⇒ニュース走査

★コロナ禍 輸入サーモン論争

★コロナ禍 輸入サーモン論争

   新型コロナウイルスの猛威が治まらない。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)をチェックすると、感染者は876万人、死者は46万人を超えている。そんな中で、奇妙な論争が中国発で起きている。

   北京でクラスターが発生し、その感染源となったは市内最大の市場「新発地」の生鮮市場で取り扱われた輸入サーモンではないかと疑われ、販売業者が使用していたマナ板からウイルスが検出された。中国疾病対策センターの疫学責任者が、ウイルスは冷凍された食品の表面で最長3ヵ月生存することが可能だと述べたことから、中国のスーパーマーケットの食品棚からサーモンは消え、食材宅配でも提供が中止になった。中国の輸入サーモンの消費は年間7億㌦で、不買運動で打撃を被るのはデンマークやノルウェー、そしてオーストラリアといった輸出国だ(6月17日付・ブルーグバーグWeb版日本語から引用)。

   これに対し、ノルウェーが反発。ノルウェーの海洋研究所の感染症専門家は「感染はサーモンからではなく、製品または人々が使用する道具の汚染からではないかと考える」と述べ、一方で魚によるウイルス感染拡大の可能性については研究が進んでいないことを認めている(17日付・AFP通信Web版日本語) 。

   この北京の「市場クラスター」について、ある意味で不自然さを感じるのがWHOだ。同公式ホ-ムページの6月13日付で「A cluster of COVID-19 in Beijing, People’s Republic of China」と題したニュースリリースを掲載している=写真=。6月13日、WHOの中国事務所が北京のクラスターについて中国の国家衛生委員会などと中国側の予備調査について話し合ったことを述べている。

  The first identified case had symptom onset on 9 June, and was confirmed on 11 June.  Several of the initial cases were identified through six fever clinics in Beijing.  Preliminary investigations revealed that some of the initial symptomatic cases had a link to the Xinfadi Market in Beijing.  (最初に確認された症例は6月9日に発症し11日に確認された。最初の症例のいくつかは、北京の6つの発熱クリニックを通して同定された。予備調査では、初期症状のある症例の一部が北京の新発地市場と関連があることが明らかになった)

   リリース文では新発地市場との関連の可能性について記しているが、輸入サーモンについては一切触れてはいない。確かにWHO側の論調はあくまでも報告を受けたとの書き方だ。しかし、WHOが中国側の予備調査の報告をわざわざ公式ホームページに掲載するものだろうか。この事実を持って、中国側はサーモン発生源のデータを逐一WHOに示していると主張するだろう。あえてわざわざリリースしたことでWHOはさらなる不審を招くのではないだろうか。

⇒21日(日)午前・金沢の天気   はれ

☆メディアの世論調査は持続可能か

☆メディアの世論調査は持続可能か

    テレビと新聞に目を通してチェックする記事の一つが世論調査だ。各社が毎月調査して記事にするので、世論の流れが数字で読むことができる。とくに内閣支持率は政治に絡む失策やスキャンダル、不正といった内閣そのものを揺るがす、いわゆる「政局」と連動するので目が離せない。内閣支持率の20%台は政権の危険水域、20%以下はデッドゾーンとされ、こうした数字が見え始めると、「そろそろ選挙か」と胸騒ぎがしてくる。

   この世論調査の危機的状況がきのう公表された、FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞社が行っている合同世論調査のデータの不正入力問題で浮かび上がってきた。産経新聞公式ホームページは「お知らせ」(19日付)として、「FNN・産経新聞 合同世論調査」における一部データの不正入力について、とリリースしている。それによると、データの不正入力を行っていたのは、調査業務委託先の会社(東京)が業務の一部を再委託していた京都の会社のコールセンターの現場責任者だった。

