⇒トレンド探査

★IoTエンターテイメント

★IoTエンターテイメント

   昨日(3月31日)日帰りで東京に出かけた。北陸新幹線で金沢から東京は2時間28分。車中パソコンでメールをやり取りして、新聞を読んで、少々居眠りをして気がついたら大宮駅についていた。東京での打ち合わせ案件の書類に目を通していたらもう東京駅に着いた。東京駅から山手線に乗って渋谷駅に向かったが、車内の中吊り広告や動画ディスプレイはすべて  映画「ゴースト・イン・ザ・シェル(Ghost in the Shell) 攻殻機動隊」だった。見た瞬間、「これってIoTエンターテイメントではないか」と思った。

   「脳をハックするサーバーテロリスト」と衝撃的なポスターのキャッチコピー。これはまさに双方向性的なBMIではないだろうか。BMI(Brain Machine Interface)は神経系統とデバイス(機材)の結合で、脳から機材に指令を出すことで、たとえば義手を動かすことができるようになる(スマート義手)。逆に脳にアプロ-チできるデバイスができれば、脳をハッキングすることもできるのではないかと、本当に怖い話、あってはならないことだが、ひょっとして可能かもしれない、と思ってしまった。原作者のSF漫画家、士郎正宗氏の未来発想力には驚く。

   そこで、映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」のあらすじをウイキペディアで検索すると。「ネットに直接アクセスする電脳技術が発達すると共に、人々が自らの身体を義体化(=サイボーグ化)することを選ぶようになった近未来。脳以外は全て義体化された少佐率いるエリート捜査組織『公安9課』は、サイバー犯罪やテロ行為を取り締まるべく、日夜任務を遂行していた。そんな中、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバー技術の破壊をもくろんだテロ組織による事件を解決すべく・・・」と。

   先の講演(3月27日、元Googleアメリカ本社副社長兼日本法人代表取締役の村上憲郎氏)でも、スマート・アイ(眼球)やスマート・イヤ(耳)に始まり、他の臓器や肢体が機械に置換されるサイボーグ化が進むかもしれない。そして、「最後に残っていた脳ミソがAI(人工知能)に置き換わった時がアンドロイド(人間型の人工生命体)の誕生になる」との話だった。

   村上氏の講演を聞いた後だっただけに、映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」のあらすじにリアリティを感じたのだ。エンターテイメントであってほしい。

⇒1日(土)朝・金沢の天気   くもり

☆人生の決断に「鶏の声」

☆人生の決断に「鶏の声」

   ことしの干支は酉(とり)、動物に当てれば鶏(にわとり)となる。中国では、鶏は夜明けを知らせる威勢の良い鳴き声から、吉兆をもたらすと言われているそうだ。日本でも、鶏にまつわる有名な神話がある。太陽神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、天岩戸(あまのいわと)という洞窟に引きこもり、世が闇夜になってしまう「岩戸隠れ」だ。他の八百万の神々(やおよろずのかみがみ)は天照大御神の気を引いて、洞窟から出そうとする。よく知られている立役者がアメノウズメの踊りだが、闇夜に鳴き声を上げて夜明けを知らせる「常世の長鳴鶏(とこよのながなきどり)」もひと役買った。

  鶏って卵を産むだけでなく、太古から神話にもかかわる貴重な動物だったのだと改めて思いながら、元旦に届いた年賀状(141枚)を読んだ。そして分類してみた。賀状に鶏のイラストで酉年を表現していものが57通、「酉」という文字表現が8通、鶏ではなく鳥類(ツル、トキ、不死鳥、ダチョウなど)で表現しているものが24通、酉とは関係のない「謹賀新年」「富士山」「日の出」「家族」などで表現しているものが51通、残り1通はなぜか豚だった。過半数の89通が酉をイメージした賀状であったことを考えると、干支は今でも賀状に欠かせない年始のあいさつ代わりなのかと思う。

