⇒メディア時評

★ウイズコロナ+デジタル担当大臣=ネット投票

★ウイズコロナ+デジタル担当大臣=ネット投票

   立憲民主党の小沢一郎衆議院員がきょう21日、自身の政治塾で講演し、「1年以内に必ず政権を取る」と述べ、次期衆院選での政権交代に意欲を示したと報道されている(9月21日付・時事通信Web版)。小沢氏は「11月に社民党も(立憲と)一緒になる予定だ」との見通しを示し、「野党がほぼ一つになる。これが効果的に機能すれば絶対に政権を取れる」と強調した(同)。見出しを見て記事にアクセスした。「壊し屋」の異名で政権交代の立役者だった小沢氏の発言なので、政権奪取に向けてのどのような戦略や新機軸があるのかと興味がわいた。

   ところが、記事は「野党がほぼ一つ」になればとの前提の話で、政権交代に向けての新たな戦略や論拠など詳しい記載はなかった。では、「野党がほぼ一つ」になったとして、その可能性はあるのか。朝日新聞の世論調査(9月16、17日)で「仮に今、投票するとしたら」と衆院比例投票先を質問している。回答は、自民が48%、立憲は12%だった。共産、維新、その他政党を合わせて「野党がほぼ一つ」になったとしても31%だ。自民と公明を合わせた54%には遠く及ばない。小沢氏の発言に実現性が感じられない。小沢氏の賞味期限はもう過ぎているのではないだろうかとも思った。

   読売新聞の世論調査(9月19、20日)によると、菅内閣を「支持する」と答えた人は74%で、小泉内閣の発足時の87%、鳩山内閣の75%に次いで歴代3位の高さとなった。「支持しない」は14%だった(9月21日付・読売新聞)。 安倍前総理が進めてきた政策などを菅氏が引き継ぐ方針については「評価する」が63%で、「評価しない」が25%だった。また、  閣僚人事については「評価する」が62%、「評価しない」27%を大きく上回った(同)。ご祝儀相場だろうが、評価は高い。

   有権者の一人として自身も気になっている、衆院の解散・総選挙については、「任期満了まで行う必要がない」が59%、「来年前半」が21%、「ことし中」が13%の順だった。世論の6割近くが「任期満了まで行う必要がない」と答え、これは、上記の朝日新聞の世論調査も同じ傾向だ。質問内容は若干異なるが、「今年中がよい」は17%、「来年がよい」は72%だった。世論は「来年がよい」「任期満了まで行う必要がない」が主流だ。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、選挙などやってほしくないという、ある意味で世論の「拒絶反応」でもある。

   菅氏は新型コロナウイルスの収束や経済の立て直しを優先するとの考えを示している。ところが、総理の周辺では高評価の時機を逸しないようにと早期解散・総選挙の声が上がっている。ある意味で矛盾を解決するのはインターネットによる投票ではないだろうか。ネットによる選挙運動はすでに解禁されている。次はネット投票だ。総理の肝入りで新閣僚にデジタル担当大臣を任命した。マイナンバーカードの普及、そしてネット投票がセットで実現すれば、デジタル社会への大きな一歩になるだろう。ウイズコロナのこのタイミングでネット投票を実現させてほしい。

⇒21日(祝)朝・金沢の天気     はれ

☆いつまで続く「機種安く、月々料金高い」ビジネスモデル

☆いつまで続く「機種安く、月々料金高い」ビジネスモデル

   菅内閣の発足を受けて、メディア各社が世論調査を行っている。毎日新聞の調査では、内閣支持率が64%で、不支持率は27%を大幅に上回っている(9月18日付・毎日新聞Web版)。 朝日新聞社の調査は内閣支持率が65%で、不支持率は13%だった(9月17日付・朝日新聞Web版)。共同通信の調査でも支持率は66.4%、不支持率は16.2%だった(9月17日付・共同通信Web版)。3社の調査では支持率がおおむね65%とそろっている。

