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★財布が小銭で膨らむ理由

★財布が小銭で膨らむ理由

  ひとつの不満を除けば、後は合格点だと思う。北陸鉄道バス(金沢市)のICカード「アイカ」=写真=のことである。当初、戸惑いもあった。昨年の12月、北鉄片町サービスセンターのシャッターが上がる午前9時にさっそく買いに行った。アイカを首かけのヒモつきカードに入れて、バスに乗車。ちょっとドキドキしながら「乗車タッチ」。ところが、数回タッチしても、ピッという受け付け音が出ない。後続の女性から「場所が違いますよ」と指摘され、ハッと気がついた。タッチしていたのは残金表示の黒部分で、オレンジ色のタッチ部分ではなかったのだ。「われながらちょっと緊張したかな」と。これがアイカ初体験だった。
  
  アイカに魅力に感じているのは、整理券を取る必要がなく小銭の準備、両替が不要なこと。これまで、整理券の番号と運賃表示を照らし合わせて小銭を用意しなければならなかった。これが意外と面倒なのだ。でも、アイカでは自動計算されるので、1回の「降車タッチ」でOK。勤め先の金沢大学の生協では、予め現金をカードに入れる「積み増し」もできる。金沢大学は6系統160本(往復)のバスが往来する大きなバスターミナルでもあり、とても便利に感じている。晴れの日は、ウオークとバスを組み合わせれば、とても体にいい。なるべく歩いて、バスに乗る。私の場合、片道「バス25分、歩き15分」の健康法にもなっている。

  冒頭の「ひとつの不満」は、アイカを使い出してから小銭が財布に滞留し始めたことである。小銭を取りすにはある程度、時間的なゆとりがないとできない。これまで、バスの回数券の番号で料金を予測しながら、たとえばバス代が200円なら1円玉を20枚、5円玉を6枚、10円玉15枚という、せせこましいこともやってきた。だから、小銭がはけた。コンビニで使おうと思っても、後ろに人がついたりすると「大の大人が・・・」と言われそうで、なんとなく小銭は数えにくい。いまでは財布が小銭でパンパンに膨らんで、貯金箱になっている。

  「小銭が財布に溜まるのはアイカのせいではない」、北鉄バスの関係者はそう言うだろう。そこはサービスの原点に立ち返って、小銭でもOKのアイカの「積み増し機」を設置してほしい。これは小銭がいらないというアイカの便利さの裏返しのサービスでもある。個人の要望というより利用者のニーズとして理解していただきたい。

⇒7日(火)午前・金沢の天気 晴れ

★兼六園の楽しみ方④

★兼六園の楽しみ方④

カキツバタの花音は聞こえるか
  歴史の長い兼六園にはいくつか噂話もあって、それがまた楽しみの一つにもなります。たとえばこんな光景があります。ちょうど5月中ごろ、カキツバタが咲く曲水の周囲には早朝から市民が三々五々訪れます。かがんで耳に手をあて、じっと眺めている人もいます。地元の人の話では、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」とか。人々はその花の音を聞きにやってくるのです。

  私もかつてその話を聞き、2度か3度早朝に兼六園を訪れてみましたが、花音の確認はできませんでした。そのうち、カキツバタの花音は単なる噂(うわさ)話ではないかと思うようになり脳裏から消えていったのです。一昨年の5月、地元の民放テレビ局がその花音を検証しようと、集音マイクを立てて番組にしました。その時は、聞こえたような聞こえないような、かすかに空気が揺らぐような、そんな微妙な「音」でした。番組のディレクターがたまたま知り合いだったので確認したところ、「カキツバタの花音は、開くときに花弁がずれる音だと推測しマイクを立てましたが、現場では聞こえませんでした」とあっさり。ハイテク機器を持ってしても、実際の音にはならなかったのです。

風流という金沢人の楽しみ方
 でも、よく考えてみれば、早朝に集まる人々にとってはカキツバタの花音がしたか、しなかったは別にして、「兼六園にカキツバタの花音を聞きにいく」と家族に告げて早朝の散歩に出かけます。それだけでいいのです。兼六園がある金沢らしい風流な暮らしぶりの一端だと思えば、この話に角は立ちません。兼六園の楽しみ方を金沢の人は知っているのです。(このシリーズ終わり)

