⇒トレンド探査

☆配膳ロボットが器用に立ち振る舞うファミレスの光景

☆配膳ロボットが器用に立ち振る舞うファミレスの光景

   JR金沢駅近くにあるファミリーレストラン「ガスト」に久しぶりに入った。客席と厨房を行き来しているのは従業員ではなく、なんと、自走ロボットだ=写真=。従業員に尋ねると、ことし2月から2体が稼働しているそうだ。「料理配膳ロボット」と言い、「BellaBot」と体に書いてある。(※写真は配膳ロボットが料理を客席で渡し終えて厨房に帰るところ)

   配膳ロボットが料理を注文した客席の近くに到着すると料理が載っているトレイが青く光り、客はトレイから自分で料理を取り上げる。数秒たつと自動的に厨房に戻っていく。なるほどと思わせるのは、客が通路の床に置いている荷物を上手に避けている。おそらく、赤外線センサーや3Dカメラで感知し避ける機能が搭載されているのだろう。

   そして、通路で人とすれ違うときは止まって、「お先にどうぞ」などと言葉を発している。料理を受け取った客が「ありがとう」と言いながら頭の部分をなでると、モニターに映る顔が笑顔になり、「くすぐったいニャ」と発声する。ロボットの顔つきはネコをイメージしている。「ご注文ありがとうニャ」と少し高めの声でお礼を言い、なかなか愛嬌がある。

   ネットで「BellaBot」を検索すると、配膳ロボットは中国・深圳の「PUDU Robotics」社が開発したもの。重量は57㌔で充電時間は4.5時間。稼働時間は12時間、バッテリーを交換すれば24時間、365日のフル回転が可能。同じバージョンのロボットを最大20台、同じフロアに配置することができる。障害物は35㍉×50㍉×100㍉以上のものを感知する。1つのバッテリーで約400皿の料理を運ぶことができ、飲食店での高い回転率を誇る、とある。

   配膳ロボットの動きを眺めていてふと思った。客が席の机にあるタブレットで料理を注文し、それを運ぶのがロボットの役割だが、運びと同時にカード決済も行えるにようにしてはどうだろうか。配膳・決済ロボットになれば、ロボットの格が上がる。ひょっとして、そのような新型がまもなく登場するかもしれない。

   今回、店に入ったときはすでに昼食を終えていてドリンクバーを注文したので、コーヒーは自身が運んだ。なので、ロボットとは対面で話してはいない。このロボットはどこまで進化するのか、気になる光景だった。

⇒13日(月)午後・金沢の天気    はれ

★コウノトリとトキが能登の空に舞う日

★コウノトリとトキが能登の空に舞う日

   前回のブログの続き。能登半島にコウノトリのつがいが3羽のひなを育てているという記事を読んで、兵庫県豊岡市のコウノトリにまつわる、ある物語を思い出した。

   江戸時代には日本のいたるところでいたとされるコウノトリが明治に鉄砲が解禁となり個体数は減少。太平洋戦争の時には営巣木であるマツが燃料として伐採され生息環境が狭まり、戦後はコメの生産量を上げるために農薬が使われ、その農薬に含まれる水銀の影響によって衰弱して死ぬという受難の歴史が続いた。1956年に国の特別天然記念物の指定を受けるも、1971年5月、豊岡で保護された野生最後の1羽が死んで国内の野生のコウノトリが絶滅した。

   その後、飼育されていたコウノトリの人工繁殖と野生復帰計画は豊岡市にある兵庫県立コウノトリの郷公園が中心となって担い、ロシア(旧ソ連)などから譲り受けて人工繁殖に取り組んだ。豊岡でのコウノトリの野生復帰が知られるようになったのは2005年9月、秋篠宮ご夫妻を招いての放鳥が行われたことだ。ある物語はここから始まる。

