⇒メディア時評

★クマに注意、ズーノーシスに警戒

★クマに注意、ズーノーシスに警戒

    新聞を読むと、このところ毎日のようにクマの目撃情報が掲載されている。きょう19日付でも石川県内のかほく市、津幡町、羽咋市の4ヵ所に現れている。記事によると、羽咋市のある小学校では集団で登下校し、屋外活動は中止、市は防災行政無線で付近住民に注意喚起し、警察署と登下校時にパトロールしている。

   石川県自然環境課が今年4月下旬に行った調査で、県内10ヵ所の山林のうち、8ヵ所でクマのエサとなるブナの実が凶作だった。このことから、県は大量出没の危険があると判断し、今月10日付で人身被害を未然に防止するための「出没警戒準備情報」を発表した(石川県公式サイト「ツキノワグマによる人身被害防止のために」より)。県内では2020年、クマに襲われる人身事故が立て続けに発生して1年間で15人が負傷した。この事態を受け、県はブナの実のなり具合を調べる調査をこれまでの6月と8月の年2回に加え、昨年から4月にも花のつき具合などを調べている。また、県内の各市町では独自に捕獲用の檻を設置するなど対策を進めている。

   山から人里に下りてきているのはクマだけではない。金沢の住宅街にサル、イノシシ、シカが頻繁に出没するようになった。エサ不足に加え、中山間地(里山)と奥山の区別がつかないほど里山が荒れ放題になっていて、野生動物がその領域の見分けがつかず、人里や住宅街に迷い込んでくる、とも言われている。里山の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めている。

   懸念されるのは人身事故だけでない。UNEP(国連環境計画)がまとめた報告書に「ズーノーシス(zoonosis)」という言葉が出てくる。新型コロナウイルスの発生源として論議を呼んでいるコウモリなど動物由来で人にも伝染する感染病を総称してズーノーシス(人畜共通伝染病)と呼ぶ。人間の活動が野生動物の領域であるジャングルなどの山間地に入れば、それだけ野生動物との接触度が増えて、感染リスクが高まる、という内容だ。最近、欧米を中心に感染が懸念されている天然痘に似た感染症「サル痘」、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、HIVなどこれまで人間が罹ってきた感染症はズーノーシスに含まれる。

   少々乱暴な言い方になるが、日本でも「ズーノーシス」が起きるのではないか。ズーノーシスに感染した野生生物が人里や住宅街に頻繁に入ってくることで、新たな感染症がもたらされるかもしれない。

⇒19日(木)夜・金沢の天気      はれ

★プーチン演説から読む「時代錯誤」な感覚

★プーチン演説から読む「時代錯誤」な感覚

   きのう9日、ロシアのプーチン大統領は赤の広場で開催した、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日の式典で演説を行った=写真、9日付・BBCニュースWeb版=。10分間ほどの演説。サイトで見る限りだが、プーチン氏の顔は腫れていて、病的な表情だと感じた。演説内容の日本語訳が新聞・テレビメディア各社のニュースサイトで掲載されている。読んで浮かんだのは「時代錯誤」という言葉だった。

   ウクライナ侵攻は自分たちを守るための行動だったと正当化している点が気になった。「われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ。だからこそ、国際関係におけるあらゆる立場の違いにもかかわらず、ロシアは常に、平等かつ不可分の安全保障体制、すなわち国際社会全体にとって必要不可欠な体制を構築するよう呼びかけてきた」(9日付・NHKニュースWeb版)

   世界を敵に回すような表現だが、これは事実だろうか。「去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかし、すべてはムダだった。NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった」(同)

   史実をひっくり返すような主張も理解できない。「欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている」(同)

   冒頭の「時代錯誤」と感じる点は、ウクライナのゼレンスキー政権をネオナチ政権と呼び、その侵攻を「祖国の未来のため、ナチスを復活させないための戦い」と強調している点だ。相手をナチス呼ばわりすれば、武力侵攻などすべてのことが正当化されるとの主張だ。そして、自ら始めた戦争を人ごとのように語る理不尽さ、これが時代錯誤なのだ。実に無益な行為だ。

⇒10日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆円安・株価深く下振れ 経済の「異常震域」起きるのか

