⇒ニュース走査

★司法の断罪を超える「遺骨の存在」

★司法の断罪を超える「遺骨の存在」

   地下鉄サリン事件から25年が経つものの、「オウム真理教」は過去の話ではない。今でも元教祖、麻原彰晃に帰依している宗教団体の一つが金沢市内にあり、近くの人たちが監視行動を続けている=写真=。何度か近くを通ったことがあるが、麻原の教えがそのまま脈々と伝わっているのかと思うと背筋が寒くなる。あす6日は松本元死刑囚の刑が2018年7月6日に執行されて丸3年となる。さらに不気味さを予感させるニュースがきょう報じられた。

   死刑が執行されたオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の遺骨を次女に引き渡すとした決定が確定した。松本元死刑囚の遺骨の引き渡しを巡っては家族の間で争いになり、昨年9月、東京家裁が遺骨と遺髪を次女に引き渡すと決定し、東京高裁もこれを支持した。これに対し、四女側は「松本元死刑囚が執行直前に遺骨などの引き取り先を四女に指名した」と主張していた。四女らは特別抗告していたが、最高裁は今月2日付で退ける決定をした。これにより、松本元死刑囚の遺骨は次女に引き渡すとした決定が確定した(7月5日付・テレビ朝日ニュースWeb版)。

   遺骨をめぐる家族の争いはこれまで何度かニュースになっていた。2018年7月12日付・毎日新聞Web版によると、四女の代理人弁護士は7月11日に司法記者クラブで会見し、元死刑囚の遺骨を受け入れ、太平洋の不特定地点で船から散骨したいとの意向を明らかにしていた。これに対し、2021年3月10日付・朝日新聞Web版によると、東京家裁は、次女は面会を繰り返していて次女側との関係が「最も親和的」と判断し、東京高裁も支持した。今回、司法判断が確定したことについて、次女の代理人弁護士は「父を家族として静かに悼みたいということに尽きる」とした上で「次女はオウム真理教や後継団体とは一切関係がなく、父の遺骨が宗教的、政治的に利用されることを決して望んでいません。この審判でも主張してきました」と述べた(7月5日付・朝日新聞Web版)。

   おそらくこのニュースを喜んでいるのは信者たちだろう。まさに「仏舎利」が出来たようなものだ。信者たちは次女の自宅にある方向に向かって、イニシエーション(修行)を繰り返し、「聖地」化するのではないか。では、どうすれば「聖地」化を防ぐことができるか。裁判での四女の主張はまさにこのことだと想像する。以下の事例を念頭に置いているのではないだろうか。

   ニューヨークの同時多発テロ(2001年9月11日)の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンに対する斬首作戦が2011年5月2日、アメリカ軍特殊部隊によってパキスタンで実行された。アラビア海で待機していた空母カール・ビンソンに遺体は移され、海に水葬された。また、第二次大戦後、極東軍事裁判(東京裁判)で死刑判決を受けた東條英機ら7人のA級戦犯の遺骨はアメリカ軍によって、上空から太平洋に散骨された。

   「最も親和的」とする司法判断はまるで性善説のようだ。「死刑をもって断罪」は法の次元であって、遺骨があれば宗教はそれを超える。不可解な信仰とテロが復活しないことを祈る。

⇒5日(月)夜・金沢の天気      あめ時々くもり       

★コロナ禍のオリンピック 報道との二律背反が鮮明に

★コロナ禍のオリンピック 報道との二律背反が鮮明に

   スポーツにはルールや規則というものがあるが、報道には基本的にはそれがない。しかし、ルールや規則に縛られるとなったら報道陣は「報道の自由を奪うのか」と大騒ぎするものだ。NHKニュースWeb版(7月2日付)によると、東京オリンピックにおける新型コロナウイルスの感染防止対策として来日する海外メディアの行動制限について、アメリカのニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど12社が6月28日付で大会組織委員会やIOCに対し、連名で抗議の書簡を送った。東京オリンピックでは、海外メディアを含めた大会関係者は、感染対策を定めた「プレーブック」に基づく行動が求められている。  