   合同世論調査では電話による質問で回答を集計する形で行っているが、現場責任者は実際には電話をせずに架空の回答を入力していた。2019年5月調査分からことし5 月分まで計14回にわたる。1回調査で約1000 サンプルの有効回答を得るが、そのうち毎回100サンプル以上、14 回であわせて約2500 サンプルの不正が見つかった。このため、フジと産経はそれぞれ、14回の世論調査を報じた記事やニュースをすべて取り消すとしている(同リリース)。

   フジは「今回、委託先からの不正なデータをチェックできず、誤った情報を放送してしまった責任を痛感しております。今後、継続して調査・検証を行い、その結果に沿って、然るべき処置を行ってまいります 」、産経は「報道機関の重要な役割である世論調査の報道で、読者の皆さまに誤った情報をお届けしたことを深くおわび申し上げます」とそれぞれコメントしている(同)。

   全調査件数のうち2500サンプル、およそ17%に不正データが盛り込まれていたことが明らかになった。ではどのような経緯で発覚したのか。その点はリリースで公表されていない。想像するに内部告発ではないだろうか。コールセンターで働くのは多くは女性たちである。相当にストレスがたまる現場だと察する。そのような労働環境から出てきた問題ではないだろうか。

   自分自身もメディアに在職していたころ、アルバイトを雇って選挙の世論調査をしたことがある。電話調査の場合、途中で切られたり、逆に質問されたり、罵倒されたりで有効回答は3分の1ほどだった。その点、対面調査となる投票場での出口調査はほぼ100%だった。最近とくに、一般家庭ではオレオレ詐欺などがあり、電話が鳴ると警戒心が先立つのではないだろうか。そう考えると、電話調査そのものが回収効率の悪い、ストレスをためる旧態依然とした作業に思えてならない。

   世論調査を自動化すればよいではないかとの声も出そうだが、自動音声化(オートコール)の電話アンケ-トに自らの年齢や意見を述べる気持ちになるだろうか。メディアへの不信感や抵抗感が増すだけである。そう考えると、今回発覚した問題はフジ・産経にとどまる話ではない。電話による世論調査という手法そのものが陥っている構造的な問題ではないだろうか。ネットによる調査は低コストだが信ぴょう性に、戸別訪問は信ぴょう性は高いがコストに、郵便は信ぴょう性もコストもよいが、回収に時間的なロスなどそれぞれ課題がある。

   果たしてメディアの世論調査は継続可能なのだろうか。

⇒20日(土)午前・金沢の天気  くもり

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

   「イージー・カム・イージー・ゴー(Easy come、easy go)」という英語は教訓として日本でもよく使われる。この事例が現在の韓国と北朝鮮の関係性ではないだろうか。

   それは2018年3月8日付のアメリカのトランプ大統領のツイートが発端だった=写真・上=。韓国の特使から北朝鮮の金正恩党委員長の親書を受け取ったトランプ大統領は「金総書記は韓国代表に凍結だけでなく、非核化についても話した。また、この期間中の北朝鮮によるミサイル発射もない。大きな進展が見られるが、合意に至るまで制裁は続く。会議を計画中だ!」と非核化に向けた米朝首脳会談の可能性を示唆した。このツイートの予告通り6月の米朝首脳会談へと事態は動き出す。4月27日、板門店で南北首脳会談が電撃的に開催された。文在寅大統領と金委員長との間では「完全な非核化」が明記された=写真・中=。

   この後、6月12日の1回目の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   この年の9月19日、2回目の南北首脳会談でピョンヤンを訪れた文大統領は数万の国民を前に7分間の演説を行い、起立拍手を受けた。その文大統領がいまでは北から「厚かましい戯言を聞くにおぞましい」(ことし6月17日・朝鮮中央通信)と嘲弄を受けるまでになった。どこで歯車が狂ってきたのか。