   カゴから飛び立った5羽のうち一羽が近くの田んぼに降りてエサをついばみ始めた。その田んぼでは有機農法で酒米をつくっていた。金沢市の酒蔵メーカー「福光屋」などが酒米農家に「農薬を使わないでつくってほしい」と依頼していた田んぼだった。秋篠宮ご夫妻の放鳥がきっかけで地元のJAなどが中心となってコウノトリにやさしい田んぼづくりが盛んになった。

   コウノトリが舞い降りる田んぼの米は「コウノトリ米」として付加価値がつき、ブランド化した。こうした、生き物と稲作が共生することで、コメの付加価値を高めることを「生き物ブランド米」と称されるが、豊岡はその成功事例となった。そして、豊岡にはコウノトリを見ようと毎年50万人が訪れ、エコツーリズムの拠点にもなった。

   さて、3羽のひなの誕生が能登にコウノトリが定着するきっかけとなるかどうか。能登の自治体では同じく国の特別天然記念物トキの野生放鳥の候補地として環境省に名乗りを上げている。8月上旬をめどに3ヵ所程度を選定し公表され、2026年度以降の放鳥となる(5月10日付・環境省公式サイト)。3ヵ所の一つに選ばれれば、将来コウノトリとトキが能登の空に舞う日が来るのではないか。世界農業遺産(GIAHS)でもある能登の里山に。夢のような光景だ。   

(※写真・上は豊岡市役所公式サイト「コウノトリと共に生きる豊岡」動画より、写真・下のトキは1957年に岩田秀男氏撮影、場所は輪島市三井町洲衛))

⇒12日(日)午後・金沢の天気    はれ

☆トキより先にコウノトリがやって来た

☆トキより先にコウノトリがやって来た

   これは絶妙なタイミングと言えるかもしれない。きょうの各紙朝刊によると、能登半島の志賀町で営巣していた国特別天然記念物のコウノトリのつがいからひな3羽が誕生した=写真・上=。石川県内でのひなの誕生は1971年に日本で野生のコウノトリが絶滅して以来初めて。能登の自治体は同じく国の特別天然記念物トキの野生放鳥の候補地として環境省に名乗りを上げているので、コウノトリのひな誕生は追い風になりそうだ。

   記事によると、ひなを育てているつがいは足環のナンバーから、兵庫県豊岡市で生まれたオスと、福井県越前市生まれのメスと分かる。4月中旬に近隣住民が電柱の上に巣がつくられているの発見し、町役場がメスが卵を抱いている様子を定点カメラで確認した。5月下旬には親鳥がひなに餌を与え、3羽が巣から顔を出した。ひなが順調に育てば、8月上旬ごろに巣立つという。

   コウノトリは江戸時代までの身近に見られた鳥だった。留鳥として日本に定住するものがほとんどだった。明治以降、餌場となる湿地帯や巣をかけることのできる大きな木が少なくなったこと、農薬や化学肥料の使用によって餌となる水生生物が減ったことなどが災いし、1971年に野生のものが絶滅した。その後、人工繁殖・野生復帰計画は豊岡市にある兵庫県立コウノトリの郷公園が中心となって担い、中国や旧ソ連から譲り受けたコウノトリ(日本定着のものと同じDNA)を元に繁殖に取り組んだ。現在国内での野外個体数は244羽が生息する(5月31日付・兵庫県立コウノトリの郷公園公式サイト)。

   もう14年も前のことだが、能登半島の先端・珠洲市の水田にコウノトリ=写真・下=が飛来していると土地の人から連絡をもらい、観察にでかけた。3時間ほど待ったが見ることはできなかった。そのとき聞いた話だ。この水田地帯には多くのサギ類もエサをついばみにきている。羽を広げると幅2mにもなるコウノトリが優雅に舞い降りると、先にエサを漁っていたサギはサッと退く。そして、身じろぎもせず、コウノトリが採餌する様子を窺っているそうだ。ライオンがやってくると、さっと退くハイエナの群れを想像してしまった。堂々したその立ち姿は鳥の王者を感じさせる。(※写真は2008年6月・珠洲市で坂本好二氏撮影)

