⇒ニュース走査

★「しつけ」と児童虐待

★「しつけ」と児童虐待

   昨年1年間、児童虐待の疑いがあるとして全国の警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数が8万人余りになったとニュースになっている。前年比で1万4600人増と22%も増えて過去最多だという。

   千葉県の野田市で小学4年生の女の子が親から虐待を受けて死亡した事件、実に痛ましい。小学校のアンケートで父親からの暴力を訴えていた。児童相談所は、女の子を両親のもとに戻したあとの去年3月下旬以降、一度も家族と連絡を取っていなかったようだ。昨年も東京・目黒区で、5歳の女の子が虐待を受け死亡した事件があった。女の子は「もうパパとママにいわれなくてもしっかりとじぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」と書き残していた。児童相談所は家庭訪問をしたが女児との面会を拒否された。父親は「しつけ」と称して虐待を繰り返していた。 

   この2つの事件を報じるマスメディアの論調は児童相談所(児相)の手落ちを強調する傾向にあるが、警察が児相に通告した虐待を受けた子どもが8万人にも上る状況では児相だけの責任では済まされないだろう。日本では「しつけ」と虐待の線引きがあいまいであるがゆえに虐待が見逃されケースが多いのではないか。児童虐待を単なる家庭の問題としではなく、社会犯罪と明確に位置付ける必要があるだろう。

   アメリカは明確化している。アメリカの在ナッシュビル日本総領事館のホームページに「安全情報」の中の「米国での生活上の注意事項」に掲載されている。日本で当たり前の親子入浴ですからアメリカでは虐待を疑われる。事例が紹介されている。「某日、幼稚園に通う少女が、父親と一緒にお風呂に入るのがいやだと幼稚園の作文に書いた」、すると「幼稚園の先生が、児童虐待(性的暴力)容疑者として父親を州政府の児童保護局に通報し、調査活動が行われた」。また、「某日、乳児をお風呂に入れている写真を近所のドラッグストアで現像に出した」、すると「ドラッグストアが児童に対する虐待容疑で児童保護局に通報し、児童虐待(性的虐待)容疑で調査活動が行われた」。

    日本とアメリカの文化による認識の違いで、日本では許容されることでも、アメリカでは犯罪として扱われる事例だ。入浴のほかにも、言うことを聞かない子どもの頭を人前でたたいたり、買い物をするときに、乳幼児を車に置いて離れたりすることなども、虐待の容疑で親の身柄が拘束されることもある。社会問題化している児童虐待から子どもの命を守るには、児相に捜査機関としての役割を付与することも必要なのではないだろうか。児相に捜査権があれば、「あの家庭ちょっと様子おかしい」と察した近所からの通報も得られるのではないか。これは子どもの命を守る「善意の通報」である。

⇒7日(木)午後・金沢の天気     くもり

☆南海トラフ地震と高知城

☆南海トラフ地震と高知城

   2012年5月に高知を旅行し、山内一豊が築いた高知城を見学した。印象的だったのはしっかりした野面積みの石垣だった=写真=。説明看板を読むと、安土城築城で有名な石垣集団の穴太(あのう)衆が工事に加わっていたという。穴太衆を使って強固な石垣を築こうとした一豊の動機は、戦(いくさ)への備えもさることながら、地震への備えもあったのではないか。

    『秀吉を襲った大地震~地震考古学で戦国史を読む』(寒川旭著、平凡社新書)によると、秀吉の家臣として活躍した一豊は近江長浜城主となり2万石を領した。が、1586年の天正大地震によって城が崩れた。一豊が高知城で没したのは慶長10年9月20日(1605年11月1日)だが、その9ヵ月前の1605年2月3日には南海トラフのプレート境界に起こったM7・9の慶長大地震と津波で、多くの領民が亡くなった。高知城はその時、まだ築城の最中だった。二代目が慶長 16(1611)年に城を完成させた。それ以降、地震が100年から150年ごとに発生しているものの、高知城はなんとか耐えてきた。一豊の2度の被災体験が城造りづくりに活かされたのかもしれない。

   報道によると、政府の中央防災会議の作業部会はきょう(11日)、南海トラフ巨大地震の震源域で前兆と疑われる異常現象が起きた場合の対応方針を巡り、報告書案をまとめた。震源域の半分で地震が起きた場合、被害がない地域の住民も1週間ほど避難する。「起きるかわからない地震に備えた避難」は混乱を引き起こす恐れがあるものの、住民への周知や訓練は不可欠だろう。なにしろ、南海トラフ巨大地震の避難者数は最大950万人と予測されている。

