⇒メディア時評

★内閣不支持「50%」どう読むか

★内閣不支持「50%」どう読むか

   読売新聞社の全国世論調査(今月5-7日)の結果がきょうの紙面で掲載されていた。内閣支持率は40%で前回(5月8-10日)より2ポイント減らした。不支持は50%と前回48%と2ポイント増えている。政権批判の数値が他社より比較的安定している読売の調査で、この数字をどう読むか。

   なにより、不支持が50%を超えたことだ。読売の調査で2012年12月の第2次安倍内閣発足以降これまで3度、不支持が50%を超えている。直近では2018年4月調査で53%。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰したころ。2017年7月調査で52%。森友・加計学園問題などでの批判の高まりと、小池都知事が率いる都民ファーストの会の都議選で圧勝で、不支持が前回から11ポイントも跳ね上がった。2015年9月調査で51%。このときは安全保障関連法で世論が揺らいだ時期だった。

   では、今回4度目となる不支持の高まりの理由は何なのか。目立つ数字が、新型コロナウイルス対策について「あなたは、政府の経済対策に、満足していますか、満足していませんか」の問いだ。「満足」が27%、「満足していない」が64%もある。この不満は何か。簡単に言えば、特別定額給付金「10万円」が行き渡っていないということだろう。安倍総理が「ウイルスとの闘いを乗り切るため」と5月中の支給を目標に実施した給付金が全国に行き渡っていないのだ。ネットで調べると、宮城県の対象世帯101万世帯のうち今月1日時点での支給は17万世帯、支給率はわずか17%だ(5日付・河北新報Web版)。休業要請などに応じた事業者への支援金についても、申請書類の不備などで給付件数が伸び悩んでいる。個人、事業者ともに不満がうっ積している現状がこの「64%」ではないだろうか。

   一方で、コロナ対策の政府の対応に関しては「評価する」が42%で前回34%を上回り、「評価しない」49%は前回58%から下がった。コロナ対策の全体評価は上昇傾向にあるで、給付件数が高まれば不満も和らいでくるのかもしれない。

   今回の読売調査で内閣支持は前回から2ポイント下がったとは言え、40%もある。内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」とされる。第2次安倍内閣での支持率の最低は2017年7月調査の36%だ。第1次安倍内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%だった。これに比べるとまだまだ余裕があるのかもしれない。

   ただ、香港をめぐるアメリカと中国の摩擦、白人警官による黒人男性暴行死をきっかけにした抗議デモの世界的な広がりと11月のアメリカ大統領選挙の行方、東シナ海での中国の軍事活動の活発化など、緊張関係がいつ日本に飛び火してくるか分からない。安倍内閣の真価が問われるのは、こうした国際情勢や世の中の流れといったダイナミズムにどう対応するか、だろう。
(※写真は今月5日の横田滋氏の死去について安倍総理の会見の模様=総理官邸公式ホームページから)

⇒8日(月)朝・金沢の天気    はれ

★そのシーンは演出なのか、局側は会見を

★そのシーンは演出なのか、局側は会見を

   共同生活をテーマにした、いわゆるリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが先月23日に自死したとされる事件で、SNS上で誹謗中傷を受けたことが原因との議論が今も続いている。番組では、女子プロレスラーが大切にしていたプロレスのコスチュームを同居していた男性が誤って乾燥機にかけてしまったことが原因で、プロレスラーが男性を強く叱責した場面があり、これに対して、SNSから「死ね」「消えろ」といった誹謗中傷の批判が相次いだとされる。番組はシナリオ台本のないことがウリなのだが、テレビ局側の責任は免れるのだろうか。

  問題は、シナリオ台本はないとは言え、そのシーンが「台本なき演出」ではなかったか。番組には必ずディレクターが立ち会い、視聴者の反応を意識した番組の構成が練られる。その優先順位があるから番組を時間通りに納めることができるのだ。今回、女子プロレスラーの叱責のシーンが番組のクライマックスのシーンとして位置づけられ番組が構成された可能性が高い。現場のディレクターはむしろ、SNSでの投稿を煽ることをあらかじめ意識していたかもしれない。