   外交は表面上であって実質的な非核化の取り組みは滞っていた。IAEA(国際原子力機関)による査察など非核化へのプロセスを北は実行してこなかった。宣言はしたものの、形骸化していたのである。その矛盾が端的に表面化したのは2019年2月28日のハノイでの2回目の米朝首脳会談だった。金氏は非核化の前に経済制裁の解除を求めたのに対し、トランプ氏は非核化が進まない中ではそれは無理だと突然に席を立った。

   北がその腹いせとも思える行動に出たのは5月4日だった。東部のウォンサンから日本海に向けて飛翔体を発射した。それが弾道ミサイルならば、2017年11月29日以来となる。2020年に入っても3月9日に複数の弾道ミサイルとみられる飛しょう体を発射し、日本海に落下させている。2019年6月30日に3回目の米朝首脳会談が板門店で行われたが具体的な成果もなく1年が過ぎた。

   そしてついに、南北首脳会談の「板門店宣言」で合意で建設された北南連絡事務所が今月16日に爆破された=写真・下、韓国中央日報Web版(16日付)=。北の金与正党第1副部長は13日、「遠くないうちに用のない北南連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を目にすることになるだろう」と爆破を予告していた。韓国にとって「南北融和の象徴」としてきた施設が3日後に爆破された。

   これによって、文大統領が描いた「2045年にワン・コリア(統一)を目指し、国民所得を4万㌦に」といった南北融和の壮大な夢はゼロどころがマイナスになった。同日の中央日報Web版は、北朝鮮の元軍幹部で北朝鮮研究センター(ソウル)の所長のコメントを紹介している。「北が国家を象徴する国旗と金正恩国務委員長を表す最高司令官旗を掲げてから2年ほど経過した」「2つの旗を降ろしたというのは準戦時状態、挑発準備段階、非常体制稼働を意味する」と。

   文大統領が南北首脳会談からこれまでなすべきことは、非核化への実行をひたすら金氏に促すことではなかっただろうか。南北融和の夢を語り、現実問題の非核化が後回しになった。安易に非核化に合意してそのプロセスを怠ったことで、イージー・カム・イージー・ゴーの状況に陥った。それにしても、金正恩氏はこのところ姿を見せていない。アメリカ軍と韓国軍が密かに計画しているであろう、いわゆる「斬首作戦」を意識して身を隠しているのかもしれない。

⇒19日(金)午前・金沢の天気   くもり

★コロナが変える東京都知事選

★コロナが変える東京都知事選

         きょうの夕方のメディア各社のニュースが、「れいわ新選組」の山本太郎代表が記者会見し、今月18日告示、7月5日投開票の東京都知事選に立候補することを表明したと伝えている。気になったのがその公約だ。東京オリンピック・パラリンピックを中止する。新型コロナウイルス感染拡大の見舞金として全都民へ10万円を給付するという内容だった。俳優の経験もあり、参院議員の経験もあり堂々とした表情だった。すでに立候補を表明している小池知事の有力な対抗馬の一人だろう。

   山本氏が掲げた公約の一つ、東京オリンピック・パラリンピックの中止は争点の一つとしてありだろう。では、10万円給付を公約に掲げるのはあり、だろうか。つまり現金給付を公約に掲げることはありのか。調べてみると、昨年7月の参院選選の公約で、自民党は「低収入の年金生活者に年最大6万円の福祉給付金を支給する」と掲げている。この場合、「低収入の年金生活者」という貧困対策だが、山本氏は「すべての都民」を対象としているので、すべての有権者ということになる。

   選挙運動として現金10万円を有権者に配れば、明らかな公職選挙法違反だが、これはあくまでも公約なので、公職選挙法に問われることはないだろう。現金給付を公約に掲げてはならないという規定もない。これはコロナ禍が産み出した新たな選挙公約かもしれない。では、同じく見舞金という名目を掲げ1人20万円を給付するという候補者が出てくるかもしれない。そうなると、有権者は政策の多様性より、金額の多さに惑わされるかもしれない。後出しじゃんけんのような公約だ。

