⇒メディア時評

☆コロナ禍がもたらす「天気晴朗なれど波高し」

☆コロナ禍がもたらす「天気晴朗なれど波高し」

   この人は「パンデミック教」の教祖になったのかもしれない。WHOの公式ホームページをチェックして、今月21日の記者会見の冒頭で話したテドロス事務局長=写真=のコメントを読むと、そんな雰囲気だ。

       「Throughout history, outbreaks and pandemics have changed economies and societies. This one will be no different. 」(歴史を通じて、集団発生とパンデミックは経済と社会を変えてきました。今回も同じです)、「The pandemic has given us a glimpse of our world as it could be: cleaner skies and rivers.」(パンデミックによって、私たちの世界が一目でわかるようになりました。きれいな空と川です)

   バンデミックが、気候変動に対応する世界的な取り組みに寄与していると語っている。その事例として、イギリスでは、最も汚染度の高いエネルギーである石炭の使用が250年で最低レベルにまで落ち込んだこと。スペインは世界で最も急速な脱炭素国の一つになりつつあり、国の15の石炭火力発電所のうち7が最近閉鎖されたこと。そして、パリは、徒歩や自転車であらゆるサービスに簡単にアクセスできる「15分の都市」になることを約束しており、大気汚染や気候変動を減らしている、と事例を紹介している。

   「COVID-19 is a once-in-a-century health crisis. But it also gives us a once-in-a-century opportunity to shape the world our children will inherit – the word we want.」(新型コロナウイルスは、1世紀に1回の健康危機です。 しかし、それはまた、私たちの子たちが継承する世界、つまり私たちが望む言葉をカタチに変える、1世紀に1回の機会を私たちに与えてくれました)。地球温暖化阻止に向けて、パンデミックは人類に素晴らしいチャンスを与えてくれた、と。   

  地球温暖化につながる大気中の二酸化炭素濃度の増加ペースが急減したのは、コロナ禍により経済活動が停滞したことで起きている話である。それを「パンデミック効果」として世界に向けて発信することが果たして妥当なのだろうか。テドロス氏の言葉は宗教的に読める。「Hardship is always an opportunity to learn, to grow and to change.」(苦難は常に学び、成長し、変化する機会である)。この言葉を否定するするつもりはないし、二酸化炭素の削減は世界の課題目標であることは間違いない。

   ただし、コロナ禍が世界にもたらす景気後退の影響はもっとシビアだ。イギリスではことし第2四半期(4-6月)の国内総生産(GDP)が前期比20.4%縮小。第1四半期の経済成長率はマイナス2%だったため、正式にリセッション(景気後退)に入った。就労人口は4月から6月にかけて22万人減少。この減少幅は四半期ベースで、世界金融危機の渦中にあった2009年5月-7月以来の規模になる(8月12日付・BBCニュースWeb版日本語)。GDPの落ち込みはイギリスだけでなく、アメリカでも年率換算でマイナス32.9%となるなど、世界で歴史的な下落となっている。まさに、「コロナ恐慌」の前兆だ。

   今後、世界では貧困の拡大、移住労働者の制限や排除、国家の財政破綻などさまざまは局面があるだろう。工場からの排出ガスが減り、「きれいな空と川」が見えたとしても、それは「天気晴朗なれど波高し」の現実ではないだろうか。

⇒24日(月)夜・金沢の天気    はれ

★「どぶろく」と「アイヌのサケ漁」の相関性

★「どぶろく」と「アイヌのサケ漁」の相関性

   古来からの伝統的な生産品が明治の法律によって今でも禁止されているケースがある。自らの趣向品でもある「どぶろく(濁酒)」がそれに当たる。石川県中能登町の由緒ある神社では12月に「どぶろく祭り」を開催して参拝客に振舞っている。五穀豊穣を祈願する新嘗祭のため、どぶろくを造ってお供えする神事を古代より連綿と守ってきた。ただ、神社に行かないと飲めない。

