⇒メディア時評

☆「不幸を待つ」ような報道の倫理について

☆「不幸を待つ」ような報道の倫理について

   首都圏では6日に4年ぶりに10㌢ほどの雪が積もり、7日朝には氷点下3.5度の冷え込みで路面が凍結し、車のスタック(立ち往生)や玉突き事故が相次いだと新聞・テレビメディアが報じていた。テレビを視聴していると、人々が道路などで転倒する映像シーンが全国ニュースで繰り返し放送されていた。転倒によるケガで7日午前中だけで500人余りが病院に搬送されたというから驚きだった。

   ニュースを見ていて違和感も持った。ノーマルタイヤの乗用車やバス、トラックが凍結した路面を走行すれば必ずスリップ事故が多発する。関東や首都圏でスタッドレスタイヤに冬備えする個人や会社は少数だろう。路面凍結が予想された段階で首都高速道路などをなぜ封鎖しなかったのだろうか。そして、映像的に違和感があったのは、人が転倒するシーンだった。あるテレビ局の映像は都内の同じ場所で人々が靴を滑らせて一人また一人と転ぶシーンだった。確かに衝撃的な映像ではあるものの、カメラマンが同じポイントで時間をかけて次々と人が転ぶのを待っていたということだろう。カメラマンの目の前で起きたことではあるが、転倒を待っていたとなれば報道の倫理上の問題はないのだろうか。  

   この違和感は実際の報道カメラマンたちのシーンを思い出したからだ。2007年3月25日に能登半島地震(震度6強)があり、翌日、学生による復旧ボランティアの計画を立てるために現地を訪れた。輪島市門前町は全半壊の街となっていた。街の一角でテレビ局のカメラマンたち3組ほどが半壊の家屋が壊れるシーンを撮影しようとスタンバイしていた=写真=。余震で揺れるたびにカメラを構えていた。「でかいのがこないかな」という言葉が聞こえた。「でかいの」とは大きな余震のこと。余震で家が倒壊する瞬間を狙っていたのだ。

   確かに、報道カメラマンとすれば、大きな余震で家屋が倒壊するシーンを狙うのはプロとして当然なのだろう。しかし、「でかいのがこないかな」と倒壊を待つカメラマンたちの姿は被災地の人たちにはこのカメラマンたちの姿はどのように映っただろうか。また、餓死寸前のスーダンの少女にハゲワシが襲いかかろうとする写真〚ハゲワシと少女』。報道カメラマンのケビン・カーター氏が1993年にNYタイムズで発表し、ピューリッツァー賞を受賞した。受賞後、カーター氏が「ハゲワシがもっと翼を広げてくれれば、迫力ある写真になるのに」と話したことがきっかで、「写真を撮影する前に少女を助けるべき」と非難が殺到。その後、カーター氏は自死した。

   報道として衝撃的な画像や映像であっても、不幸な出来事を待つような撮影のプロセスが感じた視聴者は違和感を持つ。冒頭の転倒にしても、滑って転ぶのをカウントするかのような映像ははたして報道と言えるのかどうか。

⇒8日(土)午後・金沢の天気      はれ

★ラニーニャの冬来る

★ラニーニャの冬来る

   このような雪の積もり具合を北陸では「うっすら積もった」と言う。金沢の自宅周辺の積雪は数㌢ほど。屋根や樹木は少し雪を被った程度で、路面は積雪にはいたっていない=写真、午前10時20分ごろ撮影=。うっすら積もる雪のことを淡雪(あわゆき)と表現したりもするが、これは季節的に冬が終わり、春先にうすく積もる雪のことを指すので、「春の淡雪」と言う。冬の始まりの時節では使わない。これは雪国に実際住まないと理解できない感覚かもしれない。

   ニュースによると、石川県内の午前中の積雪は、白山市河内で8㌢、加賀市菅谷で6㌢、金沢市で2㌢、輪島市と珠洲市でそれぞれ1㌢となっている。白山麓の山の福井県との県境付近にある白山市の谷峠で57㌢の積雪を観測している(18日・NHKニュース)。山手に積雪が多い場合は山雪(やまゆき)、平地の方が山手より多く積もる場合を里雪(さとゆき)と言ったりする。

