⇒ニュース走査

☆「回転ドア内閣」には戻らない

☆「回転ドア内閣」には戻らない

  きょうも台風9号によるフェーン現象の影響で午後4時の金沢は37度だった(自家用車の外気温計)。ニュースでは輪島市で38度と伝えている。猛烈な暑さだ。金沢で9月に入って2日連続で35度以上になったのは、大正4年(1915)以来、実に105年ぶりとか(9月3日付・NHKニュースWEB版)。

   この暑さと並行で進む「ポスト安倍」の政治。「What’s at Stake for Shinzo Abe’s Successor」(安倍総理の後継者に何が必要なのか)と題するニューヨーク・タイムズWeb版の記事(2日)=写真=が目を引いた。記事は、安倍総理の後継を巡る論説で、「The worst post-Abe scenario would be a revival of political instability, which would inevitably strengthen the bureaucratic state and the stagnation that entails.」(意訳:ポスト安倍の最悪のシナリオは不安定な政治の再来であり、それは必然的に官僚機構の強化とそれに伴う停滞だ)と述べている。そうか、海外メディアにとって、またあの時代が再来が予感されるのか、と読んだ。

   あの時代とは、論説にも述べられているが、小泉内閣以降の2005年から短命政権が続き「7年間で7人の首相が誕生する」政治状況だことだ。当時は「回転ドア内閣」とも呼ばれ、総理の名前を覚える間もないほど交代劇が続き、日本のガバナンスや国際評価の足を政治が引っ張っていた。その意味で、7年8ヵ月続いた安倍内閣は政治の安定をもたらしたことが最大の功績だと論説は分析している。さらに、トランプ大統領と良好な関係を維持しながら、アベノミクスで積極的な経済政策を推進し、女性の社会進出や移民を拡大させた功績も大きいと評価している。

   ニューヨーク・タイムズの論説は今後の課題も見抜いている。安倍氏の後継者は、高齢化と人口減少、経済規模に比べて先進国で最大の債務負担、そしてパンデミックによるロックダウンのために縮小した経済という、大きな課題に直面することになるだろう。女性は雇用や賃金の平等からはまだ程遠く、海外労働者の移入も依然として難しい。

   最後段落はこう締めくくっている。「Above all, Mr. Abe has left a legacy of change to build on. 」(何よりも安倍総理は変革の遺産を残した)。政治が回転ドアに戻るのではなく、やらねばならいことを遺産として残し、次の総理も継承してくだろう、と。次の総理・総裁をまるで派閥の主導権争うのように連日報じている日本のメディアとはまったく異なる視点だ。

⇒3日(木)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

☆同時多発テロとポリティカル・コレクトネス

☆同時多発テロとポリティカル・コレクトネス

          「9・11」から間もなく19年になる。2001年9月11日、現地時間で午前8時46分、日本時間で午後9時46分だった。当時帰宅して、報道番組「ニュースステーション」が始まったばかりの同9時55分ごろにリモコンを入れると、ニューヨ-ク・マンハッタンの高層ビル「ワールドトレードセンター」に民間航空機が追突する事故があったと生中継で放送されていた。食事を取りながら視聴していると、2機目が同じワールドトレードセンターの別棟に突っ込んできた。リアルタイムの映像で衝撃的だった。

   「9・11」をきっかけにアメリカ国民、とくに白人層の深層心理に変化が起き始めたのではないかと考えることある。そのシンボリックな現象の一つが2016年の大統領選挙でのトランプ氏の当選ではなかったか。トランプ氏は「メキシコとの国境に壁を建設」や「不法移民の流入に反対」、「イスラム教徒に対する入国の一時禁止」などを公約に掲げていた。同時多発テロはイスラム過激派「アルカイダ」による犯行だったので、有権者の支持を得るための公約だろうと当時思ったが、そのような単純なことではないようだ。

