⇒トレンド探査

☆2020 先読み~賀状は世相を映す

☆2020 先読み~賀状は世相を映す

   いただいた年賀状を読み返してみると、ほのぼのとするのもの、嘆き節などさまざまな思いが込められていて面白い。千葉県に住む知り合いから「ワォッー!」という賀状をいただいた。文章はないが、五輪のマークが入っていたので、おそらく今年はオリンピックがやって来る、という意味を「輪」と「ワ」で表現したデザインなのだろうと推測した。

   というのも、千葉県ではオリンピック・パラリンピックの競技が8つも開催される。開催都市である東京都に次いで2番目の競技数だ。幕張メッセでのフェンシング、テコンドー、レスリングの3競技に加え、釣ヶ崎海岸で五輪史上初となるサーフィンが開催される。パラリンピックでもゴールボール、シッティングバレーボール、テコンドー、車いすフェンシングの4競技が行われる。「ワォッー!」はおそらくオリンピック大歓迎の意味だろうと解釈した。

   開催地・東京の友人からは、皮肉たっぷりな賀状をいただいた。タイトルは「STOP! 東京五輪」。小池百合子都知事のつぶやきのような文面になっている。

   「東京五輪 開催は返上するヮ だって良く考えたら、オリンピックってお金はメチャクチャかかるし、観光客が大挙押しかけてきて、街も道路も大混雑。ただでさえ暑い東京の夏が『灼熱地獄』になるヮ。クーラーなしの陸上競技場で熱中症になったり、大腸菌ウヨウヨのお台場で泳いだりーーバカじゃないの。マラソンは札幌に取られたし、東京でやる意味なんかない。もう開催は返上。『五輪はご臨終ョ!』 あら、正月早々縁起でもない。ゴメン遊ばせ。でも、7月の都知事選で私が勝ったら話は別だワ。東京五輪、バンザーイ!」

   思わず笑ってしまった。前半の文面はおそらく東京都民の本音だろうと解釈する。ただでさえ混み合う東京で、しかも暑い盛りにオーバーツーリズム(観光公害)が起きて、都民の生活に悪影響をもたらす。まさに、灼熱地獄とはこのことだと嘆きが聞こえてきそう。後半では、開催には都民の税金が使われて、マラソンは札幌に持っていかれ、「五輪はご臨終」という言葉に自虐的な気持ちが伝わり、同情する。小池知事もいま同じ気持ちでいるだろうけれど、7月の選挙に勝てば、「東京五輪、バンザーイ!」だろうな、政治家は打算的だから、と皮肉交じりで。ユーモラスでしかも短文、感服した。

    さて、2020年は東京オリンピックを頂点にさまざまドラマが政治、経済、社会の各分野にもたらされることだろう。実り多き一年であることを願いつつ、ブログで世相を活写していきたい。

⇒5日(日)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★2020 先読み~逃げ癖

★2020 先読み~逃げ癖

     先月30日レバノンに逃亡したことで物議をかもしているカルロス・ゴーンという人物はもともと逃げ癖があったのではないか。昨年3月6日、一回目の保釈で東京拘置所から出てきた姿は、青い帽子に作業服姿、顔の半分以上はマスクで隠していた。その場を逃げるような姿だった。なぜ、このような姿で拘置所から出てくる必要性があったのだろうか。この作業服を着た意味は何か、と思ったものだ。このとき、保釈金10億円を納付したのだから堂々と出てきて、記者会見をすればよかったのではないか。逃げ癖は、虚言を吐いたり、変装で身を隠したりと、現実逃れをやってのける。   

   ゴーン氏の逮捕は、有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとして金融商品取引法違反で2回。さらに、日産に私的な投資で生じた損失を付け替えたとする特別背任で3回目の逮捕。4度目の逮捕容疑は、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に日産資金17億円を支出し、うち5億6300万円をペーパーカンパニーを通じてキックバックさせて日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)だ。このオマーンの販売代理店を経由した資金のキックバックは、フランスのルノーでも疑惑が浮上している。しかも隠れ家を世界中に所有していると報道されている。犯罪性そのものに逃げ癖を感じる。

   もう一人、逃げ癖を感じる人物がいる。国と国との問題に真っ向から対応しない。問題を提起すると逃げて、別の問題を振りかざして戻って来る。韓国の文在寅大統領だ。2018年12月、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した事件。韓国政府は当初、「哨戒機を追跡する目的ではない」と説明していたが、その後一転して「レーダー照射はしていない」「日本の自衛隊機が威嚇飛行を行った」と全面否定している。