   菅総理はさっそく「公約実行」に動いているようだ。きょう菅氏は武田総務大臣と官邸で会談し、携帯電話料金の引き下げに向けて検討を進めるよう指示した。会談後に武田氏は「国民の生活と直結する問題なので、できるだけ早く結論を出すよう全力で臨んでいきたい」「1割とかいう程度では改革にならない」と記者に語った(9月18日付・共同通信Web版)。携帯料金の値下げについて、菅氏は官房長官時代の2018年に「4割程度下げる余地がある」と発言して注目された(同)。

   国の電波を管理しているのは総務省だ。携帯電話料金の値下げが進まなければ、おそらく電波利用料の見直しを迫るという「圧力」が携帯キャリア各社にかかるだろう。何しろ電波利用料は安価だ。携帯キャリアが国に納めている電波利用料は端末1台当たり年間140円。令和元年度でNTTドコモは184億円、ソフトバンクは150億円、KDDは114億円だった(総務省公式ホームページ「令和元年度 主な無線局免許人の電波利用料負担額」)。NTTドコモは国へ電波利用料184億円を納め、携帯電話の通信料としてユーザーから3兆943億円を売り上げている(2019年度)。

   自身のスマホの利用料金は通信料で年額ざっと6万円だ。キャリアが国に納める1台当たり年間140円で、個人がキャリアに払う年6万円となる。通信インフラの整備や維持費に多少のコストがかかったとしても、菅氏の「日本は世界でも圧倒的に高い水準で、4割は下げられる」の主張には納得する。

   その背景にあるのは、「機種は安く、通信料は高い」のビジネスモデルではないだろうか。携帯電話だけにとどまらない。プリンターもそうだ。これも自身の実感だが、自宅で使うプリンターを3万5千円で買った。インクは6種あり、メーカーの純正インクでぜんぶそろえると5千円ほどかかる。さらに最近実感するのだが、減りが早い。インク量を減らしているのではないかと疑っている。そして、先日、そのプリンターが一年も経たないのに故障した。修理より買った方が安価と電気店で言われ、買った。「機種は安く、インクは高く、機種交換も早い」というビネジネスモデルかと疑っている。

   使っているスマホも、自宅のWi-Hiをセットして動画など視聴しているが、いつの間にかWi-Hiが「OFF」になっていて、料金が高くなっていることがある。携帯キャリアが勝手に操作しているのではないかと、これにも不審に思っている。グチになってしまったが、スマホの利用料が果たしてどこまで下げることができるのか。菅内閣の手腕が試される。

⇒19日(土)朝・金沢の天気     はれ

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

          先ほどニュースを見て、「これは警察の忖度か」と思わず考え込んだ。多額の負債を抱えて倒産した磁気治療器販売「ジャパンライフ」が、顧客に虚偽の説明をして現金をだまし取ったとして、警視庁の捜査本部は18日朝、元会長ら14人を詐欺容疑で逮捕した。「ジャパンライフ」は2015年に元会長に届いた安倍総理主催の「桜を見る会」の招待状を顧客勧誘セミナーで見せびらかして参加者を信用させていたと、去年12月の参院本会議でも問題になっていた。安倍退陣と菅政権発足を見計らった絶妙なタイミングなのだ。

   ようやくこの問題が動き出した。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。番組で女子プロレスラーが演じた、同居人男性の帽子をはたくシーンは番組制作側の「やらせ」だったのかどうかが問われる。委員会は遺族とフジテレビが提出する書面と、双方へのヒアリングをもとに審理を行い、その結果を「勧告」または「見解」としてまとめ、双方に通知した後に記者会見で公表する予定だ(同)。

   問題のシーンは『テラスハウス』(38話)で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントが批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。5月18日の地上波放送では、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流された。女子プロレスラーが自死したのは5月23日だった。

   BPOに対し女性の母親は7月15日に申し立てを行い、番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えていた。また、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えていた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   また、同意書兼誓約書に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」としている。動画配信サービス後の自傷行為から放送後にいたる間は、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケアにより、「精神状況が比較的安定していることを確認している」とも主張している。

