⇒メディア時評

★ツイッターに始まり、ツイッターに終わる

★ツイッターに始まり、ツイッターに終わる

         けさのNHKニュースで、アメリカの議会下院はトランプ大統領の罷免を求める弾劾訴追の決議案を賛成多数で可決したと伝えている。今月6日に暴徒化したトランプ氏支持者らが連邦議会議事堂に乱入した事件を巡って、トランプ氏の言動が騒乱を煽ったとして「反乱の扇動」にあたるとして、民主党が弾劾訴追の決議案を議会下院に提出していた。訴追後、議会上院で有罪か無罪かを判断する弾劾裁判が開かれるが、トランプ氏の大統領任期は今月20日までなので、裁判が開かれる場合は退任後になる可能性もある。このニュースで浮かんだ言葉が「ツイッターに始まり、ツイッターで終わる」だった。

   ツイッター社は今月8日、トランプ氏の個人アカウントを永久停止にしたと発表した=写真・上=。同社が問題にしたのはトランプ氏が同日投稿した2つの言葉だった。「“The 75,000,000 great American Patriots who voted for me, AMERICA FIRST, and MAKE AMERICA GREAT AGAIN・・・」「“To all of those who have asked, I will not be going to the Inauguration on January 20th.”」

   同社の発表文によると、再度の連邦議会議事堂への暴徒の乱入が予想され、緊張が続いていることから、「The 75,000,000 great American Patriots(7500万人の偉大なアメリカの愛国者)」という呼びかけは議事堂の占拠への支持を表明しているとも解釈され、また、20日のバイデン大統領の就任式へのトランプ氏の欠席は就任式での暴力行為を企てている者を後押ししかねない、と同社は解釈した。これらのツイートが 「Glorification of Violence」 ポリシーに違反していると判断し、永久停止を決めたとしている。

     ツイッターをはじめSNSを政治の舞台で活用したのは、トランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。その後、トランプ氏を見習って世界の政治家たちが使い始めた。

   印象に残るのは、2019年6月29日、大阪でのG20に参加したトランプ氏がツイッター=写真・下=だ。韓国訪問の際に南北軍事境界線の非武装地帯(DMZ)を訪れることを明らかにし、「While there, if Chairman Kim of North Korea sees this, I would meet him at the Border/DMZ just to shake his hand and say Hello(?)!」(意訳:北朝鮮のキム主席がこれを見たら、握手してあいさつするためだけでも南北軍事境界線DMZで彼と会うかも?!」とツートした。すると、翌日30日午後3時45分、DMZでの電撃的な第3回米朝首脳会談が実現した。ツイッターを外交にも利用するトランプ氏のスゴ技に世界は驚いた。

   アカウントが永久停止になった週明け11日のアメリカ株式市場でツイッター社の株が一時12%急落し、時価総額が50億㌦近くも吹き飛んだ。株価はその後は6%安で推移した。ツイッター上でトランプ氏のフォロワーは8800万人に上っていた。同社をはじめ今後SNSに対する規制が強まるのではないかという懸念も広がった(1月12日付・ロイター通信Web版日本語)。

   おそらく、トランプ氏が破天荒にツイッターを使わなければその存在価値も高まらなかっただろう。そして、存在価値が高まったがゆえに使用規制のポリシーをつくらざるを得なくなった。そのポリシーにトランプ氏は縛られてしまった。

⇒14日(木)午前・金沢の天気    あめ

☆ネットやSNSにルールの枠組みがじわりと

☆ネットやSNSにルールの枠組みがじわりと

   ネット広告の勢いはすさまじい。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、広告費は6兆9381億円で8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超え、テレビ広告費を上回りトップの座に躍り出た。テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少した。ことしはコロナ禍で、ネット広告費の拡大に拍車がかかるでのではないだろうか。一方で、いわゆる「誇大」や「虚偽」を思わせるネット広告も散見する。これに国が実態調査に動き出すというニュースがあった。