   2018年10月、朝鮮半島から内地に動員された元「徴用工」といわれる人たちが、日本企業を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁は賠償を命じる判決を言い渡した。これに対して、日本政府は1965年の日韓請求権ならびに経済協力協定で、請求権問題の「完全かつ最終的な解決」を定めているので、韓国の最高裁が日本企業に対する個人の請求権行使を可能としたことは、「国際法に照らしてありえない判断」(安倍総理)と強く批判した。これに対して、文在寅氏は外交問題として向き合っていない。

   2019年8月、日本政府が輸出管理上のホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受けて、文在寅大統領は「賊反荷杖」の四字熟語を使って日本批判を展開した。日本語で「盗人猛々しい」に相当する。素直に「改善する」と言えばよいのに、それを歴史と絡めて批判してくるところに無理がある。その後、韓国側は日韓防衛当局間で軍事機密のやりとりを可能にするGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続せずに破棄すると発表した。連動するように、韓国軍は島根県の竹島周辺で軍事訓練を行っている。破棄を決定していたGSOMIAを失効期限(11月23日午前0時)直前になって韓国側が回避を決めている。

   司法の場でも、外交の場でも、逃げ癖でその場はいったん逃れられたとしても課題解決にはならないことは言うまでもない。むしろ信頼を失って不利になるだけ、なのだが。

⇒4日(土)午前・金沢の天気    くもり

☆2020 先読み~広告が映す未来戦略

☆2020 先読み~広告が映す未来戦略

   それにしても大晦日・元旦の紙面をめくっていて、広告の派手さがエスカレートしていることに気づく。思わず「こりゃ何だ」と声を出してしまったのが、12月31日付・朝日新聞に掲載された立命館大学の全面見開き広告『立命館から、アメリカ大統領を。』だ。文章を読むと、「2040年、立命館で学んだアメリカ大統領が誕生する。と言ったら、あなたは笑うかもしれいない。でも、20年前の1999年に、2019年を想像できた人はなかった。ならば『あり得ない』と言い切ることは、誰にもできないはずだ。」と。

     「立命館から、アメリカ大統領を」の壮大キャッチに覚悟が見える

  文章に理はあるものの、『立命館から、アメリカ大統領を。』のキャッチコピーは誰が考えたのだろうか。このキャッチを採用するかどうかについて、経営内部で相当な議論があったことは想像に難くない。「突き抜けたグローバル教育」を標榜する大学だけあってスケール感が違う。さらに右下に小さく、「この広告は、米国でも同時展開しています。」と記してある。ハーバード大学に対抗意識を燃やしてのことか。この広告のアメリカ現地の評判を聞いてみたいものだ。

  2020年は再び新しい十二支のサイクルがスタートする子(ね)年に当たる。いただいた賀状も圧倒的にネズミのイラストが多い。それなのに、元旦付の全国紙では『2020 ねこ年、始まる。CATS キャッツ』の全面広告が目を引いた。キャッツと言えば、世界中にファンがいる、ミュージカルの金字塔「キャッツ」だ。それを映画化した、ミュージカル映画のロードショーが今月24日から始まる。エンターテイメントとしては最高峰かもしれない。それにしてもこの広告、ネズミ年を意識して、あえて「ねこ年、始まる。」のキャッチコピーを入れたところに、意外性のたくらみが読めて面白い。

     Netflix、動画配信サービスで世界のトップランナーに

  だじゃれと言えばだじゃれなのだが、同じ映画のPR全面広告で「銀河新年 2020年の『夜明け』はスター・ウォーズと共に」も面白い。元旦の賀状あいさつは「謹賀新年」が定番だが、それをあえて「銀河新年」と。また、動画配信サービス「Netflix」は全面広告4面を使って「正月はNetflixざんまい!」をPRしていた。アメリカのナスダック市場で、10年前と比較して株価が41.8倍と、上昇率で首位になるなど業績含めて絶好調。4面全面広告からもその鼻息の荒さが聞こえてくる。

     トヨタ、自動運転をベースに街づくりを構想する未来戦略

   鼻息の荒さでは、トヨタの全面見開き広告「未来を、どこまで楽しくできるか。トヨタイズム」というキャッチも負けてはいない。クルマからモビリティへ、モビリティからコネクティッド「シティ」構想へ。自動運転をベースに、街づくりを担う会社としてのトヨタの未来戦略が読めて、実に考えさせる広告ではある。

