⇒メディア時評

★「受け狙い」言葉遊びのワナ

★「受け狙い」言葉遊びのワナ

   今度の差別問題は責任は明らかだ。きょう12日、日本テレビの朝の情報バラエティー番組『スッキリ』でアイヌ民族を傷つける不適切な表現があった。問題の発言は、動画配信サービス「Hulu」の番組を紹介するコーナーで、アイヌ女性のドキュメンタリー「Future is MINE ―アイヌ、私の声―」を紹介した後、お笑い芸人の脳みそ夫が「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」と謎かけをした。番組の放送後、SNS上などで批判が挙がった。局側は取材に「当該コーナーの担当者にこの表現が差別に当たるという認識が不足しており、放送前の確認も不十分でした。その結果、正しい判断ができないまま、アイヌ民族の方々を傷つける不適切な表現で放送してしまいました」と説明した(3月12日付・朝日新聞Web版)。

   記事を読んで、ネット上にどのような批判が挙がっているのか検索すると、手厳しいコメントが。「ん?なんかさり気なくアイヌをぶっ込んできたが、『ア、犬』って、バカにしとるやないか!」「スッキリのアイヌのギャグのやつ昔実際にあった差別用語だよね。あれはないわ」「スッキリのhuluのアイヌの謎かけは本当に良くない! 差別用語で使われてた言葉だからしっかり調べてからそういうことをいって欲しい」

   ネットで番組の動画を視聴すると、脳みそ夫がリスのぬいぐるみを着て、「あ、犬」のテロップも入っていて、ていねいに犬のイラストまである。生番組だが、お笑い芸人の即興ではなく、事前に作成されたVTRを流したもの、ということになる。つまり、テレビ局の制作スタッフが構成した演出と断定してよい。番組の流れを見ていても、差別的な意図は感じない。が、ネット上で批判が起きているように、かつて差別用語で使われていた言葉であることを認識していなかったという制作ディレクターの見識が問われる。テレビ局によくある、受け狙い先行型のミステイクとも言えるかもしれない。

   森喜朗元総理のJOC臨時評議員会(2021年2月3日)での発言、「女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」。この発言が女性蔑視とレッテルを貼られて、辞任することになった。

   予め考えておいたエピソードを連ねて場の雰囲気を盛り上げ、会場の笑いを取れても話の内容がずさんになることはままある。受け狙いの言葉遊びのワナに自らはまることは、自身も何度も経験している。

(※写真は、日本テレビ公式ホームページより)

⇒12日(金)夜・金沢の天気      あめ

☆「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」

☆「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」

   庭のウメが咲き始めたので、床の間に生けてみた。ウメの花は二輪、白ツバキはつぼみ=写真=。紅白の花のコントラストが祝い事をイメージさせて心がなごむ。

   ウメの枝を切っていて、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざを思い出した。サクラは枝の切り口から幹に腐朽菌が入り、空洞が出来たりするので、枝の剪定は難しいとされる。ウメは枝からさらに徒長枝(とちょうし)と呼ばれる枝が数多く伸びて枝が込み合う。念入りに剪定しないと花が咲きにくくなる。サクラ、ウメともに同じバラ科サクラ属の落葉樹ではあるが、これだけ性質が異なる。そう考えると、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」は樹木の剪定作法を象徴する言葉であり、物事は違いを把握して対応せよという管理マネジメントの教えのようにも解釈できる。

   このところのニュースを見ていて、「接待する馬鹿、しない馬鹿」という言葉を思いついた。放送事業会社「東北新社」の菅総理の長男を含む幹部らが総務省のキャリア官僚に対して度重なる接待をしていた問題。NTTによる接待問題も浮上している。総務省は「放送行政」の元締め、つまり、電波の割り当てをベースとした放送事業の許認可行政の本丸なのだ。

   1957年(昭和32年)のことだ。その本丸(当時郵政省)に最初に近づいたのは新聞社だった。第一次岸改造内閣で郵政大臣に就任した田中角栄は「1県1波」のいわゆる「県域放送」を進めた。キー局の系列局を1県に1波を割り当てるという指針だ。それに乗ってきたのが現在の大手新聞社で、キー局 –ネット局体制の原型を完成させる。たとえば、読売新聞-日本テレビー系列30局、朝日新聞-テレビ朝日-系列26局という巨大なメディアネットワークだ。