⇒11日(土)午後・金沢の天気      くもり

★参院選が間近、有権者が戸惑うこと

★参院選が間近、有権者が戸惑うこと

   きょう金沢市内で、きたる参院選挙での候補者ポスターの掲示板が設置されているのを見かけた=写真=。選挙日程は閣議決定されていないが、今月22日に公示され、7月10日が投開票の見通しとメディア各社が報じている。掲示板が設置されているのに気が付いたのは金沢歌劇座のバス停の付近。きのう夕方通ったときはなかったので、設置作業はきょう始まったのだろう。選挙が動き始めた。

        ことし石川県内は選挙ラッシュだ。3月13日は県知事選と金沢市長選、そして同市議補選のいわゆる「トリプル選挙」、4月24日は参院石川選挙区の補欠選挙、5月22日は能登半島の先端で珠洲市長選が行われた。そしていよいよ国政選挙なのだが、参院選に対する有権者の関心度は高いだろうか、投票行動はどう動くのか。

   実は、4月24日の参院補選の投票率は惨たんたるものだった。参院比例区の自民党議員が選挙区補選に鞍替えで立候補し、立憲民主や共産など野党の新人3人を破って当選したが、投票率はこれまで最低の29.9%、大票田の金沢市では22.9%だった。先の知事選(3月13日)61.8%と比べると、その半数にも満たない。この投票率の低さをどう読むか。民意に潜む本音をあえて語れば、議会制民主主義は国家の基本なのだが、「はたして参院は必要なのか」と参院無用論の声もあるのではないだろうか。

   参院は「良識の府」と学校で教わるが、タレント議員の巣窟と化しているという違和感があるのではないだろうか。参院比例区で2001年から非拘束名簿式が採用されていて、候補者の氏名を書いても政党名を書いても、その政党の得票となるので、知名度のあるタレントや著名人を候補者に擁立するケースが目立つようになった。一方で、志を抱いたタレント議員の存在は政治を身近に感じさせてくれるという前向きの意見もある。

   もう一つ。これも学校で教わるが、「衆院の優越」だ。法律案が衆院で可決し、参院がこれと異なった議決をした場合、衆院において出席議員の3分の2以上で再び可決すれば法律となる。予算案も最終的に衆院の議決が国会の議決となる。だったら、国会は衆院一院制でよいのではないかと考えてしまう。ただ、衆院解散中は参院も同時閉会となるが、国に緊急事態が生じた場合は、内閣の求めにより参院の緊急集会が開かれ、国会の機能を果たすことになる。そろそろ、賛否を含めて参院の有り様について議論する時期に来ているのではないだろうか。

⇒9日(木)夜・金沢の天気    くもり   

★いまそこにある危機「線状降水帯」とSDGs

★いまそこにある危機「線状降水帯」とSDGs

   季節は移ろい、6月の梅雨の時節に。梅雨はしっとり雨が降るという印象だったが、近年は「激しい雨」のイメージだ。積乱雲がどんどんと列ををなして留まって、激しい雨を降らせる。この「線状降水帯」という言葉を自身が意識したのは2017年8月、北陸で1時間に80㍉の猛烈な雨をもたらしたころからだ。

   気象庁はこれまで線状降水帯が「発生」した場合に「顕著な大雨に関する情報」を発表していたが、きょう1日からは、線状降水帯が発生する「可能性が高まった」場合、予測の段階で発生の半日前から6時間前に気象情報を発表することにした(気象庁公式サイト・31日付ニュースリリース)。全国の大学など研究機関と連携して、メカニズム解明に向けた高密度な集中観測や、スーパーコンピュータ「富岳」を活用したリアルタイムシミュレーション実験を実施するという。

