ、新聞などは「その罪は大きい」と指摘した。

   ジャニーズ事務所の会見内容は、「崖っぷち感」が伝わる改革案で本気度が見て取れる。では、一方の当事者でもあるマスメディアはどうするのか。改革案を示すのか。このまま沈黙を続けるのか。(※写真はWikipedia「ジャニーズ事務所」より)

⇒2日(月)夜・金沢の天気    はれ

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

   2021年10月に岸田内閣が発足したときは「新しい資本主義」がキャッチフレーズだった。次に2022年8月の第2次岸田改造内閣を「政策断行内閣」と名付けた。そして、きのう第2次再改造内閣が発足したときは「変化を力にする内閣」だ。

   最初に掲げた「新しい資本主義」は成長戦略の旗印で、「科学技術によるイノベーション」「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」「カーボンニュートラルの実現」「経済安全保障の確立」の目標だった。中でも、「デジタル田園都市構想による地方活性化」は、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式サイト)を目指した政策で、じつに斬新なイメージで期待感があった。

   ところが、国際情勢が急変する。新型コロナウイルスの感染再拡大や、2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻が始まり、これらに起因したインフレなど世界経済に動揺が走る。日本も円安の急速な進行などに迫られている。こうなると、第2次岸田改造内閣では喫緊の重要な課題への対応が迫られる。そこで、有事に対応する「政策断行内閣」を掲げた。

   そして、きょう本格始動した第2次再改造内閣で岸田総理は、「経済、社会、外交・安全保障の三つの柱で政策を進めていきたい」と官邸で記者団に強調。物価高対応や構造的な賃上げ実現、人口減少による少子化対策に向け、経済対策策定を月内に閣僚に指示する方針を示した(14日付・共同通信Web版)。

   きょうの朝刊各紙=写真=の一面のトップ記事は「旧統一教会 解散請求 来月にも 政府方針 首相『最終の努力』」(読売)、「女性抜擢 刷新感アピール 4閣僚、旧統一教会と接点」(朝日)、「首相『賃上げの流れ継続』 投資拡大へ税改正」(日経)など見出しにかなりのバラツキがある。読み方によっては、政界を巻き込んだ旧統一教会問題や物価高対応や賃上げなど課題が山積し、岸田内閣は臨機応変な対応が迫られている。それが、「変化を力にする内閣」なのか、と。   

   それにしても、「新しい資本主義」の目玉政策の一つだった「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」はいつの間にか影が薄くなった。

⇒14日(木)午後・金沢の天気    くもり

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

          デジタル時代で帰路に立つ日本のテレビ業界がいよいよ生き残りへと動き出した。2021年11月から議論を重ねてきた総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」は今月6日に「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」を公表した。それによると、「デジタル時代において、放送を取り巻く環境は、インターネット動画配信サービスの伸長等による若者を中心とした『テレビ離れ』など、大きく変化し、情報空間はインターネットを含めて放送以外にも広がっている」と危機感を募らせている。

   一方でデジタル時代のテレビメディアの存在価値を強調している。それは、「インターネット空間では、人々の関心や注目の獲得ばかりが経済的な価値を持つアテンションエコノミーが形成され、フィルターバブルやエコーチェンバー、フェイクニュースといった問題も顕在化している」と問題視。テレビ業界がこれまで積み上げてきた「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、『知る自由』の保障、『社会の基本情報』の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送の価値は、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルス(情報的健康)の確保の点で、むしろこのデジタル時代においてこそ、その役割に対する期待が増している」と存在価値を強調している。

   若者世代からはNHKを含めてテレビメディアへの離反があり、民放は広告売り上げが厳しい。とくにローカル民放局が厳しい経営状況に陥るという予測もある。電通がまとめた2022年(1-12月)の日本の総広告費は7兆1021億円で過去最高となった。しかし、テレビ(地上波、BS・CS)は1兆8019億円と前年比98.0%で下降。一方で、インターネット広告費は3兆912億円と好調で前年比114.3%だ。この時代にテレビメディアはどのように生き残るのか。

   今回の「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」では、テレビメディアは電波にこだわらず、インターネットでの番組コンテンツの配信を行う、としている。NHKはインターネットで同時に放送を流す配信サービスをこれまで「補完業務として任意」と位置付けていたが、それを「放送としてネット配信を必須業務」と大転換した。スマホなどネットのみを通じて情報を得る人にもひとしく受け取れるよう努める義務をNHKが負うという考えだ。

   では、その場合にNHK受信料はどうなるのだろうか。提言では「スマホを持って、視聴の意志で負担する」という考えを示している。スマホとNHK視聴はイコールにせず、視聴意志に委ねるという考えだ。今後のその具体策や中身については議論となりそうだ。