☆円安・株価深く下振れ 経済の「異常震域」起きるのか

   この数字、なんとかならないかと思う。石川県がきょう9日発表した新型コロナウイスの新たな感染者は521人だ。8割近くに当たる412人は感染経路が分かっていない。 年代別では20代が112人で最も多く、10代が100人、30代が95人など若い世代で6割を占める。

   きのう8日は597人だったので2日連続の500人の大台となる。県では体調が優れない場合は出勤や登校を控えるよう呼びかけているが、去年もゴールデンウイーク明けごろから感染が急拡大していた。感染爆発の予兆なのか。ちなみにきょうの東京都は3011人。人口100万人当たりで比較すると東京都は215人、石川県は473人と東京の倍以上だ。

   株価の値下がりが止まらない。きょうの東京株式の日経平均は前週末比で684円安の2万6319円だった。きょうはアメリカのインフレ懸念でFRBが金融引き締めを加速するとの警戒感のようだが、ロシア関連も気になる。ことし1月5日に2万9332円をつけ、上がり相場の気配もあったが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が2月24日に始まって75日、戦況はドロ沼と化している。きょう岸田総理はG7の各国と足並みをそろえてロシア産石油の輸入を原則禁止とする発表した(9日付・NHKニュースWeb版)。日本は原油の輸入の3.6%をロシアに頼っている。これが、さらに経済にどう影響を与えるか。

   そして円安も続く。きょうの外国為替市場で円が対ドルで下落し、1㌦=131円台前半と2002年4月以来およそ20年ぶりの円安・ドル高水準を付けた(同・日経新聞Web版)。

   下振れしているのは数字だけではない。きょう午後5時33分ごろ、伊勢湾の深さ340㌔を震源とする地震があった。これによって東北や関東の広い範囲で震度2や1の揺れを観測した=画像、気象庁「地震情報」=。震源が非常に深かったため震源から離れた広い範囲で揺れが観測される「異常震域」と呼ばれる現象だった。

   同じ現象が去年9月29日にもあった。能登半島の沖で震源の深さ400㌔、マグニチュード6.1の地震があった。これに、北海道、青森、岩手、福島、茨城、埼玉の1道5県の太平洋側で震度3の揺れを観測した。この地震は大陸のユーラシアプレートに沈み込む海洋の太平洋プレートの内部深くで起きたとみられている。震源が深いため、近くよりも、遠くが大きく揺れるのが「異常震域」とされる。円安や株安も深く下振れしている。ひょっとして経済の「異常震域」が起きるのか。

⇒9日(月)夜・金沢の天気     はれ

☆欧米と日本のメディアのどこが違う

☆欧米と日本のメディアのどこが違う

   前回のブログの続き。国際NGO「国境なき記者団」は報道の自由度ランキングだけをやっているわけではない。ウクライナ西部のリビウで、「報道の自由センター」を開設し、紛争地を取材する記者やジャーナリストに対して、インターネット環境やシェルターが整った作業スペースの確保、防弾チョッキやヘルメットの提供など支援を行っている(3月7日付・朝日新聞Web版)。

   きょうの朝刊を読むと=写真=、ロシアのウクライナ侵攻に関する記事は、読売新聞はリビウに派遣された2人の記者が書いている。毎日新聞はニューヨークとワシントンに駐在する記者、朝日新聞はパリとワシントンに駐在する記者、日経新聞はロンドンとワシントンに駐在する記者の記事を掲載している。

   国境なき記者団による日本の報道自由度ランキングが低い理由の一つに、紛争地への記者の派遣が少ないことがこれまで指摘されている。確かに、きょうの紙面を見る限り、ウクライナ関連の現地からの記事は上記の4社のうち1社だ。日本のテレビ局や新聞社、いわゆる「組織ジャーナリズム」は原則として紛争地への記者の派遣を認めていない。組織としては危険な場所に記者を派遣することはコンプライアンス(法令順守)に反するということがベースにある。

   では、紛争地の情報をどう入手するのか、フリーのジャーナリストに依頼する、あるいは海外のメディアや通信社と提携して情報を回してもらうことになる。危険な場所で取材するのはフリーのジャーナリストだ。2015年1月、中東の紛争地域の取材をしていた後藤健二氏がシリアでイスラム過激派によって拘束され殺害された。2012年8月には同じシリアで山本美香氏が、20079月にミャンマーのヤンゴンで映像ジャーナリスト長井健司氏が亡くなっている。こうした日本のメディアの構造的な問題に、とくに欧米のジャーナリストたちはいぶかっている。

