⇒ドキュメント回廊

☆2021 バズった人、コト~その6

☆2021 バズった人、コト~その6

   ことしよく耳にした曲と言えば、民放のオリンピック番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』だったが、オリンピック絡みで聴き始めたのが、あの「暴れん坊将軍」の松平健が歌う『マツケンサンバⅡ』だった。オリンピック開会式のセレモニー楽曲を担当する作曲家グループの1人だった小山田圭吾氏が過去のいじめ告白問題で7月19日に辞任して大騒ぎになったが、ヤフー・コメントなどで「マツケンサンバⅡを開会式で」との書き込みを何度か目にした。このときネットで検索して、『マツケンサンバⅡ』を動画で初めて聴いた。

    ~『マツケンサンバⅡ』に時代や国、民族を超えた多様性のリズム~

   東京オリンピックやパラリンピックでこの曲が採用されることはなかったが、NHKの今年の大晦日の歌番組「紅白歌合戦」で2004年以来、2回目の出場が決まった。紅白歌合戦のホームページをチェックすると、「 “カラフル” 特別企画 『マツケンサンバⅡ』 松平健さんの出場が決定しました !! 大みそかの日本を明るく! 楽しく! 盛り上げます! お楽しみに!!」とPRしている。「 “カラフル” 特別企画」とあるので、かなり派手な演出でステージを盛り上げるに違いない。それにしても、NHKの番組プロデューサーもあのヤフコメやSNSでの「マツケンサンバ待望論」が気になっていたのだろうか。  

   7月に動画を初めて観て以来、すっかり「お気に入り」になった。サンバのリズムに乗ってテンポよく歌い踊る松平健の後ろでは、腰元と町人風のダンサーたちが乱舞する。サンバは肌を露わにしたダンサーが踊る姿をイメージするが、赤い衣装を着た腰元ダンサーの方がむしろ艶っぽくなまめかしい。この動画を観ていて、浮かぶことは「多様性」という文字だ。

   江戸時代をイメージさせる役者が腰をひねらせてサンバを歌い踊る。サンバは肌を露わにしたダンサーというイメージがあるが、町人衆や腰元の衣装を着たダンサーが躍る。これは奇抜な演出というより、日本人の固定観念を取っ払った、まったく新たなステージ演出ではないだろうか。もともと江戸の町人衆は「べらんめい調」で小さなことを気にせず、無礼講で踊り明かすという風潮があったといわれる。「マツケンサンバⅡ」は個の美しさや潔さよさ、力強さが交じり合った江戸文化という時代を感じさせるのだ。江戸文化とサンバの発祥地ブラジルは時代も文化も違いはあるものの、根底には類似性があるのではないか。

   そうした時代を超えて、国を超えて、文化を超えて、民族を超えて人々の気持ちがサンバのリズムで一つとなるという多様性が心を弾ませる。それが家飲みを楽しくさせてくれる。

(※写真は、YouTubeに掲載されている「マツケンサンバⅡ」公式動画より)

⇒29日(水)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★2021 バズった人、コト~その5

★2021 バズった人、コト~その5

   ことしよく使った言葉は「DX」かもしれない。流行語のようにして使っていたが、意味をよく理解せずに使っていたので言葉に詰まってしまった経験もある。ネットで意味を調べようと検索していて偶然見つけたのが、現デジタル大臣の牧島かれん衆院議員が月刊「経団連」(2020年8月号)に寄稿していた「コロナ時代の田園都市国家構想」という記事だった。

    ~デジタル庁が発足、DX社会のシンボルとしてデジタル投票を~

   読むと、日本社会のデジタル化(DX)をどう進めていくか指針を述べている。問題意識をこう説明している。「アナログ原則からデジタルファーストへの転換を急ぎ進め、新たなチャレンジやイノベーションを阻む時代遅れとなった規制や慣行を見直し、地方公共団体を含めて対応を強化する必要があることが明白となった」

