⇒ニュース走査

★再び心で歌う『不協和音』の痛ましさ

★再び心で歌う『不協和音』の痛ましさ

           香港の裁判所は、昨年6月に市民らが警察本部を取り囲んだ大規模な抗議デモに関連し、無許可の集会への参加をあおったなどとして起訴されていた民主派団体「香港衆志」の周庭(アグネス・チョウ)氏ら3人に対し、有罪を認定したうえで、保釈を取り消した(11月23日付・NHKニュースWeb版)。

   周氏らはことし8月に逮捕され、保釈されていた。保釈後、日本のメディアに対し、香港警察から証拠の提示もなく、パスポートも押収され、「なぜ逮捕されたのか分からない」と流暢な日本語で答えていた。そして、拘束中に「欅坂46」のヒット曲『不協和音』の歌詞が頭の中に浮かんでいたという。

   欅坂46のこの曲『不協和音』は正直知らなかった。ネットで検索すると秋元康が作詞して2017年4月にリリ-スされたとある。「絶対沈黙しない」「最後の最後まで抵抗し続ける」などの歌詞が民主活動家としての彼女の心の支えになったのだろうか。2014年のデモ「雨傘運動」に初めて参加してから、今回含めて4回目の逮捕だった。拘置所で過ごす孤独な夜にこの歌を心で口ずさんでいたのかもしれない。

   今回の保釈取り消しで周らは拘置施設に移送された。量刑は来月2日に言い渡される。出廷前に周氏は「未来に不安を抱いているが、ほかにも仲間たちが多くの犠牲を払っている。もっと重い罪に直面している仲間たちも支援してほしい」と話していた(11月23日付・NHKニュースWeb版)。拘置所の中で再び、「絶対沈黙しない」「最後の最後まで抵抗し続ける」と心の中で歌う彼女の姿を想像すると痛ましい。(※写真は周庭氏のユーチューブ動画より)

⇒23日(祝j)夜・金沢の天気    くもり

★「テドロス氏が武器調達を支援」の衝撃

★「テドロス氏が武器調達を支援」の衝撃

           世界で新型コロナウイルスの感染が再拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学のサイト「コロナ・ダッシュボード」(11月19日付)によると、世界での感染者は累計5680万人、国別でもっとも多いのはアメリカの1169万人だ。亡くなった人も世界で累計135万人で、うちアメリカは25万人となっており。欧米での感染の広がりも尋常ではない。フランスの感染者は213万人とブラジルに次いで世界で4番目に多い。人口6200万人、日本のほぼ2分の1ながら、日本の感染者数12万人と比べれば、感染の勢いの強さが分かる。

   欧米などはコロナ禍以前から一般的にマスクを着ける習慣がなく、着用が義務化されていない国や地域などでマスクをしないまま人との接触を続けるケースが相次いでいるようだ。ヨーロッパでのマスクの着用率はまだ60%以下で、このままでは外出制限の回避は難しく、マスクの着用率を上げることが大きな課題となっているようだ(11月20日付・NHKニュースWeb版)。

   WHO自体もマスクを各国に推奨したのは6月5日だった。それ以前は、健康な人がマスクを着けても感染を予防できる根拠はないとしていた。そもそも、WHOのテドロス事務局長がマスクをしている画像を見当たことがない。

   そのテドロス氏の「画策」が母国のエチオピアでクローズアップされている。AFP通信Web版日本語によると、エチオピア軍の参謀長は今月19日の記者会見で、政府軍と対立している同国ティグレ州の政党「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」にテドロス氏が武器調達を支援していると批判した。今月4日、TPLFが政府軍の基地を攻撃したのに対して、アビー首相が反撃を命じ、戦闘が続いている。テドロス氏はティグレ人でTPLFの支援に回っているというのだ。アピー首相は2019年ノーベル平和賞を受賞している。

