⇒メディア時評

★安倍元総理国葬にプーチンは顔を出す、出さないの論点

★安倍元総理国葬にプーチンは顔を出す、出さないの論点

   前回ブログの続き。安倍元総理の国葬がきょう閣議決定して、9月27日に日本武道館(東京・千代田区)で執り行われることになった。通算8年8ヵ月の総理在任中はとくに外交分野で存在感を示してきた安倍氏だけに、すでに世界各国から弔問希望の問い合わせが外務省に寄せられているのではないだろうか。

   見方を変えれば、岸田総理にとっては外交力を強化するチャンスとも言える。岸田氏はすでに積極的な外交を展開している。先月下旬にドイツで開催されたG7サミットに出席した後、スペインでのNATO首脳会議に日本の総理として初めて出席した。さらに、岸田氏はアメリカのバイデン大統領との共同記者会見で、来年のG7サミットをアメリカの原爆投下地である広島市で開催すると発表した。その「広島G7サミット」は5月19-21日の開催が正式に決まった。

   岸田氏が初めてNATO首脳会議に参加した大義は、自由主義圏という共有概念のもとで、アメリカやヨーロッパ諸国と軍事的にも連携を強めたいということだろう。ロシアによる偽旗を掲げてのウクライナ侵攻、さらに中国による強引な南シナ海の実効支配と尖閣諸島への領海侵犯を重ねて念頭に置いている。岸田氏は、国葬を外交の舞台として繰り広げることで、安倍氏の遺志を引き継ぐことになると「弔問外交」に意義を見出しているに違いない。

   では、このケースはどうかとふと考えてしまうのは、国葬にプーチン大統領が参列したいと申し込んできた場合、政府はどう対応するのだろうか。報道によると、プーチン氏は今月8日、安倍氏の母、洋子さんと妻の昭恵さん宛てに、「息子であり、夫である安倍晋三氏のご逝去にお悔やみを申し上げます」と弔電を送り、「この素晴らしい人物の記憶は、彼を知るすべての人の心に永遠に残る」と述べた(8日付・朝日新聞Web版)。   

   ロシアのウクライナ侵攻後、日本政府はプーチン氏や親戚、ロシアの富裕層ら507人の資産を凍結。在日ロシア大使館の外交官ら8人を国外追放した。これに対して、ロシア側も、同国に駐在する日本外交官8人を国外退去させ、日本の国会議員384人に入国禁止措置を取った。まさに、日本とロシアは絶縁状態となっている。

   この状況の中で、プーチン氏が「彼を知るすべての人の心に永遠に残る」と参列を希望した場合、日本政府は受け入れるのだろうか。もし受ければ、国際世論は相当ぎくしゃくするに違いない。香港問題やウイグル族への強制労働など中国の人権状況に対する批判から北京オリンピックには主要国の政府関係者が出席しない「外交的ボイコット」が繰り広げられたが、国葬にプーチン氏出席となると、それどころではないだろう。

   逆に受け入れて、ウクライナ侵攻の決着を導き出すという「サプライズ外交」を密かに描いているかもしれない。今後、国葬をめぐる論議はこの点にフォーカスしていくだろう。プーチン氏は顔を出すのか、出さないのか。

(※写真は、2016年12月16日、日露首脳会談後に行われた安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見。このとき、安倍氏は「95分間、2人だけで会談を行った」と語っていた=総理官邸、テレビ中継画像)

⇒22日(金)午後・金沢の天気   くもり時々はれ

★マインドコントロールのプロ集団

★マインドコントロールのプロ集団

   カルト問題がまた頭をもたげてきた。安倍元総理の射殺事件で、犯人が恨みを持っていたという「世界平和統一家庭連合」(旧「統一教会」)。もう半世紀も前の話だが、自身も高校生のころにこの教団に洗脳されそうになった経験がある。当時、校門に立っていた金沢大学の医学生だという信者が「人間の幸福とは何か」「生きる幸せとはどういうことか」と問いかけてきて、高校生の胸に刺さった。