   さらに日本の「メディア・スクラム」(集団的過熱取材)も海外のジャーナリストには奇異に映る。ラグビーのスクラムを組んで集中攻撃する様相に似ていることから登場した言葉で、ときには取材が行き過ぎ、威圧的に人々のプライバシーなどを侵害することもこれまで何度か指摘されてきた。簡単に言うと、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の様相だ。もちろん、メディア・スクラムは日本の報道だけの現象ではない。パパラッチという言葉が欧米にもある・・・。

⇒7日(土)午後・金沢の天気    はれ 

★日本の報道自由度は「途上国」並みなのか

★日本の報道自由度は「途上国」並みなのか

   フランスのパリに拠点を置き、世界のジャーナリストたちのNGO組織「国境なき記者団」が発表した「世界報道の自由度指数2022」(180の国と・地域)で、日本のランクは去年より4つ下げて71位だった。自由度ランキングは日本は2010年に11位だったが、年々下がり、ついに71位だ。ちなみに、ほぼ同列に並ぶのは69位のケニア、70位のハイチ、72位のキルギスだ。発展途上国並みという位置づけになる。

   「報道自由度ランキング」は2002年がスタートで、メディアの独立性、多様性と透明性、自主規制、インフラ、法規制などを客観的に数値化して評価している。国内メディアもこのランキングをささやかに報じている。「日本は韓国やオーストラリアと同様に『強まっている大企業の影響力がメディアに自己検閲を促している』として去年から順位を4つ下げて71位に後退しました」(5月4日付・NHKニュースWeb版)

   民間組織によるランク付けとは言え、「国際的な評価」でもある。にもかかわらず、新聞・テレビのメディア各社の報道の扱いは小さい。日本新聞協会や日本放送連盟、NHKはこのランキングに関連して報道の自由を保障するよう声明や抗議文を政府に提出したというニュースは目にしたことがない。なぜか。

   国境なき記者団が日本の報道自由度について問題視しているのは、日本の報道機関のあり様についてなのだ。国境なき記者団の公式サイトの「2022年版」=写真=をチェックすると以下のような記載がある。「 Le système des clubs de presse (kisha clubs), qui n’autorise que les médias établis à accéder aux conférences de presse et aux hauts responsables, pousse les reporters à l’autocensure et représente une discrimination flagrante à l’encontre des journalistes indépendants ou étrangers. 」

   以下意訳する。「日本の報道機関(記者クラブ)のシステムは、確立されたメディアしか記者会見や政府高官にアクセスすることを許さず、記者を自己検閲に追い込んでいる。独立系または外国人ジャーナリストに対する露骨な差別を象徴している」。つまり、記者クラブ制度は排他的であり、自己検閲を記者に仕向けるシステムである、と。上記にある「大企業の影響力がメディアに自己検閲を促している」という事例は掲載されていないが、記者クラブがスポンサーである大企業に忖度して記事の自己検閲を行っている、という意味だろうか。

   記者クラブは新聞・テレビの記者による親睦団体だが、役所の記者会見の窓口機能などの役割をもっている。フリ-ランスや外国人ジャーナリストを記者会見から除外するといったこともない。ただ、「記者クラブ」という部屋は自治体や団体の施設内にあり、これが、外国人ジャーナリストには巣食うメディア・マフィアのサロンのようにも見えるのかもしれない。

⇒6日(金)午前・金沢の天気     はれ

☆無可有な時間(とき)のひとコマ

☆無可有な時間(とき)のひとコマ

   ゴールデンウイークのひとコマ。加賀温泉で湯につかり、のんびりと一夜を過ごした。金沢から温泉に向かう途中の国道8号から、白山が見えた。2702㍍。富士山、立山と並んで日本の三霊山にたとえられる。青空に映えて、まさに白い山。赤瓦の民家と新緑の山々がマッチしている。このアングルに魅(ひ)かれて、車を降りて撮影する=写真・上=。

   予約していた山代温泉の温泉旅館に到着する。すでに、従業員が迎えに出ていた。せっかくなので、いきなり質問をした。「旅館名は『べにや無可有』ですが、このムカユウはどんな意味なのでしょうか」と。すると女性の従業員は「お客様からよく尋ねられるのですが、自然のままで何もないという意味のようです」と。

