⇒ニュース走査

★変わる時代の雰囲気

★変わる時代の雰囲気

  民主党の代表選は、小沢一郎氏(63)と菅直人氏(59)の争いとなる。7日に行われる代表選に向けて立候補を表明したが、現段階では、保守系や旧社会党系などに支持を広げる小沢氏が優勢と見られている。

 5日の記者会見を見る限り、ともに自民党との対立軸の明確化を強調し、送金メール問題で傷ついた党の「再生」を掲げていた。が、小沢氏は前副代表、そして菅氏は元代表なのでテレビで映るその姿や主張には新鮮味が感じられなかった。ちょっと酷な言い方かも知れないが、「時代が戻った」という印象なのだ。

 この懸念は自民党に対しても同じだ。おそらく小沢氏が代表になれば、9月の自民党総裁選にも影響が及ぶだろう。「小沢氏に対抗できるベテランを総裁に」との逆ネジ作用が働くからだ。そうなると人気が高い若手の安倍晋三氏の線が弱まり、福田康夫氏(元官房長官)らベテランが党内では浮上してくるに違いない。

 こうなると、経済でも若手の堀江貴文・ライブドア前社長が失速しており、政治からも経済からも若さが失われたような印象になる。ベテランが悪いと言っているのではない。時代の雰囲気に若さを欠くと、意識の上で停滞が起きる。それがなんとも暗く重く、鬱蒼(うっそう)としたように感じるものだ。そんな予感がしてならない。

⇒5日(水)夜・金沢の天気  くもり

☆「次の次」を読む

☆「次の次」を読む

 代表辞任を表明した民主党の前原誠司氏はきょう2日のテレビ番組などに出演していたが、精彩を欠いていた。去年9月18日、前原氏が新代表になった翌日にたまたま京都を訪れた。比叡山のふもとから大原にかけてが前原氏の選挙区でもあり、選挙用ポスターがまだ貼ってあった。そこで初めて、ここが民主の新代表の地盤と知ったのだ。あれから半年余りでの辞任劇である。しかし、これも対応を誤り国政を揺るがせた政治プロセスの一つと冷静に理解すれば当然の帰結なのだろう。

 2月23日付「自在コラム」の「★完結・『真偽の攻防』を読む」で今回の偽メール問題の行く末を読み解いた。大筋で外れていない。新しい代表が小沢一郎氏で決まればほぼ読み通りだ。きょう2日、小松空港に家人を車で送った帰り、小松市内を走っていて、去年9月の総選挙のポスターを見つけた。そのポスターにたまたま小沢氏が映っていたので携帯電話のカメラで撮影した。古びたポスターであるものの、「次なる時の人」が映っていると価値が出てくる。

 しかし、小沢氏はどちらかというと「黒幕」の人である。表に立つとかえって外交や安全保障で党内が鮮明に割れて収拾がつかなくなる懸念がある。それでもこの人が立たないとおそらくいまの民主党は治まらない。そこで党内のバランス論で菅直人氏が幹事長に就任という線が出てくる。

 そして問題は自民である。仮に民主が小沢氏ならば、9月の自民党総裁選は安倍晋三氏に有利に働くのだろうか。自民党内でもバランス感覚が働いて、「小沢氏に対抗できるもう少し毒気のある人物を」いう党内の雰囲気が出てくると、安倍氏の立場は微妙になる。「次の次」を読むポイントではこの点ではないかと思う。

⇒2日(日)夜・金沢の天気  くもり

☆波乱、薄氷の勝利

☆波乱、薄氷の勝利

  今週の話題はなんと言っても、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本がキューバを下して「初代世界一」になったことだろう。2次リーグではアメリカ戦で「誤審騒動」もあって1勝2敗と苦しんだ。しかし、アメリカがメキシコに敗れる波乱もあり、2位で準決勝に進出。今大会では2戦2勝している韓国に6-0で雪辱して決勝進出と、運も手伝った薄氷の勝利だった。

  ところで、連日のWBCの大見出しに他のニュースはかき消されたかのような感じのこの一週間だったが、石川県でもヒヤヒヤの勝利があった。19日に投開票された石川県議補選で、森喜朗前総理の長男、祐喜氏(41)=自民新人、森氏の地元秘書=が相手候補に405票の僅差で逃げ切った。