   金沢市内の教会に何度か通った。ところが、途中から信者たちの話しぶりが命令口調に変わって来た。「こんなことが理解できないのか」といった見下しの言葉になっていた。教会に通っていたほかの高校生たちも自身と同様に途中で「脱落」した。が、熱心に通っていた生徒もいた。その一人が後に日本の統一教会の会長に就任した徳野英治氏だ。奥能登の出身で純朴そのものだった彼がいつの間にか大人びた話しぶりになっていた。今にして思えば、マインドコントロールのプロ集団の中にどっぷりと染まっていたのだろう。

   高校を卒業してからは会うこともなかったが、再び彼を見たのはテレビだった。統一教会の霊感商法が社会問題となり、2009年2月に警視庁の摘発を受け複数の教団信者が逮捕されるという事件があった。このとき、記者会見で謝罪する徳野氏の姿が報じられた。しかし、徳野氏の謝罪以降も霊感商法は止まっていない。全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、1987年から2021年までの霊感商法による「被害件数」は3万4537件で、「被害総額」は約1237億円に上るという。物販には壺・印鑑・朝鮮人参濃縮液などが用いられている(Wikipedia「全国霊感商法対策弁護士連絡会」より)

   霊感商法で統一教会は摘発を受けたが、当時、さらに問題になっていたことがあった。自民党と統一教会の癒着だ。反共産主義の立場を共有していて、教会側が選挙支援などを行っていた。自民の議員秘書の中には信者が入り込んでいるなどと、当時、新聞メディアなどが報じていた。いまでもその状況は変わっていないのではないだろうか。

   政治と統一教会との関係性をネット検索すると、徳野氏が2016年6月、当時の安倍総理から首相官邸に招待されていた、との記事をいくつか見つけた。また、問題となった安倍総理主催の「桜を見る会」にも2015年と16年に統一教会幹部が招待されていたようだ。相当、政治に食い込んでいたことが分かった。

   「信教の自由」は憲法20条で保障される権利である。しかし、教団という組織に入ってしまうと、基本的な人権や自由は保障されるのだろうか。とくに、カルト教団の組織の中では厳しい上下関係や寄付、さらに政治活動の動員といったことが現実にある。

   統一教会にマインドコントロールされていたのは、むしろ政治家ではなかったか。今回の事件を機に自民党は今後どうこの教団とかかわるのか、毅然とした対応が求められているのではないか。

⇒13日(水)夜・金沢の天気     はれ

★岸田政権のこれから 「黄金の3年」か「乱世」か

★岸田政権のこれから 「黄金の3年」か「乱世」か

  今回の参院選で自民党が単独で63議席を確保して、改選125議席のうち過半数を占めた。メディア各社の事前の世論調査でも報じられていたように、自民の大勝は予想された。NHKの世論調査(7月1-3日)で、岸田内閣を「支持する」は54%だったのに対し、「支持しない」は27%と政権支持は盤石だった。選挙でもそのまま数字で表れた。

  ただ、投票率は低い。共同通信ニュースWeb版によると、全都道府県選管の確定投票率がけさ午前6時半までに出そろい、集計すると全国の投票率は52.05%だった。2回連続の50%割れは回避したが、過去4番目の低さだった。地域でバラつきがある。北陸中日新聞(11日付)によると、石川県では46.41%と全国より5.6ポイント低く、補選4回を含め過去30回行われた参院選で最低の数字となった。

   政府は投票率向上のため、期日前投票制度の導入や、選挙権年齢の18歳以上への引き下げなど制度改正が行ってきたが、1990年代以降は一度も投票率は60%を上回っておらず、低水準にとどまっている。参院の有り様が問われているのではないか。

   今回の選挙結果を受けた報道で気になるのは「黄金の3年」という言葉だ。岸田総理は衆参両院で過半数を維持し、さらに今後3年間、衆院の任期満了を含めて国政選挙をしなくてもよいことから、「黄金の3年」という期間を手にした、という意味のようだ。とくに、衆参両院の3分の2の賛成が必要になる憲法改正案について着手するタイミングではないのかという意味が込められている。憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の盛り込みなど徹底的に議論するにはタイムリーなのかもしれない。

