⇒ニュース走査

★「ミモレットの誤解」と選挙

★「ミモレットの誤解」と選挙

   森喜朗元総理のあの「干からびたチーズ」の映像は何度見ても面白い。実に滑稽なのだ。この人が映画俳優だったらいぶし銀のいい味を出す名脇役になっていたに違いない。

    今月6日夜、小泉総理に衆院解散を思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と拒否された。その会談で出たのが缶ビールとツマミの「干からびた」チーズだった。会談後、森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールと干からびたチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。あの映像を見た視聴者は「小泉は命をかけているんだ、本気だな」との印象を強くしたのではないか。選挙のドラマのエピローグはここから始まったように思えてならない。

    この話には後日談があって、あの干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。ミモレットはカラスミに似た深い味わいで日本酒にもあう。18カ月もので100㌘750円ほど。干からびた風合いが一番おいしいそうだ。もし、森氏が「小泉さんが高級チーズで歓待してくれたよ」と自慢していれば、国民の反感を買って、今ごろ小泉総理に逆風が吹いていただろう。そう考えると、ひょっとしてこれは日本の政治史に「ミモレットの誤解」として語り継がれるかもしれない。

    マスメディアはそれぞれ1週間ぐらいの間隔で世論調査を行い選挙動向を分析しているが、各種の調査は内閣支持率が50%を超えたと伝えている。インターネットでもいろいろなアンケート調査があり、たとえば「goo」のブログサイトが行っている公開アンケートでは、小泉総理による「郵政解散を支持するか、しないか」の設問がある。24日現在で「支持する」が68%、「支持しない」が27%でダブルスコア以上に差が開いている。インターネットを利用するのは比較的若い世代なので、この調査からは若い世代の考えのおおまかな傾向をつかむことができる。

    さらにちょっと踏み込んで考えてみると、今回の選挙は「デジタルっぽい」感じがする。「郵政民営化」にイエスかノーか、すべての小選挙区に賛成の候補(自民)と反対の候補(自民造反組、民主ほか)がいる。「0」 と「1」 とで表現されるデジタル信号のようにも考えられ、今回の選挙はインターネットとの親和性が随分あるようにも思える。そして、「白黒をつける」という分かりやすさが内閣支持率を押し上げているのではないかと考えたりもする。もちろん、小選挙区は「ドブ板」と「しがらみ」のアナログ的な要素があり、デジタルっぽさが内閣支持率を押し上げたとしても投票行動とは必ずしもリンクしない。こうした諸条件を勘案すると、「内閣支持率50%超え」という世論調査はそこそこに的を得た数字ではないかと思う。

    選挙が行われる9月11日まであと17日。TVメディアはそろそろ当日の選挙特番の打ち合わせに入るころ。番組タイトルは「YESかノーか小泉郵政民営化、国民の審判下る!~選挙劇場ライブ2005~」といった感じだ。そして番組構成として、冒頭にこれまでの選挙の「振り返り」VTRを流す。5分ぐらい。そのVTRのスタートのシーンは例の森氏の「干からびたチーズ」のはずだ。VTRが終わると西日本の四国や山陰あたりの小選挙区の当確の速報が早々と流れ始め、大勢の判明は午後11時ごろ。選挙結果を受けての番組第2部の討論コーナーのスタートは11時半ごろか。

 ⇒25日(木)朝・金沢の天気   晴れ

☆ブログと選挙とホリエモン

☆ブログと選挙とホリエモン

    来月26日と27日に「放送ゼミ」の集中講義があり、学生に夏休みの宿題を出した。テーマはズバリ、「2005年総選挙でインターネットのブログはどのような役割を果たしたか検証せよ」だ。

     本来の選挙スケジュールにはなかった総選挙が降って湧いたようにやってきた。これは、マスコミを志望する学生にとってチャンスだ。在学中に選挙というものを考え、ディスカッションするということは就職活動の筆記や面接に役立つだけでなく、選挙と切ろうにも切れない人生を送るわけだからとてもプラスになる。「選挙は民主主義の普遍的なテーマなのだ」と学生に発破をかけた。