  この県議補選では、森前総理は出陣式でもマイクは握らず、ただ支持者に頭を下げているだけだった。その代わり、公示前後に麻生外務大臣、安倍官房長官、自民党の中川政調会長らそうそうたるメンバーが選挙区に入り、まるで国政選挙並みの応援だった。競り合った相手候補は無所属新人の53歳、現在は建築設計士で元県職労委員長だった人。激戦を反映して、投票率は同時に行われた県知事選(40.10%)をはるかに上回る70.28%だった。

  僅差で逃げ切った祐喜氏だが、敗れた相手の方が敗戦の弁に勢いがあった。「勝敗では負けたが、選挙では負けてはいない」と。なぜか。森氏の地元である能美市では、祐喜氏の11728票に対し、相手方は12085票と357票上回っているのである。テレビのインタビューで、森氏の選挙参謀が「17日の総決起大会で予想外に多くの参加があり、気が緩んだのではないか」と分析していたのが印象的だった。

  今回は県議補選。一年後に県議選があり、両者の熾(し)烈な選挙はもう始まっているのかもしれない。

⇒24日(金)午後・金沢の天気  はれ

★「露呈したこと」3題

★「露呈したこと」3題

  ひょんなことから事件は発覚する。すると事件の本筋ではないがそこに隠されていたいろいろな物事まで露呈することがある。最近の事件や事故を振り返る。

   みずほ証券によるジェイコム株の誤発注で12月8日の市場が混乱した。今回のミステイクで被ったみずほ証券の損失は400億円にものぼると言われ、逆に複数の証券会社が莫大な利益を上げた。その金額はUBSグループの120億円を筆頭に、モルガン・スタンレー14億円、日興コーディアル証券グループ、リーマン・ブラザーズ証券グループがそれぞれ10億円、CSFB証券グループ9億円、野村證券3億円と推定されている。利益を出したこれらの証券会社はアメリカ資本系が多く、「火事場泥棒」とまで言われているが、ある意味でこの数字が日本の証券業界における実力ランキングなのだ。ここで分かったことはかつて「世界のノムラ」と名声を博した野村がいかに利益の出せない証券会社になってしまっているか、ということだろう。

   胚性幹細胞(ES細胞)の捏造問題で揺れる韓国。中央日報の日本語インターネット版によると、黄禹錫(ファン・ウソック)ソウル大教授の研究パートナーが黄教授に内緒で、04年4月にES細胞の関連特許を米特許庁(USPTO)に出願していたことが明らかになったと米ピッツバーグ・トリビューン・レビュー紙が報じた。これは、黄教授が関連特許を世界知的財産権機構(WIPO)に出願する8カ月も前のこと。ちゃっかりと特許出願していたのは、ジェラルド・シャッテン米ピッツバーグ大教授。両教授は03年からES細胞研究を共同で行ってきた。捏造問題のニュースが世界に流れ、アメリカの地元の新聞社がスクープした。捏造、抜け駆け、この研究分野の熾(し)烈な裏側が透けて見え、凄まじい。

   四季の中で一番命を落としやすい季節が冬だ。去年12月以降の日本海側を中心とした大雪による死者が相次いでいる。9日も秋田、新潟、福井の3県で除雪作業中のお年寄り2人と50代の会社員の3人の死亡した。共同通信の集計で16道県計71人(9日現在)にも上っている。71人が雪で死ぬ事態、これは天災ではないのか…。何かとニュースになる鳥インフルエンザによる死亡者数(世界の合計)は累積でどのくらいか。ちなみに人口12億の「大陸中国」では8人である。それにしても「列島大雪」で71人、痛ましい数字だ。

⇒10日(火)朝・金沢の天気   くもり  

☆「セルフ」で考えたこと

☆「セルフ」で考えたこと

  数量で表記するのと、手から伝わる実感の違いは大きい。先日、金沢市内でセルフのガソリンスタンドを使った。これまで給油はスタンド任せだったが、これだけガソリンが高騰すると、疎い私でも経済観念が働く。スタンド店員に教えてもらい、ほぼキャッシュディスペンサー(現金自動支払機)の感覚でピッピッと手続き。あとは、静電気除去装置に触れて、給油ガンを差し込みレバーを握るだけ。