   エチオピアでの政府軍とTPLFによる戦闘について、ユニセフ(国連児童基金)も懸念していて、「今後、数週間のうちに20万人以上が国を逃れることが予想される」と、人道支援を呼びかけた(11月20日付・NHKニュースWeb版)。

   テドロス氏が武器調達を支援をしていることが事実とすれば、どのようなルートで行っているのか。あるいは、内戦を煽る目的は何か。関係が取り沙汰される中国の関与はあるのか。今後テドロス氏をめぐるニュースの視点はここに向かっていくだろう。それより何より、コロナ禍のパンデミックがピークに達しているときに、会見でこのようなことが晒されること自体が不徳のいたすところ、ではある。

(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒20日(金)夕・金沢の天気     あめ

☆数字は踊る、気になる、「一番」に弱い

☆数字は踊る、気になる、「一番」に弱い

   あさ起きると数字が踊っていた。16日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価の終値が前週末比で470㌦高の2万9950㌦となり、今年2月につけた終値としての最高値2万9551㌦を更新し、初の3万㌦突破も迫っているとメディア各社が報じている。アメリカの株高を好感して、きょう17日の東京株式市場で日経平均株価が前日比100円を超える上昇、一時、2万6000円台をつけた(午前9時10分現在)。2万6000円台の回復は終値ベースで1991年5月以来29年ぶりととか。

   「一番」という数字には目が向く。理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、17日に公表された計算速度を競う世界ランキングで首位を維持した。富岳が世界一になるのは今年6月に続いて2期連続(11月17日付・日経新聞Web版)。世界ランキングは毎年6月と11月に公表され、富岳は1秒あたり44.2京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を達成した。2位のアメリカの「サミット」(同14.8京回)をさらに引き離した(同)。「富岳」を製造している富士通ITプロダクツは石川県かほく市にあり、地元の多くの人たちが製造に関わり、地域の誇りでもある。

   ここで思い出す。2009年11月、民主党政権下に内閣府が設置した事業仕分け(行政刷新会議)で蓮舫議員が、次世代スーパーコンピューター開発の要求予算の妥当性について説明を求めた発言。「(コンピューターが)世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃダメなんでしょうか」だった。科学者やスポーツ選手では当たり前と思われてきた世界一(金メダル、ノーベル賞)への道だが、政治家にはこの目標がない、正確に言えば「政治の世界ナンバー1」という尺度がないのだ。その尺度がない政治家が「世界一になる理由は何があるんでしょうか」と言う資格は本来ないだろう。ひょっとして政治家の多くは「オリンピックは参加することに意義がある」と今でも思っているのかもしれない。

   世論調査の数字も気になる。朝日新聞が今月11月14、15日に行った世論調査によると、「菅内閣を支持しますか。支持しませんか」の問いでは、「支持する」が56%で前回(10月17、18日)より3ポイントアップ。「支持しない」は20%で前回より2ポイント下げた。国会で論戦にもなった「日本学術会議」問題で、菅総理が学術会議が推薦した学者の一部を任命しなかったことについて、「あなたはこのことは妥当だと思いますか。妥当ではないと思いますか」の問い。「妥当だ」34%(前回31%)、「妥当ではない」36%(同36%)、「その他・答えない」30%(同33%)だった。三つ巴の様相だが、「菅総理の国会での説明に納得できますか。納得できませんか」の問いでは、「納得できる」が22%、「納得できない」49%となる。

    民意はどこにあるのだろうか。「菅さん、国会答弁は口下手だけど、やっていることはそう間違ってはいない。東京オリ・パラもあるのでなんとか頑張って」ということだろうか。

⇒17日(火)午前・金沢の天気    はれ

★「困難に負けない」 ツワブキの花言葉

★「困難に負けない」 ツワブキの花言葉

   晩秋の気配を紅葉と落ち葉で感じるきょうこの頃だ。庭先の日陰でツワブキが黄色い花を咲かせていた。日陰ながら葉を茂らせ、花を咲かせることから「謙譲」「謙遜」「愛よ甦れ」「困難に負けない」と花言葉がある。そのツワブキを床の間に生けてみた=写真=。

