⇒メディア時評

★先鋭化する米中「ハイテク」戦

★先鋭化する米中「ハイテク」戦

   ウィズコロナの時代とともに世界は不穏な曲がり角に転換したのではないだろうか。それ象徴するのがアメリカと中国の対立の先鋭化だ。すでにニュースが飛び交っている。  

   アメリカ政府はアリババやバイドゥなど中国企業をアメリカ株式市場から締め出す可能性のある法案を検討している。法案は企業の監査をアメリカの公開会社会計監督委員会(PCAOB)が検証することを求めている。法案の意図は、中国企業にアメリカの会計規則を順守させることだが、中国側はこれを一貫して拒否していて、中国企業の上場廃止につながる可能性がある。法案は5月に上院を全会一致で通過し、今は下院が審議している。中国企業の排除にはナスダックなどは反対している(7月10日付・Bloomberg日本語Web版からの引用)。

   アメリカで上場する中国企業は250社と多い。アメリカは中国企業の監査に携わる中国本土の監査法人への立ち入り調査などを要求し続けてきたが、中国は立入調査は中国当局の監督下で行うとの立場を貫いている。が、ナスダック上場のラッキン・コーヒーの不正会計がことし4月に明らかとなったこともあり、アメリカ側は中国企業の経営に懸念を募らせている。これは憶測だが、中国企業がアメリカ市場に上場することで、中国のドル調達のプールになっているのではないか。だから、中国政府はPCAOBに立入検査をさせないのではないかと見るのが自然だ。

   アメリカ政府はファーウェイなど中国のハイテク企業5社の製品を使用する企業との取り引きを禁じる法律をことし8月施行する(7月17日付・NHKニュースWeb版)。中国製品の締め出しを世界各国に広げるアメリカ側の意図を受け、イギリスも5G移動通信システムからファーウェイ製品を排除する方針を明らかにしている。

   ファーウェイは5Gの技術やコスト競争では代表的な企業の一つ。特許の出願件数も多く、国連の専門機関、WIPO(世界知的所有権機関)を通じた国際特許を出願した件数でも、企業別でファーウェイが世界1位となっている(2017年の国際特許登録の出願数、WIPOプレスリリース)。2018年12月にカナダのバンクーバー国際空港で、ファーウェイCEOの娘の副会長が、アメリカの要請でカナダ捜査当局に逮捕された。この事件で、アメリカがファーウェイの5Gに安全保障の上で懸念があり、締め出しに動いていることが世界に拡散した。

   先鋭化する一方の米中対立には背景がある。2017年6月に施行された中国の「国家情報法」だ。法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、政府や軍から要請があればファーウェイCEOはハッキングやデータ提供に協力せざるを得なくなる。

   中国の「国家情報法」に遅れて、アメリカは2018年8月に「国防権限法」を発効させた。上記で述べた、中国5社から政府機関が製品を調達するのを2019年8月から禁止、ことし8月から5社の製品を使う各国企業との取引も打ち切るなど徹底する。この動きがさらに先鋭化するとこの先どうなるのか。ここまで来ると、トランプ流のディール(取引)は通用しないだろう。勝つか負けるかの「ハイテク」戦ではないか。

⇒22日(水)朝・金沢の天気   くもり

★「論よりマスク」 説得力に欠けるWHO

★「論よりマスク」 説得力に欠けるWHO

     アメリカのトランプ大統領のマスク姿の写真が今月12日付・CNNニュースWeb版で掲載されていた=写真・上=。首都ワシントン近郊の軍病院で負傷兵を見舞った際の写真で、黒マスクの姿は堂々とした印象だ。トランプ氏のマスク姿はこれまで写真や映像で見たことがなかったので、本人は「マスクは医療関係者か、ギャングがするもの」と勘違いしているに違いないと思っていた。そのトランプ氏もマスクをせざるを得ない状況に追い込まれてきたのではないか。

   ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)の最新版では、アメリカだけで感染者累計が336万4918人、死者が13万5616人だ。コロナウイルス感染拡大は社会生活だけでなく、軍隊にも広がっている。同時に、外出時のマスク着用を義務化する州や都市も増えている。ニューヨーク州知事は「マスクの着用は戦いに参加していることを意味する。着用ほど愛国的なことはない」とマスクの徹底を呼びかけている(7月4日付・NHKニュースWeb版)。この緊急事態にトランプ氏自身も自らも感染の危機感を抱き始めたのではないか。

   もう一人、マスク姿を見せない重要人物がいる。WHOのテドロス事務局長だ。パンデミック宣言以来、ほぼ3日に一度、ジュネーブの本部で記者会見を開催しているが。会見でマスク姿を一度も見せたことがない。6月5日の会見=写真・下=で、テドロス氏は各国政府に向けて一般市民にマスクを着用するよう奨励すべきと勧告した。マスクの重要性を強調したこの日は、自らマスクを着けて会見に臨むべきではなかったのか。言っていることと行っていることのちぐはぐさを感じる。

   直近の会見(7月13日でも、テドロス氏は「Mixed messages from leaders are undermining the most critical ingredient of any response: trust. 」と、おそらくアメリカを意識して、国のリーダーは対応を間違って信頼を損なっていると強調している。そして、国内で手洗いやマスクの着用などの公衆衛生の原則が守られなければパンデミックは悪化するだけだと説いている。「論より証拠」という言葉がある。だったら、自らマスクをして会見に臨んではどうか。この公式ホームページは世界中の人たちが見ているが、テドロス氏に対する心象は共通しているのではないだろうか。側近にアドバイスする人もいないのか。

⇒15日(水)午前・金沢の天気    あめ時々くもり

★演出なきリアリティ番組はあるのか

★演出なきリアリティ番組はあるのか

   フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが5月23日に自死した事件がいまだにくすぶっている。視聴者から批判が殺到したビンタのシーンは番組スタッフの指示と母親が証言した(「週刊文春」7月2日発売号)。フジテレビ側は社長が今月3日の記者会見で「一部報道にスタッフが“ビンタ”を指示したと書かれているが、そのような事実は出てきていない」「感情表現をねじ曲げるような指示は出していないということだ」と述べている(フジテレビ公式ホームページ「6月度社長会見要旨」)。真向から対立している。

   番組のシナリオ台本はなかったとは言え、番組には必ずディレクターが立ち会い、視聴者の反応を意識した構成が練られていただろう。「台本なき演出」があったと考えるのが普通だ。

   かつて、テレビマンとして番組制作にかかわっていた。ドキュメンタリ-番組を制作するに当たって気をつけていたことは、「演出」の気持ちにかられないようにすることだった。なぜならば、ドキュメンタリーは事実を構成する番組なので、「演出」あるいは「やらせ」はタブーである。ところが、ディレクターとしては番組のストーリー性を常に考えるので、つい「こんなシーンがあると映像の流れ的にはリアリティがあっていいんだけれどな・・・」などと思ってしまう。番組の完成度を高めたいのだ。

   そのような思いを戒める「事件」が起きた。1992年に放送されたNHKスペシャル『禁断の王国・ムスタン』(9月30日・10月1日放送)。ムスタンはネパール領の自治王国で、「テレビ未踏の番組」が触れ込みだった。視聴率は14%をさらい、さすがNHKと好評を博した。それが一転、「やらせ番組」の代名詞の烙印を押されることになる。

   翌年1993年2月3日付の朝日新聞でスクープ記事が出た。疑惑はいくつもあった。登場した「国境警備兵」は実際は警察官だった。映像中の「少年僧の馬が死んだ」は実際は別の馬だった。「高山病に苦しむスタッフ」の映像は実際は演技だった。「岩石の崩落、流砂現象」のシ-ンは取材スタッフが故意に引き起こした、などの「やらせ」疑惑だ。NHKも内部調査を行い、「過剰な演出」「事実確認を怠り誇張した表現」と認めた。同年3月、電波行政を所管する郵政省(現・総務省)はNHKに対し虚偽報道であるとして大臣名で厳重注意の行政指導を行った。

