⇒トレンド探査

★トークンエコノミーって何だ

★トークンエコノミーって何だ

   トークンエコノミーという言葉を最近よく耳にする。英語で「token」はもともと「しるし」「象徴」と習った。それが「記念品」「証拠品」の意味になり、最近では硬貨の代わりに用いられる代用貨幣のこととして言葉が進化している。新しい経済概念として、トークンエコミーは「デジタル通貨による新しい経済圏」を指すようだ。今月20日に「能登SDGsラボ 第1回トークンエコノミーと奥能登国際芸術祭」という勉強会(講師:石田貢、大野沙和子の両氏)が石川県珠洲市であった。残念ながら参加はかなわなかったが、レジュメが手に入った。それをもとに自分なりに読み込んでみる。

   トークンエコノミーはもともと心理学の世界で生まれたとされる。望ましい行動を取った場合に「トークン」が付与され、トークンを有形無形の価値と交換できるようにすることで特定の人やグループに対し望ましい行動を推奨するという考えだ。たとえば、消費税増税前の駆け込み需要を地域に取り込み、域内の経済活性化を図る目的で、行政が単独で発行する「プレミアム付き商品券」(1万円で1万2千円分など)もトークンの一種といえる。つまり、プレミアム付き商品券というトークンが外部に流出せず、域内で循環する仕組みとなる。

   このトークンの仕組みを、ユーザーがスマートフォン上の電子ウォレット(財布アプリ)を利用することでさらに利便性が広がる。紙の地域商品券では、所有者に対して利用できる場所の情報を送付するといったコミュニケーションを取ることは難しいが、スマホだとユーザーに情報を送ることができ、継続的なコミュニケーションの接点となる。また、売れ筋商品の開発や事業展開など消費データを収集できるなど多面的な活用ができる。

   ここで出てくるあらたなキーワードが「ブロックチェーン」だ。データのかたまり(ブロック)が連なっていく(チェーン)、これがブロックチェーンと呼ばれる。現在多くのネットユーザーは特定のサーバーにアクセスし、データのやり取りを行っている。ブロックチェーンは「ピアツーピア(Peer to Peer)」という通信方式でデータのやり取りを行う。ピアツーピアは、サーバー頼みの通信方式ではなく、ネットワークの参加者が個別、平等にデータのやり取りを行う方法のこと。

    このブロックチェーンでトークンを発行することで、データの消失や改ざんといったリスクが軽減されるため、金融庁は新たな法的な枠組みづくりを検討している。今年度中に法案が成立の見込み。スペインのバルセロナでは、ブロックチェーンを基盤とした地域通貨「Rec」の発行を昨年2018年から実証実験の段階に入っている。1Recは1Euroに該当し、スマホで市内の店舗で利用すれば、特別な特典が受けることができ、域内での資金循環に寄与しているという。

     勉強会では、トークンエコノミーを2020年秋に珠洲市で実施される奥能登芸術祭で特典が得られる参加券(電子チケット)の購入や国内外へのプロモーション活動、アートへの市民参加などに活用してはどうかとの提案が具体的にあった。プラン化が決まったわけではない。しかし、新しい概念を地域で分かりやすく説明し、トークンを使ってみたいという来場者の心をくすぐるイベントにしてほしいと願う。

⇒29日(昭和の日)夜・金沢の天気    くもり

☆外国籍児童から「大競争時代の雲」を測る

☆外国籍児童から「大競争時代の雲」を測る

        金沢市内の教育者の方からメールをいただいた。「…来年度は、外国籍児童が35名になる予定で、学校としても対応に苦慮しております。学習内容の面でも生活指導面でも、日本語が通じず、かなり大変です。学生ボランティアや通訳などの人材がいてくださると助かるのですが・・。ドラえもんの『翻訳コンニャク』があればなぁと夢のようなことを考えてしまいます。良いアイデアがあれば、教えてください。」