   花もさることながら、葉はハスのように丸く、表面には艶がある。とても床の間に映える。ツワブキには「石蕗」と漢字が充てられている。確かに、石垣のすき間の中からささやかに花を咲かせ、つやつやとした葉を見せてくれるツワブキもある。日陰や石垣といった、ある意味での逆境にありながらも、植物の個性を見事に表現している。その日一日を粛々と生きる。ただひたすらに、ありのままに前向きな心境になれば、別の風景も見えてくるものだ。

   掛け軸には『閑坐聴松風』を出してみた。「かんざして しょうふうをきく」と読む。静かに心落ち着けて坐り、松林を通り抜ける風の音を聴く。茶席によくこの軸物が掛かる。釜の湯がシュン、シュンとたぎる音を「松風」と称したりする。日曜日の静かな午前のひとときを花と掛け軸で楽しんだ。

   午後からはまるで爆音のようなメディアの騒ぎだ。IOCのバッハ会長が来日した。延期された東京オリ・パラ開催に向けて、現地・日本の様子を確認する狙いだろうが、本人の新型コロナウイルス対策はどうか最初に気になった。何しろ、ヨーロッパは新型コロナウイルスの感染拡大が猛烈な勢いだ。ニュースでは、訪日に備えてバッハ氏を含めてIOC関係者は事前に自主隔離し、さらに少人数でチャーター機を使って来日したというから気遣いを察した。

   ただ、年末になってもコロナウイルスは衰えるどころか変異してさらにパワーアップしているようだ。ことし3月25日に当時の安倍総理とIOCのバッハ会長の電話会談で東京オリンピックを1年ほど延期すると表明があった時点で、大会の出場枠は全体の43%が確定していなかった。これから各国が予選を行い、代表選手を決めるとなると選手のモチベーションそのものが高まるだろうか。各種ランキングを用いて出場選手を決めることも検討されているようだ(11月12日付・時事通信Web版)。

   逆境のただ中で東京オリ・パラ開催できるのかどうか。このリスクは日本にとって重過ぎるのではないだろうか。だからと言って菅政権は「諸事情に鑑みて中止」とは政治的には絶対に言えないだろう。世界史に刻まれる日本の難題がこれから始まる。ツワブキの花を眺めながらふとそんなことを考えた。

⇒15日(日)夜・金沢の天気    くもり

★動物たちの反乱

★動物たちの反乱

   前回のブログで霊長類学者、河合雅雄氏の講演について述べた。河合氏らの共著に『動物たちの反乱』がある。タイトルが面白い。今まさにその時代が到来しているのかもしれない。街中に出没するツキノワクマ、農作物を食い荒らすニホンザル、市内でゴミをあさるイノシシなど、動物たちがヒトに「反乱」を起こしているのか。ここからは空想の世界が入り混じる。

   動物たちの反乱は身近に起きている。きょう大学から一斉メールが届いた。「高病原性鳥インフルエンザに対する対策について」との文科省からの通知の転送だ。添付ファイルに「野鳥との接し方」がある。以下引用。「野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください」。自家用車を駐車場に停めておくと、鳥のフンがフロントガラスについていることがある。これまでテッシュペーパーで拭いて、水をかけて洗っていたが、触れないようさらに用心が必要だ。鳥たちの「フン爆撃」か。処置としては、ガソリンスタンドの洗車機で洗うのベストだろう。1回450円だ。

   動物たちの「敵陣突破」作戦も顕著になってきた。環境省は今年4-9月のクマの出没件数が全国で1万3670件に上り、2016年度以降の同時期で最多だったことを明らかにした(10月26日付・共同通信Web版)。石川県では687件(ことし1月-11月10日現在)に上り、9月11日には「ツキノワグマの出没注意情報」を発令した。さらに、クマとの遭遇に備えて「ヘルメットの着用やクマ撃退スプレーの携行」、さらに、「林道での人身被害を防止するため、自動車から降りる際にはクラクションを数回鳴らしてから降りる」ことを勧めている。 まさに、戦闘態勢だ。