    ことし6月に土木学会が発表した数字を思い起こす。今後30年以内に70-80%の確率で発生するとされる「南海トラフ地震」がM9クラスの巨大地震と想定すると、経済被害額は最悪の場合、20年間で1410兆円(推計)に達すると。倒壊などによる直接被害は169兆5千億円、それに加え、交通インフラが寸断されて工場などが長期間止まり、国民所得が減少する20年間の損害額1240兆円を盛り込んだ数字だ。

    1410兆円という数字を目にした時は数字が「躍っている」との印象だったが、政府が発表した「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」(2014年3月28日)に目を通してみる。M9クラスの巨大地震を想定した場合の「減災目標」を「想定される死者数を約33万2千人から今後10年間で概ね3割減少させること、また、物的被害の軽減に関し、想定される建築物の全壊棟数を約250万棟から今後10年間で概ね5割減少させる」と掲げている。いま、南海トラフ巨大地震が起きれば最悪30万人余りの命が失われるのだ。数字の羅列になってしまった。

⇒11日(火)夜・金沢の天気     あめ

★北の違法操業を支援する構図

★北の違法操業を支援する構図

           けさ(22日)のヤフーニュースで「韓国警備艦が日本漁船にEEZ内で操業停止要求」を読んで、韓国の「北朝鮮化」ではないかと訝(いぶか)る。さっそく水産庁のHPで掲載されているプレスリリース(21日付)で事実確認をする。20日午後8時半ごろ、能登半島の西北西約400㌔に位置する、日本の排他的経済水域(EEZ)の大和堆(やまとたい)付近で操業中の日本のイカ釣り漁船(184㌧、北海道根室市所属)に対し、韓国・海洋警察庁の警備艦が「操業を止め、海域を移動するよう」と無線交信をしているのを、水産庁漁業取締船と海上保安庁巡視船が確認した。

    水産庁の漁業取締船は日本の漁船の付近に位置取り、韓国警備艦に対し、日韓漁業協定でも日本漁船が操業可能な水域であり、漁船に対する要求は認められないと無線で申し入れた。その後、韓国の警備艦が漁船に接近したため、海上保安庁の巡視船が韓国の警備艇と漁船の間に割って入った。すると、韓国の警備艇は午後10時50分ごろ現場海域を離れた。以上が水産庁のプレスリリースの概要だ。2時間20分余りの緊迫した雰囲気が伝わってくる。

   今回の韓国の警備艦による日本漁船の退去要求はまさに「ここは我々(韓国)の漁場」であり、出ていけと警告したのと同じだ。これは、北朝鮮が繰り返してきた主張と重なる。領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していない上、日本と漁業協定も結んでいない。端的に言えば、北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化して違法操業を繰り返しているのが現状だ。条約の批准国であり、日本と漁業協定も結んでいる韓国がなぜ日本のEEZ内の海域で「日本漁船は出ていけ」とメッセージを発したのだろうか。その意図は一体何だろうか。

   このブログでも何回かEEZ内における北朝鮮の違法操業について述べた。現在でも大和堆での北のイカ漁船によるが違法操業が繰り返され、海上保安庁巡視船は退去警告に応じなかった漁船に放水して退去させている。少々乱暴な言い方かもしれないが、韓国の警備艦による日本漁船への退去要求ならびに、漁船への接近はこうした日本側の措置に対する「警告」ではないか。つまり、これ以上北の漁船に対する取締をするなとのメッセージではないだろうか。

   最近の韓国の動きは不可解だ。10月、済州島での国際観艦式に際して自衛艦隊旗の旭日旗の掲揚に難色を示して物議をかもし、韓国大法院が日本企業に戦時中の朝鮮半島からの出稼ぎ者に対する損害賠償を下し、「国際法違反だ」と日本の反感を煽った。今月は「最終的かつ不可逆的に解決」と確認した日韓合意でつくられた、いわゆる元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」を解散した。これから先に見えるのは、日本海の呼称問題、つまり韓国側が主張する東海(トンヘ)の地図上で併記の要求、さらに日本と韓国の漁業協定の棚上げ、あるいは破棄などへの広がりではないだろうか。

