⇒トレンド探査

☆4K8K、テレビの未来か

☆4K8K、テレビの未来か

      「マスメディアと現代を読み解く」という講義の中で、学生にマスメディアとの接触度を尋ねた。アンケート(2018年6月)の設問は「あなたは新聞を読みますか 1・毎日読む 2・週に2、3度 3・まったく読まない」「あなたはテレビを見ますか 1・毎日見る 2・週に2、3度 3・まったく見ない」の単純な設問だ。回答は102人で、新聞を「まったく読まない」75%、テレビを「まったく見ない」17%の結果だった。3年間同じ設問でアンケートをしている。推移をみると「新聞離れ」は下げ止まり。ところが、テレビは2016年12%、17年15%、18年17%と「まったく見ない」が増えている。「毎日見る」も16年65%、17年56%、18年49%と如実に減少している。「テレビ離れ」は加速しているのだ。

    テレビに未来はあるのだろうか。メディア論を講義しながら、そんなことを考えたりすることがある。ただ、上記のような数字にとらわれると暗いイメージになるのだが、テレビとは何だと問いかけると、まった別次元のイメージもわいてくる。それは、テレビの技術が新たな文化を生み出すということだ。

          1953年に日本でテレビ放送が始まり、白黒画面から相撲や野球の面白さを知るスポーツの大衆化という文化が始まる。1964年の東京オリンピックでは画面がカラー化し、スローVTR、そして通信衛星を通じて競技画像が世界へと配信され、放送のグローバル化が拓けていく。画質の高精彩化によって、家庭にシアター文化がもたらされ、CS放送やBS放送で多チャンネルが進展する。報道現場でもSNG(Satellite News Gathering) 車によって、災害現場からの生中継が可能になり、速報性がさらに高まった。

    次なるテレビの技術文化は何か。それは来月12月から始まる「4K」「8K」放送だろう。現在のフルハイビジョン(2K)と比べ、4Kはその4倍、8Kは16倍の画素数なので高精彩画像だ。4K8K放送は衛星放送で始まるが、手を挙げいるのがテレビショッピングの「QVC」だ。去年1月にBS4Kの基幹放送事業者の免許を取得し、来月から「4K QVCチャンネル」で24時間365日の放送をスタートさせる。同社のホームページでは「見つかるうれしさ、新次元」というキャッチコピー=写真=でPRしている。「4K QVC、それは想像を超えた、全く新しいショッピング体験。鮮やかでリアル。テレビをつけた瞬間、お部屋は一気に、新次元のショッピング空間に」と。

     では、4K8Kが生み出す文化とは何なのか。手短に表現するならば、「バーチャルリアリティ」ということになるだろうか。これまで距離感があった、映像空間とリアリティ空間の差が限りなく縮まる。人間の感性や購買意欲をさらに刺激する新領域の番組に踏み込むかもしれない。テレビ局側は「バーチャルなフィールド=映像」をリアリティ空間に見せる新たな技術(演出)開発に突き進むだろう。たとえば、テレショップだったら、「いいですよ。お安いですよ」の従来の演出よりも、対面型、あるいは対話型による追体験型の絵構成が主になるかもしれない。これは想像だが。

         4K8Kが生み出す新たな番組づくり、お手並み拝見である。一方で、放送局の番組を送り出すバックヤードでは「映像伝送のIP化」という革新が起きている。放送は時間的なディレイ(遅延)が許されないため、通信回線を使うことに抵抗感があった。それが技術革新で光ファイバーで遅延なく伝送できるようになった。4K8Kは番組だけでなく、技術革新をももたらしている。これが2020年に本格化していく、放送と通信による同時配信への技術インフラへと展開していく。

⇒17日(土)夜・金沢の天気   はれ

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

   能登半島に木質バイオマス発電の施設が完成し、きょう(12日)火入れ式が執り行われた。地域の資源でもある間伐材を活用する。太陽光発電はもちろん、半島という地の利を活かした風力発電も数多く立地していて、まさに能登は再生可能エネルギーのショールームではないだろうか。

