⇒ニュース走査

★「オリンピックは参加することに意義」 ありやなしや

★「オリンピックは参加することに意義」 ありやなしや

   昨夜遅く、福島と宮城の両県で震度6強の激しい揺れがあった。日本海側の能登半島でも、半島尖端にある珠洲市で震度3を観測したほか、七尾市・輪島市・羽咋市などで震度2だった。金沢も震度1だったが、気づかなかった。気象庁の公式ホ-ムページでチェックすると、日本海側だけでなく、北海道まで広範囲に揺れている=写真、13日午後11時44分発表=。

   多くの国民は「オリンピックは大丈夫なのか」と案じているのではないだろうか。新型コロナウイルスによるパンデミック、そして、オリンピック組織委員会会長(12日辞任)の森喜朗氏の女性蔑視と取れる発言が国内外で問題になっていて、さらに東日本を揺さぶる地震だ。そして、福島市では7月21日、22日、28日に野球・ソフトボール競技が開催されることが決まっている。各国の代表選手も大丈夫かと気にしているのではないだろうか。

   話は変わる。イギリスのBBCニュースWeb版日本語(2月12日付)によると、中国の放送規制当局は、BBCワールドニュース(国際ニュース放送)の放送を中国国内で禁止すると発表した。中国はこれまで、新型コロナウイルスや少数民族ウイグル族への迫害をめぐるBBCの報道を批判してきた。中国の放送規制当局・国家広播電視総局は、BBCワールドニュースの中国報道について、「ニュースは真実かつ公平でなくてはならない」などとする中国の放送ガイドラインに「著しく違反した」と述べた。その上で、BBCの次年度の放送免許の更新申請を受け付けないとした。

   上記のニュースには伏線がある。同じくBBCニュースWeb版日本語の今月5日付。イギリス通信業界の独立監視機関、放送通信庁(Ofcom)は、中国の国営テレビ「中国環球電視台(CGTN)」のイギリス国内での放送免許を取り消した。CGTNのライセンスを保有するスター・チャイナ・メディア・リミテッド(SCML)が、英語の衛星ニュース・チャンネルについて「編集責任」を持たないことが、Ofcomのルールに違反したためとしている。

   さらに、同日付でBBCは中国での人権問題を報じている。新疆ウイグル自治区の収容施設に入れられたウイグル族の女性らが、組織的なレイプ被害を受けたとBBCに証言した。この報道を受け、アメリカとイギリスの政府は「深く憂慮している」と懸念を表明した。新疆ウイグル自治区の収容施設では、ウイグル族などの少数民族100万人以上が拘束されていると推測されている。

   米英と中国で「メディア戦争」が勃発しているのだ。バイデン政権も、国務省の報道官が先日、中国がウイグル人に対して「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っていると認め、この点においては前のトランプ政権と現政権の見解は一致していると改めて述べた(2月5日付・AFP通信Web版日本語)。

   この一連のニュースで連想するのは、旧ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議し、アメリカや日本など50ヵ国が1980年のモスクワオリンピックをボイコットした一件だ。すでに、開幕まであと1年と迫った2022年北京冬季五輪も似たような状況に展開しつつある。世界の180以上の人権団体が署名して、人道上の理由からボイコットを呼びかける書簡を発表した。書簡は「チベット、ウイグル、南モンゴル、香港、台湾、中国民主、人権運動団体連合」の名で発表された(2月5日付・CNNニュースWeb版日本語 )。オリンピックをめぐる争いの火ダネになりそうな気配だ。

           有名な言葉、「オリンピックは参加することに意義ある」(元IOC会長・クーベルタン)はもう過去の話なのかもしれない。

⇒14日(日)夜・金沢の天気    はれ

★世界が認める「生き物ブランド米」

★世界が認める「生き物ブランド米」

   あさニュースをチェックしていて目に留まる記事は、「環境」や「エコロジー」といったワードが入っていたりする。NHKニュースWeb版(2月9日付)の記事。兵庫県北部の但馬地域のブランド米「コウノトリ育むお米」は、国の特別天然記念物、コウノトリの野生復帰を促す活動に協力するため、農薬をできるだけ使わずに作られている。ブランド米を販売する地元の農業協同組合が、フランスへの輸出を始めることになった。環境に配慮した栽培方法をアピールし、環境問題への関心が高い現地のニーズを取り込みたいとしている。