   もともと明治初期まではどぶろくは各家々で造っていた。明治政府は国家財源の柱の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。これがきっかけで家々のどぶろくの伝統は廃れたが、宗教的行事として神社では残った。所轄の税務署から製造許可が与えられ、境内から持ち出すことが禁じられている。最近では、地域活性化を目指す国の構造改革特区の「どぶろく特区」で、特定した稲作農業者だけに製造が認められている。

   明治期には酒税は国の税収で重きをなしていたかもしれないが、現在、どぶろく造りにまで目を光らせる理由がどこにあるのだろうか。神社に伝えられた伝統的な酵母菌のどぶろくを自由に飲ませてほしい。どぶろくは日本酒のルーツでもある。

   このニュースも「明治の負の遺産」だ。きのう17日、北海道のアイヌ団体「ラポロアイヌネイション」が札幌地裁に対して、アイヌ民族には地元の川でサケ漁を行う先住権があるのに不当に漁が禁止されているとして、漁を規制する国と道を相手取り、権利の確認を求めて提訴した(8月17日付・NHKニュースWeb版)。

   かつて、アイヌにとってサケは重要な食料であると同時にアイヌ語でカムイチェプ=「神の魚」と呼ばれるほど特別な存在とされていた。しかし、明治以降は政府により資源保護の観点からサケの遡上する主要河川での捕獲が制限され、漁業権を持つ者以外は捕獲から排除されてきた。現在ではアイヌの文化的伝承や儀式に限り、道知事の許可を得て例外的にサケ漁が認められている。

   今回テーマになっている「先住権」は、先住民族が伝統的に持っていた土地、資源に対する権利や政治的な自決権を指し、2007年に採択された国連の先住民族権利宣言に明記された。これに従って、国は、昨年5月施行のアイヌ施策推進法でアイヌ民族を先住民族と初めて明示したが、先住権には触れていない(8月18日付・北海道新聞Web版)。今回の訴えでは、その先住権として、道東にある十勝川の河口4㌔の範囲で、サケの刺し網漁を認めてほしいとの訴えだ。裁判で争われるのは、先住権としての漁業を認めるか、だ。

   北海道では「秋鮭」などで親しまれるサケを、海に仕掛けた大型の定置網で漁獲している。訴えたメンバーはこの川の周辺で生活していたアイヌの子孫たちた。十勝川での刺し網漁を復活させ、アイヌの独自のサケの食文化をブランド品として売り出すという構想を持ってのことだろうと想像する。とすれば、北海道のサケのブランド価値を高めるためにも、このアイヌの先住権を認めるべきではないだろうか。国も道も前向きに考えてほしい。

(※写真は、初サケを迎えるアイヌの儀式=アイヌ民族博物館公式ホームページより)

⇒18日(火)朝・金沢の天気     はれ

★CMガタ落ちテレビ業界、同時配信のチャンス

★CMガタ落ちテレビ業界、同時配信のチャンス

   新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな産業に影響が及んでいる。最近、テレビを視聴していても、自社の番組宣伝や通販のCMが多い。4月7日に東京など7都府県で緊急事態宣言が発令されたころは、「ACジャパン(公共広告機構)」が目立った。公共広告はスポンサーの都合でCMを降りた場合に使われるが、番宣や通販CMが目立つということはCM枠そのものがガラガラになっている、ということでもある。では、CM収入がどの程度落ち込んでいるのか、日本テレビホールディングスがホームページで掲載している今年度の有価証券報告書(第1四半期、4‐6月)と決算説明資料をチェックしてみた。

   まず、視聴率である。日本テレビは独自に「男女13-49歳」の個人視聴率を「コアターゲット」として設定して他社と比較した数字を出している。そのコアターゲット視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は「4月クール」(2020年3月30日-6月28日)の調査で、全日(6-24時)が4.7%、プライム(19-23時)7.7%、ゴールデン(19-22時)8.0%と2位以下を大きく離して「3冠」となっている。3冠は2013年7月期から28クール連続。視聴率そのものも、「ステイホーム」など在宅率と連動して伸びている。では、CMはどうなのか。

