⇒メディア時評

☆侮辱罪の厳罰化 誹謗中傷煽るテレビ側も問われる

☆侮辱罪の厳罰化 誹謗中傷煽るテレビ側も問われる

   先ほど午後6時42分に、能登半島の珠洲市で震度5弱の揺れがあった。人的被害は報道されていないが、同市で開催されている奥能登芸術祭の野外作品などに影響がないか気になった。
                 ◇

   公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の厳罰化が動き出す。きょう16日午後、法務省は法制審議会を開き、刑法の「侮辱罪」に懲役刑を導入する刑法改正などについて諮問した。現行「30日未満の拘留か1万円未満の科料」の法定刑を、「1年以下の懲役・禁固音または30万円以下の罰金」とする。厳罰化にともない、公訴時効も現行の1年から3年に延長する。

   とくに、ネット上の誹謗中傷での対策が求められていて、法務省はことし4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど、侮辱罪の厳罰化について着々と準備を進めてきた。

   侮辱罪の厳罰化が動き出したきっかけは、フジテレビが放映したリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だったといわれている。

   この事件では、警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女性のツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検はことし3月30日、この男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された。男はこれ以上罪を問われることはなかった。侮辱罪の罪の軽さが問題視されていた。

   ある意味で当事者でもあるテレビ局側はどう対応するのか問われる。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で炎上し、この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。つまり、結果的にSNS上の誹謗中傷を煽ったはテレビ局側ではないのか。

   テレビ業界全体のこととして、よいにつけ悪いにつけSNS上での反響の大きさが番組の視聴率の向上につながると勘違いしている節がある。表現の自由や報道の自由に水を差すつもりは一切ない。侮辱罪が厳罰化したことの意味を捉えて、テレビ業界は番組によるSNS上での誹謗中傷を相互にチェックする体制づくりを構築する必要があるのではないだろうか。

⇒16日(木)夜・金沢の天気     はれ時々くもり

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

           前回のブログの続き。これまでパラリンピックの番組をテレビで観戦したことは、正直なかった。今回パラリンピックでは、国別のメダル数など気にせず、むしろ、迫力ある車いすラグビーや、エジプトの卓球選手イブラヒム・ハマト氏らのような「凄技」を見たいと思いテレビを視聴している。

   NHKはBS放送などを含め500時間の番組を組んでいる。ところが、新聞紙面のテレビ欄を広げても、民放によるパラリンピックの中継や特番がほとんど見当たらない。きょう28日付の紙面では、TBSによる午後2時30分からの車いすバスケットボール男子・日本対カナダ戦だけだ=写真・上=。民放の公式ホームページをチェックすると、テレビ朝日が競泳の中継(29日午前10時)、車いすテニスのハイライト番組(9月5日午後0時55分)、フジテレビは車いすバスケットボール男子5-6位決定戦(9月4日午後4時)など予定している。各局とも決まったように、競技の中継が1つ、ハイライト番組が1つか2つ、それも土日の日中の時間だ。いわゆるゴールデン・プライム帯ではない。

   オリンピックでは、NHKに負けじと生中継をしていたのに、パラリンピックは気が抜けた感じだ。なぜ、民放はパラリンピックを積極的に放送しないのか。単純な話、放映権料を払っていない。オリンピックについては、NHKと民放はコンソ-シアムを組んでIOCに対し平昌冬季大会(2018年)と東京大会の合算した数字で5億9400万㌦を払っている。しかし、これにはパラリンピックの放映権料は含まれていない。国際パラリンピック委員会(IPC)は独立組織なので、IOCとは別途払いなのだ。

   IPCと契約しているのはNHKのみ。2015年6月25日付のNHK広報のプレスリリースによると、平昌大会から2024年パリ夏季大会までの4大会の日本国内での放送権についてIPCと合意したと発表している=写真・下=。ただ、金額については記していない。

   以下はかつて民放局に携わった自身の憶測だ。2015年6月でのIPCとの契約に民放が参加しなかったのは、パラリンピックはスポーツ観戦としてのニーズが低いので視聴率が取れないと判断してのことだろう。スポンサーも付くかどうか分からない。ところが、視聴者の目線はこの数年で変化した。スポーツ観戦という意味合いだけでなく、障がいや逆境、限界を超えてスポーツに挑むパラアスリートたちから感動を得たいというニーズがある。そして企業側も、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の主旨に沿った番組にスポンサー提供をしたいというニーズが起きている。