   今月下旬にもフランス南部のマルセイユにおよそ100㌔を輸送し、日本の食材を扱う小売店などに卸す予定だという。このブランド米はすでにアメリカやアラブ首長国連邦など世界6ヵ国に輸出しているが、ヨーロッパへの販路拡大は初めて(同)。

   この記事を読んで、豊岡とコウノトリの「物語」を思い出した。豊岡にはコウノトリが舞い降りる名所だった。ところが、戦時中には巣をつくる営巣木であるマツが大量に伐採され、さらに、戦後はコメの増産から農薬が普及して、コウノトリは激減していた。そこで、2005年9月に「コウノトリの里」の復元を目指して、秋篠宮ご夫妻を招いてコウノトリの放鳥が行われた。カゴから飛び立った5羽のうち一羽が近くの田んぼに降りてエサをついばみ始めた。その田んぼでは有機農法で酒米をつくっていた。金沢の酒蔵「福光屋」が酒米農家に「農薬を使わないでつくってほしい」と依頼していたものだった。

   このことがきっかけでJAなどが中心となってコウノトリにやさしい田んぼづくりを始めるようになった。その後、豊岡ではコウノトリが野生復帰した。農家は農薬を使わず、手で雑草を取っているという光景がみられるようになった。コウノトリが舞い降りる田んぼの米「コウノトリ米」には付加価値がついた。それをブンラド化した。コウノトリを見ようと毎年50万人が訪れ、エコツーリズムの拠点にもなった。福光屋は地元での限定販売で「コウノトリの贈り物」という純米酒を造っている。

   こうした、生き物と稲作が共生することで、コメの付加価値を高めることを「生き物ブランド米」と呼んでいる。まさに、豊岡の成功事例がお手本となった。自身もこれまで、新潟県佐渡市の「トキ米」や、地元石川県白山市での「ホタル米」などを見学したことがある。農家の人たちは実に熱心でブランド価値を高めることに余念がない。有機農業はヨーロッパなど世界では常識だが、それにさらに生き物を冠してのブランド米となると注目されるかもしれない。ヨーロッパでは「赤いクチバシ」のコウノトリは幸せを運んでくると言われるそうだ。

(※写真は、「JAたじま」公式ホームページより)

⇒10日(水)朝・金沢の天気    はれ

★森発言 五輪のモチベーションも失速

★森発言 五輪のモチベーションも失速

    菅総理はことし元旦の年頭所感で、「我が国は、多国間主義を重視しながら、『団結した世界』の実現を目指し、ポストコロナの秩序づくりを主導してまいります。そして、今年の夏、世界の団結の象徴となる東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催いたします」(総理官邸公式ホームページ)と述べたが、開催自体も怪しくなってきた。 

   共同通信社が6、7両日に実施した全国電話世論調査によると、「女性蔑視」発言をした東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長に関し、会長として「適任とは思わない」との回答が59.9%に上った。「適任と思う」6.8%、「どちらとも言えない」32.8%だった。菅内閣の支持率は38.8%で前回1月調査から2.5ポイント続落し、初めて40%を割り込んだ。不支持率は3.1ポイント増の45.9%となった(2月7日付・共同通信Web版)。

   読売新聞が5-7日に実施した全国世論調査では、森会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言したことについて、「問題がある」との回答は「大いに」63%、「多少は」28%を合わせて91%に上った。「大いに」を男女別にみると、女性が67%で、男性の59%を上回った。オリ・パラの開催では、「観客を入れて開催する」8%と「観客を入れずに開催する」28%を合わせ、計36%が開催に前向きな考えを示した。「再び延期する」は33%、「中止する」は28%だった(2月7日付・読売新聞Web版)。

