⇒ニュース走査

☆社会的な罪と法律的な罪

☆社会的な罪と法律的な罪

         森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改ざん問題で国会の証人喚問をテレビ中継で視聴できたのは、循環器系のカテーテル検査で入院していたおかげだった。3月27日午前中、点滴を受けながら前国税庁長官の佐川宣寿氏に対する参院予算委員会での証人喚問をじっくりと。

    証人喚問の様子はテレビを見ながらメモを取っていた。自民の丸川珠代氏が、森友学園との国有地取引に安倍総理や夫人の影響があったかを尋ねた。その中で、丸川氏は国有地取引に関する決裁文書では書き換え前に「特例的」とか「特殊性」といった表現が記載されていたことについて「総理夫人の関与を意味しているか」と質問した。佐川氏は「通常は国有財産は売却するが、貸し付ける場合の期間は通達に3年間と書いており、その期間は特例承認をもらって変えることができる。特例とはそういう意味だ」と述べ、「本件の特殊性」という記述は政治家の関与を意味しているものではないとした。点滴が一滴一滴落ちる様子を見ていると、なぜか心が落ち着き、物事に集中できる。「特殊性とはこういう意味か。でも、後付けの逃げ口上ではないか」(当時のメモ)

     その後、佐川氏の発言で気になったのが、「告発されている身なので答弁は控える」「刑事訴追のおそれがあるので答弁は控えたい」と繰り返し答弁を拒んだことだった。佐川氏は補佐人の弁護士にたびたび助言を求め、「刑事訴追の恐れ」を繰り返し証言を拒否する場面が印象に残った。市民団体が昨年10月、虚偽公文書作成容疑での告発状を出している。国家公務員の場合、刑事訴追が現実になれば、退職金がゼロになることもあるので、「必死に予防線を張っているのだろうか」(当時のメモ)と。

    この日の証人喚問では、森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改ざん問題が「忖度」する役人のシンボリックな行為との印象は個人的には消えなかった。ところで、肝心の「刑事訴追」の件はどうなっているのか。きょう18日付の読売新聞Web版によると、「大阪地検特捜部は、虚偽公文書作成容疑で告発状が出ている佐川氏らを不起訴(嫌疑不十分)にする方針を固めた」と。

    掲載記事によると、改ざんされたのは国有地売却などに関する14の決裁文書で、交渉経過のほか、安倍総理夫人や複数の国会議員の名前などが削除された。改ざんは昨年2-4月に、財務省理財局が財務局に指示して行われた。当時、理財局長だった佐川氏の国会答弁との整合性を取るためだったとされている。不起訴の理由として、「虚偽公文書作成罪の成立には、作成や決裁権限を持つ者が文書の趣旨を大幅に変える必要がある」と。公文書の一部削除では趣旨の大幅変更に相当せず、虚偽公文書作成とは言えない、と。

    記事はおそらく抜きネタ(スクープ)で、検察サイドへの裏取りをしてのことだろう。言葉として少々語弊があるかも知れないが、これで佐川氏は名実ともに逃げ切った。記事を読んで、ではあの国会証人の意義は何だったのだろうか、と。証人喚問の中継では視聴者の改ざん疑惑を膨らませた。しかし、検察サイドは不起訴。これだったら、果たして証人喚問は必要だったのか、との世論も出てくるだろう。「改ざん」という言葉のイメージから起きる罪の連想、そして法律的には虚偽公文書作成とは言えないという判断。「セクハラ罪という罪はない」(5月4日・麻生太郎財務大臣)と状況は似ている。社会的に罪として解釈されても、法律的な罪として適合しない。最近この社会的な罪と法律的な罪の乖(かい)離が広がっているようにも感じる。マスメディアが煽り過ぎるのか、あるいは法律が旧態依然としているのか。

⇒18日(金)朝・金沢の天気    くもり

☆「神話の続き」、さらに悩ましく

☆「神話の続き」、さらに悩ましく

     昨年秋に能登半島の尖端、珠洲市で開催された「奥能登国際芸術祭」の会場をめぐり、アーチストたちの鋭い感性に触れた。総合プロデューサーの北川フラム氏は「さいはてのアート」と称したように、半島の尖端で創作された芸術作品群が想像力をかきたてた。その中で「歴史信仰の壮大なパロディ」として脳裏に焼き付いているのが、深澤孝史氏作「神話の続き」=写真=だった。