   「鶏」と言えば、実は人生の決断を迫られた思い出がある。50歳のときにテレビ局を辞した。人生の折り返し点で、悩んでいるとき、ある政治家が私にこう言った。「ニワトリのように強制換羽(きょうせいかんう)をしてはいかがですか」と。初めて聞いた言葉だった。

   養鶏業者の間の言葉だ。ニワトリは卵を産み始めてから8ヶ月ほどで卵の質が落ちてくる。この時点で、絶食させる。毛が抜け、衰弱したところでエサを豊富に与えると、また、良質の卵を産むようになる。その政治家は彼なりの解釈を聞かせてくれた。人もまた同じ仕事を続けているといつか周囲が見えなくなったり、アイデアが枯渇したり、その延長線上に嫉妬、やっかみが出てくる。それは人生の劣化の始まりなのだ、と。その年齢が50ごろ。そのとき、「家族が大切…」と言いながら現状を続けるのか、収入減を家族に理解してもらい別の道を歩むのか、それぞれの選択ですよ、と。私の場合、結局後者を選んだ。それから12年、今彼には感謝している。

⇒4日(水)夜・金沢の天気   くもり
   

☆トランプ現象と白人層の閉塞感

☆トランプ現象と白人層の閉塞感

   きょう(8日)からアメリカの大統領選挙の投開票が始まる。大統領選をめぐっては、民主党のクリントン氏、。共和党のトランプ氏の両候補の直接討論などを、日本のメディアもこれまでになく熱心に取り上げてきた。テレビでその様子を見ると、「大統領に不適格」「犯罪者」と非難し合う場面が多々あり、嫌悪感を感じた。日本でこんな選挙討論が放映されれば、おそらくテレビ局に視聴者からの苦情が殺到するだろう。「もっとまじめに政策論争をやれ」と。

   それにしても、FBI(連邦捜査局)に高度な政治判断があったのだろうか。6日という間際になって、FBIはクリントン氏の私用メールに再度問題ありとしていたが、一転して訴追しないと表明した。そのとたんに、トランプ氏の選挙勝利の可能性が薄まり、アメリカでも日本でもメール問題で下がり続けていた株式市場が値を戻した。これも不思議な話だ。当選すれば、株式市場を大混乱させるであろう人物を候補者に押し上げたことだ。「偉大なアメリカ」を選挙公約に掲げているのだから、株価が上がるような強い経済政策を打ち出すべきだろう。

   日本のメディアの現地アメリカに乗り込んで、大統領選挙の直前の様子を伝えている。その中でキーワードが一つ浮かんでいる。「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」だ。政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に「差別的な表現をなくそう」という意味合いで使われ、職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすことがアメリカでは広く認識されている。

   これはアメリカが歴史の中で磨き上げてきた美徳だろう。奴隷の解放戦争(南北戦争、1861-65年)までやった差別との戦いの成果だ。ところが、最近になって、こうした広義のポリティカル・コレクトネスにいささか嫌気や戸惑いを覚えるが人たちが白人層に出てきた。言葉を発するにも周囲に気遣いしながら、さらに差別的な意味の発言が少しでもあると「ポリティカル・コレクトネスに欠いている」と裁判に訴えられる。白人層はある意味でポリティカル・コレクトネスに気遣いし過ぎて、閉塞感を覚えているのかもしれない。これは、トランプ支持層と言われる白人の貧困層だけでなく、「隠れトランプ支持層」と称される一部白人の中間層、富裕層にしてもしかりだ。

   そこで、トランプ氏が「メキシコとの国境に壁を築く」「イスラム教徒は入国させない」などの暴言を吐くと、白人層の一部ではスッキリする、そんな現状がアメリカを覆っている。アメリカの政治状況が衆愚化したとか、知性が劣化したという表面だけで論じることができない。心の深層にあった、ある種の「わだかり」が噴き出してきた、そんな状況ではないか。うまく表現はできない。

   ポリティカル・コレクトネスはさらに広がっている。すべてのマイノリティにだ。マジョリティを自負する白人層の寛容さが限界に来ている。これが「トランプ現象」ではないだろうか。

