⇒メディア時評

★話題2題~雪と新聞休刊日~

★話題2題~雪と新聞休刊日~

  今週、知人や職場の同僚で話題になっていることを2つ。気象庁が「新しい雪の情報」を発表するとリリースした(13日)。山形県、福島県(会津地方)、新潟県、富山県、石川県、福井県 の6県において、 「顕著な降雪が観測され、今後も継続する見込まれる場合には、『短時間の大雪に対して一層の警戒を呼びかける情報』を発表します」と。具体的な内容は、県内各地の積雪の深さ、降雪量の解析結果を色分けして図で示すもの。道路地図や鉄道路線図と重ね合わせて見ることができる。これまでは積雪量をセンチで表記されていた。

   昨年(2018年)2月、北陸は豪雪に見舞われた。近年は「集中的・記録的な降雪」といった言葉をテレビメディアで聞くようになった。豪雪による高速道などでの大規模な車両渋滞や、社会生活への影響が問題となっている。気象庁の速報体制の充実は、こうした雪害や記録的な大雪を踏まえてのことだろう。金沢大学は山手にあり、市内の平野部より積雪は5割増しだろうか。キャンパスの雪道で車同士の接触事故などよく見かける光景だ。積雪情報で多様な情報が得ることができれば、心構えもできる。雪のシーズン到来を前に、ある意味朗報ではある。(※写真・上は気象庁のニュースリリースより)

  話題をもう一つ。今月10日午後、秋晴れの下での天皇陛下の即位を祝うパレード(祝賀御列の儀)をテレビで視聴していた。皇居宮殿から赤坂御所まで4.6㌔の沿道を12万人が埋めた。小旗を振り、国民の祝うムードが盛り上がっていた。夕方からのニュースも祝賀パレード関連で一色だった。メディアによると、午後3時から1時間のNHKの中継番組の視聴率はビデオリサーチ調べで27.4%(関東地区)だった(11日付・共同通信ニュースWeb版)。

  12日朝、朝刊を手にすると一面で即位パレードの記事が出ていた=写真・下=。「終わった祝賀行事をなぜ2日後に今さら」と。時間感覚が一瞬歪んだせいか、不愉快になった。そうか、新聞休刊日で11日付の朝刊は配達されなかったのだ、と気が付いて納得した。11日の夕刊でも掲載されていたのだが、夕刊は購読していない。このタイムラグを感じたのは私だけではなかった。知人からも「2日後にニュースなんて、なんか違和感があるよね」とメールが届いた。

  即位パレードは当初10月22日だったが、台風19号の被災者に配慮され、11月10日になった。11日の新聞休刊日はすでに決まっていた。知人は続けて、「新聞休刊日は分かるが、一大イベントがあった翌日は臨機応変に朝刊を出せばよかったのではないか」と。同感だ。うがった見方だが、臨機応変に対応するほどのイベントではないとの新聞各社の判断だったのだろう。

⇒15日(金)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

☆NHK同時配信の新たな問題点

☆NHK同時配信の新たな問題点

   前回のブログでNHKが民放に先駆けて進めている番組のインターネット同時配信について、高市総務大臣が閣議後の記者会見(11月8日)で、待ったをかけたことを書いた。総務省サイドとしては、コストが適正かどうかなど懸念を述べ、NHKの肥大化につながる恐れがあるとの考えを示した。

   その理由は、NHKの基準案では、同時配信などの基本業務は受信料収入の2.5%を上限とする今の基準を守るとした一方で、1)東京オリンピック、2)国際放送の配信、3)字幕と手話への対応、4)地方向け放送や民放連との連携の4業務は公益性が高いので別枠扱いにするとした。これに対し、総務省サイドは費用が最大で受信料収入の3.8%に膨らむではないかとクレームをつけたのだ。総務省の指摘の通りで、別枠扱いを認めれば予算はさらに膨張するだろう。まず、NHKのミッションである人々の命と財産を守る、災害報道に対応するため、同時配信をそのものを一刻も早くスタートさせることだ、と述べた。別枠はスタートしてから考えるべきだ。