   さらに、今月30日からは地図上に5段階で色分けして表示する「キキクル(危険度分布)」で、5色を警戒レベルの色と統一して、紫は「レベル4の全員避難」、黒は「レベル5で災害切迫」。紫は早めの避難行動の呼びかけになる。しっとり梅雨もいつの間にか怖くなったなものだ。

   先述のように、気象庁が大学など研究機関が連携して集中観測を行ったり、早めの避難行動の呼びかけを行う背景には、国連が掲げるSDGs(持続可能な17の開発目標)の13番の目標「気候変動に具体的な対策を」があるのだろう。天気情報をテレビで視聴する側とすると、警戒レベルの気象情報が出ていないからまだ安心だと認識してしまう。実際に情報が出たときは大気の状態が不安定で、非常に危険な状態にあるケースもままある。

   線状降水帯による豪雨の被害は毎年のように起きている。「いまそこにある危機」を集中観測やスーパーコンピュータで大胆に切り込んで予知する。一歩も二歩も踏み込んだ気象情報に期待したい。

⇒1日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆カーボンニュートラルな能登の光景

☆カーボンニュートラルな能登の光景

   能登半島で見る印象的な風景は、山の峰に並ぶ風力発電、山裾や田んぼ、畑の一角に広がる太陽光発電ではないだろうか。脱炭素の世界的な潮流を受け、日本も2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明している(2021年4月・気候サミット)。日本が排出する二酸化炭素の4割が電力関連で、再生可能エネルギーに置き換える動きが全国的に活発だ。

   能登半島全体では74基、うち半島尖端の珠洲市には30基の大型風車がある。経営主体は日本風力開発株式会社(東京)、2007年から順次稼働している。発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電地域だ。発電所を管理する会社のスタッフの案内で現地を訪れたことがある。ブレイド(羽根)の長さは34㍍で、1500KW(㌔㍗)の発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。羽根が風に向かうのをアップウインドー、その反対をダウンウインドーと呼ぶ。1500KWの風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の1千世帯で使用する電力使用量に相当という。(※写真・上は能登半島の先端・珠洲市の山地にある風力発電)

   なぜ能登半島に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況」と現地のスタッフが説明してくれた。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、6㍍/秒を超えることがの目安になる。能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が6㍍/秒を超え、一部には平均8㍍/秒の強風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。いいことづくめではない。能登で怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と。そのため、ブレイドの材質は鉄製ではなく、FRP(繊維強化プラスチック)にしているが、それでも落雷のリスクはあるという。

   バイオマス発電所もある。珠洲市に隣接する輪島市の山中にある。発電所を運営するのは株式会社「輪島バイオマス発電所」。スギやアテ(能登ヒバ)が植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。もともと二酸化炭素を吸湿して樹木は成長するのでカーボンニュートラルだ。発電量は2000KWで24時間稼働するので年間発電量は1万6000MW、これは一般家庭の2500世帯分に相当する。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧の間伐材が必要となる。(※写真・中は輪島市三井町にある輪島バイオマス発電所の施設)

   創業者から会社設立に至った経緯をうかがったことがある。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」。森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やパルブ材などに利用されるのは70%程度に過ぎない。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はない(同社公式サイト)。里山のもったいない精神から発想された再エネなのだ。

   能登半島では農地のほかに山間部でも大規模なメガソーラー(1000kW)が相次いで稼働している。耕作放棄地など活用したのだろう。気になることもある。川沿いの平野部に設置されている太陽光パネルだ。これが、集中豪雨による冠水や水没で損壊したり、設備が流されるということにはならないだろうか。太陽光パネルは実は危険だ。損傷し放置された太陽光パネルに日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性がある。(※写真・下は珠洲市にあるソーラー発電施設)

   きょうの新聞各紙は、環境省は使用済みの太陽光パネルのリサイクルを義務化する検討に入ったと伝えている。太陽光パネルの寿命は長くて30年だ。普及が進んでいる能登地区の近未来の課題でもある。