   BPO放送人権委員会の審議のポイントはいくつかあると推測する。一つは、フジテレビ側はなぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか。もう一つは、「Netflix」での配信をきっかけにSNSによる批判が殺到し女子プロレスラーが自傷行為に及んだ。地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。テレビ局として追い詰められた出演者とどう向き合ったのか、問われるところだろう。BPOの審理に注目したい。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒18日(金)朝・金沢の天気    あめ

☆「自助・共助・公助、そして絆」というSDGs

☆「自助・共助・公助、そして絆」というSDGs

   菅総理大臣の初めての記者会見がきのう16日午後9時からあり、テレビで視聴した。会見で述べていた「自助、共助、公助、そして絆」はこれまで何度か耳にしていたが、改めて聴くと、これはひょっとして「菅流SDGs」ではないのかと心に刺さった。

   菅氏はこう語っていた。「まずは自分でやってみる。そして、家族、地域でお互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティーネットでお守りする」。SDGsの理念は「誰一人取り残さない(leave no one behind)」だ。自ら努力し、助け合い、そして公的な支援でしっかりとした絆(きずな)をつくることで、誰一人取り残さないという意味だと解釈した。

   その次のコメントがさらに鋭かった。「こうした国民から信頼される政府を目指す。そのためには、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打ち破って、規制改革を全力で進める。国民のためになる、国民のために働く内閣を作り、期待に応えていきたい」。これまでの内閣は新しいキャッチフレーズで政治や経済や政治のクローバル化や、福祉や医療の充実といった政策を打ち出してきた。ところが、菅氏は国民という目線で行政の縦割り、悪しき前例主義を打ち破る、「国民のために働く内閣」に徹底すると強調したのだ。これまでなかったキャッチフレーズではないだろうか。

   それでは、「自助、共助、公助、そして絆」を徹底的に実行することで、どのようことが可能になるのだろうか。SDGs17のゴールと照らし合わせてみる。1・貧困をなくそう (No poverty)、2・飢餓をゼロに(Zero hunger)、3・すべての人に健康と福祉を(Good health and well-being)、4・質の高い教育をみんなに(Quality education)、5・ジェンダー平等を実現しよう(Gender equality)、10・人や国の不平等をなくそう(Reduced inequalities)、11・住み続けられるまちづくり(Sustainable cities and communities)、16・平和と公正をすべての人に (Peace, justice and strong institutions)、17・パートナーシップで目標を達成しよう( Partnerships for the goals)、の9のゴールが見えてくる。

   さらに、菅氏は、携帯電話の料金が高すぎることなどを指摘し、「当たり前ではない、いろいろなことがある。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が足りないのかをしっかりと見極めたうえで、大胆に実行する。これが私の信念だ」と述べていた。これを経済と働く現場の感覚を重視するという意味で考えると、8・働きがいも経済成長も(Decent work and economic growth)、12・つくる責任 つかう責任(Responsible consumption, production)が見えてくる。さらに、菅氏が掲げる行政のデジタル化に加え、産業のデジタル化を推進することで、9・産業と技術革新の基盤をつくろう(Industry, innovation, infrastructure)のゴールも想定できる。

   ただ、菅氏のコメントで見えてこなかったのは生物多様性や気候変動といった環境問題に関する政策、そして、ODA(政府開発援助)だ。ODAによって、ぜひ、6・安全な水とトイレを世界中に(Clean water and sanitation)をサポートしてほしい。環境では、7・エネルギーをみんなに そしてクリーンに(Affordable and clean energy)と13・気候変動に具体的な対策を(Climate action)を示してほしいものだ。

   そして、外交として里山里海と生物多様性の問題にも取り組んでほしい。2010年に名古屋市で開催された国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された、20項目を10年で達成する「愛知目標」が困難との報告が公表された(9月15日付・共同通信Web版)。森林の減少や種の絶滅、海洋資源の乱獲が世界各国で報告されている。そこで、14・海の豊かさを守ろう(Life below water)、そして、15・陸の豊かさも守ろう(Life on land)のSDGs目標を掲げてはどうだろう。