    その論点として、日本において選挙に積極的に参加する意思の現れとして「勝手連」や「草の根選挙」といった市民の自発的行動があった。ところが、文明の利器としてのインターネットが1980年代から勃興し、いまではブログという個人がコストをかけなくても自由に意見発表ができるツールにまで発展した。日本でも335万人(総務省調べ・3月末)のブロガーがいて、その数は日ごとに増えるという盛り上がりを見せている。このブログ層が選挙に及ぼす影響についてきちんと分析することは今後の選挙のあり方を考える上で重要なポイントとなる。ブログが全盛期を迎えて初めての国政選挙だけに、おそらく各大学の計量政治学のゼミも取り組み始めている横一線の研究だと推測する。

     ところで、ライブドアの堀江貴文社長が「どうせなら亀井静香氏の対抗馬になりたい」と意欲を燃やしているという。「どうせ買収するならフジテレビ」と言ったあのツボ狙いの感覚が今回も。名を得ずとも、実をしっかりと獲得するホリエモンはすでにこの時点で勝っている。というのも堀江氏の「出馬」でライブドアのホームページのページビュー(閲覧数)はこの8月で月間5億に達する、と業界筋は読んでいる。

     ここで選挙日程と、選挙でどこまでインターネットが使えるか確認する。総選挙の公示は8月30日、投票は9月11日だ。公職選挙法では、公示日から投票日までは立候補者や政党はホームページの更新や開設が原則禁止となる。候補者はもちろん、関係のない個人であってもメールやブログ、掲示板で特定候補への投票呼びかけは禁止である(違反した場合、2年以下の禁固、もしくは50万円以下の罰金)。つまり、堀江氏がインターネットをフルに活用できるのは8月29日までとなる。全般的に言って、今回の総選挙は8月29日までに白黒がつく可能性がある。選挙の争点がはっきりしていて、案外有権者に迷いは少ない。小選挙区で候補者が出そろった段階で勝負が決まるのではないか。「1」か「0」か。これを「デジタル選挙」と言っては早計に失するかもしれないが・・・。

 ⇒19日(金)朝・金沢の天気    晴れ

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

   終戦記念日の15日、小泉総理は東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、日本武道館で開かれた全国戦没者追悼式にも出席したが、靖国神社への参拝は見送った。10日の「自在コラム」でも述べたように、衆院選で靖国問題が争点化するのを避けたいとの現実的な判断があったのだろう。

    ちょっと意地悪な見方をする。郵政民営化反対派の急先鋒、野田聖子氏は14日に夫の鶴保庸介氏(参議員)と靖国神社を参拝した。私はこの「夫婦参拝」を小泉総理を15日に参拝させるためのおびき出し作戦ではなかったか、と見ている。「8月15日の靖国参拝」を公約に掲げて総理に就任した2001年、小泉総理は中国の反発に配慮して8月13日に参拝した。このとき野田氏は「総理の初心が変節されたのか。いつもの歯切れの良さとは異なり、総理ご自身が日程変更の理由を明確に説明されなかったことを私は残念に思っています」(野田氏ホームページ)と批判している。そこで夫婦参拝を前日に行うことによって、「郵政民営化の公約にそれほどこだわるなら、8月15日参拝の公約も守ってよ」と挑発したのではないかとの推測だ。真意はどうであれ、小泉総理は動かなかった。

    小泉総理のこうした徹底した「郵政」争点化の狙いは的中している。最新のTBS系列のJNN世論調査(13、14日実施)によると、内閣支持率は59.3%、不支持は39.8%である。解散直後の各メディアの内閣支持率は50%前後だったから、日ごとに支持が高まっているとの印象だ。有権者にとっては、小泉総理が自ら軍旗を掲げて関が原の戦いに臨む武将のイメージと重なり、実に分かりやすい。要は「西か東か」、つまり「民営化賛成か反対か」なのである。