   ただ、岸田政権はこれから先も安泰が続くのか。ロシアや中国、北朝鮮という厄介な隣国との厄介な問題(サハリン2・北方領土、尖閣諸島、核実験など)があり、さらに南海トラフの巨大地震や首都直下地震など天災、そして安倍元総理の狙撃事件が公衆の目前で起きたように、いわゆる乱世に入ったのではないか。そして、世界経済がインフレで混乱している中で、いつまで「異次元の金融緩和」が続くのだろうか。

⇒11日(月)午前・金沢の天気      くもり

★乱世に突入するのか日本

★乱世に突入するのか日本

   安倍元総理が射殺されて世の中が騒然となって、そして一夜が明けた。ブログで振り返ってみると、安倍氏の写真で印象に残っているのはこれかもしれない(2020年8月31日付)。 

   この写真を見て感じたことは、お笑いコンビのようだ、と。写真は総理官邸のツイッター(2019年5月26日付)で公開している。安倍氏(右)とトランプ大統領(左)が千葉県のゴルフ場で自撮りした写真だ。とくに、安倍氏の顔がなんとなく、芸能人っぽく見える。アメリカのCNNニュース(日本版)は「外務省によれば、昼食は米国産の牛肉のダブルチーズバーガーだった。トランプ大統領は相撲観戦も行った。優勝した力士にはトロフィーの上部に翼を広げたワシをあしらった『トランプ杯』も贈呈した」と。安倍氏のきめの細かな外交のテクニックが懐かしく思える。

   不謹慎な表現かもしれないが、今回の事件で日本は乱世の様相を呈してきたのではないかと、ふと思った。銃規制がきびしい日本の社会にあって、専門知識があれば銃や弾を自作できる。それも無尽蔵にだ。これから銃がはびこるのではないか。そして、世の中ではモラルの崩壊が起きている。税金を役人が詐取する事件が横行する。東京国税局の職員が国の持続化給付金をだまし取ったとして6月に詐欺罪で逮捕・起訴されている。去年7月には経産省のキャリア官僚2人が国の家賃支援給付金を詐取して逮捕・起訴されている。学校の教師が児童・生徒に猥褻な行為するという不適切な事象が後を絶たない。

   そして天変地異だ。「いつ起きてもおかしくない」と言われ続けている巨大地震がある。南海トラフ地震だ。四国や近畿、東海地方の広い範囲でマグニチュード8から9クラスで震度6強や6弱の激しい揺れが生じ、死者32万人、負傷者62万と想定されている。この30年の間に70%から80%の確率で起きる(国の地震調査研究推進本部)。さらに、東京の都心南部でマグニチュード7.3の地震が起きた場合、死者は最大で6100人、負傷者は同じく9万3400人、帰宅困難者は453万人、揺れや火災による建物被害は19万4400棟に上ると推計されている(5月25日・東京都防災会議)。

   地震はいつやってくるか分からない。80%の確率だとしても30年後も地震は起きない可能性もある。20%の確率だとしても、あすやってくるかもしれない。

   リアリティがあるのは隣国のリスクだ。ロシア流強奪の論理は日本でもまかり通る。極東の石油天然ガス開発事業「サハリン2」の運営をロシアが新たに設立する法人に移管し、現在の運営会社の資産を無償譲渡するよう命じる大統領令が下された。この事業に参画している三井物産や三菱商事などは経営の枠組みから排除されることになるだろう。そして、ロシア政府は6月7日、北方四島周辺水域での日本漁船の安全操業に関する日ロ政府間協定の停止を表明し、スケソウダラやホッケの刺し網漁ができなくなる。

   さらに、ロシアの政党「公正ロシア」のミロノフ党首が4月1日に「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と党公式サイトを通じて見解を述べた(4月8日付・時事通信Web版)。さまざまな憶測を呼んでいる。中国は尖閣諸島は中国の領土として主張し続けている。8日未明にも、中国海警局の船2隻が尖閣諸島の沖合で、日本の漁船を追いかけるように日本の領海に侵入。7日夜にも64時間余りにわたって領海に侵入した(8日付・NHKニュースWeb版)。