   この教育者が所属する小学校は6学年で500人の児童がいる。その中に外国籍の児童が新年度から35人になると、言語の問題から学習や生活指導面での教育現場の指導が行き届かなくなり、せめてドラえもんの『翻訳コンニャク』があればと願う気持ちがひしひしと伝わってくる。ちなみに、翻訳コンニャクはドラえもんのひみつ道具で、これを食べると、自分の発する言葉が相手に合わせた言語に翻訳される。相手に食べてもらえば相手の発する言葉が自分の言語に翻訳される。いわば多言語コミュケーションツールだ。言語だけに止まらない。宗教上の価値観の違いから給食の食材の制限などがあったりと教育現場では多様な対応が求められる。

   「海外からの有能な技術者を受け入れるチャンスがめぐってきた」。石川県内の自治体の首長の言葉が印象的だった。この地域にはすでに3700人の外国人労働者が働いていて、今後そのニーズはさらに強まる。外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が今年4月から施行される。人手不足に悩む14業種、(介護、農業、材料産業、産業機械、エレクトロニクスおよび電気機器、建設、自動車整備、空港の地上処理・航空機のメンテナンスなど)を対象に、日常会話の日本語と簡単な技能試験に合格すれば、単純労働でも最長5年間の就労を認める(特定技能1号)。さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(同2号)。地域産業の発展させるためにどう有能な外国人労働者を受け入れ、そして定住してもらうか、首長は次ぎの一手を考えているのだという。

   個人的に尋ねた。「その秘策は何ですか」と。有能な外国人労働者を雇用すると妻子を伴ってくるケースが多くなるのは予想される。その子どもたちの教育環境を整えることで、地域企業は海外からの優秀な技術者をスカウトしやすくなり、それを売りにもできるというのだ。海外から技術者を呼び込むことはすでに、国際的な大競争の時代に入っている、その決め手の一つが子どもたちの教育環境だという。さらに、「どのような教育環境ですか、もっと具体的に」と問うと。「そうですね、インターナショナルスクールのような」と。なるほどと腑に落ちた。

    教育者からのメール、そして首長の話はつい先日のことである。それぞれのテーマは異なるが、外国籍児童をめぐる現状と可能性という点でテーマが一直線でつながった。外国籍児童をどう扱うかは、地域のサバイバルをかけた大競争時代のテーマとして広がる、ということだ。新たなキーワードは「地域にインターナショナルスクールを」ということか。(※写真は、金沢21世紀美術館の「雲を測る男」)

⇒1日(金)夜・金沢の天気     くもり

★「2019」を読む~下

★「2019」を読む~下

  自宅の庭にロウバイの花がささやかに咲いている。薄黄色のロウバイと白ツバキを生けて床に飾る=写真・上=。花の少ないこの時期、心を和ませてくれる。ロウバイの漢字表記は蝋梅。旧暦12月は蝋月(ろうげつ)とも称され、冬に咲く梅に似た花であることから蝋梅と呼ばれるようになった。小寒(1月6日ごろ)から立春(2月3日ごろ)にかけての季語でもある。「生物文化多様性」という言葉がある。植物や動物などの生物に文化的な価値付けをすることで生物の多様性を守り、文化的な深まりや広がりを人々も享受できるという意味だと自分なりに解釈している。国連大学やUNESCOなど国際機関が使い始めた言葉だ。

  花を愛でる価値共有と移民政策、生物文化多様性の視点から      

  花の価値を共有できる国の一つはベトナムではないかと思っている。2017年11月、旅したハノイ市内の路上では移動の花店=写真・下=や夜の花市場があり、女性や男性がバイクや軽トラックで次々と花の束を持ち込んで、とても活気があった。ベトナム航空のロゴマークは蓮(はす)の花をデザインしたもの。蓮は日本では仏花を代表する花だが、ベトナムでもシンボリックな花だ。ベトナムは社会主義の国だが仏教が主流だ。そして、ベトナムで仏教を信仰する多くの人々は月2回(1日と15日)に精進料理を食べることも習慣となっている。文化的な価値感を共有できる国ではないだろうか。