⇒8日(火)朝・金沢の天気   くもり

☆「ごちゃ混ぜ」の論理

☆「ごちゃ混ぜ」の論理

  最近のニュースから気になったことをいくつか。「ジェンダーバランス」あるいは「ジェンダーフリー」はすでに定着した感がある。ところが、ここまでやるかというのニュースを見つけた。以下、9月6日付のAFPニュースを引用する。

  ノルウェーでは女性に徴兵を義務付けただけでなく、戦友の男性たちとともに、つまり同じ男女混合部屋で寝泊まりしているようだ。同国軍の男女のバランスはまだ完全に均等ではないが、19歳で徴兵された兵士の3分の1が女性という。歩兵だけでなく、ヘリコプターやジェット戦闘機パイロット、潜水艦の操縦士など陸海空である。徴兵は19歳から44歳まで、2015年からの男女が対象となった。期間は12ヵ月から15ヵ月。これまでも志願兵で女性の割合は高かった。

  同国では現在までの5代の国防相のうち4人が女性で、NATO加盟国で初めて男女両方の徴兵を開始した。男女両方を徴兵しているのは世界でもイスラエルなど少数の国という。その背景もある。ノルウェーで19歳の新兵は毎年1万人ほど、この数字は対象者の6分の1だ。同国では兵役に就くのは「やる気のある人」という評価になり、退役後は労働市場で高く評価される経歴とみなされるらしい。

  男女間のトラブルが起きないのかと考えるがそうではないらしい。男女共用部屋はジェンダーを希薄化させるためにセクハラ対策が有効とされる。つまり、生活エリアを共有することで、男女双方が自分たちの行動に気を付けるようになり、「きょうだい」であるかのような仲間意識を育むことができるというのだ。

  なるほどと思う。確かに19歳という若さでは男女で「きょうだい」感覚があり、生活エリアが共有され、女性が男性を叱咤するシーンもあるだろう。そうすると規律やモチベーション(意欲)も高まるという効果があるのかもしれない。徴兵制とうい中で男女ごちゃ混ぜの論理はうまく働くのかもしれない。

  日本で徴兵制はないが、志願する女性自衛官はいる。このノルウェーの「ジェンダーフリー」「ごちゃ混ぜ」をどう考えるのか。現在、日本の防衛大臣が女性であり、その点インタビューしてみたいと思った。

⇒11日(日)午後・金沢の天気  はれ

★旅の目線で東京を-下

★旅の目線で東京を-下

  3日間の東京ツアーで美術館を3ヵ所訪れた。初日は表参道にある根津美術館。これが正面の入口かと思わせる、ひっそりとした正門をくぐる。右に曲がると、左手が竹でおおわれた壁面、右手が竹の植栽、まさに「竹の回廊」となっている。都会の喧騒から遮断するかのように、不思議な静寂感に包まれる。まるで、茶室に続く庭「露地(ろじ)」を歩いているような感覚である。和風家屋のような大屋根の本館は建築家・隈研吾氏の設計によるもの。隈氏は2020東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場のデザインを手掛ける。

     実物が放つ作品の価値と歴史の輝き

  「青山荘(せいざんそう)」の扁額がかかった展示室に入った。内部には茶室が再現されていて、展示室全体の名称が「青山荘」という。「春情の茶の湯」と銘打った茶道具の展示されていた。春の情景をイメージした日差し、花木が芽吹き、生命力ある季節の情景に似合う茶道具が陳列されている。面白い盆があった。漆芸家、柴田是真(しばた・ぜしん、1807-1891)の作品「蝶漆絵瓢盆」。ヒョウタンを輪切りにして、底をつけて盆にする。全体におうとつがある不思議なカタチの形状だ。盆にを漆を盛り付けて浮かせるようにしてチョウを描く。春に舞うアゲハチョウだろうか。そのチョウは、盆の縁の内側から外にまではみ出て、躍動感がある構図だ。時間がなく、庭と茶室をじっくり拝見できなかったのが心残り。