   51㍑のガソリンが入ったが、その1分か2分の給油時間がとても長く感じられ、複雑な気持ちになった。ドクドクとガソリンが注ぎ込まれる音と振動がする。地球の資源である化石燃料を消費しているとの実感が手から伝わってくるのである。これまではスタンド任せだったので、金額しか眼中になかった。

   別の精算機で領収書のバーコードをかざすとつり銭が出てくる。計算をしよう。51㍑で税込み6218円、つまり1㍑当たり122円である。セルフを利用する前は、1㍑何円は高いか安いかという発想になったに違いない。しかし、今回はこれだけの化石燃料を使って乗用車を動かす価値はあるのだろうか、などと考えてしまった。ある意味でセルフスタンドはリアル感を伴った環境教育の場になるかもしれない。

  きょうで10月も終わり。あすから兼六園で冬支度の雪つりが始まる。季節は移ろう。

 ⇒31日(月)朝・金沢の天気   はれ   

★「岩、動く」「もはや運命」

★「岩、動く」「もはや運命」

                                                         インターネットのフリー百科事典「ウィキペディア」で、「岩城宏之」と検索すると、「…近年の顕著な活動としては、2004年12月31日のお昼から翌2005年1月1日の深夜にかけて、東京文化会館でベートーヴェンの全交響曲を一人で指揮したのが知られている」と記されている。クラシック界のことをきちんと理解し評価できる人が執筆していると思う。

  8月に肺の手術を受け療養中だったオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督で指揮者の岩城宏之さんがきのう(4日)、金沢市での復帰公演となる「モーツアルトフェスティバルIN金沢」(6日)を前に記者会見をした。今回で25回目の手術。岩城さんが音楽堂のオフィスに入るや、スタッフから拍手が沸き起こった。声の張りも以前と変わらず。その気迫に私は、「不死身(ふじみ)」という長らく忘れていた言葉を思い出した。石川県立音楽堂での記者会見の1時間ほど前に岩城さんにお目にかかることができた。時間にして15分間ほど。

  今回お目にかかって改めて岩城さんの超人ぶりに心を揺さぶられた。上の2枚のチラシを見ていただきたい。チラシは表と裏の一枚チラシなのだが、岩城さんの生き様を2つの意味で表現している。向かって左は「岩、動く」「岩城宏之、大いに暴れる」のキャッチコピー。10月30日のコンサート(東京)のチラシだ。最初、選挙ポスター風のチラシなので、9月11日の総選挙のパロディー版だと思った。そこで私の方から「面白いコピーですね」と水を向けた。すると意外な言葉が返ってきた。「あと10年、周囲は無理せず穏やかにと言う。これでは面白くないと思ってね、三枝さんの所で暴れることにしたんだ」(岩城さん)。なんと10月から、これまで自らつくり育てた所属事務所「東京コンサーツ」から、作曲家の三枝成彰氏の事務所「メイ・コーポレーション」に移籍したのである。「大いに暴れる」ために「岩、動く」(つまり移籍)。これは「移籍記念」コンサートのチラシなのだ。

  もう一枚のチラシ。「もはや運命」「岩城宏之ベートーベン第一から第九まで振るマラソン」。ことしも12月31日、東京芸術劇場で9時間かけて、ベートーベンの全交響曲を指揮する。ウィキペディアで記載されたように、評価が定まった偉業をことしもさらに続ける。あくなき挑戦だ。「チャンスを見てヨーロッパに。三枝さんは誇大妄想だから」と笑う。額面どおり受け止めれば、西洋クラシックの総本山、ヨーロッパに乗り込んでベートーベンの第一番から第九番までのチクルス(連続演奏)をやる、そのために身柄を三枝さんに預けたと言うのである。入院中にこの壮大なプランが生まれたのか。73歳、岩城さんから鬼気迫るものを感じた。

  手術を25回もして、「生きる」とか「生き抜く」というレベルを超越して、オーラがみなぎっている。岩城さんの凄まじい生き様を文章表現することは私には到底できない。この眼で見届けてみたいと願うだけである。たまにその様子を描写してみたいとも思う。

⇒5日(水)朝・金沢の天気  くもり

☆自民1強、ロイヤルサルートの夜

☆自民1強、ロイヤルサルートの夜

    総選挙の大スペクタクルをテレビで「観戦」するのを楽しみにしていた。昨夜はとっておきのスコッチ(「ロイヤル・サルート21Y」)をそばに置いて、刻一刻と積み上がる数字を自分なりに楽しんだ。何しろこれまで総選挙の時はテレビモニターの向こう側のテレビ局で慌ただしくしていた。ゆっくりテレビ観戦というのはとても贅沢な時の流れのように思えた。で、スコッチを傍らに置いた。