テレビ   総務省の「待った」には背景がある。受信料である。NHKの受信料収入は年間7000億円を超え、繰越金残高はNHK本体だけでも1000億円もある、とされる。高市大臣が受信料が適正かどうかと問うたのは、ある意味、国民目線の疑問でもある。もちろん、NHKの反論もあるだろう。10月から消費税が8%から10%に引き上げられたが、NHKは放送受信料額を改定せず、「受信料は実質2%の値下げ」とした(NHKホームページ「受信料の窓口」)。さらに、NHKは来年10月までに2.5%の値下げを行う予定で、合わせて実質4.5%の値下げになる、と主張しているのだ。この程度の「値下げ」で国民は納得するかどうか、だ。 

   先日(8日)のニュースで、NHKの受信料名簿が集金委託先の会社を通じて外部に漏れ、それが特殊詐欺に使われていたと報じられた。NHKは記者会見で、名簿には家族構成など含んだ個人情報が掲載されていると説明した。このこと自体、契約者の不信感を増幅させた。なぜ、受信契約でそのような個人情報が必要なのか。契約の範囲を超えて、視聴者を管理しようとの意図があるのではないか。このような中で、インターネットの同時配信が可能になれば、NHKは契約者の好みの番組なども把握できるだろう。

⇒13日(水)午前・金沢の天気    はれ

☆台風19号と災害報道の持続可能性

☆台風19号と災害報道の持続可能性

   数ある自然災害でも今年は「台風の年」として記録されるだろう。関東に上陸した観測史上最強クラスの勢力とされた15号を始め、19号、そして21号で風害と水害が連続した。中でも、19号は死亡88人、行方不明7人と甚大な被害をもたらした。

   きょうニュースで、政府は非常災害対策本部の会議を開き、19号による災害を激甚災害とともに大規模災害復興法の非常災害に指定することをあす(29日)閣議で決定し、国が被災自治体に代わって道路などの復旧工事を進めていく方針だと報じている(NHKニュース)。大規模災害復興法は東日本大震災の後、2013年に施行された法律で、非常災害への指定は震度7度だった熊本地震(2016)に次いで2例目となる。

   19号はTVメディアに「視聴率の記録」もつくった。NHKは12日午前9時台から特番態勢だった。19号が静岡・伊豆半島に上陸したのは午後7時ごろ。19号の最新情報を伝えたNHK「ニュース645」(午後6時45分-同7時00分)の視聴率が38.3%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録した。ビデオリサーチ社が公表している「週間高世帯視聴率」(関東地方)によると、10月7日から10月13日の週の報道部門ランキングで、「ニュース645」を筆頭にベスト10がすべて12日のNHK台風関連番組だったという、前代未聞の記録を打ち立てた。ちなみにこの週の最高視聴率は翌日、13日の日本テレビ「ラグビーW杯・日本vsスコットランド戦」(午後7時30分-同9時54分)の39.2%だった。                     

   では、関東直撃の19号を民放はどう報じたのか。TBSは午後3時から報道特番を始め同6時50分まで、4時間近く台風関連のニュースを報じ、同10時からの「新・情報7daysニュースキャスター」でも台風情報を詳しく伝えていた。日テレは午後5時からの「news every」で台風関連ニュースを報じ、その後のアニメや「天才!志村どうぶつ園」を休止し、午後8時まで3時間枠を台風関連に充てた。テレ朝もアニメなどを休止して夕方1時間30分、さらに午後9時の「とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」の放送日を変更し、合計4時間を台風関連番組としていた。これらの台風関連番組をリモコンでザッピングしながら視聴をしていたが、情報の量と速さ、ネットワークといった点では、頑丈な報道体制を有するNHKが存在感を発揮していた。民放には正直、心もとなさを感じた。