   共同通信Web版(12月20日付)によると、 「アフィリエイト」と呼ばれるネットの成果報酬型広告をめぐり、消費者庁が広告主や広告作成者、仲介会社を対象に大規模な実態調査に乗り出すことが同庁関係者への取材で分かった。広告作成は副業目的の個人400万-500万人が担い、市場規模は右肩上がりで3000億円と活況を呈している。一方で虚偽、誇大広告といった不正も多く、ネット広告のルールづくりや規制強化に活用する狙いのようだ。

   ネット広告をめぐるトラブル相談は国民生活センターのまとめによると、2019年で8万9千件と過去最多になった。ネット広告の構図はこうだ。広告主(販売店)がアフィリエイトの仲介会社(ASP)に依頼する。ASPはさらにアフィリエイター(広告作成者)に依頼する。アフィリエイターが作成した広告サイトやブログを見て消費者が商品を申し込むと、APSは広告主から中間マージンを得て、その中からアフィリエイターに報酬を支払う。

   問題はこのネット広告でトラブルが発生した場合だ。景品表示法では広告主が処分の対象になる。すると、広告主は「アフィリエイターが勝手に書いた」と言い逃れするケースが出てくる。さらに、消費者庁がASP側に是正を促しても、APS側は「アフィリエイターのメールアドレスしか知らない」と放置するケースもあるという(同)。

   消費者庁は野放しの状態から法的なルールづくりへと今後具体化していくだろう。また、総務省は、SNS上のひぼうや中傷による深刻な被害を防ぐため、投稿した人に関する情報開示を迅速に進められる新たな裁判手続きの創設を決めた。裁判所は被害者から申し立てを受ければ投稿者の情報を開示するかどうかを判断し、SNSの運営会社や接続業者に命令を出すことになる(12月21日付・NHKニュースWeb版)。ネットやSNSをめぐるルールの枠組みがじわりと絡まって来た。

⇒21日(月)夜・金沢の天気    くもり

★コロナ禍、大雪が「医療崩壊」に拍車

★コロナ禍、大雪が「医療崩壊」に拍車

   けさ大学からの一斉メールで、鳥インフルエンザウイルスに関する注意喚起の文書が届いた。この鳥インフルエンザウイルスは新型コロナウイルスと同時に日本で猛威をふるっている。鳥インフルエンザウイルスは、野鳥観察など通常の接し方では、ヒトに感染しないと考えられているが、どのような注意喚起なのか。

   「野鳥との接し方について」とPDF文書だ、「○ 死亡した野鳥など野生動物は、素手で触らないでください。また、同じ場所でたくさんの野鳥などが死亡していたら、お近くの都道府県や市町村役場にご連絡ください。」「○ 日常生活において野鳥など野生動物の排泄物等に触れた後には、手洗いとうがいをしていただければ、過度に心配する必要はありません。」「○ 野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください。」「○ 不必要に野鳥を追い立てたり、つかまえようとするのは避けてください。」

   金沢大学は中山間地、いわゆる里山に位置するため、バードウオッチィングなどには最適だ。双眼鏡を手にして山歩きをする学生たちの姿も見かける。そして、実際に山に入ってみると、鳥の死骸や排せつ物を見かけることがある。ただ、山道に落ちていると、知らぬ間にスニーカーで踏んづけているものだ。そう考えるとこの時季はうかつに山に入れない。そして、駐車場に車を停めておくと、鳥のフンがフロントガラスに落ちていることがある。これもガソリンスタンドで念のために洗車をした方がよさそうだ。あれこれ考えながら文書を読んだ。

   さらに鳥インフルエンザウイルスと同時に、シベリアから強烈な寒気団も近づいている。北陸地方はあす15日から16日ごろにかけて大雪となる恐れがあると予報が出ている。ここ数年、大雪になると気象予報士が使う言葉に「JPCZ」がある。日本海寒帯気団収束帯(Japan sea Polar air mass Convergence Zone)のこと。シベリアからの寒気団が北朝鮮の最高峰である白頭山(標高2744㍍)にぶつかって分断されるが、その南の下で再び寒気団がぶつかって収束することで、帯状の雪雲の列となって日本の本州へ流れ込んでくるそうだ。2017年12月17日に降った大雪では、金沢市内で積雪が30㌢に達した。