   能登半島は地理的にロシアや韓国、北朝鮮、中国と近い。古代より海の彼方から漂着するものを神様や不思議な力をもつものとして、「寄(よ)り神」あるいは「漂着神」と崇めた。深沢氏の作品は、日本海に突き出た半島の先端に隣国から大量のゴミが流れ着く現状を「現代の寄り神はゴミの漂着物」と訴え、ゴミを白くペイントして鳥居に似せたオブジェを創り話題となった。「鳥居」に近づき白く塗られたゴミをよく見ると、ハングル文字の入ったポリ容器やペットボトル、漁具が多かった。

     石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)によると、県内の加賀市から珠洲市までの14の市町の海岸で合計962個のポリタンクが漂着していることが分かった(県庁ニュースリリース文)。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。さらに問題なのは、962個のうち37個には残留液があり、中には、殺菌剤や漂白剤などに使われる「過酸化水素」を表す化学式が表記されたものもあった。ここから理解できることは、簡単に言えば朝鮮半島からの海洋不法投棄は深刻だ、ということだ。

     このことが頭にあったので、きょう韓国・中央日報Web版を読んで「さらに深刻になる」と胸騒ぎがした。記事の見出しは「韓国国内で捨てられたペットボトルも処理できないのに…輸入は大きく増える」(4月4日付)。要約すると、中国が今年からプラスチックやビニールなどの廃棄物輸入を禁止し、アメリカや日本など世界の資源ゴミが韓国に集まっているという。韓国の「廃プラスチック類輸出入現況資料」では、ことし1-2月の廃プラスチック輸入量は1万1930㌧で前年同期の輸入量の3.1倍と急増している。韓国ではペットボトルなど圧縮品形態で入ってくる廃棄物に対しては申告だけすれば輸入が可能なのだという。

     なぜ廃プラスチック類などの輸入が急増したのか。国内問題のようだ。記事では「韓国製のペットボトルは色がついており低級品が多く処理費用が多くかかるため資源ごみ加工会社があまり引き取ってくれない」と資源ごみ回収業者のコメントを紹介している。ということは、アメリカや日本などから良質なペットボトルを圧縮品形態で輸入してリサイクル加工することが増えたが、その分、良質でない国内産のペットボトルなどは資源ゴミとして引き取り手がなくなった、ということだ。

    「さらに深刻になる」とはここだ。韓国内で引き取り手がない資源ゴミはこれまで以上に日本海に不法投棄されるのではないか。不法投棄を何とか防げないか。地中海の汚染防止条約であるバルセロナ条約(1976年)が21ヵ国とEUによって結ばれ、地中海の海域が汚染されるのを何とか防いでいる。国連環境計画(UNEP)などに訴求していかなければ、二国間では「日本海」の呼称の問題や「竹島」の領有権問題で解決策が見出せないのではないか。そうこうしている間に、すさまじい量の不法投棄があるのではないか。作品「神話の続き」が投げかけた問題がさらに悩ましく思えてくる。

⇒7日(土)夜・金沢の天気    あめ

★「電波の座」めぐる攻防-下-

★「電波の座」めぐる攻防-下-

  きょう4日付の新聞各紙で、3月末にアメリカのローカルテレビ193局でキャスターたちが一部のメディアが「フェイクニュース」を流していると、暗にCNNやNBCなどの報道の在り方を批判するコメントをニュース番組で放送したとの記事が出ていた。見出しは「米・保守メディア 地方TVに指示」「米巨大メディア 193局を統制」などまるで政治体制が異なる国のメディア支配であるかのような印象だ。

  「フェイクニュース」口撃、コードカッティング・・・アメリカで起きている事  

   もう少し詳しく記事を紹介する。コメントを流した193局はアメリカ南部や中西部にあり、アメリカの大手放送事業者「シンクレア」の傘下にある。日本の新聞各紙が問題としている点は、このコメントそのものがトランプ大統領がCNNなどのメディアをツイッターなどで「口撃」する際によく使う「フェイクニュース」で、シンレクアそのものがトランプ政権寄り。日本では政府の規制改革推進会議で放送法の規制全廃、とくに放送第4条(政治的公平性など)が無くなれば、アメリカの二の舞いになるなるのではないか、と。

       この記事のきっかけになったのはアメリカのニュースサイト「DEADSPIN」がフェイクニュースのコメントを読み上げるキャスターたちの動画を集め公開したことから=写真=。ローカル局がぞれぞれに読み上げるコメントならばそう気にならないが、こうして並べてそれぞれのコメントを聞くとほぼ同じ内容なので、冒頭で述べたような見出しの印象を受ける。まるでプロパガンダのようだ。では、どのようなコメント内容だったのか。DEADSPINではシアトルのテレビ局「KOMO」の2人のキャスターのコメントを紹介している。引用する。