   1862年9月、大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を発して以来、自由と平等、民主主義という共通価値を創り上げる先頭に立ってきた。戦後、ソ連や北ベトナムなど共産圏との対立軸を構築できたのは資本主義という価値ではなく、自由と平等、民主主義という共通価値だった。冷戦終結後も、共通価値はマイノリティや社会的弱者の立場に立ち、人種や宗教、性別などに対する寛容さへと深化した。アメリカ社会では、こうした共通価値を創ることを政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んで自負してきた。

   ところが、同時多発テロをきっかけに、誰もが自由と平等だが、それが誰かの犠牲に上に成り立っているとすれば、それは偽善ではないか、とアメリカ国民、とくにポリティカル・コレクトネスを担ってきた白人層が考え始めた。ポリティカル・コレクトネスは社会規範だが、同時に本音が言えない閉塞感から、窮屈さや疲れを感じさせる。犠牲になっているのはわれわれだ、と。2003年にアメリカを中心とする有志連合が始めたイラク戦争は大量破壊兵器の廃絶を名目とした軍事介入とされた。そこには自由と平等、民主主義という共通価値はすでになかった。そして、トランプ氏はあえてポリティカル・コレクトネスの概念からかけ離れた公約を打ち立て、白人層から支持を得て当選した背景も同様ではなかった、か。

   では、ポリティカル・コレクトネスの犠牲の矛先は、次はどこに向かっていくのか。11月の大統領選なのか。あるいは、対立を深めている中国なのか。

⇒26日(水)午後・金沢の天気     はれ

☆無常なるかなGDP「マイナス27.8%」の衝撃

☆無常なるかなGDP「マイナス27.8%」の衝撃

    能登へマイカーで盆帰省したが、道路は例年のこの時季に比べはさほどの渋滞ではなかった。新型コロナウイルスの感染拡大で帰省を見合わせた人も多くいたのではと推測する。もう一つの要因は、例年ならば列を連ねるように見かける観光バスをほとんど見かけなかった。能登は夏場の観光需要は高いが、ことしはかなり落ち込んでいるのではないだろうか。

   さきほど午前9時、内閣府はGDPの速報値(4-6月)を発表した。物価変動の影響を除く実質で前期比マイナス7.8%、このペースが1年間続くと想定した年率換算ではマイナス27.8%減だ。リーマンショック後の2009年の1-3月のGDPはマイナス17.8%だったので、それを大幅に超えたことになる。

   すでに民間のシンクタンクは4-6月期の実質GDPは前期比年率換算でマイナス27.9%と算定し、リーマンショック後を超えて最大の落ち込みになるだろうと予測していた(7月31日付・日本総合研究所公式ホームページ)。これで、3四半期連続のマイナス成長となる。昨年10月の消費税増税からマイナス成長が続き、それにコロナ禍が追い打ちをかけたかっこうだ。

   リーマンショックどころではない、世界恐慌の様相を呈してきたのではないだろうか。ことし4月から6月までのGDPの伸び率は、アメリカが年率換算でマイナス32.9%となるなど、世界で歴史的な落ち込みとなっている。まさに、「コロナ恐慌」の前兆だ。

   この数字は冒頭で述べたような実感として伝わる。民間シンクタンクは、大幅なマイナス成長の要因について、政府の緊急事態宣言や自治体の休業要請の下、外食や旅行を中心に個人消費が大幅に落ち込んだことや、自動車の輸出が減少したことなどを挙げている。

   では、第2四半期(7-9月)の展望はどうか。先の日本総研は以下予想している。コロナ禍による内外の活動制限緩和を受けて持ち直しに転じるものの、V字回復は期待薄。7月入り後の感染再拡大を受けて、国内の小売・娯楽施設への人出の回復が頭打ちとなるなど、消費の回復力は脆弱。入国制限の緩和は当面、一部の国からのビジネス目的に限られるとみられるなか、インバウンドも実質ゼロの状況が続く見通し。さらに、進捗ベースで計上される住宅や建設などは、今後一段と悪化する見込み。