   発電所は輪島市三井町の山中にある。スギや能登ヒバが植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。発電量は一般家庭で2千5百世帯分に相当する2000KW(㌔㍗)時。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧もの間伐材を調達することになる。(※写真・上は2017年5月撮影)

   発電所を運営する株式会社「輪島バイオマス発電所」に大下泰宏社長を訪ね、会社設立の話をうかがったことがある。大下氏はもともと行政マンで同市の副市長もつとめ、能登の里山に愛着とこだわりを持っている。インタビュー(2013年8月)ではこう語っていた。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」

   そのことは、同社のホームページでの設立主旨からも読める。「(能登の)多くの木々は、今から50〜60年前に植林されたものです。以来、大切に育てられながら、太く大きく成長して、今まさに利用に適した成熟期を迎えています。しかし現在、森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やバルブ材等に利用されているのは70%程度に過ぎないのです。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状です。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はありません。」。里山のもったいない精神から発想された再生可能エネルギーなのだ。

    能登半島の尖端、珠洲市には30基の大型風車がある。2008年から稼働し、発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電所だ。発電所を管理する株式会社「イオスエンジニアリング&サービス」珠洲事務所長、中川真明氏のガイドで見学させていただいたことがある。ブレイドの長さは34㍍で、1500KWの発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。(※写真・下は珠洲市提供)

   では、なぜ能登半島の尖端に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況なんです」と中川氏。強い風が安定して吹く場所であれば、年間を通じて大きな発電量が期待できる。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、秒速6㍍を超えることがの目安になる。その点で能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が秒速6㍍秒を超え、一部には平均8㍍の風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の8百から1千世帯で使用する電力使用量に相当という。珠洲市には1500KWが30基あるので、珠洲市内6000世帯を使用量を十分上回る。

   いいことづくめではない。怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と中川氏。全国では2200基本余り、石川県では71基が稼働している。最近では東北や北海道で風力発電所の建設ラッシュなのだそうだ。

⇒12日(月)夜・金沢の天気    くもり

★SDGsゲームの不思議な魔力か

★SDGsゲームの不思議な魔力か

  きのう(2日)「能登SDGsラボ」が主催するSDGsカードゲームに初めて参加した。国連のSDGs(持続可能な開発目標)は国内でまだまだ浸透していないが、理解を深めると国際的に通用する「新しい物差し」なのだとなんとなく直感している。このゲームはSDGs の目標を一つ一つ細かく勉強するためのものではなく、「なぜSDGs が私たちの世界に必要なのか」、そして「それがあることによってどのような変化や可能性があるのか」を理解するためという触れ込みだったので参加してみたくなった。

  参加者は学生や社会人28人。1組2人か3人で、9組のチーム。チームがそれぞれ国となり、疑似世界を構成する。チーム(国)にはゴールを表すカード、実行するプロジェクトのカード(青「経済」、緑「環境」、黄「社会」)が渡され、そのリソースとなるマネーと時間のカードが配られる。マネーと時間を使いながら、世界の経済、環境、社会に影響を与えるさまざまなプロジェクトを実行し、ゴール達成を目指す。ファシリテーターは永井三岐子さん(国連大学サステイナビリティ高等研究所OUIK 事務局長)がつとめた。

  私のチーム(国)の引いたゴールカードは「悠々自適」。そのほか「大いなる富」「貧困撲滅」「環境保護」「人間賛歌」の4種類がある。悠々自適の目標達成のためには時間カードを15枚集めることになる。プロジェクトカードは、全体で80枚あり、経済、環境、社会に関する政策的なものが表記されている。実施条件をそろえればプロジェクトカードをファシリテーターのところに持っていく。ファシリテーターはそれを受け付け「世界状況メーター」でカウントしていく。たとえば、緑色の環境プロジェクトを持っていくと、環境はプラスとなるが、経済はマイナス。このゲームでは、時間内に何をするかはチーム(国)の自由だ。他のチ-ムと交渉して、当方のプロジェクトカードとマネーを交換することも可能だ。