   その後も、関西テレビの『発掘!あるある大事典Ⅱ』では捏造が発覚した。2007年1月7日放送「納豆でヤセる黄金法則」はアメリカの大学教授の研究をもとに「DHEA」と呼ばれるホルモンにダイエット効果があるとの説を紹介し、納豆に含まれるイソフラボンがその原料になるとし、被験者8人全員の体重が減ったとの内容だった。週刊朝日が関テレに質問状を送ったことがきっかけに、番組を制作会社に任せていた関テレが独自調査。コレステロール値や中性脂肪値や血糖値の測定せず、血液は採集をするも実際は検査せずに数字は架空といった捏造が明るみに出た。さらに、大学教授の日本語訳コメント(ボイス・オーバー)はまったく違った内容だったことが発覚した。

   結局、番組は打ち切りに。関テレも一時、民放連の除名処分を受ける事態になった。ある意味でこれは民放の構造的な問題ではなかったかと察している。当時、制作会社は制作9チーム(150人)で1チームが2ヵ月に1本の制作を担当していた。科学データが実証されるのを待っていると時間が必要で、放送に穴を空けることにもなりかねない。時間に追われたディレクターは「とりあえず、絵だけ撮れ」とカメラマンに指示したのだろう。「体にいいですよ」という番組の結論を導くために捏造したデータやコメントを構築していくことになった。

   話は冒頭に戻る。「リアリティ番組」と銘を打つから、演出だ、やらせだ、捏造だと批判を浴びる。最初から「娯楽バラエティー番組」にしておけば、演出は許される。そして、出演者も視聴者もそれほど抵抗感はなかったのではないか。番組づくりと演出はテレビ制作者の永遠の課題ではある。

⇒13日(月)夜・金沢の天気    あめ

☆「賭けマージャン」不起訴 「ネズミ」の気持ち

☆「賭けマージャン」不起訴 「ネズミ」の気持ち

    もう8年も前の話だが、「ネズミ捕り」にひっかかったことがある。66㌔で走っていて安全運転のつもりだったが、交通警察から「ここは制限速度50㌔です」と言われ、16㌔オーバーの違反切符を切られた。66㌔で走っていてスピード違反は納得できなかった。かといって、拒否して裁判にでもなれば罰金という刑事罰を食らうことにもなりかねない。警察権力は国民に対して建前を強要して、国家の秩序を維持しているのだ、と自分を納得させ抵抗をあきらめた。後日、1万2000円の反則金を払った。   

   このブログでも何度か取り上げた事件。新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中で賭けマージャンをしていたとして刑事告発されていた東京高検の黒川前検事長と新聞記者ら4人について東京高検は10日、4人の不起訴処分(起訴猶予など)を発表したとメディア各社が報じている。黒川氏は5月1日と13日の夜、都内にある産経新聞の記者の自宅マンションを訪れ、同社社会部の次長と記者、朝日新聞の記者だった社員1人と4人で賭けマージャンをしていた。この日だけではなく、3年ほど前から月に1、2回の頻度だった。賭け金は1千点を100円に換算する「点ピン」と呼ばれるレートで、1回で1万円から2万円程度の現金のやり取りだった。

   事件が発覚したきっかけは「文春オンラン」(Web版・5月20日付)と週刊文春の記事だった=写真=。「黒川弘務検事長 は接待賭けマージャン常習犯」。その後、市民団体から賭博の疑いで刑事告発が相次ぎ、東京地検が捜査を進めていた。高検は起訴猶予の理由として、4人が旧知の間柄で、動いた金額も多額ではなく、賭博性を高める特殊ルールを採用していないため「娯楽の延長線上にある」とした上で、4人が辞職や停職処分で社会的制裁を受け、いずれも事実を認め反省していることを挙げた(7月11日付・朝日新聞)。

   冒頭で述べた、50㌔規制の道路を66㌔で走行したスピード違反は、警察に「今後絶対に違反はしません。交通ルールを守ります」と反省の気持ちを込めて土下座したとして、許しを得ることはできただろうか。許されるはずがない。では、法の番人である検察最高幹部による刑法の「賭博」に抵触する行為が、「社会的制裁」「事実を認め反省していること」をもってなぜ不起訴となるのだろうか。