   この抗議書簡の原文を見たいと思い、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの公式ホームページをチェックしたが、見当たらない。そこで、日本のメディア各社のニュースをまとめてみると以下になる。

   抗議の論点は主に2つ。日本と海外のメディアの取材陣にはソーシャルディスタンス(2㍍以上)を守り、ワクチン接種をしてマスクを着用することが前提となっている。しかし、日本人記者には自由な取材が認められているのに、海外メディアの記者には観客へのインタビューや都内での取材が制約される。こうした取材制限は不公平で、外国人記者を標的にした行き過ぎた規制だ。また、スマートフォンの位置情報(GPS)をオンにして知らせることになっているが、このGPS情報がどのように使われるのか不安があり、報道の自由が阻害されないよう、メディア側にもアプリの使われ方を検証する機会を与えよと求めている。

   確かに、大会組織委員会の公式ホームページに掲載されているプレイブック(第3版)「プレス」=写真=では規制が厳しい。7月1日以降の順守項目では、「入国後3日間は自室で隔離しなければならない。毎日検査して陰性であることと、GPSによる厳格な行動管理に従うことを条件に、入国日から取材活動を行ってもよい」、「競技以外に、観客や市中を取材することは認めない。散歩したり、観光地、ショップ、レストラン、バー、ジムなどに行ったりすることも禁止」などと。おそらくアメリカのメディアの記者とすると、まるで言論統制が厳しい共産主義国家のイメージしたのかもしれない。

   これに対し組織委員会は「現下の情勢に鑑みれば、非常に厳しい措置が必要で、すべての参加者と日本居住者のために重要なことと考えている。取材の自由は尊重し、可能なかぎり円滑に取材が行えるようにする」とコメントし、また、GPSについては「監視するものではなく、本人のスマートフォンに記録してもらい、必要な際に同意を得て提示を求めるものだ」と説明している(7月2日付・NHKニュースWeb版)。

   取材の基本は取材対象者へのアクセスにある。さらに、報道の自由は誰にも束縛されない立場を貫くことだ。この意味で、取材・報道の自由と防疫対策の厳格化は「二律背反」なのだ。さらに、アスリートの中から1人でも感染者が出れば、今度は日本のメディアが大騒ぎする。そして、アメリカだけでなく、取材に訪れ、窮屈さを感じる世界のメディア各社は「取材規制はオリンピック憲章に反する」とブーイングを発信するだろう。中には「これはまるで日独同盟だ」と戦前の歴史を持ち出して揶揄するメディアも出てくるかもしれない。この二律背反を共存させる知恵は大会組織委員会やIOCにあるのか。

⇒3日(土)午後・金沢の天気     くもり

★「反日」でも「親日」でもない、「愛国」というステージ

★「反日」でも「親日」でもない、「愛国」というステージ

           来年3月の韓国の大統領選に関心があり、NHKニュースWeb版(6月29日付)を読むと、文在寅政権と対立して辞任した前検事総長の尹錫悦(ユン・ソギョル)氏が政界入りする意向を明らかにし、事実上の立候補表明をしたと報じていた。さらに詳細を知りたく韓国のメディアWeb版を検索する。

   中央日報Web版日本語(6月29日付)によると、尹錫悦国前検察総長が20代大統領選挙への出馬を公式宣言した。 この日(29日)、尹氏はソウル瑞草区良才洞の「尹奉吉義士記念館」で開かれた記者会見で「産業化と民主化で今の大韓民国を作った偉大な国民、その国民の常識から出発する」と話した。 尹氏は「その常識を武器に、崩壊した自由民主主義と法治、時代と世代を貫く公正の価値を必ず再建する」とし「正義が何か悩む前に、誰でも正しいことが日常で感じられるようにする。これが私の胸に刻んだ使命だ」と話した。