  2日目は赤坂のサントリー美術館だ。陶芸家、宮川香山(みやがわ・こうざん、1842-1916)の没後100年の企画展だった。解説書によると、香山は明治維新を機に京都を離れ、当時、文明開化の拠点だった横浜に向かった。明治政府は外貨獲得の手段として陶磁器や漆器など工芸品の輸出を国策として推進した。香山は、その波に乗って、ヨ-ロッパやアメリカの西洋の趣向に応える美を創り出す。陶器の表面を写実的な造形物で飾る高浮彫(たかうきぼり)の独自の世界を築く。フィラデルフィア万博(1876)、パリ万博(1878)などで受賞して内外の称賛を浴びた。

  その代表作が「褐釉高浮彫蟹花瓶」(1881、重要文化財)や「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」(明治時代前期)=チラシの写真=といわれる。初めて高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指を鑑賞して、そのリアリティさにはドキリとさせられた。紅白のボタンが描かれた胴部と、うずくまる猫の蓋、その猫は前足を耳元にまで上げ、今まさに目覚めた様子で、ニャーンと鳴き声を出しそうなのである。

  3日目は世田谷の静嘉堂文庫美術館を訪ねた。美術館の茶道具は三菱の岩崎家の父子2代、60年にわたって収集したもの。訪れた日はリニューアルオープン展第2弾「茶の湯の美、煎茶の美」の最終日だった。真っ先に国宝「曜変天目」に目を奪われた。漆黒に大小の斑文(はんもん)が浮かび上がる。その周囲に藍や金色の光彩を放つ。「曜変」の「曜」とは星や輝くという意味なのだそうだ。中国・南宋時代(12-13世紀)の作品といわれる。かの徳川3代将軍の家光、その乳母の春日局も手に取ったとされる絶品だ。

  「目を肥やす」という言葉がある。実物を見なければ理解できない作品の価値、歴史に磨かれた輝きがあるのだと実感した。

⇒22日(火)夜・金沢の天気   はれ

  

  

  
  

☆旅の目線で東京を-上

☆旅の目線で東京を-上

  3月19日から3日間の連休を東京で過ごしている。これまで何度も出張で来ているが、その目的が交渉であったり、会議であったりと、説明であったりする。すると、出張では旅の目線で東京を眺めるということができないものだ。もちろん、中には頭の切り替えが速く、器用な人は出張目的が終われば、半日でも旅人の目線で巡る人がいる。残念ながら、私はそんな器用さを持ち合わせてはいない。

   空中と水上のパノラマ、地上とはまったく違って見えるTOKYO

  北陸新幹線で金沢駅から東京駅へは2時間半。初日と2日目の宿は浅草なので、東京駅から秋葉原駅に行き、そこから「つくばエクスプレス」に乗り換えて浅草駅へ。なぜ浅草に。せっかくだから景色のよいところをと旅行会社と打ち合わせをして予約してもらった。あの東京スカイツリーが目の前に見えるホテルの10階だった。スカイツリーは初めて。初日午後、さっそくシャトルバスで向かう。到着すると聞きしに勝る込み具合だった。しかも、あちこちから中国語、英語、そしてフランス語が飛び交っている。これだけでも随分と旅気分になれるから不思議だ。TOKYOに来た気分だ。

  スカイツリー初登り。展望台へのシャトル(エレベーター)の内装が凝っていた。4基のシャトルはそれぞれ東京の四季が表現されていて、たまたま乗ったものは夏をイメージした「隅田川の花火の空」がモチーフだった。電飾でキラキラと花火のように輝く。使われているのはガラスで、伝統的ガラス細工「江戸切子」と、添乗員の女性が説明してくれた。見事な照明演出だ。みとれている間に350㍍の「天望デッキ」に到着。シャトルの名の通り、分速600㍍の高速であっという間だった。