    その中で、デジタル庁の設立についても示唆していた。「インターネットを前提に、さまざまな仕組みを再検討し、社会全体のDX化を推進する必要があることから、早急に『デジタル推進法』等新たな法整備をすべきであること、そしてDX庁のような新たな役割を担う部署を設立することも提言として盛り込んだ」。2020年9月16日に菅内閣が発足し、政策の目玉の一つとして「デジタル庁」新設を打ち出し、ことし9月1日にデジタル庁がスタート。10月4日の第1次岸田内閣で牧島氏が大臣に就いた。2017年から自民党デジタル社会推進特別委員会の事務局長を担当していたので、ようやく本望がなかったということだろう。

   寄稿文に戻る。DXに関わる提言として。「売買契約書、株主総会、医療診療、オンライン薬局、義務教育、試験制度、各種金融サービス等、行政サービスや生活全般のデジタル化を徹底して、非対面、非接触、非(紙への)押印の手続きに代えるべき」「決済に関しても、顔認証を含め、非接触型への移行を進めるべき」など党でまとめた提言を紹介している。ぜひ、大胆に進めてほしい。「デジタル技術によって課題が解決される道はまさしく、社会的ケアが必要な人や場面において、きめ細やかな対応が可能となる、人に優しいハイタッチな社会へと繋がると考えているからだ」と寄稿文を締めくくっている。デジタル社会の発展に貢献する、政治家の矜持といったものを感じさせる。

   ただ一つ、一人の有権者の願いとして、選挙制度、とくに投票に関するデジタル化も進めてほしい。インターネットを活用した選挙運動が可能な社会になっているのに、投票はアナログなままだ。マイナンバーカードは本人確認最高位のツールと位置づけられている。カードの保有率が高い自治体から順次、デジタル投票を進めてはどうだろう。まさに民主主義のデジタル化だ。DX社会の到来を告げるシンボルとして、ぜひ進めてほしいものだ。

(※写真は、2021年10月4日にデジタル大臣として初入閣を果たし、平井卓也前大臣=左=から引き継いだ牧島かれん氏、デジタル庁公式ホームページより)

⇒28日(火)午後・金沢の天気     ゆき

☆2021 バズった人、コト~その4

☆2021 バズった人、コト~その4

   新型コロナウイルス感染で昨今のキーワードは「オミクロン株」と「市中感染」だろうか。では、一時期吹き荒れた「アベノマスク」はどうなったのか、その騒動とてん末を振り返ってみる。意外にも、まだ身近な問題としてその言葉があることに気づく。

   ~「アベノマスク」騒動のてん末 破棄かリサイクルか、その行方は~

   知人たちに「ところでアベノマスクはどうした」とメールでさりげなく問うと、ほとんどが使用しておらず、「机の中にまだしまってある」との答えが戻って来る。まるで「記念品」の状態だ。昨年4月7日に布マスクを全世帯に2枚の配布を閣議決定し、政府目標は月内配布だった。マスク支給予算は466億円。ところが、5月下旬になっても配達率は25%だった。緊急事態宣言が全面解除(5月25日)となったころには、すでにドラッグストアなどでマスクの安売りが始まっていた。我が家にアベノマスクが届いたのは6月1日だった。それ以来、自身も机の中にしまっていた。

   マスク配布の遅れが不評で安倍内閣の支持率が急速に落ち始める。共同通信社の全国緊急電話世論調査(5月29-31日実施)で内閣支持率は39.4%に落ち、読売新聞社の世論調査(8月7-9日実施)でも内閣支持率は37%とダウン、不支持率が上昇し54%となった。支持率下落はマスクの遅れだけでなく、7年8ヵ月続いた長期政権の賞味期限切れということもあったろう。9月16日に安倍内閣は総辞職する。

   そしてアベノマスクの在庫問題がいま浮上している。朝日新聞Web版(12月21日付)によると、国は約2億9千万枚の布マスクを調達したが、今年3月末時点で3割近い8272万枚が在庫の状態となった。昨年7月末から希望する介護施設や保育所などへ無料配布を行っているが、はける様子はない。昨年8月からことし3月の保管費用だけで6億円かかっている。保管場所も日本郵便から佐川急便へ、ことし4月からは日本通運の倉庫に。移送費や保管費で今年度はさらに3億円を超える見通し。