   尹氏が出馬表明の舞台に選んだのが尹奉吉記念館だったことに注目した。朝鮮独立運動家、尹奉吉(ユン・ボンギル)の碑が金沢市の野田山墓地にある。尹奉吉は日本が朝鮮半島を統治していた1932年4月29日、中国・上海の日本人街で行われていた天長節(天皇誕生日)の行事に、手榴弾を投げ込んで、日本軍の首脳らを死傷させ、軍法会議で死刑判決となった。その後、陸軍第9師団の駐屯地(金沢市)に身柄が移管され、その年の12月19日に銃殺刑に処せられた(Wikipedia「尹奉吉」)。戦後、韓国では「尹奉吉義士」と称され、野田山には在日韓国民団県本部が建立した記念碑がある=写真=。

   韓国人にとっては「義士」なのだが、日本人にとっては「テロリスト」でもある。尹錫悦氏が同記念館で記者会見したことの想いはどこにあるのか。同じ「苗字」という単純な理由ではないだろう。産経新聞ニュースWeb版(6月29日付)によると、尹氏は同記念館で記者会見したことについて、「尹奉吉の愛国精神をたたえる場所で、私たちの先祖が命をささげた韓国建国の土台である憲法精神を受け継ぐ意思を国民に示すためだ」と説明した。一方で、日本との関係では、文政権の「反日」外交を批判しつつ、「親日」とも一線を画す立場を示唆した(同)。

   尹氏は韓国の世論調査でも大統領候補として支持率がもっとも高いとされる。「反日」でも「親日」でもなく、「愛国」を前面に掲げ政権交代に向けて現政権に「手榴弾」を投げ込むのだろうか。

⇒1日(木)夜、金沢の天気    くもり

☆香港を覆う「ブラック・レインストーム」

☆香港を覆う「ブラック・レインストーム」

          中国政府への批判を続けてきた香港の新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」が今月24日付を最後に発行停止に追い込まれ、紙面の主筆や中国問題を担当する論説委員も逮捕されたと報じられている(6月27日付・メディア各社)。香港国家安全維持法(国安法)違反の容疑だ。香港で反政府的な動きを取り締まる国安法が2020年6月30日に施行されて1年となる。香港政府とバックの中国政府の狙いは何か。

   国安法では、裁判は陪審員なしで秘密裏に行われ、裁判は中国政府の当局に引き継がれる。中国政府の治安要員は、免責されたまま香港で合法的に活動することができる。中国政府には、この法律は民主化運動で揺らいだ領土の安定を取り戻し、本土との整合性を高めるとの狙いがあるようだ。

   最初に適用されたのは昨年7月。香港で国安法に抗議する民衆デモで370人が逮捕され、うち10人が「香港独立」の旗を所持していたとして国安法違反の適用となった(2020年7月2日付・共同通信Web版)。その後、国安法をタテに政治活動や言論への締めつけが強まる。この法律が導入された後、多くの民主化運動グループが安全性を恐れて解散。自由で寛容な国際都市と言われてきた香港の姿が一変した。

   蘋果日報が狙い撃ちされたのは昨年8月だった。創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が国安法と詐欺の容疑で逮捕された後、保釈された。12月に詐欺罪での初公判が開かれ、保釈申請は却下、即日収監された(同12月3日付・読売新聞WEB版)。では、詐欺罪はどのような内容だったのか。蘋果日報を発行する「壱伝媒」の本社がある不動産の貸借契約に反し、黎氏が別会社に一部を提供して不正に利益を得たとして詐欺罪に問われた(同)。つまり、「また貸し」が詐欺として罪に問われたというのだ。日本では民事のような案件だが、香港では刑事事件として問い、収監におよぶところに政治的なむき出しが見て取れる。