  デッキに出て、眼下のTOKYOの街と富士山を眺めようとしたが、あいにくの曇天で視界はゼロ。雲の中にいる感じだ。ぐるり360度回ったが、白の世界が広がるのみ。さらに高見の450㍍の「天望回廊」に上ったが、同じ状況だった。3090円の入場チケットが惜しくなってきた。こうした事態に備えて客をがっかりさせない工夫もある。デッキから一望できる眺望を52型モニターで映し出す「時空ナビ」など。意外と面白いのが「江戸一目図屏風」だった。パンフによれば、江戸時代の浮世絵師、鍬形慧斎(くわがた・けいさい)による鳥瞰図が圧巻だ。江戸城を中心に描かれた想像上の江戸の街のパノラマなのだが、目線がちょうど同じ位置にあり、まるで200年後の東京スカイツリーのために描いたような絵なのだ。

  20日は隅田川の水上バスを楽しむ。ホテルから歩いて、混雑する雷門の前を通って、浅草の吾妻橋のたもとにある発着場まで20分。川向うのビルの上に雲のような形をした奇妙な金色のオブジェがある。ビール製造販売会社が聖火台と炎をイメージして造ったものでかつて話題になったことを思い出した。

  水上バスはほぼ満員。隅田川に架かる清洲橋、永代橋、勝鬨(かちどき)橋といった国の重要文化財(建造物)に指定される橋の下をくぐり川を下る。川から眺望する橋と周囲の街並みのカメラアングルは地上で見る東京とはまったく別の都市の光景だと気づいた。

  上記のビール製造販売会社の関連会社が製造した地ビール「隅田川ヴァイツエン」(1杯600円)を片手に、12の橋をくぐり、「日の出桟橋」に到着した。向こうに海にかかるレインボーブリッジが見える。周囲を360度見渡してみる。水上の都TOKYOだ。

⇒20日(日)夜・東京の天気  くもり

★痛車のお遍路さん

★痛車のお遍路さん

  「痛車(いたしゃ)」が勢ぞろい。車体に漫画やアニメ、ゲームのキャラクターなどのステッカーを貼り付けたり、塗装した乗用車のことだ。あるいはそのような改造を車のことを指すそうだ。「萌車(もえしゃ)」とも呼ばれるようだ(「ウイキペディア」より)。面白いのは、同様の原付やバイクを「痛単車(いたんしゃ)」、自転車の場合は「痛チャリ(いたチャリ)」、アニメの装飾を施したラッピング電車を「痛電車(いたでんしゃ)」とこの世界では呼ぶようだ。金沢市郊外の湯涌温泉はその痛車のメッカになっているかのようだ。

  湯涌温泉をモデルとし、2011年4月から9月に放送されたテレビアニメ「花咲くいろは」(全26話)が放送された。東京育ちの女子高生「松前緒花」が石川県の「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉」の旅館「喜翆荘」を経営する祖母のもとに身を寄せ、旅館の住み込みアルバイトとして働きながら学校に通う。個性的な従業員との確執や、人間模様の中で成長しいく。湯乃鷺温泉の舞台となったのが湯涌温泉だった。これ以来、「聖地」なのだ。

  そこで、同温泉の観光協会ではアニメの祭りを再現した「湯涌ぼんぼり祭り」を2011年から毎年行っている。ことしは12日に祭りが行われた。その人出は主催者発表で初年度5千人、2年目7千人、ことしは1万人と年々熱くなっている。ちなみに、13日付の新聞報道によれば同温泉の9つの旅館はどこも満室だったようだ。おそるべし「花いろ」経済効果ではある。

  祭りは単純だ。夕方、会場には500個のぼんぼりが取り付けられ、神社の沿道を照らす。午後8時すぎに「神迎の儀」が始まり、ファンたちが願いを書かれた木製「のぞみ札」を入れたかごを、白装束の地元住民2人が背負って運ぶ、「ぼんぼり巡行」が行われた。午後9時すぎ、のぞみ札は湖のほとりで焚き上げられた。祭りはこの「神事」がメインだが、盛り上げる仕掛けがいくつもある。  