  外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が今年4月から施行される。人手不足に悩む14業種、介護、ビルクリーニング、農業、釣り漁業、食品・飲料製造(シーフード加工を含む)、レストラン(飲食サービス)、材料産業、産業機械、エレクトロニクスおよび電気機器、建設、船舶・海洋産業、自動車整備、航空(空港の地上処理、航空機のメンテナンス)、宿泊・もてなしを対象に、日常会話の日本語と簡単な技能試験に合格すれば、単純労働でも最長5年間の就労を認める(特定技能1号)。さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(同2号)。

   日本、ベトナムなど11ヵ国が参加し先月30日に発効したするTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では動労者の国境を超えた移動の自由化や、単純労働者の受け入れは対象ではない。しかし、少子高齢化の最先進国である日本は、長期的な視野に立って外国人労働者の受け入れに本腰を入れるしかないだろう。これは思い付きだが、改正入管法の日本語と技能のほかに「文化価値共有度」という尺度があれば、日本で働くと同時に暮らしの中で日本に溶け込み、永住者(移民)として受け入れやすくなるのではないだろうか。TPPの発効と改正入管法の施行は「移民政策」を正面から議論するチャンスだと考える。生物文化多様性という言葉の意味はそこまで広がる。

⇒3日(木)午後・金沢の天気   あめ

☆「2019」を読む~中

☆「2019」を読む~中

   元旦に個性的な賀状を多くいただいた。その賀状からは人生の在り様や経営への想いなどを読むことができる。何枚か紹介したい。著作物を勝手に流用することに少々気も引けるが、正月ということで作者の方にはお許しいただきたい。

            「風のスタシオン」、賀状に込められた経営への想い

       東京の出版社の友人は将棋が趣味。 ✒ 「将来の名人(明治)」と皆が唱和(昭和)し、将棋が大勝(大正)続きでも、本人は常に平静(平成)でいる。ホントに凄い! そうだ(聡太)、新元号は「藤井」にしよう! 

   今年84歳になる人生の大先輩、能登在住。 ✒  干支七回目の目標五項目 ◇複式呼吸法で健康管理と心おだやかに ◇話に明るさ、深さ、広さがあるように ◇常に相手方の長所に学ぶこと ◇「ほめ言葉」と「感謝の言葉」を忘れぬ様 ◇日々、「誠心誠意発露の場」とする精進努力を

   金沢のホテル支配人から。 ✒ 「風土」の語源は土地の生命力とか。「風」と「土」が造る気象、景観や文化、歴史。「土」はこの地に生を受けた私たちなら「風」は旅の人たち。延伸5年目を迎える北陸新幹線は、多くの観光客を連れてきただけでなく、「観光公害」なる言葉も生み出しました。この嫌なフレーズを耳にする時に金沢のおもてなしの力について考えさせられます。「今年は”風のスタシオン”になる」 多くの旅人がこのホテルに集まり散じていく、ひとときの心地よい「駅」でありたいと思います。

   プランニング会社の社長から。 ✒  風の言葉を聴き、土の力を知る。風土から学び、風土へ帰る。これが私たちの普通のコンセプトであり、その核をなすのは人と人のつながりです。新しい年もつながりを深める年となるよう務めていきます。

   最後に自身の賀状を。 ✒ 「平成最後の正月」をみなさまいかがお過ごしでしょうか。本年もどうぞよろしくお願いいたします。プライベートで書き続けているブログ『自在コラム』を始めて今月5日で5000日になります。本数は1360本です。3日か4日に1本のゆったりしたペースですが、日々のニュースや身の回りの出来事に視線を注ぎ、「これはブログのネタになるかもしれない」などと思いを巡らしてきた5000日でした。2017年には中間的なまとめの意味を込めて、新書『実装的ブログ論』(幻冬舎)を上梓しました。これまで、SNSのお誘いを何人かの方々から受けたのですが、かたくなにブログ一本で通す、不器用な人生です。平成から次の時代に変わりましても、引き続き人生のよきお付き合いをいただければ幸いです。