   令和元年(平成31年)のスピード違反の検挙件数は113万7255件(警察庁「交通関係法令違反の検挙状況」)だ。交通警察はそれを実績として誇るかもしれないが、「ネズミ捕り」への恨みはけっこう根深い。ましてや、今回の「賭博 不起訴」のニュースで「また、上級国民への配慮か」と格差感を抱いてしまう。検察の不起訴処分が妥当だったかどうかをチェックする検察審査会の判断に注目したい。

⇒12日(日)午後・金沢の天気   くもり

★農ある生活「パーマカルチャー」の第2波

★農ある生活「パーマカルチャー」の第2波

   新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、石川県の自治体への移住相談が増えていて、とくに能登地域にある七尾市では前年同時期の約12倍、珠洲市は約4倍になったと、きょう11日付の日経新聞北陸版が報じている。首都圏などから自然豊かな地方に転居したいというニーズ、そして、人口減少に悩む自治体は移住者の獲得を目指している(同)。

   この記事を読んで、「パーマカルチャーの第2波が来た」との印象だ。パーマカルチャーは農業を志す都会の若者たちの間で共通認識となっている言葉だ。パーマネント・アグリカルチャー(パーマカルチャー=Permaculture、持続型農業)を実践したいと農村へ移住を希望する若者たちがいる。農業経験はないが、農業の伝統を守るだけではなく、伝統の上に21世紀の農業をどう創り上げていくか、そこまで考えている。

   第1波は2011年の東日本大震災のときだった。金沢大学が2007年度から能登半島で実施している人材育成事業「能登里山マイスター養成プログラム」の2011年度募集に初めて東京からの受講希望が数名あった。面接で受講の動機を尋ね、出てきた言葉が「パーマカルチャー」だった。里山や農業のことを学び、将来は移住したいとう希望だった。実際、東京から夜行バスで金沢に到着し、それから再びバスで能登に。あるいは前日に羽田空港から能登空港に入り、月4回(土曜日)能登で学んだ。その後、実際に能登に移住、あるいはUターンした受講生もいる。

   彼らと接して、パーマカルチャーは人間の本能ではないかと察している。天変地異が起きたとき、人はどう生きるか、それは食の確保だ。敏感な答えだ。それを彼らは「農ある生活」とよく言う。最近、そのトレンドを能登で散見する。ITエンジニアやデザイナーが移住し、仕事をしながら野菜の栽培に取り組む。仕事の契約など必要に応じて東京へ打ち合わせに日帰りで行く、というパターンだ。石川県の統計で、2018年度で能登地区へ296人の移住があった。その多くが農業を志している。まさにパーマカルチャー志向ではないか。

   コロナ禍をきっかに、リモートワークは普通になった。光回線や5Gなど通信インフラが整っていれば、東京に在住する必要性はない。ならば地方移住という発想が広がっているのではないだろうか。日経新聞の記事に、パーマカルチャーの第2波を感じる。もちろん、この傾向は能登だけでなく全国の地方に広がっているだろう。
(※写真は二宮金次郎像。背中に薪を背負い、学問をする姿は現代流に解釈すれば、多様なライフスタイルの実践主義者のシンボルでもある)

⇒11日(土)夕・金沢の天気    くもり

☆ソ連崩壊から29年、米中対立の新展開

☆ソ連崩壊から29年、米中対立の新展開

   1991年にソビエト連邦の崩壊のドラマをメディアを通して見ることができた。8月に当時のゴルバチョフ大統領側近がクーデタを起し、民衆の反撃で失敗。これでソ連共産党の活動が全面禁止となり、共産党は事実上解体となる。12月にゴルバチョフ大統領が辞し、ソ連を構成していた各共和国が主権国家として独立した。中学の歴史教科書にも出ていた、1917年のロシア革命で成立したソ連の崩壊だった。