⇒11日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

   連日、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年死亡)の性加害問題が報道されている。この性加害をめぐっては、日本のメディアのあり様が問われている。そもそも、イギリスBBCのドキュメンター番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop 」がことし3月7日に放送されなければ、日本で白日の下にさらされることはなかった。番組の中で、元ジャニーズの4人が生々しく証言している。これが発端となり、日本のメディアにようやく着火した。   

   これまで日本のメディアで追及していたのは唯一、週刊誌「週刊文春」だった。1999年10月から14週にわたってジャニー喜多川社長の性加害問題を告発する連載キャンペーンを張った。この記事に対して、ジャニーズ事務所とジャニー社長は発行元の文藝春秋社を名誉毀損で提訴。二審の東京高裁は2003年5月、「その重要な部分について真実」「真実でない部分であっても相当性がある」と性加害を認定。ジャニーズ側はこれを不服として上告したが、最高裁は2004年に棄却している(ことし5月13日付・弁護士ドットコムニュース)。そして、この判決後もジャニー社長による性的搾取が続いていた、ということになる。

   では、ジャニーズ事務所が社長交代を発表したきのうの記者会見を、BBCはどう報じているのか。「Johnny Kitagawa: J-pop agency boss resigns over predator’s abuse」の見出し=写真=で、日本最大のポップ芸能事務所の社長が、創業者による性的虐待を最終的に認めて辞任したと伝えている。さらに、「Most mainstream Japanese media also did not cover the allegations for decades, prompting accusations of an industry cover-up.」と日本の主要メディア(テレビ、新聞)が何十年もの間、この疑惑を取り上げてこなかったと批判。その背景として、ジャニー元社長が日本の芸能界で最も影響力を持った人物で、ジャニーズ事務所が日本のボーイズバンドを独占してきたという背景にあると報じている。

   BBCのこの論調は解釈の仕方によっては、ジャニー喜多川元社長の性的虐待を黙って見逃してきた主要メディアはむしろ「共犯」ではないのかと言っているようにも読める。

⇒8日(金)夜・金沢の天気     くもり

★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

   2019年7月18日に起きたアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で死者36人・負傷者32人を出した、いわゆる「京アニ事件」。殺人などの罪で起訴された被告の裁判員裁判がきょう5日始まる。事件が起きたこの年、金沢大学の授業で「ジャーナリズム論」を講義していて、ゲストで招いた新聞記者やテレビ番組の制作者、そして学生たちと「京アニ事件」について議論を交わした。そこで浮かび上がったのはメディアの取材手法についてだった。

   学生たちがジャーナリストに質問したのは「実名報道」についてだった。京アニの亡くなった36人の氏名について、京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。

   府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(2019年9月10日付・朝日新聞Web版)と説明した。拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がった。

   警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。さらに、現場記者は被害者側のコメントを求め取材に入った。朝刊各紙には「亡くなった方々」として、実名だけでなく、年齢、住所(区、市まで)、そして顔写真もつけている。その写真は、アニメ作品の公式ツイッターやユーチューブからの引用だった。遺族から提供を受けたものもあった。

   学生たちの意見が相次いだ。「被害者遺族にさらなる苦痛を与える取材はやめるべき」や「実名か匿名かは遺族の意向が最優先されるべき」、「いまのマスコミは加害者の名前を報道することには慎重になっているが、被害者の名前は当たり前にように軽く報道している感じがする」と辛口のコメントだった。さらに、「被害者の実名報道が遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)の原因ではないか。被害者遺族への取材や実名報道にこだわる理由がわからない」と手厳しかった。

   メディアとすれば、実名報道は報道の信憑性を高めるために要件だろう。さらに、遺族からコメントをもらことも必要だろう。ただ、記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もいる。学生の意見に対し、ジャーナリストの一人は「現場記者として報道の基本を守れば、遺族への取材はどうしても必然になる。この矛盾をどう正せばよいのか迷っている」と。メディアスクラム問題については、新聞とテレビの各1社を選び、代表社が遺族に取材の意向を尋ね、了解が得られれば取材する形式が多くなっているとの説明だった。

   自身もかつて報道現場に携わった経験を持つ。そして今、読者・視聴者の一人としての立場からすると、やはり実名であることが記事内容の真実性が伝わる。ただ、被害者や遺族へのコメントが必須かどうか。警察の捜査で事件の状況が理解できれば、被害者側の心情は察するに余りあるものだ。ケースバイケースだが、被害者側のコメントはなくてもよい。顔写真もなくてもよい。

⇒5日(火)午前・金沢の天気   くもり

☆生成AIで「言葉の壁」を乗り越える 能登半島の事例

☆生成AIで「言葉の壁」を乗り越える 能登半島の事例

   生成AI=人工知能の進化が連日ようにメディアを通じて紹介されている。対話型AIの「ChatGPT」をはじめとする生成AIの登場で、進化は新たな段階を迎えたようだ。この生成AIを使った自動通訳機で地域起こしを行っている集落が能登半島にある。   