   民放自体もパラリンピック番組を無視できない状況になってきた。そこで、すでにIPCと合意しているNHKに依頼して「おすそ分け」をしてもらうカタチでパラリンピック番組を放送することになったのだろう。あくまでも憶測だが、NHK側の条件はおそらく、2026年ミラノ冬季大会以降のIPCとの契約はコンソーシアムを組むということではないだろうか。

⇒28日(土)午前・金沢の天気    はれ

★フェイクニュースをどう司法判断するのか

★フェイクニュースをどう司法判断するのか

   前回のブログに続き、今回も「ジャーナリスト狩り」をテーマに取り上げる。韓国の朝鮮日報Web版日本語(8月21日付)の記事は「韓国与党・共に民主党がいわゆる『言論懲罰法』と呼ばれる言論仲裁法の改正を強行採決しようとする中、各国の言論団体など海外のジャーナリストたちも批判の声を上げ始めた」と報じている。ネットでこれまで韓国の言論仲裁法については何度か読んだが、海外のジャーナリストを巻き込んで事が大きくなっている。

   この言論仲裁法は正式には「言論仲裁および被害救済等に関する法律」と呼ばれ、報道被害の救済を大義名分につくられた法律だ。今回の改正法案は、新聞・テレビのマスメディアやネットニュースで、取り上げられた個人や団体側がいわゆる「フェイクニュース」として捏造・虚偽、誤報を訴え、裁判所が故意や重過失がある虚偽報道と判断すれば、報道による被害額の最大5倍まで懲罰的損害賠償を請求することができる。つまり、メディアの賠償責任を重くすることで、報道被害の救済に充てる改正法案だ。国会で3分の2以上の議席を占める与党系が今月25日にも強行採決する見通し。

   改正法案を急ぐ理由には、韓国のネット事情もあるのではないか。「ネット大国」といわれる韓国では中小メディアが乱立し、臆測に基づくニュースが目に付く。フェイクニュースではなかったが、先の東京オリンピックでは2つの金メダルを獲得した韓国のアーチェリー選手が、短くした髪型が理由で、国内のネット上で中傷が相次いでいると報道されていた(7月30日付・日テレNEWS24Web版)。韓国ではSNSによる誹謗中傷で芸能人の自死が相次ぐなど社会問題化している。当事者に対して強烈な批判が沸き起こる社会的な風土があるのかもしれない。日本でも同様に、番組に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(2020年5月)があったように、他人事ではない。

         こうした韓国政府の言論仲裁法の改正の動きに対して、国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は公式ホームページ(8月21日付)で「South Korea: Concerns over media law amendment」との見出しで韓国政府への懸念を表明している=写真=。また、朝鮮日報Web版日本語(8月21日付)によると、韓国に拠点を置く外国メディアの組織「ソウル外信記者クラブ(SFCC)」は20日、「『フェイクニュースの被害から救済する制度が必要』との大義名分には共感するが、民主社会における基本権を制約する恐れがある」と声明を出した。

   以下は持論。記事に目を通して、改正法案に矛盾点があるように思える。記事がフェイクニュースであるかどうかを判断するのは裁判所だ。先に述べたネット上の中小メディアが流した記事ならば、記事の入手方法や取材過程などについて裁判官がメディア側に尋問すれば記事の信ぴょう性を判断できるかもしれない。

   問題はマスメディアの記者、あるいはフリーランスのジャーナリストの場合だ。率直に自らの取材上のミスだったと認める良心的な記者ならば何ら問題はない。しかし、ミスを認めたくない記者の場合、そう簡単ではない。「情報源の秘匿」をタテに口をつぐむだろう。秘匿している限り、取材過程が明らかにされることはない。それを強制的に吐かせるとなれば、裁判所側が報道の自由の侵害とそしりを受けることになる。おそらく、裁判所側は状況証拠を積み上げて最終的に判断するしかない。これはそう簡単ではない。

   懲罰的損害賠償をもくろんであえて訴える人も出てくるだろう。「取材で答えたことと記事の内容が違う。名誉が棄損された、損害を被った」と。記者は「確かにそう言った」、訴えた側は「言ってない。捏造だ」と展開し、「言った・言わない」に審理は終始する。こうなると、裁判官が悩むことになる。むしろ、裁判官たちがこの改正法案を忌避しているのではないだろうか。