   では、アメリカはどう見ていたのだろうか。「自由、民主、資本主義」の権化であるアメリカの為政者も国民もマルクス・レーニン主義は必ず崩壊する、中国共産党も時間の問題だと思っていたのではないだろうか。当時の鄧小平が改革開放を進めれば、社会主義市場経済はそのうち資本主義へと変化するだろう、と。

   しかし、中国経済は「世界の工場」と呼ばれるまでに成長し、2001年にはWTOに加盟、2010年にはGDPで日本を追い抜いて世界第2位となる。さらに、製造大国としてだけではなく、巨大な消費市場としての役割を担うまでになる。その一方で、現在でも、共産党や政府の機関に勤める党員に対し、家族を含むプライベートの時間に習近平総書記の地位をおとしめる悪口や、批判的なウェブサイトの閲覧を禁じている(6月26日付・共同通信Web版)。香港では国家安全維持法に抗議する民衆デモで370人が逮捕され、うち10人に「香港独立」の旗を所持していたとして国安法違反が初めて適用された(7月2日付・同)。

   この状況をアメリカはどう読んでいるのか。トランプ大統領の対中国戦略はディール(取引)だ。貿易相手国に脅しをちらつかせ、交渉で譲歩を迫る。ところが、「自由、民主」といった旗印がこれまで見えなかった。国内では、黒人男性が首を押さえられて死亡した事件で全米で抗議デモが相次いでいる。

   けさのニュースで、アメリカ下院は1日、香港の自治抑圧に関与した高官や組織、金融機関に対し、アメリカ政府が制裁を科すことを定めた香港自治法案を全会一致で可決した。ポンペオ国務長官は記者会見で、同盟・友好国を念頭に対中包囲網の形成を急ぐ方針を示した。1997年の香港返還後も中国本土より優遇してきた措置の廃止を進める考えを改めて強調した(7月2日付・共同通信)。

   11月のアメリカ大統領選挙をにらんでの対中制裁法案であることは間違いない。アメリカと中国の全面対決が明確になってきた。中国はその包囲網の切り崩しに全力でかかるだろう。ソ連崩壊から29年、マルクス・レーニン主義と自由・民主・資本主義との対立が再現するのか、目が離せない。そして、日本は。

⇒2日(木)午前・金沢の天気    くもり時々あめ

☆ドラッグストア「わが世の春」の争い

☆ドラッグストア「わが世の春」の争い

   その発言が何かとニュースになる石川県の谷本知事が5月28日にドラッグストアチェーンの社長と面会した際、「ドラッグストアはわが世の春でしょう」と発言したことが、新型コロナウイルスの感染拡大がまだ治まらないこの時期に不適切と全国ニュースにもなった。知事はその後の記者会見で「適当でなかった。反省している」と述べた。ただ、知事の発言は事実無根ではない。

   多くの企業の業績が総崩れといわれる中で、ドラッグストア業界の業績は順調だ。石川県に本社がある東証一部のドラックストアチェーンのA社の株価は新型コロナウイルスに対する政府の緊急事態宣言(4月7日)から2000円余りも上昇している。最近よく目にするようになったのが新規開店のラッシュだ、県内に73店舗を構えるA社のほかに37店舗のG社(本社・福井県)、19店舗のU社(同・東京都)と乱立気味だ。

   さらに愛知県に本社を置くS社が今年に入って金沢に3店舗を開設した。2024年2月までに北陸で一気に100店舗を計画している(S社公式ホームページ)。S社は店舗数だけでなく、店舗の多様化を強調している。「クリニック併設型店舗の出店や、地域の在宅医療における訪問調剤サービスなど、北陸エリアの地域医療振興にも貢献してまいります」(同)と。

   ドラッグストアチェーンのこうした強気の経営戦略は超高齢化社会を迎えるマーケットの主導権を握る発想かもしれない。S社の戦略通り、高齢化社会のニーズをビジネスに結びつける対応力と多様性がこの業界にはある。ドラッグストアとスーパ-、ドラッグストアと介護・診療施設の併設、あるいはドラッグストアと家族葬を中心とした葬儀場もあるかもしれない。