   それにしても寒い。気象庁ホームページによると、きょうの金沢の最高気温は4度の予想だ。今シーズン一番の寒気が流れ込んでいる上、冬型の気圧配置が強まっている。そして、きょうはおさまっているが、きのう午後から雷がよく鳴っていた。北陸では「雪出しの雷」と言う。ちなみに、気象庁の雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(1991-2020年)によると、全国で年間の雷日数がもっとも多いは金沢の45.1日だ。

   冒頭で述べたように、きょうの初積雪が「うっすら」だったからこの先も安堵できるかと言えばそうではない。気象庁は先月10日に太平洋の南米ペルー沖の監視水域で海面水温が低い状態が続き、世界的な異常気象の原因となるラニーニャ現象が発生したとみられると監視速報を発表している(11月10日付・時事通信Web版)。ラニーニャの年には豪雪がやってくる。直近で言えば、去年の冬は北陸では24時間で1㍍以上の降雪となり、観測史上1位の記録を更新した。2017年から2018年かけては福井県で豪雪となり、北陸自動車道で1500台の車が立ち往生。さらにさかのぼれば、あの1981年の「五六豪雪」も1963年の「三八豪雪」もラニーニャだったと言われている。

    ラニーニャが本格化するこれからの白い世界に身震いする。「ラニーニャ」冬将軍、いよいよ来たる。来るなら来い。こちらも戦闘態勢だ。

⇒18日(土)午前・金沢の天気    くもり

★「キシダクーポン」に時間かけすぎ

★「キシダクーポン」に時間かけすぎ

   このような単純な施策に時間のかけすぎだ。18歳以下に10万円相当を給付する政府の指針が揺れている。政府が5万円分を子育て関連に使途を限定した期限付きのクーポン給付とする方針にしたのは、全額現金だと貯蓄に回り、経済対策につながらないという問題意識からだろう。しかし、クーポンが消費に使われても、それによって浮いた金額が逆に貯蓄に回るであろうことは誰もが考える。消費刺激の効果は限定的にならざるを得ない。むしろ、このクーポン給付の必要経費に900億円もかかることを国民は問題視した。

   きょう政府が新たに示した方針は、3パターンの給付方法だ。一つめが現金10万円を一括給付する。二つめが現金5万円を2回給付、そして三つめが現金5万円とクーポン5万円分を2回に分けて給付する。15日までに自治体に通知する(14日付・毎日新聞Web版)。この政府の方針を受けて、松井大阪市長は18歳以下への10万円相当の給付について、今月27日に現金で一括支給すると発表した(14日付・時事通信Web版)。

   しかし、この3パターンの給付方式は何も新しいことではない。そもそも、一つめの現金10万円の一括給付は大阪市だけではなく、多くの自治体が求めてきたものだ。二つの現金5万円の2回給付は、三つめと一つめの折衷案であり、三つめはそもそも政府の原案である。ここまで来るの一体どれだけ時間がかかったことか。時間がかかり過ぎだ。

   自治体はもっと現実的だ。すでに大阪の箕面市は8日、迅速な給付の実現や事務費の削減などの観点から、10万円を全額現金で給付する方針を決めている。同市の上島市長は「市民の使い勝手やクーポンの準備にかかる時間などを考慮すると全額現金で給付するのが市民のニーズに適している」とコメントした(9日付・NHKニュースWeb版)。

   もたついている政府だが、急ぐべきは来年2月の北京オリンピックについて、「外交的なボイコット」をどうするかの議論だ。日本政府は中国からの招待の有無にかかわらず、政府代表団の派遣をどうするのか。時間をかけて議論すべきはこの問題ではないだろうか。