   その電波割り当てに関して、大役を担ったのが、当時「波とり記者」と称された郵政省担当の新聞記者だった。新聞社が各県に系列のテレビ局をふやすため、放送免許取得の働きかけを担った。自身は1991年にテレビ朝日系のローカル局に入社した。本放送を半年後に控え、朝日新聞の「波とり記者」は新会社の経営陣・スタッフに放送行政についてレクチャーしてくれたのを覚えている。「相手が大臣であっても役人であっても、対等に話すことで相手はむしろ信頼してくれる」と語っていた。そして、よく飲んだことも話してくれて印象に残っている。

   「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」ということわざがある。自ら血まみれになる覚悟で本丸に入り、そこで信頼を築いて情報を仕入れ、そして交渉をまとめる。その延長戦上には接待もありだろう。それが交渉術というものだ。「波とり記者」が話してくれた「対等に話すことで相手はむしろ信頼してくれる」はまさに虎穴に入る覚悟だと思っている。もちろん、接待ありきではない。まして、贈賄は対等性を否定することにもなり、論外だ。

⇒4日(木)夜・金沢の天気    くもり

★コロナ騒動と「能登ジン」

★コロナ騒動と「能登ジン」

   能登半島の尖端に金沢大学が設けている能登学舎。ここで実施する社会人の人材育成事業「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」についてはこのブログでも何度か取り上げている。月2回の割合で土曜日に実施し、座学や演習・実習、そして卒業課題研究などに取り組む10ヵ月のプログラムだ。卒業課題研究では自然環境問題や地域課題、起業やSDGsの取り組みなど、これまでイメージでしかなかった自分の思いを調査や実施計画の策定などを通じてストーリーとして描く。

   その卒業課題研究の発表会がきょう27日あった。2020年度の受講生は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり人数は10人に減った。そして、これまで能登学舎での講義だったが、オンラインが中心となった。その分、教員は個別指導にもチカラを入れた。そして迎えたきょうの発表会は受講生が一堂に会する晴れの舞台、の予定だったが、急きょオンランに切り替わった。というのも、前日26日になって、「コロナ騒動」が持ち上がったからだ。

   別の研究プロジェクトのために能登学舎に来ていた学生が発熱と倦怠感を訴え、病院に運ばれた。26日午前のことだった。正午の段階で検査結果は出ていなかったが、万一に備えて、午後1時30分にはオンラインでの発表会に切り替え、全員に連絡した。というのも、受講生の中には能登地区だけでなく、県外の在住者もいるので、前泊のため午後には能登にやって来る。早めに連絡する必要があった。別日での開催、あるいは別の場所でとの案もあったが、「オンラインが無難」となった。結局、この学生のPCR検査の結果も陰性ということでひと安心。何より、スピード感を持って慎重に対処することがコロナ禍で求められることだと実感した。

   きょう午前9時30分からオンラインでの発表会。自身も審査員として参加した。発表者の一人で、東京のIT企業に勤める受講生は能登に移住し、5年後をめどに能登でジンの蒸留所の設置を目指す計画を淡々と述べた=写真=。能登の塩にユズの皮、クロモジなど、地元の素材を使った洋酒「能登ジン」を造る。この研究のため、去年9月にはEU離脱にともない蒸留酒製造が規制緩和されたイギリスの蒸留所の現場を訪れ、製造工程やコスト算出のノウハウなど学び、能登の植物素材で試作品を造ってもらった。その試作のジンが能登学舎に届けられていた。ユズの甘い香りは能登の自然豊かな里山をイメージさせる。「能登に新たな文化を持ち込む可能性」を感じた。

   受講生が夢の実現に向けて行動するとなれば、マイスタープログラムとは別途設けている金融機関と連携するセミナー「創業塾」で融資に至る手続きなど実務面を学ぶこともできる。