   日本で採択された国際目標が達成できないとすれば、逆に2030年達成に向けて国際的なイニシャティブを発揮するチャンスではないだろうか。

⇒17日(木)午前・金沢の天気     くもり

★「家を愛する人のように、核兵器は手放さない」

★「家を愛する人のように、核兵器は手放さない」

   きょう16日午後の臨時国会で菅義偉氏が総理大臣に指名され、その後に内閣が発足する。日本のメディアはいつものように新しい内閣の顔ぶれをめぐって連日しのぎを削っていたが、アメリカのメディアは、「ウォーターゲート事件」を暴いたことで知られるジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の新刊『RAGE』(今月15日発売)をめぐってしのぎを削っていた。トランプ大統領に対し18回(昨年12月5日-今年7月21日)のインタビューを重ね、北朝鮮との非核化交渉をはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大の問題についての内幕を聞き出している。11月3日の大統領選を控えているだけに、メディア各社は発刊前にこの暴露本に注目したようだ。

    CNNはウッドワード氏から取材の音声テープの一部を入手し、今月10日付のCNNニュースWeb版日本語で報じている。ことし2月上旬のインタビューでは、トランプ氏は新型コロナウイルスは「非常に驚きだ」と語り、インフルエンザの5倍以上の致死性がある可能性を指摘していた。ところが、公の場でトランプ氏は当時、新型コロナウイルスは「いずれ消える」「全てうまくいく」と主張していた。この矛盾点について、ウッドワード氏が、トランプ氏が非常事態宣言を出した数日後の3月19日のインタビューで尋ねると、トランプ氏は「常に控えめに扱いたいと思っていた」「今でも控えめに扱いたいと思う。パニックを引き起こしたくないからだ」と答えた。

   9月10日のホワイトハウスでの記者会見で、ウッドワード氏へのインタビューについて、記者からもこの矛盾点を突かれ、トランプ氏は以下にように答えている。「 I want to show a level of confidence and I want a show strength as a leader」(ホワイトハウス公式ホームページ)。コロナ禍と向き合うために、国のリーダーとして災禍を克服する自信を見せたい、リーダーとしての実力を見せたいという思い当然だ。被害の大きさを隠そうとしたのは、「This is China’s fault. (中国の過ちだ)」と述べた。

   ウッドワード氏の古巣でもあるワシントン・ポスト紙は、トランプ氏がウッドワード氏に語った北朝鮮の金正恩党委員長についての人物評を紹介している=写真=。その中で面白い下りがある。「Trump told Woodward that he evaluates Kim and his nuclear arsenal like a real estate target: “It’s really like, you know, somebody that’s in love with a house and they just can’t sell it.”」(9月9日付・ワシントン・ポストWeb版)。意訳すると、金氏と核兵器の関係は家主と不動産の関係と似ていると評した。それは、家主が自分の家を気に入っていると売却したくてもできないのと同じだ、と説明した。

   トランプ氏と金氏は「完全な非核化」をめぐって、3度の首脳会談(2018年6月12日、2019年2月28日、同5月30日)を持ったが、トランプ氏は非核化を完全に反古された状態だ。トランプ氏はその経緯を分かりやすく説明しようと、ウッドワード氏に不動産取引での例えを述べたのだろう。核兵器に愛着がある金氏に核の放棄を説得するのは容易でない、と。いかにも不動産事業家でもあるトランプ氏らしい。 