⇒22日(木)午前・金沢の天気    あめ

★祖母、母から聞いた話

★祖母、母から聞いた話

   私の祖母はとても「朝鮮漬け」が上手だった。ユズなども入れていて、いま思えば売り物になるレベルではなかったかと思う。尋ねたことがある、どこでキムチをつくることを教わったのか、と。戦前、祖先は能登半島でトンネル工事の請負をしていた。作業員の中には朝鮮半島からきた出稼ぎ者たちがいて、その日の作業が終ると毎晩のように宴会があり、キムチを所望された。祖母の若いときで、作業員からつくり方を聞いてつくった。工夫を重ねて何とか朝鮮の人に食べてもらえるようになったと話していたことを覚えている。

   先月30日、朝鮮半島から内地に動員された元「徴用工」といわれる人たちが、日本企業を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁は賠償を命じる判決を言い渡した。これに対して、日本政府は1965年の日韓請求権ならびに経済協力協定で、請求権問題の「完全かつ最終的な解決」を定めているので、韓国の最高裁が日本企業に対する個人の請求権行使を可能としたことは、「国際法に照らしてありえない判断」(安倍総理)と強く批判している。

   「徴用工」は強制的に労働をさせられたいう意味合いでくくられているが、果たして実態はどうだったのか。冒頭で述べたが、出稼ぎで日本にやって来た人たちなのか、本人の意思に反して強制的に連れて来られたのか。いまのままでは、戦前に日本で働いた朝鮮半島からの労働者はすべて「徴用工」であり、受け入れ企業すべてが賠償請求の対象になる。安倍総理は今月1日の衆院予算委員会で、韓国の裁判の原告となった元工員4人について、「徴用工」という表現ではなく「旧朝鮮半島出身の労働者」で、4人はいずれも「募集」に応じたものだと述べている。素直に解釈すれば「出稼ぎ」である。国会で総理がそう述べたのはエビデンス(証拠、根拠、証言など)があってのことだろう。

   だったらそのエビデンスを日本国民の前に開示してほしい、と思う。国家総動員法に基づく朝鮮半島での戦時労働動員は、1939-41年は企業が朝鮮に渡り、実施した「募集」、1942-44年9月までは朝鮮総督府が各市・郡などに動員数を割り当て、行政の責任で企業に引き渡した「斡旋」、1939年の国民徴用令に基づき、1944年9月-45年3月ごろまで発動した「徴用」の3つがあった。いずれにしても、賃金が支払われていたのであれば出稼ぎだろう。言葉の乱用は避けてほしい。

   私の母親は戦時中、女子挺身隊として三重県鈴鹿市の軍需工場で働いていたことを話してくれたことがある。仕事の内容は覚えていないが、給料も出て、帰省時には金沢のデパートで買い物をして能登に帰ったと聞いた。女子挺身隊と聞けば、無給の労働をイメージするが、そうではなかった。戦時下、おそらくささやかな給与だったと想像する。日本での労働がすべて強制的であり、賃金はなかったという韓国の判決が正しいとすれば、日本人と朝鮮人に差別待遇があったと解釈すべきなのだろうか。雇いと強制労働はまったく違う。そのことを、政府は日本国民に開示してほしい。

⇒10日(土)午後・金沢の天気    くもり時々はれ、一時あめ

★ウォッチドッグジャーナル

★ウォッチドッグジャーナル

   大学で担当している「ジャーナリズム論」(履修生120名)では、ジャーナリズの社会的な役割について、「ウォッチドッグジャーナル」というキーワードをよく使う。ウォッチドッグ(watchdog)は直訳で「番犬」のこと。報道の役割は権力のチェックにある。民主主義社会は三権分立だが、権力は暴走しやく腐敗しやすい。権力に対するチェック機能が必要である。インターネット時代は、膨大な情報を簡単に入手できる。しかし、政府や官公庁の発表に頼らず、独自に掘り起こす調査報道がなければ、報道機関としての存在意義がない。世の中に警鐘を鳴らす。言わねばならないことを言うべきときに言う。それがウォッチドッグジャーナルだ、と。

   今月17日の講義でも冒頭でウォッチドッグに触れた。「トルコのサウジアラビア総領事館で姿を消したサウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏はおそらく厳格な番犬だったのだろう」と。この講義でカショギ氏をめぐるニュースを取り上げたのは、「ジャーナリズムの尊重」が国際評価基準になっていることを伝えたかったからだ。カショギ氏は国際ジャーナリストとして著名ではないものの、アラブの権力者に対して真向から言論の自由を訴えてきた。