⇒22日(日)夜・金沢の天気    あめ時々くもり

☆タリバンの容赦ないジャーナリスト狩り

☆タリバンの容赦ないジャーナリスト狩り

    実にいたましい記事だ。そして、この記事の写真を見るとタリバンは獲物を狙う「山賊」のようにも見える。ドイツ国際放送「Deutsche Welle」(DW)は19日、アフガニスタン国籍の同社記者の家族がタリバンによって射殺されたと報じている=写真=。記事は、「Journalists and their families are in grave danger in Afghanistan. The Taliban have no compunction about carrying out targeted killings as the case of a DW journalist shows.」(意訳:アフガンではジャーナリストとその家族が重大な危険にさらされている。DWのジャーナリストのケースが示すように、タリバンは標的を絞って殺害を実行し、そこには何らの妥協もない)と報じている。

   DW記事によると、射殺されたのは「ストリンガー」と呼ばれる、アフガンで採用された現地記者の家族だ。記者はドイツの本社に来ていた。タリバンはその記者を探して家から家へ捜索を行っていた。家族を探し出して、射殺した。以下憶測だが、記者がドイツの本社にいることを家族から聞いて、見せしめに家族を射殺したのだろう。もともと記者本人を殺害するために探していた。

   タリバンによる「ジャーナリスト狩り」はこれだけではない。記事によると、アフガンの民間テレビ局ガルガシュトテレビの記者はタリバンに誘拐され、民間ラジオ局パクティア・ガグラジオの責任者は射殺されている。ドイツの週刊ニュース紙「Die Zeit」に投稿していた翻訳者が今月に入って射殺されている。そして、世界的にも有名なインドの写真家のデニッシュ・シディキ氏(ピューリッツァー賞受賞者、ロイター通信写真記者)が7月16日にカンダハルで武装勢力によって殺害されている。

   ドイツジャーナリスト協会(DJV)は、欧米のメディアで働いているストリンガーの家族が殺害されたことを受けて、「同僚が迫害され、殺害されている間、ドイツはぼんやりと立っていてはならない」と声明を発表して、ドイツ政府に迅速な行動を取るように求めている。また、国際ジャーナリストのNGO「国境なき記者団(RSF)」は国連安全保障理事会に対し、アフガンにおけるジャーナリストへの危険な状況に対処するための非公式の特別セッションを開催するよう要請した。

   では、なぜ、タリバンがジャーナリスト狩りを行っているのか。イスラム原理主義のタリバンが目指すところは、最高意思決定機関を据えた政教一致の体制だろう。ところが、世界のジャーナリストは権力への監視という重要な役割を担っていると自負している。タリバンにとっては、政権批判は忌み嫌う欧米の文化と映るのだろう。「山狩り」のように徹底したジャーナリストの排除を狙っているのではないだろうか。

⇒21日(土)午後・金沢の天気      くもり時々あめ

★「冥府魔道」タリバンの行く道

★「冥府魔道」タリバンの行く道

   アフガニスタンの政権を奪還したタリバンについて、メディアによって頭につける説明が異なる。読売新聞は16日付の紙面までは「旧支配勢力 タリバン」と表現していたが、17日付からは「イスラム主義勢力 タリバン」と。朝日新聞も18日付の紙面では「イスラム主義勢力 タリバン」と表現しているが、17日付までは「反政府勢力 タリバーン」としていた。18日付一面の「おことわり」で名称を「タリバーン」から「タリバン」に変更したとしている。イギリスのBBCは一貫して「militants」、武装勢力と表現している。

   ところが、見落としもあるかもしれないが、アメリカのニューヨーク・タイムズやCNNは「タリバン」と名称だけで記事にしている。「説明をつけるまでもない、あのタリバンが」と言っているようでむしろ迫力がある。2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件で、ブッシュ大統領はタリバンが首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難して、アフガンへの空爆を始めた。アメリカにとって、「テロの温床」タリバンのイメージは20年経った今も変わっていないのだろう。

   同じ20年前の2001年3月、タリバンはバーミヤンの巨大石仏を爆破した。1400年以上前の仏教文化を伝え、日本では歴史教科書でも紹介されていた貴重な遺跡だっただけに破壊は衝撃的だった。なぜ、タリバンは巨大石仏を破壊したのか。当時タリバンのスポークスマンといわれたアブドゥル・サラム・ザイーフ氏の回想録がAFP通信Web版日本語(2010年2月26日付)の記事で紹介されている。以下引用。   

「回顧録によると、タリバンがバーミヤン石仏を破壊しようとしていた2001年、日本は破壊をやめさせようと最も熱心に働きかけてきた国だった。スリランカの僧侶らを伴ってザイーフ氏を訪れた日本の公式代表団は、石仏を解体して海外に移送し再度組み立てる案や、石仏の頭からつま先まですっかり隠してその存在を視認できないようにするなどの保存策を提案したという。