   動物たちの「兵糧攻め」も続いている。農水省公式ホームページの統計によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上った。種別の被害金額は、シカが54億円、イノシシが47億円、サルが8億円だ。被害の7割をこの3種が占めた。被害面積ではシカによるものがおよそ4分の3だ。被害額としては6億円の減少(前年比4%減)だが、被害量が49万6千㌧で前年に比べ2万1千㌧も増加(対前年4%増)している。

   海外では「人心のかく乱」「新兵器」も繰り出している。デンマークでは、毛皮を採取するための家畜のミンクから変異した新型コロナウイルスが見つかり、人への感染が確認されたとして、政府は国内の農場で飼育されるミンク1700万匹を殺処分にする方針を明らかにした(11月7日付・NHKニュースWeb版)。その後、デンマーク政府は国内で飼育されている全ミンクの殺処分を義務付けるとした命令を撤回した(同11日付・CNNニュースWeb版日本語)。一方、イギリスの保健大臣は、変異種が世界中に広まれば「重大な結果」がもたらされると警告、毛皮用のミンク飼育を国際的に禁じる必要があると示唆した(同・時事通信Web版)。エレガントなミンクの毛皮とコロナ禍の間で揺れる人々の心を嗤うように「かく乱」が続く。

   中国では動物たちが「新兵器」を繰り出した。NHKの報道によると、中国甘粛省の蘭州市当局は記者会見(今月5日)で、去年7月から8月にかけて「ブルセラ症」の動物用のワクチンを製造する地元の製薬工場から菌が漏れ出し、周辺住民など6620人が感染したことを明らかにした(11月6日付・NHKニュースWeb版)。ブルセラ症は犬や牛、豚、ヤギなどが細菌に感染して引き起こされる病気で、人が感染すると発熱や関節の痛みなどの症状が出る(同)。

   問題は感染経路だ。厚労省公式ホームページによると、人から人への感染は極めてまれで、感染動物の乳製品や肉を食べた場合での感染が一般的という。コロナウイルスでは、武漢市の細菌研究所の近くに市場があり、動物実験で廃棄されたものが市場に出回ったと当時うわさされた。今回も同じ展開か。動物たちの策略に人はうまく乗せられたのか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    はれ

☆WHOに巻きつくヘビ

☆WHOに巻きつくヘビ

    WHOのテドロス事務長は信頼を得ることがさらに難しくなったのではないだろうか。新型コロナウイルスへの対応などを議論するWHOの年次総会が9日、テレビ会議形式で始まり、テドロス氏は、アメリカのトランプ大統領がWHOの脱退を通知していたものの、脱退を撤回すると表明していたバイデン氏が大統領選で勝利宣言をしたことを受けて、「緊密に連携していくことを楽しみにしている」と述べたと報じられている(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

     トランプ氏が脱退を表明した理由は、テドロス氏の「中国寄り」の露骨な振る舞いがコロナ禍の拡大を招いたからだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   中国でヒトからヒトへの感染を示す情報をWHOが世界に共有しなかったのはなぜか。トンラプ氏でなくとも疑問に思う。アメリカ政府は7月6日に国連に対し、来年7月6日付でWHOから脱退すると正式に通告した。アメリカは1948年にWHOに加盟し、最大の資金拠出国となっており、脱退による活動への影響が懸念されていた(7月8日付・共同通信Web版)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。台湾の参加は認められなかった。台湾のオブザーバー参加はアメリカや日本などが支持した一方、中国が強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