    結果は自民の圧勝。「自民296議席」だが、実質「297」だ。比例代表の東京ブロックで、自民は8議席を獲得できる票を得ながら、重複立候補の小選挙区当選者を除く名簿登載者が7人しかいなかったため、1議席は結果的に社民党に割り振られたのだ。これは誰も予想しなかった。都市部での自民支持のすさまじさが数字となって現れたかっこうだ。

    話題をローカルに転ずる。きのう(11日)午前、金沢は土砂降りだった。石川県加賀地方には大雨洪水警報が発表された。北信越高校野球の県大会も6試合のうち5試合が雨で順延となった。当然、投票の出足に影響をもたらすと想われたがフタを開けてみると、石川1区は68.71%(前回59.58%)と9ポイントも上回った。予想外の投票率。そして自民の馳浩氏が2万9千票余りも差をつけて民主の奥田建氏を振り切った。投票率の上昇効果で無党派層を取り込んだのは自民だった。 

   圧勝した小池百合子氏(東京10区)やかろうじて逃げ切った片山さつき氏(静岡7区)、健闘した堀江貴文氏(広島6区)の戦いぶりを見ると、もはや「地盤」や「看板」という選挙のキーワードは通用しなくなったように思える。この結果を見て、投票前に会った元金沢市会議員のNさんの言葉を思い出した。N氏はこう言った。「市会議員は県のことを、県議は国のことを、国会議員は世界と日本のことを考えるべきだ。有権者はそう願っているのではないか」と。つまり大きなテーマで1票を投ずることの醍醐味を有権者は味わいたいのである。日本の選挙は「しがらみ」や「地縁」という旧態依然としたあり方を超えて、本来あるべき政治の姿へと脱皮したのではないか。

   テレビを見ていて、小泉総理の言葉が耳に残った。「民主の失敗は郵政民営化に反対したことだ」。そして、視覚として残ったのは、小池百合子氏と小宮悦子キャスターの2人はとても顔が似てきたこと。後者はロイヤル・サルートの酔いのせいかもしれない。自民の1強時代に入った。組閣も早いだろう。

⇒12日(月)朝・金沢の天気  晴れ

★静かなる怒りの1票

★静かなる怒りの1票

きょう期日前投票(不在者投票)を済ませてきた。投票日の9月11日は所用があるからだ。というより、「早く選挙がしたい」と思ったからかもしれない。同じような思いをもった人が多いらしく、総務省によれば、8月31日から9月4日までに期日前投票を済ませた人は全国で201万人余り。2003年11月の前回衆院選で同時期の不在者投票者数を集計していた21都府県で比べると投票者数は前回より62.4%も増えているのだ。

   きょうは自宅近くの金沢市泉野福祉健康センターで投票した。1階が「投票所」になっていて、入ると宣誓書を書かされる。期日前投票をする理由を選んで○をつける。私の場合、「仕事」が理由だ。ほかに氏名、生年月日、住所などを記入する。次の受付で小選挙区、比例代表、最高裁判事の国民審査の3種の投票用紙が渡される。あとはいよいよ投票だ。石川1区だから、仮に投票率が65%として、23万分の1程度のことなのだが、ちょっと緊張する。心のどこかで「オレの1票が」との思いが潜んでいるのだろう。期日前投票は午前8時30分から午後8時まで行われている。

   ところで、「清き1票」を済ませて、外に出ると、中年とおぼしき女性2人がおしゃべりをしていた。2人の横を通り過ぎるとき、1人の女性が「あんなん、懲らしめてやらんとね…」と言っているのが聞こえた。残念ながら前後の会話は分からなかったが、選挙の話であることは雰囲気で理解できた。戻って聞けるはずもない。ただ想像するだけである。「小泉総理のやり方は横暴だ。だから、あんなん…」となったのか、あるいは、「民主党はなんでも反対して改革が前へ進まない。だから、あんなん…」となったのか。

