⇒ニュース走査

☆羞恥心と民主主義

☆羞恥心と民主主義

   「中国の公衆トイレには仕切りがない」。そのような話を以前から聞いていたが、実際に見たのは2011年6月のことだった。北京で開かれた国際会議に出席したとき、会場のホテルのトイレは日本と同じ個室だった。ところが、街中に出て入った「便利店」(コンビニ)のトイレには仕切りがなかった。しゃがむタイプの便器が3つ並んでいた。そこで用を足す気にはなれず、ホテルに戻った。中国人は排便を見られても恥ずかしくない、そのような文化なのだろうと実感したものだ。確かに、排尿や排便は人間の生理現象であり、恥ずることではなく、隠すことでもないというのが中国では道理なのだろう。そう考えると、このニュースは納得がいく。

   NHKニュースWeb版(3月1日付)によると、中国では集団隔離の対象者や空港での入国者に対し、肛門によるPCR検査が実施されていて、加藤官房長官は「在中国日本大使館に一部の日本人から、心理的苦痛が大きいなどの意見が寄せられている」と述べた。その上で、「肛門によるPCR検査を日本人に対して免除するよう大使館から中国外務省や北京市関係当局に申し入れをした」という。その後、検査方法を変更するとの回答は中国からまだない。

   肛門による検査は、5㌢ほどの綿棒を肛門に挿入し、回転させて検体を採取する。肛門から採取された検体は鼻やのどから採取する検体よりも陽性を示す期間が長く、のどでは発見できないウイルスが便から検出されることになり感染者の見落としを防ぐことができるようだ。つまり、肛門での検査はより徹底したウイルス対策ということになる。ましてや、排便を見られても恥ずかしくない国柄なので、検査のために肛門を見られても、違和感はない。むしろ、日本人が心理的苦痛や羞恥心を訴えようが、優先させるべきはウイルス対策と中国当局は考えているに違いない。

   もう一つのニュースも中国人の感覚なのだろうか。きのう5日に開幕した中国の全国人民代表大会で、習近平指導部は「香港の選挙制度には明らかな欠陥がある」として、中央政府が主導して選挙制度を変更する方針を示した。香港政府トップの行政長官を選ぶ「選挙委員」の権限を大幅に強化して、議会にあたる立法会の議員の多くも、選挙委員が選ぶようにするとしている。市民が直接投票で選ぶ議席を極力減らすことで民主派を排除するねらいがあるとみられる(3月6日付・NHKニュースWeb版)。

   中国にとっては今の香港の民主的な選挙制度を「明らかな欠陥」として、余計な民主派議員を排除する。肛門のPRC検査と同様、中国スタンダードで言えば羞恥心も民主主義も必要ない、ということか。

⇒6日(土)午後・金沢の天気     あめ

☆ジェネリック医薬品は「他人事」なのか

☆ジェネリック医薬品は「他人事」なのか

   小さいころ、親から「薬クソ売」という少々下品な響きの言葉を聞いた。効き目のない薬を高く売ってボロ儲けしている業者を皮肉る意味で使っていた。その後、「薬九層倍」という四字熟語を知る。薬の売値は原価に比べて非常に高く、利益が多いことから、巨大な利益を得ることのたとえ(三省堂「現代新国語辞典」)。今まさに「薬クソ売」、「薬九層倍」の背景が解き明かされるニュースが相次いでいる。それも北陸で、だ。

   富山市に本社を置くジェネリック医薬品製造大手の「日医工」に対し、富山県があす3日、業務停止命令を出す方針を固めたことがわかった。記録の不備など、管理体制に問題があったと判断したもので、期間はおよそ1ヵ月となる見込み。日医工では、滑川市の工場で品質試験の際の記録の不備などが発覚し、高血圧薬など75製品を自主回収している。健康被害は確認されていないが、県は自主回収した製品数が多いことから、管理体制に問題があったと判断し、行政処分を出す方向で検討を進めている。処分は、「許可取り消し」「業務停止」「業務改善」のうちの「業務停止」で、期間は富山第一工場の製造部門が30日前後、子会社などから医薬品を仕入れ販売することなどを含む製造販売部門が20日前後となる見込み(3月2日付・北日本放送ニュースWeb版)。

   75製品にも及ぶ自主回収だ。ニュースから読めることは、品質試験で不適合となった製品を廃棄せずに、再試験を行って通していた。その再試験の記録は破棄していたということだろうか。品質管理の重大な問題であり、メーカーは自ら真相を発表すべきだ。

