⇒ニュース走査

★研究論文をあさる根深さ

★研究論文をあさる根深さ

        きょう金沢大学の雑木林で草刈りボランティア活動があり、参加した学生27人といっしょに汗を流した。角間キャンパスは200㌶あり、学長が音頭を取って毎年この時季と秋の2回、学生たちと山の草刈りをする。題して「学長と汗を流そう!角間の下草刈りプロジェクト」。午前中だけのイベントだが、傾斜地のささやぶを鎌で刈っていく作業だ。中には斜度60度はあろう、急傾斜地もある。学生たちと上り、ささやぶを刈り払う=写真・上=。 

   ささやぶはチマキザサで、高さが1.5㍍から2㍍もある。雪が積もると倒伏し、傾斜地では積雪が滑りやすい。積雪の山地に柔軟に対応することで群生する、したたかな植物ではある。金沢では笹寿しを巻くのに重宝する。午前中2時間ほどササ刈りを、午後から自宅で草むしりをした。我が家の庭にはいろいろな雑草が生えている。スギナ、ヤブカラシ、ドクダミ、チドメグサなどは通年で生えてくる。中でもチドメグサの勢いが強い。チドメグサは茎全体が横にはって、節から根を出し、どこまでも広がる。これがむしっても、むしっても1ヵ月もすればまた増殖してくる=写真・下=。専用の除草剤はあるのだが、使いたくないので手作業で戦いを挑んでいる。

   チドメグサと一心不乱に向き合って、ふと「ファーウェイも根深い」ときょうのロイター通信のWebニュースを思い起こした。アメリカに本部を置く電気電子技術者協会(IEEE)が、アメリカ政府が安全保障を理由にファーウェイの事実上の輸出禁止規制を決めたことを受け、ファーウェイ社員による研究論文の査読に参加の制限を発表したという内容だった。研究論文の査読は論文の発表前に行う、他の研究者による評価プロセスである。研究者同士が査読をするのであれば問題はないが、通信機器を開発する会社が査読に参加することは問題である。論文の発表前に研究内容を知る立場にあるということだ。

   IEEEと中国のテクノロジー研究機関である中国計算機学会(CCF)が2016年から若手コンピューター科学者向けの賞を共同主催していて、IEEEのウェブサイトにはCCFが「姉妹学会」の1つとして記載されている。つまり、CCFがコンピューター科学者向けの賞をIEEEと設立し、その事前審査である査読にファーウェイ社員を参加させていた。論文の中にファーウェイが欲する研究があれば他社よりもいち早くその研究者を囲い込むができるというシステムをつくり上げていた、ということになる。実に巧妙な手口ではないだろうか。この手法で世界各国のICT研究に食い込んでいたとすれば、これは脅威ではないだろうか。

⇒2日(日)夜・金沢の天気     くもり

☆「同時配信」への欲望~下~

☆「同時配信」への欲望~下~

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」がテレビ業界にあった。2000年12月にNHKと東京キー局などBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。

    ~ ローカル発の「ネット受け」番組のチャンス ~

   ローカル局には放送法で「県域」というものがあり、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のこと。その電波が隣県に飛ばないよう電波塔の向きなども工夫している。結局、BSデジタル放送問題ははキー局の地上波番組をそのまま同時再送信するような放送を避けて、独自色のある番組を放送することで、「炭焼き小屋論」は杞憂に終わった。今回の放送とネットの同時配信では、「炭焼き小屋論」が再燃するかもしれない。 そもそもなぜ同時配信がイギリスやアメリカに後れをとったのか。3つのハードルがあった。