   自然災害は19号に象徴される台風と豪雨・洪水だけではない。豪雪、干ばつ、地震、津波、火山噴火、土石流・地滑りなど、日本の災害は多様だ。狂暴化し、広域化する自然災害に民放の報道体制は耐えうるのだろうか。災害報道の持続可能性を民放は検証してはどうだろうか。
(※写真は、台風19号による千曲川の決壊で北陸新幹線120両が水に浸かった様子を伝える新聞各紙)

⇒28日(月)午後・金沢の天気   はれ

☆仕込みか、やらせか

☆仕込みか、やらせか

   ニュースを見ていて、「おかしなことになっている」とぶつやいた記事を2つ。16日午前10時10分ごろ、能登半島沖320㌔の日本のEEZ(排他的経済水域)の大和堆で「北朝鮮籍と見られる漁船が転覆し、乗組員が転落した」と水産庁から海上保安庁に通報があった。海上保安庁は救助活動のため巡視船や航空機を現場に向かわせた。水産庁の取締船が、北朝鮮籍とみられる漁船から「ほかの漁船が転覆した」との情報を得て、それを海保に通報した(17日付・日経新聞)。

   現場は今月7日、違法操業の取り締り中だった水産庁の取締船と北朝鮮漁船が衝突し、漁船が沈没する事故があったところだ。今回違法操業をしていたであろう北朝鮮の漁船が水産庁取締船に発信した「漁船が転覆した」という情報はどこまで信用できるのか。水産庁の取り締まりをかく乱し、惑わすためにわざと偽の情報を流したと勘ぐることもできる。偽情報によって、水産庁から通報を受けた海保が巡視船や航空機を出して捜索しているとしたら、と考えると虚脱感も漂う。7日の衝突事故では北の乗組員60人を全員救助して、事情聴取もせずにそのまま帰した。北朝鮮は12日、日本側が故意に衝突した犯罪的な行為だとして、沈没船の損害賠償を求めた。「日本人は騙しやすい」と北朝鮮は笑っているかもしれない。何とも、おかしなことになっている。

   テレビ朝日は16日夜に会見を開き、夕方の報道・情報番組「スーパーJチャンネル」で3月15日に放送した「業務用スーパーの意外な利用法」という企画コーナーで、スーパーを利用する一般の客などとして取り上げた男女5人は、実際には番組の契約ディレクターの知人で初対面のように偽っていたと発表した。テレビ朝日は「信用を著しく毀損する重大な問題」「仕込み、やらせと言われても否定できない」として謝罪した(17日付・朝日新聞)。

   49歳男性の契約ディレクターは俳優養成教室の講師も務めていて、男女5人のうち4人はこの教室の生徒だった。「出演」のギャラを払わなくても、「テレビに出演できるよ」というだけで生徒たちは喜んで集まっただろう。想像するに、初対面を装う演技はとても自然な仕草で、視聴する側にも違和感のない、見事な演技だった。契約ディレクターも「最高の演技だったよ」と俳優の卵たちをほめていたに違いない。「テレビ局は騙しやすい」と契約ディレクターは笑っていたかもしれない。何とも、おかしなことになっている。(※写真はローマのバチカン宮殿「ラフェエロの間」にある「アテネの学堂」)

⇒17日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆「焚きつけ」の任命責任はどうなのか

☆「焚きつけ」の任命責任はどうなのか

     台風19号の被害が日を追うごとに拡大している。北陸に住む自身にとっては、千曲川の堤防決壊で長野市にある新幹線車両センターの北陸新幹線の車両が水に浸かった画像はショックだった=写真・上=。豪雪にも強いと頼っていた北陸新幹線だけに、10編成、120車両が並んで水に浸かっている様子は痛々しい。13日始発から金沢―東京間がすべて運休。浸水が床上に及んでいる場合は電子機械や変圧器の取り換えが不可能となり、廃車となる可能性もあると指摘されている。今後金沢への観光客が激減するだろう。さまざな後遺症が出てきそうだ。