※「兼六園の楽しみ方」は、5月18日付の朝日新聞石川版・広告特集「兼六園への誘い」に執筆した原稿を一部手直しして掲載しました。

⇒18日(水)午前・金沢の天気

☆兼六園の楽しみ方③

☆兼六園の楽しみ方③

兼六園を造営した代々の加賀藩主は植栽の色や形の違いにこだわりました。たとえば桜だけでも20種410本に及びます。一重桜、八重桜、菊桜と花弁の数によって分けられている桜。中でも「国宝級」は曲水の千歳橋近くにある兼六園菊桜(けんろくえんきくざくら)です。そのまま学名にもなっています。
二代目「菊桜」も見事に咲く
 「国宝級」というのも、国の天然記念物に指定されていた初代の兼六園菊桜(樹齢250年)は昭和45年に枯れ、現在あるのは接ぎ木によって生まれた二代目です。二代目であっても、花弁が300枚にもなる生命力、咲き始めから散るまでに3度色を変える華やかさ、そして花が柄ごと散る潔さは変わりなく見事です。
兼六園菊桜

 「唐崎松」の二世はクローン
兼六園の名木、特にマツは樹齢150年を経ているものばかりで、いつかは枯れます。そこで、兼六園の管理する石川県は、県林業試験場と独立行政法人「林木育種センター関西育種場」(岡山・勝央町)に依頼し、松の名木のクローン増殖を行っています。クローンの苗木は接ぎ木方式で育成されていて、この方式だと、もとの木の性質を遺伝的に引き継ぐため、名木の後継種として活用できるそうです。現在増殖に成功しているのは雪吊りで有名な唐崎松や、お花松、根上松、巣ごもり松など。兼六園管理事務所はクローン苗木を「後継木」として仮置きして育て、次の出番を待ちます。出番と言っても数十年から数百年という長いスパンの話です。

⇒17日(火)午前・金沢の天気 

☆兼六園の楽しみ方②

☆兼六園の楽しみ方②

 金沢市にある国の特別名勝・兼六園でもっとも古い建物が茶亭「夕顔亭(ゆうがおてい)」です。この茶室から滝を見ることができるので、別名「滝見の御亭(おちん)」とも呼ばれています。
「利家、居眠りの柱」 

 この夕顔亭の見本となったといわれるのが、京都の茶道・藪内家の「燕庵(えんなん)」という茶亭です。かつて藪内家の若宗匠、藪内紹由氏に取材したことがあり、そこで出た話です。藪内家には、「利家、居眠りの柱」とういエピソードがあるそうです。京の薮内家を訪れた加賀藩祖の前田利家が燕庵に通された時、疲れがたまっていたのか、豪快な気風がそうさせたのか、柱にもたれかかって眠リこけてしまったというのです。こうした逸話が残る燕庵を後に利家の子孫、11代の治脩(はるなが)が1774年に燕庵を模してつくった茶亭がこの夕顔亭です。おそらく、治脩も利家の居眠りの話を聞いたに違いありません。そして、「ご先祖さまはなんと…」と苦笑したことでしょう。

デザインの著作権にまつわる約束事

 この夕顔亭をつくる際、薮内家と加賀藩には一つの約束事がありました。茶器で有名な古田織部が指導してつくったこの由緒ある茶亭を簡単に模倣させる訳にはいかない。そこで、もし燕庵が不慮の事故で焼失した場合は「京に戻す」という条件で建築が許された、との言い伝えです。知的財産権の観点からいうと、広い意味での「使用権」だけを加賀藩に貸与したのです。もちろん、契約者の前田ファミリーは明治維新後この夕顔亭を手放し、今では石川県の所有になっていますので、その約束事は消滅したといえるでしょう。

 知的財産権という法律は当時なかったにせよ、「知財を守る」という精神は脈々と日本の歴史の中に生きていたということでしょう。この苔むした古い茶亭にはそんな現代に通じるエピソードがあったのです。 

⇒13日(金)午前・金沢の天気 

★兼六園の楽しみ方①

★兼六園の楽しみ方①

 金沢の兼六園は意外にも雨で映える庭だと思っています。散歩しながらそのように感じることがよくあります。ついでに私なりの兼六園の楽しみ方をいくつか紹介します。

  大人の時間が流れる「時雨亭」

 兼六園で大人の作法が楽しめるのが茶室「時雨(しぐれ)亭」です。ここで味わう抹茶は心が和みます。茶席の静寂、広がる庭園、洗練された作法、季節の和菓子など「完成された文化」を感じさせます。最近、和装の女性からお辞儀をしてもらったことはありますか…。これだけでも感動ものです。大人の時間が流れます。