  2030年目標なので「2024年」で前半(10分)を一度締めた。ゴールを達成したチームは9組のうち5組だった。ところが、各チーム(国)が実行したプロジェクトは青カードが群を抜き、「世界メーター」では経済18が突出、環境1、社会1となった。よいチ-ム(国)をつくるためには、まず資本(マネー)を蓄積しようと各チーム(国)が走った結果だった。この2024年の世界メーターを見て、「これではいかん」と各チーム(国)は気がついたのだろう。後半(15分)になると、チーム(国)の意識が世界共通の課題解決を目指す緑と黄のプロジェクトへと活発に変化してきた。競うような資本の貯えから、協力関係へと。持っているカード(プロジェクト、時間、マネー、意識)を交換して、共通の課題解決へ動き始めた。

   2030年では世界メーターが経済14に減り、環境と社会がそれぞれ11と12に増えてバランスがとれた=写真=。どこかのチーム(国)が積極的にリードした訳ではない。経済は必要不可欠、しかし経済が突出することにより、地球の在り様がアンバランスになる様を世界メーターで見つめることで、それぞれのチーム(国)が交渉や合意形成を通じて、世界共通の課題へと向き合った結果だった。

    締めくくりにファシリテーターの永井さんは、「このカードゲームで伝えたかったことは『世界はつながっている』、そして『私も起点』という考え方がSDGsの本質と可能性なんです」と。SDGsの不思議な魔力、いや「魅力」に取りつかれた思いだった。

⇒3日(土)夜・金沢の天気     はれ  

☆ディープフェイクの時代

☆ディープフェイクの時代

   台風25号の影響で北陸でも今夜からあす未明にかけて風も強まるというので、用心のために庭木を見て回った。セイオウボが淡いピンクの花をつけていた=写真=。この季節見るたびに上品な装いだと感心する。秋から春先にかけて一輪、また一輪と咲く。金沢では茶花として重宝されている。セイオウボを漢字で書くと「西王母」。ネットで調べてみると、西王母は『西遊記』にも登場する、不老不死の桃の木を持つ仙女の名前から名付けられているようだ。名前の由来は、格調の高い上品な趣の花ということなのだろうか。

   日本列島では相次ぎ台風が吹き荒れているが、東南アジアのインドネシアではスラウェシ島でマグニチュード7.5の地震(9月28日)と、それによる津波の被害が日々拡大、その後ソプタン山(1830㍍)の噴火(今月3日)があった。3つの重なる災害での死者は1500人とも報じられている。住民の不安心理を増幅させるかのように、SNSでは「M9.0の大地震が来る」や「ダムが決壊した」といったフェイクニュース(流言飛語)も飛び交っているようだ。小売店やガソリンスタンドで略奪行為など混乱に拍車をかけてるとBBCなど海外メディアが伝えている。

   災害に乗じたフェイクニュースは国内でもある。2016年4月に熊本でマグニチュード7.0の地震が発生したとき、熊本市動植物園のライオンが逃げたと画像をつけて、ツイッターでデマを流したとして偽計業務妨害の疑いで神奈川県の男が逮捕された。災害時のデマで逮捕されるのは国内では初のケースだった。男は2017年3月に「反省している」として起訴猶予処分となった。が、世界ではフェイクニュースによる人種差別や選挙妨害などエスカレートしている。