   今回も大雪となると、つい案じてしまうのが雪道での交通事故だ。12月中頃では、金沢でもスタッドレスタイヤなど雪道用タイヤの取り換えに間に合っていない乗用車やトラックが多い。ましてや、16日に雪マークがついている名古屋では危険だ。凍結路面などでスリップ事故が多発するのだ。新型コロナウイルス感染で病床数にそれほど余裕がないところにきて、さらに交通事故で重傷患者が運ばれてきたら大変だ。「医療崩壊」に拍車をかけることになるのではないか、とさえ思ってしまう。

(※写真は、2017年12月、自宅近くの市道でスリップ事故で電信柱に衝突した貨物トラック)

⇒14日(月)午前・金沢の天気    くもり時々あめ 

    

☆大麻をめぐる是非論

☆大麻をめぐる是非論

   「アヘン戦争」(1840-42年)は日本の歴史教科書にも出てくるので誰でも知っている。イギリスの貿易商たちがインドで得た麻薬のアヘンを中国で売りさばき、その金で中国で茶葉を買うという「三角貿易」で貿易商たちは莫大を利益を上げていた。そのアヘンの取り締まりを強化した中国に対してイギリスが武力報復をしたのがアヘン戦争だと理解している。

   以下は記者時代に警察の担当者から教わった知識だ。アヘンは麻薬の一種で、ケシの実からつくられる。大麻やマリファナはアサの花や茎、葉を乾燥させたもので、細かく切り刻んで燃やして発生した煙を吸引する。薬の作用もあり、医療薬として用いられるケースもある。大麻は麻薬ほど強くないのでタバコと同様に認めるべきだとの声もあるが、大麻を吸う人のほとんどは麻薬や覚醒剤へとはまっていく。

   上記の2つのことが知識としてあったので、新聞記事を読んでアメリカは大丈夫かと懸念している。以下は記事内容。大麻の合法化をめぐる住民投票で、ニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナのアメリカ各州では合法化が決まった。これで大麻を合法的に使えるアメリカ人は1億900万人に上り、総人口の3人に1人に相当する。合法化の結果、ニュージャージー州はアメリカで最大級の大麻市場になると予想される(12月5日付・日経新聞Web版)。

   同州は販売や税収などで年間1億2600万㌦(130億円)の収益を生み出せると計算している。歴史的には大麻合法化に反対してきた共和党支持者の多いサウスダコタとモンタナ州でも合法化が支持され、同党内での意識の変化が起きている。今後、大麻合法化がアメリカ国内で加速する可能性が高くなっている(同)。

   このアメリカの大麻をめぐる動きを見て笑っているのは中国ではないだろうか。「バイデンが大統領になれば、さらに加速するだろう。大麻は自由の象徴だと勘違いしているのが民主党だ」と。確かに、税収の確保のため大麻を合法化するというアメリカの動きも、日本人にとっても不可解だ。もし、アメリカでこの動きが全土に広まれば、日本の学生たちにアメリカへの留学を勧められなくなる。最近、アメリカから帰国後に自宅で大麻栽培をして使っていたというニュースも目につくようなってきた。

   無害というのであれば、堂々とカミングアウトして大麻解禁の運動を展開し、できれば選挙の争点としてほしい。日本でも、きっちりとした議論をするべき時が来ているのではないだろうか。自身は禁煙論者であり、タバコも吸わない。

⇒6日(日)夜・金沢の天気     はれ

★香港の民主活動「根絶やし」作戦か

★香港の民主活動「根絶やし」作戦か

    ついに「根絶やし」作戦に転じた。イギリスBBCWeb版(12月3日付)は「Hong Kong pro-democracy tycoon Jimmy Lai detained for fraud」(香港の民主化の大物、ジミー・ライが詐欺で拘束された)と大きく伝えている=写真=。日本のメディアも、香港の裁判所はきょう3日、中国批判で知られる「蘋果日報(アップル・デイリー)」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏に対する詐欺罪での初公判を開き、保釈申請を却下して収監を命じた。黎氏は即日収監された(12月3日付・読売新聞WEB版)。

   黎氏の勾留は、来年4月16日の第2回公判まで続くとみられる。黎氏はこし8月に香港国家安全維持法(国安法)違反と詐欺などの疑いで香港警察に逮捕された後、保釈されていた。今回は、逃亡や再犯の恐れを理由に保釈申請が認められず、収監された(同)。