⇒3日(金)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★2020 先読み~五輪後の景気は

★2020 先読み~五輪後の景気は

   ゴーン、ゴーンとまるでお寺の鐘のようにテレビや新聞で鳴り響いている。きょう元旦の紙面は、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が秘密裏に中東のレバノンに出国していた問題を取り上げている。ヨーロッパの複数のメディアは、計画が数週間前から周到に準備され、妻のキャロルが重要な役割を担ったと伝えている(1日・NHKニュース)。

   このような脱法行為が許されるはずがないだろ。ゴーン氏は保釈の条件で海外への渡航が禁じられていた。このため、東京地裁は保釈を取り消し、納められた保釈金15億円は没収する。仮にゴーン氏が帰国した場合には身柄が拘束され拘置所に勾留される。不可解なのは、日本の出入国在留管理庁のデータベースにゴーン氏が日本から出国した記録がまったくないことだ。法律の抜け道をくぐった脱法行為による出国ということになる。この方が重大だ。誰が指南したのか。あるいは、日本の司法制度がそれほど緩いのか。このニュースはさておき、2020年の先読みを試みる。まず、日本の景気は。

     東京オリンピック後に日本の景気は低迷するのか

   オリンピック後に不動産市場が低迷し、建設需要も冷え込むのではないか。老朽化した公共インフラを更新すればよいとの論もあるが、では労働力の確保はどうなる、財源の確保はどうなるのか。日銀は大規模な金融緩和を続けているが、いつまで続く。金融緩和を続けていけば必ずひずみが出るのではないか。また、日本の最大の貿易相手国、中国の経済はすでに「成長の限界」に来ているのではないか。リーマンショック後、中国は積極的なインフラ投資などで経済成長を果たしてきたが、その成長モデルはもう通用しないだろう。そして、11月3日にアメリカ大統領選挙が行われる。これか世界の経済、日本の景気にどう影響するのか、だ。

    アメリカと中国の貿易交渉、これからの見通しは

   米中貿易交渉の第1段階の合意については、アメリカの中国への輸出が2倍に、中国が今後2年間でアメリカの農産品の購入を2000億㌦(22兆円)相当を増加させると報じられた。今後の米中貿易交渉で、日本がとばっちりをくらうことにもなるかもしれない。アメリカに輸出される中国製品には、日本製の電子部品や材料が多く使われている。アメリカが中国製品に制裁関税をかければ、実質的には日本製品にも高関税がかかることになる。米中の貿易交渉が今後テクノロジーをめぐってはエスカレートすればするほど日本への打撃が大きくなるのではないか

    デジタル人民元はドルに対抗できる通貨となりうるのか

   中国が構想しているデジタル人民元はデータ改ざんが難しいブロックチェーンの活用が基本とされる。とくに、マネーのやり取りを追跡できるようになれば、マネーロンダリングや詐欺、脱税といった犯罪の抑止になる。注目すべきは、中国国内の不動産バブルが崩壊するなど債務問題が一段と深刻化する中で、このデジタル人民元は吉と出るか、凶と出るか、だ。一方、アメリカはフェイスブックのリブラを警戒している。リブラを認め、世界的に普及すれば、国際決済で40%のシェアを占めるとされるドルそものもが形骸化する可能性も出てくる。

    「5G元年」、情報技術と産業はどこまで融合していくのか

   情報技術をさまざまな産業分野に結びつける動きが加速している。金融では「FinTech」と呼ばれる造語ができ、教育では「EduTech」、農業では「AgriTech」、広告では「AdTech」、医療では「HealthTech」と言うように。テクノロジー(Technology)と既存産業との融合は「Society5.0」とも言われているが、その在り様もある意味で問われている。「5G元年」ともいわれる2020年はどのように展開していくのだろうか。

⇒1日(水)午後・金沢の天気      はれ

☆「ごちゃまぜ」という社会の化学変化

☆「ごちゃまぜ」という社会の化学変化

  「Share(シェア)金沢」という施設が金沢大学の近くにある。高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向け住宅の複合施設だ=写真=。90人ほどが暮らす、ちょっとしたコミュニティでもある。施設には天然温泉やカフェバー、レストラン、アルパカの牧場、タイ式マッサージ店などがあり、近くの子供たちや住民も出入りする。運営している社会福祉法人「佛子園」の理事長、雄谷良成(おおや・りょうせい)氏と面談するチャンスがあった。