   実際に石川県庁近くの金沢1号店を見学に行ってきた=写真=。立地では石川県立中央病院と近い。店舗の中に、調剤部門と介護の相談を受け付ける介護ステーションを併設している。建物内で内科クリニックも計画しているようだ(同)。何より挑戦的だと感じたのは、A社の店舗と150㍍くらいの距離にあることだった。地域を絞って集中的に出店する戦略で、域内の市場占有率を一気に高めるドミナント展開をS社は狙っているのだろう。

   A社とS社の店舗は県庁のすぐ近くにある。このシェア争奪の現場を間近に見て、おそらく知事も実感していたのかもしれない。「ドラッグストア業界はわが世の春、だから争いもし烈になる」と。        

⇒28日(日)午後・金沢の天気   くもり時々はれ

★テレビ視聴の「オーダーメイド化」時代

★テレビ視聴の「オーダーメイド化」時代

   気になったニュース。NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都内の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の判決で、東京地裁は26日、請求を認めた(27日付・共同通信Web版)。NHKの受信契約をめぐる訴訟は各地で起きているが、ほとんどがNHK側に軍配が上がっている。久しぶりに視聴者側の勝ちではないだろうか。

   最近の判決で印象的なのは、「ワンセグ訴訟」だ。自宅にテレビを置かず、ワンセグ機能付きスマホやカーナビの場合でも、NHKと受信契約を結ぶ義務があるかどうかの訴訟が相次いでいた。2019年3月、最高裁は契約義務があるとして原告側の上告を退ける決定をした。NHK側の勝訴とした東京高裁の判決が確定した。

   そもそもこれまでなぜ訴訟が相次いだのか。放送法そのものが不備が原因だ。放送法では「(日本放送)協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」(放送法64条1項)とある。スマホは持つものであって、設置ではない。常識で考えれば、誰しもがそう思う。今でもスマホでもPCでもタブレットでも視聴できる時代だ。ところが、放送法は制定された1950年のテレビの法律なのだ。東京高裁の判決では「受信設備の設置には携行することも含まれる」と判断したが、これは言葉の勝手解釈だろう。法律の文言を変えればよいだけの話である。

   今回26日の判決はある意味で画期的だ。NHKだけを受信不能とするフィルターをテレビとアンテナの間に取り付ける。つまり、NHKの周波数帯をカットする仕組みだ。裁判で、NHK側は電波を増幅するブースターを取り付けたり、工具を使って復元すれば、放送を受信できると主張した。これに対し、裁判長は女性の設置したテレビを「NHKを受信できる設備とは言えない」「ブースターがなければ映らないのであれば契約義務はない」と退けた。

   「ウィキペディア」によると、NHKの周波数帯を減衰するフィルターを開発したのは筑波大学の映像メディア工学の研究者だ。訴訟を起こした女性はこの研究者からフィルターを組み込みんだテレビを直接購入した。NHKや民放にかかわらず、視聴したくない放送を見ないようにするという発想から、見たくないテレビを見れないようにテレビそものにフィルターをかけるという視聴者ニーズが起きるのではないだろうか。まさにテレビのオーダーメイド化だ。今回の判決をきっかけに新しい商品として開発が進む、と予感する。

⇒27日(土)夜・金沢の天気   くもり   

★「日本の失われた20年」警戒するアメリカ

★「日本の失われた20年」警戒するアメリカ

   「U.S. Stocks End Sharply Lower as Coronavirus Worries Return」(コロナウイルスの懸念が再び高まる中、アメリカ株は大幅下落)。ウオールストリートジャーナルWeb版(11日付)の見出しだ。一方、イギリスのフィナンシャルタイムズWeb版はこう伝えている。「US stocks slide nearly 6% on worst day since March」(アメリカの株価は3月以来の最悪日に、ほぼ6%下落)=写真=。