   では、今回の詐欺罪はどのような内容なのか。蘋果日報を発行する「壱伝媒」の本社がある不動産の貸借契約に反し、黎氏が別会社に一部を提供して不正に利益を得たとして詐欺罪に問われている(同)。つまり、「また貸し」が詐欺として罪に問われたというのだ。香港の転貸に関する法律を理解してはいないが、日本ならば、無断転貸の場合、ビルのオーナーは賃貸借契約を解除することになるだろう(民法612条「賃借権の譲渡及び転貸の制限」)。民事をあえて刑事事件として問い、収監におよぶところに政治的なむき出しが見て取れる。

   新聞メディアを経営する黎氏は一貫して民主活動を支持している。香港政府とバックの中国政府は、黎氏の収監により、中国に批判的な報道の萎縮を狙ったのだろう。きのう2日には、民主活動家の周庭氏や黄之鋒氏らが無許可集会を扇動したなどとして実刑判決を受けたばかりで、香港当局による民主派への締め付けは強まる一方だ。

   BBCの解説(3日付)によると、ことし6月に施行された国安法では、裁判は陪審員なしで秘密裏に行われ、裁判は本土当局に引き継がれる。本土の治安要員は、免責されたまま香港で合法的に活動することができる。この法律が導入された後、多くの民主化運動グループが安全性を恐れて解散した。中国政府は、この法律は民主化運動で揺らいだ領土の安定を取り戻し、中国本土との整合性を高めるのに役立つと主張している。
 
⇒3日(木)夜・金沢の天気    あめ

★同時配信というローカル局のチャンス

★同時配信というローカル局のチャンス

           DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれているが、一番出遅れているのか民放ではないかと考えることがある。なぜなら、放送と通信(ネット)の同時配信がいまだに進んでいないからだ。そのネックの一つとなっていた著作権問題では道筋が見えてきたようだ。放送番組のインターネット同時配信の著作権問題について、文化庁著作権分科会のワーキングチームはきのう(11月30日)、ネット配信の著作権の処理については放送と同等に扱うべきとする報告書案をまとめた。          

   現状、著作権は放送と通信(ネット)では「平等」ではないという現実がある。たとえば、テレビ局が番組に曲を使う場合、実演家(演奏者・歌手・俳優)やレコード会社に事後報告でよいが、ネットでの使用の場合は事前許諾が必要となる。ただし、作詞家や作曲家には双方とも事前許諾が必要だ。このため、NHKは民放に先行してことし4月から1日18時間の同時配信の運用を始めているが、番組をネットに同時送信するため、わざわざ事前許諾を求めている。その権利処理が行えない場合には曲をカットしたり、差し替えをする、業界用語で「ふたかぶせ」の対応を迫られている。

   事前の著作権許諾の作業だけでもスタッフの配置が必要なためにコストもかさむことは想像に難くない。さらに、出演料なども地上波のみから、ネット配信もということになれば、値上げが必然となるだろう。NHKの2020年度インターネット活用業務実施計画(1月15日付)によると、今年度から同時配信を進めるために設備費や放送権料などにかかわる費用として54億円を計上している。

   仮に著作権問題がある程度軽減されたとして、民放の同時配信が進むかと問えば、さらに、別の大きな問題もある。一つはCMだ。テレビ離れが進んでいるといわれる若者たちがスマホやタブレットでテレビを視聴できる環境をつくったとして、局側がスポンサーにCM料を地上波に上乗せして払ってくれと言えるだろうか。地上波でのCM料は視聴率という目安があるが、同時配信でのネット上のCM料の目安はいまだ確立されてはいない。スマホやタブレット上の競争相手はテレビ局ではない、動画コンテンツは無限にある。

   もう一つは県域問題だ。ローカル局には放送法で「県域」というものがあり、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のこと。逆に言うと、スマホやタブレットで東京キー局の番組を視聴できれば、同じ系列局のローカル局の番組は視聴されなくなるかもしれない。