   大量の難民問題も起こりうる。北朝鮮に有事が起これば、大量の難民が発生し、船に乗って逃げるだろう。リマン海流に乗って日本海側に漂着する。そうした難民をどう受け入れるのか、中には武装難民もいるだろう。

   乱世というさまざまなリスクを抱えた時代にこのまま突入するのか。世の中の乱れ、天変地異、隣国のさまざまなリスク・ファクターが集中する日本。安倍氏だったら、どう乗り切るだろうか。

⇒9日(土)夜・金沢の天気    あめ

★群発地震で土煙を上げて細る「珠洲の海」

★群発地震で土煙を上げて細る「珠洲の海」

   群発地震が続く能登半島の珠洲市できょう21日午前10時42分に震度3の地震があった。ショッキングな映像もユーチューブで流れている。観光名所の一つでもある見附島の側面崩落の様子だ。19日午後3時8分の震度6弱、そして20日午前10時31分の震度5強の揺れで、見附島の側面の土煙を上げて側面が崩れた=写真・上=。

   見附島周辺は海水浴場にもなっていて、これまで何度も行ったことがある。高さ28㍍、周囲400㍍の島で、軍艦がこちらに向かってくるかのようなスケール観があるので、「軍艦島」とも呼ばれている。珠洲市は珪藻土の産地で、見附島も珪藻土からなる島で長年の風化や浸食でいまのようなカタチになったとされる。

   見附島の海岸一帯は能登半島国定公園に指定されている。眺めていて面白いのはヘッドの部分の「原生林」だ。珪藻土は雨水を蓄えるため、植物の生育にはとてもよい環境でもあり、クロマツやシイ、ツバキなどが生い茂る。そして、島の森にはカラスやサギ、ウ、カモメなどの鳥も飛び交っている。

   見附島の近くにある海岸べりの公園に、万葉の歌人として知られる大伴家持が珠洲を訪れたときの歌碑がある=写真・下=。「珠洲の海に 朝開きして 漕ぎ来れば 長浜の浦に 月照りにけり」。748年、越中国司だった家持は能登を巡行し、最後の訪問地だった珠洲で朝から船に乗って越中国府に到着したときは夜だったという歌だ。ルートからすれば、船に乗ってしばらくすると見附島の横を通って航行していたはずだ。しかし、見附島を詠んだ歌はない。

   ここからは空想だ。見附島の名前は弘法大師(空海)が佐渡島から珠洲に船で渡ってきたときに名付けたとの言い伝えがある。空海の生まれは宝亀5年(774)なので、家持が珠洲を訪れたのはそれ以前の話だ。つまり、家持の「珠洲の海」は当時この島を称した言葉ではなかったか。文献をベースにした訳ではなく、勝手な解釈である。

   話は冒頭に戻る。見附島は波浪風雨による侵食で岩盤が年々削り落とされている。今回の地震でもさらに側面が崩落した。自然の猛威にさらされながらカタチを変えてきた。何万年とかかって変貌してきた島の歴史の一端を見た思いがした。

⇒21日(火)夜・金沢の天気     くもり

★総理がNATO首脳会談に出席する意義は何なのか

★総理がNATO首脳会談に出席する意義は何なのか

   きのう午後6時からNHKが中継で放送していた岸田総理の記者会見を視聴していた=写真=。淡々と語るその様子は分かりやすい説明で、「有事の価格高騰」に備えて、岸田氏が自らが本部長となり政府内に「物価・賃金・生活総合対策本部」を立ち上げるとの方針は、このところの物価上昇や景気動向に対応する迅速な対応だと思う。

   ただ、納得がいかない点もあった。その一つは、新型コロナウイルスの感染症対策の司令塔機能を強化するため「内閣感染症危機管理庁」を設置するとの表明。さらに、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、アメリカのCDC(疾病対策センター)に相当する「日本版CDC」を創設すると説明した。正直言えば、「いまさら遅い。現状でよい。研究所とセンターに混乱をもたらすだけ」。そう思ったの自身だけだろうか。