⇒14日(火)夜・金沢の天気       あめ

☆いまだに続く総理公邸の都市伝説

☆いまだに続く総理公邸の都市伝説

   やはりこの質問かと思わず笑った。岸田総理は13日午前、東京・赤坂の衆院議員宿舎から引っ越したばかりの総理公邸で「幽霊」を見たかどうかを記者団に問われ、こう答えた。「今のところ、まだ見ておりません」(13日付・産経新聞Web版)。記者の質問も冗談めいての質問だろうが、政権交代のときに公邸に住む住まないで記者から質問される都市伝説ではある。   

   総理官邸と公邸は、同じ敷地内に建てられている。官邸は総理の仕事場で、公邸は住まいだ。現在の公邸はかつて官邸として使われた。1932年、海軍の青年将校を中心とするクーデター「5・15事件」で犬養毅総理が官邸で殺害された。その後、陸軍の皇道派青年将校らが起こした1936年の「2・26事件」では官邸で高橋是清大蔵大臣らが殺害された。その後、「犠牲者の幽霊が出る」との噂さが絶えなかった。

   有名な話がある。公邸に居を移さなかった当時の安倍総理が「公邸に住んだ森(元総理)さんが在任中に公邸で就寝直前に寝室の外から複数の軍靴が近づいてくるような足音を耳にしたとの話を聞いた」と出演したテレビ番組で明かしたことがある(2013年6月1日)。これが安倍氏が公邸に住まない理由ではないかと議員の間でも評判になった。番組でのこの話のきっかけは、ある野党議員が内閣に提出した質問主意書だった。「旧総理大臣官邸である総理大臣公邸には、二・二六事件等の幽霊が出るとの噂があるがそれは事実か。安倍総理が公邸に引っ越さないのはそのためか」(2013年5月15日)と。これに対して、政府は「お尋ねの件については、承知していない」とする答弁書を閣議決定した。

   この質問をしたのは当時の民主党の加賀谷健議員だった。質問の主旨は公費が使われている公邸が十分に活用されていないのではないかという趣旨だが、公邸と幽霊が国会の場で初めて取り上げられ、閣議決定にまで上った稀有なケースとなった。その話を安倍総理が番組で紹介してさらに広がり、すっかり都市伝説となった。岸田総理は冒頭の記者団の質問に「(公邸で)ゆっくり眠れた」と笑顔で語った(同)。公邸に入居するのは野田元総理以来9年ぶり。今のところ幽霊は登場していないようだ。(※写真は、首相官邸公式ホームページより)

⇒13日(月)夜・新潟市の天気   あめ

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

   これは「メンツと利権のマッチング」なのか。このブログで何度か取り上げている中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていたプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手の問題。IOCのバッハ会長は先月21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたとIOC公式ホームページで発表した=写真=。さらに、今月1日にもIOCチームが彭選手とテレビ電話でコンタクトを取り、「彼女と定期的に連絡を取り合い、1月に個人的な会合を持つことで合意した」との「IOC Statement」をホームページで発表している。

   バッハ会長のテレビ電話は不評だった。ロイター通信(日本語版、11月22日付)は、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者の「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOC批判のコメントを、BBCニュースWeb版(同22日付)もアスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」とのコメントを紹介し、不評を煽った。

   IOCはなぜ彭選手とテレビ電話にこだわったのか。IOCは北京オリンピックをぜひ開催してほしい、そのためには彭選手問題を鎮静化させたいとの思いがあるのだろう。何しろ、オリンピックの放映権料と最上位スポンサーからの協賛金がIOCに入る仕組みになっている。また、中国としては北京オリンピックを是が非でも開催したいというメンツがある。双方の思惑が絡んでのマッチングが「テレビ電話」だった。

   では、誰が仕掛けたのだろうか。最初は中国側がバッハ会長に持ち掛けたのではないかとの印象だった。ところが、IOC側はホームページで2度も彭選手とのテレビ電話での対話を掲載している。こうなると、IOC側の積極的な意図を感じる。