⇒16日(水)朝・金沢の天気     くもり

★「菅1強」、メディアは何を問うのか

★「菅1強」、メディアは何を問うのか

   これを「矛盾」という。アメリカのシンクタンクが日本時間できのう9日夜に開催したオンライン形式の講演会で、河野防衛大臣は衆議院の解散・総選挙の時期について「10月中にはおそらく行われると思う」と述べたと報じられている(9月10日付・NHKニュースWeb版)。自民党の総裁選では政治的な空白が起きないように全国の党員票は割愛して、国会議員票と各県連の票のみで総裁を決めるとの党の方針が決まっている。ところが、総理が決まり、河野氏が言う通りに信任のための総選挙を10月に行うとすれば、総裁選で省かれた党員票を持つ人たちは「これは矛盾だ、詐欺だ」と声を出し始めるのではないだろうか。

   河野氏が指摘するように、信任投票は必要だろう。しかし、新型コロナウイルスの感染拡が治まらない中では、「時期を見計らって、総選挙を」と言えば理解されたはずだ。「10月」と限定したことで、党員どころか、有権者全体から不信感を持たれる。ましてや、解散権は総理の権限だ。現職閣僚の立場にある人物がこのような発言をすることで、政権のガバナンスが問われるのではないだろうか。

   自民党総裁選の告示を受けた共同通信の全国緊急電話世論調査(8、9日実施)が発表されている(9月9日付・共同通信Web版)。次期首相に「誰がふさわしいか」との問いでは、菅氏が50.2%でトップ、石破氏30.9%、岸田氏8.0%と続いた。前回の緊急世論調査(8月29、30日)では候補者は決まっていなかったが、石破氏が34.5%、菅氏14.3%、河野氏13.6%、小泉氏10.1%、岸田氏7.5%だった。この10日余りで石破氏と菅氏の順位が入れ替わり、菅氏は20ポイントの差をつけて、過半数を占めたことになる。調査は電話による聞き取りで固定電話525人、携帯電話530人だった。

   これも共同通信の調査だが、自民党総裁選で1人1票を持つ党所属国会議員394人のうち菅氏を支持する割合は8割。総裁選は県連の141票を合わせると計535票になるが、菅氏の得票は7割に達する勢い。2位争いは岸氏が国会議員票でリードし、石破氏が県連票で強みを見せる展開で両氏が競り合っている(9月9日付・共同通信Web版)。

   どうやら、「菅1強」の様相を呈している。前回のブログでも述べたが、メディアの記者にとって実務肌でスキを見せない菅氏は手強い。コロナ禍で落ち込んだ景気の回復、延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催など山積する課題を乗り切るには、この手強さが必要なのかもしれない。逆にメディアは「菅1強」に何をどのように問うのか、試されることになるだろう。

(※写真は2019年4月1日、記者会見で菅官房長官が墨書を掲げて新元号を公表する様子=総理官邸ホームページより)

⇒10日(木)朝・金沢の天気    くもり

☆「ポスト安倍」 世論調査は「石破」だが

☆「ポスト安倍」 世論調査は「石破」だが

          「こころざし半ばで去ることになった人への判官びいきかもしれません」。安倍総理の辞任表明について書かれた知人からのメールの一文だ。その前段に、「森加計桜があったり、アベノミクスで日本の経済は強くならなかったりはあっても、安倍さんてすごい人だったのかも・・・」と評している。おそらく国民は声には出さなくても、7年8ヵ月の「最長の総理」の実績はそれなりに心に留めているのではないだろうか。

   それを数字が物語っている。共同通信が実施した緊急世論調査(29、30日)で、内閣支持率が56.9%と前回調査(8月22、23日)より20.9ポイントも増えている(8月30日付・共同通信Web版)。1週間後に内閣支持率が20ポイント以上も伸びることは通常ではあり得ない。さらに、第2次安倍内閣以降の7年8ヵ月間について、ある程度を含め「評価する」が71.3%に上っている。「こころざし半ばで去ることになった人への判官びいき」なのだろうか。

   緊急世論調査では、次期首相に「誰がふさわしいか」と聞いている。ダントツで1位は石破茂氏(自民党元幹事長)で34.5%、2位は菅義偉氏(官房長官)14.3%、3位は河野太郎氏(防衛大臣)13.6%、以下、小泉進次郎氏(環境大臣)10.1%、岸田文雄氏(党政調会長)7.5%と続いている。石破氏のどこが総理としてふさわしいと世論は感じているのだろうか。