   先行きが暗い。パンデミックの経済リスクが数字として顕在化してきた。ふと庭先を眺めるとムクゲの花が夏の日差しに映えて活き活きとしている=写真=。花は毎年変わらず咲くが、人の世は変わってしまう。先人たちはこれを「無常」と称した。「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」(平家物語)

⇒17日(月)午前・金沢の天気    はれ時々くもり

★「香港のジャンヌダルク」が発する言葉の矜持

★「香港のジャンヌダルク」が発する言葉の矜持

   香港国家安全維持法の違反容疑で逮捕され、12日未明に保釈された民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏の様子がニュース番組で流れていた。周氏は保釈後、日本のメディアに対し、香港警察から証拠の提示もなく、パスポートも押収され、「なぜ逮捕されたのか分からない」と流暢な日本語で答えていた。そして、拘束中に「欅坂46」のヒット曲『不協和音』の歌詞が頭の中に浮かんでいたという。日本語もさることながら、サブカルチャー通であることにも舌を巻いた。

   欅坂46のこの曲『不協和音』は正直知らなかった。ネットで検索すると秋元康が作詞して2017年4月にリリ-スされたとある。「絶対沈黙しない」「最後の最後まで抵抗し続ける」などの歌詞が民主活動家としての彼女の心の支えになったのだろうか。2014年のデモ「雨傘運動」に初めて参加してから、今回含めて4回目の逮捕だ。拘置所で過ごす孤独な夜にこの歌を心で口ずさんでいたのかもしれない。

   周氏は保釈からほぼ1日たって「ユーチューブ」で動画を配信している=写真・上=。「釋放後Live!憶述警察爆門拘捕過程」とのタイトルで今回の逮捕について述べ、この中で3分間ほど日本語で語りかけている。「心の準備ができていないまま逮捕され本当に不安で怖かった。国家安全維持法では起訴後の保釈は認められていないため、このまま収監されてしまうのではないかと怖かった」「2台のパソコンと3台のスマホが没収された」と当時の状況を述べている。今後起訴されるかどうか現時点ではわからないとしたうえで、最後に「日本の皆さんも引き続き香港のことに注目してほしい」と呼びかけている。

   きょう午後1時現在で動画は26万回再生されている。それにしても、サブカルチャーを通して独学で日本語が話せるようになったとは言え、政治用語を駆使してこれだけ淡々と語るとは、語学の努力家だと察する。おそらく、日本のメディアとやり取りの中で自らの思想や考えなどを伝えたい、知ってほしいという懸命さが日本語に磨きをかけたのだろうのだろう。

   彼女の日本人向けのTwitterをチェックすると、緊縛した状態でのメッセージの発信がある。Twitter(5月27日付)=写真・下=では「今日は国歌法と国家安全法に反対するデモがあります。香港市民は平和にデモをやってるのに、警察が突然走りながらペッパーボール弾を乱射しています。市民は逃げ惑い、現場は混乱した状況になっています。」と生々しい動画も掲載している。言葉を発しながらの戦いだ。

    彼女の言葉には矜持を感じる。中国政府に対する葛藤、23歳にして香港という自らの居場所を死守するために戦い続ける勇ましさだ。「I am not afraid… I was born to do this.(私はまったく怖くない、私はこれをするために生まれてきたのだから)」。あのジャンヌ・ダルクの言葉を思い起こす。

⇒13日(木)午後・金沢の天気    くもり時々はれ

☆読売調査、内閣不支持54%の暗雲

☆読売調査、内閣不支持54%の暗雲

           読売新聞社の世論調査(今月7-9日実施)で、安倍内閣の支持率は37%で前回調査(7月3-5日)の39%から下がり、不支持率は54%と前回52%より高くなった。不支持率54%は2012年12月からの第2次安倍内閣では最高となった(8月9日付け・読売新聞)。読売新聞の調査でこの数字だ。安倍内閣の正味期限はすでに切れているのかもしれない。