(A) But we’re concerned about the troubling trend of irresponsible, one sided news stories plaguing our country. The sharing of biased and false news has become all too common on social media.(しかし、無責任で一方的なニュースが私たちの国に蔓延し、悩ませています。偏って間違ったニュースが拡散されることは、ソーシャルメディアにおいて当たり前になっています)
(B) More alarming, some media outlets publish these same fake stories… stories that just aren’t true, without checking facts first.(もっと警戒すべきは、こういった虚偽の、真実に反した記事を事実確認もせずに発信する一部のメディアがあるということです)
(A) Unfortunately, some members of the media use their platforms to push their own personal bias and agenda to control ‘exactly what people think’…This is extremely dangerous to a democracy.(不幸にも、一部の報道関係者は世論を操作するため、自らのプラットフォームを使って、個人の偏見や議論を押しつけ、「人々の思考」をコントロールしようとしています。これは民主主義にとって極めて危険です)

  上記のような2人のキャスターのコメントが異なる局でまったく同じ内容で放送された。日本では考えられないことなのだが、アメリカでは歴史と背景がある。かつてアメリカのテレビ局には「The Fairness Doctrine」(フェアネスネドクトリン)、つまり番組における政治的公平が課せられ、連邦通信委員会(FCC)が監督していた。ところが、CATV(ケーブルテレビ)などマルチメディアの広がりで言論の多様性こそが確保されなければならないと世論の流れが変わる。1987年、連邦最高裁は「フェアネス性を義務づけることの方がむしろ言論の自由に反する」と判決、このフェアネスドクトリンは撤廃されたのだ。

  アメリカのテレビ事情はまったく日本と異なる。ABCやNBC、CBS、FOXといった4大ネットワークが多数の系列テレビ局を有し、さらに独立テレビ局などその数は1780局余り。さらにCNNなどのケーブルテレビもある。これに一律に政治的公平性を求めると言論の多様性は失われるというもの理解できる。逆に、フェアネスドクトリンが撤廃されたことで、テレビ局に政治色がつく。たとえば、FOXは共和党系、CNN、NBCは民主党系は典型的だろう。今回のシンクレアも共和党系として知られる。それにしても、なぜ同じコメントを193局のキャスターが読まなければならなかったのか、理解できないが。

  その背景にアメリカTV業界の危機感というものを感じる。最近ではDEADSPINのようなネットメディアがニュースやスポーツ、エンターテイメントを配信する時代となり、テレビ局の存在感が薄れている。「ペイテレビ」と呼ばれる有料のCATVや衛星放送などでは「コードカッティング(Cord Cutting)現象」とも呼ばれる解約が進み経営危機もささやかれる。トランプ色をより鮮明に打ち出すことでスポンサーの獲得を画策したのか、と。

  アメリカではこうしたテレビ業界での危機感を背景に、FCCが中心となってメディア規制の緩和に乗り出している。たとえば新聞とテレビの兼業の容認やテレビ局の合併を制限するルールの見直しなどだ。日本では政府の規制改革推進会議で放送法の規制全廃などが検討されているが、おそらくこうしたアメリカの動きを睨んでのことだろう。放送法第4条の一点集中でこの動きを見ると全体の方向性が把握できなくなる。

  今回のシリーズ「『電波の座』めぐる攻防」では放送法の規制撤廃をめぐる論点やその背景、アメリカの事情などランダムに語った。後日もう少し突っ込んでみたい。

⇒4日(水)夜・金沢の天気   あめ

☆「電波の座」めぐる攻防-中-

☆「電波の座」めぐる攻防-中-

   近い将来、日本の電波をどう割り当てるのか、大きな論点になってくるだろう。民放テレビ局の放送をインターネット化(通信化)、空いた電波帯域を超スマート社会の実現のためのIoT、AI、ビッグデータ、ロボットの事業者に割り当てる、というのが政府の目指す方向性だろう。

 「テレビ局の敵はテレビ局でない」時代、放送の価値をどう見出していくのか

   電波割り合てに関しては、2011年7月に実施された、それまでのアナログ放送から地上デジタル放送の移行時でもあった。地デジ移行により、従来370MHz幅の周波数帯域を使用していた地上テレビ放送の周波数は240MHz帯域となり、3分の2以下に縮小した。空いた周波数帯を、スマートフォンなどの急速な普及でひっ迫していた携帯電話サービス用の周波数帯として割り当てた。政府は「電波は国民の財産である」との言い分で、電波の割り当てや再編には強く出るのだ。