⇒2日(水)朝・金沢の天気   くもり時々はれ 

★「2019」を読む~上

★「2019」を読む~上

    それにしても見事な初日の出だった。写真は午前7時55分、金沢の自宅の2階から撮影したもの。青空に朝日が映えて、眼にも心にも光が差す。長らく北陸に住んでいて、快晴の元旦というのは珍しい。さて、2019年は好天に恵まれるのだろうか、この年を読み解いてみたい。

    年末31日のニューヨークのダウは前週末比265㌦高い2万3327㌦で終えた。アメリカと中国の「貿易戦争」とまでいわれる関税のつばぜり合いで、中国が軟化してきたとの分析が出始め、また、トランプ大統領と習国家主席による電話協議(29日)も前向きにとらえられ、買いが優勢になったようだ。日経平均の2018年終値は2万14円となんとか2万円台を保ったが、1年間で2750円安となった。「アベノミクス」の限界が見えてきたとこのブログでも触れた。では、日本の経済は今年停滞するのかとの思いもよぎるが、むしろ堅調なのではないだろうか。

     不透明感が高まる近隣諸国とどう向き合うか

    先月30日にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が発効して、日本、カナダ、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、ベトナム、チリ、マレーシア、ペルー、ブルネイの11ヵ国が参加したGDP10兆㌦の経済圏が構築される。さらに、日本にとって来月1日からEUとの経済連携協定(EPA)も発効する。多国間での自由貿易エリアが誕生することで、国民の経済へのマイナスイメージは当面和らぐのではないか。日本企業の業績もおおむね好調だ。ただ、10月から消費税率アップされるので楽観視はしていない。

   問題は近隣の中国、韓国の経済と外交の在り様ではないだろうか。中国は「一帯一路」を掲げ、アジアやアフリカの各国に融資し、港湾や鉄道などのインフラ開発を積極的に展開してきたが、ここにきて開発計画のずさんさや債務の膨張が表面化してきた。シルクロード経済ベルト(一帯)と21世紀海上シルクロード(一路)の壮大な構想が最近では、債権国(中国)と債務国の在り様がむしろニュ-スとして目立つ。さらに、中国通信機器メーカー「ファーウェイ」の製品を締め出す動きが、世界で広がっている。アメリカは国防権限法を昨年8月発効させ、政府機関や軍の情報が中国当局に流れる危険性があるとし、ファーウェイなど中国通信機器メーカーの製品を政府機関が使うことを禁止している。アメリカは日本など関係国にも働きかけを強め、オーストラリア、ドイツなどヨーロッパ各国、そして日本でも通信インフラを担う企業を含め中国製品をボイコットする流れだ。

   韓国経済も不況感が漂う。先月28日に韓国統計局が発表した11月の産業活動動向(鉱工業やサービスなどの生産動向)によると、鉱工業生産は前月比1.7%減と2ヵ月ぶりの減少となった。製造業生産は前月比1.9%減と2ヵ月ぶりに減少。内訳は前月比で「自動車・トレーラー」(マイナス2.3%)が3ヵ月連続の減少、「半導体・通信機器他」(マイナス4.7%)や「精密・光学機器他」(マイナス3.0%)など韓国の主力産業といわれる分野でマイナス幅が大きくなっている。朝鮮日報(12月31日付Web版)は「韓国の上場企業による営業利益の半分(49.59%)を占めるサムスン電子とSKハイニックスの業績低下が予想よりも深刻で、両社の株価は今年下半期にそれぞれ20%以上下落し、年初来安値を記録した。世界経済が過去10年間の好況から停滞局面に入ったことに加え、中国の攻勢もますます強まっているからだ」と分析している。

  韓国は直近で言えばレーダー照射問題など次々と日本との間で事を起こしている。今後ひと波乱もふた波乱もあるだろう。不透明感が高まる近隣諸国とどう向き合うのか、2019年の日本の最大の課題ではないだろうか。