    この分かりやすさで、内閣支持率を押し上げているのはインターネットのブログではないかと思う。争点がはっきりしているので、ブログのテーマになりやすい。つまり書き手自らの旗色を鮮明にしやすい。しかも、善玉と悪玉と言っては語弊があるが、両陣営の顔が見えてキャラクターも立っている。こんなにストリーが読める面白い選挙はかつてない。そこで、たとえば「小泉陣営=郵政民営化賛成」に共感したある人がブログを書いたとする。そのブログに50人のアクセスIP数(訪問者数)があり、読んでくれたとすると、乱暴な言い方かもしれないが、「50人のミニ集会」が成立したと同じことにならないか。

    かつて「勝手連」や「草の根」と言われた無数の選挙サポーターがいまブログという手法で参戦しているのではないか。総務省の調査だと、2005年3月末時点の国内ブログ利用者数は延べ335万人、アクティブブログ利用者(少なくとも月に1度はブログを更新しているユーザ)数は95万人いて、日々その数は増えている。今回いろいろなブログをざっと見てみると、「郵政民営化賛成」が多い。このブログ・サポーターが世論形成のベースにいて、内閣支持率を押し上げている要因の一つになっているように思えてならない。もちろん数字的な裏付けはない。ただ、ピーク時に比べ減ったものの「小泉内閣メールマガジン」は160万人に配信されている。しかもそのメルマガは200号を数えた。毎週配信されるメルマガで小泉総理の言動をウオッチし共鳴するコアなサポーター層も存在するのである。

    選挙後こうしたブログ現象と選挙結果が分析され、リンクしていたことが評価されると、「ブログはメディアにのし上がった」と一気に脚光を浴びる。評価されなければ、単なる個人日記にすぎない。

⇒16日(火)朝・金沢の天気   晴れ    

★「キャッチコピー」で読む選挙

★「キャッチコピー」で読む選挙

     きのう(14日)は衆院解散後初めての日曜日とあって、NHKや民放の朝の討論番組は選挙一色だった。今回の一連の流れをメディアに焦点を当て注意深く読んでみると、メディアで報じられた登場人物の「言葉の魔力」というものを感じる。「自民党をぶっ壊す」「殺されてもいい」が注目された衆院解散、その直後の総理会見で「ガレリオは『それでも地球は動く』と言った、私は『それでも郵政民営化は必要だ』と言いたい」と述べ、内閣支持率を一気に上げた。前から言われていたが、小泉総理はキャッチコピーの名人だ。

    ところが、郵政民営化反対派からもキャッチコピーは発せられるものの「名人」がいない。反対のドン・綿貫民輔氏は、すべての反対者の小選挙区に自民が対抗馬を立てることについて「小泉さんは織田信長。罪のない子女まで殺した比叡山・延暦寺の焼き打ちと似てきた」と。綿貫氏はもともと神主だから「宗教弾圧」をイメージして言葉を発したのだろうけれども、視聴者や読者で「延暦寺の焼き打ち」と聞いてピンとくる人はそう多くない。これでは印象に残らない。もう一人の亀井静香氏はきのう、自民から非公認とされた反対派の受け皿とする新党結成について、番組の中で「どうやったら仲間が一人でも生き延びていくか。無所属がいいか、新党でいくべきか、結論は出していないが」と語った。強気の面構えだったが、言葉はすでに萎(な)えていた。視聴者は敏感にそう読み取っただろう。

     では、野党はどうか。きのうは各番組とも与野党の党首討論を企画したが、自民は「マニフェストがまだ完成していない」との理由で同じ討論のテーブルに着かず、野党だけが顔をそろえた。小泉総理に代わり、幹事長代理の安倍晋三氏や元副総理の山崎拓氏らが中継で顔を出していたが、欠席は自民の深謀だろう。野党は当然、年金改革はどうだ、靖国参拝はどうだと、論点を郵政民営化から外しにかかる。ましてや「8月15日」を前に野党から大声を上げられたら小泉総理も3対1で形勢が不利となる。テレビ出演は公の仕事でも義務でもない。もちろん「公の党首は国民に向かって説明する責任があるのでは」と番組プロデューサーは自民サイドと交渉を重ねたに違いない。しかし、命運がかかる「いくさ」を前にそのキャッチコピーがどれほどの説得力を持ったのか。