   放送は、放送法第2条により「公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信」と定義されているものの、放送インフラと通信インフラを分ける時代ではなくなっている。インターネット網のブロードバンド化や光ファイバーの広がり、そこそこ品質の高いが画像がネットも見ることができる。インターネットと放送の同時配信だ。先の韓国・平昌冬季オリンピックでは、民放テレビ局のオリンピック公式動画サイト「gorin.jp」で初めて実況付きの同時配信を行っている。放送時間外でもネットで送信され、テレビをネットが補完したカタチだ。

   コンテンツで言えば、テレビ朝日とサイバーエージェントが共同出資したテレビ型動画配信サイト「AbemaTV」(2016年開始)は放送と通信が融合した新たなビジネスモデルではないだろうか。そして、もうテレビ局の敵はテレビ局ではないと感じさせたいのが、女子テニスの大坂なおみ選手がBNPパリバ・オープンでの初優勝(3月18日)だった。この決勝戦をライブ中継したのはテレビ局ではなく、インターネット動画配信サービス「DAZN」だった。さらに、DAZNとJリーグはJ1、J2、J3の全試合の放送権を2017年から10年間2100億円で契約している。テレビ局と動画配信サービスによるコンテンツの争奪戦が始まっている。

   テレビ局と電波を考える際、もう一つの動きに注目したいのが「スマートグリッド(Smart Grid)」だ。送電網と通信網の融合だ。IoT(Internet of Things)の代名詞としても使われ、すべてのものがインターネットとつながる時代を意味する。このときの放送はどうなるのか。

   民間放送連盟は3月15日の記者会見で、政府の動きに対応するように「放送の価値向上に関する検討会」(仮称)を設置したと発表した(民間放送連盟HP)。今後テレビやラジオ放送の価値向上策や未来像を検討するとしている。会見で井上弘会長(TBS名誉会長)は「(政府の)規制改革推進会議の方々には、単なる資本の論理、産業論だけで放送を切り分けてほしくないし、バランスの取れた議論をお願いしたい。私は、放送に比べてネットの世界は発展途上だと思っているので、もう少し時間をかけて推移を見守っていったほうが、国民視聴者にとってより有効な、放送とネットの“棲み分け”というものが成立するのではないかと考えている」と述べた。「放送の価値向上に関する検討会」(仮称)の設立の意義については、「放送が本来持っている強みや特性を踏まえ、新しい時代の放送について考えたい。そのうえで、もうひとつ上の段階へ進んで、より強力な媒体となってほしいと考えている」と。

   放送法の規制を全廃すると、民放は普通のコンテンツ制作会社になってしまうとの懸念はある。では、ネット社会が高度化し、テレビ放送に課していた政治的公平性を撤廃したアメリカの現実はどうか。

⇒1日(日)午前・石川県七尾市の天気   はれ

★「電波の座」めぐる攻防-上-

★「電波の座」めぐる攻防-上-

   おそらくこの記事は共同通信の抜きネタ(スクープ)なのだろう。今月23日付の各紙で「政府 放送規制を全廃方針」の見出しで、政府は政治的公平などを求めた放送法の条文撤廃に加え、放送局への番組基準策定の義務付けなどの規制をほぼ全廃する方針との報道があった。この見出しとリードを読んで、「いよいよ来たか」と直感した。

   電波割り当てをテレビ局からIOT、AI、ロボット事業者へ「Society5.0」シフト

   本文を読んでいく。NHKを除く民間の放送局に放送規制を全廃する狙いが述べられている。規制はたとえば、一企業による多数のマスメディア集中を排除する第2条、政治的な公平を求めた第4条、番組基準の策定を義務付け、教養・報道・娯楽など番組ジャンルの調和を求めた第5条、番組審議会の設置を義務付けた第7条など多岐にわたる。これらの規制を廃する狙いは、「放送という制度を事実上なくし、インターネット通信の規制と一本化して、ネット動画配信サービスなどと民放テレビ局を同列に扱い、新規参入を促す構えだ」と報じている。記事ではさらに突っ込んで、「放送を電波からネットへ転換させ、空いた電波帯域をオークションで別の事業者に割り当てることも検討するという」と。

   放送法の規制全廃に関して作業を行うのは政府の規制改革推進会議。5月ごろにまとめる答申に方針を反映させて、今年秋の臨時国会に関連法案を提出、2020年以降の施行を目指すとしている。冒頭で述べたように共同通信のスクープなのだが、規制改革推進会議のホームページを丹念に読むとその方向性はすでに示されている。