   大学で作成する教材用の動画の出演依頼の面談だった。テーマは「ソーシャルイノベーション」。都会から地方に移住したいという人々を地域が受け入れ、一つのコミュニティー(共同体)をつくることで新たな考えや発想、ビジネスを起こすという社会実験の場をいかにして創るか。Share金沢はそのモデルの一つだ。CCRC(Continuing Care Retirement Community)は高齢者が健康なうちに地方に移住し、終身過ごすことが可能な生活共同体のような小さなタウンを指す。1970年代にアメリカで始まり、全米で2000ヵ所のCCRCがあるという。都会での孤独死を自らの最期にしたくないと意欲あるシニア世代が次なるステージを求めている。そうした人々を受け入れる仕組みを地方で創る、いわば日本版CCRCの社会実験の意義について講演をお願いした。 

    雄谷氏は「私が目指しているのは、“ごちゃまぜ”によるまちづくりです」 と口火を切った。続けて「障害のあるなしや高齢に関係なく、多様な人たちがごちゃまぜで交流する。誰もがコミュニティの中で役割を持ち、機能しすることで元気になり、コミュニティが活気づく。いわば人間の化学反応が起きるのです。いま日本の社会、とくに地域に求められているのはこうした共生型社会ではないでしょうか」と。

    雄谷氏の祖父は寺の住職で、戦災孤児や知的障害児を引き取り育てていた。1961年生まれの雄谷氏も障害児たちと生活し、「ごちゃまぜ」の環境で育った。金沢大学で障害者の心理を学び、青年海外協力隊に入り、ドミニカで障害者教育に携わった。いろいろな人たちがごちゃまぜに共生し、人と人が関わり合うことによって化学反応が起きる。事例がある。通所している認知症の女性が、重度心身障害者の男性にゼリーを食べさせようと試みた。男性は車椅子で首はほとんど動かせない。3週間ほど繰り返すうちに男性にゼリーを食べさせられるようになった。首が少し回るようになったのだ。女性も深夜徘徊が減った。この様子を観察していた雄谷氏は「人と人が関わり合うことによって互いが役割を見つけ、生きる力を取り戻す。大きな気づきでした」と。

    雄谷氏が提唱する、ごちゃまぜのコミュニティづくりの構想は、縦割りとなった社会制度を崩すものだ。政府が目指すべき将来像を示す「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」にこの構想が盛り込まれた。個人の人生設計と併せて地域で共生する社会のなかで誰もが活躍する。少子高齢化・人口減少の課題先進国、日本にとって示唆に富んだ提案ではないだろうか。今回の面談の時間は30分ほどだったが、講演の動画収録にOKが出たので、今度ゆっくり聞かせてもらうことになった。

⇒4日(水)朝・金沢の天気    あめ

★SDGsをお経のように

★SDGsをお経のように

   能登は自然環境と調和した農林漁業や伝統文化が色濃く残されていて、2011年には国連の食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」が日本で最初の世界農業遺産(GIAHS)の認定を受けるなど、国際的にも評価されている。

        一方で、能登の将来推計人口は2045年には現在の半数以下になるとされ、深刻な過疎・高齢化に直面する「課題先進地域」でもある。金沢大学が能登半島の先端で開講している「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」は新しい社会の仕組みをつくり上げる、志(こころざし)をもった人材が互いに学び合い切磋琢磨することで、未来を切り拓く地域イノベーションが生まれることの期待を人材育成プログラムに込めている。

   マイスタープログラムの取り組みは、国連で定めた持続可能な開発目標であるSDGsに資すると評価を受け、昨年6月に珠洲市が申請したマイスタープログラムと連携するコンセプトが内閣府の「SDGs未来都市」に認定された。これを機に、能登半島がSDGsの世界的な先進モデル地となることを目指すコンセプトにしようと、今年度からそれまでの能登里山里海マイスター育成プログラムを能登里山里海SDGsマイスタープログラムとしてリニューアルした。その効果はあったのか。

   きょう9日、マイスタープログラムに参加した。「SDGs」という言葉が飛び交っていた。たとえば、受講生が発表した報告には、「能登の里山里海の魅力を伝える観光DMOをSDGsの視点でさらに付加価値を高めたい」や「SDGsをテーマとして能登の森林バンクを創る」など、SDGsが普通にテーマに盛り込まれていた。能登暮らしに満足してはいない、かと言って決して先端を走っているわけでない。そこで、新たな価値としてSDGsを活用したい、そのような雰囲気が感じられた。

