⇒トピック往来

★選挙の余波と余談

★選挙の余波と余談

 あの「政権交代選挙」から4日目、仕事や日常で交わされた会話やメールから。8月31日に東京のメディア誌編集長から届いたメール。「かつての角福戦争の怨念は、05年には小泉チルドレンの数となり、09年では小沢選挙戦法となって国会に分け入ってきました。この09総選挙は、一つの歴史を刻みました。大敗した自民にとって、結果論として世代交代になるチャンスという見方ができるでしょうか。彼らのそんなエネルギーがあるでしょうか。また、大勝の民主は冷静な政権政党としての振る舞いと、政策の裏付けを示すことができるのでしょうか」

 同じく31日、かつて広告業界にいた知人との会話から。「自民よりましだと思って民主党に入れた人が多かったと思う。でも、民主が本当に日本の政治を変えるかは疑問だね。小沢さんたちは自民の大幹部だったしね。労組が応援しているとなると政治がちょっと左に動く程度じゃないかな」「当選者の数を見ると面白い現象が現れている。自民党が強いところほど当選者が多い。石川は7人もいる。福井も7人。これって自民と民主が互角で惜敗率が高かったせいで、比例で上がったんだね。石川に7人も代議士がいるんだから、使い倒さなきゃな。次の選挙のために、みんな必死に地元のために働くよ。これからが本当のドブ板だね」

 来年度予算をめぐって大学内で事務スタッフとの会話(9月2日)。「来年度の概算要求は民主政権下で全面的に見直しになるので、これまで文科省(文部科学省)と積み上げてきた概算要求については白紙状態だね。9月の補正予算でもストップがかかっているらしい」

 再びメディア誌編集長から届いたメール(2日)。テレビメディアと放送法をめぐる講演を要約したもの。「民主党は日本版FCCへの移行を提唱するが、この問題を巡って議論が本格化する可能性もある。日本版FCCが期待通りの機能を果たすには、二大政党下での政権交代の可能性や、委員会を監視する諸集団の存在などが必要だが、日本にはそうした条件が成熟しているか疑問もある」

 FCCはアメリカの連邦通信委員会の略称。日本版FCCについては説明が必要だ。以下、民主党のマニフェストから引用する。「通信・放送行政を総務省から切り離し、独立性の高い独立行政委員会として通信・放送委員会(日本版FCC)を設置し、通信・放送行政を移します。これにより、国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消するとともに、放送に対する国の恣意的な介入を排除します。また、技術の進展を阻害しないよう通信・放送分野の規制部門を同じ独立行政委員会に移し、事前規制から事後規制への転換を図ります」。つまり、テレビ業界を放送法や電波法で監督しているを総務省からテレビ業界を切り離すというもの。これで政治権力から表現の自由など守るとしている。ただ、日本のテレビ業界は日本版FCCを望んでいるだろうか。むしろ、規制に守られた「最後の護送船団」と称され、これ以上テレビ局が増えないように政治に働きかけてきたのはテレビ局の方ではなかったか。

 最後に、2日付の朝日新聞の紙面から。衆院選の結果を受けた世論調査から。「新政権に期待」74%。民主大勝の要因についての問い、「有権者の政権交代願望が大きな理由か」81%、「政策への支持が大きな理由か」38%。意外だったのは、自民について。「民主党に対抗する政党として立ち直ってほしい」76%。民意は優しいのか、厳しいのか…。

⇒3日(木)午前・金沢の天気  くもり

☆09総選挙の行方~5

☆09総選挙の行方~5

 私の知人の話である。知人は10年ほど前、インドを旅行した。コルカタ(かつてカルカッタと称した)の広場で、群集が静かに、ある一点をじっと見つめていた。その目線の向こうはカメだった。「異様な光景だった」という。ところが人々の様子をつぶさに観察すると、静かな群集なのだが、手は盛んに動いていた。お金を右に左に手渡している。カメがどちらの方向に動くかで、賭けをしていたのだ。