⇒1日(元旦)午前・金沢の天気    はれ後くもり

☆自然「災」害と人「災」と

☆自然「災」害と人「災」と

    日本漢字能力検定協会は毎年年末にその年の世相を表す漢字一字とその理由を全国から募集していて、最も応募数の多かった漢字を京都・清水寺の貫主の揮毫により発表している。協会のホームページによると、ことしも11月1日から12月5日までの期間で19万3214票の応募があり、「災」が2万858票(10.8%)を集めて1位となった。

  きのう12日午後2時から清水寺で森清範貫主が揮毫する様子を民放だけでなくNHKも実況生中継で報じていた。確かにことしは災害ラッシュだった。自然災害では、年初めの豪雪に始まり、西日本豪雨、記録的な猛暑、北海道・大阪・島根での地震、大型台風の到来など。大規模な自然災害により多くの人が被災した。

  個人的には豪雪に恐怖感を味わった。自宅周辺の道路は30㌢ほどの高さの氷のように堅くなった雪道となっていて、ガレージから車が出せない状態が続いた。デイケアなどの福祉車両も通るため、町内会では人海戦術で道路の一斉除雪を行った。路上の雪は金属スコップで突いてもびくともしない硬さで、ツルハシを振り上げて下に勢いよく降ろして砕いた。学生時代にアルバイトで工事現場でツルハシを使った経験が生きた。

   もう一つ印象的なのは人「災」かもしれない。日本大学アメフトによる反則タックルに端を発した、いわゆるスポーツ界のパワハラ問題。オリンピック4連覇を達成して、国民栄誉賞を受賞した伊調馨選手と監督の間の問題もパワハラとされた。指導者が選手を育てる場合、それが教育なのか師弟関係なのか、難しいケースだ。オリンピック金メダリスト6人を育て上げた監督は日本レスリング協会強化本部長だった。指導する側に尊敬に値する人格というものがなければ、教育であっても師弟関係であっても人「災」、パワハラとみなされる。そのような判断の流れを一連の騒動を通じて考えさせられた。

   話は日大アメフト問題に戻るが、いまでも疑問に思っていることがある。動画を見れば、一目瞭然なのだが、試合開始の早々に日大のDL選手がパスをし終わった関学大のQB選手に真後ろからタックルを浴びせて倒している。QBが球を投げ終えて少し間を置いてから、わざわざ方向を変えて突進しているので、意図的なラフプレーだ。3プレー目でも不必要な乱暴な行為があり、5プレー目で退場となった。では、審判は1回目のラフプレーでDL選手をなぜ退場にしなかったのか。明らかに「レッドカード」ではないのか。単なる見逃しであるならば、審判に対してなぜ責任が問われなかったのだろうか。(※写真は清水寺のHPより)

⇒13日(木)朝・金沢の天気    はれ

☆4K8K、テレビの未来か

☆4K8K、テレビの未来か

      「マスメディアと現代を読み解く」という講義の中で、学生にマスメディアとの接触度を尋ねた。アンケート(2018年6月)の設問は「あなたは新聞を読みますか 1・毎日読む 2・週に2、3度 3・まったく読まない」「あなたはテレビを見ますか 1・毎日見る 2・週に2、3度 3・まったく見ない」の単純な設問だ。回答は102人で、新聞を「まったく読まない」75%、テレビを「まったく見ない」17%の結果だった。3年間同じ設問でアンケートをしている。推移をみると「新聞離れ」は下げ止まり。ところが、テレビは2016年12%、17年15%、18年17%と「まったく見ない」が増えている。「毎日見る」も16年65%、17年56%、18年49%と如実に減少している。「テレビ離れ」は加速しているのだ。

    テレビに未来はあるのだろうか。メディア論を講義しながら、そんなことを考えたりすることがある。ただ、上記のような数字にとらわれると暗いイメージになるのだが、テレビとは何だと問いかけると、まった別次元のイメージもわいてくる。それは、テレビの技術が新たな文化を生み出すということだ。