   厚労省は今月22日にマスクの在庫をメディアに公開した。倉庫には布マスクが入ったおよそ10万箱の段ボールが山積みにされ、113億円相当のマスクが眠ったまま。岸田総理は21日、マスクの在庫について、希望者に配布し有効活用を図ったうえで、残りは年度内をめどに廃棄する意向を明らかにした(22日付・NHKニュースWeb版)。以下は憶測だ。「破棄するなら欲しい」と途上国などからマスクの受け入れ希望があるだろう。その場合、海外への輸送費は日本の負担が条件となる。そうなれば、「お人よし外交」とメディアからさらにバッシングを受ける。

    自身の机にしまっておいたアベノマスクを取り出して、触ってみる=写真=。布製マスクはガーゼ生地で12枚重ねて縫製してあり、手触りがよい。ガーゼの原料は木綿(コットン)なのでリサイクルすれば、ハンカチやタオル、カーテン、肌着などさまざまな用途があるのではないか。廃棄するより、全国の繊維リサイクル業者に渡す方がいい。その場合、業者の引き取りの運送コストは国と折半でもよいのではないか。国会で追及されても、「SDGsにかんがみて」と理由がつくだろう。

⇒27日(月)午後・金沢の天気      ゆき 

☆2021 バズった人、コト~その3

☆2021 バズった人、コト~その3

   来年2月の北京オリンピックについて、アメリカが問題を提起した「外交的なボイコット」。中国・ウイグル族への強制労働や、女子プロテニスの選手が前の副首相から性的関係を迫られたと告白した後に行方がわからなくなった問題、香港における政治的自由や民主化デモへの弾圧など、中国の人権状況に対して国際的な批判は強い。オーストラリア、イギリス、カナダが同じように政府関係者を送らないと表明し、アメリカに同調している。

       ~北京オリ・パラの外交的ボイコットには日本流で参加~

   日本政府はどうなのか。岸田総理は第2次内閣の発足に合わせて新たに国際人権問題担当の総理補佐官を置き、中谷元・元防衛大臣を起用。また、来年から外務省に国際的な人権問題を担当する企画官を設置することを決めている。中国を念頭に、政府として人権問題に厳しい対応をとる方向性を示したと言える。北京オリンピックについて、岸田総理は「国益の観点からみずから判断していきたい」と繰り返すだけだった。が、ようやく態度を決めたようだ。

   総理官邸公式ホームページに松野官房長官のきょうの記者会見(24日)の動画が掲載されている。それによると、来年の北京オリンピック・パラリンピックへの対応については、閣僚など政府関係者の派遣を見送り、オリンピックには東京大会の組織委員会の橋本聖子会長とJOCの山下泰裕会長、そしてパラリンピックにはJPCの森和之会長がそれぞれ出席すると述べている。事実上の外交的ボイコットだ。

   記者団から質問が浴びせられる。「アメリカなどが行う外交的ボイコットに当たるのか」と。これに対し、松野官房長官は「政府として日本からの出席の在り方について特定の名称を用いることは考えていない」と述べ、別の質問でも、「アメリカ政府も外交的ボイコットという言葉は用いていない」と答えていた。
 
   記者団から中国の人権問題を問われ、松野官房長官は「わが国としては国際社会における普遍的価値である、自由、基本的人権の尊重、法の支配が、中国でも保障されることが重要だと考えており、わが国の立場については、さまざまなレベルで中国側に直接働きかけている。オリンピック・パラリンピックは世界に勇気を与える平和・スポーツの祭典だ。北京冬季大会への日本政府の対応はこれらの点も総合的に勘案してみずから判断を行った」と述べていた。北京オリンピックを外交的にボイコットするまっとうな理由だろう。