   11日のニューヨーク株式市場のダウは前日比1861㌦安の2万5128㌦だった。下げ幅は3月16日(2997㌦安)以来の大きさで、過去4番目の下げ幅を記録した。この大幅下落の原因をウオールストリートジャーナルは新型コロナウイルス感染の「第2波」を一番に上げている。サブ見出しでこう記している。「Dow falls more than 1,800 points; concerns about a new wave of infections send investors out of risky assets」(ダウは1,800ポイント以上下落した。新たな感染拡大への懸念が投資家を危険資産から遠ざけた)。 

   フィナンシャルタイムズはコロナ第2波と併せて、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の「ゼロ金利の継続」を上げている。「Investors spooked by uptick in virus cases and gloomy prognosis from the Federal Reserve」(ウイルス感染増加とFRBの先行き不安に怯えた投資家)。FRBは10日に開催した連邦公開委員会で、政策金利の誘導目標「0%~0.25%」を2022年末まで続ける方針を示した。この根拠としてアメリカの失業率は2020年10-12月期も平均9.3%と高水準を予想。さらに、2022年10-12月期でも物価上昇は前年同期比1.7%と予想(目標2%)。つまり、投資家とすれば、インフレ効果による株価の上昇などは今後見込めないということだ。

   ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボードの最新版をチェックするとアメリカのコロナ感染者202万人だ。9日の感染者は197万だったので第2波が不安を煽る。コロナ禍では、いわゆる資本主義の「公式」というものが通用しない。人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになるという構図は一変した。金融政策を投じたとしてもモノは売れず、経済の成長力は弱まり、デフレを招く「日本の失われた20年」の再現をアメリカが警戒し始めたのではないだろうか。

⇒12日(金)朝・金沢の天気     あめ

☆アメリカ暴行死事件の複雑怪奇

☆アメリカ暴行死事件の複雑怪奇

     きのうの金沢の最高気温は31.3度だった。梅雨入りを感じさせる蒸し暑さ。外出の折にはマスクを着けたが、正直、苦痛だった。まさに「暑苦しい」という言葉が当たる。そしてきょう午前中から雨が降り出し、季節はいよいよ梅雨に入った。

    けさのロイター通信Web版日本語によると、白人警官に逮捕される際に暴行を受けて死亡した黒人男性の弟がアメリカ下院司法委員会の公聴会に出席し証言した。ミネソタ州ミネアポリス近郊で、20㌦の偽札を利用してたばこを買おうとして通報され、警察に取り押さえられたとの内容だ。記事では、弟が「兄は誰も傷つけなかった。20㌦のために命を落とす必要はなかった。黒人の命は20㌦の価値しかないのだろうか。今は2020年だ。こうしたことはもう終わりにしてほしい」と訴えたと記している。

   黒人差別反対の抗議活動が全米に広がった事件だが、発端が偽札の使用だったことは余り知られてなかったのではないだろうか。この事件の複雑さを感じる。アメリカ社会は、1862年にエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を発して以来、自由と平等、民主主義という共通価値を創り上げる先頭に立ってきた。自由と平等、民主主義を共通価値と掲げ、さらに性や人種、信仰、移民へと広げてきた。こうした共通価値を創ることを政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んでアメリカ社会は自負してきた。

   ところが、しかし、ポリティカル・コレクトネスは裏腹で、きれい事しか言えない、本音が言えないという言葉の閉塞感として白人層を中心に受け止められるようになってきた。こうした「ポリティカル・コレクトネス疲れ」の白人層に支持されたのがトランプ大統領でいまの在り様はポピュリズムと称される。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈だろう。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を唱え、世界に難題をふっかけているが、ある意味で支持層の気持ちを代弁しているとも言える。

   黒人差別問題ならば法的な規制など出口はいろいろあるだろう。しかし、偽札の使用が事件の発端となるとこれを貧富の格差の問題として単純に世論に問うことができるだろうか。たとえば、偽札を大量に印刷してばらまくマフィアの存在がバックにいたとすると話はより複雑怪奇に展開していくのではないだろうか。あくまでも憶測の話である。(※写真は、白人警官による黒人の暴行死事件が経済に与える影響を解説する11日付・ウオールストリートジャーナルWeb版)

⇒11日(木)午前・金沢の天気   あめ