   昨年(2017年)11月29日、総理大臣官邸で第23回規制改革推進会議=写真、総理官邸HPより=があり、農地制度の見直しなどに関する第2次答申を大田弘子議長から答申を受け取った後、安倍総理は次のように述べている。「Society5.0を実現するためには、電波の有効利用が不可欠です。国民の財産である電波の経済的価値を最大限引き出すため、電波割当ての仕組みや料金体系を抜本的に改革することが必要であります。これらは、いずれも待ったなしの改革です」「構造改革こそアベノミクスの生命線であり、今後も力強く規制改革にチャレンジしていく考えであります。委員の皆様には、引き続き、大胆な規制改革に精力的に取り組んでいただくよう、よろしくお願いいたします」(総理官邸HPより)。

   「Society5.0」はすでに語られているように、IOT、AI、ビッグデータ、ロボットなどの革新技術を最大限に活用することによって、暮らしや社会全体が最適化された社会とされる。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会の次の5番目のステップ「超スマート社会」を表現している。総理の発言をひと言で表現すれば、情報社会でテレビ局に割り当ててきた電波を、超スマート社会の実現のためのIOT、AI、ビッグデータ、ロボットの事業者に割り当てる、ということだ。

   これに対し、現場のテレビ業界は複雑、混乱、不安、可能性などさまざまな思いを抱いていることは想像に難くない。何しろ民放テレビ局には60年余りの歴史があり、「電波の座」をそう簡単に明け渡すわけにはいかないだろう。今月27日のテレビ朝日の定例記者会見で早河洋会長兼CEOは記者から政府の放送事業の見直しの検討について意見を求められ、こう述べている。

   「NHKとの二元体制で戦後の復興期から65年、娯楽や文化といったコンテンツを発信し視聴者にも支持され親しまれてきた。報道機関としても取材制作体制を整備し、大きな設備投資も行って、各系列間で切磋琢磨してきた。特に災害報道、地震や台風、最近では噴火、豪雪など、ライフラインとして公共的な役割を担ってきたという自負もある」「規制を撤廃するという話があるが、目を背けたくなる過激な暴力や性表現が青少年や子供に直接降りかかってしまう。それから外資規制がなくなれば、外国の資本が放送局を設立して、その国の情報戦略を展開することになると社会不安にもなるし、安全保障の問題も発生する。こうしたことに、いずれも視聴者から強い拒否反応を招くのではないかと思う」(テレビ朝日HP)

   要約すれば、「テレビ事業を甘く見るな、安全保障にだって関わることだ、Society5.0とは次元が違う話なのだ」と早川氏が述べているように私には読める。

⇒31日(土)朝・金沢の天気     はれ

☆「7選も最低投票率」「4選も67票差」どう読むか

☆「7選も最低投票率」「4選も67票差」どう読むか

    石川県知事選、そして輪島市長選がきのう11日、投開票が行われ、知事選は現職の谷本正憲氏が7回目の当選、輪島市長選は現職の梶文秋氏が4選を果たした。選挙はなんと言っても数字がすべてを物語る。結論から言う、知事選の投票率は過去最低の39.07%、輪島市長選は67票差の勝利だった。これを数字的にどう読むか。

    全国最多となる7選を果たした谷本氏の当選確実は投票が締め切られた午後8時00分、ほぼ同時にテレビ各社が選挙速報が打った。「石川県知事選 谷本正憲氏の当選確実」と。テレビ各社は投票段階で出口調査(投票所の出口で、投票を済ませた有権者に誰に入れたか記入してもらう)のデータを得て、2位の候補者と10ポイント以上の開きがあることを「基準」に速報テロップを流す。今回の知事選では、現職の対抗馬は無所属の新人で、共産党が推薦する候補者だった。開票結果を見ても、現職谷本氏は28万8531票、対抗馬の候補者は7万2414票、圧勝だった。

    ただ、投票率は過去最低の39.07%だった。とくに、金沢市の投票率は30.68%、隣接の野々市市は30.36%と両市がダントツに低い。金沢市の場合は県議補選もあり、投票の「相乗効果」が期待されたにもかかわらずである。天気も時折晴れ間ものぞき、選挙には決してマイナスではなかった。では、なぜ過去最低の投票率となったのか。現職の多選批判もあったかもしれないが、そんな単純な話でもない。なにしろ、過去最低の投票率でも現職は前回(2014年)より得票数を3300票伸ばしているのだ。

    市町別の投票率を比べてみると、全体に前回より4ポイントほど投票率を落としている市町が目立つが、7ポイント下がったのは金沢市、野々市市、かほく市、津幡町、内灘町だ。この5つの地域には共通項がある。それは、大学や短大、高専が立地している地域だということだ。選挙権を20歳から18歳に引き下げたのが2016年。それ以降、今回は初めての知事選。有権者数も前回に比べ1万7千人増えて95万人になっている。