   アメリカのワシントン・ポスト紙にカショギ氏がコラムを掲載してきたことをニュースで知り、同紙のWeb版をチェックした。見出しは「What the Arab world needs most is free expression」(アラブ世界が最も必要とするものは自由の表現)。現地時間17日付のコラムだ。最後の執筆となったこの記事を読むと、アラブの権力者たちの在り様を切々と問うている。以下要約を試みる。

   アラブ世界ではチュニジアなどを除きほとんどの国で言論の自由がない。2011年のアラブの春は形骸化している。アラブの人口の圧倒的大多数が国の虚偽の物語の犠牲者になっている。アラブのジャーナリストはインターネットが普及が印刷媒体の検閲から情報を解放すると信じていた時があったが、現在政府は懸命にインターネットをブロックしている。記者を逮捕し、出版物の収入を阻止するため広告主にも圧力をかけている。アラブの普通の人々の声を伝えるプラットフォームや、社会が直面する構造的問題を人々が発信する国際フォーラムが必要性だ。アラブの人々はこの国際フォーラムの創設を通して、プロパガンダを通じて憎悪を広げる国家主義的な政府の影響から解放され、社会が直面する構造的問題に取り組むことができるだろう.(Through the creation of an independent international forum, isolated from the influence of nationalist governments spreading hate through propaganda, ordinary people in the Arab world would be able to address the structural problems their societies face)

   こうしたカショギ氏の切々とした訴えは完全に無視された。サウジアラビア政府は総領事館でカショギ氏が殺害されたことを認め今日になって発表した。厳格な番犬=ジャーナリスト、カショギ氏の死を悼む。

⇒20日(土)午前・金沢の天気    くもり

★世論調査の「重ね聞き」

★世論調査の「重ね聞き」

    きょう(23日)日本経済新聞社とテレビ東京による世論調査(今月21-23日実施)の結果がWeb版で掲載された。安倍内閣の支持率は55%となり、前回の8月調査の48%から7ポイント上昇し、不支持率は42%から39%に下がった。支持率が55%以上になるのは、財務省の決裁文書改ざんが発覚する前の2月調査の56%以来と報じている。読売新聞社も世論調査(今月21-23日実施)を掲載していて、安倍内閣の支持率は50%、前回8月調査でも50%なので横ばい。不支持率は41%(前回40%)と1ポイント上昇した。

    NHKも今月の世論調査(今月15-17日)を発表していて、安倍内閣を「支持する」は先月の調査より1ポイント上がって42%だった。「支持しない」は39%で、先月より2ポイント下がっている。朝日新聞の世論調査(今月8-9日実施)では安倍内閣を「支持する」が41%で前月比で3ポイント上昇、「支持しない」は38%で前月比3ポイント下がった。

    マスメディアによる世論調査の方法の主流は「RDD(Random Digit Dialing)」と呼ばれ、全国の18歳以上の男女を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける世論調査。NHKの場合、今回調査の対象となったのは2128人のうち57%に相当する1215人から回答を得たと説明している。日経の今回の回答率は46.4%だった。

    それにしても、数字だけ眺めて不思議に思うのは、日経と読売が内閣支持率が50%を超えているのに、NHKと朝日は40%台だ。世論調査とは言え、調査に答える人はそれぞれのメディアのシンパなのだろう。だから日経と読売の支持率は高く、NHKと朝日は低い、と思いがちだ。実は、設問方法が違うのだ。

    最初に「内閣支持」か「不支持か」を尋ねるが、答えなかった人は「言えない・分からない」に分類される。朝日の場合はこれでこの設問は終わりだ。ところが、日経は「重ね聞き」をする。「言えない・分からない」と答えた人に再度、「お気持ちに近いのはどちらですか」と尋ねるのだ。Web版から引用して数字で示す。最初「支持する」51%、「支持しない」36%、「言えない・分からない」12%だった。「言えない・分からない」と回答した人に再度「お気持ちに近いのはどちらですか」と尋ね、「支持する」32%、「支持しない」25%、「言えない・分からない」43%の数字を得た。これを算定して「支持する」55%、「支持しない」39%としている。重ね聞きの場合は、「言えない・分からない」の割合が減る分、結果的に「支持する」と「支持しない」の割合が増えるのだ。