   一つには著作権の処理の問題がある。日本の著作権処理は細かすぎる。テレビ番組を制作し放送する権利処理と、その番組をネットで配信する権利処理は別建てとなる。ドラマの場合は出演者、原作者、脚本家、テーマ曲の作詞家、作曲家、テーマ曲を歌った歌手、CDを製作した会社、番組内で使用した全ての楽曲の権利者など、全ての権利者の許諾を取らなければならない。番組は「著作権の塊(かたまり)」でもある。スポーツ番組も放送する権利と配信権があるなどややこしい。これを同時配信するとなるとネット分が著作権料が上乗せされるので、同時配信のビジネスモデルが確立されてないとかなりの負担になる。放送のビジネスモデルは視聴率だが、ネット配信のビジネスモデルはアクセス数による広告料でしかない。

   次のことが、冒頭の「炭焼き小屋論」に直結する。ネット動画に接続できる機能を備えたテレビ受像機は今では普通だ。東京キー局が番組をそのまま全国にネット配信すると、同じ系列局のローカル局の番組を視聴せずに、ダイレクトにキー局の番組を見るようになるかもしれない。また、県によっては民放局が2局、あるいは3局しかないところがあり、他のキー局の番組がネットで配信されると、県域のローカル局を視聴する比率が落ち込むことになりかねない。キー局による、ローカル視聴率のストロー現象が起こりかねないのだ。

   三つめは設備のコストだ。ネット配信となると、ローカル局でも数十万件のアクセスを想定した動画サーバーや回線を確保しなけらばならず、ネット配信自体にコストがかかる。キー局や準キー局ならばコスト負担に耐えられるかもしれないが、ローカル局に余力はあるだろうか。

   以上のようなことを想定すると民放全体として同時配信に踏み切れるかどうかだが、個人的には同時配信に踏み切るチャンスだと言いたい。ここからは持論だ。逆にローカル局が番組をネット配信をすることで、首都圏や遠方の他県に住む出身者に「ふるさと」をアピールできるのではないだろうか。出身者でなくても、地域の魅力があふれる面白い番組は全国から視聴される。北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』などはローカル発全国の先鞭をつけた番組だった。ローカル局によるローカルのためローカル番組ではなく、ローカル局によるローカルのための全国ネット番組を制作するのだ。

   ローカル局には「ネット上げ」という言葉がある。キー局が全国ニュースとして取り上げてくれるニュースや特集、あるいは番組のことを指す。同時配信なので、「ネット上げ」だけでなく「ネット受け」を意識した番組を制作してほしい。同時配信は地域の話題や課題をローカルだけではなく、全国発信するチャンスではないだろうか。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

★「同時配信」への欲望~上~

★「同時配信」への欲望~上~

        NHKのテレビ番組が放送と同時にネットでも常時見られるようになる改正放送法が参院本会議で可決成立した(今月29日)。同時配信の時代が日本にも遅ればせながらやってくる。遅ればせというのは、同時配信はイギリスの公共放送BBCは2008年から、そのほかアメリカやフランスなど欧米では当たり前のように行われているからだ。

        ~  放送はマスでも、ネットは個、視聴者行動にもSIPSがある ~

        NHKは同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」への脱皮を計っているのだろう。NHKは同時配信には前向きで、災害報道などネットと同時配信を行っている。個人的に同時配信を実感したことがある。2018年11月7日のアメリカ議会の中間選挙の結果をNHKのネット中継で見ていた。放送と同時送信だ。正午すぎに、NHKはアメリカABCテレビの速報として、トランプ大統領の与党・共和党が上院で半数の議席を獲得することが確実となり、共和党が多数派を維持する見通しになったと日本のメディアとして最初に伝えた。放送より数十秒の遅れタイムラグだったが、ネット動画の画面や音声の質での問題はまったくなかった。12時35分ごろには、中間選挙以外の番組に切り替わったため、ネット配信も終了した。同時配信はPCかスマホさえあればリアルアイムで世界のニュースを視聴できる時代だとこのとき実感したものだ。