   蘋果日報への狙い撃ちは「見せしめ」の狙いもあるだろう。報道機関への弾圧に他の新聞・テレビも当初は強い怒りを感じただろう。しかし、そのメディアの義憤は次第に無力感へと変質しているに違いない。また、香港市民や企業も取材相手として関わることを恐れ、敬遠するようになっていたのではないだろうか。

   きょうのイギリスBBCWeb版(6月28日付)は「Black rainstorm’ warning suspends Hong Kong trading」の見出しで、香港では暴風雨警報が発令され、雨量は70㍉以上の「黒い暴風雨」が予想されると報じている=写真=。このため、香港の証券市場とデリバティブ市場の取引が中止された。また、安全上の懸念から、学校の授業やワクチン接種も中断されている。痛ましいばかりの「ブラック・レインストーム」が香港を覆う。

⇒28日(月)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

☆皇室は国内最後の養蚕家になるのか

☆皇室は国内最後の養蚕家になるのか

   前回のブログの続き。「人呼んで上滑り長官」ではないのか。報道によると、宮内庁の西村長官は、24日の定例の記者会見で、「オリンピックをめぐる情勢につきまして、天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を、大変ご心配されておられます」と述べた。そのうえで、「国民の間で不安の声があるなかで、ご自身が名誉総裁をおつとめになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないかご懸念されている、ご心配であると拝察をいたします」と話した(6月24日付・NHKニュースWeb版)。

   これについて菅総理は、官邸で記者団に対し「長官ご本人の見解を述べたと理解をしている」と話した(6月25日付・同)。西村長官が陛下の気持ちを案じて述べたコメントなのか、あるいは長官本人の見解なのか、正直どちらでもよい。陛下がオリンピック・パラリンピックを案じられる気持ちは、国民も理解できる。それもさることながら、長官がもう一つコメントすべきは、皇室の威厳にかかわる問題として浮上している、眞子さまの婚約内定問題についてだろう。長官は陛下の今のお気持ちをなぜ述べなかったのか。

   オリ・パラより難題で、宮内庁長官といえどもコメントできないのは理解できる。皇室がお二人の結婚に反対していると発言すれば、国際世論が沸騰する。相思相愛のお二人の結婚を許さない日本の皇室は前近代的だ、旧態依然とした日本の姿をさらす出来事だ、と。問題は婚約内定中の小室圭氏側にあったとしても、この批判は日本にとって不名誉なことになる。逆に、結婚を認めれば国民の皇室への求心力がガタ落ちすることは想像に難くない。

   冒頭の「人呼んで上滑り長官」は、4月8日に小室氏が母親の金銭トラブルに関して説明した28㌻文書について、西村氏が同日の記者会見で「非常に丁寧に説明されている印象だ」と述べていたが、その4日後に小室氏側が解決金を渡す意向があると方針転換したことで、長官発言は軽々しいとSNSなどで批判されたことを指す。

   話は変わるが、宮内庁の公式ホームページをチェックしていて、「給桑(きゅうそう)」という言葉が目に留まった。蚕(かいこ)に桑(くわ)を与えること。大きく育った蚕に、枝付きの桑を与えることを「条桑育(じょうそういく)」と説明している。5月25日に皇后が皇居内の紅葉山御養蚕所で給桑をほどこされる様子を掲載している=写真=。この画像を見て、皇室は相当長い歴史と技術を有する養蚕家でもあるのだと気付かされた。

   日本文化のシンボルの一つは和装、その素材は絹織物だ。蚕が産み出す繭(まゆ)から生糸をつくり、生糸を繊維に加工して絹織物をつくる。ところが、農水省の公式ホームページに掲載されている「新蚕業プロジェクト」によると、平成元年度(1989)に養蚕農家は全国で5万7230戸だったが、同30年度には293戸と激減している。さらに、養蚕農家の主たる従事者は現在も70歳以上が6割を占める。絶滅が危惧される業種なのだ。世界では中国が圧倒的なシェアを占め、インド、ウズベキスタンと続く(JETRO公式ホームページ「ビジネス短信」)。ひょっとして、10年後、20年後には皇室が国内最後の養蚕家になるのか。