    以下は憶測だ。投票率を下げた原因は、18歳、19歳の棄権率が高かったからではないか。とくに、県外からの学生たちにとっては現職の名前すらも知らないとう学生が多いのではないだろか。学生層にとって知事選は皮膚感覚として離れているかもしれない。自分がその身だったら果たして投票に行っただろうか。きのう午後、投票場に出かけたが、確かに若者らしき姿を見かけなかった。県選挙管理委員会による今回知事選の年代別投票率のデータ公開が待たれる。

    輪島市長選もデータとして興味深かった。市長選の投票率は69.92%だった。同市の知事選の投票率も70.16%と市長選と知事選の相乗効果が表れている。4選を果たした梶氏は元市役所職員、対抗馬も元市役所職員。同市に住む知人から聞いた市長選の下馬評は梶氏の圧勝だった。「なにしろ市会議員17人のうち12人が現職を担ぎ、対抗馬を支持しているのは1人だよ」と。そう聞かされていたので、テレビの速報テロップも知事選に次いで流れるだろうと予想していた。が、なかなか出ない。それもそのはず、現職8389票、対抗馬の候補者は8322票でわずか67票差。テレビ各社が梶氏当選の速報を打ったのは午後11時40分。わずかな票差のため、テレビ各社は票が確定するまで速報は打てなかったようだ。

    大接戦となった理由は何だったのだろうか。産業廃棄物処分場問題がくすぶっているのかもしれないと考えた。昨年2月19日に同市門前町大釜地区で計画されている産業廃棄物処分場の建設の是非をめぐり、住民投票が行われたが、投票率は42.02%で規定の50%を下回り投票は不成立となった。住民投票をめぐって、建設推進の市議らが「棄権」を呼びかけた経緯があり、当時「投票の自由を妨げる」と一部住民側から問題視する声が出ていた。梶氏はこの不成立の結果を受け、その後粛々と処分場の受け入れを進めている。

    そうした経緯での今回の市長選だった。対抗馬の候補者は「業廃棄物処分場は負の遺産だ」と訴えていた。薄氷の勝利であろうと選挙の勝ち負けははっきりしている。が、産業廃棄物処分場問題の根深さが噴き出した。そんな開票結果ではなかったか。

⇒12日(月)午後・金沢の天気    はれ

★「核ありきの統一」

★「核ありきの統一」

     ニュースを視聴してずっと気になっていたフレーズがあった。先月ドイツで開催された「ミュンヘン安全保障会議」で、河野太郎外務大臣が「北朝鮮は朝鮮半島再統一の野心があり、目的達成のために核兵器を重要な手段と考えている」と発言(2月20日付・朝日新聞デジタル)がそれだ。フレーズを読めば核兵器で韓国を揺さぶって統一を狙う、だ。それだったら、わざわざ平昌での冬季オリンピックに美女軍団を派遣する必要もない。このフレーズの意味がよく理解できなかった。一度気になると、何かの折に繰り返し脳裏をよぎってくる。その回答を得た気分になったのが、今朝届いたニュースレター「大前研一 ニュースの視点」だった。

     同じことを大前氏も感じていたのだと思いながら興味深く本文を読んだ。大前氏の結論を先に述べると、「文在寅大統領が目指すのは、韓国が核保有国になるための半島統一」と述べている。確かに、韓国も北朝鮮もは様々な場面で「南北統一」ということに触れている。両者の共通狙いについて、大前氏は「北朝鮮と統一した結果、韓国が核保有国になれるからです。韓国が核保有国になることは、米国が強く反対するため、普通には実現することができません。ところが、核を保有したままの北朝鮮と統一すると、まるで裏口入学のような形で韓国は核保有国の仲間入りを果たせるのです」と述べている。

     韓国で核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%だった(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。その一方、アメリカによる対北先制攻撃には59%が反対で、賛成は33%にとどまり、北朝鮮が戦争を仕掛ける可能性は58%が「ない」とし、「ある」(37%)を上回った(同)。

     文大統領は、冬季オリンピックでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのでないだろうか。

     北朝鮮にとってもメリットは大いにあるだろう。国連安保理の強烈な経済制裁がこのまま続けば核兵器の開発どころか国家体制が持たない。アメリカによる「斬首作戦」「鼻血作戦」といった先制パンチも現実味を帯びてきている。かと言って、核兵器開発をストップすればみすみす武装解除をするのと同じだ。むしろ韓国を抱き込んで統一を掲げながら核開発を進める。これは北朝鮮、韓国の目指す方向性として一致する。そんな文脈がニュースレターから読み取れた。