   もう一つ、少子化対策として「こども家庭庁」の設置法が成立し、300人規模の準備室を立ち上げる方針を示した。そして、出産費用を助成するため、現在は原則42万円が支給される「出産育児一時金」を「私の判断で大幅に増額する」と述べた。これは聞こえはよいが、現状の42万円はほとんどは「出産一時金」であり、病院に吸い取られている。岸田氏が増額した分は病院に「献上」することになりはしないか。むしろ、「出産」は保険適応、「育児」は幼稚園・保育園の経費無償化などと分けて支援した方が説得力がある。そのためのこども家庭庁ではないだろうか。

   さらに会見では、記者からの質問に岸田氏が戸惑う場面もあった。ジャパン・タイムズの記者が「今回の参院選をひと言で表現すれば、なんという選挙ですか」「勝敗ラインは」と尋ねた。勝敗ラインについては「与党で過半数」とすんなり言葉として出てきた。ところが、選挙(22日公示、7月10日投開票)の日程は迫っているものの、総理の口からは選挙をひと言で表現する言葉がなかなか出てこない。争点として有権者に何を訴えたいのか。結局、明言は避けたカタチとなった。

   道筋はすでにできているはずだ。岸田氏は会見で、6月下旬にドイツで開かれるG7サミットに出席し、その後、スペインで開かれるNATOの首脳会議に日本の総理として初めて出席する旨を明らかにした。ならば、この会議に出席して何を訴えるのか、その意義を語るべきではないのか。ロシアのウクライナ侵攻が象徴するように世界の、そして日本の安全保障環境も大きく変わってきた。参院選を機に、リアリティのある「アンポ」について国民と語るべきではないだろうか。

⇒16日(木)午後・金沢の天気     はれ

★さりげないディスタンス茶席に和の心

★さりげないディスタンス茶席に和の心

   新型コロナウイルス禍の影響で3年ぶりの開催となった金沢の「百万石まつり」(3-5日)に出かけた。このイベントは加賀藩初代の前田利家公が金沢城に入城するのを再現する「百万石行列」がメインで行われ、市内7ヵ所で茶道の各流派が茶席を設ける「百万石茶会」が開催される。出かけた先は7つの茶席の一つの「旧中村邸」。造り酒屋の一族の旧邸宅で、昭和3年(1928)に建てられ、切妻造りの建物は市の指定保存建造物でもある。

   茶席は2階の27畳の大広間。床の間に掛け軸「乕一声清風起(とらいっせい   せいふうおこる)」が掛けられていた=写真=。虎の鳴き声で一陣の清風が吹いて山や海の景色が変わる例えのように、百万石祭りが行われることでコロナ禍で沈んでいる金沢に再びにぎわいが戻ることを期待するという思いが込められているそうだ。茶席の亭主の解説を聞きながら薄茶をいただく。

   コロナ禍での注意も怠りはなかった。参加者の入れ替えなどで人数を制限していた。お菓子とお茶をいただく以外はマスクを着用し、間隔を空けて一定の距離を保つ。これまでのように1つの畳に3人か4人ではなく、「半畳に1人」という間隔を空けて座る。誰かの指示で着座するというより、参加者が自然とソーシャルディスタンスを保ちながら、席入りしていたので心得たものだ。

   3年ぶりの百万石茶会ということもあって、目立ったのは和服姿だった。見たところ女性の8割は和装だった。コロナ禍で和服を着る機会が少なかった。参加者は久しぶりで和の装いを楽しみ、そして茶道を満喫したのではないだろうか。