⇒26日(土)夜・金沢の天気      くもり時々あめ

☆バイデン大統領 報道されないある一面

☆バイデン大統領 報道されないある一面

   アメリカ大統領のバイデン氏は78歳。日本でいう後期高齢者ながら、はっきりとした物言いで、先のG7サミット(イギリス・コーンウォール、6月11-13日)でも存在感があった。バイデン氏がイニシアティブを発揮した共同声明では、中国に対して新彊ウイグル自治区での人権尊重、香港の高度の自治を求めたほか、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。と、報道はされているものの、別の側面もあったようだ。

   アメリカのオンライン・メディア、「ワシントン・フリー・ビーコン」は「What About His Gaffes? Joe Biden Bumbles His Way Through G7 Summit」(6月14日)との見出しでサミットにおけるバイデン氏の様子を報じている。中でも、「It’s also very embarrassing for America.」(アメリカにとっても非常に恥ずかしいこと)として、バイデン氏の「ボケぶり」を伝えている。

   写真は、バイデン氏が会議場の屋外の座席エリアに迷い込んで混乱しているところ。バイデン氏の妻が彼を連れ出したエピソードを紹介している。また、7ヵ国の首脳とゲスト参加の韓国、オーストラリア、南アフリカの首脳が並んで写真撮影する場で、ホストであるイギリスのジョンソン首相が一人ひとりを紹介した。ジョンソン氏は、南フリカのラマポサ大統領をすでに紹介していたにもかかわらず、バイデン氏はジョンソン氏の話の途中で「南アのラマポサ大統領はどこに」と口を挟んだ。ジョンソン氏が「すでに紹介しましたけど」と告げると、バイデン氏は「そうか。それは失礼した」と。

   この記事を読んで連想したのが、日本の「エーザイ」とアメリカの製薬会社「バイオジェン」が開発したアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」について、アメリカのFDA(食品医薬品局)は原因と考えられる脳内の異常なタンパク質「アミロイドβ」を減少させる効果を示したとして治療薬として承認したとのニュースだった。「アデュカヌマブ」は、アミロイドβを取り除く効果が認められ、アルツハイマー病の進行そのものを抑える効果が期待される初めての薬となる。

   この夢の薬、ぜひ点滴投与を受けたいとのニーズは世界で高まっているだろう。ひょっとして、バイデン氏も待ち望んでいる一人かもしれない。

⇒22日(火)夜・金沢の天気     くもり

☆台湾めぐる「海峡」と「WHO」が国際問題に浮上

☆台湾めぐる「海峡」と「WHO」が国際問題に浮上

   菅総理がホワイトハウスを訪れ、バイデン大統領と初めて対面での会談を行った日米首脳会談(ことし4月16日)。「台湾海峡の平和と安定の重要性」が初めて盛り込まれた共同声明「“U.S. – JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA”(新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ)」はある意味で新鮮だった。あれから2ヵ月、いまでは国際政治、安全保障を語る上でのキーワードとして浮上している。

   そして、台湾をめぐるもう一つのキーワードがWHOだ。WHO公式ホームページをチェックすると、第74回年次総会(5月24日-6月1日、オンライン)=写真・上=の模様が詳しくホームページ掲載されている。今回の総会で注目を集めたのは、台湾のオブザーバー参加についてだった。結局、中国などの反対で認められなかったもの、以前から中国寄りと批判が向けられているWHOへの風当たりがさらに強くなった。

   台湾はWHOに非加盟であるものの、2009年から2016年までは年次総会にオブザーバーとして参加していた。2017年以降は、中国と台湾は一つの国に属するという「一つの中国」を認めない蔡英文氏が台湾総統に就いたことで、「一つの中国」を原則を掲げる中国が反対し、オブザーバー参加が認められなくなった。