   このニュースを海外メディアも伝えている。CNNニュースWeb版は「Japan says it won’t send government officials to Beijing 2022 Winter Olympics」との見出し=写真=で、官房長官による日本政府の方針を報じている。本文では、岸田総理は与党内で中国に対してより厳しい姿勢を取る圧力の高まりに直面しており、アメリカの緊密なパートナーであるが、アジアの隣国とも強い経済的関係を持つ日本にとってデリケートな問題だと日本メディアの論調として伝えている。また、韓国の中央日報Web版日本語も「中国の北京オリンピックに対する米国・英国などの『外交的ボイコット』が広がる中、日本もこれに加わった」と報道している。

   2024年夏にパリオリンピックを開催するフランスは外交的ボイコットには同調しないとし、韓国も検討しないとしている。来年は日中国交正常化50周年に当たるが、ようやく日本は中国に「No」を言える国になったのか。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    くもり

★2021 バズった人、コト~その2

★2021 バズった人、コト~その2

       この一年でもっともバズった「人、コト」と言えば秋篠宮家の眞子さんの結婚問題ではないだろうか。眞子さんは10月26日に婚姻届を出し、同日午後2時から「小室眞子」として圭氏ともに記者会見に臨んだ。その様子をテレビで視聴していたが、二人が結婚の気持ちを述べた後、質疑応答の時間はなく会見は10分余りで終わった。メディア各社の報道によると、当初は二人が記者側が事前に提出した質問と関連質問を受ける予定だったが、前日になって急きょ、質疑応答には口頭で答えないことに変更に。事前質問は文書回答となった。これでは記者会見の意義がない。(※写真は、10月26日のNHK総合の記者会見の中継番組より)

    ~宮内庁が「誹謗中傷」と言い、国民が納税者意識をぶつけた結婚問題~ 

   宮内庁の説明では、文書回答とする理由について、事前質問の中に誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねないものが含まれていることに眞子さんが強い衝撃を受け、強い不安を感じたため、医師とも相談して文書回答にすることを決めた。また、眞子さんは一時、会見を取りやめることも考えたが、ギリギリまで悩み、直接話したいという強い気持ちから、会見に臨んだという(10月26日付・NHKニュースWeb版)。宮内庁の説明に、メディアに対する恩着せがましさというものを感じた。それだったら、宮内庁は記者会見の中止を眞子さんに進言すべきではなかったのか。   

   二人の結婚の正式発表は、宮内庁が10月1日に会見で行っていた。そのとき、「眞子さまは、ご自身やご家族、それに小室さんとその家族への誹謗中傷と感じられる出来事が続いたことで、『複雑性PTSD』(=複雑性心的外傷後ストレス障害)と診断される状態になられている」と説明した。会見には医師も同席し、「結婚について周囲が温かく見守ることで回復が進むものと考えられる」などと述べた(10月2日付・同)。自身の認識不足かもしれいなが、このとき「誹謗中傷」という言葉を宮内庁が初めて使ったのではないだろうか。

   宮内庁はこの言葉を持ち出すタイミングを見計らっていた。と言うのも、9月16日に法務省は法制審議会に刑法の「侮辱罪」に懲役刑を導入する刑法改正を諮問している。現行「30日未満の拘留か1万円未満の科料」の法定刑を、「1年以下の懲役・禁固音または30万円以下の罰金」とする。厳罰化にともない、公訴時効も現行の1年から3年に延長する。公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の厳罰化が動き出していた。

   とくに、ネット上の誹謗中傷での対策が求められていて、法務省はことし4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど、侮辱罪の厳罰化について着々と準備を進めていた。法務省が厳罰化に乗り出したきっかけは、リアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だったといわれている。

   宮内庁は法務省の動きと連動して、眞子さんのPTSDの原因を誹謗中傷によるものとすることによって、SNSなどの批判意見を封じ込めようとした。眞子さんの結婚問題に異議や批判意見を唱える国民の声を「誹謗中傷」とみなして、宮内庁が「黙れ、訴えるぞ」と言っているようなものだ。これを機に、国民の皇室に対する目線や想いは複雑化し、そして先鋭化した。