   テレビ局の放送収入(CM)には2つの枠がある。番組に提供する「タイム」枠と、番組と番組の間で流す「スポット」枠である。第1四半期(4‐6月)の日本テレビの放送収入はタイムが290憶円、スポットが196憶円と、前年同期比でそれぞれマイナス1.1%、同36.6%となっている。とくにスポットの落ち込みが大きい。さらに、スポットを月別で見ると、4月が前年同月比でマイナス24.7%、5月が同40.2%、6月が47.5%と相当な落ち込みだ。民放キーをリードしている日本テレビがこの落ち込みである。

   とはいえ、放送収入の主力であるタイムがマイナス1.1%なのだから、そう案じることもないのではと考えてしまうのだが、むしろ、問題はこれからかもしれない。タイム枠はほとんどが半年契約である。4月に契約したスポンサーが、10月以降も継続するかどうか。提供を降りるスポンサーが、スポット並みに続出するかもしれない。

   放送収入の減少傾向は、コロナ禍とは別次元でも危惧されている。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、広告費は6兆9381億円で8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超え、テレビ広告費を上回りトップの座に躍り出た。テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少した。テレビ広告費の減少要因は、この年の台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで3年連続の減少だった。ことしはコロナ禍が拍車をかけ、線状降水帯など自然災害、さらに米中の対立が貿易にとどまらず安全保障にまで拡大する気配を見せている。第2四半期(7-9月)の決算が気になる。

   テレビ業界も生き残り戦略に特化していくだろう。先に述べた、日本テレビの「男女13-49歳」の個人視聴率を「コアターゲット」とする戦略はその代表ではないだろうか。従来の世帯視聴率は不特定多数の量的な数字だ。ではなく、個人視聴率を用いて若い層や就業・就学者にどれだけ番組のニーズがあるのかを調査しなければ、クライアント(スポンサー)の満足度を最大化することはできない。視聴率にも質的な転換が求められている。

   と同時に、デジタル化への戦略だろう。番組のネット配信を進めなければ、さらなる番組の価値を生み出すことはできない。日本テレビ社長の定例会見(7月27日)の内容がHPで掲載されていて、同時配信について述べている。「今年10月から12月にトライアルを実施する方向で作業を進めている。私どもが考える意義は、視聴環境が大きく変化する中、テレビを持っていない、あるいはテレビを見る機会が少ないデジタルデバイスのユーザーの皆さんに対して、地上波のコンテンツとの接触機会をとにかく促進する、ということ。プライムタイムの番組で、特に権利者の許諾等々、ネットワークのコンディションにかなうものを配信する予定」

   アフターコロナではテレビ業界も大打撃を受けての再出発となるだろう。放送と通信の同時配信のチャンスではないだろうか。そして、これまでの視聴率を取ればなんとかなるという発想ではおそらく生き残れない。テレビ業界そのものが「ポツンと一軒家」化してしまうかもしれない。

⇒16日(日)午後・金沢の天気     はれ

☆ビジョンなき駆け引き、政治は「お花畑」か

☆ビジョンなき駆け引き、政治は「お花畑」か

   今月10日のブログで取り上げた読売新聞の世論調査(8月7-9日調査)でもう一つ気になるのが政党支持率だ。自民33%(前回32%)、立憲民主5%(同5%)、国民民主1%(同1%)、公明2%(同4%)、共産3%(同2%)、日本維新3%(同4%)となっている。いまこの立憲民主と国民民主の合流の流れが時折ニュースとなっている。   

   国民民主の玉木代表は11日、記者会見し「合流すべきだという人と、合流すべきでないという人がいたので、分党するしかないという結論に至った」と述べ、党をわける「分党」を行い、みずからは合流には参加しない意向を示した(8月12日付・NHKニュースWeb版)。立憲民主党からは、「無理に一緒になっても、混乱のもとになるだけで、一番いい結果だ」と歓迎する声が出ている(同)。

   首をかしげる、「これは政治のニュースだろうか」と。確かに衆院解散と総選挙はもうそろそろと読めば、野党の合流は与党との対決姿勢を鮮明にすることで、有権者の支持獲得の流れをつくることにもなる。それには、次なる時代を感じさせるビジョンとリーダーシップを執る「顔」が必要だろう。ところが、このニュースで知る限りでビジョンも顔も見えない。