   これは思い付きの発想だが、SDGsを唱えることで自分自身をその気にさせる、お経のような効果があるのではないだろうか。理解することもさることながら、まず唱えてから自身に問いかけて語り、実行に移す。SDGs教である。悪い意味で言っているのではない。日本には「習うより慣れろ」や「考えながら行動する」という言葉がある。知識として教わることを優先するよりも、実際に体験を通じてその意味を実感していく方が習得は早い。講義を最後まで聴講していたが、面白い雰囲気が漂っていた。

9日(土)午後・能登半島・珠洲市の天気    くもり

★能登半島、歌のツーリズム

★能登半島、歌のツーリズム

   歌手の石川さゆりさんが春の褒章(今月21日発令)で学問・芸術分野などに贈られる紫綬褒章に選ばれた。石川県の住民の一人として、石川さゆりさんの功績は大きいと評価している。それは昭和52年(1977)にリリースされた曲『能登半島』(作詞・ 作曲 · 阿久悠、三木たかし)のヒットによる観光効果だ。

   「十九なかばで恋を知り あなた あなた 訪ねて行く旅は 夏から秋への能登半島」。恋焦がれる女性の想いが込められた歌は能登への旅情を誘い、能登観光の第2次ブームを創った。翌53年に半島の先端・珠洲市への日帰り客数は130万人を記録(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成22年度旧きのうら荘見直しに係る検討業務報告書」)。その記録はまだ塗りかえられていない。

        では、能登観光の第1次ブームはいつだったのか。昭和32年(1957)、東宝映画『忘却の花びら』(主演:小泉博・司葉子)が公開された。「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして、忘却を誓う心の哀しさよ」の名文句で始まるNHKラジオの連続ドラマ『忘却の花びら』(菊田一夫作)は、戦後の混乱期から落ち着きを取り戻し、マスメディアによる大衆文化が定着を始めたころのヒット作品だった。

   その映画のロケ地が輪島市の曽々木海岸であったことから、観光地としての能登ブームに火が付いた。横長のリュックを背負った若者が列をなしてぞろぞろと歩く姿を「カニ族」と称する言葉もこのころ流行した。さらに、昭和39年(1964)9月に国鉄能登線が半島先端まで全線開通、同43年(1968)に能登半島国定公園が指定された。マスメディアのPR効果、移動手段の確保、名勝としてのお墨付きを得て本格的な能登半島ブームが起きた。

   しかし、これまでの歌や映画によって誘われる旅情というはもう通用しないかもしれない。次世代の観光はこれまで旅行会社が取り上げなかった、あるいは観光地図にもなかった辺地、隠れた文化度の高い地域などが観光の対象となっていくのではないだろうか。「本当の田舎を見てみたい」や「何か体験をしてみたい」という要求が高まっている。いわばマス型からプライベイト型観光へとシフトが進んでいるように思える。

   新たな観光地は、個人を納得させる文化や歴史、伝統、農法、漁法、景観、人々の立ち居振る舞い、生業(なりわい)、自然・生態系といった地域資源をどれほど有するかがバロメーターとなるだろう。この点を踏まえれば、平成23年(2011)に「能登の里山里海」が国連機関である食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産、正式には「世界重要農業資産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS)」に認定された意義は大きい。

   世界農業遺産は次世代に継承すべき農法や生物多様性などを持つ地域の保存を目指していて、持続可能な伝統農法を見直すよう世界に求めている。家族や人の営みをベースにしていて、プライベイトな探訪型観光になじむ。国際的な評価を得た「能登の里山里海」の地域資源をいかにして活用してツーリズムへとつなげていけばよいのか、次なる能登観光のテーマでもある。

⇒21日(火)午後・金沢の天気    はれ

★トークンエコノミーって何だ

★トークンエコノミーって何だ

   トークンエコノミーという言葉を最近よく耳にする。英語で「token」はもともと「しるし」「象徴」と習った。それが「記念品」「証拠品」の意味になり、最近では硬貨の代わりに用いられる代用貨幣のこととして言葉が進化している。新しい経済概念として、トークンエコミーは「デジタル通貨による新しい経済圏」を指すようだ。今月20日に「能登SDGsラボ 第1回トークンエコノミーと奥能登国際芸術祭」という勉強会(講師:石田貢、大野沙和子の両氏)が石川県珠洲市であった。残念ながら参加はかなわなかったが、レジュメが手に入った。それをもとに自分なりに読み込んでみる。