   しかし、NHKが同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」を目指すのであれば、放送する番組をネットで流せるようになったというだけは物足りない。上記のアメリカ議会の中間選挙結果のネット配信も、放送と同時に終了ではなく、ネットはそのまま番組を続行してほしかった、というのが本音だ。視聴者の映像への欲望はもっとどん欲だ。2020年夏の東京オリンピックを想定してみる。体操の決勝が番組が流れていても、同時刻で水泳をやっていれば水泳を見たい人もいる、卓球を見たいという人もいる、多様な視聴ニーズ「視聴欲望」がある。

   現状では、NHKも民放も「見逃し配信サービス」を行っていて、水泳も卓球も後ほど録画でネット配信します、となるだろう。今の視聴者は見逃したので後で見るという発想は薄い。視聴者は欲求は見たい番組を今見たいという欲求だ。これまでテレビの番組はマス(視聴者全体)へのアピールだけで事足りてきた。個人のニーズや欲求を満たすという発想はなかった。ところが、AIなどのイノベーションにより、インターネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング」がもはや普通になってきた。その消費者行動はシップス(SIPS)と称される。視聴者行動もまったく同じだ。Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)である。

   NHKが本気で公共メディアを目指すのであれば、この視聴者のSIPSにどう応えていくかが問われるだろう。放送と同じ番組を同時配信だけならば、単なるネットでのタレ流しである。放送はマスであっても、ネットは個である。時代に対応した同時配信を期待したい。

⇒30日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆計算された「拡大自殺」

☆計算された「拡大自殺」

   きのう28日朝、ブログを書いているときにニュースが流れた。川崎市多摩区の路上でスクールバスを待っていた小学生や大人が51歳の男に次々と包丁で刺され、女子児童と30代の男性の2人が死亡、17人がけがを負った、と。男は身柄を確保されたが、自ら首を刺して搬送先の病院で死亡した。目撃情報では、「ぶっ殺すぞ」と男は叫び、子どもたちを襲った。

  ニュースで知る限り、犯人と犠牲者との間に接点はない。現場には使われたとみられる包丁2本が落ちていたほか、男のリュックサックの中には使用されていない包丁がさらに2本があった。包丁4本で犯行に及んだと推測される。推測だが、落ちていた2本は他殺用に、リュックの2本は自殺用だったのではないだろうか。保険証があったので身元がすぐに割れた。逃走する意思もなかったのだろう。

  この事件で浮かんだのは「拡大自殺」という言葉だ。この聞き慣れない言葉は、ウイキペディアなどによると、その定義として、1)本人に死の意志 2)1名以上の他者を相手の同意なく自殺行為に巻き込む 3)犯罪と、他殺の結果でない自殺とが同時に行われること。道連れ殺人ともいえる。アメリカでは学校でライフル銃を乱射した後に自殺するケースが多いが、典型的な拡大自殺だろう。

  身近に事件があった。2017年3月10日、石川県能登町で帰宅するためバス停で待っていた高校1年の女子生徒が連れ去られ、バス停から5㌔離れた山あいの集落の空き家で頭から血を流して死亡しているのが見つかった。殺害したとされる男子大学生21歳は同日午後7時40分ごろ、空き家から16㌔離れた道路に飛び出して乗用車にはねられ死亡した。2人は顔見知りではなく、死亡した男子学生は一人でバス停で待っていた女子高生を角材で殴り、車で連れ去って、空き家(祖父の家)で殺害した。その殺害動機は解明されていない。

  男子学生が自殺を図った現場の能越自動車道穴水道路は能登との往復でよく利用する。上下それぞれ1車線で部分的に両脇がコンクリート壁になっていて狭く感じる。ここで急に道路に飛び込んでくる人影があっても、それを避けようにも車体を横に切ることはできない場所だ。まして夜である。他殺、自殺、死亡事故。計算し尽された死の演出ではなかったか。拡大自殺の巻き添えになった女子高生が痛ましい。(写真は、川崎の殺傷事件を伝える28日付の夕刊各紙)