          台湾は中国・武漢で去年12月、コロナの感染拡大をSNS上で把握し迅速な対応策を発動して波及を防いだことは国際的にも知られる。人口2350万人の台湾での感染者の累計は578人(死者7人)=今月10日付・ジョンズ・ホプキンス大学コロナ・ダッシュボード=で、うち地元に原因がある発症は55件にとどめている。コロナ対策では国際的な評価を得ている台湾をオブザーバーとして参加させない理由はなぜか。テドロス事務局長による中国への配慮そのものではないのか。WHO脱退を撤回するにしても、バイデン氏にはその矛盾点をぜひテドロス氏に向けてほしい。

   WHOのシンボルの旗には杖に巻きつくヘビが描かれている。ギリシャ神話で医の守護神となったとされる名医アスクレピオスはヘビが巻きついた杖をいつも持っていた。それが、欧米では医療のシンボルとして知られるようになった。(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒10日(火)朝・金沢の天気      はれ

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

   CNNニュースWeb版(11月8日付)は「BIDEN WINS」と大見出しで伝えている=写真=。「Pennsylvania’s 20 electoral votes put Biden over the 270 electoral votes needed to win.」。僅差で激戦が続いていたペンシルベニア州(選挙人20人)でバイデン氏が勝利し、大統領選で必要な選挙人過半数の270を超えることが確定したと報じている。今回の大統領選で勝敗を分けたのは何だったのか検証してみる。

   CNNは、バイデン氏の勝利についてニューヨーク市の医師のインタビューを紹介してる。「このパンデミックを乗り越えて、やるべきこと、つまり私たちがそれをコントロールできるようにするために、都市や国でやらなければならないことをやろうとしているリーダーだ」と語った。このリーダーとは女性初の副大統領に就任予定のカマラ・ハリス氏のこと。先月15日にハリス氏が遊説中にスタッフ2人の新型コロナウイルス感染が発覚、ハリス氏は念のため18日まで遊説を自粛した。医師はコロナにしっかり向き合うバイデン陣営の姿勢を評価したのだ。

   一方、トランプ氏は対照的だった。投票日を1ヵ月後に控えた先月2日、本人のウイルス感染が判明しワシントンの陸軍病院に入院した。ところが、3日後早々に退院した。選挙遊説でもトランプ氏はコロナ感染を克服したことをアピールするためにあえてマスクを外して強さをアピールした。まさに地で行く「オクトーバーサプライズ(October surprise)」となった。その後、ホワイトハウスの関係者に感染が広がった。

   では、バイデン氏とトランプ氏の対称的なコロナ対応が、有権者にどう影響を与えたのだろか。その際立った違いは「郵便投票」への両陣営の呼びかけだろう。バイデン氏は感染対策として郵便投票や期日前投票を活用するよう促していた。一方、トランプ氏は不正につながるとして郵便投票をしないよう呼びかけていた。トランプ氏が指摘した不正とは、郵便と投票所で「二重投票」が起きるとの主張だ。郵便投票の用紙を申請した直後に期日前投票をすれば、二重投票の可能性は出てくるが、事務的チェックで防げるだろう。

   アメリカのメディアがよく引用するフロリダ大学「US Elections Project(アメリカ選挙プロジェクト)」のサイトをチェックすると、今回の選挙の投票総数は1億5883万人で投票率は66.4%だった(大学独自集計)。期日前投票は1億100万人以上で、うち6450万人超が郵便投票を選んだと推定される。2016年の選挙では1億3900万人が投票し、うち郵便投票は3300万人だったので倍近い数字となる(AFP通信Web版日本語)。トランプ氏が 「 Mail-in ballots are very dangerous」と呼びかけたにもかかわらず大幅に増えたということは、それだけ投票所での「3密(密集、密接、密閉)」を避けたいとの有権者の意識の表れだろう。

   トランプ氏はコロナ禍での国民の心情・心理を読み誤った。自らが回復したからと強気に出るのではなく、あの時に「コロナを経験して怖さを知った。郵便投票でOKだ。ワクチン開発を急ぐ、国民は安心してほしい」と言えば、それで選挙情勢は変わっていたかもしれない。自らの「オクトーバーサプライズ」のチャンスを逃した大統領になった。バイデン氏の大統領就任式は2021年1月20日だ。