   3月20日には能登学舎で2020年度修了式も開催される予定だ。受講生がオンラインを超えて、初めて一堂に会する「晴れの舞台」となる。

⇒27日(土)夜・金沢の天気     はれ

☆メディアに相互監視の機能はあるのか

☆メディアに相互監視の機能はあるのか

   記者がなぜこのような行為にいたったのかその背景を知りたい。共同通信社は12日、取材で得た録音データを外部に漏えいしたなどとして、大阪支社の記者を出勤停止7日間、本社社会部の記者を減給の懲戒処分にしたと発表した。1月20日に厚生労働省が開いた大麻などの薬物対策の検討会を、社会部の記者が制限に反して録音。大阪支社の記者の依頼に応じてデータを送った。この記者は外部の6人に音声データを提供するとともに、自身のツイッターに検討会の内容などを投稿した。投稿を見た厚労省が同社に抗議した(2月12日付・時事通信Web版)。
  
   取材で知り得た情報を報道目的以外で流出させるのは記者としての倫理を逸脱する行為である。「取材の自由」は、取材源を秘密にできるという記者の権利だ。今回は、そうした記者の権利とは真逆の行為だ。相手が役所とは言え、規制されていた音声録音をし、さらにその音声データを外部の6人に提供した。

   さらに、問題となるのは、外部の6人とはどのような人物だったのか。録音したのは、厚労省による大麻などの薬物対策の検討会だったので、大麻などの薬物に関わっている、あるいは関心がある人物なのだろうか。そのような人物に厚労省内部の情報を提供したのであれば、記者の倫理逸脱どころか、機密漏洩の犯罪ではないのだろうか。他のメディアは共同通信の記者がどのような人物たちに情報を漏洩したのか報じていない。メディアを監視する権力システムは日本にはない。あってはならない。メディアは相互監視であるべきだ。そうした相互監視は果たして機能しているのだろうか。この一件から疑問に感じる。

   メディアへの疑問はさらにある。新聞や放送、雑誌な220社余りが加盟するマスコミ倫理懇談会の全国大会が2007年9月に福井市で開催され、最高裁の平木正洋総括参事官は「容疑者は犯人だ」という予断を裁判員に与える報道をしないよう配慮をメディアに対して求めた。「一個人の私見」として、捜査段階での報道について6項目を具体的に問題点として挙げた。1)容疑者の自白の有無や内容、たとえば「・・と犯行をほのめかす」という記事表現、2)容疑者の生い立ちや対人関係、3)容疑者の弁解が不自然・不合理という指摘、4)DNA鑑定など容疑者の犯人性を示す証拠、5)容疑者の前科・前歴、6)事件に関する識者のコメント。

   総括参事官が指摘した報道の姿勢はその後、変化しただろうか。確かに、別件逮捕を明確に区別したり、「無罪推定」の原則を尊重したり、「起訴事実」を「起訴内容」としたりなどこれまでの報道とは違う点もいくつかある。ただ変わらないのは、犯人とおぼしき人物を追い込む姿勢は従来通りだ。

⇒15日(月)夜・金沢の天気     ゆき

☆パンデミック、森発言 カギ握るNBCの論調は

☆パンデミック、森発言 カギ握るNBCの論調は

   前回のブログで「五輪も万博も『オワコン』か」と書いた。ブログを読んでくれた知人からメールで、「あとはアメリカのNBCが最終判断すれば、終わりじゃないのか」と。「日本のゴタゴタに世界はすでに見限っている」とも。確かにそうだ。 NBCはアメリカの3大ネットワークの一つだ。そして、1988年のソウル大会以降は全米のオリンピックの放送権を独占している。

   アメリカの放送権を独占しているだけなのに、なぜNBCの最終判断が注目されるか。IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%とされる。実際にNBCはどれだけIOCに払っているのか。韓国・平昌冬季大会(2018年)と東京大会の合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦で、全放送権料の50%以上を占めるとされる。ちなみに、開催国の日本はNHKと民放がコンソ-シアムを組んで5億9400万㌦だ。アメリカと日本では人口の違いがあるので1人当たりで計算すると、アメリカの人口を3億2800万人として1人当たり6.7㌦、1億2600万人の日本は1人当たり4.7㌦なので、NBCのチカラの入れようが分かる。

