☆文明論としての里山7
「もったいない」という言葉はいま様々に使われている。環境、省エネ、ライフスタイル、道徳、躾(しつけ)などの場面で登場する。もともと、「もったい」は「勿体」、つまり「物の形」「物のあるべき姿」である。それが「ない」。つまり、「物のあるべき価値が失われる」というふうに自分なりに解釈している。
転換期のニューカマー
痛切に感じる「もったいない」は「土」と「人」の失われた関係である。耕作放棄地や荒れ放題の山々を見るがいい。祖先は生きる糧を食料に求め、開墾し耕した。心血を注ぎ、田を耕し命をつないできた。それを子孫はあっさりと捨てて都会に出て行く。労働と引き換えに貨幣を得て、商品を得る。コマーシャルリズムに踊らされて、トレンドだ、ブランドだと物への欲望をかきたてる。商品取引イコール経済活動という交換経済の中に埋没していた。
こんな話を耳にした。いわゆる「団塊の世代」の男性。地方出身で都会で会社定年を迎え、改めて生まれ故郷を見渡すと、山河が荒れ放題になっていた。「これまで薄っぺらな都会の消費生活に惑わされていた」と気づいた。「我々の同年代は元気だと世間ではいわれるが、故郷に帰って田畑を耕したり、山を整備する元気はない。田舎に帰ろうにも家族の同意が得られない。同じように悩んでいる地方出身者は多い」と自らの無力感を語って見せた。
いまの日本を覆う「乾いた雰囲気」は、危機感の前兆だと考えている。物欲に熱狂していた、ほんの数年前まではよかった。それが、金融資本主義が空虚な「ババ抜き」だったと露呈した「リーマン・ショック」(08年9月)の連鎖反応ですさまじい経済不況がやってきた。商品が買えなくなり、熱狂が冷めた。将来の人生と生活をどうすればよいのかと漠然とした不安が若者の間に巻く。前述の団塊の世代が感じ始めている自らの無力感、そして若者が感じている漠然とした不安感がない交ぜになって、日本を「乾いた雰囲気」を覆う。
デフレスパイラル。人々は、これまで享受してきた「日本の富」は減少し、復活はないと感じ始めている。日本だけではない。リーマン・ショックの震源地アメリカや、ヨーロッパの人々もおそらく感じているだろう。上り調子のインドや中国などは自らの旺盛な物欲で経済が回ってはいるが、早晩「バブルのツケ」も回ってくる。
「真の豊かさ」とは何か。人間の生きる価値とは何か。人々がずっと追い求めてきたテーマが戦後の振り出しに戻った。そんな感じである。しかし、次にくるのは危機感だ。これまでの「富の源泉」が一体どこから来ていたのか、人々が考えたとき、そこが荒れ果てた姿になっていて愕然とするだろう。農地、川、山のことである。
最近面白い現象が起きている。農業に関心を持つ若者が増えている。能登半島。金沢大学が実施している、農林水産業の環境人材を育てる「能登里山マイスター」養成プログラムでは現在40人の社会人が学んでいる。そのうちの7人は東京や名古屋といった都会からの移住組である。彼らは自分の体を使い、労働を介して自然とつながれば生きていける、あるいは富の源泉である自然とかかわることで新たなビジネスを始めたいと能登半島にやってきた。それは人間の本来の、自然とかかわり産み出すという本能的な感覚だ。私は彼らを「ニューカマー(newcomer)」と呼ぶことにしている。土地は不動であり、そこを行き交うのは人々である。土地に魅力を感じなくなった人々がその土地を去った後、「もったいない」と荒れ果てた土地を再び開墾するためにやってきたパイオニアである。
これは予兆ではないかと考えている。金沢大学の能登プログラムだけで7人である。この若者の「帰農現象」は福島県や山梨県などで顕著で、全国規模だとおそらく数千人規模で起きているのではないかと推測している。さらにこの現象は加速し、近未来で数十万人にブレイクするのではないか。文明の転換期に繰り返されきた人々の移動ではないか、そんなふうに直感する。
⇒10日(日)夜・金沢の天気 くもり
白山ろく、旧・白峰村(現・白山市)に焼き畑の伝統技術を現代に伝える人たちがいる。焼き畑の研究をしている橘礼吉(たちばな・れいきち)氏からこんな話を聞いた。「かつて焼き畑は原始的、粗放的な農耕といわれてきたが、そうではない。循環型の、持続可能な農法なのです」と。焼き畑というと、森林破壊の元凶とのイメージを持つ人が多い。化学肥料をまいて、その土地が持つ地力以上の農産物を搾り取るのが近代農業だ。焼き畑はそうではなく、地力を生かした農業であり、休閑地を設けて自然な森林の再生を促す。ヒエやアワをつくり、木から道具をつくる。炭を焼く、薬草を採取する。
前回述べたように、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。環境省がG8環境大臣会合(08年5月)で採択された「生物多様性のための行動の呼びかけ」を受け、「実行のための日本の約束」として「SATOYAMA=里山イニシアティブ」(以下「里山イニシアティブ」)を打ち出した。生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏は、人と自然が共生するモデルとして描く里山イニシアティブに対し、「日本は成長を続けて現代的な社会を形成した一方で、文化や伝統、そして自然との関係を保ってきた。そのコンセプトは世界で有効であり、日本の経験に大きな期待が集まっている」(COP9での発言)と、条約事務局として支援を表明している。2010年10月にCOP10が名古屋市で開催されることもあり、日本発の<SATOYAMA=里山>は国際会議のキーワードになりつつある。