⇒5日(日)夜・金沢の天気    くもり

★マスメディアは数字にこだわる

★マスメディアは数字にこだわる

   記事やニュースの見出しで数字を見ない日はない。きょうの新聞紙面をチェックすると、一面で「海外協力隊 高まる関心 北陸の説明会応募2.3倍」(北陸中日新聞)と報じている。JICA調べで、北陸3県の説明会の応募累計は68人に上り、2019年春より2.3倍の多さだという記事だ。さらに同じ一面で「災害時トイレ『不足』39% 県庁所在地など 自治体備蓄に限界」(同)は大規模災害に使えるトイレが、金沢市など県庁所在地と政令指定都市の51市のうち39%にあたる20市が「不足する恐れがある」と調査で分かったという内容だ。

   他紙でも、「著作権料 過去2番目の徴収額 昨年度1167億円 JASRAC 配信・サブスク伸びる」(朝日新聞)など。NHKニュースWeb版も「“1.5度”の気温上昇『今後5年間に起きる可能性 50%近く』」「『集中豪雨』の頻度 45年間で2倍余増」と見出しで数字が踊っている。

   では、なぜ記事では数字を多用するのか。ジャーナリズムの鉄則は「形容詞は使わない」ことにある。形容詞は主観的な表現であり、言葉に客観性を持たせるには、数字を用いて言葉に説得性を持たせる。たとえば「高いビル」とはせず、「20階建てのビル」と数字で表現する。上記の「可能性50%近く」は「可能性大いにあり」などと表現はしない。

   先に金沢大学の在任中は特任教授として「メディア論」を講義したが、数字を使っての客観的な表現方法は学生たちにとっては新鮮だったらしく、「小さいころからうまい形容詞を使うとほめられたが、確かに新聞では形容詞を見たことがない。でも、形容詞を使わない文章って難しそうだ。大学の論文でも形容詞は使わないですよね、目が覚めました」などと感想があった。​

   ただ、メディアは数字にこだわりすぎではないかと最近思うことがある。連日紙面で掲載されている「新型コロナウイルス感染者数」だ。都道府県別に累計の感染者数、増えた数、死者数の累計を掲載。地方紙はさらに各市町ごとの総数と増えた数、治療の患者数などを別表で掲載している。NHKも東京の感染者数を連日速報で伝え、それぞれのローカル局も地元の感染者情報を伝えている。

   メディアが発する数字は気になるものだ。しかし、政府はウイルス対策の「まん延防止等重点措置」に関し、東京や大阪、石川など18都道府県への適用を3月21日をもって全面解除している。が、新聞メディアは以降もずっと毎日だ。そこまで数字の掲載にこだわる意義はどこにあるのだろうか。1週間ごとの累計でもよいのではないか。ひょっとして、メディア各社も仕舞いのタイミングを見計らっているのかもしれない、が。

⇒30日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆衆院議長「セクハラ疑惑」むしろ女性記者はどう動くのか

☆衆院議長「セクハラ疑惑」むしろ女性記者はどう動くのか

   この記事の落としどころはいったいどうなるのか、先が読めない。『週刊文春』が報じている衆院議長の細田博之氏による国会担当の女性記者への「セクハラ疑惑」についてだ。今週号(6月2日号)を読んだが、「さもありなん」という印象ではある。ただ、「#Me Too」運動は盛り上がっていて共感を呼ぶものの、「事実無根、訴訟も」と主張する細田氏への決定打が見えない。

   政府中枢のセクハラ問題で思い出すのは、4年前の2018年4月に辞任した、当時の財務省事務次官・福田淳一氏の一件。『週刊新潮』の掲載で、このときも女性記者へのセクハラ問題だった。福田氏は「週刊誌に掲載された記事は事実と異なり、裁判で争う」とセクハラ発言は否定していたものの、音声データがネットで公開され、これが動かぬ証拠となり、本人は辞職した。女性記者はテレビ朝日の記者で、上司に自身のセクハラ体験を記事にすることを進言したが反対され、この案件を音声データとともに週刊新潮に持ち込んだことが同局から説明された。

   冒頭で「先が読めない」と述べたのも、実名による告発、あるいは音声データなど確たる証拠が記事からは読めないからだ。1989年8月に日本で初めてセクハラ被害を問う裁判を起こした福岡県の出版に勤務していた女性は上司の編集長を実名で提訴した。そして、「#Me Too」運動として日本の先端を切ったジャーナリストの伊藤詩織氏も実名を公表して元TBS記者を訴えて勝訴した。