   このように書くと、民放、とくにロ-カル局には夢も希望もないような表現になる。が、個人的には同時配信に踏み切ることでローカル局にはチャンスが生まれると言いたい。ここからは持論だ。ローカル局が自社制作番組をネット配信をすることで、首都圏や遠方の他県に住む出身者など新たな視聴者層を開拓できるのではないだろうか。「ふるさと」をアピールできる。出身者でなくても、金沢・能登・加賀ファンをつかむことができる。

   できれば、金沢からリアルな情報を発信する動画配信サービスのサイトを石川県内の民放4局が共同出資でつくってほしい。それも、日本語と英語で構築できないだろうか。能登、金沢、加賀の県内各地のケーブルテレビ局も巻き込んで、「KANAZAWAチャンネル」をつくり、観光・ツーリズムを発信する。これまでの規制にとらわれない、新たなパラダイムがテレビ局に求められているのではないだろうか。今回の著作権の緩和はそのスタートだと解釈している。

⇒1日(火)夜・金沢の天気    はれ時々くもり

☆勇気ある発言

☆勇気ある発言

           これは実に勇気のある発言だと感じ入った。ロイター通信Web版日本語(11月27日付)によると、WHOで緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏が、新型コロナウイルスの起源が中国「外」とする主張について、かなりの憶測だという見方を示した。 中国は国営メディアを使って「コロナの起源が中国」との見方を否定する情報の拡散を続けている。

   さっそくWHO公式ホームページをチェックすると、27日の記者会見の動画が掲載されている。30分過ぎごろからのオンラインによる記者の質問で、「中国は、ウイルスは去年暮れに武漢の海鮮市場で確認されたが、それ以前に海外に存在していたと主張しているが、WHOの見解を述べてほしい」(意訳)と。これに対し、ライアン氏は「コロナウイルスが中国で発生しなかったとの主張はかなりの憶測で、公衆衛生の観点から、ヒトの感染が確認された場所から調査を始めるべきことは明白だ」(意訳)と述べ、WHOとしてウイルスの起源を調べるため、専門家らを武漢の食品市場に派遣する方針だと述べた。

   パンデミック以降、WHOの記者会見をたまにチェックしているが、ライアン氏は3月18日の会見では、アメリカのトランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んでいることについて、「ウイルスを特定の国に関連させないよう言葉遣いに注意することが重要だ」と批判した。当時は中国寄りの発言との印象だったが、今になって考えれば、実に的を得た回答ではある。科学的な論拠を経ずに、政治が外交プロパガンダとしてウイルスを使うことに違和感を隠さない、そのような人柄を感じる。

   ただ、余計な心配かもしれないが、かなり「外圧」が今後、ライアン氏にかかるのではないだろうか。中国からだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス事務局長は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べていた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。このため、台湾のオブザーバー参加は認められなかった。台湾の参加はアメリカや日本などが支持した一方で、中国は強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。テドロス氏を通じた、中国からのライアン氏への圧力は心配ないのか。

⇒30日(月)午後・金沢の天気   はれ時々くもり 

★NHKの「在るべき方向」とは

★NHKの「在るべき方向」とは

   このブログでも何度かNHKの受信料をテーマに取り上げてきた。先月10月16日、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュース(10月17日付・共同通信Web版)があった。受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるというのだ。

   今月20日、総務省は11月20日、NHKが求めていたテレビ設置届け出の義務化は「不適当」として見送る方針を示した(11月20日付・日経新聞Web版)。NHKは特殊法人として受信料に支えられ、法人税は免除されている。この環境で、さらにテレビ設置届け出の義務化では視聴者・国民の反発を招くと判断したようだ。このいきさつについて詳しく知りたいと思いネットで検索したところ、関西テレビ公式ホームページ「東京駐在 キーパーソンに訊く!」で、高市早苗・前総務大臣へのインタビュー記事が参考になった。以下記事を引用する。

   NHKの2019年度決算の営業経費(徴収経費)は759億円だった。同年度の受信料収入は7115億円なので、営業経費が10.6%を占めたことになる。徴収コストが高い。それは強制徴収の制度も罰則もないので、「NHKの苦労」はある意味で同情する。ちなみに、フランス、ドイツ、韓国では受信料は強制徴収で、支払わない場合は罰金や追徴金が課される。イギリスは強制徴収制度はないが、罰則規定はある。