    和室の部屋に入ると、その意味が少し理解できた。ベランダに出ると外の風景はまるで自然の山庭だ=写真・下=。自然の癒しというものを感じる。旅館のパンフにはこうあった。「荘子に『虚室生白』という言葉があります。部屋はからっぽなほど光が満ちる。何もないところにこそ自由な、とらわれない心がある。『無可有』はそんな荘子のとくに好んだ言葉で、何もないこと、無為であること」

   そこでふと、無可有とは自分のことではないかと思った。大学を退職し、まるでぽっかりと空いたスケジュール表の余白のような時間。ある意味で、空っぽだからこそ自由で満たされた時間がそこにある。そんなことを思いながら、風になびく古木の枝葉を見て、サラサラと温泉がわく音を聞きながら、露天風呂につかる。

⇒5日(木)夕・金沢の天気     はれ   

★「コケの一念」プーチン 「コケにされた」グテーレス

★「コケの一念」プーチン 「コケにされた」グテーレス

   よい表現ではないが、「人をコケにする」という言葉がある。コケの意味を国語辞典で調べると、「こけ(虚仮)」は「愚かなこと」「愚かな人」を意味し、例文として「人をこけにする」は「人をばかにする」の意味。慣用句として「こけの一念」があり、「愚か者が、(たとえ笑われようとも)一つのことをやりとげようと専念すること」。「こけの一念岩をも通す」もある(三省堂『現代新国語辞典』)。

   さらにネットで「虚仮」を検索すると、鎌倉時代の仏教書『歎異抄』の一文が出てきた。「道場にはりぶみをして、なむなむのことしたらんものをば、道場へいるべからず、なんどということ、ひとえに賢善精進の相をほかにしめして、うちには虚仮をいだけるものか」(第十三条)。現代語で「念仏の道場に、禁止事項を書いた紙を貼り、このようなことをした者は、道場に入ってはならない、などということは、ただただ外見には真面目な念仏の行者を装って、内心には虚偽をいだいている者ではないのか」(親鸞仏教センター公式サイト)。

   コケの意味を調べようと思ったきっかけは、国連のグテーレス事務総長が26日、ロシアによる軍事侵攻が始まってから初めてロシアの首都モスクワを訪れプーチン大統領と会談した。話し合いは例の20フィート(約6㍍)離れて向かい合って座るテーブルで行われ=写真、27日付・BBCニュースWeb版=、肝心の停戦については協議にも至らなかった。「平和の使者」であるグテーレス氏はプーチン大統領にコケにされたのではないかとの印象だった。

   念のため、国連公式サイトでグテーレス氏とプーチン氏の会談内容をチェックする。「The President agreed, in principle, to the involvement of the United Nations and the International Committee for the Red Cross in the evacuation of civilians from the Azovstal plant in Mariupol.」(意訳:大統領はマリウポリのアゾフスタル工場地下の民間人の避難に国連と赤十字国際委員会が関与することに原則的に同意した)などと掲載されているものの、停戦交渉についての記述はまったく見当たらない。グテーレス氏はこれまで、ロシアの軍事侵攻は一方的な措置で国連憲章に反していると繰り返し述べてきた。それが、会談ではプーチン大統領に完全に無視されたということだろう。

   話は冒頭に戻る。現在のプーチン大統領のやり様をメディアで見る限り、まさに「コケの一念」ではないだろうか。そして、歎異抄にもあるように「外見には真面目な念仏の行者を装って、内心には虚偽をいだいている者」のようにも思える。ここで、ロシア帝国崩壊の一因をつくった人物の一人とされる「怪僧ラスプーチン」をイメージしてしまう。単なる言葉の連想ゲームではある。

⇒27日(水)夜・金沢の天気     くもり

★背景に「参院無用」論 そっぽの低投票率

★背景に「参院無用」論 そっぽの低投票率

   「夏の参院選の前哨戦」と位置づけられ、各党首らが続々と応援に駆け付けた石川選挙区の補欠選挙の投開票がきのう行われ、自民の前の参院議員で公明推薦を受けた宮本周司氏が、立憲民主や共産など野党の新人3人を破って当選した=写真、24日・NHK金沢「開票速報」より=。宮本氏は2013年の参院比例区で初当選し、2期目の途中で今回の選挙区補選に鞍替え立候補し、3期目の当選を果たした。森喜朗元総理のかつての選挙地盤だった能美市出身の51歳。