⇒29日(日)夜・金沢の天気    はれ

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

   内閣府は国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったまちづくりに取り組む自治体を「SDGs未来都市」として選定している。ことし新たに能登半島の輪島市や新潟県佐渡市など30自治体が選ばれた。選定は2018年に始まり、今回含め154の自治体が選ばれている(内閣府地方創生推進事務局公式サイト「2022年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」)。

   輪島市のテーマは「“あい”の風が育む『能登の里山里海』・『観光』・『輪島塗』 ~三位一体の持続可能な発展を目指して~ 」。「“あい”の風」とは日本海沿岸で冬の季節風が終わり、沖から吹いてくる夏のそよ風を言う。ところによっては「あえの風」とも言う。キーワードに世界農業遺産「能登の里山里海」、観光、輪島塗の3つを入れている。ちなみに佐渡市のテーマは「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化、佐渡 ~ローカルSDGs佐渡島、自立・分散型社会のモデル地域を目指して~」。トキと佐渡金山がキーワードになっている。

   輪島市の提案書を読もうと思い、市役所公式サイトにアクセスしたがまだアップはされていなかった。後日、内閣府の公式サイトで一括して掲載されるようだ。多様な地域の特性をSDGsの視点で見直し、「誰一人取り残さない」「持続可能な社会づくり」に活かしていこうというまさに地方創生の実現に向けた取り組みだ。

   輪島の朝市や千枚田、海女漁を見ればSDGsが体現された地域であることが理解できる。朝市はもともと農村や漁村のおばさんたちが農作物や魚介類を持ち寄って物々交換したことがルーツとされる。作り、採ったものが余った場合、廃棄するのではなく、物々交換という取引で豊かさを共有する場だった。「もったいない精神」と言えるかもしれない。同時に、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」である。

   そして、海女漁はまさにSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」だ。現在200人いる海女さんたちのルーツは1569年、福岡県玄海町鐘崎から船で渡って来た13人の男女だったと伝えられている(1649年「海士又兵衛文書」)。24種もの魚介類を採ることで生業(なりわい)を立てているだけに資源管理には厳しいルールがある。アワビ漁については、貝殻10㌢以下の小さなものは採らない、漁期は7月から9月の3ヵ月、時間は午前9時から午後1時、酸素ボンベは使わず素潜り。こうした厳格な自主規制で450年余り経ったいまでもアワビを採り続けている。

   千枚田では自然災害と向き合ってき人々のSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の精神が見えてくる。1684年、この地区では大きな地滑りがあり、棚田があった山が崩れた。「大ぬけ」といまでも地元では伝えられる。いまで言う深層崩壊だ。その崩れた跡を200年かけて棚田として再生した。まさにレジリエンスだ。それだけでない、いまも地滑りを警戒して、千枚田の真ん中を走る国道249号の土台に発砲スチロールを使用するなど傾斜地に圧力をかけないようにと工夫をしている。

   持続可能な人々の営みというのは、その歴史を検証すことで見えて来る。輪島市には今回のSDGs未来都市の認定で、「SDGs観光」という新たな情報発信をしてほしいものだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

   NHK受信料制度の見直しにつながる動きになるかもしれない。イギリスの「デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)」が4月28日に発表した放送政策全般を見直す年次報告書(白書)『Up Next The Government’s vision for the broadcasting sector』が注目されている。その中にはことし100年の歴史を刻む公共放送BBCの改革の方針が述べられている。そのホワイトペーパーがDCMS公式サイトにアップされているのでチェックした=写真、人物はナディーン・ドリスDCMS担当相=。

   前置きで「The UK’s creative economy is a global success story, and our public service broadcasters (PSBs) are the beating heart of that success. (イギリスのクリエイティブな経済は世界的なサクセス・ストーリーであり、公共放送局はその成功の脈動する心臓に相当する)」と評価しながらも、改革は避けられないとそのポイントを上げている。