  話はがらりと変わる。このニュースに接して、任命責任はどうなのか、と問いたい。韓国の文在寅大統領の側近で、家族を含めてさまざまな疑惑が出ている曺国(チョ・グク)法務部長官がきょう14日付で辞任することを明らかにしたとメディア各社が伝えている。韓国の聯合ニュースWeb版=写真・下=にアクセスすると、「조국, 취임 35일만에 사의 “檢개혁 불쏘시개 역할은 여기까지” 」(法相、35日で辞意表明 “検察改革焚きつけ役割はここまで”=グーグル翻訳)との見出しで詳細に報じている。以下、要約する。 

  曺法務部長官は14日、電撃的に辞意を明らかにした。先月9日に就任して35日目となる同日午後2時に「検察改革のための焚きつけ役割はここまでです」という声明文を出して辞意を明らかにした。長官は「検察改革は学者や知識人としての私のライフワークの使命であり、長い間悩んで追求してきた目標であった」としながらも、家族をめぐるいくつかの疑惑と検察の捜査があり、「これ以上大統領と政府に負担をかけてはならないと判断した」と述べた。さらに、検察改革の完遂が近づいてきたと明らかにし、「私は検察改革のための『焚きつけ』に過ぎない。その役割はここまで」と声明文で述べた。

  曺氏の辞意表明を受けて、文大統領は「結果的に国民の間に多くの葛藤を引き起こしたことについて非常に遺憾に思う」と謝罪し、「検察改革は最も重要な国政目標であり、完全な実現のために最後までやり遂げる」とのコメントを発表している。

  今月3日、ソウルでは文大統領に退陣を要求する大規模なデモがあり、「法務部長官、辞退を」と叫ぶ数十万人が光化門からソウル駅の2.1㌔㍍を埋め尽くした(韓国・中央日報)。9月28日に行われた大統領支持派のデモと同規模で、まさに「国民の間に葛藤」を起こす大問題になっていた。

  そもそも「玉ねぎ」ように次から次と疑惑は曺国氏の長官就任前から出ていた。曺氏の妻が娘の大学院進学に有利になるよう東洋大総長名義の表彰状を偽造したとされる事件。妻はその後、私文書偽造の罪で在宅起訴されている。不正入学疑惑では、すでに娘や息子も聴取するなど異例の捜査展開となっている。

  曺氏の長官就任直後の大統領支持率は韓国ギャラップによると、9月第3週の調査では支持率が40%(前回43%)、不支持率53%(同49%)で、支持率は落ち込んでいた。支持しない主な理由はやはり曺国氏を法務部長官に任命した人事問題だった。世論を甘く見て、長官任命を押し切ったことに、その任命責任は問われないのだろうか。曺氏の辞任で政権の求心力は再び高まるとはとても思えない。

⇒14日(祝)午後・金沢の天気    くもり

☆韓国の荒れた日

☆韓国の荒れた日

    台風18号から温帯低気圧に変わり、金沢でも今朝から非常に激しい雨が降っている。台風18号をネットで調べると、AFP通信(日本語版)が「韓国の行政安全省は3日、豪雨と強風を伴って同国に上陸した台風18号により、少なくとも9人が死亡、さらに数人が行方不明になっていると発表した。」と伝えている。この台風は2日夜に韓国に上陸し、洪水警報が発令された。同省によると、これまでに家屋1000戸以上が損壊したという。

    同じAFP通信によると、同日、ソウルでは文在寅大統領に退陣を要求するデモが開かれたと、写真(21枚)を掲載している=写真・上=。韓国の中央日報も「『チョ・グク法務部長官、辞退を』光化門~ソウル駅の2.1㌔㍍を埋め尽くした」との見出しで空撮映像を掲載している=写真・下=。産経新聞Web版によると、ソウル中心部で文氏退陣を求めるデモは数十万人規模。先月28日に行われた文大統領の支持デモと同規模で、「国論の二分が鮮明になった」と報じている。