    NHKの営業経費の中で「訪問要員による係わる経費」が305億円。訪問要員は、未契約者や入居者の入れ替わりを把握するための「点検」、「面接」、「(テレビの)設置把握」、「説明・説得」という手順を踏んで、「契約取次」にいたる。が、未契約者からは「急に訪ねてきたNHKの訪問員が、テレビの有無を確認すると言って無理やり部屋に上がりこんで・・・」といった苦情が寄せられることになる。こうしたクレームやトラブルを解消するために、NHKは公共料金や税金との共同徴収を可能にする「放送法」の改正を望んでいる。

   しかし、地上波のみの地上契約で年額1万4700円、地上波を含む衛星契約で年額2万6040円の受信料。衛星アンテナが設置された集合住宅に入居すると、衛星放送をまったくに視聴しないのに年額2万6040円の受信料負担は納得できないと感じている視聴者も多い。ましてや、(上記の)放送法の改正をするのであれば、受信料を相当安い水準にしなければ視聴者の支持と信頼感は得られない。また、コスト的に、地上波2波、ラジオ3波、衛星4波は「放送波の肥大化」との批判もある。受信料の引き下げは放送波のコストカットと連動して行うべきだ。さらに、2019年度の「繰越余剰金」、つまり内部留保は1280億円もある。繰越余剰金を受信料に還元する会計上の仕組みが必要であるが、これは実現性が高い。

   インターネットと地上波の同時配信で問題もある。テレビは持っていないが、ネットでNHKを視聴したいというニーズに対応できていない。放送法の受信料制度は「テレビ受信機の設置」が基準になっている。放送法の抜本的な見直しも必要となるだろう。

   最後に高市氏が述べていること。「そもそも企業スポンサーが不要なのですから、民放と競って視聴率狙いの番組制作をする必要はない」「『伝えるべき方向』に向けて進んでいただきたい」と。同感である。

⇒29日(日)夜・金沢の天気     はれ

☆この株高、「ワクチンバブル」なのか

☆この株高、「ワクチンバブル」なのか

   東京株式の日経平均はきのう27日も107円上げ2万6644円で終えた。メディア各社は、1991年4月以来およそ29年半ぶりの高値を連日で更新したと報じている。株高は日本だけではない。ニューヨークのダウも今月24日に初めて3万㌦の大台に乗せている。

   振り返ってみると、新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的な景気後退の懸念や、ロシアとサウジアラビアの対立による原油価格の暴落なども絡まり、全体が「弱気相場」に入っていた。とくに3月に入り、ニューヨークの株価指数「S&P500」の下落率が7%を超えると自動的に売買を停止する「サーキットブレーカー=Circuit Breaker」が何度か作動し、3月23日にはダウが1万8591㌦にまで落ちていた。東京株式も3月19日に1万6500円まで下がり、ことしの最安値だった。

   今でもコロナ禍は世界、とくにアメリカでの猛威は止まない。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナダッシュボード(日本時間28日午前9時現在)によると、アメリカの感染者総数は1307万人、死亡者は26万人と断トツに多い。そして日本でもきのう27日は全国で2531人の新規感染者が発表され、2日連続で2500人超だ。にもかかわらず、年末が近づくにつれて株価が上がり、日経平均もダウも株価は絶好調だ。この現象はいったい何んなのか、そのファクターは何か。

   マーケット関係の記事を読むと、アメリカではコロナ対策で政府や連邦準備理事会(FRB)がつぎ込んだマネーが膨張して株式市場に流れ込んでいるのではないかという論が散見される。ただ、3月の安値からの上昇率は6割以上に達する。マネーの流入にしては、最近の株価の加速性を見ると時期的にアンバランスのように思える。アメリカ大統領選があった11月3日以降が上昇のテンポが速いので、バイデン効果かとも推測する。