   憲法第88条では「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない」と定めている。令和3年度の皇族費の総額は2億6900万円(宮内庁公式ホームページより)だ。国民の皇室に対する気持ちが複雑化すると、国民の間では納税者意識が頭をもたげてきた。「皇室は血税で賄われている。だったら国民の声を素直に聞くべき」といったSNSなどでの書き込みが目立つようになった。

   きのう22日、皇位継承のあり方などを議論してきた政府の有識者会議が最終的な報告書をまとめた。皇位継承の議論は機が熟していないとしたうえで、皇族数を確保する方策として▽女性皇族が結婚後も皇室に残る案と▽旧皇族の男系男子を養子に迎える案の2つが盛り込まれた(12月22日付・同)。おそらく、国民の皇室への意識はますます複雑化し、そしてかけ離れていく。皇位継承のあり方よりも、皇室そもののあり方や存続について議論すべき時が来ているのではないか。眞子さんの結婚問題の波紋は大きい。

⇒23日(木)夜・金沢の天気      こさめ

☆2021 バズった人、コト~その1

☆2021 バズった人、コト~その1

  「人の噂(うわさ)も七十五日」という言葉はかつて使ったが最近は使わないし、聞くこともなくなった。時代が変わって、「人の噂」はネットやSNS、メールが本流になり、「バズる」という言葉が使われている。「バズってますね」などと自身もやりとりしている。ことしも残り9日。このブログで取り上げた話題を振り返る。題して「2021 バズった人、コト」。

          ~東京オリンピック、トヨタのテレビCMストップはなぜ~

  ことしはオリンピックイヤーだった。東京五輪(7月23日-8月8日)は地元石川県では何といっても、レスリング女子57㌔級の津幡町出身の川井梨沙子選手と、62㌔級の妹・友香子選手がともに金メダルを獲得したことが話題になった。地元紙は姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えた。北國新聞は連日の特別紙面で「最強の姉 約束の金lと、本紙では「梨沙子連覇 川井姉妹そろって金」と。北陸中日新聞は「川井 姉妹で金 梨沙子連覇」とそれぞれ一面の通し見出しだった=写真=。東京オリンピックの日本勢で、姉妹による金メダルは初めてだったので、日本のオリンピックの歴史に新たなレジェンドをつくったのではないだろうか。     

   コロナ禍でのオリンピックの開催をめぐっては反対意見が盛り上がっていた。東京五輪の中止を求めるオンライン署名サイト「Change.org」の署名は45万筆を超えていた。署名の発信者は弁護士の宇都宮健児氏で、相手はIOCのバッハ会長だった。そして、強烈なメッセ-ジを発したのはトヨタだった。東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由に、オリンピック関連のテレビCMをいっさい見送ると発表した。実際、五輪番組をテレビを見ていてもトヨタのCMを見ることはなかった。

   いまごろになって思うことだが、トヨタはなぜテレビCMを見送ったのだろうか。ワールドワイドな企業であるトヨタにとっては、オリンピックパートナーとしてメディアを通じてブランドイメージさらにアップさせるチャンスだった。そうした広告・ブランディング戦略にたけているはずだ。

   トヨタがCM中止を表明したのは開催4日前の7月19日だった。テレビと新聞による五輪開催へのマイナスな論調を見極めての決定だったのだろう。おそらく、この批判的な論調が開催期間中も続き、そうした論調のマスメディアにCMを出すのは企業にとってマイナスイメージとなると判断したのではないだろうか。ところが、オリンピックが始まると、開催に疑念を呈していたテレビも新聞もまるで「手のひら返し」をしたかのように、「ガンバレ日本」と選手たちの活躍を中心に報道を繰り広げた。トヨタはマスメディアの動向を見誤った。

   コロナ禍でのオリンピックは是か非かという論調は読者や視聴者に分かりやすいので、先頭だってマスメディアはそうした話題を提供する。身を張って五輪を阻止するというスタンスはもともとない。だから、オリンピックが始まってしまえば、マスメディアは五輪一色になる。別の視点から見れば、トヨタは「トヨタイムズ」という、タレントの香川照之が編集長となった自社メディアをホームページや「YouTubeチャンネル」で展開している。マスメディアの動向を観察しながら、自社メディアをどうカタチづくるか試行錯誤しているようだ。