⇒29日(水)朝・金沢の天気   くもり   

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

  アメリカの大手IT「グーグル」がスマートフォン用の基本ソフトの中国の通信大手「ファーウェイ」への提供を停止した。ファーウェイのスマートフォンには、グーグルの基本ソフト「アンドロイド(Android)」が使われているが、アメリカ商務省は17日、アメリカの企業が政府の許可なく取引を禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表している。これを受けて、グーグルがファーウェイに対して基本ソフトの提供を停止したカタチだ。20日付のイギリスBBC放送Web版=写真=は詳細に伝えている。

   今後ファーウェイが新たにつくるスマートフォンについては、アプリを配信する「グーグルプレイ」やメールソフト「Gメール」などグーグルの主なサービスが使えなくなる。ファーウェイはスマートフォンの出荷台数でアップルを抜いて、首位のサムスンに次ぐ世界第2位のシェアだが、打撃は避けられないだろう。

   これに対し、ファーウェイは声明を発表し、「すでに世界で販売されたり、現在販売されているスマホやタブレットについては、その利用やセキュリティーのアップグレード、それにアフターサービスに影響はない。利用者は、安心して使ってほしい」と述べ、スマホなどの使用に影響はないと発表。さらに、「アメリカで5G(次世代高速移動通信)を整備するつもりなどない」と宣戦布告のようなことを述べている。

       問題は中国政府の出方だ。外務省報道官の記者会見の発言を読むと、「中国政府は中国企業が法律を武器にみずからの正当な権益を守ることを支持する」と述べているが、アメリカに対するあからさまな非難を避けているような表現だ。アメリカとの貿易戦争という国難をどう切り抜けるのか。

   日本財団の笹川良平氏から届くメールマガジンで、「中国の小話」その185 ―中国政府の6つの奇跡は可能か?―とのタイトル(5月13日付)があったのでのぞいてみた。その奇跡とは、「住宅価格を維持しながら、不動産バブルの問題を解決する。」「貨幣を超過発行しながら、中央と地方政府の債務問題を解決する。」「絶えず巧妙に国民の税金負担を増やしながら、内需不足を解決する。」「資本規制をしながら、人民元国際化の障害をクリアする。」「計画生育制度を維持しながら、労働力人口の縮小問題を解決する。」「政府が強く関与しながら、市場の活力不足の問題を解決する。」

  中国の課題を絶妙な表現で「小話」化しているのが面白い。では、7つ目の奇跡があるとすれば、「米中貿易を戦いながら、25%関税をチャラにする。」だろうか。 

⇒22日(水)夜・金沢の天気   はれ

☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

    アメリカと中国の貿易戦争に中国の通信機器「ファーウェイ」が引きずり込まれている。報道によると、アメリカ商務省は、アメリカの企業が政府の許可なく取り引きすることを禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表した(17日)。事実上の取引禁止だ。

          取引禁止とした経緯について「CNN」Web版=写真・上=は以下伝えている。トランプ大統領は16日、安全保障上の脅威と位置付けるメーカーの通信機器をアメリカ企業が使用することを禁じる大統領令に署名した。この時点で、ホワイトハウス当局者は大統領令のターゲットとしてファーウェイを念頭に置いているかどうかは明言しなかった。そこで、大統領令発令の直後に商務省が、アメリカの国益を侵害していると認定する企業のリストにファーウェイを正式に追加した。ここで初めてファーウェイが大統領令の適用対象となった。

   以前からアメリカはファーウェイが欧米諸国の通信インフラにスパイ行為のリスクをおよぼすとして警戒していたが、今回その排除が確定した。ファーウェイは次世代高速通信システム「5G」の先端企業とされる一方、中国の国家戦略「中国製造2025」のリーダー的企業でもあり、アメリカとすると自国の通信網にそのような企業の製品を入れたくないというのは当然かもしれない。

   今回のアメリカの決定の根拠はおそらくこれだ。2017年6月に施行された中国の「国家情報法」。法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、中国に本社があるファーウェイは国家情報活動に「支持、援助および協力」をしなければならない。この法律がある以上、アメリカの懸念は理解できる。これは貿易戦争ではなく、安全保障の問題だ、と。