   今回の選挙で予想していたことが当たった。投票率の低さ。これまで最低の29.9%(前回2019年参院選47.0%)だった。先の知事選(3月13日)は61.8%だったので、その半数にも満たない。今回の市町別の投票率で一番低いのは金沢市の22.9%だった。この投票率の低さをどう読むか。

   先日、知人たちと喫茶店で話していて、「どうせ今回の選挙は、選挙のための選挙だろう」と冷めた言葉が耳に残った。確かに、今回の選挙は知事選に立候補した自民前職の辞職に伴う補選で、制度ありきの選挙だった。選挙戦も内容が希薄だった。立民の女性候補は「ジェンダー平等と格差是正」、共産の候補は「平和と暮らし守る」、NHK受信料を支払わない国民を守る党の候補は「NHKスクランブル放送の実現」などそれぞれ訴えていたが、コロナ禍における中小企業の新興策を具体的に訴えた宮本氏とは争点になるほど熱気は帯びなかった。知人は「単なる補欠選挙になぜ有権者が日曜日に駆り出されるのか」とも。

   知人らとの議論は深まった。投票率の低下の背景にはもっと大きな理由があるのではないか、と。少子・高齢化で生産年齢人口が減少し、そのうちシニア世代を支える年金制度や社会保障制度がグラついてくる。人口減少が急速に進むローカルではすでに道路や橋梁などインフラが荒廃しつつある。そして、国・地方の長期債務残高が1200兆円に膨らんでいる。自国通貨建ての国債は財政破綻の懸念はないとされるものの、この先、かなりのインフレも懸念される。

   つまり、政府が向き合うべき日本の課題や論点が定まってきた。この先、スピード感を持っての対応が必要だろう。ところが時間がかかる。国会での法案は衆院と参院でそれぞれ賛成多数で決議しなければ成立しない。与野党はこれまで参院で過半数を得るために、タレント議員を増やすなど躍起になってきた。ところが、予算案など重要案件で衆院と参院で判断が分かれた場合、衆院の判断が優先する。いわゆる「衆院の優越」だ。

   出た話の中で「ならば、はたして参院は必要なのか」と。議会制民主主義は国家の基本なのだが、「参院無用」論が飛び出した。「いやいや、腹の底ではそう思っている連中(有権者)も多いよ。オレもその一人」と先の知人。

   7月10日にも投開票が見込まれる参院選。2016年に改正公選法が施行され、選挙権年齢は20歳から18歳以上に引き下げられた。あれから6年、日本の選挙に若者の息吹は感じられるか。先の知人は「親も行かない選挙に子が行くか」とまたもや冷めた言葉が。茶飲み話はここで終了となった。

⇒25日(月)夜・金沢の天気     はれ

☆言葉はリアルタイムに動く

☆言葉はリアルタイムに動く

   「言葉の独り歩き」は今でもよく使われる言葉だ。言葉の本当の意味や前後の文脈が省略されて、言葉のある部分があたかも全体を象徴する言葉として広まる。言葉を発した本人は良くも悪くも「独り歩き」のワンフレ-ズで評価されることになる。この言葉の事例としては悪い意味で使われることが多い。

   朝日新聞Web版(19日付)によると、早稲田大学で16日開かれた社会人向け「デジタル時代のマーケティング総合講座」で、講師を務めた牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役企画本部長が、若い女性の誘客を「生娘をシャブ(薬物)漬け戦略」と称して、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢(むく)、生娘なうちに牛丼中毒にする」などと述べた。この発言がネット上で公開され、吉野家ホールディングスはメディアの取材に「そういった趣旨の発言をしたのは事実」と認め、不適切な発言として謝罪した。

   吉野家公式サイトは「当社役員の不適切発言についてのお詫び」(18日付)を掲載し、「当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません。当人も、発言内容および皆様にご迷惑とご不快な思いをさせたことに深く反省し、主催者側へは講座開催翌日に書面にて反省の意と謝罪をお伝えし、改めて対面にて謝罪予定です」と述べている。

   「シャブ漬け」ではなく「虜(とりこ)にする」という表現だったら言葉が独り歩きをすることもなかったに違ない。おそらく本人はサービス精神が旺盛で、分かりやすい言葉を使ったつもりだったのだろう。社会人向け講義なので少々荒っぽい言葉も許されると勘違いしたのかもしれない。自身の経験知でもあるが、講義をしていてモチベーションが高まってくるとつい余計な言葉が頭に浮かんで使ってしまうことがある。上記のお詫びでは「対面にて謝罪予定」とあるので、記者会見を予定しているようだ。