   読売の調査で不支持が50%を超えたことは2012年12月の第2次安倍内閣発足以降で3度あった。直近では2018年4月調査で53%。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰したころだ。2017年7月調査では52%。森友・加計学園問題などでの批判の高まりと、小池都知事が率いる都民ファーストの会の都議選で圧勝で、不支持が前回から11ポイントも跳ね上がった。2015年9月調査で51%。このときは安全保障関連法で世論が揺らいだ時期だった。

   では、今回の不支持の高まりの理由は何なのか。やはり、新型コロナウイルス対策についての無力感だ。ウイルス対策を巡る政府のこれまでの対応を「評価しない」は66%で、前回(7月調査)の48%より上昇、「評価する」は27%で前回45%より大幅に下がった。そして、安倍内閣がコロナ対策の指導力を発揮していると思わない人が78%にも上っている(同)。

   今では店頭でのマスク不足は解消され、自由に購入できるのに、さらに8000万枚、118億円もの布マスクを介護施設などに追加配布するとのニュースが7月下旬に流れて、呆気に取られた。 7月22日から始まった「Go To キャンペーン」の混乱も不支持率の高まりに影響しているのだろう。

   ただ、今回の読売調査で内閣支持は前回から2ポイント下がったとは言え、37%ある。さらに、今回の調査で「同じ人が長く首相を続けることは、日本にとって、プラスの面が大きいと思いますか、マイナスの面が大きいと思いますか、それとも、プラスとマイナスの面が同じくらいだと思いますか」がある。最も多かった回答が「プラスとマイナスの面が同じくらい」で42%だ。長期政権は必ずしもマイナスではないというイメージを持っている人が多い。政党支持率は「自民党」33%、「立憲民主党」5%、「支持する政党はない」46%と前回とほぼ同じだ。

   安倍政権は不支持が57%もあるものの、政権から引きずり降ろすべきだとの強いメッセージをこの世論調査からは読み取れない。どちらかというと、「安倍さん、これまで頑張ってきたけれど、そろそろ降りるべきですね」くらいのニュアンスか。

   内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」とされる。第2次安倍内閣での支持率の最低は2017年7月調査の36%だ。第1次安倍内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%だった。これに比べるとまだまだ余裕だ、と本人は思っているかもしれないが、安倍内閣に暗雲が垂れ込めてきたことは間違いない。

⇒10日(祝)午後・金沢の天気     はれ

☆北の非核化、泡と消ゆ

☆北の非核化、泡と消ゆ

        北朝鮮は核を手放さないとついに公言した。金正恩党委員長は27日に開かれた朝鮮戦争休戦67年の記念行事での演説で、核保有を正当化し一方的な核放棄に応じない立場を強調した(7月28日付・共同通信Web版)。朝鮮戦争に従軍した退役軍人らを平壌に招いた「老兵大会」での異例の演説。核抑止力によって国の安全が「永遠に保証される」と強調した(同)。

   2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では韓国の文在寅大統領と金氏との間では「完全な非核化」が明記された=写真・上=。さらに同6月12日の第1回の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   ところが、2019年2月28日、ハノイでの第2回米朝首脳会談では、北の非核化に妥協しなかったトランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。おそらく金氏にとってこの会談は屈辱的だったのだろう。そしてついに今回、非核化を完全に反古する声明を出した。おそらく、南北首脳会談も、米朝首脳会談も今後開かれることはないだろう。そして、日本への脅威はさらに高まった。

   では、日本国内では北からの核ミサイル攻撃に向けての防衛体制は進んでいるのだろうか。6月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明してから40日余り経った。配備断念を受けて、自民党のミサイル防衛の在り方を検討するチームがきのう28日に続いてきょうも会合を開いた。政府に対する提言案が示された。相手の領域内でも弾道ミサイルの発射などを阻止する能力の保有も含め、政府として早急に検討して結論を出すよう求めつつ、攻撃的な兵器を保有しないという、これまでの政府方針を維持すべきだとしている。会合は非公開で、結局、提言案はまとまらなかった(7月29日付・NHKニュースWeb版)。

   日本海側に住めば北の脅威が実感できる。2017年3月6日、北朝鮮が「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に着弾した=写真・下=。北が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島だ。半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。その監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERが撃ち込まれたのだ。