     番組で傑作だったのは、野党党首の討論の直後に出演した石原慎太郎東京都知事の発言だ。野党党首の発言を聞きながらスタジオの片隅で出番を待っていたので「つまんなかったから、眠くなったよ」と。さらに「(今度の選挙で)社民は消えるね、共産は減らすね」と。さらに亀井氏から新党の党首になってほしいとの要請があったことをあっさりと暴露し、「(亀井氏らは)私怨に満ちているよ」とも。短いフレーズながら、討論の感想と選挙分析、幻の新党の裏話がコミカルにそして鋭く刻み込まれていた。トータルの秒数にして20秒だったろう。言葉の力というのは表現もさることながら、タイミングとスピード感であったりする。

 ⇒15日(月)午前・金沢の天気  雨      

☆ドン綿貫氏の選挙の行方

☆ドン綿貫氏の選挙の行方

  すさまじいばかりの「民営化反対派つぶし」、と思われて仕方がないくらいに小泉総理は対立候補の擁立に躍起である。これに対し「安政の大獄か。意見が違う者を全部抹殺する気か」(亀井静香氏)や、「ヘビのように執念深い」(綿貫民輔氏)と感情をむき出しにするのも理解できる。テレビの取材ならこの言葉はぜひほしいところだ。しかし、マスメディアの政治担当なら小泉総理の意図をこう読んでいるはずだ。「造反者」の選挙区にあえて対抗する候補者を出し、マスコミの「注目の選挙区」に仕立てる。これによって、郵政民営化に反対か賛成かの争点をさらにブラッシュアップする意図だろうと。東京10区の小林興起氏に対し小池百合子氏を、静岡7区の城内実氏に財務省の片山さつき氏をと話題性のある人物をカードとして次々と切っているのはこのためだ。

     ところで、小泉総理に一つのフライングがあった。きょう(12日)比例区南関東ブロックへの重複立候補はしない考えを党の選挙担当者に伝えた。総理はこれまで党神奈川県連の要請を受け入れ、比例と小選挙区の重複立候補の意向を表明していたが、公選法が禁じる事前運動に当たるため、総理が映った掲示済みの党のポスターを南関東地域からすべて撤去する必要があり取りやめにしたとか。公選法もさることながら、他県で「小泉」と書かかれた比例の無効票が続出しては損だ、との判断もあるようだ。

     先日、石川1区、馳浩(はせ・ひろし)氏の有力なサポーターと話をする機会があった。馳氏が退路を断って比例代表には重複せず、小選挙区のみ立候補をめざすと宣言したことに、ちょっと悩んでいた。「1万の票の差ですよ」と。前回2003年11月は投票率59%で民主の奥田建氏が99868票、馳氏97075票だった。両者が競った攻防のように思われるが、実は前回は馳氏の票には公明の支援票が8000票加算されていた。従って、2800票余りの差であるように見えても、馳氏にとっては10800票の差で敗れたに等しい。というのは、さらにその前回2000年6月は投票率64%で馳氏が107179票、奥田氏が100392票だった。この時は公明の支援票がなくても勝った。保守基盤の強い金沢で1万票余りを奪還するには時間もかかるがその時間が今回はないので、その有力サポーターは「無理せず、比例と重複したら…」と言う。しかし生真面目な馳氏のことである。前言を撤回せず名実ともに走り回って選挙戦を戦うだろう。