   その中国では、民主化を求めた学生たちに対する武力弾圧、「天安門事件」が1989年6月4日に起きてから30年になるのを前に、国内のネットからWikipediaへのアクセスが出来なくなっている。中国は2015年5月から中国語版Wikipediaへのアクセスを遮断しているが、この規制を全言語のWikipediaに拡大したことになる。インターネット検閲に関する調査団体「OONI」が報じている=写真・下=。

  法律による情報活動への協力、そしてネットの情報遮断。息苦しい情報空間がファーウェイの背後に漂っている。

⇒20日(月)午後・金沢の天気     あめ     

☆「前提条件なし」会談の思惑は

☆「前提条件なし」会談の思惑は

   安倍総理が北朝鮮の金正恩党委員長と「前提条件なし」に首脳会談を行う考えだと表明したとメディアが報じた(今月6日)。日本人拉致問題の解決に向けて一歩進めたいという思惑を感じる。また、北朝鮮問題をめぐる6ヵ国協議の参加国の中で、日本だけが北朝鮮との首脳会談が実現していないので、何とか対話の糸口をつかみたいと思っているのか。しかし、この「前提条件なし」の首脳会談に国民は期待を寄せているだろか。

   まず、「前提条件なし」という設定はありうるのだろうか。非核化を巡るアメリカと北との交渉で、北の対米担当幹部が2回目の首脳会談が物別れに終わった責任はポンペオ国務長官にあるとして、交代を求める声明を発表している(4月18日)。ポンペオ国務長官抜きに、トランプ大統領と直接会うのであれば、3回目の会談に応じると。これに対して。アメリカの国務省は北朝鮮と建設的な交渉を行う用意があると、改めて協議に応じるようにと返している。仮定の話だが、「安倍氏と1対1で直接会うのであればOK」という条件を北が出したら、これに安倍総理は応じるだろうか。

   さらに解せないのは、今月9日の国連人権理事会で、日本は11年続けてEUと共同歩調をとって提出してきた北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を今回は出さなかった。北との首脳会談を誘うため、このような「配慮」までしなければならないのだろうか。案の定、理事会で日本の代表が「日本と北朝鮮は互いに不信感を取り除き、協力し合わなければならない」とやんわりと拉致問題について述べると、北の代表は「日本人の拉致問題は根本的に完全に解決済みで、生存している人たちは家族とともに日本に戻った」と拉致問題そのものを否定した(10日付・NHKニュース)。配慮すればするほどそれがアダとなってブーメランのように戻ってくる。

   おそらく、安倍総理が描いている首脳会談のビジョンは、東京オリンピックへの「誘い」ではないだろうか。韓国の文在寅大統領は昨年の平昌冬季五輪で南北の合同参加を呼びかけ、4月には南北首脳会談にまでこぎつけた。安倍総理も五輪参加を呼びかけ「東京に来ませんか」と。そのひとことを言うために「前提条件なし」の首脳会談を表明している。そう思えてならない。

⇒12日(日)午後・金沢の天気    はれ

☆北、きょうもミサイル発射

☆北、きょうもミサイル発射

   きょう(9日)午後5時ごろ、メディアのニュース速報が流れた。「午後4時30分ごろ、北朝鮮が飛翔体を日本海に発射した」。夕方のニュース番組では、韓国軍合同参謀本部は短距離ミサイルと推定される飛翔体を午後4時29分と同49分、北西部の亀城(クソン)付近から1発ずつ計2発を発射、それぞれ420㌔と270㌔飛行して日本海に落下したと発表したと伝えた。

