★文明論としての里山12
2009年5月23日、生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏が金沢大学を訪れ、小学生や学生たちと「グリーン・ウェイブの日」を記念して植樹をした。その際のジョグラフ氏の記念スピーチは自然破壊を戦争になぞらえた刺激的な内容だった。前回に続きジョグラフ氏のスピーチ(抜粋)を紹介する。(※写真はスピーチをするジョグラフ氏=09年5月23日・金沢大学)
続・ジョグラフ氏のスピーチ
I think the charter establishing the United Nation Education Science and Culture UNESCO provide that it is in the mind of the mankind that the seeds of war are planted and it is also in the mind of mankind that the defense for war are also needed. I am making this because I think there is a close relation between science, education, and culture and there is a very close relation between culture, nature, and biodiversity. And UNESCO has been established after the Second World War to prevent future war and I think today war has another name and it is the disruption of nature.
ユネスコ(国連教育科学文化機関)設立の憲章は「戦争の種が植えつけられるのは人類の心の中のである。また戦争防止が必要なのも人類の心の中である」とうたっています。今憲章を取り上げたのは、科学、教育、文化がそれぞれに深くかかわりがあり、また文化、自然、生物多様性もとても深くかかわっていると思っているからです。ユネスコは第二次世界大戦後に設立され、その目的は将来起こりうるかもしれない戦争を防ぐことです。今日、戦争は別の名前を持っています。それが自然破壊です。
So, we need to plant the seeds of stopping this war in the mind and in the soul of the people in order to promote the peace with nature and in order to promote I think a new culture, a new science, and the new education which will allow the elite of today and tomorrow to be prepared to build a sustainable future and the future in harmony with all living species including one species, we human being.
この自然破壊と呼ばれる戦争を止める種を、人々の心の中に植え付けなければなりません。自然と共に平和を目指し、新しい文化、新しい科学、新しい教育を目指します。この新しい文化、科学、教育がすすめられていく中で、今日のリーダーたち、また将来のリーダーたちが持続可能な未来を構築し、人類という種を含めて、すべての生物種が調和して共存できる未来を構築してくことでしょう。
I think in the 80s the Secretary General of the UN has said that the new name for peace is development. I think today the new name of peace is sustainable development and you cannot achieve sustainable development without protecting biodiversity. It is not I think fortuitous that the Nobel Peace, the institution has awarded in 2004, the Nobel Peace Prize for the first time to an environmentalist Madam Wangari Maathai and in 2007 to IPCC and former vice president of the US Al Gore. Therefore, to build this new peace and the new sustainable development the education and science and culture have tremendous role to play.
1980年代に国連事務総長は度々「平和の新しい名前は発展だ」と話されました。私は平和の新しい名前は「持続可能な発展」だと思います。生物多様性を守らなければ持続可能は発展に到達することはできません。その証拠に、2004年のノーベル平和賞は、初めて環境にかかわってきた人に授与されました。ワンガリ・マータイさんが受賞したのです。また2007年にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)とアル・ゴア アメリカ合衆国副大統領が受賞しています。ですからこの新しい平和と新しい持続可能な発展を構築するため、教育、科学、文化が大切な役割を果たさなければなりません。
Therefore, each time I have the immense privilege of visiting a university I feel very humble. Because it is not only I think a temple or a mosque or a church of knowledge, but I think it is also the needs of the construction or the establishment of a responsible elite and we all know the role and the responsibility of the elite of any country. Indeed in the theory of Antonio Gramsci about the organic and the traditional intellectual, the intelligentsia of any country so those who have been privileged of being educated have an historical responsibility towards the future of that nation.
私は大学を訪問するすばらしい機会を与えられる度に、謙虚な気持ちになります。知識の神殿のような場所です。責任あるリーダーを育てる必要があります。どの国であっても、国を引っ張っていくリーダーたちの果たす役割を私たちはみんな知っています。アントニオ・グラムシ(20世紀のイタリアの思想家)の「有機的知識人と伝統的知識人に関する理論」にあるように、「幸いにも教育を受ける機会に恵まれた知識人は自国の未来に対し歴史的な責任がある」のです。
So Nakamura-san, I wanted to thank you very much for giving me the privilege of being with you in this I think prestigious temple of knowledge which has I think merit the tradition like this building 300 years and modern science.