   内閣支持率は39%と前回(1月15-17日調査)の39%から横ばいだった。不支持率は44%(前回49%)に下がった。昨年11月に69%だった内閣支持率は、その後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い3回連続で下落していた。今回の調査で支持率の下落傾向に歯止めがかかったのは、新規感染者数が減少に転じたことが主な要因とみられる(同)。

   国内世論にオリ・パラ開催へのモチベーションが感じられない。森会長が辞めたら、世論的にモチベーションは上がるのだろうか。新型コロナウイルスの感染収束が見通せない状態では八方塞がりだ。どうやら、暗いトンネルに入り込んでしまったようだ。

⇒7日(日)夜・金沢の天気 

★物議かもす森発言を読む

★物議かもす森発言を読む

   同じ石川県出身の森喜朗元総理の講演をこれまで何度か聞いたことがある。大学の教員となってからでは、2012年5月に金沢大学が発祥から150年となる「創基150年」の記念式典で、森氏の講演を聴いた=写真=。金沢大学の総合移転をめぐる話だった。以下当時の講演メモから。

   1970年代でもめた「筑波大学法案」(国立学校設置法等の一部を改正する法律案)では国会議員からも猛反発も受けたが、「私は一歩も引く気はなかった。なぜなら、わたしの頭には次は金沢大学の総合移転があった」と。金沢大学の移転をめぐっては反対意見もあり、「筑波の矛先を金沢に向ける保守反動、右翼森喜朗をつぶせ」などと書いたビラも金沢市内に貼られたが、森氏は「むしろ政治家のライフワークと自覚した」。大学移転後の金沢城では櫓や門などが復元整備され、附属小中学校の跡地には金沢21世紀美術館がオープンして人気を博している。どちらも2014年度末の北陸新幹線金沢開業に向けて、有力な観光スポットとして期待されている。「私の判断は間違っていなかった」と語気を強めた。

   講演では話の流れが分かりやすく、しかも、アドリブを利かせながら聴衆をひきつける。森氏は学生時代、早稲田大学の雄弁会で活躍したそうだ。鍛え抜かれた弁舌だと感じた。ただ、時にその弁舌はマスメディアの目線では誤解を生むこともある。

   2000年4月、森氏は脳梗塞で倒れた当時の小渕総理の後を継ぐかたちで総理に就任した。その直後の5月、神道政治連盟国会議員懇談会で森氏は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々が頑張ってきた」と述べた。いわゆる「神の国」発言である。戦後、天皇は神性を否定する「人間宣言」をしているにもかかわらず、国の総理がそれを否定したとして大騒ぎとなった。その後、ハワイ沖で日本の高校生の練習船がアメリカの原子力潜水艦と衝突して死者を出した「えひめ丸」事故(2001年2月)への対応が問題となり、就任から1年で総理の座を小泉純一郎氏に渡した。退陣前の内閣支持率は9%(朝日新聞調査)と1桁に落ちていた。

   そして、きのう3日の発言も物議をかもした。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長である森氏はJOC臨時評議員会で「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディアはこの発言を女性差別であり、理事会への女性参画の流れにも逆行すると国内外でニュースとして発信した(2月4日付・NHKニュースWeb版など)。

   表現が率直過ぎて、笑える失言もある。2005年8月、参院で郵政民営化法案が否決された当時の小泉総理が衆院解散を決意する。それを思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と小泉氏に拒否された。会談直後に、森氏は握りつぶした缶ビールとチーズを記者団に見せて、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこの干からびたチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。

   干からびたチーズを前総理の森氏に出したことで小泉氏は解散総選挙への本気度を示したとメディアが報じ、結果、選挙は自民大勝となった。その干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。

⇒4日(木)午後・金沢の天気     くもり

★WHO調査チームの困惑

★WHO調査チームの困惑

   1月の締めくくりでもある31日を晦日正月(みそかしょうがつ)と言ったりする。1月にやり残したことを終わらせるという意味合いもあるが、地域によってはこの日にそばをすすったり、だんごを食べたりする風習もあるそうだ。三寒四温の時節が待ち遠しい時節である。

