⇒ニュース走査

★MRJが能登空港に

★MRJが能登空港に

   先日(14日)、能登空港ターミナルビル(輪島市)に会議で出向くと、ビルの3階の展望台が人だかりになっていた。野次馬根性でその人の群れに分け入ると、見えたのが、あの「MRJ」だった=写真=。前日(13日)に予定外で能登空港に急きょ着陸したと空港のスタッフが話していた。スリムでシャープな姿立ちの機体だ。まるで、鳥のハヤブサのような安定感がある機体だと感じた。

   MRJと言えば、半世紀ぶりの国産旅客機として三菱航空機が開発を進めている。これまで5機の試作機が製造されている。能登空港に着陸したのは2号機で、国内での飛行試験を行うため、13日に愛知県の県営名古屋空港を離陸し、日本海上空を経て、同日名古屋空港に戻ることになっていた。では、なぜ能登空港に。

   以下、地元石川のメディアが能登空港管理事務所の説明として着陸の経緯を伝えている。13日午後4時前、三菱航空機から「MRJ2号機に不具合があるため着陸し点検したい」と連絡がった。その15分後の着陸、つまり「緊急着陸」だった。その後、空港では点検作業が行われていて、離陸の予定はまだ立っていないという。着陸の理由について三菱航空機側は「確認したいことがあったため着陸した。飛行試験中なので、トラブルの1つ1つについてコメントはしない」「機体は開発中のため確認すべき事項が多い。今回の着陸は開発計画にも影響しない」と話している、とか。

   確かに、事故による緊急な着陸でもなく、またそれによって定期便の発着が遅れたわけでもないので、いちいち着陸の理由をコメントする必要はないのかもしれない。ただ、MRJはこの8月、1号機がアメリカでの本格的な飛行試験を実施するために出発しようとしたが、機体の不具合で何度か延期されたことは記憶に新しい。素人の想像だが、事故が起きることを極端に恐れているのだろう。航空機メーカーとして、慎重に慎重を重ねている姿勢がそこに見える。
 
  間近に機体を眺めていて、素朴な発露だが、今後MRJが試験飛行を無事に終え、国産ジェットとして世界の空を飛んでほしい、今度は定期便として能登空港に来てほしいと思った。

⇒16日(日)朝・金沢の天気    くもり  

   

★「使い切る」意識

★「使い切る」意識

このところ連日、富山県議会、富山市議会で政務活動費の不正が発覚している。とくに、辞職、辞職願の提出、辞意表明をした市議会議員は自民・民進の2会派で9人にも上る。富山県議会でも2人が不正受給を認めて辞職、辞職願を出している。本来ならローカルニュースなのに全国紙などは社会面や一面で取り上げ、まさに政治スキャンダルと化している。

  富山市議会の政務活動費は議員が調査研究などに使える経費として、市議1人当たり月額15万円が認められている。これは議員報酬とは別で、余った分は市に返還することになっている。地元新聞によると、平成15年度の富山市議会の政務活動費の消化率は100%だったという。前年度の14年度は99%だったと報じられている。

  不正受給を認めた市議9人に共通する不正のポイントはただ一つ、領収書の偽造工作だ。白紙の束を親しい業者にもらい、小切手のように使う。パソコンで領収書を偽造して市政報告会の資料印刷代や茶菓子代などを受給していた。なんとしてでも政務活動費を「使い切る」ことに心血を注いでいたようだ。

  それではチェック体制はどうなっていたのか、ということが気になる。本来議会事務局がチェックするが、難しいのは各会派を通じて所属議員に支給されること。領収書の宛名がたとえば「富山市議会自由民主党」となっていると、第三者からはどの議員が使ったのか分からない。さらに複雑なのは、政務活動費は同じ会派内の議員の間で融通が認められていて、月によってはA議員が20万円、B議員が15万円ということもありうる。さらに、チェックする側の議会事務局は領収書の細かな内容にまで踏み込む立場ではない。たとえば、。「不正ではないか」と気づいても、どんな茶菓子をいくつ買って、誰が食べたかといったことまでチェックできない。あくまでも、領収書に受領印、日付の記載など、体裁が整っているかをチェックするだけなのだ。

  それにしても、そこまでして「使い切る」意識はどこから湧いてくるのだろうか。私個人の推測だが、意外と勤勉・真面目な富山の県民性に由来しているのかもしれないと思っている。政務活動費を余らすのはもったいない、きっちり使うといった生真面目さを感じる。その代わり、不正が指摘されれば、言い訳せずに潔く辞める。「行き過ぎた真面目さ」ではないのか。