   そもそも国民民主の「分党」って何だ。立憲民主と合流することに「好き」「嫌い」があり、それを基準に分党して、好きな人はどうぞ立憲民主へ、嫌いな人は国民民主に残るとうスタンスなのか。そうではないだろう。政治家一人ひとりが自らの立場を表明し、合流に参加する議員としない議員が徹底的に公開討論会をやるべきだろう。そこで合流する理由とできない理由がはっきりすれば、有権者は納得する。このままでは、「好き」「嫌い」で政治の流れがつくられているとしか思えない。まるで、お花畑の政治のようだ。

   立憲民主と国民民主がいまの政治の流れを変えたいのであれば、香港で国家安全維持法に違反したとして民主活動家や新聞創業者らが逮捕、その後に保釈された事件に対して、「香港の民主主義を守れ。政治弾圧を許すな」とその立場を表明すべきだろう。いまの日本に蔓延する政治的な空気は、「香港で起きている事態を黙って見過ごすことが、隣国でもある民主主義国家の有り様なのだろうか」という、ある種の苛立ちや閉塞感ではないだろうか。

   支持率33%の自民でできないことを本筋でやる、それが次の政権に期待感を抱かせる野党の有り様ではないだろうか。今回の香港での逮捕事件をめぐっては、アメリカなど欧米各国の政治家がSNS上で中国政府を強く非難する声を上げている。枝野も玉木も党首としてこの事件に徹底して関わる姿勢を見せれば、政治家としての株は上がる。

(※写真は、香港の民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏の逮捕を伝える12日付・CNNニュースWeb版。家族と国を救うために戦った伝説の中国のヒロインが登場するディズニー映画『Mulan(ムーラン)』と重なり、最近彼女はそう呼ばれている)

⇒12日(水)夜・金沢の天気    あめ

★マスク逃亡者はいま何思う

★マスク逃亡者はいま何思う

    昨年12月30日にレバノンに逃亡し物議をかもしたカルロス・ゴーンという人物はとてもマスクが似合う。昨年3月6日、一回目の保釈で東京拘置所から出てきた姿は、青い帽子に作業服姿、顔の半分以上はマスクで隠していた=写真=。その場を逃げるような姿だった。なぜ、このような姿で拘置所から出てくる必要性があったのだろうか。この作業服を着た意味は何か、と思ったものだ。このとき、保釈金10億円を納付したのだから堂々と出てきて、記者会見をすればよかったのではないか。もともと逃亡癖があったのだろうか。

   ゴーン被告の逃亡先レバノンはこのところ災難続きだ。首都ベイルートの港湾地区で現地時間で4日、大規模な爆発が連続して発生し、100人以上が死亡、4000人以上が負傷した(8月5日付・共同通信Web版)。日本人1人も軽傷を負っているという。レバノンの首相は演説で、倉庫が6年前から危険な状態で放置されていたと指摘し、原因究明を約束した。2700㌧の硝酸アンモニウムが貯蔵されていたとみられる(同)。テレビ映像でもこの爆発シ-ンを視聴したが、「まるでこの世の終わり」と思うほどすさまじい大規模爆発だった。

   ゴーン被告の住宅も被害を受けたようだ。妻のキャロル・ナハス容疑者(偽証容疑で逮捕状)が「私たちは大丈夫だが、家は壊れた。ベイルート全体が壊された」と話している(8月5日付・NHKニュースWeb版)

   もう一つの災難。レバノン政府は3月7日、償還期限を迎える外貨建て国債12億㌦の返済について、財政難を理由に見送ると発表した。レバノンがデフォルト(債務不履行)に陥るのは初めて。同国は長年の汚職や政情不安を解消できず、深刻な財政危機に見舞われている(3月8日付・時事通信Web版)。財政悪化に苦しむレバノン政府は昨年10月、通信アプリの無料通話への課税案を発表したが、市民の抗議デモを受けて撤回。その後、国際送金や米㌦預金引き出しを制限したももの、通貨レバノン・ポンドの急落を招いた。反政府デモで暴徒化した市民と治安部隊の衝突も起きた(同)。