   小池知事は今月12日に立候補を表明している。前回選挙の出馬で用いたスローガン「東京大改革宣言」受けて、新たに「東京大改革2.0」を掲げた。面白いのは「ポストコロナの選挙」と位置づけ、街頭演説は「3密」を避けるためオンライン中心の選挙戦を展開し、街頭演説の予定は立ていない(12日付・共同通信)。コロナ禍で選挙の在り方も大きく変わるだろう。(※写真は「小池ゆりこ」公式ホームページより)

⇒15日(月)夜・金沢の天気   はれ

★パンデミックがもたらすペシミズム

★パンデミックがもたらすペシミズム

   新型コロナウイルスのパンデミックが止まらない。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(=一覧表、9日付)をチェックすると=写真=、感染者は718万人、死者は40万人を超えている。その中でもアメリカは感染者197万人、死者11万人と圧倒的に多い。警察官による黒人男性への暴行死事件をきっかけにアメリカ全土に広がっている「Black Lives Matter」黒人の命は大切だ)の抗議デモはこのコロナ禍による厭世(えんせい)感、あるいは悲観主義と訳されるペシミズム(pessimism)が背景にあるのではないかと憶測してしまう。

          社会の悲観や不安の広がり、ペシミズムがアメリカだけでなく、世界を覆っているのかもしれない。嫌なもの、価値のないものに攻撃を仕掛けるのがペシミズムである。香港に対する強力な介入の動きを読むと、国内でのペシミズムが読める。5月の全人代で「2020年に貧困ゼロ達成」を重要課題として強調した。2019年時点で551万人の中国人が貧困状態にあり、今年の目標は彼らすべてを貧困から引き上げることだ(5月25日付・共同通信Web版)。ところが、コロナ・ショックは貧困層を増長させているのが現実。中国国家統計局が4月17日に公表した20年1-3月期の国内総生産(GDP)は前年比6.8%減と大打撃だった。こうなると、人民の目は富裕層が多いとされる香港に向く。そこで、政治的メンツを保とうとあえて香港国家安全法の導入に踏み切った、のではないか。

   北朝鮮のペシミズムもそうとうだろう。北朝鮮の人権状況を調査している国連の特別報告者が、北朝鮮が新型コロナウイルスの影響で最大の貿易相手国である中国との国境を封鎖したことで貿易が大幅に減少し、深刻な食糧不足が起きているおそれがあると指摘した(6月10日付・NHKニュースWeb版)。北ではホームレスが増え、薬の値段が急上昇している。トウモロコシ以外食べるものがない人が増え、兵士ですら食糧不足に陥っているという情報もあると、深刻な食糧不足を報告している(同)。

   このタイミングで、北が韓国に対して、脱北者による金正恩党委員長への批判ビラを風船で飛ばすのを放置していたとして南北通信の全回線を9日正午で遮断すると宣告した(6月10日付・中央日報Web版日本語)。これまでに、人民のいら立ちやペシミズムが募ると、その目をそらすために弾道ミサイルの発射や韓国への砲撃があった。今回は韓国政府そのものに矛先を向けた。

   日本も例外ではない。SNSによる誹謗中傷で女子プロレスラーの痛ましい死については何度かこのブログでも取り上げた。自民党ではネットで中傷した発信者の特定や厳罰化を法整備するとニュースになっているが、背景には根深い問題があるのではないだろうか。コロナ禍による労働者の解雇や雇止めが止まらない。5月29日現在で全国で2万933人(厚労省発表)だが、今後さらに膨らむ。世の中への漠然とした不安、あるいはペシミズムが背景にあると思えてならない。冒頭のダッシュボードを眺めていて暗い話になった