   オリンピック競技を17日間視聴して、印象に残っているのはもちろんアスリートたちの姿だが、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。オリンピック競技場の無観客の状態は当初さみしいとも感じたが、毎日違和感なく視聴できたのもこの曲の高揚感のおかげだったのかもしれない。

⇒22日(水)夜・金沢の天気     くもり

☆横行するフィッシング詐欺メール

☆横行するフィッシング詐欺メール

   このところパソコンに金融機関などを装ったEメールが頻繁に届く。金融機関とは全く関係のないページに誘導し、暗証番号などを入力させることにより個人情報を不正に取得するという、いわゆる「フィッシング詐欺」のメール。「VISAカード」や「三井住友カード」など多くの人が持っていそうなカード名を使っていて、キャッシュレス社会に対応した詐欺だ。

   きょうのEメールで「VISAカード 重要なお知らせ」が届いた=写真=。「VISAカード利用いただき、ありがとうございます。このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました」と。さらに、「ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい」。お願いと脅しの文言を織りまぜて、暗証番号などを入力させる魂胆だ。手が込んでいる。

   ショートメールでは一時期、宅配業者を装った詐欺メールがよく届いた。スマホのSMSに「お荷物のお届けにあがりましたが不在のため持ち帰りました。ご確認ください」と、宅配業者の不在通知のようなショートメールが届いた。これも実に巧妙だった。荷物を送る際は送り先の電話番号を記すので、不在の場合はスマホにショートメールが入っていても違和感がない。この盲点をついた詐欺メールだ。「スミッシング詐欺」とも呼ばれている。

   県内に住む知人はスミッシング詐欺に引っかかった。ある携帯キャリアから、「ご利用中のキャリア決済が不正利用されています。至急こちらのURLから確認してください」とのメールがスマホに届いた。メールにあったURLからサイトを開き、IDとパスワードを入力した。たまたまその様子を見ていた家族から指摘を受けて、携帯キャリアのショップに行きパスワードを変更して難を免れた。

   あの手この手でEメールやSMSに詐欺メールが相次ぐ背景にはキャッシュレス決済が多様化、複雑化していることがあるのではないか。とくに、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった昨年4月7日に東京、神奈川、埼玉など7都府県に緊急事態宣言が初めて出され、緊張感が高まった。他人も触れる現金(紙幣・硬貨)を手にすることに警戒感が増し、シニア世代もキャッシュレス決済へと動いた。そのことからさらにキャッシュレス決済にからむ犯罪やトラブルが増加した。シニア世代は焦りや危機感で、つい次の行動に出てしまうものだ。自戒の念を込めたい。

⇒20日(土)夜・金沢の天気       くもり

★「ブリ起こし」の雷鳴とどろく 北陸に冬の訪れ

★「ブリ起こし」の雷鳴とどろく 北陸に冬の訪れ

   きのう(11日)から雷鳴がとどろいている。北陸ではこの時節の雷を「雪出し」や「ブリ起こし」などと言う。いよいよ冬の訪れである。とくに金沢は雷が多い。気象庁の雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(1991-2020年)によると、全国で年間の雷日数がもっとも多いは金沢の45.1日だ。雷がとどろけば、落雷も発生する。石川県の消防防災年報によると、県内の落雷による火災発生件数は年4、5件だが、多い年(2002年)で12件も発生している。とくに12月から1月の冬場に集中する。

   雷が人々の恐怖心を煽るのはその音だけではなく、落雷はどこに落ちるか予想がつかないという点だ。これが怖いので、自身のパソコンは常に雷ガードのコンセントを使用している。雷が直接落ちなくても、近くで落ちた場合でも「雷サージ」と呼ばれる現象が広範囲に起きる。いわゆる電気の津波だ。この雷サージがパソコンの電源ケーブルから機器内に侵入した場合、部品やデータを破壊することになる。いわゆる「雷害」からパソコンを守るためにガードコンセントは不可欠なのだ。このコンセントは金沢市に本社があるメーカーが製造したもの。北陸で雷害のケースと実情を研究し耐雷対策に取り組んできた企業の製品なので信頼を寄せている。