   そう考えると、局側の責任がむしろ問われるのではないだろうか。ところが、番組側はいっさいのこの点について釈明していない。局側あたかも番組の放送中止をもって贖罪(罪滅ぼし)としているようにも思える。むしろ、制作現場のプロデューサーやディレクターが記者会見して、その点を説明すべきではないだろうか。そのシーンをあえて演出したのかどうか。したのであれば、出演者にどのよう指示を出していたのか。

   番組を制作したフジテレビの社長の月末の定例記者は新型コロナウイルスの影響で見送りとなっている。記者からの書面での質問にこの問題を以下回答している。

   「今回の木村花さんの痛ましい出来事に対して、改めて心からのお悔やみを申し上げます。同時に番組制作の私共がもっと細かく、継続的に、彼女の気持ちに寄り添うことができなかったのだろうかと慙愧の念に堪えません。『テラスハウス』はリアリティーショーであり、主に若者の恋愛を軸に、それにまつわる葛藤や喜びや挫折など様々な感情を扱うものですが、刻々変化する出演者の心の在り方という大変デリケートな問題を番組としてどう扱っていくか、時としてどう救済していくかということについて向き合う私どもの認識が十分ではなかったと考えております。以上のことを考慮したうえで、今回、既報の通り、同番組の制作、地上波での放送、およびFODでの配信を中止するとともに、今後、十分な検証を行ってまいります。」(5月29日付・フジテレビジョン公式ホームページ)

   「十分な検証」と述べているが、そのシーンが演出であったのかどうかぜひ知りたい。はやり制作現場のプロデューサーやディレクターが記者会見すべきだと考える。もちろん、SNSで批判を投稿した人たちをかばうつもりは一切ない。亡くなられた本人の尊厳を守る意味でも、ぜひ知りたいところだ。また、記者会はなぜ会見の開催をフジテレビ側に要求しないのだろうか。

(※写真はイギリスのBBCニュースが報じた女子プロレスラーの死=5月23日付・Web版=)

⇒4日(木)夜・金沢の天気     はれ

☆ウイズコロナの日常、マスク忘れの日々

☆ウイズコロナの日常、マスク忘れの日々

   緊急事態宣言が全面解除になったとは言え、きのう20日、東京都は新型コロナウイルスの感染状況に悪化の兆候が見られるとして、警戒を呼びかける「東京アラート」を出した。北九州市ではきょうも5人の感染が確認され、12日連続での感染拡大と報じられている。

   きょう午後、2ヵ月に一度通っている金沢市内の総合病院に行くと、全面解除とは言え、ある意味で緊張感が漂っていた。玄関入口でセンサーでの体温検査があり、内科の受付に行くと、「血圧はご自身で測ってください」と言われた。これまで担当の医師が血圧測定のバンドを腕に巻いてくれたのだが。窓口のスタッフに尋ねると、「医師と患者さんがお互い触れ合わないために血圧測定をお願いしています」と。廊下の血圧測定機で測り、そのメモ紙を受付に出した。

   診察室に入ると、マスク姿の医師から「お変わりありませんか」と尋ねられ、「とくにありません」と答える。その後、次回の診察日を調整して終わり。時間的には90秒ほどだった。いつもなら、医師が血圧を測りながら、「きょうは(血圧が)高いですね」とか言いながら、若干ながら会話がある。今回は実に淡々とした診察だった。

   支払いのため待合所に行く。新聞を読もうとしたが、いつものラックに新聞がない=写真=。ことわり書きが貼ってあった。「新型コロナウイルス感染対策のため、当面の間、新聞は撤去させていただきます。病院長」。何人かが新聞を広げると、それだけで感染リスクが発生する。そこまでしなくてもと一瞬思ったが、これが「ウイズコロナ」の日常なのだろう。会計の窓口と薬の受け渡しカウンターもすべてビニールシートで仕切られていた。キャッシュカードで支払いを済ませ外に出る。

    昼ご飯がまだだったので、近くのラーメンのチェーン店に入る。5人がけのカウンターに案内されたが、それぞれ透明プラチックで仕切られていた。何だか窮屈そうだったので、テーブル席にさせてもらった。ここも新聞、雑誌が撤去されていた。スマホを左手で見ながら、右手で箸をとってラーメンをすする。