        1か0か、デジタル政権の時代に

  この話を聞いて、今回の総選挙を連想した。政権というカメがどちらの方向に向くかをじっと観察している有権者が静かに手を動かす(投票)。これまでの選挙は、闘牛やスポーツを観戦するかのごとく国民は熱狂した。お祭り騒ぎをした。だから、誰が、どんな世代が何を政治に求めているのかが見えやすく、実感でき、論議もでき、そして自らの投票行動の基準が分かりやすかった。ところが、今回の選挙は政権交代で誰が何を求めているのか見えにくい、分かりにくい、可視化できなかった。

  この選挙期間、テレビメディアでも取り上げられたエピソードがある。選挙期間中、民主党の鳩山由紀夫代表が青森・八戸市で演説していたら、前列にいた女性が泣き出した。後で鳩山氏が尋ねると、「仕事がなく帰郷した息子が自殺した。この政治を何とかしてほしい」と訴えたという。テレビではたまたま鳩山氏が婦人の話に耳を傾ける姿が映されていた。このエピソードにも象徴されるように、訴えは個々である。ある党のマニフェストに異議を申し立てる団体とか、あるいはマニフェストに賛同して行動する「勝手連」とか、有権者側の行動が見えにくい選挙だった。

  こうした静かなる選挙はある意味で怖い。もちろんこれまでも、争点らしきものはなく静かなる選挙はたびたびあった。しかし、勢力図を完全にひっくり返すような静かな選挙はなかった。が、世界を眺めれば、政権交代は普通のことである。その意味で、日本もようやく「普通の国」になったと言える。日本の場合、議会制民主主義なので、アメリカ大統領選や、韓国の大統領選のような熱狂はない。民意は反映されるが、その民意は見えにくい。308議席のマンモス政党といえども、またひっくり返される可能性も十分にある。有権者の静かで激しい民意を汲み取らねば政権が維持できない時代に入ったのだろう。民意は移ろいやすい。長期政権の時代の終焉である。あるいは、1か0か、政権のデジタル化と言えるかもしれない。

 ⇒1日(火)朝・金沢の天気  はれ

★09総選挙の行方~4

★09総選挙の行方~4

 石川1区の開票所=写真=を見学に行ってきた。金沢市の市民体育館。かつて取材で何度か訪れたことがあるが、一般の「参観人」としては初めて。体育館の3階から1階で行われている開票の様子を眺めることができる。3階にはざっと60人はいる。ただ、参観人は数人、あとは圧倒的にマスメディアの関係者で占める。腕にそれそれのメディアの名前を記した腕章を付けている。

       開票所に行く、「静かなる大変革」を実感

  公職選挙法第6条2では、選挙の結果を有権者に速やかに知らせるように努めなければならないとしており、開票所は公開されている。ただ、テレビ各局は午後8時から一斉に「選挙特番」を放送するので、不思議な感じがする。携帯電話のワンセグ放送で視聴すると、開票所に到着した午後9時ごろ、全国200人余りにすでに「当確(当選確実)」が出ていた。ところが、この金沢市の開票所は開票のスタートが午後9時30分なのである。都市部の開票はだいたい午後9時ごろからなので、「メディア開票」がずっと先行していた。

  新聞とテレビのメディアは実際の開票所での開票データではなく、あくまでも推測で当確を出すわけである。9時20分ごろに開票所3階にやってきた年配のご婦人が「もう開票の半分は終わった頃かと思って見にきたのに、(開票は)今からとは…」といぶかしげに、「広報」の腕章を付けた係員に尋ねていた。当確という文字は、「○○候補の当選はおそらく確実でしょう」という推測の意味を含んでいる。メディアが数字の根拠として持っているデータは、投票所の前で行う出口調査の結果である。各メディアによって数字は異なるが、それぞれの選挙区で数千のサンプルを採取している。その出口調査の結果と、投票前にすでに行っている電話調査の結果を突き合わせ、さらに選挙区を取材する担当記者の感触などを含め総合的な判断で当確を出す。ところが、出口調査でも電話調査でも「互角」「競っている」「その差数%」という微妙な数字がある。その場合は、リアルな数字の読み込みが必要である。開票所では実際、どの候補者がどれだけの数字を取っているのか、である。