   同じ石川県出身の森喜朗元総理の発言もこれまで何度か物議を醸してきた。直近だと去年2月3日。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森氏はJOC臨時評議員会で、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディア各社はこの発言を女性差別であり、理事会への女性参画の流れにも逆行すると、世界に向けてニュースを発信した。森氏にはあの「神の国」発言(2000年5月)もある。

   言葉は本人が込めた想いとは裏腹に誤解を生みやすい時代環境になっている。価値観の多様化や、とくに人権意識に富んでいる。語る場にもよるが、政治家や経営者が聴衆に面白く話せば話すほど誤解を生むことにもなりかねない。

   今、NHKニュース速報Web版(12時26分)が入ってきた。「吉野家HD 不適切な発言の役員を解任 都内の大学で女性蔑視の言動と判断」。言葉は独り歩きするだけではない。リアルタイムに動く。

⇒19日(火)午後・金沢の天気    はれ

☆「リアルタイム配信」でテレビ業界はどう変わる

☆「リアルタイム配信」でテレビ業界はどう変わる

   笑福亭鶴瓶が楽屋で「テレビは変わると何年言うてんねん」とつぶやく番宣=写真=が面白い。ようやく、民放テレビの「リアルタイム配信」が動画配信サービス「TⅤer」で始まった。きのう11日からいわゆる「ゴールデンタイム」や「プライムタイム」と呼ばれる、午後7時から11時の高視聴率の時間帯での番組を放送と同時にインターネットでも視聴できるようになった。去年10月2日から日本テレビのリアルタイム配信はスタートしていたが、今回はテレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京の4局に加え、大阪の準キー局の5局も加わって、10局のリアルタイム配信が楽しめるようになった。

   「ようやく」と述べたのも、放送とネットのリアルタイム配信は、NHKが先行して2020年4月1日から「NHK+(プラス)」で始めているので、民放の新サービスはNHKに比べれば2年遅れでもある。

   民放とすれば、タイミングがよかった。新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり」や「在宅ワーク」でテレビの広告需要が高まっている。電通の「2021年 日本の広告費」によると、2021年「テレビメディア広告費」の地上波テレビは1兆7184億円で、前年20年に比べて11%も増えている。また、ネット上の「テレビメディア関連動画広告」も249億円とこれも前年比46%と大きく伸長している。リアルタイム配信はPC、スマホ、タブレットのアプリで視聴できるので、ネットの広告需要を今後さらに取り込むチャンスなのかもしれない。

   おそらく番組そのものもネットユーザーを意識したものに変化していくだろう。これまで地上波の番組は、年代を問わず視聴できる最大公約数のような番組づくりだが、ネットユ-ザーを意識するとターゲットに向けて付加価値をつけていくという番組づくりに傾斜していく。そのうち、シニア世代はこうした番組からは視聴者として意識されなくなるかもしれない。

   さらに、ローカル局は「ポツンと一軒家」化するかもしれない。そもそも、ローカル局には放送法で「県域」という原則があり、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局の系列ローカル局のこと。しかし、リアルタイム配信によって地方や県境を超えて、PCやスマホ、タブレットで東京キー局のゴールデン番組を視聴する時代になった。同じ番組を放送しているローカル局の視聴率は大幅にダウンするだろう。

   これについて、総務省は救済策を講じている。一つのテレビ局が多数の放送局に出資し、経営支配することを避ける「マスメディア集中排除原則」を緩和する方針で動いている。これによって、東京キー局が系列ローカル局を経営の傘下に収めることになる。これによって、地域ごとにローカル局の経営統合も進むかもしれない。たとえば、北陸3県にそれぞれ同じ系列のテレビ局が存在する必要はない。3つの局を1つに統合して、ゴールデンタイムに独自の番組づくりをするテレビ局を新設してもよい。

   リアルタイム配信でテレビ業界は番組コンテンツ、そして経営の新たな転換点に立ったと言えるのではないか。冒頭の鶴瓶のつぶやき通り、テレビは本気で変わってほしい。

⇒12日(火)夜・金沢の天気     はれ