   きょう気になったニュース。新型コロナウイルスの発生源などを解明するため、中国を訪れているWHOの調査チームは31日、感染拡大の初期に多くの患者が確認された武漢の海鮮市場を視察した(1月31日付・NHKニュースWeb版)。市場は昨年1月に閉鎖され、高さ3㍍の壁で囲まれ内部が見えないようになっていて内部への立ち入りは認められていない。

   調査チームはきょう午前中、中国政府が、感染対策が成功し都市の封鎖が行われていた昨年2月から住民に食料を供給したなどと宣伝している別の市場を視察。調査チームはきのう30日も中国政府が感染の封じ込めを宣伝する展示を視察している。中国は初期対応への遅れが指摘される中で、対応の正当性をアピールする狙いがあるとみられる(同)。

   果たしてこのような、中国側の宣伝する展示や現場を見せられて、困惑しているのは調査チ-ムではないだろうか。チームのメンバーは10人で、リーダーのピーター・ベン・エンバレク氏は動物-ヒト感染のインフルエンザウイルスなどの専門家、ほか疫病学や実験室試験・臨床治療を研究する科学者、新型ウイルス、獣医師などで構成されている。ウイルスが流出した可能性があるとアメリカなどが主張する「武漢ウイルス研究所」などへは行っていない。

   いろいろなところを連れ回し、中国側とすれば、「調査チームは納得して帰った」と宣伝したいのかもしれない。が、今回の調査チームの動向を世界の科学者は注目している。科学を甘く見てはいけない。

   きょう31日は、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して、ちょうど1年となる。(※写真は、感染者の退院の様子を伝える中の国・武漢市のホームページ、2020年2月1日)

⇒31日(日)夜・金沢の天気    あめ

★ついにコロナ感染1億人、「世界の団結」の証を

★ついにコロナ感染1億人、「世界の団結」の証を

   ついに1億人に感染が拡大した。うち死者は215万人。時折チェックしているジョンズ・ホプキンス大学のコロナダッシュボ-ド(日本時間で27日午前9時現在)=写真=を見て、心が痛んだ。国別ではアメリカの死者が42万人と最多だ。次いでブラジル、インド、メキシコ、イギリスとなっている。この5ヵ国を合わせた死者数は世界全体の48%、半数を占める。ブラジルではことし7月延期されていた「リオのカーニバル」が中止に追い込まれている。

   新型コロナウイルスに立ち向かう人類の武器は「ワクチン」だが、これが思うように進んでいない。NHKニュースWeb版(1月27日付)はオックスフォード大学Webサイト「アワ・ワールド・イン・データ」からの引用で記事を掲載している。今月26日の時点で全世界で接種されたワクチンは合わせて6900万回分で、少なくとも1回は接種を受けた人の数も6300万人と世界の人口からみると一部にとどまっているのが現状だ。

   では、日本はどうか。報道でも、政府は2月下旬からワクチンの接種を始めたいとしているが具体的なスケジュールや接種場所などがまだ示されていない。政府は、アメリカとイギリスの製薬会社3社との間で合わせて1億5700万人分の供給を受ける契約を交わしていて、「ことし6月までに接種対象となるすべての国民に必要な数量の確保は見込んでいる」と示している(1月22日付・NHKニュースWeb版)。

   世界でワクチン接種が進まないとなると、どうしても気になるのが東京オリンピック・パラリンピックの開催だ。オリンピックには、世界から選手や審判員、競技関係者が1万5000人が訪れる。選手村では、一堂に会した選手たちがマスクをして黙々と食事を取るだろうか。にぎやかな食事風景を想像するだけでも、選手村がクラスター化するのではないかとの思いがよぎる。

   ワクチン接種を素早く手当てして、医療体制を整えることが先決だろう。「今年の夏、世界の団結の象徴となる東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催いたします。安全・安心な大会を実現すべく、しっかりと準備を進めてまいります」(菅総理の年頭所感、総理官邸公式ホームページ)。有言実行を期待したい。オリンピックで日本の存在価値が問われる。