     それにしても郵政民営化反対のドン、綿貫民輔氏の富山3区の公認問題は結論が出ない。結局、自民県連は12日に県連役員が上京して、党本部に対し、比例を含め3人が公認申請している現状を報告することにした。これでは県連そのものが分裂すると窮状を訴えるためだ。しかし、党本部の武部幹事長は11日午前の会見でも都道府県連が郵政民営化法案に反対した議員の公認や推薦を申請してきても絶対に受け付けない考えを強調していて、富山県連との協議に党本部が応じるかどうか…。なぜなら、綿貫氏の対抗馬となりそうな萩山教厳氏(前回比例単独)は亀井派に所属しているが、郵政法案には賛成した。党本部とすれば、「敵陣」で踏ん張った人物である。萩山氏にこそぜひ小選挙区にくら替え出馬させ、綿貫氏に戦いを挑んでほしいところだろう。少々地味だが「注目の選挙区」となる。

     「対抗馬」だの「敵陣」だのと書いていると、まるで関が原の合戦前夜の時代小説でも書いているような気分になる。そして、ここ数日の「自在コラム」へのIPアクセス(訪問者数)が普段の2倍にもなっている。タイトルに「選挙」と入れているから検索で引っかかってくるのだろう。このブログサイトが混み合うくらい情報が行き交っている。かつての「草の根選挙」に代わる、日本における初めての「ブログ選挙」となるかもしれないと私は注目している。

⇒12日(金)午後・金沢の天気  雨

★退路断つ、選挙の人生模様

★退路断つ、選挙の人生模様

   きょう(11日)届いた「小泉内閣メールマガジン第200号」の「総理メッセージ」で、小泉総理は郵政解散の意義をこう述べている。以下は抜粋。

   約400年前、ガリレオ・ガリレイは、天動説の中で地球は動くという地動説を発表して、有罪判決を受けました。そのとき、ガリレオは、「それでも地球は動く」と言ったそうです。今、国会では「郵政民営化は必要ない」という結論を出しました。「それでも郵政民営化は必要だ」と私は思います。私はもう一度国民の皆さんに聞いてみたいと思います。本当に郵便局の仕事は公務員でなければできないのか、民間人でやってはいけないのかと。

                   ◇

   今回の「解散・総選挙」を流れを見て、高校時代に世界史をかじった人ならこんなシーンをイメージしたかもしれない。1917年3月、食糧危機から暴動が起こり、ロシアの皇帝ニコライ2世が退位し、ロマノフ朝は滅亡する。翌4月16日にレーニンが亡命先スイスからペトログラードに帰還、4日後に「4月テーゼ」を発表し、「すべての権力を会議(ソビエト)へ」と声明を発する。11月、第2回全ロシア労働者・兵士ソヴィエト大会が開催され、革命に反対するメンシェビキと社会革命党右派は大会から退場した。ボルシェビキが圧倒的多数を占め、ソビエト権力の樹立が宣言された。ここで採択されたのが、地主による土地所有を廃止する「土地に関する布告」であった。レーニンを小泉総理、土地を郵政と置き換えて考えると面白い。あくまでも政治のダイナミズムを考察する上での一つのイメージである。理論づけではない。

今回の総選挙でさまざまな人間模様が交錯している。前回、石川1区で民主の奥田建氏に敗れ、比例代表で当選した自民の馳浩(はせ・ひろし)氏は、今回は比例代表の退路を絶って小選挙区一本で選挙を戦いたいと決意を述べた。前回敗れたとき、「自分は甘かった」と随分後悔していた。今回は、比例代表を担保することなく、小選挙区で勝負しようというのである。これはこれで覚悟が見えて潔い。逆に小泉総理は比例代表に疑問を投げかけ、これまで神奈川11区の小選挙区のみに立候補していた。今回は比例と重複出馬を決めたようだ。知名度が抜群の小泉氏が比例にも回れば大量得票が期待できる。信念ではなく実利を得る。

    郵政民営化反対の頭目、綿貫民輔氏の富山3区は悩ましい。綿貫氏は自民県連の重鎮である。今回の比例の萩山教厳氏と綿貫氏がともに県連に公認申請している。党本部へも綿貫氏へも義理立てしなければならない県連の心境はいかばかりか。綿貫氏は78歳である。この年齢もまた悩ましい。