   以下は憶測だ。前述したようにIOCが簡単に五輪を中止しない理由は、IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%だ。その放送権料の50%以上をアメリカの民放テレビ局、NBCが払っている。東京オリンピックと韓国・平昌冬季大会(2018年)を合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦にも及ぶ。そのNBCが東京オリンピックの開催をめぐって、アメリカ国内では批判にさらされた。「NBC Approaches “Moral Hazard” Amid Tokyo Olympics Push During Pandemic」(週刊誌「ザ・ハリウッド・リポーター」6月23日号)、モラル・ハザード(倫理観の欠如)のレベルだ、と。さらに今回の北京オリピックではもともと新疆ウイグル自治区などでの人権問題に加え、彭選手問題が起きた。NBCに対するアメリカの世論は相当厳しいに違いない。

   ある意味でIOCと一心同体の関係にあるNBCはバッハ会長に対して、テレビ電話での対話を入れ知恵した。なぜそう勘繰ったかというと、テレビ電話を使い、会食の約束をするという和みのストーリーは実にテレビ的な発想、演出方法なのだ。ところが、バッハ会長の起用には誤算が生じた。そこで、2回目の対話ではIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(アイスホッケー)ら女性を起用したのではないだろうか。あくまでも憶測だ。

⇒4日(土)午前・金沢の天気     あめ

★「お先棒担ぎ男爵」IOC会長への厳しい目線

★「お先棒担ぎ男爵」IOC会長への厳しい目線

   前回のブログの続き。 中国の元副首相に性的関係を強要されたとSNSで告発し、その後行方が分からなくなっていた女子テニスの彭帥選手がIOCのバッハ会長とビデオ通話を行ったことについて批判が噴出している。

   ロイター通信(日本語版、22日付)によると、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者は「動画で彭選手を確認できたのはよかったが、彼女の健康に問題がないかや、検閲や強制を受けずにコミュニケーションできるかという点についてWTAの懸念を軽減したり、解消したりするものではない」と述べた。IOCとのビデオ通話については「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOCを批判した。

   BBCニュースWeb版(22日付)も「WTA says concerns remain for Chinese tennis star after IOC call」(22日付・BBC)の記事で、アスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」と紹介している。

   また、NHKニュースWeb版(23日付)は、人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は声明を発表し、バッハ会長が彭選手とテレビ電話で対話したと発表したことについて「中国政府のプロパガンダを助長してはならない」と、IOCの対応を批判したと報道している。さらに、テレビ電話の場がどのように経緯で設定されたのかIOCは説明していないと指摘したうえで「IOCは、言論の自由を侵害し、この問題を無視しようとする中国当局と積極的な協力関係に発展した。人権侵害者との関係を重視しているようだ」とのHRWの批判を紹介している。

   そこで、HRWの公式ホームページでこの声明=写真=をチェックすると、中国ではこれまで人権派弁護士やジャーナリスト、ノーベル平和賞受賞者、香港の出版社経営者、実業家らを当局の法に反したとして強制的に失踪していると人権侵害の広がりを指摘している。その上で、IOCに対して以下の要請を行うとしている。「ビデオ電話に関する声明を撤回する」「中国政府の関与の詳細を含め、テレビ電話に致る経緯など公に説明する」「中国政府に対し、彭選手の主張に対する独立した透明な調査を開始する」「中国政府に対し、彭選手が望むなら中国を離れることを許し、中国に残っている家族に報復しないよう強く求める」など。

   HRWのIOCへの要請はまっとうだ。理解しやすい。「一蓮托生」という言葉ある。バッハIOC会長が「お先棒担ぎ男爵」、あるいは「プロパガンダ男爵」として中国とこのまま運命をともにするのか。あるいは、悔い改めて、「ビデオ電話に関する声明を撤回する」のか。この議論はなかなか止まないだろう。北京オリンピックまであと70日余り。