   ところが、新疆ウイグル自治区での人権問題や香港の民主主義運動への抑圧などで中国への懸念が高まる中、台湾問題がクローズアップされるようになった。先のG7外相会合(5月3-5日・ロンドン)の共同声明では、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調すると同時に、中国が反対する台湾のWHO会議への参加も支持した(5月6日付・共同通信Web版)。G7の共同声明で台湾問題をめぐる2つのテーマで盛り込まれるのは異例だった。
 
   日本でもこれまでになかった動きが起きている。年次総会に台湾の出席が認められなかったことをめぐり、今月11日の参議院本会議では、次の総会から参加を新型コロナウイルス禍からのより良い回復をテーマとしたセッション認めるよう各国に求める決議を全会一致で可決した(6月11日付・NHKニュースWeb版)。決議文は超党派の議員がまとめたもので、「検疫体制の強化などに先駆的に取り組んできた台湾が会議に参加できないことが、国際防疫上、世界的な損失であることは、各国の共通認識になっている」との内容で、政府にも今後、台湾が会議に参加する機会が保障されるよう各国に働きかけることを求めている(同)。

   そして、現在、イギリス・コーンウォールで開催されているG7サミット(6月11-13日)=写真・下、外務省公式ホームページより=の共同声明でどのような表現で2つの台湾問題がメッセ-ジとして盛り込まれるのか注目している。

   話はそれるが、WHO公式ホームページをふと見ると、北朝鮮が声明文を出している。新型コロナウイルスのワクチンの供給をめぐって、強烈な内容だ。「The development of COVID-19 vaccines and medicines might be the achievement for the common mankind whereas an unfair reality is to be seen that some countries are procuring and storing the vaccines more than its needs by inspiring the vaccine nationalism plainly when other countries can’t even procure it with their affordability. 」

 
   意訳すれば、一部国家が必要以上にワクチンを確保し、ワクチンのナショナリズムをあからさまに煽って、世界に不公平な事態を招いている、と。名指しこそしていないが、アメリカを意識しているのだろう。WHOの「パンデミック宣言」(2020年3月11日)下で、北朝鮮は弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射している(同3月25日)。弾道ミサイルを1発打ち上げると、そのコストはいくらなのだろうか。ミサイルの打ち上げより、ワクチンの確保に自助努力する方が賢明だと誰しもが思うのだが。

⇒13日(日)午後・金沢の天気   くもり時々はれ

★見かけは「翆玉白菜」、中身は「毒菜」

★見かけは「翆玉白菜」、中身は「毒菜」

   台湾の国立故宮博物院(台北市士林区)を訪れたことがある。2011年11月だった。第二次世界大戦後、国共内戦が激化し、中華民国政府が台湾へと撤退する際に北京の故宮博物院から収蔵品を精選して運び出した。その数は3000箱、61万点にも及び、所蔵品数で世界四大博物館の一つに数えられる。ガイド役を引き受けてくれた国立台北護理健康大学の教員スタッフが真っ先に案内してくれたのが、清朝時代の「翆玉白菜」=写真・国立故宮博物院のホームページから=。長さ19㌢、幅10㌢ほどの造形ながら、本物の白菜より白菜らしい。清く白い部分と緑の葉。その葉の上にキリギリスとイナゴがとまっている。
  

   ヒスイの原石を彫刻して作ったというから、おそらく工芸職人はまずこの色合いからイメージを膨らませ、白菜を彫ったのではないか。これが逆で、白菜を彫れと言われて原石を探したのであれば大変な作業だったに違いない。日本人にとっても身近な野菜だけに、その色合いが和ませてくれた。以来、故宮博物院と聞いて、思い出すのは「翆玉白菜」だ。