   むしろ、ワクチン開発がアメリカの期待度を高めているのかもしれない。アメリカの株価が持ち直してきたのは、ワクチン開発を国家プロジェクトで進める「ワープ・スピード計画」が8月以降で臨床試験が本格化したタイミングだった。それが11月に入り早期実現のメドが立ってきた。「トランプ大統領は、新型コロナウイルスのワクチンの供給が来週とその翌週に開始する見通しだと述べた」「感謝祭の祝日に合わせて行われた海外駐留米軍兵士とのテレビ会議で語った。当初はコロナ対応の最前線に立つ人たちや医療従事者、高齢者に供給されると述べた」(11月27日付・ロイター通信Web版日本語)。

   ワクチンに関しては、アメリカの製薬会社は90%以上の有効性が確認されたとして、すでに緊急使用許可を政府に申請している。アメリカで12月からワクチン投与が始まれば、コロナ禍が社会や経済に及ぼしている影響が大幅に緩和されるとの期待が高まるだろう。ただ、ワクチン頼みだと、その効果の持続性や副作用などのマイナス面が出ると反動も大きく、経済パニックが再来し、ワクチンバブルも一瞬にして弾ける。アメリカのワクチン効果が国際社会に及ぼす影響を観察していきたい。

⇒28日(土)午前・金沢の天気     あめ

☆「三島由紀夫」から50年

☆「三島由紀夫」から50年

   高校時代に三島由紀夫の小説をむさぼり読んだ。作品のいくつかには思い出もある。『美しい星』(1962年刊)のストーリーで、自らを金星人と思い込んでいる女性が、金沢に住む金星人の青年に会いに行き、内灘海岸で「空飛ぶ円盤」を見る下りがある。内灘海岸へは金沢から電車で行けるので、小説を読んだ後、夏休みの夜に内灘海岸へ行った。UFOは見ることができなかったが、星空の輝きに圧倒されたことを今でも思い出す。

   『金閣寺』(1956年刊)。鎌倉幕府が崩壊して、室町時代、そして応仁の乱(1467-77)で京の都が荒廃する。無を標榜する禅宗が隆盛し、臨済宗の僧でもあった足利義満が金閣寺を造営する。3階建ての1階は公家の寝殿造風、2階は武家の書院造風、そして3階は仏殿風で、仏教で世を治めたいとの想いが込められている。それを金閣寺の美と思い込んだ学僧が、放火するまでの経緯を一人称の告白で綴ってゆく物語だ。

   大学浪人のときは京都の予備校に通った。浪人の仲間から「金閣寺を見に行こう」と誘われたが、受験も近く精神的に少々プレッシャーもあったので同行を断った。大学に合格して初めて仲間たちと見学に行った。美しいというより、歓喜で胸がこみ上げてきて涙が出たのを覚えている。

   『潮騒』(1954年刊)は漁師と海女の純愛物語で、高校時代に初めて手にした三島作品だった。その後、東京で過ごした学生時代に映画も観た。山口百恵と三浦友和が主演だった。大学を卒業後に金沢にUターンし、地元の新聞社に入った。そして、『潮騒』が再び蘇ってくることになる。

   輪島支局に転勤となり、舳倉(へぐら)島の海女を取材しルポルタージューで連載(分担執筆)することになった。舳倉の海女は映画のような白衣ではなく、黒のウエットスーツを着用していた。素潜りは映画と同じで、海女たちの息遣い、磯笛(いそぶえ)が聞こえた。舳倉の海女は重りを身に付け深く潜るので自力で浮上できない。そこで、海女は命綱を身に付けて潜り、船上にいる夫に引き上げてもらう。夫は命綱を手にしていて、クイクイと海女から引きの合図があると懸命に綱をたくし上げる。こうして夫婦が協働してアワビ漁をすることを舳倉では「夫婦船(めおとぶね)」と呼んでいた。信頼できる夫婦関係だからできる漁なのだ。当時この光景はまるで『潮騒』の続編を見ているようだと想像をたくましくしたものだ。ルポは後に『能登 舳倉の海びと』(北國新聞社)のタイトルで発刊された。

   1970年(昭和45)11月25日、三島は陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地のバルコニーで自衛隊の決起を促す演説をし、割腹自決を遂げる。三島作品にのめり込んだ高校時代、自らの心に衝撃が走った晩秋だった。あれから50年だ。

⇒21日(土)夜・金沢の天気     はれ