⇒23日(火)夜・金沢の天気      あめ 

☆「ぼったくり男爵」のあせり

☆「ぼったくり男爵」のあせり

   「ぼったく男爵」の異名があるIOCのバッハ会長の名前を久しぶりに目にした。そもそもこの異名は、アメリカのワシントン・ポストWeb版(5月5日付)が「Baron Von Ripper-off」と名指したことに始まる。新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックで、東京オリンピックを開催すべきかどうかで国際世論も揺れているとき、公的な国際組織でもないIOCがひたすら放映権料と最上位スポンサーからの協賛金をせしめていると批判した。この「ぼったく男爵」は世界中に広まった。

   けさのNHKニュースによると、中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていると伝えられているプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手について、IOCのバッハ会長は21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたと発表した。IOC公式ホームページで内容を伝えている=写真=。それによると、バッハ会長と彭選手との対話は30分間に及んだ。彭選手は北京市内の自宅で暮らして無事でいることを説明し、現在はプライバシーへの配慮と家族や友人と一緒にいられることを望んでいると伝えた。また、バッハ会長は北京オリンピック開催前の来年1月に北京に行くので夕食に彭選手を誘い、本人も受け入れたと記載している。

   このニュースを視聴して、多くの視聴者は納得しただろうか。あるいは、世界の人々はこのIOCホームページを見て、率直に受け入れることができただろうか。アメリカは、新疆ウイグル自治区での強制労働を「ジェノサイド」と表現し国際的な人権問題ととらえている。さらに、今回のプロ女子テニスの彭選手の失踪についても問題視し、バイデン大統領は今月19日、来年2月4日に開幕する北京オリンピックについて、政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を検討していると明らかにしている(11月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカだけでなくEUなどもボイコット、あるいは外交的ボイコットへの動きを見せている。

   以下は憶測だ。「ぼったく男爵」としては「オリンピックの開催をめぐる悪夢」が再び訪れているとあせっているに違いない。このまま各国からのボイコットが本格化すれば、北京オリンピックの開催そのものが問われ、放映権料と最上位スポンサーからの協賛金も危うくなると読んでいるのではないか。彭選手は北京の自宅で軟禁状態におかれていることは想像に難くない。それを分かっていながら、中国側の意向を受けてバッハ会長は彭選手との食事の約束をするなど、「演出」に応じたのだろう。

   今回のバッハ会長の振る舞いは強烈なバッシングを広げるのではないか。すでに、国際人権団体グループは放送権を持つアメリカのNBCやイギリスのBBCなど世界各国の26の放送局に、五輪放送は中国政府による人権弾圧の「共犯者」となることを意味するとし、「放送契約の即刻解除」を求める書簡を送っている(9月11日付・朝日新聞Web版)。また、ニューヨーク・タイムズWeb版(11月19日付)は、「Where Is Peng Shuai?」(彭帥はどこへ?)と題した社説で、中国は批判に直面すると「否定し、嘘をつき、しらばくれてやり過ごす。すべてがうまくいかないと猛烈に反撃する」のが常だとして、今回も同様の動きをしていると論評している。それに、「ぼったく男爵」もあせって乗っかっている。

⇒22日(月)午前・金沢の天気     あめ

☆「拉致1号事件」から44年

☆「拉致1号事件」から44年

   北朝鮮による拉致問題はいまだに解決していない。国連総会で人権問題を扱う第3委員会は17日、北朝鮮に対してすべての拉致被害者の即時帰還を求める決議案を採択した。決議案はEUが提出したもので、日本など60ヵ国が共同提案国となった。採択は17年連続となる(11月18日付・NHKニュースWeb版)。拉致被害者は日本だけではない。ヨーロッパではオランダ、フランス、イタリア、ルーマニアなど5ヵ国に及んでいる。アジアでは日本のほか韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、マカオの6つの国・地域だ。

   2002年9月、当時の小泉総理と北朝鮮の金正日総書記による首脳会談で、北朝鮮は長年否定してきた日本人の拉致を認めて謝罪。日本人拉致被害者の5人が帰国した。これがきっかけで日本における拉致事件が徹底調査された。現在、日本政府は北朝鮮に拉致された被害者として17人(5人帰国)を認定しているが、さらに、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者として875人(2020年10月現在)に関して、引き続き捜査や調査を続けている(外務省公式ホームページ「北朝鮮による日本人拉致問題」)。