     「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありきの統一」ということが鮮明になった場合、アメリカはどう出るか、日本の外交スタンスもガラリと変わるに違いない。

⇒2日(金)朝・金沢の天気   くもり

☆箸袋から見える知事選

☆箸袋から見える知事選

     きょうから3月。朝から風が吹き荒れている。テレビのニュースによると、台風並みの強い風で、加賀・能登ともに瞬間最大風速は陸上で30㍍だ。落雷や竜巻への注意も必要と呼びかけている。この強風で、JR北陸線では大阪方面の特急サンダーバードと名古屋方面の特急しらさぎを全て運休するようだ。

     この冬の雪も異常だった。金沢市内の自宅周辺でも一時積雪量が150㌢になった。この豪雪で、せっかく雪吊りを施したのに、五葉松の枝が一本折れたほどだった。先日、関西に住む知人から大雪見舞いの電話があった。積雪150㌢の話をすると、知人は「金沢の積雪は最大86㌢と報道されていたよ。金沢でも場所によっては、福井よりすごいところもあったんだね」と驚いた。

     知人には「一里一尺」という言葉で説明した。金沢地方気象台が発表する積雪量は、金沢の海側に近いところにある同気象台での観測、山側にある自宅周辺とでは積雪の数値が異なる。山側へ一里(4㌔)行けば、雪は一尺(30㌢)多くなる、と。そして付け加えた。「3月になると雪が降らないと思ったら大間違い。きついダメ押しがある」と言うと、知人は「私は雪国には住めないな」と苦笑した。ただ、ダメ押しの雪を「名残り雪」と表現すれば、少し文学的にもなる。

     外は「豪雪、のち暴風」なのだが、静かなのが今月11日に投開票の石川県知事選挙だ。先月22日告示され、共産党推薦で元石川県労連議長の女性新人候補(65)と、社民党のほか自民、公明、民進各党の県組織から推薦を受け7選を目指す現職(72)の一騎打ちの構図。ただ、自宅周辺には選挙カーが回って来ていないのか選挙ムードが盛り上がっていない。

     ちょっとした話題はある。動画サイト「ユーチューブ」への投稿で広告収入を得る「ユーチューバー」が石川県知事選の選挙掲示板に自分の顔写真を貼った様子を撮影し投稿していたことがネットで炎上し、公職選挙違反違法や軽犯罪法違反の可能性もあると新聞やテレビでも報道された。この動画はすでに先月26日に削除された。ただ、顔写真は掲示板の候補者ポスターが掲示されていない枠内に貼られていたので、県選挙管理委員会は特定の候補者を妨害するものではないとしている。このユーチューバーは県内に住む19歳の男性で、なんとチャンネル登録者216万人を有するプロだ。

     もう一つ選挙関連ネタを。きのう(28日)、自宅周辺のコンビニ「セブンイレブン」でおにぎりや野菜サラダを買った。箸がついてきた。その箸袋にはなんと「石川県知事選挙 投票日 3月11日」と書いてあった=写真=。選挙権は18歳からある。若者に投票を呼びかけようと選挙管理委員会がアイデアを凝らしたに違いないと想像を膨らませた。

     そこで県の選管に電話で尋ねた。「コンビニで知事選挙の投票日を記した箸がありました。石川県内の全部のコンビニで配布されているのですか」と。すると担当と名乗る職員は「こちら(県選管)でお願いして、箸をつけてもらっているのですが、セブンイレブンさんだけが引き受けてくれました」と。「なぜですか」と再度尋ねる。「ほかのコンビニさんは、つまようじがついていないからダメだとか言われまして…」と。確かに箸袋にはつまようじが入っていなかった。

     メディアでは「多選の是非が主要な争点」と知事選の特集を組んでいるが、対抗馬は共産の新人のみだ。選挙は盛り上がっていない。このままだと投票率は前回44.98%(2014年3月16日)を大きく下回ることは想像に難くない。むしろ「多選で必死なのは選管」、そんな現状が箸袋から見えてきた。

1日(木)朝・金沢の天気  風雨
     

☆身に降りかかる「断水問題」

☆身に降りかかる「断水問題」

           先月30日付のブログ「☆過疎化と断水問題」で、冬場の凍結で能登地方は断水に見舞われた世帯が1万もあり、空き家で水道管が破裂しても対策が取りようがなく、空き家が多い地域では断水が深刻でこの問題はまさに過疎化問題だ、と述べた。きょう2日、まさに断水問題が我が身に降りかかってきた。