  実際に開票台で仕分けされる票を目で確認する調査を「開披台(かいひだい)調査」とメディアは称している。バードウォッチングの要領で双眼鏡で、仕分けしている開票係の手元を読んでいく。どの候補者の名前が票に記されているか調査する。メディアは一つの開票所にウオッチャーを10人から15人を貼り付ける。私が金沢市の開票所3階を訪れたのは、そのメディア開披台調査の様子を観察することで、接戦が予想された石川1区の自民・馳浩氏と民主・奥田建氏の勝負を見極めたかったからである。ウオッチャーが候補者名を読み上げる。それを記録係が記入していく。私はそのウオッチャーたちの声を聞きながら当落の目星をつけ、1時間ほどで開票所を出た。

  自宅に帰る。深夜、開票終了。奥田氏が125,667票、馳氏は117,168票とその差8499だった。開披台調査とほぼ同じ割合の差だった。そして自民119議席、民主308議席と国会の勢力図がひっくり返った。自民の大敗。おそらく安倍晋三氏、福田康夫氏の「総理の座」の放り投げあたりから自民に対する有権者の幻滅感が漂っていた。不況対策も実感できず、国の借金は800兆円にも膨らんでいる。こうなれば、自民党に降りてもらうしかない、そんな冷静な有権者の判断が下ったのだ。これほどの歴史的な大差がついたのに、選挙期間は有権者の熱狂は感じられなかった。「静かなる大変革」とでも言おうか。これから新たな政治と経済、そして社会のドラマが始まる。

⇒31日(月)朝・金沢の天気   くもり

☆09総選挙の行方~3

☆09総選挙の行方~3

 27日付の朝日新聞は「民主、320議席獲得も、自民100前後、公明20台」と総選挙中盤の情勢調査の結果を伝えた。有権者である我々でもちょっと怖い数字である。なぜなら「熱」がないのである。何人か集まって、世間話をしていても選挙が話題に上らない。政権交代が必要と熱く語る人(有権者)が周囲にいない。なのに05年のあの「小泉劇場」と呼ばれ、有権者が熱かった総選挙より、数字的にダイナミックに政権交代が起きるというのである。これは一体、どんな現象なのか。

          不気味なほど静かなる選挙

  26日付の朝日新聞では、テレビの選挙報道が前回より「半減している」と報じていた。解散した日から1週間の間で、NHKや民放が取り上げた選挙に関する映像を時間で計測したデータの05年と今回の比較である。それを見ると、テレビ朝日の場合、前回がトータルで25時間、今回は16時間ほどなっている。フジテレビなどは3分の1だ。全体でデータを眺めると確かに今回はトーンダウンしている。テレビはある意味で正直だ。視聴率という数字が取れない、あるいは「絵にならない」(映像的に面白くない)と判断すると取り上げないものだ。確かに、前回は「刺客」「小泉敵情」の取り上げが過熱して、「テレポリティクス」と揶揄(やゆ)されたように、テレビが選挙を誘導しているとの批判の声もあった。テレビはその反省に立って、今回自重しているのか。「否」である。テレビはそんな殊勝な業界ではない。数字が取れると思えば、どこまでも食いついて行く。要は、選挙では数字が取れない、「酒井法子で行こう」と視聴者の心を読み取っているのである。

   おそらく選挙期間中(8月18日~30日)なので、多くの選挙分析の専門家はこの「覚めた現象」の分析を避けているのかもしれない。個人的には投票率が気になる。どんな層が動くのか。