    支払いを済ませて外に出る。するとラーメン屋の店員が追いかけてきて、「お客さん、マスク忘れてますよ」と。「また忘れた」とあわてて、テーブル席のイスに置いたマスクを取りに戻る。マスク忘れが常態化しつつある、ウイズコロナの日常ではある。

⇒3日(水)夜・金沢の天気    はれ

☆アベノマスクが届く

☆アベノマスクが届く

   きのうのブログで、「起死回生の一発がない限り、アベノマスクの風評とともに内閣支持率は今後も下がり続けるだろう。読売調査で20%台に落ちるのはあと半年、12月まで持つか持たないか。『アベノマスク解散』もありうるのではないか」と書いた。すると、知人からきょうメールがあり、「それはない。安倍総理は来年9月までやる。なぜなら、来年の東京オリピックを誰が引き継いでやるのか、そんな政治家はいないよ」と。なるほど、混沌とした中で誰も来年のオリンピックの面倒までみる政治家はいない。なんとなく理解できる。ということは安倍総理は来年9月まで続投か。

   きょう午後3時ごろ、郵便受けの入り口部分がカチャンと音がした。郵便物かと思い玄関に取りに出た。すると、ビニール袋に入った布マスク2枚、「アベノマスク」が届いていた=写真=。待ち焦がれていただけに、しげしげと手に取って眺めた。表側に「みなさまへ」とメッセージが書かれている。

「みなさまには、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた取組にご協力をいただいていることに、感謝申し上げます。感染拡大を防ぐため、これまでどおり、『3つの密(密閉、密集、密接)』を避けていただくとともに、『新しい生活様式』を実践いただくようお願いします。その際、自分は感染者かもしれないという意識をもっていただき、症状がない人でもマスクの着用をお願いします。この度、一住所あたり2枚の布マスクを配布いたします。十分な量でないことは承知しておりますが、使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで、再利用可能ですので、ご活用ください。」

   差出人は厚生労働省医政局経済化(マスク等物資対策班)、となっている。右下にはQRコードがついていて、スマホを読み取りアプリを当てると、厚労省公式ホームページの「布マスクのに関するQ&A」のページに飛ぶ。さらに、ビニール封筒の裏を見ると、「新しい生活様式」の実践例が書かれていて、「身体的距離の確保」「マスクの着用」「手洗い」といった、基本的な感染対策がイラスト入りで記されている。当初はマスク2枚が送られてくるだけかと思っていたが、全体になんとも丁寧な仕様になっている。

   さっそく使おうかと考えたが、恐れ多く、もったいない気がしたので記念にとっておくことにした。というか、金沢の気温は25度を超えていて、布マスクをする気にはなれなかった。夕方のローカルニュースでは、石川県ではきょう3日間連続で感染者がゼロだったという。アベノマスクの出番が再び来ないことを祈りつつ、そっと机の引き出しに仕舞う。

⇒1日(月)夜・金沢の天気      はれ

★アベノマスクと内閣支持率

★アベノマスクと内閣支持率

   テレビ・新聞のメディア各社が調査発表する内閣支持率、その読みどころを探ってみる。きょう31日付の共同通信社Web版によると、全国緊急電話世論調査(今月29-31日)で安倍内閣の支持率が39.4%となり、前回調査(5月8-10日)から2.3ポイント減となった。不支持率は45.5%。支持率40%割れは2018年5月の38.9%以来と報じている。

   NHKが今月19日に報じた電話による世論調査(15-17日)では安倍内閣の支持率は前回調査より2ポイント下がり37%だった。不支持率は7ポイント上がって45%だった。「支持しない」が「支持する」を上回ったのは、2018年6月の調査以来となる。もう一つ、読売新聞と日本テレビ系列による電話調査(今月8-10日)では安倍内閣の支持率は42%、不支持率は48%で、それぞれ前月に比べほぼ横ばいだった。

   3つの世論調査の傾向を読むと、トレンドはすでに支持率40%割れだ。支持率がここまで下がったのは「2018年5月」「2018年6月」以来と。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰していた時期だ。

   当の安倍総理はこの数字をどう読んでいるのだろうか。メディア業界でよくささやかれるのは、内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」と。第一次安倍改造内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売新聞の内閣支持率は29.0%(2007年9月調査)だった。その後の福田内閣は28.3%(2008年9月退陣)、麻生内閣は18.6%(2009年9月退陣)と、自民党内閣は支持率が20%台以下に落ち込んだときが身の引きどきだった。民主党政権が安倍内閣にバトンタッチした2012年12月の野田内閣の支持率は19.0%だった(数字はいずれも読売新聞の世論調査)。

   今後、コロナ禍が安倍内閣にもっとも影響を及ぼすのは「アベノマスク」でないかと憶測している。4月7日に配布を閣議決定し、あすから6月だというのに、我が家にも国家支給のマスク2枚がまだ届いていない。政府目標は確か月内配布だったはずだ。厚労省公式ホームページによると、27日現在の配達率は25%だ。マスク支給予算は466億円。緊急事態宣言が全面解除(25日)となって以降、ドラッグストアなどではマスクの安売りが始まっている。多くの有権者にとって、いまだに国家支給のマスクが届かいない状況は政権の体たらくと映って見えてしまう。「安倍さん、いったいマスクはどうなっているの」と。

   そして、夏の暑さが増せば、布マスクには見向きもしなくなる。起死回生の一発がない限り、アベノマスクの風評とともに内閣支持率は今後も下がり続けるだろう。読売調査で20%台に落ちるのはあと半年、12月まで持つか持たないか。「アベノマスク解散」もありうるのではないか。

⇒31日(日)夜・金沢の天気    くもり

☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

   まさに前代未聞の展開になっている。今月27日付のブログで、BBCニュースWeb版(27日付)の記事「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)を取り上げた。トランプ大統領の投稿のうち、26日付で11月の大統領選挙でカリフォルニア州知事が進める郵便投票が不正につながると主張した件で、ツイッター社は誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした。大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をする、との同社の新たな方針だろう。

   これに対しトランプ氏は27日、SNSを規制もしくは閉鎖するとけん制した。ツイートで「共和党はソーシャルメディアプラットフォームが保守派の見解を全面的に封じ込めていると感じている。こうした状況が起こらぬよう、われわれはこれら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」「今すぐ行いを改めるべきだ」と述べた(27日付・ロイター通信Web版日本語)。 

   ツイッター社もひるんではいない。29日にトランプ氏のツイートを初めて非表示にした。ミネソタ州ミネアポリスで今月25日、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起きた。騒動が広がり、トランプ氏は「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」という部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たるとツイッター社は判断した。ただ、削除ではなく、「表示」をクリックすれば読める。すかざす、トランプ氏はツイートで同社を牽制した=写真・上=。「“Regulate Twitter if they are going to start regulating free speech.”」(言論の自由を規制しようとしているなら、ツイッターを規制せよ)

   表現が適切ではないかもしれないが、大統領選に向けた論戦がそっちのけになり、トランプ氏のツイートをめぐる攻防に、有権者やSNSユーザーの関心が集まり始めている。どちらが正しいかという評価ではなく、どちらが勝つかというリング観戦の様相になってきた。

   トランプ氏は28日、SNSを規制する大統領令に署名した。連邦通信品位法(CDA)の第230 条ではプラットフォーマーがコンテンツ発行者として保護される一方で、コンテンツの「管理権限」を与えている。これが撤廃されると、ファクトチェックの警告などは法的な根拠を失い、訴訟が多発するのではないだろうか。一方のトランプ氏とすると、この戦いが大統領選のライバルである民主党のバイデン氏に票が流れ込むという事態になれば、ほとぼりが冷めるまではツイートは休止ということになるかもしれない。

   ツイッター社のファクトチェック方針は、ある意味で「きれいごと」ではある。というのも、大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は​相手の落ち度を責める、まさにデスマッチではある。このデスマッチにはテレビメディアも参戦する。FOXテレビは共和党、CNNは民主党がその代表選手だろう。

   誹謗中傷合戦の選挙状況にファクトチェックは通用するのだろうか。もし、こうしたアメリカの大統領選の状況をなんとか改革したい、質したい、論戦で有権者に訴える本来の大統領選であって欲しいと、ツイッター社が壮大な社会実験に挑んだのであれば、それはそれで一目を置きたい。