   今回の細田氏のセクハラ疑惑についても、それが必要だろう。ところが、文春の記事を読んで、女性記者たちの「#Me Too」意識がいまいち伝わってこない。財務省事務次官を辞任に追い込んだ、あのテレビ朝日の女性記者の告発へのモチベーションが見えない。

   記者という立場にはジレンマンもある。記者は「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という言葉を先輩たちから聞かされる。権力の内部を知るには、権力内部の人間と意思疎通できる関係性つくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だと解釈している。

   その過程でセクハラのような言葉が先方からあったとしても、女性記者たちには国政に関する重要な情報を得ることが最優先となる。女性記者たちにとって、細田氏は単なる「スケベじじい」なのだが、情報は取りやすい人物なのだろう。女性記者たち自身が告発しなければ文春の記事の結末が見えない。女性記者を議員取材に出しているメディアの対応も問われている。

⇒27日(金)夜・金沢の天気    はれ

☆「バイデン訪日」めがけた弾道ミサイルと核実験の可能性

☆「バイデン訪日」めがけた弾道ミサイルと核実験の可能性

   アメリカのバイデン大統領が20日からの韓国と日本の訪問中に、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射、あるいは核実験に踏み切る可能性があるとアメリカのサリバン大統領補佐官は記者会見で述べたと報道された(5月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカによる衛星観測の結果、過去のICBM発射時に現れたのと同じ兆候(平壌近くの発射場所、発射装備、燃料供給、車両と人員配置など)が確認されたからだ(18日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   ところが、訪韓中に発射はなかった。憶測だが、19日に金正恩総書記のかつての「後継者教育担当」とされた軍の元帥が死去。22日午前4時25分から国葬が営まれた。労働党機関紙「労働新聞」Web版(23日付)には、金総書記が棺を持ち先頭を歩く姿が掲載されている=写真=。国葬が営まれ本人が参列する状況下で、弾道ミサイル発射の指示は出せなかったのだろう。これまで、長距離弾道ミサイルの発射は本人の立ち会いのもとで行われていたからだ。

   では、きょう23日の日米首脳会談、あるいは、24日の東京での日米豪印(クアッド)首脳会合に向けて、弾道ミサイルの発射、あるいは核実験は可能性があるのか。北朝鮮では、新型コロナウイルスとみられる発熱症の感染拡大が止まない。金総書記は「建国以来の大動乱」と位置づけ、今月12日にロックダウンの徹底を指示した。国民にはワクチン接種が施されず、医薬品も不足し、医療制度そのものも貧弱とされる。国内の食糧は限られていて多くの人々は栄養失調の状態にあり、ロックダウンが徹底されれば、国民が瀕死の状態に追い込まれることは想像に難くない。常識で考えれば、この状態下で弾道ミサイルの発射、あるいは核実験はないだろう。

   しかし、WHOは北朝鮮にデータや情報の共有を求め、検査キットや医薬品、ワクチンなどを供給することを伝えたが、北朝鮮は「政府による決定」としてワクチン接種などを拒んでいる(19日付・ニューズウイークWeb版日本語)。国際社会の支援を受け入れれば、道義上からも弾道ミサイル発射や核実験はできないだろうが、薬草による治療などで自力更生の立場を貫いている以上はありうる。ここが北朝鮮の怖いところかもしれない。

   新潟日報Web版(22日付)によると、林外務大臣は新潟市内で講演し、北朝鮮への支援を検討する必要があるとの認識を示し、「あそこの国とは国交もない。だから放っておけばいいとはなかなかならない」と述べた。北朝鮮による拉致被害の原点でもある場所であり、支援を表明することで解決の糸口をつかみたいとのメッセージを込めたのだろう。気持ちは理解できるが、果たしてこのメッセージは伝わるのだろうか。

⇒23日(月)午後・金沢の天気     はれ