   落雷から自宅を守るために金沢では避雷針を付けている家庭が多い。ただ厄介なのは、雷は空から地上に落ちる際、まれに横から落ちてくるケースもある。2018年1月に金沢のテレビ局の送信鉄塔で落雷による火災が発生し、石川県内の一部地域を除く38万世帯で15時間も電波が止まるという放送事故があった。鉄塔にはてっぺんに避雷針は設置されていたが、雷が横から落ちて、鉄塔内で気中放電(スパ-ク)が発生、ケーブルが発火して電波が停止した。

   ところが、落雷があった送信鉄塔の近くには別のテレビ局の送信鉄塔があったが、ここには落雷はなかった。同じ域内にあるテレビ鉄塔で落雷があった、なかったの違いはどこにあったのか。業界関係者から聞いた話だが、落雷がなかった鉄塔には「消雷装置」が設置されていたのだという。「消雷装置」は初めて聞いた言葉だった。電気を通さない数十㌢の特殊なガラス管を避雷針に設置し、雷の原因となる大気中の電子の移動を打ち消す装置。金沢工業大学の教授が開発し、実証実験を経て製品化されている。雷ガードのコンセントにしても、消雷装置にしても「必要は発明の母」である。

   雷だけでなく、金沢は年間を通して雨の日が多く、年間の降水日数は170日余りと全国でもトップクラスだ(総務省「統計でみる都道府県のすがた」) 。天気も変わりやすく、朝晴れていても、午後には雨、ときには雷雨もある。そのような気象の特徴から 金沢では「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉がある。「必要は言葉の母」でもある。ただ、新型コロナウイルス感染が続くこのご時世では「弁当忘れてもマスク忘れるな」かもしれないが。

(※写真は、北陸電力公式ホームページ「雷情報」より)

⇒12日(金)午後・金沢の天気    あめ

☆「カニの宿」漁業6次化 北陸のトップランナーは

☆「カニの宿」漁業6次化 北陸のトップランナーは

   前回のブログで福井県民のカニへの愛着の話を書いた。すると、ブログを読んでくれた金沢の知人から、「愛着だけじゃない、カニビジネスも石川よりずっと進んでいる。漁業の6次化では北陸ではダントツだよ。6日付の日経を参考に」とメールが届いた。

   そこで日経をチェックする。「漁業『6次化」で価値創造」の大きな一面見出しで特集「データで読む 地域再生」が組まれていた。記事によると、消費者の「魚離れ」や資源減少などで漁業算出額が減少している中、1次産業の漁業者が「捕ったものを売る」から「売れるものを創る」へと転換し、いわゆる漁業の6次産業化を進める動きが進んでいるというのだ。北陸経済面にその6次化は「北信越    福井県1位」との見出しで詳細な内容が紹介されている。

   以下、本文からの引用。福井県は漁業者の6次化が19.9%と高い。そのベースは漁師が経営する民宿が県内に350件以上あることだ。これは県内の漁師の4人に1人が民宿を経営していることになる。「漁師の宿」ではカニやフグ、カワハギなどの魚料理を提供している。県行政はPRだけでなく、古くなった宿の補修なども支援している。北信越の漁業の6次化は福井に次いで石川12.2%、新潟11.1%、富山2.9%と続く(出所:農林水産省)。

   確かに、かつて福井の漁港近くを歩いたことがあるが。「カニの宿」の看板が目立つ。料理も「ゆで・焼き・刺し・鍋」といった様々な料理が味わえると看板が出ていた。漁業はしけなど天候などに左右されやすい。そこで、メインのカニなどを食材に民宿や直営食堂、加工品を手掛けることで、安定的な収入を得ることができる。こうしたサービス産業に進出することで、逆に消費者のニーズを捉えることができる。6次化の2番目は石川。能登半島の富来漁港では、漁師たちが経営する回転ずしが人気だ。