          1953年に日本でテレビ放送が始まり、白黒画面から相撲や野球の面白さを知るスポーツの大衆化という文化が始まる。1964年の東京オリンピックでは画面がカラー化し、スローVTR、そして通信衛星を通じて競技画像が世界へと配信され、放送のグローバル化が拓けていく。画質の高精彩化によって、家庭にシアター文化がもたらされ、CS放送やBS放送で多チャンネルが進展する。報道現場でもSNG(Satellite News Gathering) 車によって、災害現場からの生中継が可能になり、速報性がさらに高まった。

    次なるテレビの技術文化は何か。それは来月12月から始まる「4K」「8K」放送だろう。現在のフルハイビジョン(2K)と比べ、4Kはその4倍、8Kは16倍の画素数なので高精彩画像だ。4K8K放送は衛星放送で始まるが、手を挙げいるのがテレビショッピングの「QVC」だ。去年1月にBS4Kの基幹放送事業者の免許を取得し、来月から「4K QVCチャンネル」で24時間365日の放送をスタートさせる。同社のホームページでは「見つかるうれしさ、新次元」というキャッチコピー=写真=でPRしている。「4K QVC、それは想像を超えた、全く新しいショッピング体験。鮮やかでリアル。テレビをつけた瞬間、お部屋は一気に、新次元のショッピング空間に」と。

     では、4K8Kが生み出す文化とは何なのか。手短に表現するならば、「バーチャルリアリティ」ということになるだろうか。これまで距離感があった、映像空間とリアリティ空間の差が限りなく縮まる。人間の感性や購買意欲をさらに刺激する新領域の番組に踏み込むかもしれない。テレビ局側は「バーチャルなフィールド=映像」をリアリティ空間に見せる新たな技術(演出)開発に突き進むだろう。たとえば、テレショップだったら、「いいですよ。お安いですよ」の従来の演出よりも、対面型、あるいは対話型による追体験型の絵構成が主になるかもしれない。これは想像だが。

         4K8Kが生み出す新たな番組づくり、お手並み拝見である。一方で、放送局の番組を送り出すバックヤードでは「映像伝送のIP化」という革新が起きている。放送は時間的なディレイ(遅延)が許されないため、通信回線を使うことに抵抗感があった。それが技術革新で光ファイバーで遅延なく伝送できるようになった。4K8Kは番組だけでなく、技術革新をももたらしている。これが2020年に本格化していく、放送と通信による同時配信への技術インフラへと展開していく。

⇒17日(土)夜・金沢の天気   はれ

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

   能登半島に木質バイオマス発電の施設が完成し、きょう(12日)火入れ式が執り行われた。地域の資源でもある間伐材を活用する。太陽光発電はもちろん、半島という地の利を活かした風力発電も数多く立地していて、まさに能登は再生可能エネルギーのショールームではないだろうか。

   発電所は輪島市三井町の山中にある。スギや能登ヒバが植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。発電量は一般家庭で2千5百世帯分に相当する2000KW(㌔㍗)時。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧もの間伐材を調達することになる。(※写真・上は2017年5月撮影)

   発電所を運営する株式会社「輪島バイオマス発電所」に大下泰宏社長を訪ね、会社設立の話をうかがったことがある。大下氏はもともと行政マンで同市の副市長もつとめ、能登の里山に愛着とこだわりを持っている。インタビュー(2013年8月)ではこう語っていた。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」

   そのことは、同社のホームページでの設立主旨からも読める。「(能登の)多くの木々は、今から50〜60年前に植林されたものです。以来、大切に育てられながら、太く大きく成長して、今まさに利用に適した成熟期を迎えています。しかし現在、森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やバルブ材等に利用されているのは70%程度に過ぎないのです。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状です。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はありません。」。里山のもったいない精神から発想された再生可能エネルギーなのだ。