⇒27日(水)夜・金沢の天気   くもり

☆ユニークベニューな能登への本社移転

☆ユニークベニューな能登への本社移転

   ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語、ワーケーション(workation)は夢のような働き方と思っていた。景勝地にオフィスを構え、通勤時間は歩いて10分ほど。四季を肌で感じ、食事は近くのホテルやレストランで取れたての食材で寿司や海鮮料理や和食、イタリアンなどを楽しむ。仕事に集中でき、ストレスは溜まらない。そのようなイメージだ。それが、能登で現実に動き始めようとしている。

   日経新聞北陸版(1月23日付)で、東証一部の医薬品商社「イワキ」が東京都中央区にある本社機能をことし6月から石川県珠洲市に段階的に移転するというニュースが掲載されていた。記事によると、本社機能は経営企画、人事、経理、情報システムなどの部門が含まれ、約110人を予定し、東京と石川で居住地や就労地を選べるようにする。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、本社機能の一部を珠洲市に分散し経営上のリスクを減らす。珠洲の原材料を使用した商品を開発するなど地方創生に関わる事業の創出にもつなげる。

   珠洲市は能登半島の先端に位置する。日本海に囲まれ、北部は切り立った断崖、南部には穏やかな海が広がる。軍艦のような形をした見附島や、しぶきを上げて流れる「曽の坊の滝」などの観光スポットとしても知られる(同)。

   記事を読んで驚いたことに、本社機能を移転する予定のオフィスは古民家だ。1914年に東京・日本橋で創業した上場企業が能登の茅葺(かやぶき)の古民家に拠点を移す。前代未聞だ。

   じつは、自身はこの古民家にこれまで3度訪れたことがある。もともと、日本画家の勝田深氷氏が1994年に東京から移住し創作活動をしていたアトリエだった。当時は「勝東(しょうとう)庵」と呼ばれていた。勝田氏は、最後の浮世絵師と称され、美人画で知られた伊東深水の二男で、姉は女優の朝丘雪路だ。サンフランシスコにもアトリア「勝東庵」を構えていたが、2012年7月にシスコで急逝した。しばらく、奥様が珠洲の「勝東庵」を守っていた。自身が初めて訪れたのは2013年5月、奥様から深氷氏の18年間におよぶ能登での創作活動の様子などうかがった。その後、珠洲市が文化芸術交流施設「文藝館」=写真・上=として管理している。この文藝館がオフィスとして貸し出される。

   堂々とした建物の外観もさることながら、内部には深氷氏が遺した芸術作品がある。正面玄関から入ると、左手に杉の板戸6枚に描かれた見事な桜が出迎えてくれる。 作品名は「桜心(おうしん)」=写真・中=。この絵を眺めていると、現代画壇という感じではなく、まさに江戸時代の絵師の筆の勢いというものが伝わってくる=写真・下=。この絵を鑑賞していると新たなアイデア創出や思考力といった感性が高まるような気がする。板戸だけではない。芸術的な工夫が凝らされた玄関やトイレ、客間なども感慨深い。

   文化財の建物などを会議の場として活かすことをユニークベニュー(unique venue、特別な会場)という言葉を用いる。まさに、ユニークベニューなオフィスではないだろうか。

   この古民家の周辺は、「珠洲ビーチホテル」という8階建のホテルを中心に家族用のキャビン群もあるリゾート地としても知られる。震災などリスクヘッジを念頭に置いた地方への本社機能の移転は進むのではないか。人材派遣会社「パソナグループ」も本社機能の一部を東京から兵庫県淡路島へ移転することを発表している。今回のイワキのケースは古民家を活用するという点で、地方移転へのシンボリックな存在になるのではないだろうか。

⇒24日(日)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★東京オリンピック 開催は無理なのか

★東京オリンピック 開催は無理なのか

           きょうは1月23日、東京オリンピックの開会式まであと6ヵ月だ。その開催をめぐって世界にニュースが走っている。イギリスの「タイムズ」紙WEB版(1月21日付)が「Japan looks for a way out of Tokyo Olympics because of Covid」の見出しで、IOCと日本政府との間で、ひそかに東京五輪を中止し、2032年の開催を目指す道を探っていると報じた=写真=。タイムズは1785年創刊の世界最古の日刊紙であり、世論形成の役割を担うメディアの一つだ。ニュースを目にした世界の人々は妙に納得しているかもしれない。