    世界のメディアも速報で伝えている。イギリス公共放送「BBC」Web版は「North Korea fires two short-range missiles, South says(北朝鮮が2発の短距離ミサイルを放ったと、韓国発表)」と見出しで、金正恩朝鮮労働党委員長が双眼鏡を手にしている写真とともに掲載した。北は今月4日午前にも東部の元山(ウォンサン)から日本海に向けて飛翔体を数発を発射している。折しも、4日のミサイル発射をめぐってきょう日本、アメリカ、韓国の3ヵ国の防衛当局による実務者協議がソウルで開かれていた。きょうのミサイル発射はそのタイミングを狙って挑発的したのではないかとも受け取れる。

    もう一つ、タイミングが重なった。韓国の文在寅大統領は就任2年を翌日に控えたきょう夜、韓国の公共放送局「KBS」の特集対談番組に生出演した。その様子をKBSのラジオニュースWeb版が伝えている。「President Moon Urges N. Korea to Stop Raising Tensions(文大統領は北に対し、緊張の高まりを止めるよう要請した)」との見出しで、夕方に発射された飛翔体について、文氏は「短距離ミサイルと推定している」「短距離だとしても、弾道ミサイルなら国連安保理決議に違反する可能性もある」「このような行為が繰り返されれば、対話と交渉の局面を難しくする」と述べたと伝えている。

   特集対談番組は以前から組まれていた。その番組は生放送でのインタビューだった。このWeb版ニュースを読む限り、文氏の発言はもう北をかばいきれないと判断しているようにも思える。

⇒9日(木)夜・金沢の天気    はれ

★「10連休明け」の風景

★「10連休明け」の風景

  長いと言えば長い、しかし、あっという間に明けたような気もする。10連休明けのきょう(7日)の風景は。

  日常の風景。朝から子どもたちの騒がしい声が聞こえた。我が家の前は通学路になっていて、登校の児童たち=写真・上=が交通巡視員に向かって大きな声で「おはようございます」と元気がいい。10連休の金沢市内はどこも観光客であふれていたが、ようやく日常が戻った感じだ。JR西日本金沢支社の発表によると、10連休中の北陸新幹線の利用者数は41万2000人で、昨年の同じ時期と比べて8万4000人増え、兼六園も入園者数が19万人となり昨年に比べ6万5000人増えた。金沢21世紀美術館の入館者数も20万人超え、1日平均2万人は過去最高だった。

  職場の風景。10連休明けの身近な風景はクールビズだった。令和になって初めての業務。職場でも、ネクタイを外した軽装が目立った。ただ、きょうの日中の最高気温は金沢は17度で、暑いという感じではなかったので上着をはおっている姿が多かった。

  マーケットの風景。アメリカのトランプ大統領が5日のツイッターで、中国からの輸入品2000億㌦分に上乗せした10%の関税を今週の金曜日(10日)から25%に引き上げると表明した。アメリカの通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も6日、貿易交渉で中国側が構造改革の約束を撤回したこと理由に、関税の引き上げをあす8日に正式発表すると表明した。中国側との交渉は続けるとしているものの重大局面に。連休明け最初の取引となった7日の日経平均株価は大幅に下落、335円安い2万1923円だった。

  値を上げた株もある。北朝鮮は4日、日本海に向けて飛翔体を数発発射、70㌔から200㌔飛んで落下した。アメリカの軍事専門家らは、短距離の弾道ミサイルだとの見方を示している。飛翔体が弾道ミサイルならば、北朝鮮に弾道ミサイル発射を禁じた国連安全保障理事会決議に違反する可能性がある。北の飛翔体に敏感に反応したのは防衛関連株だ。追尾型機雷を製造している石川製作所(本社・石川県白山市、東証一部)の株価は1530円と41円(+2.75%)値を上げた。

  夕方の風景。夕日がとても大きく見え、金沢の街を茜色に染めた=写真・中=。退社時の交通ラッシュが何だか懐かしい感じがした。帰宅して庭を眺めると赤、白、ピンクのツツジの花が咲き始めていた。シラン(紫蘭)も初めて紫色の一輪の花をつけていた=写真・下=。満開ではなく、半開きで下を向くようにして咲く。その花姿は、女性がうつむく姿に似て、実に上品なイメージではある。花言葉の一つが「変わらぬ愛」。人に好かれる花だ。