  サークルKサンクスの北陸3県357店では、10月8日~10月21日の期間限定で、アニメ「花咲くいろは」とのタイアップしたオリジナル商品(2種類)を販売している。商品はテレビシリーズのストーリーにちなんだ食材を使用した「喜翆荘のぼんぼり御膳」(500円)と、「湯涌で採れたはちみつのホットケーキ(はちみつ&マーガリン)」(137円)など。コンビニの各店舗では、「ぼんぼり祭り」のポスター=写真=があちこちに貼られ、宣伝効果は抜群なのだ。

  これだけではない。日本郵便北陸支社は、ぼんぼり祭りの「フレーム切手セット」を発売している。ぼんぼり祭りを楽しむ主要キャラクターのイラスト切手(50円)10枚に、キャラク ターが描かれた型抜きはがき3枚が付く。1セット1500円。3千セットを販売するのだという。

  金沢に長く住んでいると、涌温泉でイメージするのは、あの独特の美人画で知られる竹久夢二だ。愛人・彦乃と逗留した温泉場。大正モダン風に描かれる、彦乃のイメージ画が印象に強い。「昔夢二、今花いろ」。湯涌温泉には独特の癒しの雰囲気があるのだろう。痛車のナンバーブレートはほとんどが他県ナンバー。おそらく連休を利用して、あすは次なる「聖地」へ赴くのだろう。現代の「聖地巡礼」である。そして、痛車の若者たちはお遍路なのか。

⇒13日(日)午後・金沢の天気    はれ

☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

  韓国で開催された「持続可能な農業遺産保全・管理のためのGIAHS国際ワークショップ」では日本、中国、韓国の連携が強調された。27日には、GIAHSを世界に広める役割を担おうと「東アジア農業遺産システム協議会」(仮称)の設立が提案され、来年4月に中国・海南島で国際ワークショップが開催されることが決まった。また、今回いくつかの問題提起や論点も提起された。それを紹介したい。論点が浮かび上がったのは「日中韓農業遺産保全および活用のための連携協力方案の模索」と題した討論会(座長:ユン・ウォングン韓国農漁村遺産学会会長)=写真=だった。

      日中韓の「GIAHS連携」 どこまで可能か       

  論点の一つはGIAHSをめぐる「官」と「民」の関係性だ。韓国農漁村研究院の朴潤鎬博士は「農業遺産を保全発展させるためには地域住民の主体性が必要」と述べた。会場の質問者(韓国)からも、「今回のワークショップでは国際機関や政府、大学のパネリストばかり、なぜ非政府組織(NGO)の論者がいないのか」といった質問も出された。これに対し、パネリストからは「農業遺産の民間の話し合いや交流事業も今後進めたい」(韓国)や、「日本のGIAHSサイトではNPOや農業団体が農産物のブランド化やツーリズムなど進めている」(日本)の意見交換がされた。確かに認定までのプロセスでは情報収集や国連食糧農業機関(FAO)との連絡調整といった意味合いでは政府や自治体とった「官」が主導権を取らざるを得ない。認定後はむしろ農協やNPOといった民間団体などとの連携がうまくいかどうかがキーポイントとなる。討論会では「地域住民主体のサミット」(朴潤鎬氏)のアイデアも出されるなど、「民」を包含したGIAHSのガバナンス(主体的な運営)では韓国側の声が大きかった。

  討論会が終わり、中国の関係者が日本の参加者にささやいた。「中国のGIAHSでは、NGOが主体になるは無理ですよ」と。おそらく彼が言いたかったのはこうだ。中国では、国民も民間団体も「官」が描いたシナリオの上を進み走る。つまり、国家が領導するので、「民」が自らのパワーでGIAHSサイトを盛り上げるということはある意味で許されないのだろう。そうなると、GIAHSを保全・活用のために日中韓の国境を越えて、民間同士のアイデアや意見交換や活発な議論というのはどこまで可能なのだろうかとの論点が浮かんでくる。