    結論、NHKと朝日は重ね聞きをしないので内閣支持率も不支持率も低い。ところで、私自身もこれまで何度かRDDに答えたことがあるが、ロボット的な自動音声に設問されると「早く終われよ」との感情が先立つ。世論調査は有権者の気持ちを引き出すものだ。ロボット調査は勘弁だ。ちなみに、朝日の調査は自動音声ではなく、調査員の肉声だった。肉声だから素直に答えるという訳でもないのだが。

⇒23日(日)夜・金沢の天気    くもり

★「ふるさと納税」への動機付け

★「ふるさと納税」への動機付け

   ふるさと納税が面白い。自身もことし7月に能登半島のある自治体に「能登牛(のとうし)」と「地酒」をセットで申し込み、届いた肉と日本酒で友人らを招いてすき焼きパーティーを楽しんだ。もう4回目ですっかり恒例行事となった。申し込みの際に届いたガイドブックに目を通すと、新しい「返礼品」が記載されていた。「お墓のお掃除代行」「雪かき代行」「草刈り代行」だった。

   墓掃除代行の項目。「お墓の一角分の清掃をシルバー人材センター1名の会員が2時間の範囲で行います。後日、清掃前後の写真をお送りします」と。さらに清掃の内容は「墓石等洗浄、草取り」とある。注意事項として、「墓石は水洗いのため、汚れが落ちない場合もあります」と。確かにそうだ。ひと昔前の安山岩系の墓石だとコケがこびりついて水洗いでは落ちにくい。

   雪かき代行の詳細。「家の周り、玄関周辺の雪かきをシルバー人材センター2名の会員が4時間の範囲内で行います。後日、雪かき前後の写真をお送りいたします」と。これも注意事項があって、「家の周り、玄関周辺の雪かきに限ります。屋根の雪下ろしはいたしません」と。草刈り代行はシルバー人材センター2名が8時間で住宅や土地の除草を刈り払い機を使って行う。竹林などの伐採は行わない。墓掃除は1万円、雪かきは5万円、草刈りは10万円の寄付金でやってもらえる。

   墓掃除や雪かき、草刈りはその地域の出身者にターゲットを絞った、本来の「ふるさと納税」だろう。盆に故郷に墓参りに行きたいが所用でどうしても行けない、あるいは故郷に一人暮らしの高齢の親がいる場合には冬場の雪かきを頼みたいなど、遠方に住む出身者のニーズはある。生まれ育った故郷の振興に役立てばとの想いも重ね合わせると、ふるさと納税へのストーリー性のある動機づけになる。 

   一方、このところニュースでふるさと納税が「悪役」になっている。ふるさと納税の返礼品の調達価格を寄付額の3割以下にするよう求める通知を守っていない自治体が全国自治体の14%にあたる246に上り、総務省はこうした自治体をふるさと納税の対象から外す方向で制度を見直すという。昨年度に135億円を超える寄付額を集めた大阪府泉佐野市の場合、返礼品として地場産品ではない全国各地の肉や果物、ビールなどを取りそろえていて、返礼品の調達価格が寄付額の5割に達するものもあったと総務省から指摘を受けた。

   ふるさと納税は個人が自治体に寄付するとその金額の一部が所得税と住民税から控除される仕組みなので、元が取れて返礼品を楽しむことができれば、投資感覚で寄付を楽しむ人もいるだろう。かつて財政健全化団体に陥ったこともある泉佐野市は寄付金集めに苦心したのだろう。同市の返礼品はそんな人たちのターゲットになったようだ。ただそこには「ふるさと」という発想はない。「ふるさと納税」の存続が問われている。(※写真は「珠洲市ふるさと納税ガイドブック」から)

⇒12日(水)朝・金沢の天気    くもり

☆災害列島に「想定外」はない

☆災害列島に「想定外」はない

        自然の猛威が止まらない。きょう10日も本州付近にどっかり停滞した前線の影響で能登半島ではまた大雨に見舞われ、1万5千人余りに対し一時的に避難勧告が出された。輪島市では道路ののり面が崩壊して集落が孤立、JR七尾線では運休が相次いだ。先月末に豪雨による河川の氾濫で住宅が冠水していて、泥掃除が終わったころに今回の大雨だ。「もう堪忍してや」と地域の人々の悲鳴が聞こえる。