   一度だけ、石破氏にインタビューしたことがある。学生に地方創生を理解してもら教材ビデオを制作していた。タイミングよく、2016年2月7日、当時地方創生大臣だった石破氏が講演に金沢市を訪れた折に、インタビューに応じていただいた=写真=。

Q:地方創生にはどのような人材が必要なのですか
石破氏:昔から地域を変えるのは「よそ者、若者、ばか者」と言われ、外から新鮮な目で見ることが一つの要素なんです。若い感性とは、たとえばPCが使える、外国語が使えること。ばか者はこれまでの既成概念にとらわれない新しい考え方を持つこと。学生はそのすべてを持っている人が多いし、チャレンジ精神旺盛な方を求めたい。

Q:地域で活躍する若者に対して期待することは何ですか
石破氏:地方は東京と違い、行政との距離が近い。地域の特性を最大限に活かして金沢の大学が未来を作っていくのか。この国の未来は「学生」に創ってもらわないといけない、今はそんな時代です。明治維新など、歴史の変わり目に常に若者がいるというのはそういうことなんです。

Q:地域の大学に期待することは何ですか
石破氏:「象牙の塔」にならないこと。大学が持つ本来の真実を探求する心は忘れないでほしい。今は「地方が日本を変える時代」、その責任感や使命感、学生にはそんな感性を持って欲しい。

   10分足らずの単独インタビューだったが、石破氏は淡々と答えた。無駄のない、理路整然とし、そして奥が深い内容だった。冒頭での「よそ者、若者、ばか者」は意外な言葉だったが、印象的として残り、納得もした。世論調査で石破氏の評価が高いのは、その発する言葉ではないだろうか、「言葉は人柄を語る」である。

   しかし、「内閣総理大臣」となると別の側面も問われる。防衛問題でならす政治家だが、海外の安全保障のキーマンと意見交換や握手するといった防衛外交をする姿をメディアで見たことがない。たまたま見逃しているだけないかもしれないが、「外交の石破」の姿が見えないのだ。

   自民党執行部は総裁選挙を今月8日に告示したうえで、党員投票は省略し、14日に両院議員総会を開いて投開票を行う方向で調整している(9月1日付・NHKニュースWeb版)。 菅氏が有力とも報じられているが、世論調査1位の石破氏はどうか。

⇒1日(火)朝・金沢の天気      はれ          

★辞任表明、安倍総理のレガシーは何だ

★辞任表明、安倍総理のレガシーは何だ

   安倍総理の記者会見をきのう28日午後5時からのNHKテレビで視聴していた=写真=。8月上旬に持病の潰瘍性大腸炎の再発が確認され、安倍氏は「体力が万全でない中で政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない。総理の職を辞することにした」と述べ、辞任を表明した。拉致問題も憲法改正も北方領土もどれも道筋をつけられないままでの辞任表明。まさに断腸の思いだったに違いない。 

           会見ではいつも使っているプロンプターを今回使っていなかった。ということはコメントは会見直前まで練られていた。あるいは、予定していたコメントを直前になって大幅に書き換えた、のどちらかだろう。側近が辞任表明を知らなかったとのコメントを会見後に寄せているので、おそらく後者だろう。

   印象に残ったはコメントは拉致問題についてだった。安倍氏は2002年9月に当時の小泉総理が電撃的に北朝鮮を訪朝した際、官房副長官として同行している。「私がずっと取り組んできて、さまざまな可能性とアプローチで全力を尽くしてきた」「拉致問題はかつては日本しか主張していなかったが、国際的に認識され、トランプ大統領が金正恩委員長との会談でこの問題について言及した。習近平国家主席や、文在寅大統領も言及したが、今までになかったことだ」と述べた。