   そこで、日医工の公式ホームページをチェックするとプレスリリース(2月25日付)が掲載されていた=写真=。文面は「本日、一部の業界紙において、富山県が当社に対して業務停止命令を出す方向で調整に入ったとの報道がありましたが、当社が発表したものではございません。また、富山県より現在、業務停止命令は受けておりません。」とまるで他人事のようだ。3月1日付では「組織変更および人事異動について」と題して、 製剤技術本部を新設し、既存品が抱えている課題の早期解決は図るなどと説明している。

   ジェネリック医薬品をめぐってはさらに不信が募る。水虫などの皮膚病治療薬に睡眠導入剤成分が混入していた福井県あわら市の医薬品メーカーの「小林化工」に対し、県は2月9日、医薬品医療機器法に基づき、同社に6月5日まで116日間の業務停止処分と業務改善命令を出した。県は、小林化工の経営陣が法令違反を把握していながら改善策を講じなかったことなどを問題視。同社は問題の治療薬以外でも、虚偽記録の作成や品質試験結果の捏造などの違反を長年続けていたという(2月9日付・時事通信Web版)。多品種生産による製造機の使い回しで、このような成分の混入は得てして起こる。怖い話だ。

   上記の一連のジェネリック医薬品メーカーの不祥事を見て、社内のガバナンスの問題が深刻だと察する。その問題の背景は何か。先発メーカーがコストと時間をかけて開発した新薬(先発医薬品)の特許が切れた後、ジェネリック医薬品として上記のメーカーなどが製造している。そして、政府が医療費抑制の切り札としてジェネリック医薬品をまさに国策として推奨してきた。言葉は悪いが、製造も販売も他人事のようだ。

   使う側にも、ジェネリック医薬品メーカーは果たして先発メーカーと同様にきちんと製造しているのかと心にわだかまりを持つ患者は今も多い。今回の不祥事で、先発メーカーのものを希望する人たちが増えるだろう。

⇒2日(火)夜・金沢の天気    くもり

★「易地思之」という言葉

★「易地思之」という言葉

   きょうから3月、季節は移ろう。金沢では日中の最高気温が21度まで上がり、春というより5月の初夏を感じさせる暖かさだった。ふと気づくと、すでに樹木の葉が芽生えて、地べたでは雑草が生えている。「草木萌え動く」。冬の間に蓄えていた生命の息吹が一気に現れる季節でもある。さらに、世界も動き出すのか、隣国から強烈なメッセージが届いた。

   読売新聞Web版(3月1日付)によると、中国国防省は1日、沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で続いている中国当局による領海侵入について、「中国公船が自国の領海で法執行活動を行うのは正当であり、合法だ。引き続き常態化していく」とする方針をSNS上で発表した。一方、海上保安機関・海警局(海警)などの船が尖閣諸島に上陸する目的で島に接近した場合、日本側は相手を負傷させる可能性のある「危害射撃」を行える場合があるとの見解を日本政府が示したことについて、中国外務省報道官は1日の定例記者会見で「いかなる挑発行為にも断固対応する」と反発を示した。

   脅しの口実とタイミングが巧妙だ。中国は先月、海警局の船に武器の使用を認める「海警法」を施行したことから、日本では懸念が高まり、相手を負傷させる可能性のある「危害射撃」を行える場合があるとの見解を示していた。それを中国は「いかなる挑発行為にも断固対応する」と反発した。中国は明らかに尖閣支配に向けてギアを上げている。

   さらに注目していたのは韓国からのメッセージだった。韓国の中央日報Web版日本語(3月1日付)によると、文在寅大統領は、1919年3月1日に日本の統治下で起きた独立運動を記念する三一節記念式典で演説した。日本と韓国の関係については「韓国政府は常に被害者中心主義の立場で賢い解決策を模索する」と述べ、「わが政府はいつでも日本政府と向き合って対話をする準備ができている」とし「易地思之(相手の立場に立って考える)の姿勢で向き合えば、過去の問題も賢明に解決できると確信している」と強調した。

   さらに、「今年開催される東京オリンピックは韓日間、南北間、日朝間、そして米朝間の対話の機会になる可能性がある。韓国は東京五輪の成功に向けて協力する」と語った(同)。