 次は、この茶室を出て銅像を眺めましょう。実はこの銅像は世界的に有名です。世界で最もばかばかしいと認められる業績に贈られる「イグ・ノーベル賞」(米ハーバード大学制定)の2003年度授賞者が金沢大学の広瀬幸雄教授です。「金沢市内のブロンズ像がハトに人気のない理由の化学的考察」のテーマで化学賞を受賞。この研究テーマとなった「金沢市内のブロンズ像」が兼六園の日本武尊(やまとたけるのみこと)の銅像なのです。兼六園の周辺にはカラスやハトが多いのに、なぜ日本武尊にはこれらの鳥が止まってないのだろう、なぜカラスやハトのフンの汚れがないのだろうと、広瀬氏は兼六園を散歩しながら考えたそうです。平成の改修工事の際、銅像の成分を調べたところ微量のヒ素が含まれており、この「ヒ素のにおい」を鳥が嫌うという「世界的な発見」になったというわけです。

 日本武尊を見上げてみよう  
  
 兼六園に詳しい下郷稔さん(元兼六園管理事務所長)の話では、この改修の際に「巨大なブロンズ像は兼六園にふさわしくない、園外に移設を検討しては」との意見が文化庁からあったものの、下郷さんたちが「慰霊碑には歴史的な意味があり、台座の石積みにも価値がある」と断ったそうです。結果的に、この銅像に思わぬ価値が生まれ、残してよかったというわけです。兼六園にお立ち寄りの際は、本当にカラスやハトが止まっていないか、検証してみてください。これが兼六園の私流の楽しみ方です・・・。

→12日(木)午後・金沢の天気 

★仕掛け人がいる美術館

★仕掛け人がいる美術館

 オープンから7ヵ月、金沢市の「金沢21世紀美術館」がゴールデンウイーク期間中に80万人に達した。当初、年間の予想入館者数30万人と市は公言していたので、その数字を軽くクリアして初年度で3年分以上の数字を稼ぐ計算になりそう。
宇宙船のような外観 

 では、なぜこれだけの人が入るのか分析してみる。まず、壁面総ガラス張りの宇宙船のようなデザインの建物そのものがアートであり、話題性がある。この建物で、建築家の妹島和世さんと西沢立衛さんが去年9月、ベネチアビエンナーレ第9回国際建築展で金獅子賞を獲得している。その評価を受けて、最近でも、一般向けの建築・デザイン誌「カーサブルータス」や専門誌「建築技術」の表紙を飾った。

 もう一つの大きな理由が「仕掛け人」の存在だろう。館長の蓑(みの)豊さん。金沢生まれ、慶應義塾大学(美学美術史)、米国ハーバード大学大学院を修了し、シカゴ美術館東洋部長などを歴任、現在、全国美術館会議会長も務めている。その華麗な経歴に似合わず、話し振りは「人懐っこいオヤジさん」という感じ。アイデアやユーモアがポンポンと飛び出す。たとえば、館内にはこの建物に工事にかかわった2万人の名前を金属板に刻んで掲げてある。「その家族や兄弟、子孫が名前を見に足を運んでくれる。いいアイデアでしょう」とニヤリ。過日、蓑さんから直接聞いた話である。そうした「にぎわい」を創出するアイデアと実績が買われ、この4月から金沢市助役に抜擢された。その手腕に期待したいところ。

 ちなみに、この21世紀美術館には総工費113億円がつぎ込まれた。収入は年1億5千万円と見込むものの、管理運営費は年7億4千万円を予想、差額の5億9千万円は市の一般財源から毎年補填していくことになる。

⇒8日(日)午前・金沢の天気

☆九谷焼、創作という裏技

☆九谷焼、創作という裏技

 九谷焼の掘り出し物を並べる「九谷茶碗まつり」(5月3日-5日)は好天に恵まれたせいもあって盛況でした。でも、よいものはやはり高い。「掘り出し物にめぐり合えるチャンスはそうない」と自分に言い聞かせ、今年も何も買わずに会場を後にしました。帰途、九谷焼資料館に立ち寄り、古九谷、吉田屋窯、永楽窯など草創期から現在にいたる作品を鑑賞したのですが、人間とは不思議なもので、見ただけで何となく描ける気分になるものです。そこで、絵付けができる九谷焼陶芸館に立ち寄りました。
絵付け風景

 ここで400円の白磁の小皿を買い、色とりどりの絵付けが楽しみました。この後、同館ではそれを800-1000度の上絵窯で焼成します。2週間ほどで出来上がるそうです。これでオリジナルの「マイ九谷焼」が完成というわけです。なにしろ値段が安い。制作費は小皿の値段400円だけです。19種類の白磁の器が用意されていて、大皿で1300円、花生け600円、ワイングラス700円などどれも手ごろ値段です。器そのものは九谷茶碗まつりで市価より安いと見ました。