   しかし、この18年間の外交の成果は出ていない。「結果が出ていない中で、拉致被害者のご家族が一人、一人と亡くなられ、私にとっては痛恨の極みだ。何かほかに方法があるのではないかと常に思いながら、考えうるあらゆる手段を取ってきたことは申し上げたい」と無念の表情を浮かべた。

   会見では、記者が地方創生の取り組みへの自己評価について尋ねた。これに対し、安倍氏は「東京への人口集中のスピードを相当鈍らせることができた。地方にチャンスがあると思う若い人たちが出てきた」と。ただ、それは新型コロナウイルス感染拡大の影響でもあると認めた。「テレワークが進むと同時に、地方の魅力が見直されている。今回の感染症が、日本列島の姿や国土のあり方を根本的に変えていく可能性もあるだろう。ポストコロナの社会像を見据えて、こうした変化を生かしていきたい」と述べていた。

   また、記者からは「総理のレガシーは何だと思いますか」と問われた。この場合のレガシー(legacy)は後世に伝える業績と解釈する。安倍氏は「7年8ヵ月前に政権が発足した際に『東北の復興なくして日本の再生なし』と取り組んできた」「20年続いたデフレに3本の矢で挑み、400万人を超える雇用をつくり出すことができた」「助け合う日米同盟は強固なものとなり、アメリカ大統領の広島訪問が実現できた」と強調した。

   ただ、政治家の業績はそう簡単に評価されるものではない。政治はその後も変化し続けるからだ。安倍氏のレガシ-が後世の教科書に掲載されるとすれば、おそらく通算在職日数が、戦前の桂太郎(2886日)を上回り、憲政史上の「最長の総理」という評価ではないだろうか。政策としては、消費税を2回(2014年に8%、19年に10%)上げた「増税の総理」かもしれない。

⇒29日(土)朝・金沢の天気    はれ   

★黒人差別報道と事件のファクトチェック

★黒人差別報道と事件のファクトチェック

   テニスの大坂なおみ選手が、アメリカのウィスコンシン州で黒人の男性が警察官に背後から撃たれた事件(8月23日)に抗議して、27日に出場予定だった全米オープンの前哨戦であるツアー大会の準決勝のボイコットを表明したと報じられている(8月27日付・NHKニュースWeb版)。大坂選手は自身のツイッターで「私はアスリートになる前は黒人女性です」「黒人に起こった権利剥奪、全身性人種差別、その他の数えきれないほどの怪物は、私の胃を病気にさせます」とコメントしている。また、NBA=アメリカプロバスケットボールの八村塁選手も、一連の抗議デモの発端となったミネソタ州で黒人男性が白人の警察官に首を押さえつけられて死亡した事件(ことし5月25日)で抗議デモに参加している。黒人差別の抗議活動はスポーツ界に広がっている。

   抗議活動は日本のメディアでもよく紹介されるが、記事を読んでいて、警察官が黒人をどのような罪があって取り押さえ、それが死亡につながったのかという事実関係が伝わってこないのだ。ウィスコンシン州の事件では、黒人男性に「性的暴行と家庭内暴力の容疑で逮捕状が出ていた」(8月25日付・BBCニュースWeb版日本語)と書かれている。なぜ警察官が取り囲んで発砲したのか詳しい記述がない。ネットでの関連の動画を見る限りでは、警察官を振り切った男性が車ドアを開けて乗り込もうと身をかがめた男性を背後から撃っている。身をかがめた男性が車の座席に置いていたピストルを取ろうとしたので警察官が撃ったのではないだろうかと自身は憶測した。

   ミネソタ州で白人警官に逮捕される際に暴行を受けて死亡した事件も当初、警察官が男性を捕捉した理由が分からなった。6月10日に黒人男性の弟がアメリカ下院司法委員会の公聴会に出席し、20㌦の偽札を利用してたばこを買おうとして通報され、警察に取り押さえられたと証言(6月11日付・ ロイター通信Web版日本語)したことで、その理由が分かった。弟は「兄は誰も傷つけなかった。20㌦のために命を落とす必要はなかった。黒人の命は20㌦の価値しかないのだろうか。今は2020年だ。こうしたことはもう終わりにしてほしい」と訴えた(同)。が、その偽札は単独犯なのか、あるいは背後にマフィアなどの組織があるのか、踏み込んだ記事掲載を見たことがない。