   日本人拉致の「1号事件」は能登半島の尖端近くで起きた。1977年9月19日の「宇出津(うしつ)事件」だ。これまで事件現場を何度か訪れたことがある。拉致現場は能登町宇出津の遠島山公園の下の入り江だ=写真=。山が海に突き出たような岬で、入り組んだリアス式海岸は風光明媚とされるが、歩くにはアップダウンがきつい。

   同年9月18日、東京都三鷹市の警備員だった久米裕さん(当時52歳)と在日朝鮮人の男(同37歳)はJR三鷹駅を出発。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、宇出津の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時、2人は黒っぽい服装で宿を出た。怪しんだ旅館の経営者は警察に通報し、石川県警の捜査員らが現場に急行した。旅館から歩いて5分ほどの入り江で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が船で姿を現し、久米さんを船に乗せて闇に消えた。男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた捜査員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんが持参していた警棒などが見つかった。

   しかし、当時は拉致事件としては扱われず、公にされなかった。その後、拉致は立て続けに起きた。10月21日に鳥取県では松本京子さん(同29歳)が自宅近くの編み物教室に向かったまま失踪(2号事件)。そして、11月15日、新潟県では下校途中だった横田めぐみさん(同13歳)が日本海に面した町から姿を消した(3号事件)。

   一連の拉致事件を指揮したのが北朝鮮の金日総書記で、日本での実行犯の一人が工作員の辛光洙 (シン・ガンス)だったといわれる。1973年に能登半島・輪島市の猿山岬から不法入国し、以後東京、京都、大阪に居住した。横田めぐみさんの拉致にも関わったとされる。拉致した日本人のパスポートを使って韓国に入り工作活動も行った。1985年に韓国で死刑判決を受け、その後に恩赦で釈放。2000年に北朝鮮に送還された。生きていれば92歳、辛光洙はICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配されている。北朝鮮による拉致事件は終わっていない。

⇒18日(木)夜・金沢の天気       はれ

☆番組の「仕込み」が放送倫理違反になるとき

☆番組の「仕込み」が放送倫理違反になるとき

   テレビ業界ではこれを「仕込み」という。番組側が用意した人物を街角でまたまた見かけた人のように装いインタビューしたり、番組側が用意した質問を視聴者から寄せられた質問として装って番組で紹介することだ。制作者側からすると、番組の流れがスムーズに行くように仕込む、つまり事前に用意しておく。これがなければ「番組に穴があく」ことになる。逆に視聴者側からすれば、こうした仕込みは番組が情報番組であれば、「テレビによる世論操作」と映る。

   きょうの朝日新聞(13日付)によると、テレビ朝日の情報番組「大下容子ワイド!スクランブル」で、番組側が用意した質問を視聴者からと偽った問題があり、BPOの放送倫理検証委員会は12日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議することを決めた。番組では、視聴者の質問に答えるコーナーでことし3月以降、番組側が用意した質問を放送当日に視聴者から寄せられた質問のように偽って紹介したことが計117件あった。10月に番組スタッフの指摘で発覚し、番組内で謝罪した。担当した子会社のチーフディレクターを降職とするなど、関係者が処分された。コーナーは10月18日から放送を休止している。

   テレビ朝日公式ホームページの「大下容子ワイド!スクランブル」=写真=をチェックすると、10月21日付「お知らせ」欄で「不適切な演出について」と題して概要を説明している。この「視聴者からの質問にお答えするコーナー」は月曜日から木曜日の番組終了間際に通常2分ほど放送していた。質問を用意したのは番組のチーフディレクターである社外スタッフ(「テレビ朝日映像」所属)。チーフディレクターは、放送に向けた準備のため、それまでに寄せられた意見や質問を踏まえて放送前に想定質問案を作っていた。今年3月以降、その想定質問を視聴者からの質問として放送に使っていた。。これまで放送した質問のうち約2割が想定質問たっだ。