 絵心のある人なら、店で九谷焼を買うより陶芸館で自分で絵付けをして作ればどうでしょう。楽しみが倍に膨らむというものです。絵付けのほかに手びねりやロクロ成形のコーナーもあり、作陶気分がより深く味わえます。九谷焼を創作する、これは裏技かも知れません。【九谷焼陶芸館・℡0761-58-6300】

⇒6日(金)午前・金沢の天気

☆オトナの休日を過ごす

☆オトナの休日を過ごす

 《「サライ」風に》
 このゴールデンウイークに金沢の東の茶屋街の一軒家でつかの間の休日を過ごした。築140年の民家である。庭木を眺めながら、季節が春から初夏に移ろう時の流れを楽しむ。部屋の隅には季節の生け花もさりげなく飾られ、[もてなす人]の気遣いが伝わる。携えてきたお気に入りの万年筆と和紙の便箋を取り出し、[ある人]に文をしたためる。内容などは言えるはずがない。ここにはオトナの時空が流れているのである。

 この家を出て小路を30㍍ほど歩くとポストがある。手紙が落ちたポトリという音に安堵する。小路を引き返し右の小路を曲がると評判の甘味処がある。誘惑にかられてのれんをくぐるとほのかに香水の匂いがした。ひょっとして私の前にのれんを分けたのは東の芸妓(げいこ)さんかしらと一瞬想像した。白玉クリームあんみつを注文する。隣の席には、修学旅行とおぼしき女子高校生が2人。携帯電話を盛んに弄んでいる。この少女たちは携帯電話を手放さない限りオトナにはなれないかもしれない、と案じた。ともあれ、運ばれてきた白玉クリームあんみつの白玉が芸妓さんのかんざしと重なって見えたのは気のせいか。想像力がたくましくなければオトナになれないのである…。(写真は「金沢市東茶屋街の休憩所」・無料)

★ベトナムのフォーを食す

★ベトナムのフォーを食す

 金沢の近江町市場はいろいろな食材がそろっていることで有名。先日、散歩を兼ねてぶらぶらと歩いていると、アーケード街の入り口にベトナム麺の店があるのを見つけ、「さすが近江町、なんでもある」と感心しながら店に入った。

 店のメニューはフォー・ハイノ風(500円)とフォー・サイゴン風(同)の2種類。ちなみにハノイ風は塩味でさっぱり風味、サイゴン風はシナモン入りの香辛料をベースに甘味だ。ハノイ風を注文した。フォーは麺のことで、ベトナム米を石うすで粉にし、水で溶かしたものをクレープ状に広げ、蒸して刻んだもの。薄く透き通った麺は、まるでベトナム女性が着るアオザイのようにまぶしい。

 理屈よりまず汁の味から。あっさりした塩味に蒸し鶏が合う。さらにエスニック気分を味わうために、香草のパクチャーやベトナムの魚しょうゆ「ヌクマム」、ニンニクと唐辛子の漬込み酢「ザンムアット」をどんどん入れていく。店長によると、金沢の情報システムや建築材を取り扱う会社の社長が進出したベトナムでこの味にほれ込んで開店したのだとか。

 一気に食べたせいか、ちょっと物足りない。「無料で替え玉」と貼り紙があるので、麺だけを追加注文した。実は、食感がよい麺なので、ヌクマムだけをかけて食べたらどうか、つまり、讃岐うどんに生しょうゆだけをかける食べ方でどうかとひらめいたのである。能登半島にはイシルというイカやイワシを材料にした魚しょうゆがあり、金沢でも販売されている。少々生臭いが独特の風味がある。店長は「ベトナムではそんな食べ方しませんね。熱いのをツルツルとやってますよ。でも、試してください」と快く出してくれた。

 いよいよ、ベトナム人も試したことのない食べ方に挑戦。フォーにヌクマクを円を描くようにして少々たらす。まるで、道を歩く真っ白なアオザイの女性に、後ろからきたバイクが水溜りの泥水をひっかけたようだと想像しながら、薄く茶色に染まったフォーを口にはしを運んだ。「これはいける」と思わず。予想していた通り、のど越しといい、ヌクマクと麺の絡まりといい、絶妙なのだ。欲を言えば、フォーを冷水で洗って出してもらえばさらに食感は増したはず。試したという満足感と、満腹感は十分だった。そして、フォーにちょっと恋をした気分になって店を後にした。