   台湾から帰国して1ヵ月余りたって、金沢大学の授業のTA(テーチィング・アシスタント)をしてくれた中国人留学生の院生2人を誘って、金沢の居酒屋で忘年会を開いた。席上で、「翆玉白菜」の話をすると、「ワタシも台湾で見たことがある」と話が盛り上がった。紹興酒が進むと、一人が「でも残念なことに今の中国は『毒菜』が多いです」と語り出し、本国の食の事情を嘆いた。このとき初めて聞いた言葉だった。「毒菜」は姿やカタチはよいが、使用が禁止されている毒性の強い農薬(有機リン系殺虫剤など)を使って栽培された野菜のことを言うそうだ。

   10年も前の話なので、いくらなんでも中国では毒菜はもう栽培されてないだろう思っていたがそうではないらしい。週刊文春(6月17日号)に記載されている「あなたが食べている中国『汚染野菜』」の記事を読むと、日本は消費される野菜の2割を輸入に頼っているが、その輸入量(2019年)1800万㌧のうち実に998万㌧、53%が中国からで圧倒的なシェアだ。輸入の場合は食品衛生法に基づいて検疫検査が行われるが、過去3年間で中国産は232件の摘発を受けている。

   摘発が多い野菜は玉ねぎ。違反理由は「チアメトキサム」という殺虫剤だ。この殺虫剤を玉ねぎの皮に散布すると変色しない。つまり、新鮮な野菜と見せかけ、出荷量を増やすためにあえて散布している。チアメトキサムは玉ねぎだけでなく、ショウガやニンニクの茎でも見つかっている。また、摘発件数が多いのがピーナッツ類で3年間で50件。「アフラトキシン」というカビ毒の付着。このカビは発がん物質でもある。上記の記事を読んで大量の毒菜が日本に入ってきていると考えると他人事ではない。

   2008年に中国から輸入した冷凍ギョーザを食べて中毒症状が起きた、有名な「毒ギョウーザ事件」だ。それ以来、中国製の加工品はイメージがよくない。しかし、加工前の野菜そのものが「毒菜」「汚染野菜」となると、国内で加工されれば防ぎようがない。安心、安全がモノの価値として生産者の間で定着していないのであれば、記事にもあるように、水際で検疫体制を強化するしかない。

⇒12日(土)午前・金沢の天気     はれ

★「コロナ」にも「アルツ」にも「打ち」勝つ

★「コロナ」にも「アルツ」にも「打ち」勝つ

   65歳以上のシニア世代のワクチン接種が進んでいる。1回以上の接種が延べで900万人(6月6日現在・総理官邸公式ホームページ)となった。うち、2回の接種を終えた人は90万人となる。対象者は3600万人なので数字的にはまだ遠いが、「7月末を念頭に希望するすべての高齢者に2回の接種」の政府目標が見えてきたのではないだろうか。

   この進捗状況の背景には、それぞれの自治体のユニークな取り組みがある。なるほどと思ったのは「調布方式」や「三島モデル」という、接種を受ける人は座ったまま、医師や看護師が会場内を移動して接種する方式だ。毎日新聞Web版(6月2日付)によると、静岡県三島市は今月2日からこの方式を始めた。会場は4つの小学校の体育館で、接種を受ける人は、コの字形に囲われた段ボールの仕切りの中で1人ずつ待機。座ったまま、医師からの問診と接種を順番に受け、経過観察の15分が過ぎると退席する。接種を終えた人の肩に緑色テープを貼り、二重接種を防止する工夫もある。経過観察も含めた会場での滞在時間は1人当たり30分だ。三島市は今後、自力で移動ができない要介護者や要支援者120人を対象にドライブスルー接種も行う。

   医師が移動することで、接種待ちの滞留による「3密」なども防ぐことができ、お年寄りの移動時間を少なくすることで時間短縮ができる。この方式は、佐賀県唐津市や福岡県宇美町など全国に広がっている。まさに逆転の発想ではないだろうか。(※イラストは厚労省公式ホームページより)