⇒20日(火)夜・金沢の天気  あめ 

☆天皇のお気持ち

☆天皇のお気持ち

「憲法の下、天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中で、このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました」

昨日(8日)テレビで放送された天皇のお言葉(ビデオメッセージ)にじっと聞き入った。なるほど、天皇はこう考えておられたのだ、ということを知った思いがした。とくに、天皇が国民との関係や距離をどう考え、自らの象徴天皇の役割を担ってこられたのか、改めて感じ入った。

  一つだけ、聞き慣れないお言葉があった。「天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ二ヶ月にわたって続き・・・」。「殯(もがり)」とは。調べてみると、人の死後に本格的に埋葬するまで、遺体を棺(ひつぎ)に納めて安置し、近親者が儀礼を尽くして幽魂を慰める習俗のことを指す。その目的は死者のよみがえり、あるいは死者の魂を呼び戻すことにあるという。

  これに似た葬送を実際に聞いた。これまで何度か訪ねたことがある、フィリピンのイフガオでの葬送の方法だ。死者を布でくるんで白骨化するまで自宅に置く。家族は死者を身近に置くことで、亡き人をしのぶ。その後、家族で洗骨の儀式を営み、埋葬する。2000年も前からこの地で田んぼを耕すイフガオ族の伝統的な葬儀だったが、さすがに現代では敬遠され、すぐ埋葬するのだという。

  イフガオでの話を聞いていたので、天皇が述べられた「重い殯」の意味合いを察した。2ヵ月続く皇室の伝統的な葬送「殯」は、心に重いのだろう。メディアでは「生前退位」を天皇が示唆されたと報じているが、あえて「重い殯」とお言葉にすることで、こうした皇室の伝統的な葬送の在り様も含めて見直したい、とのお気持ちを述べられたのではないだろうか。

⇒9日(火)夜・金沢の天気  はれ

☆鴨足黄連

☆鴨足黄連

  我が家の鉢植えのカモアシオウレンが小さな花をつけた=写真=。毎年、春一番に咲かせる花だ。漢字表記で鴨足黄連と書く。葉っぱの形状がカモの足のような面白いな形をしている。花は白い梅の花のようなので、「梅花オウレン」とも呼ばれる。もともと、中国の四川省や雲南省の高い標高で分布している植物、と図鑑に書かれている。花が少ないこの季節、ちょっとした心の安らぎになる。

  昨日(22日付)の朝日新聞『天声人語』に目をやると、金沢のことが書かれてあった。以下引用させていただく。「鮮やかな色彩の記憶がある。以前、金沢のひがし茶屋街を歩き、加賀藩時代の面影を残すお茶屋の中を見学した。かつて舞や三弦が披露されただろうお座敷の壁は、紅殻(べんがら)で塗られ、あでやかな赤だった▼「はなれ」と呼ばれる奥の座敷に進んで驚いた。一転して群青色に彩られた空間である。宴の場に似つかわしくない印象も持ったが、引き込まれるような心地よい感覚があった。聞けば前田のお殿様も愛(め)でた色とのこと。赤と青の競演を堪能した…」

  金沢で特徴ある色彩は紅殻と群青だ。『天声人語』では赤と青の2色を、彩色と人々の心と行動の関係性へと文を展開している。

  ふと思った。最近報道されるニュースはグレイばかり。まるで、北陸の冬の空模様だ。丸川環境大臣が「環境の日」(6月5日)を「6月1日」と誤って国会で答弁した、とか。重箱の隅をつつくような話から、IS(イスラミックステイト)がシリアで連続自爆テロ攻撃を強めているとか、ロンドン市長がEU離脱を支持、覚せい剤で清原容疑者を再逮捕など、まるで色彩がないニュースばかりだ。

  なぜだろう。面白いと印象に残る、エッジの効いたニュースが薄いのだ。これは記者のニュースの発掘力が低下しているからなのか、あるいは、世の中がこうしたグレイのニュースを好んでいるのか、はたまた自らのニュースの読み込みが甘いのか。我が家で春一番で咲いたカモアシオウレンを眺めながら、世情をふと思いやった。空を見上げると、金沢はきょうも曇りだ。春はまだ少し先か。