   知人からのメールで、NBCの論調が気になって公式ホームページをチェックしてみた。NBCニュースWeb版(12日付)はオリンピック組織委員会の森喜朗会長の辞任表明を伝えている。「Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori resigns after sexist remarks」の見出し=写真=。記事内容は、新型コロナウイルスによるパンデミック、安倍総理の病気による退任、そして森氏の女性蔑視と取れる発言が続いて東京では混乱が続いている。森氏の退任で、IOCのバッハ会長は「東京オリンピックを安全かつ確実に開催するため、森氏の後継者と手を携えて活動を続けていく」と述べたと伝えている。

   記事の後に、イギリスのスポーツ史の研究者のコメントを紹介している。「“The biggest thing that people will always talk about is how they have dealt with the pandemic,” 」(人々が常に話題にする最大のことは、パンデミックにどのように対処してきたかということだ)と。最後に「“That will be what people will remember these games for.”」(人々がこのゲームを覚えているのは)と締めくくっている。NBCの論調は、森氏の発言よりむしろパンデミックといかに対応するかが今回のオリンピック、そしてスポーツの歴史で問われることなのだ、と強調している。

   以下は憶測だが、アメリカやEUの主要国のいずれかで選手派遣をやめると決断すれば、NBCは放送の中止を決断するのではないだろうか。先のリオ大会(2016年)でアメリカは46個の金メダルを獲得したが、競泳16個、陸上13個、体操4個と花形競技の3種で7割を占める。もし、水泳の選手たちが「五輪の精神に反する、女性差別の国には行けない」と言い出したら、おそらくスポンサーも降りて放送は中止せざるを得ないだろう。放映権料の大スポンサーが降りたら、それでもIOCはオリンピックは続行できるだろうか。

   4月になれば、東京ビックサイトに設営されたIBC(国際放送センター)にIOCから放送権を得たRHBs(Rights Holding Broadcasters)と呼ばれる放送メディアが続々と準備のために東京にやって来る予定だ。本来ならば、その第一陣はNBCなのだが。果たして。

⇒13日(土)午後・金沢の天気     はれ

★五輪も万博も「オワコン」か

★五輪も万博も「オワコン」か

   けさの新聞やテレビのニュースで、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、女性蔑視と取れる発言の責任を取って辞任する意向を固め、後任をJリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏が引き受ける意向を示したと報じている=写真=。ニュースの流れを見ていて、なぜか後味の悪さを感じる。森氏の辞し方ではなく、メディアの論調、そしてオリンピックの開催そのものについてだ。

   森氏の発言をめぐって、メディア各社は最初から辞するべきという流れだった。これでよかったのか。新型コロナウイルスの感染拡大で、オリンピック開催そのものが危ぶまれているタイミングであることを多くの国民が理解している。このタイミングで森氏が辞することのダメージやデメリットを検証する報道はあっただろうか。この時期に辞めたら大変ことが起きるのではと心の中で案じている国民も多いのではないだろうか。森氏の発言を許すと言っているのではない、このタイミングでの「辞めるべき」一辺倒の論調に躊躇する。

   イギリスのBBCは「Tokyo 2020: Games chief’s remarks about women ‘absolutely inappropriate’, says IOC」(2月10日付Web版)の見出しで、日本の首相とIOCが森氏の発言を非難するまで5日かかったが、これは双方にとって非常に恥ずかしく、ダメージの大きいエピソードとなった」と報じている。その一方で、「But others will worry that a change in leadership this close to the Games could make the job of organising them even harder.」(意訳:しかし、オリンピックに近い時期に指導者が交代すれば、大会を組織することがさらに難しくなるのではないかと心配する人もいるだろう)と、このタイミングでの辞任はいかがなものかと問うている。