   直面するのはネット環境だ。イギリスの視聴者の「メディア消費」のあり様が大きく変化していることを数値を紹介している。イギリスでは79%の世帯がネットに接続されたテレビを所有している。このため、放送局の番組を視聴する時間の割合は2017年の74%から2020年の61%に減少。逆に有料制の動画サービスの視聴時間における割合は2017年の6%から2020年の19%に増加している。さらに、コンテンツのグローバル化問題を指摘している。アメリカ発の動画配信サービス「ネットフリック」などはイギリスの放送業者よりもはるかに大きな予算でコンセンツ制作を展開している。

   このような時代の変化にも関わらず、国民は世帯当たり年間で159ポンド(およそ2万5000円)の受信料(ライセンス料)をBBCに払い続けている。国民の間では不公平感が募っている。また、ライセンス料の支払いを拒んだ場合は刑事裁判がある。件数は示されていないが、2019年に支払いを拒否して有罪判決を受けた人々の74%は女性だったと白書で記載されている。イギリスでは、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ネット時代で、この受信許可モデルは不公平感を増長するだけではないだろうか。

   BBCの放送事業の認可であるロイヤルチャーター(女王の特許状)は2027年にいったん切れる。それまではライセンス料の徴収は継続する。白書では、「BBCの受信料制度について見直しを進める」、さらに「BBCの商業部門の限度額(広告枠)を2倍以上に増やす」などと記載されてはいるが、具体案はない。「We will set out more details in the coming months.」と数か月後に詳細を提示すると述べている。

   ジョンソン首相は、BBCの受信料の廃止と視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制(サブスクリプション)への移行を公約として掲げてきた。一方で、受信料が廃止されることで、収入が不安定になり報道の質の高さや公共性が失われるという懸念もある。公共放送の経営と安定、視聴者の不公平感の解消、次なるメディアのコンテンツのあり様、さまざまな課題が凝縮されている。そして他人ごとではない。

⇒20日(金)午後・金沢の天気    くもり

☆能登の風力発電とトキの放鳥を考える

☆能登の風力発電とトキの放鳥を考える

     前回のブログの続き。では、再生可能エネルギーはどこまで可能なのか、問題点を含めて考える。たとえば風力発電だ。石川県内には既存の風力発電は74基で、能登地方に73基が集中している。能登半島は風の通りよく、面積の7割が低い山と丘陵地であることから、大規模な風力発電の立地に適しているとされる。

   能登半島の尖端、珠洲市には30基の風車がある。2008年から稼働し、発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる有数の風力発電の地だ。発電所を管理する株式会社「イオスエンジニアリング&サービス」の許可を得て、見学させてもらったことがある。ブレードの長さは34㍍で、1500KWの発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みになっている。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の8百から1千世帯で使用する電力使用量に相当する。(※写真・上は珠洲市提供)

   カーボンニュートラルの政府方針を受けて、東北や北海道で風力発電所の建設ラッシュが続く。能登半島でもさらに12事業、170基の建設が計画されているという。ここで気がかりになってきたことがある。バードストライク問題だ。

   国の特別天然記念物のトキについて、環境省は野生復帰の取り組みを進めている新潟県佐渡市以外でも定着させるため、2026年度以降に本州でも放鳥を行うことを決めた(2021年6月13日付・NHKニュースWeb版)。 これにさっそく名乗りを上げたのが、石川県だ。ことし2月1日の県議会本会議で当時の谷本知事は「能登地域は放鳥にふさわしい」と述べ、関係市町や団体などと受け入れの協議を始める意向を示した(2月3日付・毎日新聞Web版)。