⇒8日(日)朝・金沢の天気      くもり

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、アメリカの感染が最も多く958万人、インド836万人と続く。亡くなった人もアメリカが23万人、ブラジル16万人と続く。アメリカでは今月4日(現地時間)に新規感染者は10万2831人と1日当たりの感染者が初めて10万人を超えた(11月5日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   これが社会不安にもつながっているのだろうか。ニューヨーク市警が公表した犯罪統計によると、ことし年初から10月までの間に発生した発砲事件は1299件で、前年同期に比べ93.9%も増加している(同)。ニューヨーク市では毎日4.3回の発砲音が聞こえていることになる。コロナ禍に加えて、アメリカ大統領選がデスマッチの様相だ。

   開票作業が長引いているペンシルベニア州(選挙人20人)のフィラデルフィアでは、トランプ、バイデンの両候補の支持者らによるデモが繰り広げられた。トランプ氏の支持者らは「投票は選挙日まで」「投票所は閉まりました」と書かれたプラカードを掲げた一方で、バイデン氏の支持者らはバリケード内でダンスする姿が見られた(11月6日付・ロイター通信Web版日本語)。

   SNSも大混乱だ。フェイスブックは5日、誤情報などを投稿し「民主党が選挙を盗んでいる」と根拠のない主張を続けているトランプ支持者のグループ「STOP THE STEAL(盗みを阻止しろ)」をプラットフォーム上から削除した。フェイスブックは声明で「同グループは選挙プロセスの非合法化を目的に組織され、一部メンバーは懸念を誘う暴力行為を呼び掛けていた」と説明した(同)。

            アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNSは基本的に違法な投稿を掲載したことの責任を問われない。その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制しているのだ。むしろ、SNS各社はそのファクトチェックの作業で大混乱しているのではないだろうか。差別や相手を圧迫するようなヘイトスピーチは分かりやすいが、ファクトチェックとなると独自に事実関係を収集・構築した上での判断となるので簡単ではないだろう。

          SNSを政治の舞台として活用したのは、ある意味でトランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。

   そのSNSが今回の大統領選でトランプ氏の書き込みに目を光らせている。ツイッターは「誤解を招く可能性がある」として警告ラベルを付けて閲覧者に注意を促している。その数は尋常ではない=写真=。一国の大統領のツイッターにここまでするのかとも思うくらいだ。一方で、追い詰められたトランプ氏がこの場におよんで無茶ぶりのコメントを連発しているのだろう。往生際の悪さか。

⇒6日(金)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

   昨夜は「トランプの再選もありかな」と思いながら就寝した。朝起きてテレビやネットをチェックすると、前回(2016年)トランプが勝ったウィスコンシン州とミシガン州がバイデン氏に流れていて、一夜で情勢が変わったと気がついた。  

   アメリカ大統領選での郵便投票がかなりの「混乱」を招いている。当事者であるトランプ氏のツイッターをチェックすると随所にその混乱ぶりがうかがえる。

「We are winning Pennsylvania big, but the PA Secretary of State just announced that there are “Millions of ballots left to be counted.”」(意訳:我々はペンシルベニア州で大きな勝利を収めているが、州務長官は「数百万の投票が残っている」と発表した)。ペンシルベニア州(選挙人20人)の郵便投票は3日の消印有効で6日までに到着すれば受け付ける。同州では約900万人の有権者の3分の1が郵便投票を申請している(11月4日付・時事通信Web版)。民主党支持者は新型コロナウイルスの感染を恐れて郵便投票が多いとされる。逆に、共和党支持者は当日投票が多い傾向にあり、当日投票の先行開票でリードしていても、郵便投票の開票で逆転もある。