 代表団は、アフガニスタン人は仏教徒の先祖にあたり、仏教遺産を守る責任があると説いたが、ザイーフ氏はアフガン人にとって仏教は『空虚な宗教』だと返答。『われわれを先祖と見なし従ってきたのなら、われわれがイスラム教という真の宗教を見つけたときに、なぜその例に従わなかったのか』と反問し、イスラム教への改宗を暗に迫ったという。」

   タリバンが今でも「イスラム教を真の宗教」とし、仏教のことを「空虚な宗教」とさげすんでいるのであれば、再度バーミヤンの爆破に及ぶかもしれない。そして、次の政府に議会があるのか、ないのか。さらに、アフガンで2009年に制定された「女性に対する暴力排除法」は法として守られるのかどうか。何の公約もなく、武力で政権を勝ち取った勢力に何が期待できるのだろうか。「テロの温床」だけにはなってほしくない。

(※写真は、「暴力的な歴史があるがゆえにタリバンの公約は曇って見える」と伝える8月17日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)

⇒18日(水)午後・金沢の天気    くもり

☆気象情報 言葉が複雑化している

☆気象情報 言葉が複雑化している

   「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものだ。きょうの金沢の最高気温は27度で夏日だったものの、夕方からは涼しさを感じるようになった。と言うと、「随分のんきなことを」としかられるかもしれない。九州北部や中国地方を中心に記録的な大雨となっている。11日からの降り始めの雨量は佐賀県嬉野市で1000㍉を超え、8月の平年の雨量(277㍉)の3倍以上の雨量となった(15日付・気象庁公式ホームページ)。石川県内でも宝達志水町では12日午前2時の降り始めから15日午前5時までに降水量が311㍉となり、8月の平年の雨量を上回り、観測史上最大となった(同・金沢地方気象台公式ホームページ)。

         この記録的な大雨で、堤防の決壊や越水など9県の36河川で氾濫が発生。鉄道や道路も被害が相次いでいる。土砂災害は15府県で44件が発生していて、都道府県別件数(15日正午現在)では、長崎11、広島7、熊本5、佐賀4、富山、福岡各3、石川、鹿児島各2、福島、長野、岐阜、静岡、滋賀、京都、大阪各1などとなっている。さらに増える見通し(国土交通省公式ホームページ「プレスリリース」)。

             これまでの雨のイメージとはまったく異なる強い雨や雨量、そして、「線状降水帯」といった帯状に連なる積乱雲など、気象庁から発表される気象情報のレベルが一気にアップしている。その分、国民や視聴者にはとても分かりにくくなっている。たとえば、きょう午前中に民放テレビが報じていた。「気象庁は午前10時7分、神奈川県山北町に記録的短時間大雨情報を発表しました。この情報が発表された地域では、災害の発生に結びつくような猛烈な雨が降っています。ただちに身の安全を確保してください」(15日付・TBSニュース)。「記録的短時間大雨情報」とあるが、「顕著な大雨に関する情報」や「大雨警報」はどう違うのか。

    これだけではない「警報」と「特別警報」の違いや、「氾濫危険情報」と「氾濫警戒情報」の違いを国民、視聴者はどれほど理解しているだろうか。単なる気象情報ではなく、防災情報を含めているので、言葉の複雑化が生じているのだろう。ただ、情報は流せばよいというものではない。言葉の分かりやすさが人々にいち早く訴える。「大雨洪水警報」、これで十分伝わるのではないか。(※写真は日本気象協会の天気予報専門サイト「tenki.jp」より)

⇒15日(日)夜・金沢の天気      くもり時々はれ

★問われているのは企業のガバナンス

★問われているのは企業のガバナンス

   けさテレビ朝日の番組「羽鳥慎一モーニングショー」を視聴した。コロナ禍の緊急事態宣言下で、テレビ朝日のオリンピック番組を担当したスポーツ局の社員や外部スタッフ10人が閉会式後から9日未明まで打ち上げ宴会を行い、そのうちの社員1人が店外に転落し、救急搬送された問題。リモートで出演中だったコメンテーターの玉川徹氏が「テレビ朝日の社員として謝罪を申し上げます」と頭を下げ、調査委員会をつくって不祥事の原因を徹底的に究明すべきだと訴えていた=写真・上=。ただ、個人的には違和感があった。