   文氏のメッセージは強烈かと思ったが、ある意味で肩透かしだった。ただ、「易地思之」という言葉が気になった。自身はこの四字熟語を初めて見た。ネットで調べると韓国の政治家がよく使う言葉のようだ。この言葉は注意する必要がある。自分が相手の立場に立って考えるのか、相手に自分の立場を考えさせるのか、使い方によって二通りある。日本の政治家が真似してヘタに使うと、いわゆる元慰安婦問題や元徴用工問題で日本側が理解を示したと喧伝されるかもしれない。ハニートラップのような政治の言葉かもしれない。

⇒1日(月)夜・金沢の天気     はれ

☆島根の知事、「神等去出」のごとく

☆島根の知事、「神等去出」のごとく

   島根県の知事は日本一忙しい知事ではないだろうか。2月22日は島根県が条例で定める「竹島の日」だった。韓国による竹島の占拠は、国際法上、何の根拠もないとされる。島根県はこの日、松江市で式典を開き、丸山達也知事は「竹島は、わが国固有の領土だ。韓国と外交の場で、竹島問題が話し合われるよう強く要望する」と述べて、外交交渉による解決を政府に求めた(2月22日付・NHKニュースWeb版)。

   その丸山知事が一躍注目されたのは今月17日だった。この日、島根県庁で開かれた聖火リレーの実行委員会で中止を検討していると表明した。聖火リレーの実施について、県は大会組織委員会と協定を結んでおり、聖火ランナーやルートを決める県実行委の事務局を担当している。同県の聖火リレーは土日にあたる5月15、16日に実施予定。津和野町をスタートし、松江城(松江市)を目的地とする14市町村(総距離34.3㌔)で170人が聖火をつなぐ予定だ。警備費用など約9千万円を県の財源で予算化しており、県の判断で聖火リレーを事実上ストップすることもできる。

   中止理由として、東京都が感染拡大で手が回らなくなった保健所の調査を縮小したため、感染経路や濃厚接触者の追跡ができていないと不信感を表明している。全国の飲食店などが打撃を受けているにもかかわらず、緊急事態宣言が出た地域と、島根など感染者が少ない地域で、政府の支援に差がある現状にも不公平感を訴えた。

   その丸山知事はきのう25日、内閣府や経産省を訪問し、緊急事態宣言が発出された地域と島根では飲食店支援に不公平が生じていることについて改善策を求めた。 しかし、要望していた新型コロナ担当の西村経済再生担当大臣との面会は叶わず、要請文を受け取ったのは担当職員だった(2月25日付・山陰中央テレビニュースWeb版)。

   それにしても行動が素早い。聖火リレー中止の表明し、竹島の日を開催、そして、上京して政府への要望だ。3つの動きを10日でこなす。ここで思い起こすのは、2018年11月に訪れた出雲大社での神等去出(からさで)の神事だ。11月のことを旧暦の月名で神無月(かんなづき)と称するが、出雲では神在月(かみありづき)と称する。この月は、全国各地から八百万(やおよろず)の神が出雲に集うとされ、同月24日には神等去出の神事が執り行われる。神官が「お立ち、お立ち」と唱える。すると、この瞬間に神々は出雲を去り、それぞれの国に戻る。神々のまるでデジタルのような素早い動きなのだ。

   丸山知事も「お立ち、お立ち」と自らに言い聞かせながら、次々と行動を起こしているようにも思えるのだが。

(※写真は2018年11月24日に撮影した出雲大社の神等去出の神事)

⇒26日(金)朝・金沢の天気    くもり 

★テレビ嗜好と司法判断

★テレビ嗜好と司法判断

   この判決でテレビ離れがさらに進むのではないだろうか。 NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は24日、請求を認めた一審の東京地裁の判決を取り消し、請求を棄却した (2月24日付・共同通信Web版)。

   放送法では、NHKの放送を受信できるテレビの設置者に契約義務があると規定している。受信料制度に批判的な考えだった女性は2018年、フィルター付きテレビを3千円で購入した。1審の東京地裁は原告の訴えを認め「NHKを受信できる設備に当たらない」と判断して、契約を結ぶ義務はないとする判決を言い渡し、NHKが控訴していた。控訴審判決で裁判長は「加工により視聴できない状態が作り出されたとしても、機器を外したり機能させなくさせたりすることで受信できる場合は、受信契約を結ぶ義務を負う」と判断し、受信契約を結ぶ義務があるとする判決を言い渡した(同)。