  次の論点。永田明国連大学サスティナビリティと平和研究所コーディネーターは「日中韓3ヵ国が突出するとGIAHS全体の価値低下を招くことになりかねない。アフリカや欧米などへGIAHS参加の呼びかけなどバランスが必要だ」と述べたことだ。確かに今回の日中韓ワークショップは、モンスーンアジアの稲作など同じ農業文化を有する東アジアから世界に向けてGIAHSの意義を訴えることが主眼の一つだった。永田氏の発言は的を得ている。現在FAOが認定しているGIAHSサイトは世界に25ある。うち、中国8、日本5で東アジアの括りでは13となり、すでに過半数を占める。韓国が2つのサイトを申請しているので、認定されれば27のうち15となり突出する。世界各国がこの状況を見て、「GIAHSは東アジアに偏っている」と判断されてしまうと、GIAHS全体の価値低下につながるのはないかとの危惧である。日中韓が競ってサイト数を増やすのではなく、日中韓が連携してアフリカや中南米などに認定地の拡大を促すことが戦略的に不可欠となる。

  そうは言っても日本国内でも「国際評価」を得ることへの地域の熱望があることは、ユネスコの「世界遺産」の過熱ぶりを見ても分かる。中国と韓国ではすでに国レベルの「農業遺産」認定制度を設けている。国の認定を経て、次にFAOへの申請という段取りになる。ところが、日本にはその制度がなく、GIAHSへの熱望を持った地域が申請しようにも、「ローマへの道のり」(FAO本部の所在地)が分かりにくい。GIAHS認定までのプロセスを制度的にもっと分かりやすくする必要があるだろう。こうした日本の課題もまた見えてくるのである。

⇒1日(日)朝・金沢の天気     くもり

★韓国のGIAHS候補地を行く-下

★韓国のGIAHS候補地を行く-下

 26日夕方、済州からフェリーで莞島(ワンド)に行き、翌朝莞島の港から青山島(チャンサンド)へ。莞島郡には260もの島があり、そのうち有人島は54。海藻が豊富で、韓国全体の海藻の54%を産出している。チャンサンドは2600人の村。40分で青山島の港に到着すると、太鼓と鉦で村人の出迎えがあった。

       青山島で見たオンドル石水田と海女の海

 同島は、アジア初のスローシティー指定(2007年1月、カタツムリをシンボルに取り組んでいる)。また、オンドル石水田システムは韓国の「国家重要農業遺産」の第1号に選定(2013年1月)された。昼食は廃校となった中学を改装した「ヌリソム旅行学校」で。ここではツアー参加者が、サザエ、コメ粉、ニンジン、ネギを刻んでゴマ油でいためる郷土料理「チョンサンドタン」をつくり試食。スローフードのツーリズムが人気となっている。

 ブフンリ村で今回の視察の目的である独自の石水路の田んぼ「オンドル石水田システム」を視察した。ただ、耕作放棄地が目立つ。青山島は全体が傾斜地で石が多い。しかも、ため池など水を貯えられない砂質土壌で、稲作には不利な条件地とされる。「オンドル石水田」は韓国伝統の住宅暖房「オンドル」とよく似た構造からその名前がついた。田んぼが4つの断層で構成される。大小の石を積み重ね石積みをつくり、その上に平べったい石板(グドゥル)を敷いて水路を作る。その後、水漏れを防ぐために泥で覆い、その上に薄く作物が栽培できる良質の土壌で整える。水は下の田んぼに排水口から徐々に流れ出す仕組みだ。

 農民ユーさんが説明した。「田んぼの規模が小さく、すべて自家用米。都会に出た子供たちがたまに帰ってきていっしょに農業作業を楽しんでいる。最近はイノシシが出る。昔からマツタケがよく取れる。川エビと煮て食べるとうまい」と。田んぼの土の深さが15-20㌢ほどで田おこしは協同労働で行い、水の管理も行う。稲作、畑作の条件不利地を石を積んで克服する人々の知恵がここにある。

 珍しいもの見た。「草墳(そうふん)」である。段々畑の一角にこんもりしたワラづくりの墓なのだ。遺体をその土葬せずに3年から5年間、木棺にワラと草と遺体を入れて、骨だけにする。その後に再び木棺を開けて洗骨し、骨を全部土葬する。骨を洗うのは長男ら家族だ。棺桶に草を入れるので草墳と称するらしい。