   ゴーン被告はおそらく浮き浮きとした気分で逃亡の成功を祝ったことだろう。その後、降りかかる災難と国内の政情不安をどう見ているのか。国際手配されていて他国に逃げようがない。まさか、日本で裁判を受けていればよかったなどとと後悔してはいまい。

⇒5日(水)夕・金沢の天気   はれ

★言葉の死語化のプロセスを読む

★言葉の死語化のプロセスを読む

   学食はにぎわっているというイメージだが、このご時世はちょっと違う。キャンパスでは「3密」の回避が徹底されていて、学食のテーブルも対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。その分、食事を取っていると、近くにいる学生たちの声もよく聞こえる。先日こんな会話が聞こえた。

   「えっ、美肌って言っちゃだめなの」と女子。男子が「美肌は白い肌という意味だろう、この言葉は人種差別との誤解を受けるよ」。すると女子は聞き返す。「歯磨きで歯を白くするのを美白っていうけれど、これも言っちゃいけないの」。男子は「これはむずかしいな。でも、使わない方がいいよ」と。

   学生たちの間に割って入ることはしなかったが、現代の課題が読めて「面白い」会話だと思った。美肌が人種差別に当たるという事の発端は、ことし5月25日にアメリカのミネソタ州ミネアポリスで起きた、偽札を使ったアフリカ系アメリカ人の男性が白人の警察官に首を押さえつけられて死亡する事件だった。黒人差別反対を訴えるスローガン「Black Lives Matter」(黒人の命は大切だ)を掲げた抗議活動が全米に広がった。トランプ大統領が「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」とツイートしたことなども抗議活動に拍車をかけた。

   事件が「美肌」問題と直結したのは、「Black Lives Matter」抗議活動が全米で広がったのを受けて、アメリカの医薬品会社「J&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)」がアジアと中東で販売していたホワイトニングクリーム(シミ消しクリーム)を販売中止としたことや、フランスの化粧品会社「ロレアル」がスキンケア商品で『ホワイトニング』や『明るい』といった表現を使わないと発表したことだった(6月27日付・ニューズウィーク日本語Web版)。

   この流れを読むと、「言葉狩り」を連想してしまう。J&Jやロレアルは企業イメージを上げるために販売中止や広告宣伝からの除外を決めたのだろう。販売中止となったJ&Jの商品を検索すると中東で販売されている「Fine Fairness」やインドの「Clear Fairness」などだ。また、ロレアルが商品説明などで使わないとした言葉は「whitening」「lightening」「fair」だ。言葉はある意味で生き物だ。いったんマイナスイメージが付加されると、言葉そのものが死語と化することもある。学生たちが「美肌」や「美白」を使わない方がよいと交わしていた会話からもそうした現象がうかがえる。

   言葉の死語化にとどめを刺すのはメディアや出版社かもしれない。たとえば、オックスフォード大学出版局の『オックスフォード英語辞典』が今後の再版で、「Fine Fairness」「whitening」「lightening」「fair」などを差別用語として注釈を入れる可能性もあるのではないだろう。あるいは、共同通信社が出版している新聞用字用語集『記者ハンドブック』や岩波書店の『広辞苑』で「美肌」「美白」を差別用語、あるいは不快用語としたら、新聞やテレビ、教科書で使われなくなることにもなる。

   言葉は多様な意味を持つ。「美肌」は白色だけでなく、健康でつやつやとした肌という意味もあるだろう。歯は「美白」が健康的で清潔なイメージだ。一つの意味や解釈で言葉を死語にしてほしくないと願う。で、「面白い」という言葉もやり玉に上がるかもしれない?