   人には好き嫌いの嗜好というものがある。例えば食に限っても、漬物は食べない、ネギは嫌いだ、刺身は食べない、など様々だ。テレビも同じだ。あのチャネルは嫌いだ、ドラマは見たくない、あのキャスターは見たくもない、など。嫌いな人にとっては見たくもない、それが嗜好というものだ。NHKを受信できないようにするためわざわざフィルター付きテレビを購入するのは、相当なNHK嫌いだ。上記の高裁判決は、受信料の公平負担を重視する視点から、そのような機器をテレビに取り付けたのは受信料を払わない口実と判断したのだろう。人のテレビへの嗜好というものを理解していないのではないだろうか。

   今回の判決でNHK嫌いの視聴者の中には、「それだったらテレビを見ない」と反感を持った人もいるのではないだろうか。これを機にテレビ視聴そのものを止めるという人もいるだろう。また、NHKをスクランブル化し、契約者だけが視聴できるようにすればよいと主張する人たちの声も高まるだろう。それでなくても若者を中心にテレビ離れは進んでいる。これは金沢大学での調査だが、テレビをまったく見ないという大学生は17%(2019年・金沢大学での調査)もいる。3年前の16年では12%だった。その理由は、ネットで動画やニュースを見ることができる、と。この判決をきっかけに、さらに若者のテレビ離れが進むのではないだろうか。

   おそらく原告の女性は上告するだろう。最高裁の判断に注目したい。自身はNHK嫌いではない。このニュースの流れを読みたいと思っている。

⇒25日(木)朝・金沢の天気   はれ

☆リアルな富士を眺めてVR会議 「Woven City」の魅惑

☆リアルな富士を眺めてVR会議 「Woven City」の魅惑

   このニュースに世界の人たちが注目したに違いない。トヨタ自動車は23日、静岡県裾野市で計画する、ITでつなぐ次世代都市「Woven City」(ウーブン・シティ)の建設に着手したと発表した。今後、人を住まわせて自動運転をはじめとするAIや通信を活用した実証実験を行い、社会課題の解決に役立つ新たなサービスや製品の開発につなげる(2月23日付・共同通信Web版)。

   豊田社長は昨年2020年1月、デジタル技術見本市「CES 2020」(ラスベガス)でウーブン・シティ構想を発表していた。当時から凝った名称だと感じ入っていた。wovenは weaveの過去分詞で「織られた」という意味合いで、「Woven City」はIT技術と人間社会がタテ糸とヨコ糸のように織り込まれたデザイン都市と解釈している。トヨタ自動車は自動織機の製造にルーツがあり、ネーミングの発想もおそらく繊維から来ているのだろう。さっそくトヨタの公式ホームページをチェックした。

   地鎮祭での豊田氏のあいさつが興味深い。都市開発の場所はトヨタの東富士工場があったところ。「東富士工場のDNA。それは、たゆまぬカイゼンの精神であり、自分以外の誰かのために働く『YOU』の視点であり、多様性を受け入れる『ダイバシティ&インクルージョン』の精神です。これらが『人中心の街』、『実証実験の街』、『未完成の街』というウーブン・シティのブレない軸として受け継がれてまいります」(HP掲載のスピーチ原稿より)

   スピーチが意義深い。この開発の意義を、多くの仲間とともに、多様性を持つ人々が幸せに暮らせる未来を創造することに挑戦する、と意欲的に述べている。人種や言語、障害などを超えて幸せに暮らせる未来都市。では、そのような都市の設計なのか。

   街の広さは約70万平方㍍。住人は約360人でスタートし、2000人以上を想定する。地上に自動運転モビリティ専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティが共存する3本の道を網の目のように織り込み、地下にはモノの移動用の道を1本つくる。高齢者、子育て世代の家族、発明家、起業家の人々に住んでもらう。街にはロボット、AI技術を取り入れた様々な領域の新技術をリアルな場で実証していく。また、世界中の企業や研究者と一緒に取り組み、社会課題の解決に向けた発明がタイムリーに生み出せる環境を目指す(トヨタ公式ホームページ)。

   発表文だけではイメージは沸かないが、地下にモノの移動用の道を1本つくるということは、たとえばスーパーへ買い物に行かなくても、自宅からパソコンで商品を発注すれば、モノが自宅に届くというシステムなのだろうか。足の不自由なシニアや障がい者も自動運転でドアからドアへの移動が可能。どこにいてもAIによる手話や翻訳サービスがあり、多様な人々が対面でのコミュニケーションが取れる。リアルな富士山を眺めながら、オフィスでのリモートワークやVR会議ができる。