中村学長、このようなすばらしい知識の神殿とも言える大学で、ご一緒させていただき本当にありがとうございます。これこそ、築後300年のこの古い建物と、大学で教えられている現代科学との融合にふさわしいものです。
So, for us the implementation of the convention that we call it the convention on life on earth which has three objectives; conservation, sustainable use and fair and equitable sharing cannot be achieved without the unique and distinct contribution of the scientific community and the new elite that is to save yourself.
生物多様性条約を私たちは地球上の生命に関する条約と呼んでいますが、その実行において3つの目的があります。保護管理、持続可能な使用、公平に分かち合うこと。科学分野と新しいリーダーのユニークで明確な貢献があれば、この3つは達成できます。それがあなた自身を救うのです。
Indeed, I think the challenge you know it is immense and I think it is unprecedented. The loss of biodiversity component by climate change I think require more than ever the mobilization of the science community in order to address this challenges that are really unique and unprecedented and new to the mankind. New science is emerging, new ecosystem are emerging, older are being destroyed and therefore more than ever we need the brain to predict and to guide the implementation of future action of the policy makers.
私たちに課せられた課題は、計りしれないほど大きく、先例のないものです。生物多様性をつくりあげている構築要素は気候変動によって失われつつあります。今こそ科学界を総動員し、人類にとって前代未聞の課題に取り組まなければなりません。新しい科学、新しい生態系が出現しています。古いものはこわされていきます。今こそ私たちには未来の活動を実行に移す、予測や指導のできる政治家たちの頭脳が必要なのです。
Therefore on 20th September 2010 and for the first time in the history of the international organization, there will be one day heads of the states and the heads of government meeting exclusively devoted to biodiversity and the preparation of the Nagoya Summit in October 2010.
2010年9月20日に、国際機関の歴史上はじめて、世界中の首長たちが生物多様性のためだけに集い、2010年10月のCOP10名古屋サミットの準備をします。
As we know when my bosses involve I get anxious and of course I make sure that the files are well prepared because he will be interested to know if I have done a good job or not. So therefore it is extremely important for the heads of states to engage in this battle for life on earth and this is what the Nagoya Summit will be about and this is what the New York Summit will be about.
ご存じのように、上司がかかわる会議では、資料が充分に準備されているか心配になるものです。上司は私がちゃんと仕事をしているかどうか知りたいでしょうから。ですから首脳たちがこの地球上の生命戦争ともいうべき問題にかかわっていくことが、非常に大切なのです。名古屋サミットとニューヨークサミットはそんな大切な会議となるでしょう。
But this is not enough, we need also those who are involved at local level because as you know action are taking place at local level. So, there would be a summit of cities and biodiversity in Nagoya and we expect more than 300 cities mayor to be there and it will be the first time that we have mayors and the cities and local authorities of the world engaged in the implementation of the Convention on Biological Diversity.
しかしこれではまだ十分ではありません、行動を起こすのは地方レベルなので、地方レベルでかかわる人々が必要です。名古屋で「市と生物多様性サミット」が行われ、300以上の市長たちが集うでしょう。はじめて世界中の市長たちや地域の首長たちが生物多様性の実行について話し合うことでしょう。
We need the laws and we need the regulations so we need to involve the parliamentarian and to educate the parliamentarian about biodiversity. And there will be with GLOBE International and the Diet a meeting of the parliamentarian and biodiversity in Nagoya. We need also money and there would be a meeting the first ever forum on bilateral and multilateral donor agency and biodiversity. And we need those that are involved in the economic sectors, the companies so with Keidanren, there will be also a meeting on business and biodiversity. So, in Nagoya we hope to achieve a global alliance of all stakeholders for life on earth.
法律や条例が必要です。国会議員を巻き込み、生物多様性についてもっと知ってもらう必要があります。GLOBEインターナショナルと国会の協力でCOP10名古屋では、「国会議員と生物多様性」の会議が開かれるでしょう。金銭的サポートも必要です。二ヵ国間、多国間の金銭的サポート提唱団体と生物多様性を議題に、はじめてのフォーラムが開かれるでしょう。財界、企業、経団連などを巻き込むことも必要です。「ビジネスと生物多様性」の会議も開かれます。名古屋では地球上の生命にかかわるすべての関係者の地球規模の連携が実現することを望んでいます。
These will take place while the world would celebrate for the first time also an international year on biodiversity starting from 1st January to 31st December 2010. So, these will culminate here in Ishikawa, Kanazawa with the closing ceremony in December 2010 of the international year on biodiversity. We will not only close the international year, but we will launch a new international year on forests.