   「板子一枚、下は地獄」と言われるように、漁業は常に危険が伴う労働環境だ。そのため、日本でも慢性的な人手不足に陥っている。そのリスクを分散するために6次化への道を急いでいる。北陸では福井が「カニの宿」「漁師の宿」をフラッグに掲げてトップランナーを走る。越前ガニのブランドは強し。(※写真は「福井県観光連盟」ホームページより)

⇒9日(火)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

★「カニ見十年、カニ炊き一生」のエピソード

★「カニ見十年、カニ炊き一生」のエピソード

   前回のブログで書いたカニの話の続き。ズワイガニにはご当地の呼び方があって、島根など山陰地方では松葉ガニ、福井では越前ガニと呼ぶ。石川では「加能(かのう)ガニ」と称している。加能とは、加賀と能登の略称で、加賀と能登の沖合で獲れたズワイガニという意味だ。カニには「加能ガニ」の青いタグが付けられ、タグには「輪島港」など水揚げ地も記されている=写真、7日に近江町市場で=。

   カニを食べると寡黙になる、とよく言われる。にぎやかな会食の場もカニが出て来ると、なぜか皆がカニ食べることに集中して静かになるものだ。カニの脚を関節近くで折り、身を吸って出す。会食の場はパキパキ、ズーズーと音だけが聞こえる。ただ、食べる姿はまるでカニとの格闘のようにも思える。これを外国人が見たらどう思うだろうか。「おいしいもの食べているのに、なぜ寡黙なのか、そして闘争心を燃やしているのか。やはり日本人は不思議」と感じるのではないか。

   さらに深堀りする。自身は北陸出身なので、カニとは幼い頃から格闘してきた。東京や大阪、名古屋などの出身者はカニとの縁が薄いせいか、会食するとその「初心者ぶり」が分かる。まず、食べ方が慣れないせいか、「カニは好きだが食べにくい」「身をほじり出すのが面倒だ」という話になる。料理屋で出されたカニには包丁が入っていて、すでに食べやすくしてある。これを「食べにくい」と言っている。初心者ぶりがその言葉から見える。

   そんなカニの宴席でつい話してしまうのが、「カニ食い競争」のエピソードだ。「私の友人で丸ごと一匹を5分間で食べる名人がいるんです」と。ずっと以前の話だ。福井市内の居酒屋で包丁が入っていない越前カニを福井の友人とそれぞれ食べた。意識したわけではないが、お互いがその食べ方を見合っていると、いつの間にか福井と石川のカニ食い競争の様相になってきた。パキパキと脚を折り、ズボッと身を口で一気に吸い込み、カシャカシャと箸で甲羅の身を剥がす。福井の彼はタイムで言えば5分間で食べた。そのとき、自身はまだ甲羅に手をかけた状態で、食べ上げるのに7分近くかかった。さすが越前ガニの本場の人はカニを食べ慣れていると妙に感服した、という話だ。

   福井の人々のカニに対する執着心は、石川では考えられないほど強い。福井では「カニ見十年、カニ炊き一生」という言葉がある。カニ料理のポイントは塩加減や茹で加減と言われる。単に茹でてカニが赤くなればよいのではない。カニの目利きが上手にできるには十年かかり、カニを満足に茹で上げるには一生かかるという意味だそうだ。さらに驚くのは、独特の技術を持っている。金沢の近江町市場などでは、脚の折れたカニは商品価値が低く、「わけあり商品」の部類に入っている。ところが、福井の漁協では、水揚げした段階で折れたカニの脚を集めて、脚折れカニに接合するプロがいる。カニという商品をそれだけ大切に扱っているという証(あかし)でもある。

   前述の福井の友人はカニを堪能し、地酒をこころゆくまで飲んで、最後にそばを食べて仕上げる。カニとそばの食文化は越前の人にはかなわない、と思っている。

⇒8日(月)夜・金沢の天気       くもり