  気になるのは、「ネガティブキャンペーン」がインターネットのユーチューブで盛んに流されている点だ。自民党が流している「プロポーズ編」「ブレる男たち編」「ラーメン編」では民主の幹部たちとおぼしき人物がアニメで表現されている。「プロポーズ編」は64万回も再生されている(28日現在)。民主党の鳩山党首とおぼしき人物が、「無料にする」などと女性に約束を乱発するアニメである。最後のナレーションで、「その根拠のない自信に人生を預けられますか?」と強調する。「ブレる男たち編」は「4人ばらばら、ブレ4です」と登場する「黒い影」は意味深だ、ちょっと見ようとクリックしてしまう。相手陣営を皮肉るという手法のテレビCMは、アメリカでは普通だ。先のアメリカの大統領選挙の民主党候補選びではオバマとヒラリー・クリントンの間でもこのネガティブ・キャンペーンが繰り広げられた。日本では表のCMはテレビ・新聞、裏のCMはインターネットと分けられている。

  冒頭で紹介した民主320議席は電話調査、64万回も再生されたCMはインターネットだ。数字だけが積み上がる、不気味な選挙ではある。

 ⇒28日(木)朝・金沢の天気  はれ

★09総選挙の行方~2

★09総選挙の行方~2

 総選挙が18日に公示された。と同時に、公職選挙法に基づく縛りもでてきた。この「gooブログ」の作成画面には、「※選挙期間中は公職選挙法にご留意いただきますようお願いいたします。」との赤字の注意書きが掲載されている。私がブログを始めた05年春ごろ、ブログは「個人の日記」程度の認知だった。それがいまでは情報発信力が注目され、広告媒体やパーソナルメディアとしてのチカラを持つようになった。「だから、選挙期間中は候補者への中傷などは避けてください。公平に、公平に。私は注意しましたよ、あとは自己責任でどうぞ」との「gooブログ」運営担当者のつぶやきが聞こえてきそうだ。

         政界へ執念の79歳、立つ

  さて、公示日に候補者が出そろった。中で、興味深い顔ぶれも。比例代表北信越ブロックで、民主党は元自民党参院議員で国家公安委員長や内閣府特命担当大臣(防災担当)を歴任した沓掛(くつかけ)哲男氏(79歳)を、単独で名簿登載した。沓掛氏は金沢市在住で、もともと建設省技監を務めた官僚だ。3年前、議員会館を訪ねたことがある。大学のプロジェクトの立ち上げに際して、協力を求めに訪れたのだが、非常に丁寧な応対で、「お昼でもどうかね」と誘っていただいた。「政治家らしからぬ」柔軟さが好印象だった。

  当時、沓掛氏は去就を巡り揺れていた。07年7月の参院選挙を前に、高齢を理由に自民党石川県連が候補差し替えを決定し、引導を渡された沓掛氏は引退を表明した。その後、党決定に反旗を翻し、県政の民主党勢力である新進石川の支援で、無所属での出馬を検討したが最終的に断念したという経緯があった。沓掛氏自身は年齢でもって、政治への意欲を断ち切られることに納得がいかなかったのだろう。

  そして今回、80歳を目前にして再度国政を目指す。地元メディアの取材にこう答えている。「自民政権がめちゃくちゃにした建設業を立て直し、石川の政治を刷新したい」「再びバッジを着けることができたら公共事業の適切な在り方に取り組む」(北陸中日新聞)。面白いのは民主党幹部の言葉。「公共事業の知識が豊富というメリットは大きい」(同)と。政権交代が起きたら、民主党は沓掛氏を中心に公共事業の仕切りを行うのだろうか、と思ってしまうほど「迫力」のあるフレーズではある。本人の名誉のために付け加えるが、沓掛氏は汚職にまみれたことはなく、いたってクリーンなイメージでこれまで通してきた。

  自民から民主へ鞍替え、高齢引退からの出馬、公共事業、建設業界…。見事当選すれば後期高齢者の「希望の星」となるかもしれない。さて、沓掛氏の政界への執念は成就するのか、どうか。

⇒ 19日(水)朝・金沢の天気  はれ  

☆09総選挙の行方~1

☆09総選挙の行方~1

 能登半島・輪島市門前の「琴ヶ浜」は鳴き砂の浜で知られる。直径0.5ミリほどの石英粒を多く含む砂が擦れ合ってキュッキュッと音を出す現象である。その琴ヶ浜には地球のダイナミックな地殻変動を目の当たりにできる柱状節理がある。砂岩層からマグマが噴出し、飛び散る寸前にそのまま冷えて固まったもので、下から見上げると800万年前の火山活動がリアルに伝わってくる。18日から始まる総選挙は政権交代がテーマとなる。それは、「日本の地殻変動」か「揺れども大地は割れず」なのか、きょうから「自在コラム」は選挙モードに。