    能登半島の尖端、珠洲市には30基の大型風車がある。2008年から稼働し、発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電所だ。発電所を管理する株式会社「イオスエンジニアリング&サービス」珠洲事務所長、中川真明氏のガイドで見学させていただいたことがある。ブレイドの長さは34㍍で、1500KWの発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。(※写真・下は珠洲市提供)

   では、なぜ能登半島の尖端に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況なんです」と中川氏。強い風が安定して吹く場所であれば、年間を通じて大きな発電量が期待できる。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、秒速6㍍を超えることがの目安になる。その点で能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が秒速6㍍秒を超え、一部には平均8㍍の風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の8百から1千世帯で使用する電力使用量に相当という。珠洲市には1500KWが30基あるので、珠洲市内6000世帯を使用量を十分上回る。

   いいことづくめではない。怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と中川氏。全国では2200基本余り、石川県では71基が稼働している。最近では東北や北海道で風力発電所の建設ラッシュなのだそうだ。

⇒12日(月)夜・金沢の天気    くもり

★SDGsゲームの不思議な魔力か

★SDGsゲームの不思議な魔力か

  きのう(2日)「能登SDGsラボ」が主催するSDGsカードゲームに初めて参加した。国連のSDGs(持続可能な開発目標)は国内でまだまだ浸透していないが、理解を深めると国際的に通用する「新しい物差し」なのだとなんとなく直感している。このゲームはSDGs の目標を一つ一つ細かく勉強するためのものではなく、「なぜSDGs が私たちの世界に必要なのか」、そして「それがあることによってどのような変化や可能性があるのか」を理解するためという触れ込みだったので参加してみたくなった。

  参加者は学生や社会人28人。1組2人か3人で、9組のチーム。チームがそれぞれ国となり、疑似世界を構成する。チーム(国)にはゴールを表すカード、実行するプロジェクトのカード(青「経済」、緑「環境」、黄「社会」)が渡され、そのリソースとなるマネーと時間のカードが配られる。マネーと時間を使いながら、世界の経済、環境、社会に影響を与えるさまざまなプロジェクトを実行し、ゴール達成を目指す。ファシリテーターは永井三岐子さん(国連大学サステイナビリティ高等研究所OUIK 事務局長)がつとめた。

  私のチーム(国)の引いたゴールカードは「悠々自適」。そのほか「大いなる富」「貧困撲滅」「環境保護」「人間賛歌」の4種類がある。悠々自適の目標達成のためには時間カードを15枚集めることになる。プロジェクトカードは、全体で80枚あり、経済、環境、社会に関する政策的なものが表記されている。実施条件をそろえればプロジェクトカードをファシリテーターのところに持っていく。ファシリテーターはそれを受け付け「世界状況メーター」でカウントしていく。たとえば、緑色の環境プロジェクトを持っていくと、環境はプラスとなるが、経済はマイナス。このゲームでは、時間内に何をするかはチーム(国)の自由だ。他のチ-ムと交渉して、当方のプロジェクトカードとマネーを交換することも可能だ。

  2030年目標なので「2024年」で前半(10分)を一度締めた。ゴールを達成したチームは9組のうち5組だった。ところが、各チーム(国)が実行したプロジェクトは青カードが群を抜き、「世界メーター」では経済18が突出、環境1、社会1となった。よいチ-ム(国)をつくるためには、まず資本(マネー)を蓄積しようと各チーム(国)が走った結果だった。この2024年の世界メーターを見て、「これではいかん」と各チーム(国)は気がついたのだろう。後半(15分)になると、チーム(国)の意識が世界共通の課題解決を目指す緑と黄のプロジェクトへと活発に変化してきた。競うような資本の貯えから、協力関係へと。持っているカード(プロジェクト、時間、マネー、意識)を交換して、共通の課題解決へ動き始めた。

   2030年では世界メーターが経済14に減り、環境と社会がそれぞれ11と12に増えてバランスがとれた=写真=。どこかのチーム(国)が積極的にリードした訳ではない。経済は必要不可欠、しかし経済が突出することにより、地球の在り様がアンバランスになる様を世界メーターで見つめることで、それぞれのチーム(国)が交渉や合意形成を通じて、世界共通の課題へと向き合った結果だった。