   そのフェイクニュースが巧妙に進化している。ネット上で「ディープフェイク」と称される「フェイク動画」のことだ。大学の知人から教えてもらった、アメリカのニュースサイト「BuzzFeed」がユーチューブで公開している動画を視聴して考え込んでしまった。「You Won’t Believe What Obama Says In This Video!」( この動画でオバマが言っていることを信じられないだろう!)のタイトルで、オマバ氏がホワイトハウスで声明を発表しているように見える映像だ。その中で、「President Trump is a total and complete dipshit.」(トランプ大統領はまったく本当に愚か者だ)などと罵っている。

   動画の最後の方に出てくるが、別人のコメディアンの語りに、オバマ氏の映像を被せたものだ。声も口の動きも表情も全て、このコメディアンのもの。つまり合成動画なのだ。膨大なオバマ氏の動画をAI(人工知能)が学習し、コメディアンの口の動き表情ととまったく同じオバマ動画をつくり、それを声に被せた。AIのテクノロジーの進化を感じさせるが、これでフェイク動画を作ることができると考えると穏やかではない。たとえば、トランプ氏と似た声の持ち主が「北朝鮮の非核化では日本が全面的に北に資金援助することで安倍氏と合意が出来ている」などとトランプ動画をつくり公開するとどうなるだろう。真贋をめぐって外交問題になるかも。

 
   今回「BuzzFeed」の動画を視聴して、動画は画像よりも加工が難しいとされてきたが、今やその常識は覆った。それはディープフェイクの時代の到来でもある。欧米ではパロディーとしてこの手の動画が増産されるのではないか。もちろん、余計な心配なのだが。

   セイオウボの花を眺めながら、台風が無事過ぎ去ることを願う。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    くもり

☆続・夏安居の「どぶろく」

☆続・夏安居の「どぶろく」

   きょう(24日)日中の気温は33度、昨日に比べ2度下がった。空に雲が時折かかり、それが猛暑を和らげてくれている。雲がこれほど有難いと思ったことはない。前回のブログで「どぶろく」を話題を取り上げたが、読んだ東京の知人からさっそくメールが入っていた。「田の神さまのコラーゲンたっぷりの顔だちってどんなものか。画像を見せてほしい」と。
  
   話は繰り返しになるが、尾関健二氏(金沢工業大学バイオ・化学部教授)のどぶろくに関する講演をブログで紹介した。日本酒の旨味成分であるタンパク質「α-エチル-D-グルコシド(α-EG)」が含まれ、皮膚の真皮層のコラーゲン密度が増加する作用がある。また、甘酒には消化器官内で消化と吸収がされにくい、難消化性のタンパク質「プロラミン」が含まれ、食物繊維のような物質として機能するため、コレステロールの排出促進や便秘改善、肥満抑制の作用がある。どぶろくには日本酒と甘酒の2つの効果が兼ね備わっていると興味深い講演だった。

   この講演を聞いて真っ先にイメージしたのが、能登町柳田植物公園にある古民家「合鹿庵」の掛け軸に描かれている、農耕儀礼あえのこと神事(2009年ユネスコ無形文化遺産登録)の「田の神さま」だった。田の神さまは甘酒(どぶろく)が好みとの言い伝えがあり、神事には甘酒が供えられる。掛け軸の田の神さまはもちろん想像図なのだが、ふっくらツヤツヤした顔だちが印象的だ。そこで「コラーゲンたっぷりの顔だち」と書いた。

    田の神さまには別の言い伝えもある。田の神さまは各農家の田んぼに宿る神であり、それぞれの農家によって田の神さまにまつわる言い伝えが異なる。共通しているのが、目が不自由なことだ。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂でうっかり目を突いてしまったと諸説ある。目が不自由であるがゆえに、それぞれの農家の人たちは丁寧に接する。座敷に案内する際にも介添えをし、前に供えた料理を一つ一つ口頭で説明する。「もてなし」を演じる家の主(あるじ)たちは、自らが目を不自由だと想定し、どうすれば田の神さまに満足していただけるのだろうかとイマジネーションを膨らませる。