   しかし、トランプ氏はそのような理解をしていないようだ。「How come every time they count Mail-In ballot dumps they are so devastating in their percentage and power of destruction?」(意訳:郵便投票の束を集計するたびに票差が変化し、なぜこれほど破壊力があるのか)。トランプ氏は郵便投票に不正があると見ていて、おそらく納得がいかないのだろう。

   バイデン優勢から激戦、そして郵便投票による逆転劇などドロ沼化しているアメリカ大統領選の開票がこれほど長引くとは思っていなかった。ついでに、ニューヨークダウをチェックすると、前日に比べて367㌦高い2万7847㌦で終えている。一時800㌦の上げ幅もあった。選挙結果が見通せない中でも買い注文が連日続く。東証だったらしばらく様子見だろうか。選挙も投資もアメリカらしく実にダイナミックではある。

⇒5日(木)朝・金沢の天気     はれ

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

    「反対50.6%、賛成49.4%」の僅差で否決された大阪都構想。その後の新聞・テレビ各社の報じる論評を読めば読むほど分からないことが増えてくる。同時に票にはさまざま思いや時のタイミングが滲んでいると思えてくる。

   大阪・朝日放送(ABC)の世論調査によると、10月24-25日調査では賛成46.9%、反対41.2%だった。ABCは9月19-20日から世論調査を始めているが、それまでの賛成が6回続けてリードしていた。7回目となる10月30-31日の調査で初めて反対46.6%、賛成45.0%と逆転した。これまで「未定・不明」と答えた人の割合が、3.5ポイント減って反対側に流れたようだ。そして、この7回目の調査結果がそのまま11月1日の住民投票の結果に反映されたかっこうだ。

   ABC調査で気になったデータがある。「新型コロナの拡大下でも住民投票を行うべきか」(10月3-4日調査)の問い。年代でもバラツキがあるが、全年代通しでは「予定通り行うべき」37.8%を「中止もしくは延期するべき」42.0%が上回っている。大阪市では、10月は第3波ともいえる新規感染者数が増加を始めたころだった。とくに終盤の27日から11月1日の投票日にかけては連日50人から70人の新規陽性者が出ていた(大阪市役所公式ホームページ)。

   実際にコロナ禍は投票行動に影響を与えたのではないだろうか。投票率が66.8%だった前回(2015年)より世論の関心度も高く盛り上がったにもかかわらず、今回投票率が62.4%と4.4ポイントもダウンしたのも、コロナ禍で投票場へ行くのを控えた人も多かったせいだろう。期日前投票が前回35万9千、今回41万8千と率にして16%も増えているのも、「3密」を避けた投票行動と読めるのではないか。

   ABC調査のデータが現実になったともいえる。「中止もしくは延期するべき」が声が上がっていたにもかかわらず、それを実施したことに対する、松井市長、大阪維新の会への批判が「反対」票となって表れたのではないだろうか。大阪都構想を推進する側にとっては、コロナ禍はタイミングが悪かった。

           さらにもう一つ「反対」票につながったと思われる数字がある。大阪市を4つの特別区に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになったと報道された(10月26日付・毎日新聞Web版)。市財政局の担当者は29日に緊急記者会見で、この試算を撤回した(10月29日付・同)。が、この数字が都構想のデメリットとして独り歩きを始めたのではないだろうか。

   きょう大阪維新の会のツイッターをチェックすると、吉村知事の囲み会見(11月2日)が動画で紹介されている。支持者のコメントが出ていた。「燃え尽き症候群のようになってしまわないか心配です。今はなかなか切り替えができないと思いますけど、違うやり方で少しづつ改革を進めることはできます。60万人以上の市民が賛成したのも事実です、これで都構想を諦めるなんて言わないでください!まずは一休みして」。やさしい励ましの言葉だ。都構想はある意味で市民の共感を得ていた政策だったのだ、と理解もできた。

⇒3日(祝)朝・金沢の天気     はれ