 青山島は映画のロケ地として韓国では知られている。西便制道(ソピョンゼギル)ではスローロードの小道を歩く。秋は一面がコスモスで覆われる。ここでイム・グォンテク監督の『風の丘を越えて(西便制)』やドラマ『春のワルツ』のロケが行われたそうだ。

 その後、海女の海岸を訪ねた。済州の海女が移住してきたらしい。現在50-70歳の20人ほどが潜っている。スムビ音(磯笛)を鳴らしながら作業。この一帯は養殖アワビも盛んだが、海女が直に採取するアワビやサザエ、ウニは貴重品だ。アリス式海岸の海に海女がいる風景はどことなく、能登の海と似ている。

⇒28日(水)朝・莞島の天気   はれ

☆韓国のGIAHS候補地を行く-中

☆韓国のGIAHS候補地を行く-中

 26日午前、済州グランドホテルで「国際ワークショップ」が開催され、武内和彦国連大学上級副学長・サスティナビリティと平和研究所長が基調講演。続いて、事例発表が行われ、日本から能登、佐渡、阿蘇、国東の取り組みをそれぞれの自治体担当者が、中国の取り組みについて中国科学院の研究者、新たに申請する韓国の2件のGIAHSサイトについても研究者が紹介した。

        アジアから世界に広がるGIAHSの意義

 「Traditional Agriculture and Development of GIAHS(伝統的農業とGIAHSの発展)」。武内氏の基調講演のテーマは示唆に富んでいた。「今後もアジアでのGIAHS認定地が増える見通しで、韓国からは2サイトの認定を申請中である。GIAHSの持続性には、1つには生態系の機能の強化や、生計を保障するためのグリーン・エコノミーの創出など災害などにも柔軟に対応できる『リジリエンス』の強化、2つには地域と都市部の住民による多様な主体の参加による『新たなコモンズ』の設立、3つめとして6次産業化による農産品の付加価値向上やグリーン・ツーリズム、生計の多様化を推進する『ニュービジネスモデル』の創出が不可欠」と強調した。

 GIAHSの今後の展開について、「ユネスコの世界遺産をヨーロッパがリードしてきたように、多様で長い歴史を持つ農業のあるアジアを中心にGIAHSをリードしていくべきだ。GIAHSにおけるアジアのリーダーシップを確保するためにも、自然環境や農業の起源が共通する日中韓の三カ国間の緊密な連携を期待したい。今後はアフリカや中南米、欧米など、他の地域に認定を拡大することが、バランスのとれた発展に不可欠である」とアジアから世界に広がるGIAHSの意義を訴えた。

 午後からは「日中韓農業遺産保全および活用のための連携協力方案の模索」と題した討論会(座長:ユン・ウォングン韓国農漁村遺産学会会長)が開かれた。この中で、中国科学院地理科学資源研究所の閔庆文教授は「3ヵ国の有機的なネットワークでGIAHSの牽引が必要」と述べ、永田明国連大学サスティナビリティと平和研究所コーディネーターは「日中韓3ヵ国が突出するとGIAHS全体の価値低下を招くことになりかねない。アフリカや欧米などへGIAHS参加の呼びかけなどバランスが必要だ」と述べた。

 討論会では地域住民の関わりもテーマとなった。韓国農漁村研究院の朴潤鎬博士は「農業遺産を保全発展させるためには地域住民の主体性が必要、先発の事例に学びたい」と発言。会場からの意見でも、NGOなどの関わりについて質問が出た。座長から指名を受けた中村浩二金沢大学特任教授が、能登ではNPOや地域団体が伝統行事や森林の保全に関わっていることなどを説明した。また、地域のGIAHSを維持発展させるためには人材養成が必要と説明し、「能登里山里海マイスター」育成プログラムの取り組みを紹介。国際的な関わりとして、フィリピンのイフガオ棚田にも足を運び、共通点や相違点を学ぶ交流を行っていると述べた。

⇒27日(火)朝・莞島の天気   はれ