    また、この日は疑惑の渦中にある曺国法相の妻である韓国東洋大教授のチョン・ギョンシム被告=先月23日に起訴=が検察に出頭し事情聴取が行われたとNHKなど日本のメディア各社も伝えている。チョン被告は、娘の大学進学に有利になるよう東洋大総長名義の表彰状を偽造したとし、私文書偽造の罪で在宅起訴された。韓国では逮捕状の請求に至るかどうかが注目されている。不正入学疑惑では、すでに娘や息子も聴取するなど異例の捜査展開となっている。検察改革を掲げる曺国法相との対立が増々深まっているようだ。

    文在寅大統領に退陣を要求するデモもこの国民不信によるものだろうか。韓国ギャラップのホームページをチェックすると、文大統領の支持率(9月第3週の調査)は支持率が40%(前回43%)、不支持率53%(同49%)で、支持率は落ち込んでいる。支持しない主な理由はやはり曺国氏を法相に任命した人事問題だった。

    3日は「開天節」と呼ばれる韓国の祝日で、建国記念日に相当するめでたい日だが、大荒れの日になったようだ。

⇒4日(金)朝・金沢の天気     あめ

★「京アニ事件」、その後

★「京アニ事件」、その後

         大学で担当するマスメディア論では、メディアの5のチカラを解説することから始める。ニュースや情報を集める取材力、ニュースを選び扱いの順番をつける編集力、毎日紙面(番組)をつくる制作力、何が起きてもすぐ説明する解説力、世論を形成する論説力だ。

        そのチカラを発揮するのが、マスメディアの業界用語で「発生もの」だろう。事件や事故、災害など予期せぬことが起きて取材する場合、「発生ものだ。はやく現場に行け」と本社の報道デスクは記者に指示を飛ばす。発生ものの場合、本社の社会部や地域の支局の記者が現地に取材に入ることになる。たとえば火災現場なら、火災が起きた現場に行く(接近)。現場で消防や警察の関係者、火災の通報者、近所に住む住民から情報を多面的に収集する(取材)。その情報を得て、失火なのか放火なのか火災の原因性を調べる(調査)。その原因性の真実はどこにあるのか調査する(探求)。それらの取材を経て読者や視聴者に伝える(報道)。この5のポイントは報道記者の基本動作と言ってよい。

   ことし7月18日午前10時35分に発生したアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火事件では35人が死亡、34人が負傷した。この事件から75日になるが、不可解な点がいくつか残る。犯行の動機だ。容疑者の犯行について、「『小説を盗んだ』恨みを抱く」(7月20日付・毎日新聞)と報じられた。実際、京都アニメーションは「京都アニメーション大賞」を設け、アニメ化を前提に小説やシナリオを公募していた。これについて、「京都府警は青葉容疑者自身が書いた小説を応募したとみて、京アニ側から作品を入手。捜査関係者によると、小説はストーリーを伴い、『ちゃんとした小説になっている』という。」(8月18日付・朝日新聞Web版)。犯行動機とされる著作権侵害に対し、「京アニの代理人弁護士は形式面で1次審査を通過しなかったとし、『これまで制作された作品との間に類似の点はないと確信している』」(同)と応えている。犯行の強い動機となった著作権侵害があったのか、なかったのか、さらに突っ込んだ取材が必要だろう。

   この事件めぐる犠牲者の実名報道についても「違和感」がある。京都府警は8月2日に10人の実名を公表し、同月27日に25人の実名を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。メディア各社は公表された実名を報道した。府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(9月10日付・朝日新聞Web版)と説明している。その拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされる」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がっている。