⇒30日(土)夜・金沢の天気    くもり

★取材手法の転換期なのか

★取材手法の転換期なのか

   このブログでも書いてきた、東京高検の黒川・前検事長と産経新聞記者と朝日新聞社員(元記者)の賭けマージャン問題(今月21日付、22日付)。朝日新聞社はきょう、経営企画室に勤務していた管理職の社員50歳に対し停職1ヵ月の処分を記事として発表した。「定年延長や検察庁法改正案が国会などで問題となっており、渦中の人物と賭けマージャンをする行為は、報道の独立性や公正性に疑念を抱かせるものだった」(29日付・朝日新聞Web版)と処分理由を述べている。

   記事では、同社執行役員編集担当兼ゼネラルマネジャーの話として、「読者の皆様から『権力との癒着ではないか』といった厳しいご批判を多くいただいています」「社員は黒川氏とは社会部の司法担当記者時代に取材先として知り合っており、記者活動の延長線上に起きたことでした。報道倫理が問われる重い問題と受け止めており、取材先との距離の取り方などについて整理し、改めてご報告いたします」と。この問題についての検証記事などを予定しているようだ。

   一方の産経新聞社は「主張」で「新聞倫理綱領は、すべての新聞人に『自らを厳しく律し、品格を重んじなくてはならない』と求めている。本紙記者2人が、取材対象者を交えて、賭けマージャンをしていたことが社内調査で判明し、謝罪した。取材過程に不適切な行為があれば、社内規定にのっとり、厳正に処分する。取材のためと称する、不正や不当な手段は決して許されない。」(22日付・産経新聞Web版)と自覚を欠いた行動だったとの論調だが、記者の処分などの発表はホームページを見る限り見当たらない。

   新聞やテレビの記者は「夜討ち朝駆け」でネタを取る。ネタを取るのにもスピード感が必要で、相手方(ライバル紙)に先んじればスクープとなり、同着ならばデスクにしかられることはない。先を越されれば、「抜かれた」と叱責をくらう。新人記者は警察取材(サツ回り)を通じて、そうトレーニングされて育つ。また、「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」と教え込まれる。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない、と。権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込む。日本の報道独特のプロフェッショナル感覚ではある。

   今回の一件で、こうした記者による警察・司法の関係者との接触が自主規制され、取材手法そのものが変化していく可能性もある。日本の報道、あるいはジャーナリズムの有り様そのものが変革期を迎えたのかもしれない。

⇒29日(金)夜・金沢の天気     はれ

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

   「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」という諺(ことわざ)がテレビ・新聞メディアの記者たちの間で今でも使われている。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だ。

   「文春オンラン」(Web版・20日付)が報じた記事にメディア関係者は戸惑ったことだろう。「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”『接待賭けマージャン』」。東京高検の黒川氏が緊急事態宣言によって不要不急の外出自粛が要請されているさなかの今月1日と13日夜、産経新聞社会部記者の自宅マンションを訪れ、産経のもう一人の記者と朝日新聞社員で元検察担記者の4人で賭けマージャンに興じた。黒川氏の帰りのハイヤーは産経記者が手配した。

   この記事で気になる一文がある。「産経関係者の証言によれば、黒川氏は昔から、複数のメディアの記者と賭けマージャンに興じており、最近も続けていたという。その際には各社がハイヤーを用意するのが通例だった」。「産経関係者の証言」と記述しているので、この記事のソースは産経新聞社の関係者と言っているに等しい。うがった見方かもしれないが、記者は取材源を秘匿するが、あえて「産経関係者」と出したところに何か隠された意味がありそうだ。   

   けさ新聞をコンビニで購入し、賭けマージャンの記事を各紙がどのように掲載しているかチェックした。読売新聞と中日新聞は関連記事を一面、中面、社会面の3ヵ所で記載している。これに比べ、当事者は扱いが小さい。朝日新聞は第2社会面、産経新聞は3面で報じている。