⇒23日(火)朝・金沢の天気   くもり 

★さらなる脅威

★さらなる脅威

   ニュースを聞いて、夕刊を買いにコンビニエンスストアに走った。北朝鮮が6日、水爆実験を行ったとのネットニュースを見てである。授業が終わって、午後2時45分ごろだ。

   新聞夕刊やテレビなどメディアをまとめると経過はこのようになる。北朝鮮は6日正午(日本時間で午後0時30分)、朝鮮中央テレビを通じて「特別重大報道」を放送し、「水爆実験に成功により、わが国は核保有国の隊列に加わった」と報じた。金正恩第一書記は去年12月15日に水素核実験の実施を命令し、今月3日に最終命令書に署名したという。

   この北朝鮮のテレビ報道に先立ち、韓国気象庁は6日午前10時半ごろ、北朝鮮東北部の豊渓里(ブンゲリ)で、マグニチュード(M)4.7の地震を観測した。震源地は北朝鮮の核実験視察から30㌔の範囲内にあり、震源の深さは地上0㌔㍍だった。

    北朝鮮はこれまで、2006年10月、2009年5月、2013年2月の3度、核実験を実施している。金正恩が権力の座に就いて2度目となる。北朝鮮は現在、ウラン型とプルトニウム型の核爆弾十数個を保有しているとみられる。水爆爆弾であるならば、原爆を起爆剤にして核融合反応を起こす。その放出エネルギーは原爆より数百倍大きく、しかも小型化、軽量化できる。北朝鮮は弾道ミサイルに搭載できる核爆弾の開発には成功したのかもしれない。

    報道によれば、北朝鮮は今回、中国に対して実験を事前に通報していない。過去3回の核実験では、実験直前に中国に通報していた。中国の習近平政権は北朝鮮の核開発を厳しく批判していたので、邪魔されたくないと考えたのかもしれない。北朝鮮の女性音楽グループ「牡丹峰(モランボン)楽団」が先月12日に北京の中国国家大劇院で同日予定していた公演を突然中止して帰国した。その理由はいろいろと憶測が飛んだが、金正恩が核実験を決意したこととリンクしているのではないか。

    中東では、今月3日にサウジアラビアはイランと断交した。4日にはバーレーンとスーダンもイランとの断交を宣言した。サウジによるイスラム教シーア派指導者の死刑執行をきっかけに先鋭化した中東の2大国の対立は「第5次中東戦争」を予感させ、何だか世界のあちこちにキナ臭さが漂う。

⇒6日(水)夜・金沢の天気    くもり  

☆豊饒の海を襲った津波

☆豊饒の海を襲った津波

 11日午後2時46分、三陸沖を震源とする国内観測史上最大の巨大地震が発生した。強い揺れと最大10㍍と推定される津波が襲い、火災も発生、岩手、宮城、福島3県で壊滅状態の地区が続出し、110万人が住む太平洋岸三陸地域を中心に犠牲者は相当数に及ぶ。宮城県栗原市で震度7、仙台市など宮城県各地、福島、茨城、栃木各県で震度6強を記録した。マグニチュードは8.8。観測史上最大規模と報じられている。三陸沖から茨城県沖にかけての震源域が連動して揺れが頻発しているようだ。

 気仙沼港に6㍍の津波が到来し、市内は広範囲にわたって水没しているとメディアは伝えている。朝日新聞社のホームページ「アサヒ・コム」は、同社気仙沼支局長の報告として次のように報じている。「気仙沼港は火の海。すごいことになっている。午後5時半すぎ、気仙沼港口にある漁船用燃料タンクが津波に倒され、火が出た。その火が漂流物に次々に燃え移っている。さらに、波が押し寄せるたびに、燃え移った漂流物が街の中に入り、民家に延焼している。周辺は暗くなっているが、一面、真っ黒な煙と炎が覆っている。あちこちで火が上がり、『バーン、バーン』という爆発音もあちこちで聞こえる。気仙沼市街地北側で火柱が3本見える」。記事を読む限り、戦場を想像させる。

 去年(2010年8月)と2008年3月、「能登里山マイスター」養成プログラムの講義に能登に来ていただいた畠山重篤氏(気仙沼市)。講義のテーマは、「森は海の恋人運動」だった。畠山氏らカキの養殖業者は気仙沼湾に注ぐ大川の上流で植林活動を1989年から20年余り続け、約5万本の広葉樹(40種類)を植えた。この川ではウナギの数が増え、ウナギが産卵する海になり、「豊饒な海が戻ってきた」と畠山氏はうれしそうに話していた。漁師たちが上流の山に大漁旗を掲げ、植林する「森は海の恋人運動」は、同湾の赤潮でカキの身が赤くなったのかきっかけで始まった。