   事例を紹介したのは安倍晋三氏だった。2019年1月の第198回通常国会で安倍総理は施政方針演説の中で、能登半島・能登町で農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」=写真、「春蘭の里」公式サイトより=の取り組みを紹介した。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」と。この安倍氏の演説は、観光による地方創生がメインテーマだったので、生成AIのことは紹介していなかった。今はAI導入の成功事例として広く紹介されている。

   春蘭の里はインバウンド観光のツアーや体験型の旅行の受け入れを積極的に行っている。47軒の民宿経営の人たちが自動通訳機「ポケトーク」を使いこなして対応している。以下、春蘭の里の代表から聞いた話だ。「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。ポケトークは74の言語に対応していて、春蘭の里は通訳機を使うようになって年間20ヵ国・2000人余りを受け入れるようになった。70歳や80歳のシニアの民宿経営者たちがポケトークを使いながらインバウンド観光の人たちと笑顔でコミュニケーションを取っている姿はAIの進化、まさに「文明の利器」を感じさせる。

   新型コロナウイルスのパンデミックでインバウンド観光客は一時期途絶えたが、いまは元に戻りつつある。この間、AIも進化した。コンピューターを介して言語を別の言語に変換することを「機械通訳」といい、「MT(Machine Translation)」と呼ばれている。このMTが人間の脳の神経細胞で行われている情報処理の仕組みを計算式に落とし込んでAI学習を行う、いわゆる「ニューラル機械通訳(NMT)」へと進化したことから、お互いがより自然なコミュニケーションをとり合うが可能になった。

   春蘭の里では、春は山菜、秋にはキノコをインバウンドの人たちといっしょに採取して、夕ご飯に料理として出して喜ばれている。この間の言葉のやりとりはデープなのだが、お互いの言葉の微妙な言い回しや地方の言葉の表現などがAI学習によって、自動通訳機で十分に通じるようになった。

   困難と言われ続けていた「言葉の壁」をしなやかに乗り越えた事例だ。生成AIの可能性に期待する時代を感じる。

⇒2日(土)夜・金沢の天気     くもり

☆「鬼城」の次はデフォルト きしむ中国の成長モデル

☆「鬼城」の次はデフォルト きしむ中国の成長モデル

   最近テレビでニュースを視ていて、「鬼城」という言葉がキーワードになっている。中国の不動産危機が現実になってきて、資金繰りの悪化で開発が途中でストップした高層住宅群があちらこちらに。クレーンが屋上に残されたままの未完成の高層マンションが立ち並ぶ様子は、まさにゴーストタウンだ。余計な心配かもしれないが、構造物が朽ち果て、あのクレーンが落ちて来ると、さらに無残な姿になるのではないか。  

   2012年8月に中国の浙江省を訪れたときに、中国人の女性ガイドから聞いた話だ。当時、中国は地方でもマンションの建設ラッシュだった。「なぜ地方でこんなにマンションが建っているのか、ニーズはあるのか」とガイド嬢に尋ねた。すると、「日本でも結婚の3高があるように、中国でも女性の結婚条件があります」と。1つにマンション、2つに乗用車、そして3つ目が礼金、だと。中国ではめでたい「8」の数字でそろえるので、1戸88平方㍍のマンションが人気という話だった。(※写真は、浙江省で撮影したマンション群=2012年8月)

   さらにその3高の背景には中国の「一人っ子政策」(2015年に廃止)があった。中国では、男子を尊ぶ価値観があり、性別判定検査で女子とわかったら人工中絶するケースが横行していた。その結果、出生の男子の比率は女子より高くなる。これが、結婚適齢期を迎えると、女性は引く手あまたとなり、3高をもたらす。一方で、男性は「剰男」(売れ残りの男)と称される結婚難が社会問題にもなっている。

   3高に加えて投機マネーが不動産市場に流れ込み、都市を中心にマンション価格が高騰した。高額なマンションを手に入れても、ローン返済が重石となり、生活が破綻するケースも増えた。さらに、売り主の建設代金未払いで工事が進まず、予定の期限を過ぎても一向に引き渡しされないために、住宅ローンの支払いを拒否する購入者も続出しているようだ。そして、経営危機に陥っている中国の不動産大手「恒大グループ」が17日、アメリカ・ニューヨーク州のマンハッタン地区連邦破産裁判所に連邦破産法15条の適用を申請した。

   「鬼城」の次がデフォルト。中国経済の成長モデルだった不動産業界がきしんでいる。これが、中国の金融業界にどう連鎖していくのか。

⇒20日(日)午後・金沢の天気   はれ時々くもり