   文春の記事の論点は、ジャン卓を囲む3密と賭けマージャンの賭博罪の2点である。ただ、これは記事の本流ではない。政府がことし1月に黒川氏の定年を延長し、さらに4月に今国会で検察庁法改正案を提出。これが、黒川氏の定年延長を後付けで正当化するものではないかと議論になった。今月18日に政府は成立を見送り、議論は収束した。が、文春は3密と賭けマージャンで追撃をかけた。

   テレビ・新聞メディアは、当事者の産経と朝日以外も黒川氏の3密と賭けマージャンを知っていたはずだ。では、なぜ報じなかったのか。それは、冒頭の「虎穴」の論理だ。産経と朝日の記者は、法案に対する黒川氏の本音を知りたいとの思いを持って卓を囲んだ。3密の状態で賭けマージャンをすることで、黒川氏からさりげなく言葉を引き出すことにある。おそらく、読売や毎日の記者も賭けマージャンをともに行っていただろうと憶測する。こうした取材の一環として行った賭けマージャンについて、メディア各社はお互いに知る手の内なので記事にはあえてしない。文春はこの虎穴の取材の論理を上手に横から突いた。

   ここからはあくまでも憶測だ。黒川氏との賭けマージャン仲間である記者たちはお互いに卓を囲むスケジュールを把握していたはずだ。その記者の1人がうっかりと、あるいは意識的に1日と13日の予定を文春の記者にばらした。文春もばらした記者の社名を伏せるため、あえて「産経関係者の証言」と記述したのではないか。

   記者すべてが虎穴を肝に銘じているわけではない。躊躇する記者もいる。「権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込んでよいものか」と問うている。

   黒川氏はきょう法務省の調査に対し、事実関係を認め、辞職の意向を示した。法務・検察関係者が明らかにした。森法務大臣は報道陣に「21日中に調査を終わらせ、夕方までに公表し、厳正な処分も発表したい」と述べた(21日付・共同通信Web版)。

⇒21日(木)午後・金沢の天気    くもり

☆再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~下

☆再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~下

   前回述べたBSデジタル放送問題は、キー局側が地上波番組をそのまま同時再送信するような放送を避けて、独自色のある番組を放送することで、系列局側の「炭焼き小屋論」は杞憂に終わった。ところが、コロナ禍と放送とネットの同時配信で、「炭焼き小屋論」が再燃する様相だ。

    県域ローカル局は競争と共創の2チャンネル発想  

    ネット動画に接続できる機能を備えたテレビ受像機は今では普通だ。東京キー局が番組をそのまま全国にネット配信すると、同じ系列局のローカル局にチャンネルを合わさなくても、ダイレクトにキー局の番組を視聴するようになる。また、県によっては民放局が2局、あるいは3局しかないところがあり、他のキー局の番組がネットで配信されると、県域のローカル局を視聴する比率が落ち込むことになりかねない。キー局による、ローカル視聴率のストロー現象が起こりかねない。

   二つめは設備のコストだ。ローカル局が独自に動画配信となると、ローカル局でも数十万件のアクセスを想定した動画サーバーや回線を確保しなけらばならず、ネット配信自体にコストがかかる。キー局や準キー局(大阪、名古屋)ならばコスト負担に耐えられるかもしれないが、ローカル局単体でネット配信の余力はあるだろうか。

   そして著作権の処理の問題もある。日本の著作権処理は細かすぎる。テレビ番組を制作し放送する権利処理と、その番組をネットで配信する権利処理は別建てとなる。ネット配信だとドラマの場合は出演者、原作者、脚本家、テーマ曲の作詞家、作曲家、テーマ曲を歌った歌手、CDを製作した会社、番組内で使用した全ての楽曲の権利者など、全ての権利者の許諾を取らなければならない。番組は「著作権の塊(かたまり)」でもある。スポーツ番組も放送する権利と配信権があるなどややこしい。テレビで流していた番組をネットで同時配信するとなると、ネット分の著作権料が上乗せされる。放送のビジネスモデルは主に視聴率だが、ネット配信のビジネスモデルはアクセス数による広告料でしかなく、収益化は可能だろうか。