   札幌市に住む友人とメールのやり取りをしている。かつて民放テレビ局にいて番組づくりを通じて知り合った。今はリタイアしている。メールで「悠々自適だったのに今回の震災で憂鬱な毎日です」と。さらに不安心理を煽っているのは「もう一つのドでかい地震」。昨年12月に政府の地震調査委員会が公表した、北海道の沖合にある千島海溝で起きるとされる「マグニチュード8.8程度以上」の巨大地震なのだという。

   千島海溝では、1973年6月の根室半島沖地震や2003年9月の十勝沖地震など繰り返し地震が起きている。地震調査委員会が公表した地震は350年ごとに繰り返している巨大地震で30年以内の発生確率は7%から40%と想定されてている。「今回の地震で誘発されるのはないか」と、友人は不安を隠さない。地震調査委員会がホームページ上で公表している「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」を読んでみた。確かに数字が具体的ですさまじい。

   根室沖では、過去およそ170年間にマグニチュード7.4以上の地震が3回起きていて、今回公表では8.5程度のものが今後30年以内の発生確率で60%程度から70%程度となっている。また、北方四島がある色丹島沖および択捉島沖でも巨大地震が発生する可能性があると指摘している。友人は「もう『想定外』という言葉は死語になった」と。

   地震調査委員会は2013年にも南海トラフについて公表し、マグニチュード8から9の巨大地震が今後30年以内に60%から70%の確率で発生すると指摘、世間を震撼させた。災害列島は次なるステージに入ったと言える。同時に日本人の価値観も今後大きく変動していくのではないだろうか。どのように変わっていくのか探ってみたい。(※写真は「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」より)

⇒10日(月)夜・金沢の天気     くもり

★震災あれど、花火を上げる心意気

★震災あれど、花火を上げる心意気

    日本は災害列島だ。ここ数ヵ月でも大阪北部地震(6月)、西日本豪雨(7月)、最大級の台風21号(9月)、そして今回の北海道地震。まさに非常事態だ。日本は自然災害と戦っている「紛争国」ではないだろうか。

    自然災害がもたらすこんな数字を思い起こす。今後30年以内に70-80%の確率で発生するとされる「南海トラフ地震」がM9クラスの巨大地震と想定すると、経済被害額は最悪の場合、20年間で1410兆円(推計)に達する(ことし6月7日・土木学会)。倒壊などによる直接被害は169兆5千億円、それに加え、交通インフラが寸断されて工場などが長期間止まり、国民所得が減少する20年間の損害額1240兆円を盛り込んだ数字だ。そして、奪われるであろう命は最悪30万人余り。

    自然災害に怯えてばかりはいられない。災害と共生するたくましい人々が北海道にいる。きょうのネットニュース(BuzzFeed Japan)にもなっていた。洞爺湖町で開催されている「洞爺湖ロングラン花火大会」(4月28日-10月31日)は、地震があったきのう6日夜も450発が打ち上げれたようだ。「震災で亡くなった人々がいるので不謹慎」と思う人もいるだろう。洞爺湖周辺の人々には自然災害と付き合ってきた長い歴史がある。

           昨年9月16-18日の休日を利用して北海道の洞爺湖を旅した。目的は「洞爺湖有珠山ジオパーク」だ。2009年、ユネスコ世界ジオパーク認定地として糸魚川、島原半島とともに日本で初めて登録された。ジオパークは大地の景観や奇観を単に観光として活用するというより、地域独特の地学的な変動を理解して、その大地で展開する自然のシステムや生物の営み、人々の生業(なりわい)、歴史、技術などを総合的に評価するものだ。

    洞爺湖有珠山ジオパークの価値を理解するため、ロープウエイに乗って、有珠山の噴火口に行き、あるいは洞爺湖を望んだりした。理解を深めるとっかかりはガイドの男性の意外なひと言だった。「有珠山はやさしい山なんです」。火山科学館で 有珠山のビデオ上映があった。1663年の噴火以来、これまで9度の噴火を繰り返してきた日本で最も活動的な火山の一つだ。映像は18年前の2000年の噴火を中心に生々しい被害を映し出した。この映像から有珠山の「やさしさ」の理由が解きほぐされる。