   壮大な社会実験の街でもあるウーブン・シティでの暮らしをイメージすると興味は尽きない。住んでみたいという誘惑にかられる。(※写真はトヨタ公式ホームページより)

⇒24日(水)朝・金沢の天気     はれ

☆春一番、ワクチン二番

☆春一番、ワクチン二番

   きょうは春本番かと思うほど暖かく、そして台風並みの風だった。北陸地方に春一番が吹いたと金沢地方気象台が発表した。とくにかく強烈な風だった。石川県内の最大瞬間風速は、能登で23.3㍍と2月の観測史上最大、金沢では21.2㍍だった。日中の最高気温は金沢で14.8度と4月上旬並みの暖かさ。自宅の庭や屋根の雪が見事に解けた。   

   そして待たれるのが新型コロナウイルスのワクチンだ。およそ4万人の医療従事者を対象に今月17日から接種が始まり、各地でニュースとなっている。政府は、接種が始まった富山県の富山労災病院で、副反応の疑いがある、じんましんの発生があったと、総理大臣官邸のきょうのツイッターで公表した=写真=。厚生労働省によると、19日午後5時現在でワクチンの接種を受けた人は5039人となっていて、国内での接種で副反応の疑いが公表されるのは初めて。厚生労働省は同じツイッターで、接種後15分以上は接種会場で様子を見るなどの安全対策の周知に努めていく、としている。医療従事者の次は65歳以上の高齢者なので、自身もぜひ接種に行こうと楽しみにしていたが、このニュースで少し気乗りがしなくなった。周囲の様子を見てからにしようか、と。

   このところ石川県内の感染者は二桁が続いている。きょうも19人の感染が確認された(石川県庁公式ホームページ「新型コロナウイルス感染症の県内の患者発生状況」)。感染者は10歳未満から90歳以上と幅広い年代に及んでいる。ニュースによると、このうち金沢市の30代から40代の男性3人は接待を伴う飲食店のクラスター関係の感染者。また、40代の女性は県内の福祉施設で介護を担当する職員、50代の男性は県内の医療機関に勤務する医師だ。これまで県内では合計1779人が感染、うち61人が亡くなっている。病床使用率は45.7%だ。県内の感染状況を総合的に判断すると、ステージ2の「感染拡大警報レベル」にあたるとしている(2月20日付・NHKニュースWeb版)。

   春一番の訪れたとともに、コロナ禍の勢いも治まってほしいと思うのだが、現実はなかなか厳しい。

⇒20日(土)夜・金沢の天気    くもり

★「海のベンチ」から火星探査へ

★「海のベンチ」から火星探査へ

   アメリカ人の宇宙への興味は尽きない。BBCニュースWeb版日本語(2月19日付)によると、NASAは18日午後3時55分(アメリカ東部時間、日本時間19日午前5時55分)、探査車「パーサヴィアランス」の火星着陸に成功した、と伝えた。火星の赤道付近にあるジェゼロと呼ばれる深いクレーターの中に降り立った。NASAが火星に探査車を着陸させたのは、2012年の「キュリオシティ」に次いでこれが2度目となる。

   重さ約1㌧のパーサヴィアランスは6つの車輪で移動。今後2年以上にわたって岩石部分を掘り進め、生命が存在していたことの証拠を探す。幅約45キロメートルのジェゼロ・クレーターは、数十億年前に巨大な湖があった場所とされる。水があれば、生命が存在した可能性はある(同)。地球外の生命体を探究するために莫大な経費を使い、ここまでやる。科学は見果てぬ夢でもある。

   このニュースで思い起こすのは、2010年11月にNASAが「宇宙生物学上の発見について」と題した記者予定を公表し、大騒ぎになったことだ。アメリカのテレビ・新聞のメディアは、「地球外生命体を発見か」などと報じた。12月3日(日本時間)のNASAの会見は世界のメディアだけでなく、ユーストリームなどネットでも中継された。ところが、会見は「ヒ素を食べる細菌の新発見」という内容だった。確かにこれまでになかった宇宙生物学上の発見だったものの、見えるカタチの生命体をイメージしていただけに肩透かしを食らった格好になった。