   タイムズと同じく世界のメディアとして存在感を示している、イギリスのBBCニュースWeb(20日付)も「Tokyo Olympics ‘unlikely to go ahead in 2021’」の見出しで「2021年開催は無理」と、ロンドン五輪(2012年)の元最高責任者の言葉を引用して述べている。この2つのメディアが「開催は無理」とのニュースを流すと、世界のニュースのトレンドが定まってしまうので恐ろしい。

   開催は無理なのだろうか。ワクチンが世界に十分に供給されていない状況で、世界中から33競技に出場する1万1000人の選手、加えて審判員が東京に集まる。1万人のランナーが参加する聖火リレーは3月25日に福島県をスタートにゴールの東京都まで121日間かけて行われる。大会では競技場や選手村で活動する「フィールドキャスト」と呼ばれるボランティアが8万人、選手の移動に2190台のバスが用意されるとの報道(1月23日付・NHKニュースWeb版)がある。開催の有無は遅くとも、3月25日の聖火リレーが始まる前に決断しなくては、その途中で開催中止の発表をするわけにもいかないだろう。

   東京五輪・パラリンピックの開催都市契約はIOCと東京都、日本オリンピック委員会(JOC)の3者で締結しているので、この際、この3者で「開催条件」を明示すべきではないだろうか。たとえば、選手や審判員のワクチン接種など具体的な条件を明らかにする。その進捗度で開催する、しないを決める。国内でもワクチン接種をすることで観戦が可能などといった条件があれば、分かりやすい。繰り返しになるが、いつまでにどんな基準を満たしていればオリンピックを開催するのかという「開催条件」を明確に示すことだ。そうでなければ、国民の気持ちがまとまらない。もちろん、他の参加国における条件も決めておくべきだろう。

   話は前後するが、IOCのバッハ会長は22日、各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)とオンラインで意見交換し、大会開催への固い決意を重ねて示した。バッハ氏はタイムズによる「日本政府が中止せざるを得ないと内々に結論付けた」との報道を「フェイクニュース」と否定した上で、日本の準備状況を高く評価。NOCに対し、大会への準備に関するアンケートを近く行う方針を示した(1月22日付・共同通信Web版)。

⇒23日(土)午前・金沢の天気  あめ

★続・世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」なのか

★続・世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」なのか

         前回のブログで、WHOのテドロス事務局長は、富裕国が新型コロナウイルスのワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した、との記事(1月18日付・時事通信Web版)を紹介した。次にテドロス氏が打ってくる手は、「最貧国にワクチンが届かなければ、オンリンピックは開催できない」、ではないかと懸念している。つまり、オリンピックを盾に富裕国にワクチン拠出を迫る、荒っぽい手口だ。

   そう懸念する論拠は以下だ。昨年2020年5月16日、WHOのテドロス事務局長とIOCのバッハ会長はジュネーブにあるWHO本部で会談し、スポーツを通して健康を共同で促進していこうという覚書(MOU)を交わした。ICOの公式ホームページにMOUの内容が紹介されている。

「the IOC and WHO are demonstrating their shared commitment both to promoting healthy society through sport, in alignment with Sustainable Development Goal 3 (“Good health and well-being”), and to contributing to the prevention of non-communicable diseases. (IOCとWHOは、SDGs目標3「健康と幸福」に沿って、スポーツを通じて健康的な社会を促進するという共通のコミットメントを示し、さらに非感染性疾患の予防に貢献する)

   問題なのはこの一文だ。「The IOC and sports organisations recently benefited from WHO guidelines on mass gatherings, aiming specifically to provide additional support to sports event organisers and host countries in developing a risk-assessment process, identifying mitigation activities and making an informed evidence-based decision on hosting any sporting events. The guidelines can be found here.」(意訳:IOCとスポーツ組織は、リスク評価プロセスの開発や緩和の特定、およびスポーツ大会の開催の決定に当たり、スポーツイベントの主催者と開催国に追加のサポートを提供する。実施にあたってはWHOからガイドラインを頂戴する)