   果たして、川淵氏にバトンタッチして、すっきりした気分で、オリンピック開催は可能なのだろうか。そもそも論にもなるが、国民はオリンピックの開催を心から歓迎しているだろうか。1964年の東京オリンピックは高度経済成長の真っただ中での開催だったので、国民のモチベーションも上がった。人口減少が続き、膨れ上がる赤字国債を誰が返済するのかという議論が出ているのに、さらに1兆6440億円の開催経費をかけてまでオリンピックを実施する意義はどこにあるのか。直近の世論調査でも、コロナ禍でオリンピックをどのようなカタチで開催すべきかとの問いで、「中止する」が38%で最も多く、「観客の数を制限」29%、「無観客」23%と続く(2月8日付・NHKニュースWeb版)。

   2025年開催の大阪・関西万博にしてもしかり。インターネットで情報が飛び交う時代に、万博で何か得るものがあるのだろうか。こうしたイベントで経済効果を期待すること自体、時代に合わなくなった「オワコン」(終わったコンテンツ)ではないだろうか。オリンピックにしても、万博にしても、「夢よ再び」の時代ではない。

⇒12日(金)朝・金沢の天気     はれ

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

   まるで不祥事のデパ-ト、そんな印象を抱いた。このブログでも何度か事例を引用しているBPO(放送倫理・番組向上機構)の公式ホーページをチェックすると、フジテレビの案件が目白押しになっている=写真=。BPOは、放送の言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を守るため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応するNHKと民放による独自の組織だ。

   BPOがトップで掲載している項目は、フジテレビが実施した世論調査で架空の回答が入力され、報道番組で伝えていた問題が結審したとの内容だ。フジは2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた。調査を委託した会社が再委託した、いわゆる「孫請け」の会社だった。問題の発覚を受け、同局は架空の調査をもとに報じたニュース(18回分)を取り消した。この問題を審議してきた放送倫理検証委員会はきのう10日に結審した。

   意見書によると、NHKと民放が定めた放送倫理基本綱領などに照らし合わせ、「世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない」として、この件は重大な放送倫理違反に当たると判断した。SNSを主舞台とする、いわゆる「ネット世論」が拡大するなど、多種多様な情報が錯綜している。世論調査の信頼性を確保するためには「世論調査の外部への発注から納品、データの分析、ニュース原稿作成に至るプロセスは、それ自体が取材活動であり、担当者にはジャーナリストとしての目線が欠かせない」と述べ、調査の現場に行く、数字をチェックする、緊張感のある対応を求めている。

   同じく放送倫理違反があったと結論づけられた審議案件。同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は、100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプト。だが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補い、クイズへの解答もさせていなかった。コンセプトを逸脱した状態は2018年7月から1年余り続き、告発を受けて2020年4月に同局は番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪していた。放送倫理検証委員会の審議はことし1月18日に結審した。

   意見書によると、番組制作にあたってプロデューサーが6人配置されていたにもかかわらず、お互いが「見合う」カタチになっていて、エキストラによる補充の常態化に警鐘を鳴らすスタッフがいなかった。欠員は想定外でなく想定内として番組制作の数日前にエキストラの補充を手配業者に発注していた。「視聴者との約束を裏切るものであった」と放送倫理違反を結論づけている。

   3つ目が、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だ。問題となったシーンは、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっていた。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てた。

   放送人権委員会はことし1月19日までに3回の審理を重ねている。これまでの関係者のヒアリングで、母親はSNS上で誹謗中傷が集中したあと娘が自傷行為を行ったことは、「SOSを出していたのであり、フジテレビが適切に対応していれば娘が命を落とすことはなかった」などと訴えた。また、女子プロレスラーの知人は当時の様子について、女性とのやり取りから制作スタッフに不信を抱いていたようだと感じたなどと述べた。一方、フジテレビ側は、社内調査を行った結果から、番組に過剰な演出はなく女性を暴力的に描いたことはないとして主張した。

   審理が始まって新たな展開があった。警視庁は12月17日、女子プロレスラーを中傷する投稿をSNSで行ったとして、侮辱容疑で大阪府の20代の男を書類送検した。ツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿し繰り返し、公の場で侮辱した疑い(2020年12月17日付・時事通信Web版)。

   フジに限らず、番組の不祥事は制作スタッフの緩みやスキを突いて出てくる。放送倫理と人権問題として放送する側が問われる。緊張感を持って制作しなければ、番組は立たない。