さらに、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。その認知度を一気に高めたのが、生物多様性条約第9回締約国会議(CBD/COP9、ドイツ・ボン)で日本の環境省と国連大学高等研究所が主催したサイドイベント「日本の里山・里海における生物多様性」(2008年5月28日)だった。スピーチの中で、環境省の黒田大三郎審議官(当時)らが「人と自然の共生、そして持続可能社会づくりのヒントが日本の里山にある」と述べ、科学者による知識と伝統的な自然との共存を組み合わせることを目的とした「里山イニシアティブ」を生物多様性の戦略目標として提唱した。さらに、石川県の谷本正憲知事は「石川の里山里海は世界に誇りうる財産である」と強調し、森林環境税の創設による森林整備、条例の制定、景観の面からの保全など具体的な取り組みを紹介した。
日本でも食の問題が起きた。どこの国で生産されたのかも不明な食材や加工食品を、安全性を二の次にして安価というだけで市場に流す。そのため価格では太刀打ちできない国内の小生産者は生産を止め、地域そのものが疲弊していく。地域の労働の担い手は都会に出て行く。土地を離れた労働者は現金収入によって生活をする非熟練労働者になる。彼らを待ち受けているのは結局、失業と貧困である。 これまで、「国民の経済」に歪みや偏りが起こると政府は、税金や補助金や社会保障給付というカタチで所得の再配分を行ってきた。ところが、一部を除いて世界的な不況となると自動車産業などグローバル企業でさえ赤字決算に陥る。日本を始め欧米は軒並み巨額な国債発行で財政をしのいでいが遅かれ早かれ国家自体が破綻する。民主党政権が、郵貯の民営化にストップをかけたのも、再び郵貯を「国債消化機関」として復活させようとしているからだとの見方もある。資本主義だけではなく、政治も国家も疲弊している。
プロテスタントの教義は、身分は低くとも自分の仕事に誇りを持って専念しなさいと人々を諭した。これがカルヴァンが説いた予定調和説の「あらかじめ神が決めたこと」だ。プロテスタントの教会には階級序列がなく、人々にも上昇志向や贅沢志向というものがなかった。こうした生真面目な精神性が、高い生産性と「働いて貯める」倫理を生みだし、それが資本主義の蓄積へと間接的に連なって行く。一方、カトリック社会では階級序列があり、より高い階級へ上昇できる可能性がある。すると、今の仕事はより高い地位に就くための通過地点にすぎないと考える人々は実入りのよい仕事に目を向け、現状の仕事に専念しなくなる。その結果として生産性は低くなる、とウェーバーは分析したと覚えている。
東大のイチョウは校章にもなっているだけあって、キャンパス全体を黄色く染めるくらい本数は多い。そのイチョウと赤門がコントラスを描いて、これも見ごたえのある風景だ。青森から訪れたという女子高生が記念撮影に夢中だった=写真=。
豆腐といえば四角とだいたい相場は決まっている。中に、能登の「ちゃわん豆腐」のように丸型もある。この豆腐はなんとサーフボード型なのだ。ネーミングが面白い。「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」。2パック入っていて298円だ。受け狙いの流行商品だろうと思ったら、商品開発に5年も費やしたこだわりの味だという。味は濃厚でまるでクリームチーズかプリンのようだ。
ニュージーランドの経済の中心地オークランドの街を歩くと、不思議なことにマネーの活況ほどに街は騒がしくないのである。投資家の間では有名なニュージーランドドル建て債券は5%~6%を維持している。それだけ高金利で世界中からマネーを集めているので、さぞ都市開発も盛んだろうと思い、ホテルの部屋(18階)から街を見回してみた。クレーンが立っているのを確認できたのは2カ所だけ。ホテルの周囲は新しい高層ビルが建ち並んでいるので開発ブームは過ぎ去ったという感じだ。
それではどこに投資の金が回っているのかと思う。確かに、ハントリーでは新しい石炭火力発電所が建設されるなどインフラ投資が行われている。また、クイーンズタウンのリゾート開発にもマネーが回っているのだろう。しかし、現実をよく見ると「祭りは終わった」という印象だ。そのせいか、ニュージーランドドルは下落している。去年11月末には1NZ㌦=87円だったレートは、12月末に80円程度まで下落し、ことしに入って72円程度まで下がり、今月76円で持ち直してはいる。もともと市場規模が小さく急降下しやすいのだ。
新聞で「BBQ is kiwiana」という文が目に止まった。BBQはバーベキューのことなので、バーベキューならキーウィの肉、かといぶかった。このKiwianaを英和辞書で検索しても出てこないので、現地の日本人ガイド氏に聞くと、笑いながら「そうですね、日本語で近いのは『ニュージーランド名物』とでもいいましょうか…」、「あえて訳せば『バーベキューはニュージーランド名物』ですね」と。
ランドの先住民であるマオリ族からキーウィと名付けられたそうだ。ニワトリくらいの大きさで、飛べない。たくましい脚を持ち、速く走る。しかし、ヨーロッパからの移民とともにやって来たネコやネズミなどの移入動物の影響でキーウィは一時絶滅の危機に瀕したこともある。体の3分の1ほどの大きさの卵を抱くのはオスの仕事である。そこで、kiwihusband(キーウィハズバンド)と言えば、面倒見のよい夫のたとえだとか。