   3月に厚労省老健局の職員23人が深夜まで送別会を開いていた問題では、「どうなっているんですかね」「担当課長に話が聞きたい」などと玉川氏の舌鋒は鋭かった。それだけに、今回、身内の不祥事が起きてしまった場合は番組としてこうした「けじめ」をつけ方でないと視聴者は納得しないだろ。ただ、玉川氏が同社を代表して謝罪しているかのような印象を受けたので、個人的に違和感を覚えた次第だ。コメンテーターはあくまでも番組の論調を発する立場であって、会社を代表して発する立場ではない。

   それにしても違和感はさらに残る。この問題の責任の所在は番組にあるのではなく、会社のリスク管理というガバナンス(企業統治)の問題だ。むしろ、「テレビ朝日として」の謝罪の言葉を会社の最高責任者が真っ先に発すべきだ。会社として記者会見が必要だろう。

⇒11日(水)午前・金沢の天気    くもり時々はれ

☆オリンピック打ち上げ宴会 テレ朝が問われること

☆オリンピック打ち上げ宴会 テレ朝が問われること

         オリンピックは強かった。ビデオリサーチ社Webサイト(10日付)の「オリンピック関連番組 視聴率・視聴人数」(関東地区)によると、7月23日の開会式は56.4%(NHK総合)、今月8日の閉会式は46.7%(同)だった。そして競技では、侍ジャパンが優勝した今月7日の野球、対アメリカ戦は37.0%(同)だった。はやり東京オリピック番組は視聴率を稼ぐのだと実感した。

   その視聴率と向き合い、オリンピックの番組制作に苦心したのがテレビ局の制作スタッフであることは言うまでもない。おそらく、オリンピックが終了し、一気に解放感が包まれたのだろう。気が緩んだようだ。テレビ朝日は10日付の公式ホームページで「当社社員の緊急搬送事案について」と題して、プレスリリースを掲載している。

   「今月8日夜、東京オリンピックの当社番組担当スタッフ 10 名が緊急事態宣言下における東京都の要請及び社内ルールを無視して打ち上げ名目の飲酒を伴う宴席を飲食店で開き、翌 9 日未明退店する際に当社スポーツ局社員1 名が誤って店の外に転落し、負傷して緊急搬送されました。当該社員は現在入院中で、事案の詳細は確認中です。」

   この事案はメディア各社もニュースとして大々的に報じている。NHKニュースWeb版(10日付)によると、東京オリンピック関連の番組を担当したテレビ朝日の社員6人と外部スタッフ4人の合わせて10人は、閉会式が行われた8月8日の夜から翌日の明け方にかけて、東京 渋谷区の飲食店で打ち上げの名目で飲酒をともなう宴会を開いていた。10人のうち社員1人が途中で帰ろうとした際、飲食店が入るビルの非常階段から誤って路上に転落して足の骨を折る大けがをし、救急搬送された。

   では、テレビ朝日のオリンピック番組を担当スタッフはどのような番組づくりをしていたのか。オリンピック映像の基本はOBS(Open Broadcaster Software)という国際組織が撮影を担当し、放映権を持つ各国の放送局へフィードバックしていた。つまり、映像は基本的に配信されていた。それを各放送局は独自の番組として報道をするためにアナウンサーやキャスターのほかにコメンテーターをスタジオに配置。また、試合の展開をある程度予想しながら過去の映像や関係者のインタビィーなどを行い番組を構成する役割を担っていた。多局との違いを出しながら、情報を抜かれないように、少なくとも五輪期間中の17日間は相当の緊張感を強いられていたことは想像に難くない。

   しかし、このような事態に陥った場合、テレビ朝日には当然容赦ない批判が浴びせられる。これまで同類の事案があった厚労省に向けて、テレビ朝日の「報道ステーション」や「羽鳥慎一モーニングショー」といった番組では痛烈な批判を展開していた。ところが逆の立場に追い込まれた。今回の社員の不祥事では、テレビ朝日の社長がまず釈明の会見を行い経緯の説明をすることが先決だろう。

⇒10日(火)夜・金沢の天気  くもり

★メダルラッシュに沸く そしてあの論調はどこへ

★メダルラッシュに沸く そしてあの論調はどこへ

    金メダルのラッシュだ。きのう夜、民放テレビでレスリング女子フリースタイル62㌔級の決勝を見ていた。日本の川井友香子選手がキルギスの選手を4‐3で下し、金メダルを獲得した。川井選手の姉の梨沙子選手も前回のリオデジャネイロ大会の63㌔級で「金」を獲得していて、きょう夜は57㌔級で決勝戦に臨む。姉妹で金メダリストなのだ。そして姉妹は、石川県津幡町出身ということもあって、当地ではかなりテレビの視聴率は高かったのではないだろうか。