   先ほどBPOの公式ホームページもチェックしたが、審議入りについての記事はアップされていない。番組の仕込み問題については、BPOがことし1月18日付でフジテレビの番組について意見書を公表している。クイズ番組「超逆境クイズバトル!99人の壁」でエキストラを数合わせて出演させていた問題。番組は、得意分野のクイズで全問正解して賞金100万円獲得を目指すチャレンジャー1人と、それを阻む99人が早押しで競う。ただ、実際には99人を集められず、最も多い回で28人、延べ406人のエキストラを参加させていた(2018年10月から25回放送分)。意見書では、「1人対99人」というコンセプトを信頼した多くの視聴者に対して「約束を裏切るもの」と指摘して放送倫理違反と判断した。

   今回審議入りが決まった「ワイドスクランブル」は最新のニュースや時事、社会、経済問題など広範囲に扱う情報番組だ。自身もよく視聴している。番組サイドが用意した「想定質問」を視聴者からの質問として取り上げていたとなれば、「世論誘導」「世論操作」ではないかと不信感が募る。明らかに放送倫理違反だろう。内部告発によって発覚したことは評価できるが、それにしてもテレビメディア全体への信頼を損ねたことは間違いない。

⇒13日(土)午前・金沢の天気       はれ

★「18歳以下に10万円相当」は財政の「日本沈没」か

★「18歳以下に10万円相当」は財政の「日本沈没」か

   先月発行の月刊誌「文藝春秋」(11月号)の「財務次官、モノ申す 『このままでは国家財政は破綻する』」の記事を再度読んだ。現職の財務事務次官による、強烈な政治家批判だ。原稿は「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。」で始まる。名前は伏せているが、岸田総理が自民党総裁選で主張した「数十兆円もの大規模な経済対策」や、立憲民主党の枝野代表が公約として掲げる「消費税率の引き下げ」などを痛烈に批判している。そして、しめくくりで「日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。」と述べている。

   国庫には無尽蔵にお金があるはずがない。財政規律を唱えて当然だ。しかし、政治家は選挙を前に必死に財政出動を訴える。この記事を再度読み返したのも、自民と公明の両党で協議している「18歳以下の子どもに10万円相当を給付」の件が連日報道され=写真=、はたしてこれが新型コロナウイルスの経済対策となるのかと疑問がわいたからだ。財務事務次官が述べているように、ただの「バラマキ合戦」ではないか。

   きょう特別国会が召集され、第2次岸田内閣が発足する。コロナ禍が収束傾向を見せる中で、その経済対策としての「18歳以下の子どもに10万円相当を給付」がどれほどの効果があるのか、多くの有権者は疑問に思っているに違いない。選挙での公約はあくまでも人気取りだ。支持を得たいがためにバラマキ合戦となるが、ツケは必ず国民に回ってくる。なにしろ、国と地方を合算した長期債務の残高は1200兆円に上り、GDPのおよそ2.2倍。主要先進国の中で群を抜いて高い(「財務省」公式ホームページ)。

   そんな中で、18歳以下の全員に10万円相当を配れば、対象はおよそ2000万人いるので、2兆円程度の補正予算が必要となる。所得制限(年収960万円)が設けられたとしても、バラマキと有権者の目には映るだろう。「はたしてこれがコロナ禍の経済対策か」と。

   アメリカのPR会社「Edelman(エデルマン)」が2020年4月に世界11ヵ国の1万3200人を調査した結果がネットで掲載されている。調査結果によると、中央政府に対する信頼度はトップが中国の95%、2位はインド87%、アメリカは10位の48%、そして日本は最下位の38%だった。先の総選挙で自民党は単独過半数の議席を確保した。ただし、国民の間では借金を重ねる政府の有り方に閉塞感を持っているのではないだろうか。それがこの数字ではないか。そして、冒頭の「日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。」は財政の「日本沈没」を予感をさせる。

⇒10日(水)午前・金沢の天気      あめ