   被害者や遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)は以前からさまざまに批判を浴びている。「報道被害」という言葉も社会的にはある。冒頭で述べた現場記者が取材の基本動作を守れば、当然遺族への取材は必然になる。この矛盾をどう正せばよいのか。メディアスクラム化を避ける代表取材であったとしても、記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もいるだろう。

⇒30日(月)夜・金沢の天気    はれ

★北の武装船、八千代丸事件の悪夢

★北の武装船、八千代丸事件の悪夢

   これは韓国に続いて、北朝鮮からの「あおり運転」だろうか。報道によると、8月23日午前9時半ごろ、能登半島沖のイカ釣り漁場、大和堆で武装した船員が乗った北朝鮮籍とみられる不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、連絡を受けた海上保安庁の巡視船が駆け付けた。巡視船が警戒監視を続けたところ、不審船は去った。

   現場は、日本と韓国のいずれの漁船も操業できる日韓暫定水域の、日本の排他的経済水域(EEZ)内の海域でのこと。周辺では日本の漁船も操業していて、水産庁は漁船に対し、安全確保のため海域を離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた不審船は、小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船で、高速艇には小銃を持った船員がいたという。

   毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、今回武装船となるとただ事ではない。能登半島の先端、石川県能登町小木港のイカ釣り漁業関係者の心境を察する。それは、1984年7月27日に起きた「八千代丸銃撃事件」がまだ記憶にあるからだ。小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北朝鮮の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるという事件だった。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。「北朝鮮は何を仕出かすか分からない」と無防備の漁船を銃撃したこの事件に恐怖心を抱いていた。小木ではこの感情が共有され、今でも引きづっていることは想像に難くない。

   日本の海で操業していて、武装船が入ってきて、身の危険を感じなければならない状況というのは、まさに北の「おあり運転」だ。その狙いは、八千代丸事件のように、銃撃と拿捕により人質を取り、「軍事境界線」の内に侵入したとして「罰金」をせしめるつもりではないかと。なにしろ、今回武装船が確認された場所は北が主張する「軍事境界線」と近いのだ。(※写真は、能登町の小木漁港に停泊するイカ釣り漁船)

⇒4日(水)朝・金沢の天気     くもり

★「パンダ大使」の行く末

★「パンダ大使」の行く末

  毎日ニュースに目を通していて気になったものをいくつか。最初は、NHKが伝えていた、「パンダが日中貿易摩擦に巻き込まれる? 米有力紙報道」の報道(8月29日)。米有力紙とはワシントン・ポスト紙だと紹介されていたので、さっそく同紙のWeb版を検索する。

  Could pandas get caught in the U.S.-China trade war? と見出しが踊る=写真=。記事を読むと、ワシントンD.Cのスミソニアン国立動物園にはジャイアントパンダのメイシャン(メス・21歳)とティエンティエン(オス・22歳)、そして子のベイベイ(オス・4歳)の3頭がいる。パンダは毎年何百万人もの見学者を引き寄せ、桜と並ぶワシントンのシンボルにもなっている。 

  記事によると、パンダの中国側と動物園側のリース契約は20年で来年2020年12月7日に契約切れとなるが、現時点で更新に向けた話し合いは始まっていないのだという。ちなみに、年間リース価格は50万㌦と。愛くるしいパンダだが、中国にとっては外交の道具でもある。東西冷戦の最中、1972年2月にアメリカのニクソン大統領が中国を電撃訪問、国交樹立の足掛かりをつくった。その2ヵ月後に中国はパンダをアメリカに寄贈している。パンダは「親善大使」でもある。そのパンダが中国に戻ることになれば、米中関係が冷戦に戻ったことのシンボルにもなる。

  中国側と動物園側の契約が無事更新されるのかどうか。同紙は「the U.S. political landscape by late 2020 is a mystery. 」と伝えている。次にアメリカ大統領選挙が実施される2020年後半までは政治情勢はミステリーだ、と。