   オリンピックの地ダネだけに、地元紙の朝刊は派手に報じている=写真=。「友香子 金 井川姉妹でメダル」(8月4日付・北國新聞)、「川井友『金』 姉・梨沙子連覇に王手」(同・北陸中日新聞)とどれも一面トップだ。北國は両面見開きの裏表で「2人の夢 たどり着いた妹」と特別紙面を組んでいる。。

   話はそれるが、1ヵ月前、オリンピックの開催については反対意見が盛り上がっていた。東京五輪の中止を求めるオンライン署名サイト「Change.org」の署名は45万筆を超えていた。署名の発信者は弁護士の宇都宮健児氏で、相手はIOCのバッハ会長らだった。そして、もっとも強烈なメッセ-ジを発したのはトヨタだろう。7月19日、トヨタは東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由に、オリンピック関連のテレビCMをいっさい見送ると発表した。CMはすでに完成していて、流すだけになっていた。確かに五輪番組をテレビを見ていてもトヨタのCMは見ない。

   東京オリンピックの開催に疑念を呈していたテレビメディアも新聞メディアもまるで「手のひら返し」をしたかのように、連日オリンピックの競技を報じている。NHKや民放のテレビのアナウンサーの大声は特に響く。

   いま思えば、コロナ禍でのオリンピックは是か非かという単純な論調、あるいは読者や視聴者に分かりやすかった。ただ、どのような工夫を凝らせばオリンピックの開催は可能かという論調はあったのかもしれないが、印象に残るメディアの論調はない。トヨタのCM見送りは当時の世論を見極めた上での判断だったのだろう。ただ、いまどう思っているのだろうか。

⇒5日(木)午後・金沢の天気     くもり一時あめ

★「復興五輪」感動の物語は始まるも、組織委の迷走止まず

★「復興五輪」感動の物語は始まるも、組織委の迷走止まず

   東京オリンピックの開会式に先立ってきのう21日始まったソフトボールの試合を民放の昼のワイドショーで日本対オーストラリア戦を放送していた。初回でデッドボールが連続して先制点を与えたが、すぐにピッチャーを囲むように選手たちが集まった。オリンピック3度目のピッチャーは気を取り戻したのか別人のように鋭い投げで立ち直る。打線もその裏で同点に追いつき、結局は5回コールド勝ちで初戦を飾った。スポーツのドラマには感動する。

    このソフトボールの競技場は福島県営あづま球場だ。東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいとの想いを東京オリンピックに込めて、「復興五輪」とも称している。福島での開催の意義を改めて考えさせてくれた試合でもあった。

   ただ、オリンピックの大会組織委員会の迷走は続く。オリンピックの開会式でショーディレクターを務めるコメディアンの小林賢太郎氏が、ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をパロディーにしたコントの動画がインターネット上で拡散していることから、アメリカのユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は21日、「反ユダヤ主義の発言」として非難する声明を発表した。これを受けて、大会組織委員会はきょう22日、小林氏を解任した(7月22日付・NHKニュースWeb版)。

   問題となった動画をネットでチェックする。1998年に発売されたビデオで、お笑いタレント2人によるコント。人の形に切った紙が数多くあることを説明するのに「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と口走っている。すると、会場から笑い声が聞こえる。不自然なのは、笑いを誘うような話の流れでもなく、しかも早口で突然に「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」とコメントが出てくる。初耳の観客は言葉の意味を理解できるだろうか。理解すればおそらく笑えない。つまり、このコメントが会場で受けたかのように演出するための付け足しの笑いの音声だろう。

   このことからも理解できるように、「演出」というのは笑いや感動のためなら、常識や倫理観、正義といったものを封殺するケースがままある。それが今回のような失敗のもとになったりする。「策士、策に溺れる」の例えがある。冒頭のスポーツのドラマとは真逆だ。オリンピックの演出チームが辞任に追い込まれるのはこれで3人目となる。統括責任者を務めるクリエーティブディレクターが、出演予定だったタレントの容姿を豚に見立てた屈辱問題。そして、作曲家が問われたのは、子どものころの障がい者へのいじめを自慢気に雑誌に語った差別問題だった。負の連鎖反応は止まない。

⇒22日(木)午前・金沢の天気    まれ