   逆転の発想でローカル局(系列局)のチャンスが到来するかもしれない。「炭焼き小屋」を暗いイメージで使ったが、能登半島の尖端に全国から注目されている炭焼き小屋がある。栽培しているクヌギで高品質の茶道用の炭を焼き、全国から注文が殺到している。同様に、地域の魅力があふれる面白い番組は全国から視聴される。北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』などはローカル発全国の先鞭をつけた番組だった。あるいは、首都圏や関西圏など他エリアに住む出身者に「ふるさと」をアピールできるのではないだろうか。

   コストがかかる送信鉄塔施設などは鉄塔を共用するテレビ局数社がこの際、共同出資で鉄塔を維持保全する会社をつくるとう選択肢もあるだろう。また、自社制作比率が低いローカル局は単独でネット配信をしなくても、同じ県域のローカル局数社が共同で運営する動画配信サービスを始めてもよい。事例として、名古屋の民放局4社が立ち上げた動画配信サービス「Locipo(ロキポ)」=写真=がある。4局がニュースや情報番組などを配信している。このサイトにアクセスすれば、名古屋のリアルな情報を視聴できる。金沢でも民放4局が共同出資でこのような動画配信サービスを日本語と英語で構築できないだろうか。能登、金沢、加賀の県内各地のケーブルテレビ局も巻き込む。「KANAZAWA」チャンネルを売りに観光ツーリズムを誘う。

   ローカル局には「ネット上げ」という言葉がある。キー局が全国ネットワークのニュースとして取り上げてくれるニュースや特集、あるいは番組のことを指す。ロ-カル局が共同で動画配信サービスを構築して「ネット受け」を狙う。ローカル局同士は電波では互いに視聴率の競争をするものの、ネット配信では共創を目指す。ビヨンド・コロナ(コロナ禍を超えて)の「2チャンネル」の発想が必要なのではないだろうか。

⇒16日(土)午前・金沢の天気   くもり時々あめ

★再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~上

★再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~上

   10数年前になるが、大学の調査である会社を訪問すると才気あふれる美貌の女性たちがてきぱきと仕事をこなしていた。上司(男性)に 「いずれアヤメかカキツバタ、ですね」と話すと、上司は「この職場は、立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花です」と笑って返してきた。女性を花にたとえる言葉だが、最近あまり使われない。「女性は職場の花ではありません。それはハラスメントです」と突っ込まれそうなので自身も言葉を控えている。そのアヤメが自宅庭に咲き始めたので、玄関に活けてみた=写真=。確かにカキツバタと見分けがつけにくいが、こだわるのは日本人だけかもしれない。英語ではひっくるめてアリス(iris)と称している。

   放送とネットの時配信 ローカル局の生き残りは可能か

    冒頭の会社は金沢の民放局だった。いまでも笑顔が絶えない明るいオフィスだろうか、と気になった。というのも、新型コロナウイルスの災禍でいま民放全体に危機感が増しているからだ。ローカル局の関係者が憂いていた。「最近、キー局が冷たい」と。放送と通信の同時配信をNHKが本格的に4月からスタートさせた。民放キー局も同時配信を新しいビジネスモデルで構築する転換期を迎えている。ネットフリックスといった動画配信事業者との対抗策も念頭に置いている。

   民放キー局それぞれが本格的に同時配信を進めれば、ローカル局を介さずにオールジャパン、そして世界に番組を発信できる。ところが、ローカルの存在基盤となっている「県域」が外れる。県域は放送電波の割当てのことで、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のことだ。キー局の番組がネットを通じてダイレクトに全国や世界で視聴できるようになれば、県域の意味が失せる。こうなると、キー局と系列局という関係性は電波では残るが、ネット上では関係性がなくなる。地方局の関係者が「最近、キー局が冷たい」と嘆いた背景がここにある。

   さらに、民放全体の危機感として、屋台骨のテレビ広告費の減少にある。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超えてトップの座に躍り出て全体を底上げした。一方、テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少し、首位の座をネットに明け渡した。テレビ広告費の減少要因は、台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで3年連続の減少となった。ことしはさらにコロナ禍で「官公庁・団体」「金融・保険」などは増加するかもしれないが、「化粧品・トイレタリー」「情報・通信」などは激減するだろう。最近のテレビCMは自社広告や「ACジャパン」が目立つ。

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」という言葉がテレビ業界であった。2000年12月にNHKと東京キー局などがBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。当時の状況がいま再燃しているのだ。

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