⇒11日(祝)午後・金沢の天気     はれ    

☆森発言 批判鳴り止まず

☆森発言 批判鳴り止まず

   東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視ともとれる発言の波紋が広がっている。IOCのバッハ会長は、「組織委員会から森会長が発言を撤回し、謝罪したという報告を受けて、IOCとして、その部分はよく理解した。引き続き、東京大会の成功に向けて努力してほしい」(橋本オリンピック・パラリンピック担当大臣の談話、2月5日付・NHKニュースWeb版)と語ったと、報じられている。果たしてそれでこの発言問題は収束するのか。

   日本の新聞メディアはどうか。「森会長失言、批判噴出」と毎日新聞(2月5日付)は一面のトップ記事だ。朝日新聞(同)も「森会長、発言撤回し謝罪」と同じく一面トップ。一方、読売新聞(同)は「森会長が発言撤回」と一面ながら、扱いは3番目だ。日経新聞(同)も「森氏、発言を謝罪」と一面ながら扱いは4番目だ。では地元新聞はどうか。北國新聞(同)は「森氏『不適切』と謝罪」と一面の準トップ。北陸中日新聞(同)は「森会長 性差別発言を謝罪」と一面トップだ。扱いの大きさでそれぞれの新聞の編集方針が浮き出ている=写真=。

   では、海外の報道はどうか。アメリカのCNNは「Top Tokyo Olympics organizing official apologizes for sexist remarks that women talk too much in meetings」と伝えている。イギリスのBBCも「Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori ‘sorry’ for sexism row」と。このニュースがさらに世界に広がり、オリンピックの競技でどこかの国の女子チームが不参加を表明したら、さらに大きなニュースとなって世界を駆け巡る。すでに、カナダのアイスホッケー女子五輪金メダリストでIOC委員を務めるヘーリー・ウィッケンハイザー氏は4日、「(森氏を)絶対に追い詰める」とツイッターに投稿し、発言への憤りを表明した(2月5日付・NHKニュースWeb版)。

   女性差別発言は海外ではさらに厳しくなるだろう。国際的な人権団体の格好の攻撃対象だ。森氏の辞任どころか、東京オリンピックそのものの開催も危うくなるのではないだろうか。ジェンダーの発言問題を収束させる機関も人物も手段もないのだ。

⇒5日(金)夜・金沢の天気   くもり

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

   きょうから2月、ことしは節分は2日、立春は3日となっている。国立天文台公式ホームページによると、立春はこれまでずっと4日だった。同天文台の観測によって、「太陽黄経が315度になった瞬間が属する日」を決めている。計算ではことしの立春の日は3日23時59分となるそうだ。1分の違いではあるものの、立春は3日となる。実にきわどい二十四節気ではある。従って、節分はその前日の2日となる。

   さて、節分と言えば豆まき。季節の変わり目に起きがちな病気や災害を鬼に見立て、それを追い払う風習が知られる。「鬼は外、福は内」と声を出しながら煎り豆をまき、豆を食べて厄除けをする。ここからきょうの論点だ。ことしの豆まきの掛け声は「コロナは外」「ワクチンはうち」ではないだろうか。ワクチンをめぐってさまざまな国際問題が起きている。

   WHOは新型コロナウイルスのワクチンについて、EU域内で製造されたワクチンの輸出を制限するというEUの発表を批判し、パンデミック長期化の原因となりかねないと警告した。EUは製薬会社の製造の遅れで当初契約された量が確保できていないことから、輸出制限を発表した(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。今、世界ではワクチンの囲い込み騒動が起きているのだ。EUは域内で製造されたワクチンについて、域外への輸出規制を強化することは加盟国の人々を守るために必要な行動と表明していた。

   このEUの動きに対して、WHOのテドロス事務局長は、EUなどの富裕国がワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した(1月18日付・時事通信Web版)。まさにワクチンの争奪戦だ。