    2000年の噴火では、事前の予知と住民の適切な行動で、犠牲者がゼロだった。犠牲者ゼロが成し遂げられたのは、有珠山は噴火の前には必ず前兆現象を起こすことだった。その「山の声」を聞く耳を持った住民や気象庁や大学の専門家が観測をすることで適切な行動を起こすことができたからだ。この犠牲者ゼロの貴重な体験から「火山防災」あるいは「火山減災」という考えが地域に広まり、学校教育や社会教育を通じて共有の認識となる。さらに気象庁は火山の監視と診断(緊急火山情報、臨時火山情報、火山観測情報)の精度を高め、大学などの研究機関は予測手法の確立(マグマの生成、噴火に伴う諸現象など)をすることで「火山学」の理論構築を展開させた。

   定期的に噴火を繰り返す有珠山と共生するという周辺地域の人々の価値感は、噴火の事前現象を必ず知らせてくれる「やさしい山」なのだ。それだけではない、1910年噴火では温泉が沸き出し、カルデラ湖や火砕流台の自然景観は観光資源となり、年間301万人(平成27年度・洞爺湖町調べ)の観光客が訪れ、宿泊客は64万人。有珠山観光は地域経済を支える基幹産業である。火山を恵みとしてとらえ、犠牲者を出さずに火山と共生する人々の営みを創り上げた。

   防災、減災、リスクヘッジをひたむきに追求し、危機対応や被災に対する心構えがこの地には根付いているからこそ、被災地域を超えて「大地の公園」、ジオパークという発想に立つことができる。「花火は人が打ち上げるものだ。停電の闇夜(ブラックアウト)に明かりを」と言わんばかりに震災の日に花火を打ち上げた、洞爺湖観光協会の人々の心意気は十分に理解できる。(※写真は洞爺湖観光協会ホームページから)

⇒7日(金)夜・金沢の天気   あめ

☆災害列島の正念場

☆災害列島の正念場

  「震度7」、痛ましい。先日の台風21号に続いて、まさに「災害列島」。気象庁は地震の名称を「北海道胆振東部地震」に決定したと発表した。胆振(いぶり)という地名を入れる必要があるのだろうか。おそらくテレビ各局のアナウンサーも困っているだろう。「いぶりとうぶ」という読みは舌を噛みそうだ。「北海道地震」でよいのではないだろうか。何しろ東北の一部を含め北海道全体が揺れている=写真・上、気象庁ホームページより抜粋=。

   早朝にNHKニュースを視聴して「震度7」の状況を見たのは、厚真町(あつまちょう)の山々の土砂崩れだ。頂上の樹木を残して赤土の山肌がいたるところで露出している。震度7の揺さぶりの激しさを見た思いだ。土砂災害がこれほど大きくなると自衛隊の災害派遣が要請される。防衛庁のホームページによると。現在4900人が派遣され、今後2万5000人規模まで増派予定と。艦船は4隻、航空機は20機。陸上自衛隊は給水支援や人命救助活動を行っている=写真・下、防衛庁ホームページより抜粋=。海上自衛隊は救援物資の輸送を行っている。航空自衛隊は救助犬の派遣など行っている。自衛隊では海上と航空が「警備犬」を養成していて、爆発物の検索や不審者の追求、災害時における被災者の捜索を行う。犬種はドイツ・シェパードが多いようだ。

   大規模な震災では二次災害が起きる。とくに火災だ。電気機器やコードが損傷している場合は火災が起きる。消防庁の呼びかけで意外だったのは太陽光発電パネルの危険性だ。損傷した太陽電池パネルに日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性があり、可能ならばパネルの表面に遮光を施す、たとえばブルーシートや段ボールで覆う、裏返しにするなどの対策をとってほしいと呼びかけている。文明の利器も災害時には凶器となるのだ。

    総理官邸ではどんなことがなされているのか。ホームページをチェックすると、関係閣僚会議で安倍総理が次のように指示している。北海道全域で発生していた停電は水力・火力発電所の再稼働を進めた結果、札幌市の一部など30万戸への送電を再開した。あす朝までに全体の3分の1に当たる100万世帯への供給再開を目指す。病院や上下水道、通信基地局などの重要施設向けては300台以上のタンクローリーを派遣して自家発電(非常用電源)に必要な燃料供給を行う。全国の電力会社から150台の電源車を確保し、今夜中に35台が現地に入り、重要施設への電力供給を行う。

    内閣も必死なのだろう。災害列島は正念場だが、ただ、これで終わることはない。「災害は忘れたころにやってくる」(寺田寅彦)は教訓だが、すでに現実味を失った。「天災は忘れないうちにやってくる」と心得た方がよい。

⇒6日(木)夜・金沢の天気     はれ