(※写真は、白人警官による黒人の暴行死事件を解説する6月11日付・ウオールストリートジャーナルWeb版)

⇒3日(月)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

☆検証報告「確認されず」で済むのか

☆検証報告「確認されず」で済むのか

   フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、フジテレビは7月31日付で検証報告を公式ホームページで掲載している。それによると、調査は社内の関係部門を横断する メンバーによる内部調査で、一部に弁護士も加わった。聞き取り調査の対象者は番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人におよんだ。

   問題となった38話は、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この場面のいきさつについて検証報告では以下のように記載されている。「一部の報道等では、制作側が木村花さんに対して、プロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示しており、木村花さんのSNSを炎上させる意図があったと伝えられています。しかし、制作側からそのようなキャラクター設定を求めるような指示をしたことは確認されませんでした」。いわゆる「やらせ」はなかったとしている。

   むしろ、この検証報告で注目したのは、SNSでの炎上と自傷行為を制作側はどのようにとらえていたのか、という点だ。以下報告を要約する。動画配信サービス「Netflix」で38 話が配信された3月31 日は、SNSコメントは2万2421件を記録した。それまで番組へのコメントは配信後1日で6千から8千だったので38話の場合は異常に多かった。さらに、ネガティブなコメントの割合は配信直後の1時間は40%だった。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのことをSNSで知り、本人と連絡して無事であることを確認している。

   この時点で5月18日の地上波の放送が決まっていた。本来ならば、SNS炎上の第2波を防ぐために問題の一部シーンをカットするなどの配慮があってもよかったのではないだろうか。そうした救済措置もないまま予定通り放送される。「5月18日に地上波で38話が放送された際にも、同じスタッフが木村花さんと連絡をしており、SNSにネガティブなコメントがあるとの話を聞きましたが、この場のやり取りでは、猫を飼い始めたなどの話を聞いており、木村花さんが元気で、深刻に悩んでいる様子は無いものと認識しました。」(検証報告)。その5日後に自死にいたる。

   問題シーンのカットもせずそのまま地上波で放送したのは、番組スタッフとすれば「ネット配信で事前に視聴者の話題を煽り、本命の地上波放送で視聴率を上げる」という狙いがあったのではないかと勘繰らざるを得ない。これに関して以下の説明がある。

   「制作スタッフが出演者のSNSを炎上させる意図を持つ要素があるかについても調査しましたが、そのようなことは確認されませんでした。例えば、視聴率および配信数を向上させることを目的とし得るかどうかについても確認しましたが、出演者のSNSの状況と地上波放送の視聴率 、フジテレビが行うインターネット配信の視聴数の間には、過去のエピソードを含む一連のデータを検証しても、何ら相関が見いだされず、そのような動機を持つことはないと考えます。また地上波放送については、放送時間帯が深夜0時以降であり、視聴率の主要な評価基準の一つである全日時間帯(6時から24時)に含まれておりません 」(同)

   検証報告では契約書についても触れている。「出演者および所属事務所と、上記『同意書兼誓約書』を締結しておりますが、これは一般に出演契約と言われるものであり、労働契約ではないとのことでした。損害賠償に関する規定についても、契約違反しただけでなく、それによって番組の放送、配信が中止された場合について定めたものです。これは、現実的には、出演者による犯罪が起きるなどの重大な事態しか想定され得ず、制作側としては、そのような事が起きないようにするための抑止力として捉えていました」

   この文面を読んでふと思った。以下憶測である。本人は5月18日の地上波放送を中止してほしかったに違いない。それを番組スタッフ、あるいは所属事務所の関係者に頼み込んだ。しかし、「番組の放送を中止した場合、損害賠償が請求される」と聞かされ、諦めざるを得なかった。そして放送後、SNSにネガティブコメントが届き、自らをさらに追い詰めることになった。

   遺族はBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に人権侵害の審査を申し立てている(7月15日付・共同通信Web版)。フジテレビ側とすると、審査入りの決定を前に、検証報告を公表しておきたかったのだろう。BPOの審査が決定し、審議が始まれば、おそらく真っ先にフジテレビ側が問われるのは、なぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか、と。

(※写真はイギリスのBBCニュースWeb版が報じた女子プロレスラーの死=5月23日付)