   もう一つ、シニアにとって朗報がある。NHKニュースWeb版(6月8日付)によると、日本の「エーザイ」とアメリカの製薬会社「バイオジェン」が開発したアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」について、アメリカのFDA(食品医薬品局)は原因と考えられる脳内の異常なタンパク質「アミロイドβ」を減少させる効果を示したとして治療薬として承認したと発表した。

   これまでのアルツハイマー病の治療薬は、残った神経細胞を活性化させるなどして症状の悪化を数年程度、遅らせるもので、病気によって脳の神経細胞が壊れていくこと自体を止めることはできなかった。こうした中で、「アデュカヌマブ」は、アミロイドβを取り除く効果が認められ、アルツハイマー病の進行そのものを抑える効果が期待される初めての薬となる(同)。

   ただ、今回の承認は深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という仕組みで行われたため、FDAは追加の臨床試験で検証する必要があるとしていて、この結果、効果が認められない場合には承認を取り消すこともあるとしている。「アデュカヌマブ」については日本でも昨年12月に厚生労働省に承認の申請が出されている。

   シニア世代は「認知症」や「アルツハイマー病」という言葉には敏感になっている。日本の承認が遅れるのであれば、この夢の薬を求めてアメリカに行き、ぜひ点滴投与を受けたいという人は少なからず出てくるだろう。いや、世界中からやってくるだろう。まさに、「コロナ」にも「アルツ」にも「打ち」勝つ、朗報だ。ちなみにきょうの東証一部のエーザイの株価は始値で前日より1500円も急騰し、9251円をつけた。上昇率19.35%のストップ高となった。

⇒8日(火)午前・金沢の天気   くもり

☆断罪と消去 変わらぬアメリカの論理

☆断罪と消去 変わらぬアメリカの論理

        きょうの朝刊の記事で歴史の一端が見えてきた。以下、北陸中日新聞(6月7日付)=写真=から引用する。第二次大戦後、極東軍事裁判(東京裁判)で死刑判決を受けた元総理の東條英機ら7人のA級戦犯の遺骨を、上空から太平洋に散骨したとするアメリカ軍の公文書が見つかった。これまで明らかでなかったA級戦犯の遺骨処理について公文書が見つかったのは初めて。

   文書は、占領期に横浜市に司令部を置いた第8軍が作成、アメリカの国立公文書館に所蔵されていた。これを日本大学の高澤弘明専任講師(法学)が入手し公表した。A級戦犯の遺骨の処理については1949年1月4日付けの極秘文書に記されていた。7人が処刑された1948年12月23日未明、東京・巣鴨プリズンから遺体が運び出された。横浜市内の火葬場で焼かれ、遺骨は別々の骨つぼに納められた。そして、小型の軍用機に載せられ、上空から太平洋に散骨された。

   この極秘文書を記したのは、現場責任者だった第8軍所属の少佐で、「横浜の東およそ30マイル(48㌔)の地点の太平洋の上空で自分が広範囲にまいた」とつづっている。遺骨は家族に返還されておらず、太平洋や東京湾にまかれたとの憶測はあったが、その行方は昭和史の謎とされていた(同紙)。
 
   記事を読んで、アメリカ軍による戦犯に対する処遇は今も変わってはいないと実感した。ニューヨークの同時多発テロ(2001年9月11日)の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンに対する斬首作戦が2011年5月2日、アメリカ軍特殊部隊によって実行された。パキスタンのイスラマバードから60㌔ほど離れた潜伏先をステルスヘリコプターなどで奇襲し殺害。DNA鑑定で本人確認がなされた後、アラビア海で待機していた空母カール・ビンソンに遺体は移され、海に水葬された。

   戦犯は「死をもって断罪」だけではない。さらに、遺骨や遺体は海に散骨、または水葬とする。遺骨や遺体が遺族に返還され、墓がつくられることになれば、その墓が将来、聖地化することを想定しての処置だろう。徹底した断罪と消去、変わらぬアメリカの論理だ。

⇒7日(月)夜・金沢の天気     はれ