 宮城県が計画した大川の上流での新月(にいつき)ダム建設では、畠山氏らの要請を受けた北海道大学水産学部の松永勝彦教授(当時)が気仙沼湾の魚介類と大川、上流の山のかかわりを物質循環から調査(1993年)し、同湾における栄養塩(窒素、リン、ケイ素などの塩)の約90%は大川が供給していることや、植物プランクトンや海藻の生育に欠かせないフルボ酸鉄(腐葉土にある鉄イオンがフルボ酸と結合した物質)が大川を通じて湾内に注ぎ込まれていることを明らかにした。この調査結果は県主催の講演会などでも報告され、新月ダムの建設計画は凍結、そして2000年には中止となった。畠山氏らの、ダム反対のスローガンを掲げずに取り組んだ「森は海の恋人運動」は結果的にソフトな環境保全運動として実を結んだ。

 畠山氏らが心血を注いで再生に取り組んだ気仙沼湾が「火の海」になった。心が痛む。畠山氏らの無事を願う。

⇒12日(土)朝・金沢の天気  くもり

☆街のつぶやき

☆街のつぶやき

 今回も金沢市長選(11月28日)の話だ。選挙の前日、金沢市役所の近くにある商店街の世話役がこんなことをつぶやいていた。「山出さん(現職)の取り巻きに危機感がないね。応援演説で『絶対的な多数で再選をお願いします』と言っていた。あれじゃ、当選確実と言っているようなもので、演説を聴いている人は投票場に行こうという気が削がれるね」。その言葉は的中した。投票率は、現職が5選を果たした前回(2006年)を8・54ポイント上回る35.93%だったが、現職は1万2千票近くも得票を減らし、新人に1364票差で破れた。

 共産以外の各政党の支援を受け、県会議員と市会議員40人ほどが支える山出陣営は当初から「横綱相撲」と言われていた。候補者は79歳、6期目への挑戦だった。今回の選挙は「多選」というより、「高齢」の是非が大きな焦点となった。新人の山野之義氏(48)は「79歳の市長と古い政治を続けるか。48歳の私と一緒に新しい市をつくるか」と訴えていた。私が投票場(小学校)への道を歩いていると、前を歩いていた3人の中高年の女性たちから「コウキコウレイシャ(後期高齢者)やね・・・」という言葉が漏れていた。続く言葉は聞こえなかったが、後期高齢者はよいイメージで使われることはないので想像はついた。

 現職に不利な訃報もあった。金沢市と隣接する白山市の現職市長が急性心臓疾患のため死去した。79歳。金沢市長選のほぼ1ヵ月前の10月24日のこと。女性たちが話していたのはこのことだったかもしれない。

 告示前、「山野不利」との下馬評だった。今回の市長選では市議39人のうち、過半数を超える議員が現職・山出氏を支援し、山野氏についたのはわずか8人の一期目の若手市議だったからだ。ことしの9月議会でこの若手市議グループが市長の任期を原則3期12年とする「市長の在任期間に関する条例案」を提出し、否決された。最終的にこの若手市議グループが山野氏出馬を後押しするカタチとなった。裏を返して言えば、若くて勢いはあるが、強力な支持基盤も動員力もなかった。

 当然、選挙運動は組織動員を頼む個人演説が中心の現職と、街頭演説が中心の新人の対照が際立った。多い1日で40回も街頭に立った新人には、神奈川県の松沢成文知事、前横浜市長の中田宏氏らが相次いで応援に駆けつけ、多選批判を訴えた。また、日本創新党(党首は前東京都杉並区長の山田宏氏)の単独推薦を受けており、山田党首らも最終日に訪れ、歯切れのよい演説をぶった。一方の現職の戦いぶりについて、冒頭の商店街の世話役は「個人演説会のたびに候補者を紹介するビデオを見せられた。われわれのような動員組は4回、5回と見せられ、さすがに嫌になったよ」と。

 厳しい言い方をすれば、35.93%の投票率であり、新人は戦いには勝ったかもしれないが、選挙で勝ったといえるかどうか。一方、6選を目指した現職の敗因は高齢・多選のせいだけだろうか。これまで勝ちパターンだった組織選挙は今では旧態依然として、あるいは制度疲労を起こしているようにも思える。組織への帰属意識より、有権者としての個の意識だ。金沢の選挙のスタイルもようやく普通になった、ということか・・・。