  もう一つ気になったニュース。30日の閣議で、読売新聞グループ本社の白石興二郎会長(72歳)をスイス大使に充てる人事を発表したと報じられた。新聞メディアに対する違和感を感じた。30日付で退職しているとはいえ、報道機関のトップが政府のプレーヤーに転身する。大使の民間起用には異議はないが、権力監視が本分であるはずのメディアの現職が、政府から起用されたからといって簡単に受けるものだろうか。メディアは権力と距離感を保っておかないと、読者・視聴者の不信を招くのは言うまでもない。メディアは権力のかわいいパンダにはなってはいけない。

⇒1日(日)午前・金沢の天気     くもり 

★政治と「実行力」、問われる夏

★政治と「実行力」、問われる夏

   きのう(8日)学生5人を連れて、輪島市をインターンシップの事前研修に訪れた。車中で女子学生と交わした話だ。こちらから「滝川クリステルが小泉進次郎と結婚するね」と水を向けると意外な言葉が返ってきた。「私だったら進次郎は避ける。お兄さん(孝太郎)がいい」と。その理由を尋ねと。「政治家の妻って大変じゃないですか。選挙もあるし」。少し間を置いて、「女子はみんなそう言ってますよ」と。

   なるほど、女性の視線からは選挙が大きなバリアに見えるのだ。逆に言えば、それを超えて進次郎と結婚を決めたクリステルの決断力は相当なものだったろう。記者会見(7日)で進次郎が発していた「(クリステルを)選挙には関わらせない」という言葉は、ひょっとしてクルステル側の結婚の条件だったのかもしれないと今ふと考える。

   話は変わるが、NHKが報じていた最近の世論調査(8月2、3日実施)で安倍内閣を「支持する」と答えた人は、3週間前の調査より4ポイント上がって49%、「支持しない」は2ポイント下がって31%だった。2017年10月の第4次安倍内閣では「49%」は最も高く、「31%」は最も低い。つまり、数字的には安倍内閣は絶好調ということだろう。

   支持する理由では「他の内閣より良さそうだから」が47%、「実行力があるから」が20%と続いた。3ヵ月前の5月の世論調査では「他の内閣より良さそうだから」50%、「実行力があるから」14%だった。相対評価が3ポイント下がり、実行力という絶対評価が6ポイント上がったことになる。この実行力とは何かを分析してみると、韓国を「ホワイト国」から除外したことだろう。8月の世論調査では、政府が韓国を輸出管理を簡略化する優遇措置の対象国から除外する決定をしたことについても尋ねている。この決定を「支持する」55%、「支持しない」8%、「どちらともいえない」27%の数字だった。つまり、「ホワイト国」除外が実行力としてイメージアップにつながったのではないだろうか。

   おそらく次に実行力が問われるのは「憲法改正」だろう。これも8月の世論調査で尋ねている。憲法改正に向けた議論を進める必要があると思うかとの問いに、「進める必要がある」34%、「進める必要はない」24%、「どちらともいえない」34%となっている。先の参院選挙(7月21日投開票)で「改憲勢力」と称される自民、公明、日本維新の会の議席は160となる、改憲の国会発議に必要な3分の2の(164)には届かなかった。

   ここに来て、アメリカが中東のホルムズ海峡の安全を確保するため結成を検討している「有志連合」に、日本を含む同盟国などに参加を呼びかけている。イギリスは参加を表明しているが、ドイツは不参加だ。自衛隊を有志連合に派遣するかどうか、改憲の肝(きも)が「自衛隊」の明記だけに安倍内閣はぎりぎりの選択を迫れるだろう。ちなみに、同じNHK世論調査では、自衛隊派遣に「賛成」22%、「反対」32%、「どちらともいえない」37%だ。(※写真は、小泉進次郎氏と滝川クリステルさんの結婚を伝える8日付の新聞各紙)

⇒9日(金)朝・金沢の天気    はれ