世界が2010年1月1日から12月31日まで、はじめて国際生物多様性年を祝う間に、これまで話してきた会議が次々と開かれるでしょう。そのハイライトである閉会式は、2010年12月に、ここ石川県金沢市で開かれるでしょう。この機会は、国際生物多様性年を閉会するだけでなく、2011年の国際森林年の開始も兼ねています。
So, I wanted to pay tribute to Japan, to Japan as authorities, but Japan as civil society, Japan as university, Japan as citizen and Japan as students and I wanted to thank all of you for welcoming the world here in Kanazawa in December 2010 to share the experience of Japan, but also to provide leadership through you and through the universities because you are the elite of tomorrow. So, thank you very much for this unique opportunity to be with you this morning.
日本に、また日本の政府、市民社会、大学、市民と学生たちにお礼を申し上げます。みなさんが2010年12月にここ金沢へ世界をむかえてくださることに感謝します。日本のこれまでの経験をみなさんと大学と共有し、リーダーシップを発揮することができます。みなさんは明日のリーダーですから。今回このような貴重な機会をいただきありがとうございます。
⇒16日(火)夜・金沢の天気 ゆき
ことしは国際生物多様性年。金沢市で開催された「にほんの里から世界の里へ」と題したシンポジウム(10年2月6日・金沢市)はその幕開けにふさわしいシンポジウムだったと言える。このシンポジウムに生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏がビデオ・メッセージを寄せた。(※写真は、金沢大学で学生や子供たちと記念植樹したジョグラフ氏=中央、09年5月23日)
過疎・高齢化と都市化のはざまで、なお、健やかな人の営み、美しい景観と生き物のにぎわいを保っていると思われる各地の里を、森林文化協会と朝日新聞社が100ヵ所選び、「にほんの里100選」とした。いくつもの里が、自らの里の営みが持続してきた自然、文化、景観の価値に気付き、里に暮らすことへの誇りを取り戻そうと動いている。8つの事例発表があった。長野県上村下栗の里は傾斜地30度、「日本のチロル」と呼ばれる。昭和40年代の写真を基に景観修復と生活文化の継承を目指す地域住民の憲章作りが話題に上っている。山梨県増富の里では、都市との交流の中で、バイオマスや小型の水力発電を使ったエネルギー自給自足の試みが進んでいる。企業CSRを受け入れ、企業による復田や耕作が始まっている。岩手県萩荘・厳美の里では、連続するため池群の保全、外来種への対応など、生物多様性保全・再生に向けた地域住民主体のボトムアップ型の取り組みが始まっている。「自治会生態系規則」を議決し、生態系に支えられた1次産業再生を実践する瀬戸内海、山口県祝島の里では、誇りある島の暮らしの持続を目指す。セミナーでは、自然に人が働きかけることで、変化しながらも一定の持続的な表情を保っている里山・里海モデルの意味をアピールした。「里」はしぶとく、たくましく生きている。
かつて父親から聞いたこんな話を思い出す。「大本営」という日本軍の司令塔があった。父親が赴いた仏印(ベトナム)など前線では戦局が悪化し、兵力・兵站(たん)は絶たれ、餓死者も出ていた。終戦間際のそんな状況にあっても、大本営のスタッフは「わが皇軍は勝利せり」と発表して、夕方6時の退社時には帰宅していた。父親の話はここまでである。ここからは私の考えだ。国民はその発表を信じて喜び勇んでいた。おそらく当初は、大本営は国民に動揺を与えないためにあえて戦局の悪化を伝えなかった。それが慣れっこになると国民を鼓舞するために話を次々と作り出して、国民を欺くようになった。戦地に物資を供給する国民も生活が苦しいので、大本営の「つくり話」にも耳を傾け安堵を得た。それが限界点に達したころ、沖縄戦線や原爆投下で現実が露呈すると今度は「一億総玉砕」へと自死を強いるようになる。現実に戻った。