   これまで、南北首脳会談と米朝首脳会談に期待したが、北の非核化は泡と消えた。北からの核弾道ミサイルはいつでも飛んでくる。もちろん、監視レーダーサイトを能登半島から撤去せよという話ではない。

⇒29日(水)夜・金沢の天気     くもり   

★北の漂着船、グローバル問題に

★北の漂着船、グローバル問題に

   これはショッキングな見出しだ。「The deadly secret of China’s invisible armada Desperate North Korean fishermen are washing ashore as skeletons because of the world’s largest illegal fleet.」(意訳:中国の見えざる艦隊の秘密 世界最大規模の不法船団のため、北朝鮮の漁民たちが骨のように海に投げ出されている)。アメリカのNBCテレビのWebニュースの特集で、日本海でのイカ漁のすさまじい現状をリポートしている=写真=。その見出しだ。

   2019年12月27日に新潟県佐渡市の素浜海岸に打ち上げられた北朝鮮の漂着船から7遺体が見つかった。このほか、2019年に確認された北の漂着船は158件、この3年間で487件だ(第9管区海上保安本部報道資料)。

  「The battered wooden “ghost boats” drift through the Sea of Japan for months」(打ち砕かれた木の「幽霊船」が何ヵ月も日本海を漂っていた)で始まるこのリポートを読んでみる。以下、要約。何年もの間、この恐ろしい現象に日本の警察は当惑してきた。気候変動によってイカの個体数が北朝鮮近海で減り、漁師たちは命からがら危険な距離の海に出て、そこで立ち往生して死にさらされれてきたと推測されていた。

   ところが、衛星データで漁船の動きを調査するグローバル海洋保護非営利団体「Global Fishing Watch」(GFW、ワシントン)の分析で、北朝鮮海域に中国からの漁船が大量に入っていることを突き止めた(2019年で800隻)。中国のイカ釣り漁船は集魚灯を使うので、中国からの海洋での照明の動きを追うと、次第に北朝鮮の漁業海域に集まって来る様子が画像で分かる。

   中国が北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、小型の北のイカ網漁船を追い払っている。漁場を奪われた北の漁船は、遠海に出て無理な操業をして、エンジン故障などで漂流し、日本の海岸に漂着するケースが増えてきたと解説している

 
   もう一つ。NBCはGFWの研究者のコメントを引用して、問題提起をしている。中国は、北朝鮮海域での外国漁を禁じる国連の制裁決議に違反しているのではないか、と。の核実験に対応した2017年の国連制裁決議には、漁業権の取引も含まれる。3月の国連会議では、北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視された。これに対し、中国は「一貫してかつ誠実に北朝鮮に関する安全保障理事会の決議を執行した」と述べたが、北朝鮮海域に関してはは認めも否定もしていない。GFWは、この制裁決議違反の中国船団は中国の遠洋漁船全体の3分の1にもなると見ている。

   このNBCのリポートを心強く感じた。というのも、日本海での漂着船問題や、EEZ内での北の違法操業は、日本でも全国ニュースになりにくい。ローカルニュースなのである。NBCがこのように衛星データをもとに国連制裁決議を絡めて漂着船問題を報道することで、一気に国際問題になったのではないだろうか。

⇒27日(月)朝・金沢の天気    くもり

☆経営陣と労組の関係性を読む

☆経営陣と労組の関係性を読む

   4連休の中いろいろニュースを見聞きしたが、中でも、「なぜ」と感じたのが、テレビ朝日労組が民放労連を脱退したことだった。「テレ朝労組が申し入れ、同日(25日)開かれた民放労連大会で賛成多数で承認された。民放労連によると、キー局の脱退は初めて」(25日付・共同通信Web版)。

   共同通信によると、テレ朝労組は脱退理由として、運動方針に対する考え方の違いのほか、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなる中、組合費の負担が重くなったことを挙げているという。しかし、労連には日本テレビやTBS、フジテレビなど全国の放送局や放送関連プロダクションが加盟している。組合費の負担が脱退理由の一つだが、テレビ朝日だけが、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなっているわけではない。むしろ、運動方針に対する意見の相違ではないか。