   能登半島は本州最後の1羽のトキが生息した場所。オスのトキで、能登では「能里(のり)」の愛称があった。1970年1月に捕獲され、佐渡のトキ保護センターに送られた。佐渡にはメスの「キン」がいて、人工繁殖が期待されたが、能里は翌1971年に死んでしまう。環境省は1999年から同じ遺伝子配列である中国産のトキで人工繁殖を始め、2008年9月から放鳥を行っている。石川県は全国に先駆けて2010年に分散飼育を受け入れ、増殖事業に協力してきた。県が能登での放鳥に名乗りを上げた背景にはこうした思い入れがある。

   佐渡では野生のトキが480羽余り生息しているが、1500KWクラスの風力発電はなく、これまでバードストライクの事例は報告されていない。しかし、能登半島で今後、現在の73基に加えてさらに170基が稼働し、トキが放鳥されるとバードストライクの懸念は高まるのではないか。再生可能エネルギーの切り札としての風力発電、そして生態系の再生のシンボルとしてのトキの共生は可能なのか。日本野鳥の会は事業会社にバードストライクについて調査し公表するよう求めている。(※写真・下のトキは1957年に岩田秀男氏撮影、場所は輪島市三井町洲衛)

⇒3日(日)夜・金沢の天気      くもり

★「誰一人取り残さない」SDGs的な選挙活動の現場

★「誰一人取り残さない」SDGs的な選挙活動の現場

   金沢市長選の個人演説会に誘われ、昨夜、市内のある集落を訪ねた。場所は中山間地、いわゆる里山だ。乗用車のナビを使って、曲がりくねった山道を走行する。午後7時からの演説会に間に合うように出かけたが、すっかり周囲は暗くなっていた。ぎりぎりに到着した。会場は市北部にある加賀朝日町の公民館。廃校になった小学校校舎だ。地域の人たち20人余りが集まっていた。

   個人演説会を開いたのは、永井三岐子候補。テーマは「公共交通について考えよう」だった。なぜ山間地の集落でこのテーマなのか。この地域の唯一の公共交通であるJRバスが7月から廃線となることが決まっている。そこで、永井候補はこの地域課題をテーマに住民との意見交換を求めて演説会を開いた。「公共交通は都市の装置です。民間企業の資金やアイデアを求めるのも一つのアイデア」と事例を紹介した。「チョイソコ」は愛知県豊明市でトヨタ系の民間会社が運営しているオンデマンドによるバス運行のシステム。通院や買い物の移動に困る高齢者を救いたいと同市が民間企業と連携している。

   地元の人からも声が上がった。「バスに乗っても乗客は多い時で3人くらい。空気を運んでいるようなものでバス会社には申し訳という気持ちもある」と廃線についてはやむを得ないと話した。また、「バスの本数が少なくなるほど、利用する人が減ってきた」 「中山間地にまだ新しい家が空き家になっている。これをどうにかしたい」 「里山には環境や教育、観光など、その特色を活かした活用がある。どう工夫すればよいか」 など、バス問題だけでなく地域の活性化など意見は多岐に及んだ。

   確かにバスの問題は地域課題の一つであって、その根底には過疎化・人口減少の問題がある。それにしても思ったことは、これは永井候補にとって失礼な言い方かもしれないが、選挙運動期間も残り2日と限られているのに、10数世帯しかない小さな集落でなぜ時間を費やすのか。市内の中心街でもっと人を集めて、訴えた方が遊説効果があるのではないか、と。

   そう考えているうちに、これは本人の根っからのポリシ-なのかもしれないと思い浮かんだ。永井候補は金沢にある国連大学研究所の事務局長だった。SDGsの実践を掲げてきた。今回の選挙でも、公約に「SDGsファンドを創設し、課題解決ビジネスを興す」と掲げている。SDGsの原則は「誰一人取り残さない」だ。小さな集落の課題こそ放ってはおけないと考えたのだろうか。とすれば、まさにSDGsを実践した選挙活動なのかもしれない。

⇒11日(金)夜・金沢の天気     はれ