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

★道のべの木槿は馬にくはれけり

★道のべの木槿は馬にくはれけり

   きょうから8月、庭のムクゲが花盛りだ。花弁が白く、花ずいに近い部分が赤い底紅の花はそのコントラスが目を引く=写真=。茶人の千利休の孫、宗旦が好んで花入れに使ったことから、「宗旦木槿(そうたんむくげ)」と呼ばれたりする。同じムクゲで、花が真っ白なギオンマモリも夏の日差しに映えている。夏を和ませてくれる花ではある。

   芭蕉の句がある。「道のべの木槿は馬にくはれけり」。馬が道ばたのムクゲの花をぱくりと食べた。芭蕉はその一瞬の出来事に驚いたかもしれない。花であっても、いつ何どき厄(やく)に会うかもしれない、と。

   平和な町が突然、コロナ禍に見舞われる。今世界中で起きていることだ。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、ウイルス感染者は世界で1759万1973人、死亡者は67万9439人に上っている(日本時間・1日午後3時現在)。日本では感染者3万7549人、死亡者1008人とカウントされている。石川県内では感染者322人、死亡者は27人。職場である金沢大学の感染者も6人となり、県内で7つ目のクラスターとなった。   

   WHOの公式ホームページでテドロス事務局長のスピーチ(7月31日付)をチェックすると、コロナ感染が急増している南アフリカ大統領とのオンライン会議でのコメントが掲載されいた。「WHO’s commitment is to bringing scientists, researchers, innovators and nations together in a spirit of solidarity, to ensure shared solutions to this shared challenge.Science is the most powerful when it benefits everyone. 」(WHOの取組は、科学者、研究者、革新者、国を連帯の精神で結集し、この共通の課題に対する共有ソリューションを確実にすることです。科学は、すべての人に利益をもたらすときに最も強力です)

   テロドス氏の上記のコメントに違和感を感じた。パンデミックが発生してから現在、世界で200を超えるワクチンが開発中で、そのうち20を超えるワクチンが人体試験を開始している。まるで、WHOがワクチン開発を進めているかのような口ぶりなのだ。

   「道のべの木槿は馬にくはれけり」。ワクチンはテドロス氏にぱくられり。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

☆李登輝氏が訪れた金沢ゆかりの3人

☆李登輝氏が訪れた金沢ゆかりの3人

   台湾の民主化を成し遂げ、哲人政治家としても知られる元総統、李登輝氏がきのう30日亡くなった。97歳だった。2004年暮れの12月に来日、29日と30日に一泊2日で石川県を訪れた。そのとき、民放テレビ局の報道にいたので、取材スタッフに同行して李氏の姿を間近に見ることができた。その案内役をつとめた、「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」の中川外司氏(故人、元金沢市議)から「李氏が敬愛してやまない日本人が金沢に3人いる」と聞いて意外に感じたことを覚えている。

   当時、李氏がJR金沢駅から直行したのは「金沢ふるさと偉人館」だった。ここで中川氏が最初に案内したのは八田與一の胸像だった。台湾の日本統治時代、台南市に烏山頭(うさんとう)ダムが建設され、不毛の大地とされた原野を穀倉地帯に変えたとして、台湾の人たちに日本の功績として高く評価されている。このダム建設のリーダーが、金沢生まれの土木技師、八田與一だった。ダム建設後、八田は軍の命令でフィリピンの灌漑施設を調査するため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃を受け、船が沈没し亡くなる。1942年(昭和17年)だった。その後、八田の妻は烏山頭ダムの放水口に身投げし後追い自殺したことは台湾でもよく知られた逸話だ。

   偉人館では鈴木大拙コーナーも熱心に見学した。その著書『禅と日本文化』を手に取っていた。中川氏に聞くと、李氏は日本での留学時代(京都帝国大で農業経済専攻)に、禅が日本人の精神と文化にどのような影響を及ぼしているのか理解するために初めて読んだ書物が『禅と日本文化』だったと本人が語っていたと教えてくれた。李氏は「人間はいかに生きるべきか」と自問し、哲人政治家と呼ばれるほどの哲学書好きで知られたが、その知的バックボーンのとっかかりが鈴木大拙だったのかもしれない。