   そこで、テレ朝労組の脱退の背景を探ろうと、民放労連の公式ホームページにアクセスした。同日(25日)開かれた民放労連大会は第131回定期大会で、今回はリモート会議の形式で開催された=写真=。「アピール」では、「同一労働同一賃金を定めた働き方改革関連法が4月から施行され、・・・先行する単組の成果を民放労連全体に広げ、働きがいのある産業にしなくてはならない」、あるいは、「民放における男性中心の職場環境を改めるためにもジェンダーバランスを改善し、他者を敬う社内風土を培い、ハラスメントの被害者も加害者も出ない職場を作ろう」とある。しかし、運動方針に相違があったことや、テレ朝労組脱退の事実関係も触れていない。

   冒頭のニュースでは、「賛成多数で承認」とあるので、どのような運動の方針をめぐる意見の相違が脱退を招いたのか、事実関係を明示すべきだろう。うがった見方をすれば、「賛成多数」という場の空気はおそらく2つある。一つは、テレ朝労組がもともと民放労組の方針に異議をとなえ、煙たがられていた存在だった。あるいは、労連の時代感覚はもう古い、その役割は終わったとテレ朝労組が先陣を切って脱退を表明し、それに賛同する他の労組も多い。あるいはそのミックスかもしれない。

   考察するヒントが労連の公式ホームページにあった。2019年12月26日付で中央執行委員長名で出された談話「テレビ朝日『報道ステーション』スタッフ「派遣切り」の撤回を求める」だ。2020年4月の番組リニューアルに向けて、社外スタッフを大量に契約終了させたのは、事実上の「解雇」に相当すると主張している。番組が継続するにもかかわらず、「人心一新」を理由にスタッフの雇用不安を引き起こすような人員の入れ替えを行うこと、社会に一定の影響力を持つメディア企業としてあってはならない、と。「放送で働く労働者を組織する民放労連として看過できない」と述べている。

   この問題を「しんぶん赤旗」Web版(2020年2月14日付)も取り上げている。2つを総合して読むと、いきさつはこうだ。昨年2019年9月5日発売の「週刊文春」と「週刊新潮」(ともに9月12日号)が「報道ステーション」のチーフプロデューサーによるセクハラ事件を報じた。これを受けて、9月24日にテレビ朝日の会長は記者会見で、報道局のこの男性社員をハラスメントに当たる不適切な行為で謹慎処分としたと認めた。看板番組のチーフプロデューサー(最高責任者)が処分されたとなると社内は尋常ではない。そこで、テレビ朝日は番組の「人心一新」を図るため、ことし4月に番組リニューアルに向けて、社内外のスタッフを入れ替えることにした。社外スタッフは映像制作会社からの派遣ディレクターで人数は10数名、ことし3月末での契約打ち切りも通告された。

   この派遣ディレクターの契約打ち切りが労連でも問題となったことから、テレビ朝労組は会社側と交渉した。そして、派遣ディレクターについては「新たな雇用先を確保する」(民放労連公式ホームページ)、「次の配属先を見つける」(「しんぶん赤旗」Web版)と雇用確保についての会社側の言質を得た。ところが、委員長談話では、最後にテレ朝こそ企業として「人心一新」をはかれ、と求めた。テレ朝労組とすれば、会社側に派遣スタッフの雇用確保の言質を得た段階で難問をうまくまとめたつもりだった。それが、テレ朝の経営者は辞めろとまで労連から言われると立つ瀬がなくなる。

   経営陣と労組の関係性はある意味で信頼関係の上で成り立つものだ。テレ朝労組は労連内部でいたたまれなくなり、距離を置くことにした。それが今回の脱退のいきさつだろうか。あくまでも自らの経験も交えた憶測である。