⇒11日(木)午後・金沢の天気   くもり  

★「郵政選挙」と農村の風景

★「郵政選挙」と農村の風景

   随分とすっきりしたのではないか。小泉政権の命運を賭けた郵政民営化法案が参院本会議で、足元の自民からの大量造反で否決されたことを踏まえ、衆院解散・総選挙へと一気に展開した。衆院選の日程は8月30日公示、9月11日投開票と決まった。今回は、前回(2003年10月)の「マニフェスト選挙」などといったある種のムードではなく、「郵政民営化は是か非か」という争点がはっきりした選挙なので分かりやすい。従って、無関心層やシラケ組も多く投票率は低いだろう。

   なぜ「すっきり」としているのか。「大辞林」(三省堂)によれば、「すっきり」とは「よけいなものがなく、あかぬけしているさま」「煩わしいことがなくて、気持ちのよいさま。さっぱり」「筋が通っているさま。わかりやすいさま。はっきり」などの意味がある。私はこの場合の「すっきり」を「煩わしいことがなく…」の意味で使いたい。この意味の使用例として「腐れ縁を切って…(と)した」をよく使う。小泉総理は衆院本会議で反対票を投じた自民の37人を公認しない方針だ。14人の欠席・棄権者は郵政民営化に関する意向を確認し、明確な賛成者だけを公認するという。そうした、ピュアな自民党で選挙に勝って郵政民営化法案を再提出するという戦略だ。つまり、足を引っ張る民営化反対者との腐れ縁を切りたいのである。この意味で「すっきり選挙」と名付けたい。

    写真は小泉総理が腐れ縁を切りたいと願っている反対論者の頭目、綿貫民輔氏の選挙地盤である富山県五箇山の菅沼合掌集落である。世界遺産に指定されているだけあって、手前の溜め池、合掌造り、背後の山並みの景色は日本人の心の故郷のようにも想う。綿貫氏はよく「民営化で山里の郵便局がなくなる云々」というフレーズを使う。綿貫氏の山里とは、選挙地盤でもあるこの風景なのである。もう一人の反対論の急先鋒、荒井広幸氏も福島県の農村に生まれた。

    綿貫氏にしても荒井氏にしても、この美しい農村を郵政民営化という資本主義の波で洗ってはいけないという発想が根底にあるのではないか。尊王攘夷か佐幕かで血で血を洗った明治維新も確固たる理論戦でぶつかったというより、前に進む者と、守ろう(既得権ではない)とする者のイマジネーションのぶつかり合いだったと考えられなくもない。

    明治維新を論ずるのは本意ではない。ズバリ、どの党がどう勝つのかである。今回の総選挙が民主党に有利に働くかといえば決してそうではない。争点が「郵政民営化、行財政改革、小さな政府」だから、むしろ民主は郵政民営化に反対の分だけ不利となる。もともと民主党には民営化賛成の議員もいたのである。神奈川県知事になった松沢成文氏のように。支持層の中にも民営化シンパは相当いると推測する。そこで、有権者が「なぜ、民主は反対なのか」と自問して出す答えが、労組の存在である。それは自分が考える民主のイメージとは違うではないか、と思い始めたとたんに心がさめる。民主は相当難しい論点整理の必要性に迫られる。これを間違うと、綿貫氏らと同類と見なされるだろう。

⇒9日(火)夕・金沢の天気  晴れ  

☆イチロー選手の言葉

☆イチロー選手の言葉

   全国高校野球選手権の第2試合をテレビで観戦すると結構忙しい。7日の第2試合は地元・石川の遊学館と秋田の秋田商だ。まず地元民放のHAB北陸朝日放送にチャンネルを合わせた。カメラワークはABC朝日放送(大阪)だが、実況と解説はHABがやっている。HABの場合はローカル大会の1回戦から実況し、そして甲子園に臨んでいるので、地元チームの実況となると裏局のNHKとは思い入れが随分違うのである。ともあれ、HABは11時50分に全国ニュースに入り、チャンネルはNHK総合に。今度はNHK総合が11時54分にニュース&天気に入るためにNHK教育に。HABの全国ニュースが終わる12時00分にはNHK教育からHABに戻って、と10分間に3回の「チャンネルサーフィン」となる。