   EUはワクチン開発に際して域内の製薬メーカーなどに1億ユーロ(126億円)を投資していた。なので、EU域内の感情論だと、域内の製薬メーカーで生産されたワクチンがなぜ国民に行き渡らないのかと疑問に思ってるだろう。実際、EU4億4800万人のうち、これまで840万人しかワクチンを接種していない。ドイツ155万人、イタリア129万人、スペインは115万人、フランス100万人の順だ(1月26日付・BBCニュースWeb版)。ワクチ ンは域内で行き渡っていないのだ。そこにテドロ氏の「破滅的なモラル崩壊寸前」の警告はEUの国民の気持ちにどう響くのだろうか。

   日本政府はアメリカのファイザー社との契約でワクチンを確保し、医療従事者を対象に2月下旬から接種すると述べている。政府がファイザー社と契約した量は年内で7200万人分(1人2回で1億4400万回分)だ(1月30日付・NHKニュースWEB版)。ここに、WHOが日本に対し、「半分寄こせ」と直談判してきたら日本政府はどう動くのだろうか。国益との矛盾が見えてくる。日本は率直に「コロナは外」「ワクチンはうち」と相手をかわすことができるのだろうか。

(※写真は、ファイザー社のホームページより)

⇒1日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆コロナ禍 1億人の感染・200万人の死

☆コロナ禍 1億人の感染・200万人の死

   時折チェックしているジョンズ・ホプキンス大学のコロナダッシュボ-ドによると、新型コロナウイルスの感染者は世界全体で累計9449万人、死者は同202万人となっている(日本時間で7日午後4時現在)=写真=。この勢いだと今月中には感染者は1億人を突破するだろう。このとき、世界の論調はどう動くのか。

   国別ではアメリカの死者が累計39万人超で最多だ。アメリカに次いでブラジル、インド、メキシコ、イギリスとなっている。この5ヵ国を合わせた死者数は世界全体のほぼ50%を占める。こうした数字からもアメリカは中国に対して厳しい論調を突き付けている。

   新型コロナウイルスの発生源などについて調べるWHOの調査チームが14日に中国・武漢に入ってのに合わせて、アメリカのポンペイオ国務長官は、中国科学院武漢ウイルス研究所に関する「新たな情報」として声明を発表した(1月16日付・NHKニュースWeb版)。ポンペイオ氏は「アメリカ政府には、感染拡大が確認される前のおととし秋、研究所の複数の研究員が新型コロナウイルス感染症やほかの季節性の病気とよく似た症状になったと信じるに足る理由がある」と主張。加えて、「研究所は新型コロナウイルスに最も近いコウモリのコロナウイルスを遅くとも2016年から研究していた」「中国軍のための極秘の研究に関わっていた」と発表している(同)。

   ポンペイオ氏の言及の背景には裏付けがあると憶測する。アメリカのハーバード大学教授が中国政府からの学術・研究協力の名目で多額の研究資金などを受け取っていたことを報告していなかったとして、アメリカ司法省は2020年1月下旬、教授を「重大な虚偽、架空請求、詐欺」の容疑で訴追(逮捕は2019年12月10日、その後、21種類の生物学的研究を中国に密輸しようとした罪で起訴)している。教授はハーバード大学化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー氏で、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野で世界最先端の研究を行っている化学者。リーバー氏は中国の武漢理工大学の「戦略科学者」として2011-16年までの雇用契約を結んでいた(2020年2月6日付・ニューヨーク・タイムズWeb版記事「China’s Lavish Funds Lured U.S. Scientists. What Did It Get in Return?」)。   

   リーバー教授は「武漢理工大・ハーバード大共同ナノテクノロジー研究所」を設立。教授がアメリカ国防総省と国立衛生研究所から研究資金を受け取っていたころ、武漢理工大学に出向いていた。アメリカ側はその後の捜査で、リーバー教授から証言を得ていると考えても不思議ではない。こうした証言をベースに、ポンペイオ氏は「研究所は新型コロナウイルスに最も近いコウモリのコロナウイルスを遅くとも2016年から研究していた」「中国軍のための極秘の研究に関わっていた」などと述べたのではないだろうか。

   WHOの調査チームには、ウイルスのサンプル調査だけでなく、中国での内部告発者からのヒアリングなど徹底した調査を行ってほしいと願うのはアメリカだけでなく世界の要望だろう。

⇒17日(日)午後・金沢の天気  あめ