⇒26日(日)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

★「安楽死」議論は避けられない

★「安楽死」議論は避けられない

   全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)で、京都に住む51歳の女性からSNSで「安楽死させてほしい」との依頼を受けた宮城と東京の男性医師2人が薬物を投与して女性を死なせたとされる事件=写真=。この報道で率直に思うことは「安楽死の議論をいつまで放置しておくのか」だ。

   不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める「安楽死」は基本的に認められていない。現在の法律では嘱託殺人や承諾殺人、自殺ほう助の罪に問われる。今回の事件で、医師2人は嘱託殺人の疑いで逮捕された。ただ、患者や家族の同意で延命措置を中止する「尊厳死」は医療現場で容認されている。

   問題は安楽死を認めるか、認めないかだ。昨年2019年7月の参院選挙では、「安楽死制度を考える会」から9人が立候補し、この議論を全国に広めようとしたが争点にはならなかった。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。しかし、日本では尊厳死や安楽死に関する法律はまだない。これは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。もちろんさまざまな議論があることは承知している。問題は、国会がその議論をずっと避けてきていることだ。オランダやスイスは安楽死を合法化している。

   この議論は避けられないのだ。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、2030年には75歳以上は2288万人と推定される。高齢となった自身が不治の病に陥った場合、おそらく主治医に致死薬で自らの死期を早めるようお願いするだろう。身内の話だが、92歳で他界した養父は胃がんだった。「90になるまで生きてきた。世間では大往生だろう」と摘出手術を頑なに拒否した。安らかに息を引き取った。尊厳死だった。

   自らの人生のQOLを確認して最期を迎えたいという願いはこれから高まるだろう。オランダやスイスに行って安楽死する必要はない。これは日本の人権問題ではないだろう。今回の事件が投げかける意味は深い。メディアには、犯罪報道ではなく、安楽死についての議論として世論提起をしてほしい。逮捕された2人の医師を擁護するつもりはまったくない。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    あめ

☆キャンパスがクラスター化するということ

☆キャンパスがクラスター化するということ

   残念なことだが、金沢大学がクラスターと判断された。石川県がきょう21日発表した新型コロナウイルスによる新たな陽性患者数は女性3人と発表した。このうち30代の女性は大学の学生で、あと2人は同居する60代女性とゼロ歳の女児。今月18日にも20代の男子学生1人が陽性と発表していて、大学関連の感染者はこれで5人となった。この状況で、石川県は県内で7つ目のクラスターと認定した。 

   新型コロナウイルスの感染拡大で金沢大学では4月からすべての対面型の授業は中止となっていた。このため、講義はインターネットによる遠隔授業(オンデマンド型)のみで、学生は在宅授業だった。サークルや部活なども禁止。また、研究室の学生や大学院生の研究活動も登学は原則禁止となっていた。何しろ学生だけで1万人余りいる。キャンパスという限られた空間で、「大規模集会」を毎日開催するようなもので、感染が広がればひとたまりもない。

   緊急事態宣言が解除され、対面授業が再開されたのは6月19日だった。ただし、授業における「3密」を回避する条件がついている。たとえば、51人以上の規模の大きな講義は引き続き遠隔授業に。また、50人以下であっても、1学生当たり4平方㍍のスペースを確保することが対面授業の条件となっていた。このため、学生たちは少人数の限られた授業しか受講できない状態が続いている

   「3密」対策が取られているのは授業だけではない。学生がよく集まる図書館のカフェや生協食堂もそうだ。カフェは1テーブルにつき1人掛け。食堂のテーブルは対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。にぎわいからほど遠い。営業時間も午前11時から午後1時30分で、金曜と土日・祝日は休業だ。

   自身はリモートワークが続いている。久しぶりにキャンパスを歩いても、いつものにぎやかしい雰囲気が戻っていない。それだけに、今回のクラスター認定で学生たちの気持ちそのものがロックダウンするのではないか。そんなふうに案じている。

(※写真は、大学キャンパスの学生ラウンジ。学生たちの姿は少なく閑散としている)

⇒21日(火)夜・金沢の天気     くもり