    ある農家の主はこんなことを話していたのを思い出した。「もっとおいしい甘酒を差し上げたいのだが」と。現在は「甘酒」を供しているが、明治ごろまでは各家庭で造っていた「どぶろく」を供していたそうだ。ところが、明治政府は国家財源の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。これがきっかけで家庭におけるどぶろく文化は廃れていった。

        これは思い付きだが、「どぶろく特区」(中能登町)で製造されたどぶろくを能登町のあえのこと農家に持参してはどうか。田の神さまは「どぶろく飲むのは久しぶりじゃ」と喜んでくださるのではないか、と。

⇒24日(火)午後・金沢の天気      はれ時々くもり

★夏安居の「どぶろく」

★夏安居の「どぶろく」

   昨日(21日)も昼間の外気温が35度だった。連日酷暑が続くと「夏安居(げあんご)」という言葉を思い出す。もともと仏教用語で、夏場は動植物たちの営みが盛んな季節で屋外では蚊やアブに刺されたりするので、寺院内で修行をするという意味のようだ。現代風に言えば、酷暑による熱中症が怖いので、なるべく屋外は避け、家のエアコンで涼んでビデオか読書で過ごす。「夏安居」は含蓄のある素敵な言葉だと思う。講演会の案内をいただいたので、冷房の効いた部屋で勉強をしようと出掛けた。講演のタイトルは「どぶろく・甘酒の効能」。

   能登半島の中ほどに位置する中能登町には、神酒として「どぶろく」の製造が国から許可されている全国30社のうち3社(天日陰比咩神社、能登比咩神社、能登部神社)が同町にあり、今でも神事にはどぶろくを造っている。天日陰比咩神社などは延喜式内の古社でもあり、酒造りの長い歴史を有する。能登半島は国連の食糧農業機関(FAO)から「世界農業遺産」(GIAHS)に認定されているが、まさに稲作と神への感謝の祈り、酒造りの三位一体の原点がここにあるのではないか、この地を訪問するたびにそう感じる。2014年に町が「どぶろく特区」に認定されると、どぶろくの醸造免許を取得し、どぶろく造りを始める稲作農家が徐々に増えてきた。農家や神社関係者を中心に「どぶろく研究会」が結成され、商品開発などに活発に取り組んでいる。講演の案内は研究会からの招待だった。

   講師の尾関健二氏(金沢工業大学バイオ・化学部教授)の話は実証研究によるデータの積み上げで酒と美肌の関係性に迫るものだった。尾関氏は、どぶろくなど日本酒の旨味成分であるタンパク質「α-エチル-D-グルコシド(α-EG)」を配合したハンドクリームを腕に塗る実験では、皮膚の真皮層のコラーゲン密度が増加し、日本酒を飲んだ場合でも同じような効果が得られたと解説。また、甘酒からは消化器官内で消化と吸収がされにくい、難消化性のタンパク質「プロラミン」が含まれ、食物繊維のような物質として機能するため、コレステロールの排出促進や便秘改善、肥満抑制の作用がある、と。そして、どぶろくには日本酒と甘酒のこうした成分が双方含まれていると理路整然とした解説だった。

   この講演を聞いて、ある掛軸の絵を思い出した。能登町柳田植物公園にある古民家「合鹿庵」の掛け軸には、農耕儀礼あえのこと神事(2009年ユネスコ無形文化遺産登録)の「田の神さま」が描かれている。もちろん想像図なのだが、ふっくらでツヤツヤした顔だちが印象的だ。田の神さまは甘酒(どぶろく)が好みとの言い伝えが昔からある。こうしたコラーゲンたっぷりの顔だち。爽快な笑顔は便秘からの解放感なのかもしれない。尾関氏の研究成果がそのまま「田の神さま」に表現されていると直感した。

   前列に座っていたので気付かなかったが、講演会場には若い女性やカップル、ファミリィが目立った。主催者の話では150人。ひょっとして「どぶろくブーム」が起こるかもしれない。帰り際、会場でどぶろくが販売されていたのでつい2本買ってしまった。もちろんこの身で「実証実験」するためだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ

☆日本型移民政策

☆日本型移民政策

    最近金沢でも外国人の働き手が増えている。先日、近所の「auショップ」に行くと、「イラッシャイマセ」と声をかけてきた男性スタッフがいた。聞けばネパール人でこの4月から社員として働いている。英語が堪能で「いろいろなお客さん(外個人)に対応しています」と。その後も自転車に乗って近所を走る姿をたまに見かける。近くの「ローソン」でもネパール人の女性がレジを担当している。「アリス学園(金沢にある日本語学校)で特訓中です」と。外国人労働者が身の回りにいることは日常の光景になりつつある。

    政府は先日(5日)の経済財政諮問会議で、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表した。各紙に目を通すと「日本型移民政策」の構図が浮かんでくる。特徴的なのは、新たな在留資格だ。これまで最長5年の「技能実習」を終えた人や、一定の語学力や技能を持った人が対象で、最長で5年間滞在できる。主に5分野で、農業、介護、建設、宿泊関連、造船が想定されている。家族の帯同は基本的には認めていないが、期間中に専門性が認められた場合は在留期間の上限を取り除き、家族帯同を認めることも検討するとしている。5分野で2025年までに50万人の就業を想定している。

    率直にこの政府方針は有効なのだろうか。25年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っても、まったく不足している。何しろ、日本の労働人口は毎年30-40万人減少している。数百万の規模で外国人労働者を受け入れる準備をしなけらば日本の経済は成り立たないではないかと推測している。

    実はもう一つの「日本型移民政策」が動いている。政府は、2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指す「留学生30万人計画」を外務省や文部科学省に指示して推進している。たとえば、金沢大学でも2023年までに外国人留学生2200人の受け入れを目指している。日本の大学で専門性を身につけた留学生に日本の企業で就職してもらう取り組みも並行して行われている。2016年の統計だが、留学生による日本企業への就職は1万9435人で過去最高となった(法務省入国管理局まとめ)。法務省は留学の在留資格を発行していて、留学生がさらに国内の企業へ就職する場合は在留資格の変更許可を申請することになるので数値として把握している。

   日本企業に就職した留学生の国籍・地域別の上位は、中国1万1039人と圧倒的に多く、ベトナム2488人、韓国1422人、ネパール1167人、台湾689人とアジア諸国が95%を占める。主な職務内容は「翻訳・通訳」7515人、「販売・営業」4759人、「海外業務」3103人、「技術開発(情報処理分野)」1990人など。

        確かに、留学生の中でも日本での就職の期待度は高い。昨年6月に金沢市で開催された留学生と地場企業による交流会に120人の留学生が参加した=写真=。社員52人のうち28人が外国人という繊維会社(インテリア、スポーツ衣料)では生産管理と品質管理、営業はベトナムや中国人スタッフが担当し、金沢本社とアジアの生産工場を往復する。留学生からは働き方、休日の過ごし方などに質問が相次いだ。

   海外に生産拠点を置く企業だけでなく、国内のサービス産業やITベンチャー企業も外国人採用枠を増やしている。少子高齢化の日本経済の行方は外国人動労者の確保にかかっている。ドイツではすでに人口の15%程度の外国人労働者を受け入れている。

⇒8日(金)朝・金沢の天気     はれ

★110年「旅するワイン」

★110年「旅するワイン」

     昨夜(20日)金沢のワイン・バーに出かけた。ソムリエで店のマスターが「マデイラワインはご存知ですか」とカウンター越しに声をかけてきた。「いや、マデイラは地名ですか。どこのワインなの」と尋ねると、「ポルトガルのリスボンから1000㌔のマデイラという島なんですが、ソムリエだったら一度は行ってみたい、伝説のワインの島なんですよ」と。