    試合は遊学館が秋田商を8-6で振り切った。遊学館らしい固め打ちで大量点を築いた。1回裏、遊学館は相手エラーの1アウト1、3塁で4番鈴木のタイムリーが出て1点、5番井原も2点タイムリーで3点を先制した。5回にも2点。7回には3番江川のタイムリーなど4本のヒットで8-1と大きくリードを広げた。上位打線がきっちりと仕事をした。先発は、去年甲子園のマウンドを経験しているエース曽根だった。8回までよく投げ、2番手の番匠と交代、9回の1アウト満塁のピンチに再びマウンドに登りよく踏ん張った。初戦の功労者は曽根だろう。

    しかし、私はむしろ秋田商の健闘を称えたい。3回表で、ローカル大会を一人で投げ抜いたエースの佐藤が走塁中に送球を頭(右こめかみ)に受けて負傷し交代した時、どれほどの動揺が選手に走ったことか。そして、8-1とリードされながらも8回に2点、9回に2度も満塁のチャンスをつくり、2点差にまで迫った。試合を投げたそぶりは誰も見せなかった。アメリカ大リーグ、マリナーズのイチロー選手の口癖は「負けている中でも粘りがないと、次の可能性は見えてこない」だ。最後までチャンスを狙うマインドが大切だ、との意味だろう。エース負傷という予期せぬアクシデントの逆境の中で粘りに粘った、「次の可能性」を感じさせるマインドの高いチームなのだ。

    遊学館の2回戦は8日目の第1試合(予定では13日)、宮城の東北と対戦する。あのダルビッシュはもういない。去年の雪辱を果たしてほしい。

⇒8日(月)朝・金沢の天気 晴れ

★大学に在り、政変を想う

★大学に在り、政変を想う

   私が勤める金沢大学はこの6日から夏休みに入った。大学行きのバスは大幅に間引かれ(夏季ダイヤ)、乗客も少ない。キャンパスではTシャツ姿の学生がまばらに行き交う。合宿でも始まるのか、学生が重そうにオーケストラの楽器を運んでいた。学生1万700人、教職員3500人の「この町」は蝉時雨の音が妙に大きく響く。

   人間の脳というのは不思議なものだ。野にあっては街を想い、夜にあっては昼を想う。静寂にあっては喧騒を想い、学問の場にあっては政争の国会を想ったりする。でも人間はなぜこのように逆の場面をイメージしてしまうのか理由が分からなかった。またまた、司馬遼太郎のエッセイや講演録をまとめた「司馬遼太郎の考えたこと・7」(新潮文庫・平成17年6月1日発行)の中の「願望の風景」を読んでいると面白い下りがあった。司馬さんの家の周囲で(選挙か)マイクなどが響いて騒がしかったので、高野山の宿坊を借りて、日本近世の小説を書こうとしたが、結局、一字も書けず下山してしまったというエピソードである。桧皮葺(ひわだぶき)の屋根や床柱の黒漆など、目に見える宿坊そのものが中世の風景で、肝心の頭の中での中世の風景描写が湧いてこなかったというのだ。司馬さんは「心理学的にはごくあたりまえの願望現象ではないか」と結んでいる。

    前置きが長くなった。郵政民営化のことである。テレビ局の報道を離れて(今年1月退職)、むしろ政治の動きに鋭敏になったような気がする。テレビ局時代は椅子に腰掛けていても「永田町の情報」が入ってきた。それがなくなった分、たとえば「小泉内閣メールマガジン」(毎週木曜日に配信)を丹念に読んでいる。特に小泉総理が発する郵政民営化についてのコメントはその行間まで読んでしまう。