⇒2日(木)夜・能登の天気  はれ

☆多選と民意

☆多選と民意

 地域の政治的な風土にはタイプがある。首長が一期か二期ごとに交代する「共和国タイプ」と、一度決まると長期政権化する「君主国タイプ」である。君主国タイプは、既に定められた政策を維持して不測の事態に対処するだけで統治は事足りて、この場合、首長は平均的な能力さえ持てば有権者にも好感を持たれる。ただ、行政機構の中では、首長が多選化する過程で絶対権力化し、行政職員は有権者や市民の民意より、首長の意図を読むようになり、「(首長の)ご意向はこうだろう」などと忖度(そんたく)し合っている。金沢という土地柄は加賀藩の膝元にあったせいか、君主国タイプである。有権者もまた、首長の政策的な個性より、「間違いがない人」という安定的な首長を選んできた。その金沢の政治的な風土が破られた。

 任期満了にともなう金沢市長選挙は28日投票が行われ、無所属の新人で元金沢市議会議員の山野之義氏(48)が初当選を果たした。5万8204票と5万6840票。現職で6選をめざす山出保氏(79)と1364票の僅差だった。投票率は前回に比べ8.5ポイント高い35.9%だった。

 今回の市長選には面白い構図があった。山野氏は自民党の市議だったが今回は無所属で出馬した。山出氏は社会民主党、国民新党、民主党石川県連の推薦を受けた。地元財界人も山出支援に動いた。自民党県連は自主投票だった。選挙前から山出氏有利が伝えられていた。そんな中で、山野氏を応援をしたのは、自民党を含む若手の市議会議員(とくに一期目)のグループだった。

 山出氏は市の助役から選挙を経て市長の座に就いた。そのころから、市長は職員人事を掌握し、労組との関係も手堅かった。ところが、冒頭に述べた君主国タイプの「異臭」を放つようになってきた。それは、同じ庁舎にある議会で活動する市議だったら、とくに、一期目の新人だったらその異臭を敏感に感じ取ったはずだ。若手グループの一人は「いつまでも殿様政治やっていたら、金沢市は潰れてしまう。全国の笑いものや」と私に語っていた。若手の市議会議員のグループはそれほど現市政の有り様に危機感を持っていた。つまり、山出VS山野の対決構図は、市長VS議会若手グループでもあったのだ。
 
 山野氏は金沢市出身。IT企業「ソフトバンク」の社員を経て、平成7年から金沢市議会議員を4期連続で務めた。慶応大学時代には弁論部に所属し、街頭に立って市民に直接訴えると言うノウハウを身に着けた。出馬表明が遅れたことによる知名度不足をカバーするため、選挙戦では市内各地で街頭演説をする戦法に徹して、多い日には40回も街頭に立ち有権者に政策を訴えた。金沢における「高齢・多選」の弊害と、「世代交代」を訴えて街頭に立つ手法は、いわゆる無党派層からの支持を受けた。それは、午後から投票率から伸びるという現象でも見て取れた。

 山野氏は自らのマフェストでこう述べている。「月1回の定例記者会見を実施します」「市長多選自粛条例を制定します」「市民ブレイン制度を導入します」「市内公衆無線LAN化を実現します」など。そして、市の動きを分かりやすく市民に伝えるため、広報システムを見直し、「広報プロデューサー制度」を導入するという。情報発信力を高める必要がある。同時に、市内公衆無線LAN化は、ネット環境を整えるためにぜひと願う。ハコモノ行政ではなく、時代のニーズに合うインフラこそ急ぐべきだ。時代を先取りした、市民に分かりやすい政治を期待したい。

※写真は、山野氏のマニフェストより

⇒29日(月)朝・金沢の天気 はれ

★されど「カム撮り」

★されど「カム撮り」

 17日付の新聞各社のインターネットニュースで、映画の盗撮のことが掲載されている。俗称「カム撮り」。映画館で上映されたスクリーン映像を盗み撮りし、ファイル交換ソフト「Share」を使ってネット上に流したとして、堺市の運送会社社員(37歳)が著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで逮捕された。盗撮された映画は邦画「クローズZERO II」で、東宝など8社の著作権を侵害したという。ネットにアップしたのは5月中旬で、大阪府警生活経済課ハイテク犯罪対策室が内偵していたようだ。ただ、ネット上の映像が粗く、雑音も入っていた。粗雑なネット動画なら、商品価値はなく、そう目くじらを立てる必要もないと思えるのだが、権利を侵害された側にとっては一大事である。著作権は被害者が訴える親告罪だ。