   その哲人政治家ぶりは翌日30日の訪問先でも理解できた。西田幾多郎記念哲学館(石川県かほく市)を見学し、墓地を訪れ参拝した。その著書『善の研究』で知られる西田幾多郎は実在とは何か、善とは何か、宗教とは何か、人間存在をテーマに考え抜いた哲人である。李氏も西田哲学の基本的な着眼点とされる「場の論理」で自らの考えを深め、政治思想の基盤としていったのだろう。台湾と中国を「特殊な国と国との関係」とする二国論を打ち出し、「一つの中国」を原則とする中国と対峙した。

   多感な青春時代に巡り合った書物、農業発展のダムの先駆者と妻の後追いの悲話、そして人間存在を問いかけながら、統一併合をもくろむ中国と対した政治家時代。李氏はさまざまな思いを胸に金沢を訪れたのだろう。(※写真は日本李登輝友の会台北事務所ホームページより)

⇒31日(金)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

★記者会見、駆け引きの現場を読む

★記者会見、駆け引きの現場を読む

   むしろ問われるのは日本のメディアの姿勢ではないだろうか。韓国・平昌市の民間施設の植物園に、少女銅像に安倍総理が土下座したような銅像があることが報道されている。今月28日午前の記者会見で菅官房長官はこの銅像に対し、政府として事実確認していないとしたうえで、「そのようなことは国際儀礼上、許されない。仮に、報道が事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と強い不快感を示した(28日付・NHKニュースWeb版)。

   ニュースで取り上げられたこの銅像に関しては、気分のよいものではない。むしろ「韓国人のいつもの発想」とメディアが「嫌韓」を煽っているとの印象だ。さらに、なぜこれをニュースにするのか必然性が理解できない。民間施設の中に、どのようなモニュメントがあろうとそれをとがめることはできないだろう。もし、その銅像が公的な機関から設置を条件に譲られたものであるならば、もちろん話は別だが。民間施設の運営者が私費を投じて2016年設置したもののようだ。

   官房長官から「国際儀礼上、許されない」とのコメントを引き出した新聞各社は写真付きで記事にしている=写真=。そのような民間施設でのモニュメントのことを、なぜメディアはわざわざ官房長官の記者会見で意見を求めるのか、それがメディアの在り方なのかとむしろ考えてしまう。会見の席上ではおそらく、布マスクの再配布など優先すべき質問があっただろう。仮に、このモニュメントが国際問題になるほどのニュース価値があるとすれば、当事者である安倍総理に直接、コメント求めるべきではないのか。

   この日の安倍総理の動きを新聞の政治面でチェックすると午前中は「来客なく、東京・富ケ谷の私邸で過ごす」となっている。ここでピンときた。本来ならば、首相官邸で安倍総理への「ぶらさがり会見」で直接聞くべきだが、さすがに記者も気が引けた。そこで、午前中に総理が官邸で不在であることを奇貨として、官房長官の午前中の記者会見で政府見解として引き出した、のではないだろうか。俗な言葉で言えば「せこい」。

   その日の午後の記者会見で官房長官は記者団から、モニュメントの設置は表現の自由の範囲内か見解を問われたのに対し「表現の自由は確かに重要であることは申し上げるまでもないが、そのうえで申し上げれば、仮に像の設置が事実であれば、国際儀礼上、許されないというのが政府の立場だ。このようなわが国の立場については、韓国政府に適切に説明してきている」と述べた(28日付・NHKニュースWeb版)。

   この質問をした記者の質問内容の詳細を知りたいと思い、官邸公式ホームページをチェックしたが、28日の官房長官の会見(動画)はアップされていない(午前7時30分現在)。韓国の個人が設置したモニュメントについて、なぜ繰り返し官房長官の発言を求めるのだろうか。アップされる動画を見れば、その質問をした記者の意図が読める。もし官房長官からその個人を中傷するような発言を引き出せば、これは表現の自由問題という別のニュースとして展開できる。その意図が記者にあったのかどうか。それにしても、ベテラン官房長官はうまくかわしている。記者会見で質問を「する側」と「される側」の駆け引きの現場ではある。

⇒30日(木)朝・金沢の天気    くもり