   きょういっしょにお茶を飲んだ友人が言うには、会社の若い社員(女性)がきのう期日前投票を済ませたらしい。「今度ばかりはと思って初めて投票をした」とちょっと興奮気味にしゃべっていたという。「今度ばかりは」の言葉の前後はいったい何なのか。「懲らしめてやる」「今度ばかりは」という言葉は怒りの表現である。何の怒りが有権者を期日前投票に駆り立ているのか。偶然にも耳にしたこれらの言葉は案外、今回の総選挙のキーワードなのかもしれない。

⇒6日(火)夜・金沢の天気   くもり

★「ミモレットの約束」と同調

★「ミモレットの約束」と同調

   この「ミモレット」をめぐる選挙のコラムは3部作シリーズのようになってしまった。意図したわけではない。選挙をめぐる動きが急なのである。

   さて、25日夜の小泉総理、総裁派閥会長の森氏、武部党幹事長による会食では、ミモレットを話題にしながらも次なる選挙の秘策が交わされたと私は推測している。会食は、民主の小沢氏が「年金問題」をクローズアップさせるため「一対一の党首討論」を持ち出してきたことがきっかけだった。会食の席で、森氏は「総理も年金を一本化すると派手にぶち上げたらいい」と提案した。しかし、小泉総理は「総裁任期は来年9月までと公言しており、法案整備に数年かかる年金問題をいま声高に持ち出せば、野党が矛盾だと突いてくる」と渋った。そこで、森氏が「任期延長(小泉続投)もありうる」と地ならしをした上で、選挙最終盤になって小泉総理が「郵政民営化法案の可決後に直ちに年金一本化に着手する」とぶち上げ一気に追い込みに入る、というシナリオが出来上がった。話がまとまり、会食に集った自民首脳はほくそ笑みながら「選挙に勝ってミモレットをツマミに祝杯を上げよう」と約束した。私はこの推論上の秘策のシナリオを「ミモレットの約束」と名付けることにした。

    話はローカルになる。25日午前10時ごろ、金沢大学角間キャンパスにある郵便局の前を横切ると、「奥田と言います。よろしく」とパンフを渡された。ふいだったので思わず手に取った。顔を見ると、郵便局から出てきたのは石川1区の民主・奥田建氏本人だった。かつて取材したことがあり、「奥田さん大変ですね」と今度はこちらから声をかけた。すると本人は「本当に大変なんです。よろしくお願いします」と。会話はそこまで。本人は足早に次の郵便局へあいさつ回りに向かった。

    なぜ2日前の話を持ち出したかというと、小泉総理がきのう26日夕、自民党本部で記者団の質問に答えた内容が気になったからだ。 衆院選で与党が勝利した場合、郵政民営化法案への対応から民主が分裂して一部が自民に合流する可能性について、「民主党の中でも、本音では民営化賛成の人がかなりいるだろう」と総理が自信ありげに語ったという記事だ。奥田氏のように多くの民主の候補者は公示以前からこまめに郵便局回りをしているはずだ。ということは、逆にいま郵便局回りをしていない民主の候補者はひょっとして当選後に造反する可能性があると見てよい。これは私の推測だ。

       経団連が自民支持を鮮明に打ち出すとの記事も先日流れた。かつての「総資本VS総労働」(自民VS民主)の構図が浮き上がってきた。郵政民営化に賛成か反対か、労働側の支援を受けるのか受けないのか。いくつかの対立軸のはざ間で相当動揺している「自民に近い民主」の人たちも確かにいるだろう。関が原の戦いで、同調に躊躇(ちゅうちょ)していた小早川秀秋が、徳川家康に大砲を撃ち込まれた。「決断せい」とのシグナルと受け取った小早川軍勢が西軍に反旗を翻し、これが西軍全体の動揺となり総崩れとなる。

    先の小泉総理の言葉は、同調者を揺さぶり出すと言っているようにも聞こえる。選挙後にどのような「決断の大砲」を撃ち込むのか。選挙という戦(いくさ)はリアリズムに満ちあふれている。この膨大なリアリズムの糸の中から本筋をたどり、切れている箇所を冷静に推論しながら繋いでいく。すると一本に繋がったリアリズムの糸の先に近未来のシナリオが見えてくることがある。その「発見」はささやかな喜びにもなる。