   とは言え、今回のNASAの火星の生命体への探究に信念のようなものを感じる。以下雑学である。アメリカの宇宙への関心度を高めたのは天文学者パーシバル・ローエル(1855-1916)ではないだろうか。ローエルは1916年に海王星の彼方に「惑星X」が存在すると予知し、他界する。その弟子クライド・トンボーが1930年にローエルの予知通りに新惑星の発見し、プルートー(冥王星)と名付けた(2006年の分類変更で「準惑星」に)。このことでローエルとトンボーは天文学史上で名前を残すことになる。

   ローエルはアメリカ人の宇宙への好奇心を煽ることにもなる。ローエルは火星人存在説も唱えていた。アリゾナ州に築いた天文台から火星を観察すると、表面に見える細線状のものは運河であり、火星には知的生命体が存在する、と。このローエルの説は、アメリカのSF小説に影響力を与えていく。1938年10月3日、CBSラジオ番組のハロウィンに合わせたスペシャル番組で、俳優であり監督のオーソン・ウエルズが、イギリスの著作家で「SF(Science Fiction)の父」とも呼ばれたハーバート・ジョージ・ウエルズの小説『宇宙戦争』をドラマ化した。普通の番組を放送している最中に臨時ニュースで、火星人が襲来し、アメリカの都市を攻撃している、と放送。「臨時ニュース」を聞いた人々はパニックに陥った。実話である。

   では、ローエルの火星人存在説の根拠となった、運河説はどこから得た発想なのだろうか。今から132年前の明治22年(1889)5月、ローエルは東京に滞在していた。そのときに、日本地図を広げて、能登半島のカタチと「NOTO」という地名の語感に惹(ひ)かれ、鉄道や人力車を乗り継いで当地にやってきた。七尾湾では魚の見張り台である「ボラ待ち櫓(やぐら)」によじ登り、「ここは、フランスの小説でも読んでおればいい場所」と、帰国後に随筆本『NOTO:An Unexplored Corner of Japan』(1891)で記した。ローエルが述べた「フランスの小説」とは、当時流行したエミ-ル・ガボリオの「ルコック探偵」など探偵小説のことを指すのだろうか。

   その後、ローエルはアリゾナ州に天文台を創設し、火星の研究に没頭し、その成果を著書『Mars(火星)』(1895)などにまとめた。ローエル研究者のウィリアム・シーハンは論文「To Mars by way of NOTO」(2005)で能登の海から火星の運河を着想したのではないかと述べていると、天文学マニアから聞いたことがある。残念ながら、自身はその論文を読んではいない。

   東京に滞在し日本地図を見ていたローエルが能登に興味を持ってやって来た。入り組んだ湾岸のベンチ(ボラ待ち櫓)で一日過ごし、フランスの小説を読んでいた。アリゾナの天文台から火星を観察し、能登の海から運河説を着想する。それがSFという発想を国民に膨らませ、その後アメリカとソ連が宇宙開発競争へと突き進んでいく。興味が尽きぬアメリカは火星探査を続けて生命体の発見に懸命だ。ストーリ-としては面白い。

(※写真・上は能登半島・穴水町にあるパーシバル・ローエルの来訪記念碑、下はローエルが海のベンチとして一日過ごしたボラ待ち櫓。写真は当時のものではない)

⇒19日(金)夜・金沢の天気    はれ

☆「五輪の決断」まであと22日

☆「五輪の決断」まであと22日

   あと5ヵ月だ。森喜朗氏に代わって、橋本聖子氏が東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長に決まった。日本国民、そして世界が注目するのは、橋本氏がこのコロナ禍でオリンピックを開催するのか否か、開催するとなれば観客を入れるのか否かの方針をいつどう決めるのだろう。難題が山積するにもかかわらずよく決断したものだ。もう一人、橋本氏の五輪担当大臣の後任となった丸川珠代氏とのコンビネーションが実にいい。この2人が日本のオリンピック開催の顔として、開催に向けて沈んだ雰囲気を反転させるのではないか。

   一方で、島根県の丸山達也知事が東京五輪聖火リレーの中止を検討すると表明して議論を呼んでいる。詳細が知りたくて、地元紙の山陰中央新報社(2月16日付)をチェックすると。聖火リレーの実施について、島根県は大会組織委員会と協定を結んでおり、聖火ランナーやルートを決める県実行委の事務局を担当している。同県の聖火リレーは土日にあたる5月15、16日に実施予定。津和野町をスタートし、松江城(松江市)を目的地とする14市町村(総距離34.3㌔)で170人が聖火をつなぐ予定だ。