   つまり、オリンピックなど国際スポーツイベントの開催にあたっては、WHOからガイドライン(この場合は助言)を示される。つまり、東京オリンピックでは、参加するすべての国にワクチンを行き渡らせることが開催のガイドラインとしてWHOが示す可能性もあるのではないか。

   実際、IOCとWHOの覚書の後の記者会見で、記者からワクチンが完成する見通しがたたない東京オリンピックの開催は可能かと問われ、バッハ会長は「2021年の7月に世界がどのようになっているかわからない。大会まで1年2ヵ月あり、WHOと作業チームの助言(ガイドライン)に従いながら正しい時期に必要な決定を行う」と、五輪開催の最終決定にあたってはWHOのガイドラインを重視すると述べている。

   IOC公式ホームページの写真でもトレーニング用の固定自転車でツーショット=写真=が掲載されている。解釈によっては、IOCとWHOは「両輪」、あるいは「二人三脚」と強調しているようにも読める。

   結論を急ぐ。MOUによってテドロス氏はある意味でオリンピックを開催するしないの「決定権」を握ったのだ。コロナワクチンを富裕国が独占し、最貧国に行き渡らない状態ではオリンピックは開催できないとテドロス氏が言えば、IOCも従わざるを得ないだろう。あるいは、テドロス氏は日本に対してオリンピックを開催するためと称して、最貧国へのワクチン購入費を要求してくるかもしれない。それも言葉巧みに脅し、すかしの外交用語で。上記は憶測である。

⇒20日(水)朝・金沢の天気     はれ

☆世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」なのか

☆世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」なのか

   天気予報によると、きょう19日の金沢の最高気温が零度、最低気温がマイナス2度だ。能登の輪島は最高気温がマイナス1度、最低気温がマイナス3度となっている。朝起きて自宅周囲を見渡すと10数㌢積もっている。きのうは雷もとどろいていたので、しばらく厳冬は続くだろう。

       それにしても、世界は「コロナ厳冬」だ。感染者9560万人、うち死者204万人(1月19日付・ジョンズ・ホプキンス大学コロナダッシュボード)。世界ではさまざま議論が沸き起こっている。WHOのテドロス事務局長は、富裕国が新型コロナウイルスのワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した(1月18日付・時事通信Web版)。

   中国外務省の華春瑩報道局長は19日の記者会見で、WHOの独立委員会が中国の新型コロナウイルス感染症への初期対応に遅れがあったと指摘した中間報告に反論した。華氏は武漢市の海鮮市場を昨年1月1日に閉鎖し、新型肺炎の発見からわずか3週間あまりで武漢を封鎖したと強調。早期に世界に警鐘を鳴らしたと主張した。また、新型コロナの起源を巡り政治問題化することに断固反対すると改めて強調。新型コロナ対策のため国際社会が団結し協力する助けにならないためだと理由を述べた(1月19日付・共同通信Web版)。

   上記のテドロス氏と中国の華報道局長の発言には違和感を感じた。中国が初期対応に遅れはなかったと言うのであれば、1月下旬は中国の春節の大移動で世界にコロナ禍をまき散らす結果となったが、なぜ出国禁止としなかったのか。そして、1月23日のWHO会合では、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を時期尚早として見送った。WHOが緊急事態宣言を出したのは1週間遅れの30日だった。

   このころ、中国以外での感染が18ヵ国で確認され、日本をはじめアメリカ、フランスなど各国政府が武漢から自国民をチャーター機で帰国させていた。なのになぜ、WHOは23日に宣言を見送ったのか、中国に配慮して「武漢ウイルス」を国際的に宣言するのをためらったのはないか、との疑念が今もくすぶっている。

   テドロス氏は、コロナワクチンを「富裕国が独占している」として、「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告したが、ならば、その大前提として世界が抱いているテドロス氏への疑念に真摯に答えなければならない。でなければ、「そもそもパンデミックを広めたのは、貴方でしょう」と、議論は前に進まないのではないか。

⇒19日(火)午後・金沢の天気    あめ時々ゆき