⇒27日(土)夕・金沢の天気    晴れ

☆「ミモレットの和解」と計略

☆「ミモレットの和解」と計略

   きのう25日付の「自在コラム」で「ミモレットの誤解」をテーマに、「干からびたチーズ」の映像からこの選挙のドラマが始まった印象があるとの内容のコラムを書いた。偶然にも、昨夜は「ミモレットの和解」が演出されたようだ。けさの新聞記事によれば、小泉総理が25日夜、自民党本部で森前総理と夕食をともにした。今月6日夜に首相公邸で衆院解散の是非をめぐり激論、決裂して以来とのこと。今回は「豪華な弁当」が出たこともあってか、森氏も機嫌を直したとある。例の、森氏が不平を漏らした干からびたチーズについては、小泉総理が「高級チーズだとは知らなかった」などと一応先輩を立てるかたちで釈明し、「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束し和解したらしい。

    しかし、この会食で交わされた会話は「ミモレットの和解」だけだったのだろうか。小泉総理が自民党本部で武部勤幹事長と協議していた森氏を誘うかたちで会食が実現したとある。つまり、党本部で総理、総裁派閥の長、党幹事長の3人が話し合ったということだ。「豪華な弁当」というから、おそらく料亭から取り寄せた箱型の仕出し弁当だろう。おかずは10品ほど、フルーツもつくから30分は夕食をたべながら話す時間があったはず。「和解」の会話は数分そこそこ、では残りの20数分で何を話し合ったのか。ヒントは森氏がこの日、テレビ朝日の番組収録で語った内容とリンクしている。来年9月までの小泉総理の党総裁任期について、森氏は「党の改革をここまでやったのだから、改革を続けなければいけない。(総選挙に)勝ったら少し余裕を持ってやったらいい」と総裁続投を示唆した(朝日新聞インターネット版)。選挙後の党の体制について言及したのだが、公示前のタイミングでは早過ぎる。以下は私の想像だ。森氏は小泉総理にある決断を迫った。その決断の前提条件として総裁任期の延長を持ち出している、と読む。

    森氏が総理に迫った決断とは何か。民主の小沢一郎氏の動きを睨んだ対応である。会食と同じ25日、民主の藤井裕久代表代行らが自民党本部を訪れ、岡田代表と小泉総理との一対一の公開討論会に応じるよう求める文書を提出した。しかし、自民の武部幹事長は「自民と民主だけでの党首討論は、他の政党に公平ではない。機会均等という観点から慎むべきだ」(記者会見)と拒否する考えを示した。民主の提案した一対一の公開討論会は、有権者の関心事を年金問題にひきつけようとの作戦だろう。「郵政では勝てない」と焦った小沢氏の計略。だから腹心の藤井氏が動いた。

  各党のマニフェストを見比べると、年金問題に関しては、民主は「議員年金を直ちに廃止」とした上で「すべての年金を一元化する」と言い切っている。それに比べ、自民は「公務員を含めたサラリーマンの年金制度の一元化を推進する」としており、民主よりトーンは低い。解散から公示まで22日間と長い。前哨戦では郵政民営化でリードした自民だが、途中で「年金」の旗を掲げる民主の巻き返しも予想される。自民にとっては公示以降の後半戦のテーマをどう設定するかが急務なのだ。

   以下はフィクションである。この日の会食で、森氏は「年金の一本化を民主より声高に打ち出したらどうか」と進言した。これに対し、小泉総理は「(総裁は)来年9月までと公言している。年金改革は数年かかる。これは矛盾だと野党から突っ込まれる」と渋った。森氏は「それだったら、改革のために総裁続投も躊躇(ちゅうちょ)せずと公言すればいい。選挙に勝たなきゃ意味がないじゃないか」と決断を促した。小泉総理もようやく「郵政改革を成し遂げ直ちに年金改革に着手する」とぶち上げると肝(はら)を固めた。協議の結果、その日を投票の3日前と決めた。選挙戦の最終盤で一気に「まくり」に入る。年金問題でなんとか命脈(マニフェスト)を保っている民主の息の根を断つ、というシナリオだ。テレビ朝日の番組収録で「小泉続投」を滲ませたのは森氏の得意とする地ならしだ。

    表向き「ミモレットの和解」の傍ら上記のような選挙の秘策が交わされていたとしても不自然ではない。冒頭の新聞記事では、会食で「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束したとある。私の推測ではそれに続く言葉があったはずだ。(小泉総理)「森さん、歯が立つように薄く切ったミモレットをツマミに祝杯を上げましょう」

⇒26日(金)午前・金沢の天気   雨