     そこまで聞くと飲んでみたくなった。「10年ものでいいですか」とマスター。アルコールは濃い感じだが口当たりがいい。「この島のワインは酒精強化ワインと言うんです」。マスターの話を要約する。イベリア半島など気温が高く温度管理が難しい地域では、ワインの酸化や腐敗防止など保存性を高めるためにさまざまな工夫が歴史的になされてきた。酒精強化は、液中のアルコール分が一定量を超えると酵母が働かなくなり、アルコール発酵による糖の分解が止まる現象を利用し、ブランデーなどを混ぜる。通常のワインのアルコール度数が10-14度なのに対し、酒精強化ワインは18度前後になる。「それでこのワイン、アルコールが少々強めなんだ」と妙に納得する。

   「保存が効くマデイラワインは大航海時代に重宝され、旅するワインとも言われたようです」とマスターは歴史の話を持ち出した。15世紀ごろからポルトガル、スペイン、イギリスなどからアフリカ、アジア、そしてアメリカ大陸への航海が始まる。保存性が良い酒精強化ワインは大航海の必需品となった。マデイラワインをもっとも有名にしたのは1776年、後に大統領となるトーマス・ジェファーソンが起草したアメリカ独立宣言が大陸会議で承認され、祝った酒がマデイラワインだったとの伝説だ。

    「ところで、保存が長いと言うけど、一体どのくらい保存が効くの、20、30年くらいなの」と突っ込みを入れた。するとマスターは「それでは出しましょうか」と奥から緑色のボトルを1本持ってきて、カウンターに置いた=写真=。「D’OLIVEIRAS」(ドリヴェイラ)という1850年創業のワイナリー。「BOAL」(ブアル)というブドウ品種。そして「1908」とある。「えっ、110年もののワインなの」と驚いた。持っていた手帳で調べると明治41年。まさにオールド・ヴィンテージものだ。

    「マスター、これ一杯いただけませんか」。少し声の震えを感じながらお願いした。澄んだ琥珀色、中ぐらいの甘口だ。古民家に入ったときに感じる古木の香りと芳醇な味わい、そして時空を超えた伝説の深味を楽しんだ。「マスター、冥土の土産話ができましたよ。ありがとう」と言って店を出た。

⇒21日(水)朝・金沢の天気   くもり

★北陸新幹線は銀世界を快走する

★北陸新幹線は銀世界を快走する

              この冬最強の寒波だそうだ。金沢など北陸では記録的な大雪になっている。きょうから大学入試センター試験が2日間の日程で始まったが、石川県内7つの大学に設けられた11の会場では受験生たちが足元に気にしながら試験会場に向かったことだろう。「滑らないように気をつけて」と。昼のテレビニュースによると、大雪による在来線列車の遅れで受験生4人が時間をずらし、別の部屋で試験を受けるというトラブルがあったが、そのほか目立った問題は起きなかったようだ。

     それにしても「三八(さんぱち)豪雪」(昭和38年、1963年)を思わせる降り方だ。きょう13日の夕方で能登半島の先端・珠洲市で69㌢、金沢で57㌢の積雪となっている。正直、自宅前の「雪すかし」の作業はきりがない。どんどん積もって来る。交通機関にも影響が出ていて、JR北陸線では午後6時現在、特急列車24本と普通列車29本が運休したほか、小松空港発着の便でも合わせて34便が欠航となっている。

     大雪による交通インフラへの影響が出る中、快走しているのが北陸新幹線だ。きのう12日、大雪の中、東京へ日帰り出張に出かけた。出発は午前7時48分の「かがやき」。10分遅れでの出発となったが、長野までは一面の銀世界を行き、大宮では青空だった。北陸新幹線のどこが雪に強いのか。それはJR西日本とJR東日本と共同開発した新型車両「W7系」「E7系」の先頭車両に「スノープラウ」と呼ばれる雪かきが付いているからだ。また、線路脇に積もった雪を掘り下げて除雪できる機能を備えた新型の除雪作業車23両を配備している。