⇒10日(水)午前・金沢の天気    はれ

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

   日本海のイカ釣り漁が始まった。能登半島の尖端、能登町の小木漁港からはきのう8日、中型イカ釣り漁船が4隻が出港したと報じられている。目指すは能登半島の沖300㌔のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)、スルメイカの漁場だ。ただ、EEZであったとしても、違法に北朝鮮や中国の漁船も入り乱れ、一触即発の状況がここ数年続いている。

   昨年不穏な動きがいくつかった。8月23日、不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、EEZを離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船の2隻で、高速艇には小銃を持った船員がいた。海上保安庁の巡視船が駆け付け警戒監視を続けたところ、不審船2隻は去った。毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、武装船となるとただ事ではない。

   10月7日にはEEZで、水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突する事故があった。取締船が北の漁船に放水して退去するよう警告したところ、漁船が急旋回して取締船の左側から衝突してきた。通常、船同士がぶつかりそうな場合、左側の船が衝突をよけるルールとなっているが、避けることなく衝突し沈没した。さらに、日本海の沿岸には北の木造船の漂流や漂着が相次ぐ。2019年は全国で158件(18年225件)、生存者は6人、遺体は5体だった(第9管区海上保安本部まとめ)。

   悲惨な事件もかつて起きた。小木の漁業関係者では「八千代丸銃撃事件」が忘れられないだろう。1984年7月27日、小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるた。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。

   当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。関係者は無防備の漁船を銃撃したこの事件に憤りと恐怖心を抱いていた。「イカ釣りは続けられないですね」と言うと、ある漁師は「板子(いたご)一枚 下は地獄だよ」と反応した。漁師という職業は船に乗るので常に危険と隣り合わせにいる。初めて知った言葉だった。確かに日本海で漁をする危険はあるものの小木はいまでもイカ漁の日本海側の拠点の一つである。

   日本側のイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに北の漁船はEEZに入り漁を始めている。5月中頃から取り締まりに入っている水産庁の退去警告は延べ54隻(うち放⽔措置4隻)の上っている(6月1日現在・水産庁公式ホームページ)。日本漁船の漁の安全と、豊漁を祈る。(※写真は、日本のEEZで違法操業する北朝鮮の漁船=海上保安庁の動画から)

⇒7日(火)午前・金沢の天気     はれ

☆拉致事件は終わっていない

☆拉致事件は終わっていない

   北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの救出活動を続けてきた父親の滋さんが今月5日亡くなったことがメディアで報じられた。横田めぐみさんのポスター写真があったのを思い出し、パソコンの画像ファイルを探した。

   政府の拉致問題対策本部がつくったポスターだ=写真・上=。「必ず取り戻す!」。ポスターの右下には、横田めぐみさんが12歳のときに初めて母親の着物に袖を通し、新潟市の自宅前で撮った写真との説明がある。なんともあどけな少女の姿である。撮影者は父の滋さん、撮影日は1977年1月と記されている。赤と白の市松模様の羽織を着ているので、雪が積もった自宅前の風景にちょうどいいと滋さんが考えたアングルだったのだろう。めぐみさんが新潟市の海岸から拉致されたのはこの10ヵ月後だった。

   1977年9月に拉致1号事件が能登半島で起きていた。9月19日、東京都三鷹市役所の警備員だった久米裕さん(当時52歳)が石川県能登町宇出津(うしつ)の海岸で失踪した。地元では今でも「宇出津事件」と呼ばれている。久米さんは在日朝鮮人の男(37歳)と、国鉄三鷹駅を出発した。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、能登町(当時・能都町)宇出津の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時、2人は黒っぽい服装で宿を出た。

   旅館から通報を受け、石川県警は捜査員を現場に急行させた。旅館から歩いて5分ほどの小さな入り江、通称「舟隠し」=写真・下=で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が船で姿を現し、久米さんを乗せて闇に消えた。その後、同行した男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた捜査員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんの警棒などが見つかった。