⇒7日(火)夜・金沢の天気     はれ

☆オピオイド危機 トランプの戦い

☆オピオイド危機 トランプの戦い

   ある意味、トランプという人物は歴史に名を残すかもしれない。弾道ミサイルを再び発射する北朝鮮の崖っぷち外交には「Deal will happen!(取引交渉が始まるよ)」と余裕を見せ、アメリカと中国の貿易交渉でも関税を25%に引き上げるとして「but too slowly, as they attempt to renegotiate. No!(中国は再交渉を試みているが遅すぎる。ノーだ)」と切り捨てるようにツイッターで言い放っている。

   中国への脅しとも取れる今回の関税25%引き上げの発表は、うがった見方をすると根深いものがあるかもしれない。ホワイトハウスのホームページ(4月24日付)で掲載されている見出しがそのことを想起させる。「President Trump is Fighting to End America’s Opioid Crisis(トランプ大統領はアメリカのオピオイド危機を終わらせるために戦っている)」=写真=。ページを読む込むとオピオイド危機は中国が持ち込んでいると読める一文がある。「President Trump secured a commitment from President Xi that China would take measures to prevent trafficking of Chinese fentanyl.(トランプ大統領は、中国からのフェンタニルの密売を防ぐ措置を講じるとの習主席の確約を取りつけている)」と間接的な表現ながら中国を名指ししている。

   オピオイド危機とは何か。ケシの実から生成される麻薬系鎮痛剤の総称。オピオイドの過剰摂取による死者は年間7万237人(2017年、アメリカ疾病対策局)にも上り、中でも強い鎮痛効果があるフェンタニルによる死者は2万8466人と急増している。このフェンタニルを大量生産しているのが中国で、本来アメリカ国内の病院でしか扱えないものが、他の薬物として偽装され普通郵便でアメリカに送り込まれたり、中国からメキシコやカナダに渡り、国境を越えてアメリカに持ち込まれたりしている。ホワイトハウスのHPによると、2016年と18年を比較すると、郵便検査官による摘発は国際便が10倍、国内便で7.5倍に。2018年に国土安全保障局が国境で押収したフェンタニルは5千ポンド(2250㌔㌘)になったと記載している。

    ホワイトハウスHPによると、トランプ大統領はオピオイド危機の撲滅のため、この2年間で60億㌦を新たに注ぎ込んでいる。医療専門チームによる患者の治療(2017年に25万5千人が治療)、青少年薬物使用防止キャンペーン、インターネットによる売買の監視、依存症に罹患した人々の労働復帰のために53百万㌦援助など実施していると掲載している。その成果として、オピオイドの過剰摂取による死亡は2018年9月で前年同期比で全米では5%減、中でもオハイオ州で22%、ペンシルベニア州で20%、それぞれ減少したと強調している。まるで「アヘン戦争」が起きているかの如くの書きぶりだ。

    トランプ大統領のオピオイド危機との戦いの記事はホワイトハウスHPの一面に掲載されている。そのポジションから見れば最重要課題なのだ。「習主席の確約」は昨年12月1日に行われた米中首脳会談で取り付けている。オピオイド危機はアメリカの大いなる経済的な損失でもあると考えれば、首脳会談で直談判した意義はある。今回の貿易交渉のテーブルでもフェンタニルの密売問題が議論になったのではないだろうか。「大統領と国家主席が約束したフェンタニルの密売を中国が根絶できないのは、なぜだ。これでは通商の約束も履行できないだろう」とアメリカ側が迫ったかもしれない。

    オピオイド問題は治まる兆しはあるものの戦いは終わってはいない。オピオイド危機と貿易戦争をあえてセットで想像してみれば、トランプ氏が「but too slowly,・・・ No!」とツイッターで叫ぶ理由が理解できなくもない。

⇒6日(振休)夕方・金沢の天気    あめ