     帰りもほぼ定刻で東京駅から金沢駅に着いた。雪の季節、こんなに頼れる交通機関は他にない。北陸新幹線の価値を見直した。(※写真は、12日午前6時50分に撮影したJR金沢駅前の雪景色)

⇒13日(土)夜・金沢の天気    ゆき              

☆「2018」を読む-下

☆「2018」を読む-下

   「ことしも自虐ネタできたか」、くすくすと笑いながら読んでしまった。3日付の新聞朝刊を楽しみというほどではないが、少し意識して開いた。期待を裏切らない全面広告だった。「謹んで新年のお詫びを申し上げます。」を最上段に掲げ、以下「『早慶近』じゃなくなったことに関するお詫び」「2018年問題に関するお詫び」「近大マグロに関するお詫び」「インスタ映え広告に関するお詫び」「ド派手な入学式に関するお詫び」などと「お詫び」記事のオンパレード。最下段で「今年も盛大にやらかすんで、先にお詫びしときます。近畿大学」と結んでいる。きょうは同大学の願書受付の開始日でもある。

     自虐ネタの全面広告、「近大」が問うていること

    近畿大学の新年広告について大学の職場で話題になったのは昨年1月のこと。「これは、自虐ネタですよ」。先輩教授が3日付の全国紙の広告を見て笑った。『早慶近』の特大文字とマグロの頭の写真が掲載された全面カラーの広告だった。読者が普通に読めば、「早稲田、慶応、そして近大」。これまでは「早慶上智」だったが、最近は上智にとって代わって近大が早稲田、慶応と並んだ、と言いたいのだろうと解釈した。ところが最後に下段の右隅で「早慶近」の意味を披露している。「みなさまに早々に慶びが近づきますように」。この広告の練り方は深い、と印象に残ったものだ。

    ところが、今年は昨年のネタをさらにこね回し、「『早慶近』じゃなくなったことに関するお詫び」と題して、「早慶近中東立法明上」をキャッチコピ-にしている。「昨年1月3日に掲載した『早慶近』というキャッチコピーの新聞広告によって、『100年早い』とか言われて世間をお騒がせし、っていうか一部炎上したことをお詫び申し上げます」と言い訳しつつ、しっかりと「早慶近」と先頭グループを強調している。「ちなみにこの並び、語呂よくしてみただけで、深い意味はありません。念のため」とあくまでもランキングではなく語呂合わせと言い訳しているが、意図は見え見えだ。ちなみに、近畿大学のランキングはイギリスの教育専門誌「Times Higher Education」が出してる「THE世界大学ランキング」で1000位に入った私立総合大学のことを指す。

    確かに、近畿大学の経営戦略は突出している。少子化で18歳人口が減少する中、近畿大学は2005年に5万人だった入試の志願者総数を2017年には14万人に伸ばし、早稲田大学や明治大学を抜いて4年連続で全国1位となっている。昨年4月には入学定員を920人も増やしている。また、32年間かけてクロマグロの完全養殖に成功し、「近大マグロ」はすでにブロンド化されて寿司屋でもメニューになっている。水産資源の持続可能な保全という意味では国際的にもっと評価されていい。経営面では脂が乗りに乗っている。

    2030年以降の18歳人口は100万人を切る。私学ランキングの旧式なパラダイムは「早慶上智」「関関同立」だったが、それだけはでもう大学としの経営は存続が難しくなることは目に見えている。自虐ネタの全面広告ながら、近畿大学はそのことを問うているに違いない。耳を澄ませば高笑いが聞こえてくるようだ。「早慶上智のみなさん、関関同立のみなさん、あと10年もすればあんたがたの経営はどうなりますやろか。気つけなはれ。オーッホッホッ」

⇒3日(水)午前・金沢の天気   くもりときどきゆき