  自分自身もこれまで何度か現地を訪れたことがある。そして、当時事件を取材した元新聞記者のK氏からこの事件にまつわる話を聞いた。K氏によると、この事件で石川県警察警備部は押収した乱数表から暗号の解読に成功したことが評価され、1979年に警察庁長官賞を受賞している。当時、この事件は単に朝鮮半島に向けて不法に出国をした日本人がいたという小さな事件としてしか報道されなかった。警察は、乱数表およびその解読の事実を公開した場合は、工作員による事件関係者の抹殺など、事件解決が困難になるリスクもあると判断し、公開に踏み切れなかったともいわれる。

  宇出津事件の以降、日本海沿岸部から人が次々と消える。この年の11月15日、横田めぐみさんが同じ日本海に面した新潟市の海岸べりの町から姿を消した。あれから43年、願いかなわず他界された父親の心情を察すると、言葉が出ない。拉致事件は終わっていない。

⇒7日(日)午前・金沢の天気    はれ

★WHOの今さらマスク

★WHOの今さらマスク

           WHOの公式ホームページによると、新型コロナウイルスの感染が確認された人は世界全体で653万6354人で、亡くなった人は38万7155人となっている(6月5日現在)。きょうのニュースでも、死亡者がもっとも多いのはアメリカの10万9143人、イギリス(4万344人)、ブラジル(3万4021人)と続く。パンデミックの勢いは時間がたっても衰える気配がない。このような数字を見るたびに、WHOはいったい何をやっているのか、素人ながらに気にかかる。

   WHOが5日に行った記者会見でのテドロス事務局長の発言内容が掲載されていた。意外な内容だった。「In light of evolving evidence, WHO advises that governments should encourage the general public to wear masks where there is widespread transmission and physical distancing is difficult, such as on public transport, in shops or in other confined or crowded environments. 」(意訳:エビデンスの進展に照らして、WHOは、公共交通機関や店舗、あるいは他の閉ざされた、あるいは混雑した環境など、感染が広範囲に及び、物理的な距離が困難な場所では、各国政府は一般市民にマスクを着用するよう奨励すべきであると勧告している)

   今さら何をか言わんや、である。そもそも、WHOはこれまで、マスク着用に関して、健康な人が着けても感染を予防できる根拠はないとしていたのである。それを今回、エビデンスが得られたとして、大幅に修正して、感染が広がっている地域で人との距離をとることが難しい場合はマスクを着けるよう、各国政府が勧めるべきだという方針を示したというのだ。

   WHOの機能不全を感じたのは1月23日だった。中国の春節の大移動でフランスやオーストラリアでは感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合は時期尚早と「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、渡航制限勧告は見送った。このとき、日本をはじめアメリカ、フランスなど各国政府はすでに武漢から自国民をチャーター機で帰国させていた。

   WHOは保健衛生の制度が比較的貧弱な国々に感染が広がることを懸念しているのは間違いない。1月30日の緊急事態宣言とのときも、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。途上国にパンデミックが広がるまで待つという、「タイムラグ」感が逆にパンデミックを増長させてきたのではないだろうか。あるいは、中国への「配慮」に途上国を使ったのか。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    はれ

☆アメリカ 負の連鎖のただ中で

☆アメリカ 負の連鎖のただ中で

         アメリカ・ミネソタ州で黒人男性が白人警官に拘束され死亡してから10日たったが、抗議デモは各地に飛び火して治まる気配がないようだ。むしろ煽ったのは、「法と秩序」を重視するトランプ大統領で、過激化する抗議デモを抑えるために軍の動員を指示したことがさらなる反発を招いた。

   5日付のCNNニュースWeb版は「Trump shares letter that calls peaceful protesters ‘terrorists’」(トランプ氏、平和的な抗議者を 「テロリスト」 と呼ぶ書簡を公開)の見出しで、月曜日(今月1日)ホワイトハウスの門の外にいた平和的な抗議者たちに催涙弾など浴びせて解散させて、トランプ氏が彼らを「テロリスト」と書簡で綴っていた、と記事にしている=写真=。