   トークンエコノミーはもともと心理学の世界で生まれたとされる。望ましい行動を取った場合に「トークン」が付与され、トークンを有形無形の価値と交換できるようにすることで特定の人やグループに対し望ましい行動を推奨するという考えだ。たとえば、消費税増税前の駆け込み需要を地域に取り込み、域内の経済活性化を図る目的で、行政が単独で発行する「プレミアム付き商品券」(1万円で1万2千円分など)もトークンの一種といえる。つまり、プレミアム付き商品券というトークンが外部に流出せず、域内で循環する仕組みとなる。

   このトークンの仕組みを、ユーザーがスマートフォン上の電子ウォレット(財布アプリ)を利用することでさらに利便性が広がる。紙の地域商品券では、所有者に対して利用できる場所の情報を送付するといったコミュニケーションを取ることは難しいが、スマホだとユーザーに情報を送ることができ、継続的なコミュニケーションの接点となる。また、売れ筋商品の開発や事業展開など消費データを収集できるなど多面的な活用ができる。

   ここで出てくるあらたなキーワードが「ブロックチェーン」だ。データのかたまり(ブロック)が連なっていく(チェーン)、これがブロックチェーンと呼ばれる。現在多くのネットユーザーは特定のサーバーにアクセスし、データのやり取りを行っている。ブロックチェーンは「ピアツーピア(Peer to Peer)」という通信方式でデータのやり取りを行う。ピアツーピアは、サーバー頼みの通信方式ではなく、ネットワークの参加者が個別、平等にデータのやり取りを行う方法のこと。

    このブロックチェーンでトークンを発行することで、データの消失や改ざんといったリスクが軽減されるため、金融庁は新たな法的な枠組みづくりを検討している。今年度中に法案が成立の見込み。スペインのバルセロナでは、ブロックチェーンを基盤とした地域通貨「Rec」の発行を昨年2018年から実証実験の段階に入っている。1Recは1Euroに該当し、スマホで市内の店舗で利用すれば、特別な特典が受けることができ、域内での資金循環に寄与しているという。

     勉強会では、トークンエコノミーを2020年秋に珠洲市で実施される奥能登芸術祭で特典が得られる参加券(電子チケット)の購入や国内外へのプロモーション活動、アートへの市民参加などに活用してはどうかとの提案が具体的にあった。プラン化が決まったわけではない。しかし、新しい概念を地域で分かりやすく説明し、トークンを使ってみたいという来場者の心をくすぐるイベントにしてほしいと願う。

⇒29日(昭和の日)夜・金沢の天気    くもり

☆外国籍児童から「大競争時代の雲」を測る

☆外国籍児童から「大競争時代の雲」を測る

        金沢市内の教育者の方からメールをいただいた。「…来年度は、外国籍児童が35名になる予定で、学校としても対応に苦慮しております。学習内容の面でも生活指導面でも、日本語が通じず、かなり大変です。学生ボランティアや通訳などの人材がいてくださると助かるのですが・・。ドラえもんの『翻訳コンニャク』があればなぁと夢のようなことを考えてしまいます。良いアイデアがあれば、教えてください。」

   この教育者が所属する小学校は6学年で500人の児童がいる。その中に外国籍の児童が新年度から35人になると、言語の問題から学習や生活指導面での教育現場の指導が行き届かなくなり、せめてドラえもんの『翻訳コンニャク』があればと願う気持ちがひしひしと伝わってくる。ちなみに、翻訳コンニャクはドラえもんのひみつ道具で、これを食べると、自分の発する言葉が相手に合わせた言語に翻訳される。相手に食べてもらえば相手の発する言葉が自分の言語に翻訳される。いわば多言語コミュケーションツールだ。言語だけに止まらない。宗教上の価値観の違いから給食の食材の制限などがあったりと教育現場では多様な対応が求められる。