痛切に感じる「もったいない」は「土」と「人」の失われた関係である。耕作放棄地や荒れ放題の山々を見るがいい。祖先は生きる糧を食料に求め、開墾し耕した。心血を注ぎ、田を耕し命をつないできた。それを子孫はあっさりと捨てて都会に出て行く。労働と引き換えに貨幣を得て、商品を得る。コマーシャルリズムに踊らされて、トレンドだ、ブランドだと物への欲望をかきたてる。商品取引イコール経済活動という交換経済の中に埋没していた。
白山ろく、旧・白峰村(現・白山市)に焼き畑の伝統技術を現代に伝える人たちがいる。焼き畑の研究をしている橘礼吉(たちばな・れいきち)氏からこんな話を聞いた。「かつて焼き畑は原始的、粗放的な農耕といわれてきたが、そうではない。循環型の、持続可能な農法なのです」と。焼き畑というと、森林破壊の元凶とのイメージを持つ人が多い。化学肥料をまいて、その土地が持つ地力以上の農産物を搾り取るのが近代農業だ。焼き畑はそうではなく、地力を生かした農業であり、休閑地を設けて自然な森林の再生を促す。ヒエやアワをつくり、木から道具をつくる。炭を焼く、薬草を採取する。
前回述べたように、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。環境省がG8環境大臣会合(08年5月)で採択された「生物多様性のための行動の呼びかけ」を受け、「実行のための日本の約束」として「SATOYAMA=里山イニシアティブ」(以下「里山イニシアティブ」)を打ち出した。生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏は、人と自然が共生するモデルとして描く里山イニシアティブに対し、「日本は成長を続けて現代的な社会を形成した一方で、文化や伝統、そして自然との関係を保ってきた。そのコンセプトは世界で有効であり、日本の経験に大きな期待が集まっている」(COP9での発言)と、条約事務局として支援を表明している。2010年10月にCOP10が名古屋市で開催されることもあり、日本発の<SATOYAMA=里山>は国際会議のキーワードになりつつある。
さらに、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。その認知度を一気に高めたのが、生物多様性条約第9回締約国会議(CBD/COP9、ドイツ・ボン)で日本の環境省と国連大学高等研究所が主催したサイドイベント「日本の里山・里海における生物多様性」(2008年5月28日)だった。スピーチの中で、環境省の黒田大三郎審議官(当時)らが「人と自然の共生、そして持続可能社会づくりのヒントが日本の里山にある」と述べ、科学者による知識と伝統的な自然との共存を組み合わせることを目的とした「里山イニシアティブ」を生物多様性の戦略目標として提唱した。さらに、石川県の谷本正憲知事は「石川の里山里海は世界に誇りうる財産である」と強調し、森林環境税の創設による森林整備、条例の制定、景観の面からの保全など具体的な取り組みを紹介した。
日本でも食の問題が起きた。どこの国で生産されたのかも不明な食材や加工食品を、安全性を二の次にして安価というだけで市場に流す。そのため価格では太刀打ちできない国内の小生産者は生産を止め、地域そのものが疲弊していく。地域の労働の担い手は都会に出て行く。土地を離れた労働者は現金収入によって生活をする非熟練労働者になる。彼らを待ち受けているのは結局、失業と貧困である。 これまで、「国民の経済」に歪みや偏りが起こると政府は、税金や補助金や社会保障給付というカタチで所得の再配分を行ってきた。ところが、一部を除いて世界的な不況となると自動車産業などグローバル企業でさえ赤字決算に陥る。日本を始め欧米は軒並み巨額な国債発行で財政をしのいでいが遅かれ早かれ国家自体が破綻する。民主党政権が、郵貯の民営化にストップをかけたのも、再び郵貯を「国債消化機関」として復活させようとしているからだとの見方もある。資本主義だけではなく、政治も国家も疲弊している。
プロテスタントの教義は、身分は低くとも自分の仕事に誇りを持って専念しなさいと人々を諭した。これがカルヴァンが説いた予定調和説の「あらかじめ神が決めたこと」だ。プロテスタントの教会には階級序列がなく、人々にも上昇志向や贅沢志向というものがなかった。こうした生真面目な精神性が、高い生産性と「働いて貯める」倫理を生みだし、それが資本主義の蓄積へと間接的に連なって行く。一方、カトリック社会では階級序列があり、より高い階級へ上昇できる可能性がある。すると、今の仕事はより高い地位に就くための通過地点にすぎないと考える人々は実入りのよい仕事に目を向け、現状の仕事に専念しなくなる。その結果として生産性は低くなる、とウェーバーは分析したと覚えている。