    以下、行間からにじみ出た小泉総理の本音を読む。「一国の首相が5年間、情熱を傾けてやろうしてきた郵政民営化の公約が果たせないのであれば、日本という国の将来ビジョンを語る政治家は誰もいなくなる。金と技術はある、が、夢やビジョンがないからこの国は閉塞している。これまでタブーとされてきた郵政民営化を突破するだけで、この国の政治の未来は随分と明るくなるのだ。自民党が頑迷固陋の輩(やから)で支配されるのならば壊す。8日に。私は政界の突破者(とっぱもの)である」

    あす8月8日、参院本会議での郵政民営化法案の採決後に「政変」が始まり、学生がキャンパスに戻ってくる9月の終わりには政界地図が大きく塗り変わっている。

⇒7日(日)午前・金沢の天気  晴れ

★試合に勝ち勝負に負ける

★試合に勝ち勝負に負ける

   「勝つためにどう努力するかだ」。1992年(平成4年)、夏の甲子園球場で石川代表の星稜高・松井秀喜選手に「連続5敬遠」という物議を醸した高知代表の明徳義塾の馬淵史郎監督は当時、マスコミのインタビューでこう語っていたのを覚えている。明徳義塾はその10年後の2002年に全国優勝、去年まで戦後最多の7年連続出場を果たし、強豪にのし上がった。そして今年の大会で部員の不祥事で前代未聞の全国出場辞退(4日)という不名誉な記録をつくった。以下、新聞紙面で拾った辞退までの26日間のドキュメント。

【7月9日】明徳義塾の野球部寮内のボイラー室で、たばこの吸い殻2本が見つかる。キャプテンが全部員を集める。1年生と2年生のおよそ10人が喫煙を申し出る。馬淵監督は、自主申告であり、また、集団喫煙ではないとして学校には届けなかった。

【7月15日】1年生部員の保護者が野球部寮を訪ねてきて、「子どもが暴行を受けているので学校をやめる」と訴える。

【7月16日】全国高校野球選手権高知大会が開会。開会式の終了後、馬淵監督はいじめた側の部員6人とその保護者らと、大阪のいじめられた部員の保護者宅を訪ねて謝罪。学校側は被害者側に入学金や寮費、教科書代などを返還した。

【7月末~8月3日】高知県高野連などへ匿名の投書が寄せられ、一連の不祥事が判明。日本高野連は高知県高野連を通じて事実を確認し、馬淵監督に対する事情聴取を行う。

【8月3日】組み合わせ抽選会で、明徳義塾は大会5日目に日大三高(西東京)との対戦決まる。

【8月4日】午前中、明徳義塾が大会本部に出場辞退を申し入れ。大阪の宿舎で、馬淵監督が選手を集め、辞退を伝える。日本高野連は午後、臨時審議委員会と同運営委員会を開き、大会規定により高知大会での明徳義塾高の優勝を取り消し、準優勝だった高知高を優勝校と決定し、午後2時半、高知高に電話で出場を要請した。午後3時、大阪市西区の日本高野連で馬淵監督が記者会見に臨み、辞任の意向を表明した。

    馬淵監督は、「勝つため」にあらゆる手段を講じていたことが分かる。いめじた側の部員6人と保護者、学校関係者ら少なくもと13人を擁した謝罪行動(7月16日)などはその真骨頂であろう。しかし、馬淵監督はここで被害者心理を読み違えたのではないか。推測だから確かではないが、監督はここでいじめた側の生徒の親に謝らせた。その証拠に「6人の親たちは慰謝料を払った」との報道もある。しかし、被害者とその親が本当に問うたのは監督の管理責任だったはずである。配下の選手や親を手駒のように使い、手段を選ばず「勝ちに急ぐ」。13年前の「連続5敬遠」と同じパターンではないか。「試合に勝って勝負に負ける」。歴史を繰り返したにすぎない。ただし、今回は名実ともに敗れた。

⇒5日(金)夜・金沢の天気 晴れ