   今月2日の「ロイター/イプソス世論調査」によると、抗議デモが全米に広がっていることについて、抗議活動参加者に「共感する」と答えた人の割合が64%に達し、否定的な27%、「分からない」の9%を大きく上回った。トランプ大統領の対応を支持しないという割合は55%を超え、このうち「強く反対」が40%となり、支持は33%だった。共和党員に限っても、トランプ氏の対応に肯定的だったのは67%だった。ただ、大統領としての職務全般を評価する声を82%だった(6月3日付・ロイター通信Web版日本語)

           連日報道される抗議デモやこうした世論調査を見ると、多くの日本人は「トランプは終わった」と読むだろう。むしろ、大統領選挙が本格的に始まったと読む方が正解かもしれない。トランプ氏はおそらく民主党のバイデン氏が票固めをするために、抗議デモを利用していると考えているだろう。有権者の気を引くためのトランプ氏の次なる一手は、香港に国家安全法を導入し一国二制度を形骸化された中国に対する制裁だろう。ドルと人民元の交換停止といった強烈な一撃もあるかもしれない。そうなると中国だけでなく、世界経済がさらに大揺れになる。

   一方で、抗議デモは必ずしも評価されているとは限らない。それは新型コロナウイルスの感染拡大というもう一つの側面がある。事件が起きたミネソタ州や、ニューヨーク州の知事は、デモ参加者に対して、ウイルス検査を受けるよう呼びかけている。とくに、ニューヨーク州は抗議デモの参加者数は最大規模で、1人から多くの人に感染を広げる「スーパースプレッダー」になる可能性がある。不都合な真実ではある。

   コロナ禍の渦中にある国民的なストレス、黒人貧困層のうっ積、そして失業の不安と怒りなどがこの抗議デモに集約されていると考えると根深さを感じる。まさに、アメリカは負の連鎖のただ中にあることだけは読める。

⇒5日(金)午後・金沢の天気    はれ時々くもり

★不適切な投稿に警告をタグ付け

★不適切な投稿に警告をタグ付け

          今月7日付のブログで紹介したが、11月のアメリカ大統領選挙に向けて、トランブ節がさく裂している。トランプ氏の26日付ツイッター。「There is NO WAY (ZERO!) that Mail-In Ballots will be anything less than substantially fraudulent. Mail boxes will be robbed, ballots will be forged & even illegally printed out & fraudulently signed. ・・・」(郵送による投票が実質的に詐欺的なものではない、なんてことには全くならない。郵便箱は奪われ、投票用紙は偽造され、さらには違法に印刷され、不正に署名される。・・・)

   何のことかと調べると、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)が新型コロナウイルス対策の一環として郵送投票を採用すると発表した。すると、トランプ氏は大統領は偽造や不正署名など詐欺の可能性があると問題視したのだ。

   BBCニュースWeb版(27日付)で関連記事=写真=が。「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)。これも何のことか調べる。ツイッター社はトランプ氏の投稿のうち、郵便投票が不正投票につながると主張した件について、誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした(写真下の青文字)。要するに、大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をします、との意味だ。

   もう一度トランプ氏のツイッタ-に戻って青ラベルを探したが見えない。何度更新しても出てこない。ホームページが日本語で設定あるとラベルが表示されないようだ。

   この青ラベルはもともとは新型コロナウイルスに関するデマ情報への警告としてスタートした。それにしても、さすがツイッターだ。たとえアメリカ大統領であれ、怪しい投稿にはファクトチェックを入れる。その方法を前回のブログで述べた、女子プロレスラーへの誹謗中傷の書き込みなどに適応できないのだろうか。「警告!不適切な表現」と赤ラベルをタグ付けすればいい。すると、誹謗中傷を受け方側は気分的に少しは救われるのではないか。

⇒27日(水)午後・金沢の天気   はれ時々くもり