   警備費用など約9千万円を県の財源で予算化しており、県の判断で聖火リレーを事実上ストップもできる。知事はすでに今月10日の定例会見で、東京都が感染拡大で手が回らなくなった保健所の調査を縮小したため、感染経路や濃厚接触者の追跡ができていないと不信感を表明している。全国の飲食店などが打撃を受けているにもかかわらず、緊急事態宣言が出た地域と、島根など感染者が少ない地域で、政府の支援に差がある現状にも不公平感を訴えていた(同)。

   島根県知事の不満はおそらく全国の知事が心の中で思っていることではないだろうか。正直な話、県の判断でストップできるのであれば、一億円近くかけてまで無理をしてやる必要はない、中止宣言すればよい。ただ、実施する県との調整を島根県はできるだろうか。「あとは知らない、調整は大会組織委員会が勝手にやればよい」では無責任とのそしりを免れないだろう。

   聖火リレーに関して、むしろ気をもんでいるのは福島県ではないだろうか。今月13日夜に震度6強の激震が走ったが、知事発言として聖火リレー中止の話は聞こえてこない。実は、昨年の延期決定で翻弄されたのは福島だった。IOCと組織委員会が延期決定を発表したのは3月24日(日本時間)、福島から聖火リレーが出発する2日前だった。このため契約上、設営や警備にあたる業者に契約通りの経費を支払う必要が出て、県が支出した費用は約2億5000万円に上った(2020年7月8日付・福島民友新聞Web版より)。

   ことしの聖火リレーは3月25日に福島を出発、栃木、群馬とバトンタッチされていく予定だ。警備会社などのキャンセル料の支払いを考えれば、中止や再延期となると、その決定はその2週間前、つまり3月10日には決断が必要だろう。あと22日だ。コロナ禍での各国のアスリートの選抜やワクチン接種の普及、国際世論を見極めながら決断となる。IOCバッハ会長、橋本大会組織委員会会長、丸川五輪担当大臣の手腕が問われる。

⇒18日(木)夜・金沢の天気     ゆき

★悲劇の始まりはどこにあったのか

★悲劇の始まりはどこにあったのか

   このニュースに接して言葉が出ない。残念としか言いようがない。事件は全国ニュースにもなった。石川県中能登町の前副町長の広瀬康雄氏(65)が93歳の母親とともに15日未明に死亡した状態で見つかった。県警の司法解剖などから、広瀬氏が母親を殺害後、自殺した無理心中とみられる(2月16日付・北國新聞)。広瀬氏は3月16日告示の町長選に出馬予定で、支援者は本人が「選挙事務所を開いてから体重が落ちた」と述べていたと言い、選挙の準備で相当なプレッシャーを感じていたようだ(同)。

   自身が広瀬氏と出会ったのは、2012年4月だった。自治体の特色ある取り組みを学生たちに講義してもうら、大学コンソーシアム石川の授業「石川県の市町」の講師依頼をした。当時は企画課長で快く引き受けてくれた。7月の講義で、「織姫の里なかのと」をタイトルに繊維産業を活かした地域づくりについて話していただいた。町の基幹産業である繊維については、麻織物から合成繊維へ、そして新素材や炭素繊維などにチャレンジしている企業の現状を紹介し、産業の観光化について熱く語ったのを覚えている。その後、住民福祉課長、総務課長を歴任して、2014年から副町長だった。講義をお願いしたことが縁となり、お会いすると言葉を交わし親しくさせていただいた。

   広瀬氏に転機が訪れたのは昨年12月だった。現職の町長から後継候補に指名され、本人も町長選に立候補を表明。1月15日に副町長を辞して、同30日に後援会の事務所開きをして選挙の準備を進めていた。先日、後援会事務所の前を通りかかったので、事務所をのぞいたが、本人はあいさつ回りに出かけていて不在だった。事務所のスタッフから、毎日100世帯以上を訪問していると聞き、選挙への意欲を感じた。

   事件についての記事を読むと、遺書などは見つかっていない。ただ、家族や支援者の話として、声がけしても返事がなかったり、本人の相当な疲労感を周囲も感じ取っていたようだ。亡くなったとされる14日もあいさつ回りをしていた。自身がこれまで接してきた印象は、理論的で仕事熱心、そして冷静なタイプだった。その人物がなぜ母親を道連れに死を選んだのか。悲劇としか言いようがない。

⇒16日(火)夜・金沢の天気    ゆき