 この映画の盗撮は、もともとハリウッドの権利を守るためにアメリカが主張したものだ。「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」(2006年12月5日)に盛り込まれた事項。日本とアメリカの経済パートナーシップを確立するとの名目で2001年に始まった「規制改革および競争政策イニシアティブ」(規制改革イニシアティブ)である。分野横断的改革を通して、市場経済をより加速させるとの狙い。06年当時は、安倍首相の時代だった。小泉内閣の遺産を引き継ぎ、日米関係はすこぶる順調だった。新しいビジネスチャンスを生み、競争を促し、より健全なビジネス環境をつくり出す改革として、アメリカ側の要望書には多くの案件が盛り込まれた。規制緩和が主流であったが、こと「知的財産権」に関してはアメリカのペースで規制強化が行われた。

 アメリカ側は知的財産権保護を強化するいくつかの案件を提示した。一つに、被害者が訴える親告罪ではなく、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となる非親告罪化を要求した。また、著作権の保護期間を日本では死後50年としているが、死後70年に延長するよう迫った。さらに、映画の海賊版DVD製造の温床とされた映画館内における撮影を取り締まる「盗撮禁止法」を制定することを要求したのだった。

 日本国内では、「非親告罪化」と「死後70年」に関しては議論が分かれたため、誰からも文句が出なかった「盗撮禁止」が手っ取りばやく法制化された。翌年成立した「映画の盗撮の防止に関する法律」がそれである。著作権法の特別法として制定され、私的使用を目的とした著作物の複製行為(著作権法30条1項)には当たらず、刑事罰の対象となる。アメリカからの要求以前にも日本映像ソフト協会などから法律化を求める声が上がってはいた。

 たかが「カム撮り」と言うなかれ、通商外交が絡んだ、されど「カム撮り」なのである。

⇒17日(月)夜・金沢の天気  はれ

 

☆「ニュース異常気象」3題

☆「ニュース異常気象」3題

 1月の積雪がゼロという金沢地方気象台始まって以来の暖冬異変。この異変は何も気象だけではないようだ。「ニュースの異常気象」を3題まとめてみる。

  関西テレビの番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」で捏造問題が発覚して以来、テレビ業界全体の信頼度が落ちたように思える。そしてついにというか、きょう13日の閣議後の記者会見で、菅義偉総務相は「捏造再発防止法案」なるものを国会に提出すると述べたそうだ。その理由は「公の電波で事実と違うことが報道されるのは極めて深刻。再発防止策につながる、報道の自由を侵さない形で何らかのもの(法律)ができればいい」と。放送法第三条と第四条は、放送上の間違いがあった場合は総務省に報告し、自ら訂正放送をするとした内容の適正化の手順をテレビ局に義務付けている。さらにこれ以上の防止策となると、罰則規定の強化しかないのではないか。個別の不祥事イコール業界全体の規制の構図は繰り返されてきた負のスパイラルではある。

  「団塊の世代」を中心とした55~59歳の男性が自宅の火災で死亡するケースが全国で増えているそうだ。死者は「無職」「独り暮らし」の割合が高い。明確な理由は分かっていないが、家族との別居、深酒、タバコ火の不始末、火災へとこれも負のスパイラルである。北海道では、05年の男性の死者は57人おり、このうち56~60歳が全体の4分の1にあたる13人を占めたという。個人的な話だが、金沢の高校時代の知り合いがこれまで2人もアパートで孤独死している。2人とも上場企業の元サラリーマンだった。交通事故などの不祥事による退職、離婚、深酒、病死である。病死はアルコールによる肝硬変。60歳の定年時に熟年離婚がはやっているそうだ。おそらくろくなことはない。男は逆境に弱いのだ。

  「発掘!あるある大事典Ⅱ」の捏造事件の続報が大きく扱われ、目立たない扱いで記事になっていたが、朝日新聞のカメラマンが写真に付ける記事を書く際に読売新聞の記事を盗用していたという事件もある意味で異常である。1月30日付の夕刊社会面に掲載された富山県立山町の「かんもち」作りの写真の記事を盗用したというもの。ローカル記事をインターネットで探して拝借するという構図だ。それにしても、ローカル記事なら東京で盗用してもバレないだろというのは安易に考えたものだ。カメラマンは実名公表のうえ、解雇となった。「もち」のツケは大きかった。

⇒13日(火)夜・金沢の天気  はれ