    締めくくりにファシリテーターの永井さんは、「このカードゲームで伝えたかったことは『世界はつながっている』、そして『私も起点』という考え方がSDGsの本質と可能性なんです」と。SDGsの不思議な魔力、いや「魅力」に取りつかれた思いだった。

⇒3日(土)夜・金沢の天気     はれ  

☆ディープフェイクの時代

☆ディープフェイクの時代

   台風25号の影響で北陸でも今夜からあす未明にかけて風も強まるというので、用心のために庭木を見て回った。セイオウボが淡いピンクの花をつけていた=写真=。この季節見るたびに上品な装いだと感心する。秋から春先にかけて一輪、また一輪と咲く。金沢では茶花として重宝されている。セイオウボを漢字で書くと「西王母」。ネットで調べてみると、西王母は『西遊記』にも登場する、不老不死の桃の木を持つ仙女の名前から名付けられているようだ。名前の由来は、格調の高い上品な趣の花ということなのだろうか。

   日本列島では相次ぎ台風が吹き荒れているが、東南アジアのインドネシアではスラウェシ島でマグニチュード7.5の地震(9月28日)と、それによる津波の被害が日々拡大、その後ソプタン山(1830㍍)の噴火(今月3日)があった。3つの重なる災害での死者は1500人とも報じられている。住民の不安心理を増幅させるかのように、SNSでは「M9.0の大地震が来る」や「ダムが決壊した」といったフェイクニュース(流言飛語)も飛び交っているようだ。小売店やガソリンスタンドで略奪行為など混乱に拍車をかけてるとBBCなど海外メディアが伝えている。

   災害に乗じたフェイクニュースは国内でもある。2016年4月に熊本でマグニチュード7.0の地震が発生したとき、熊本市動植物園のライオンが逃げたと画像をつけて、ツイッターでデマを流したとして偽計業務妨害の疑いで神奈川県の男が逮捕された。災害時のデマで逮捕されるのは国内では初のケースだった。男は2017年3月に「反省している」として起訴猶予処分となった。が、世界ではフェイクニュースによる人種差別や選挙妨害などエスカレートしている。

   そのフェイクニュースが巧妙に進化している。ネット上で「ディープフェイク」と称される「フェイク動画」のことだ。大学の知人から教えてもらった、アメリカのニュースサイト「BuzzFeed」がユーチューブで公開している動画を視聴して考え込んでしまった。「You Won’t Believe What Obama Says In This Video!」( この動画でオバマが言っていることを信じられないだろう!)のタイトルで、オマバ氏がホワイトハウスで声明を発表しているように見える映像だ。その中で、「President Trump is a total and complete dipshit.」(トランプ大統領はまったく本当に愚か者だ)などと罵っている。

   動画の最後の方に出てくるが、別人のコメディアンの語りに、オバマ氏の映像を被せたものだ。声も口の動きも表情も全て、このコメディアンのもの。つまり合成動画なのだ。膨大なオバマ氏の動画をAI(人工知能)が学習し、コメディアンの口の動き表情ととまったく同じオバマ動画をつくり、それを声に被せた。AIのテクノロジーの進化を感じさせるが、これでフェイク動画を作ることができると考えると穏やかではない。たとえば、トランプ氏と似た声の持ち主が「北朝鮮の非核化では日本が全面的に北に資金援助することで安倍氏と合意が出来ている」などとトランプ動画をつくり公開するとどうなるだろう。真贋をめぐって外交問題になるかも。

 
   今回「BuzzFeed」の動画を視聴して、動画は画像よりも加工が難しいとされてきたが、今やその常識は覆った。それはディープフェイクの時代の到来でもある。欧米ではパロディーとしてこの手の動画が増産されるのではないか。もちろん、余計な心配なのだが。

   セイオウボの花を眺めながら、台風が無事過ぎ去ることを願う。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    くもり