   「海外からの有能な技術者を受け入れるチャンスがめぐってきた」。石川県内の自治体の首長の言葉が印象的だった。この地域にはすでに3700人の外国人労働者が働いていて、今後そのニーズはさらに強まる。外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が今年4月から施行される。人手不足に悩む14業種、(介護、農業、材料産業、産業機械、エレクトロニクスおよび電気機器、建設、自動車整備、空港の地上処理・航空機のメンテナンスなど)を対象に、日常会話の日本語と簡単な技能試験に合格すれば、単純労働でも最長5年間の就労を認める(特定技能1号)。さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(同2号)。地域産業の発展させるためにどう有能な外国人労働者を受け入れ、そして定住してもらうか、首長は次ぎの一手を考えているのだという。

   個人的に尋ねた。「その秘策は何ですか」と。有能な外国人労働者を雇用すると妻子を伴ってくるケースが多くなるのは予想される。その子どもたちの教育環境を整えることで、地域企業は海外からの優秀な技術者をスカウトしやすくなり、それを売りにもできるというのだ。海外から技術者を呼び込むことはすでに、国際的な大競争の時代に入っている、その決め手の一つが子どもたちの教育環境だという。さらに、「どのような教育環境ですか、もっと具体的に」と問うと。「そうですね、インターナショナルスクールのような」と。なるほどと腑に落ちた。

    教育者からのメール、そして首長の話はつい先日のことである。それぞれのテーマは異なるが、外国籍児童をめぐる現状と可能性という点でテーマが一直線でつながった。外国籍児童をどう扱うかは、地域のサバイバルをかけた大競争時代のテーマとして広がる、ということだ。新たなキーワードは「地域にインターナショナルスクールを」ということか。(※写真は、金沢21世紀美術館の「雲を測る男」)

⇒1日(金)夜・金沢の天気     くもり

★「2019」を読む~下

★「2019」を読む~下

  自宅の庭にロウバイの花がささやかに咲いている。薄黄色のロウバイと白ツバキを生けて床に飾る=写真・上=。花の少ないこの時期、心を和ませてくれる。ロウバイの漢字表記は蝋梅。旧暦12月は蝋月(ろうげつ)とも称され、冬に咲く梅に似た花であることから蝋梅と呼ばれるようになった。小寒(1月6日ごろ)から立春(2月3日ごろ)にかけての季語でもある。「生物文化多様性」という言葉がある。植物や動物などの生物に文化的な価値付けをすることで生物の多様性を守り、文化的な深まりや広がりを人々も享受できるという意味だと自分なりに解釈している。国連大学やUNESCOなど国際機関が使い始めた言葉だ。

  花を愛でる価値共有と移民政策、生物文化多様性の視点から      

  花の価値を共有できる国の一つはベトナムではないかと思っている。2017年11月、旅したハノイ市内の路上では移動の花店=写真・下=や夜の花市場があり、女性や男性がバイクや軽トラックで次々と花の束を持ち込んで、とても活気があった。ベトナム航空のロゴマークは蓮(はす)の花をデザインしたもの。蓮は日本では仏花を代表する花だが、ベトナムでもシンボリックな花だ。ベトナムは社会主義の国だが仏教が主流だ。そして、ベトナムで仏教を信仰する多くの人々は月2回(1日と15日)に精進料理を食べることも習慣となっている。文化的な価値感を共有できる国ではないだろうか。

  外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が今年4月から施行される。人手不足に悩む14業種、介護、ビルクリーニング、農業、釣り漁業、食品・飲料製造(シーフード加工を含む)、レストラン(飲食サービス)、材料産業、産業機械、エレクトロニクスおよび電気機器、建設、船舶・海洋産業、自動車整備、航空(空港の地上処理、航空機のメンテナンス)、宿泊・もてなしを対象に、日常会話の日本語と簡単な技能試験に合格すれば、単純労働でも最長5年間の就労を認める(特定技能1号)。さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(同2号)。

   日本、ベトナムなど11ヵ国が参加し先月30日に発効したするTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では動労者の国境を超えた移動の自由化や、単純労働者の受け入れは対象ではない。しかし、少子高齢化の最先進国である日本は、長期的な視野に立って外国人労働者の受け入れに本腰を入れるしかないだろう。これは思い付きだが、改正入管法の日本語と技能のほかに「文化価値共有度」という尺度があれば、日本で働くと同時に暮らしの中で日本に溶け込み、永住者(移民)として受け入れやすくなるのではないだろうか。TPPの発効と改正入管法の施行は「移民政策」を正面から議論するチャンスだと考える。生物文化多様性という言葉の意味はそこまで広がる。

⇒3日(木)午後・金沢の天気   あめ