   警察官が犯罪を取り締まる行為の一環として取り押さえるというのであれば問題ではない。ただ、黒人を取り締まる行為そのものが不当な差別的な行為だと読める論調が多い。メディアは黒人の抗議デモが起きたという事実を先行してニュースとしているからだ。これでは視聴者や読者は冷静な判断ができない。メディアが対立の構図をつくっているようなものだ。

⇒27日(木)夜・金沢の天気      くもり  

★アメリカ大統領選挙とSNSの確執

★アメリカ大統領選挙とSNSの確執

   SNSのすごさを感じたのは、ある意味でトランプ大統領だった。ツイッターによる攻撃、いわゆる「ツイ撃」で名をはせた。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、次期大統領がツイッターの140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。

   大統領就任から今でも昼夜を問わず発信し続けている。世界を驚かせたのは、2019年6月30日の米朝首脳会談だった。トランプ氏のツイッターがきっかけだった。G20サミットで大阪に滞在していたトランプ氏が6月29日付のツイッター=写真・上=で、「もし金正恩委員長がこれを見ているなら、非武装地帯(DMZ)で握手してあいさつする用意がある!」。翌日それが板門店で実現した。両氏がツイッターのユーザーだったから実現した外交と賞賛され、「世界最大のオフ会だ」などと国際的なニュースとして流れた。両者は会談ではなく面会との位置づけだ。

   このところ、SNSとトランプ氏の関係性が良くない。ことし8月6日にツイッター社はトランプ陣営のアカウント「@teamtrump」による投稿を一時的に禁止した。新型コロナウイルスに関連して、トランプ氏が「子どもはこの感染症に対してほぼ免疫がある」と発言したトランプ氏のFOXニュースのインタビュー映像が投稿され、同社は害を及ぼす恐れのあるウイルス関連の偽情報に相当するとして削除した。フェイスブックも同様な措置をした(8月7日付・BloombergニュースWeb版日本語)。

   それに以前の7月28日にもトランプ氏がリツイートした「新型コロナウイルスには治療法がある」と主張する映像投稿について、ツイッター社は内容に誤りがあるとして削除している(7月29日付・NHKニュースWeb版)。映像では、トランプ氏が自ら服用を公表したマラリアの治療薬について、服用を勧める内容があり、ツイッター社は「投稿に関する規約に反する」として削除した(同)。

   この背景には、トランプ氏とSNSとの確執がある。トランプ氏はSNS企業などを保護する法律を撤廃するか効力を弱める法律を導入すると表明し、ことし5月28日に大統領令に署名している(5月28日付・ロイター通信Web版日本語)。同26日にツイッター社がトランプ氏の郵便投票に関するツイートが誤解を招くとして、読者にファクトチェック(真偽確認)を促す警告マークを表示したことに対し、トランプ氏は言論の自由への弾圧として反発していた。

   アメリカのSNS企業は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNS企業は、基本的には違法な投稿を掲載したことの責任を問われない、その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制している。大統領署名は行われたものの、今のところ具体的な規制はない。単なる脅しの署名だったのか。 

   ツイッター社がトランプ氏のツイートをチェックして事実確認を求める立場に置かれている。ところが、トランプ氏にすれば、政治はディール(取引)の世界で、SNSはその一つの道具に過ぎない。11月の大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を激しく攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は​相手の落ち度を徹底的に責める、まさにデスマッチではある。

   このデスマッチ化する大統領選挙で、ツイッター社などのSNS企業のファクトチェック方針はどこまで通用するのか。熾烈な選挙風土の中では単なる「きれいごと」と有権者から無視されるのか。あるいはSNSがこうした選挙風土を変革するのか。SNS時代におけるアメリカ大統領選挙の見どころのポイントではある。

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