    メールで連絡があった。「お世話になっております。かあさんの学校食堂の泊さんに確認をとったところ、2月6日火曜日のお弁当の準備が出来ないと連絡がありました。(穴水町)甲地区は水道管凍結・漏水による断水の復旧が未だに遅れており、完全普及には2~3日かかる見通しです。また復旧してもすぐに飲料水(食用)に使えないため、今回の件はキャンセルをお願いしたいとのことでした。事情をご賢察のうえ、ご了承いただきますようお願いいたします。」

    今月5日と6日に世界農業遺産「能登の里山里海」をテーマに研究者交流のスタデイツアーを実施することになっている。6日の意見交換会の会場となっている穴水町の施設のスタッフに昼食の弁当の手配を依頼した。スタッフが弁当の配達をお願いした主婦グループ「かあさんの学校食堂」は甲(かぶと)地区の廃校になった小学校校舎を活動拠点にしているが、現在断水が続いていて、一両日中に復旧したとしても、すぐには飲料水としては使えない可能性があり、グループから注文をキャンセルさせてほしいと連絡があったと、メール連絡をくれた。

    メールを受け取り即座に電話をかけた。スタッフは自分たちの生活水(食事、飲料など)を確保することが優先されていて、注文を受ける余裕がない状態と。「ほかに弁当を作ってくれる仕出し屋などありませんか」と尋ねたが、状況はどこも似たり寄ったりとのこと。断水問題の深刻さを改めて思い知らされた。

    さらにツアーを開催する5日と6日は、ウエザーニューズ社HPによると、「上空に非常に強い寒気が流れ込み、日本海側では大雪に警戒が必要。4日(日)~6日(火)にかけてが寒気のピーク」と呼び掛けている。断水が長引く可能性もある。だからと言ってツアーを中止するわけにもいかない。関係者と相談し、「6日はコンビニに立ち寄って、参加者(20人)がそれぞれで昼食を買い求めましょう」となった。少々安易な結論なのだが、コストのことも考えてそのような結論に。何とも恨めしい断水問題ではある。

⇒2日(金)午後・金沢の天気   はれ

☆過疎化と断水問題

☆過疎化と断水問題

    きのう(29日)能登地方のある首長と立ち話をした。「このところの寒さで断水が起きて、給水車で対応に追われているんです」と。寒さで水道管が破裂するということはままあるので、「それは大変ですね」と言葉を添えた。ところが、きょうの新聞各紙では断水は半端ではない。能登の9市町で1万世帯余りに及ぶという。そして、過疎化という根深い問題が絡まっている。

    報道によると、石川県危機対策課がまとめた断水被害は29日午後7時現在、能登の輪島市と志賀町で3千世帯、能登町で2千世帯、中能登町で1500世帯、穴水町で300世帯、羽咋市で120世帯、宝達志水町で100世帯、珠洲市で90世帯で断水状態となった。断水の原因は水道管の凍結、破裂による。冒頭の首長が言うように、これは地域の危機管理の一環であり、各市町は給水車を出すなど対応に追われている。

    断水はこのところの氷点下の冷え込みが特に能登で厳しかったことに加え、指摘されているのは空き家での断水問題だ。能登地区の場合、集落で共同運営している配水池から水道水をひく場合が多い。空き家で水道管が破裂しても気付かれないため、漏水が続き、配水池の供給が追いつかなくなったことで被害が拡大するのだ。水道業者がメンテに回っても、水道管が雪に埋もれていると漏水している箇所が確認できないという問題もあり復旧は簡単ではない。最近の塩化ビニール管は氷の膨張に強いものの、旧型だと破損しやすいことも指摘されている。

    断水被害が起きないようにするために、行政は住民に対して水道の蛇口から少し水を出し放っぱなしにして水道管の凍結や破裂を防ぐよう有線放送などで呼び掛けているが、空き家ではこうした対策が取られないという現状もあり、断水問題はまさに過疎化問題だ。

    生活インフラでもっとも重要な水道水が出ないとなると、学校や保育所も休まざるを得ない。輪島市では29日、3つの小学校と2つの保育所が休校、休所となったと報じられている。他の自治体でも授業打ち切りなどが相次いだ。また、能登半島だけではなく、同じ日本海の新潟県佐渡島でも全2万4千世帯のうち4割に当たる1万世帯で断水が起き、県は陸上自衛隊に災害出動を求め、陸自が給水車をフェリーで運んでいると全国ニュースになっていた。佐渡では小中学校36校のうち26校が休校となった。断水問題は半島の過疎地や離島を直撃している。(※写真は輪島市門前町の海岸集落、27日撮影)

⇒30日(火)午前・金沢の天気    ゆき