        今回の選挙、誰が動くのか

  問われているのはメディアなのか。新聞各社の世論調査が圧倒的な「民主勝利」を早々と伝えている。ところが、最近出始めているインターネットによるアンケート調査は結果がまったく違う。
 ■「ニコニコ動画」を傘下におく「ドワンゴ」によるネット入口調査(総回答数:850,442人、実施期間:8/7~10)で「今回の衆院選の比例代表選挙において、どの政党に投票しますか」の問い・・・自民40% 民主31% 選挙へ行かない13%
■朝日新聞全国世論調査(電話方式、有効回答1011人、実施期間:8/15~16)で、「いま、総選挙の投票をするとしたら、比例区ではどの政党に投票したいと思いますか」の問い・・・民主41% 自民24% 答えない・分からない27%

  ネットでは自民の優勢、新聞は朝日のほか各紙とも民主が優勢だ。なぜこんな差が出るのか、という質問を新聞社に投げかけると、おそらく「世論調査の専門セクションを持って調査方法が確立している新聞社の調査と、ネットが入り口で簡単にやっている調査といっしょにしないでください」と言われそうだ。が、考えてみる。新聞社の調査は、固定電話に無作為に電話をかけて調査する方式。電話をする時間帯によって固定電話に出る人は決まってくるのが特徴。昼間帯なら主婦、お年寄りが多くなり、固定電話とは遠い存在の若者の意志が反映されない。その意味である種偏った結果になる傾向がある。逆にネットの場合は、若い世代のユーザーが多くなり、これも偏りがある。

  では、実際に選挙となるとどんな層が投票に行くのか。前回2005年9月11日、自民が大勝した総選挙は「小泉劇場」「小泉マジック」と称され、選挙前からテレビメディアが「郵政民営化」「刺客」などをキーワードにニュース番組、ワイドショー番組で盛んに取り上げた。ワイドショーでは、主要民放が1年間放送した2418時間38分のうち、衆院選関連が実に166時間30分と断トツの1位、シェアは6.89%を占めた。2位が北朝鮮関連(80時間51分、シェア3.34%)だった。ちなみにこれまでワイドショーの十八番(おはこ)とされてきた芸能(結婚・離婚)ネタは11位(14時間1分、シェア0.58%)に過ぎない。これは逢坂巌氏(東大大学院法学政治学研究科助手)が膨大なデータをまとめたもので、「日本選挙学会年報『選挙研究』№22-2007」に掲載されている。これからも分かるように、いまやワイドショーでは、政治や選挙ネタは視聴率が取れるテーマなのである。

  05年総選挙の後、朝日新聞が世論調査を記事にした(10月25日付)。自民党の候補者に投票した人の実に56%が「テレビを参考にした」と答え、「新聞を参考にした」は39%を上回った。民主党の候補者に投票した人の48%が「新聞を参考にした」と答え、「テレビを参考にした」は44%だった。さらに、性別で見ると、女性は「テレビを参考」58%、「新聞を参考」34%だった。ちなみに男性は「新聞を参考」46%、「テレビを参考」が44%となる。

  上記から、2005年の総選挙では、テレビのワイドショーを見ることができる、いわば在宅率の高い世代、つまり主婦層が選挙を動かしたと言えなくもない。また、テレビ放送と連動する、こうした選挙結果は「テレポリティクス」とも称される。では、ネットユーザーの主流(20歳・30歳代)の投票行動はどうだろう。いざ投票となると、普段行かない学校や公民館に行くのだろうか。「面倒くさい」「なんでケータイで投票ができないんだ」とボヤキが聞こえてきそうだが、これは偏見だろうか。今回の選挙は誰が動くのか。

 ⇒18日(火)朝・金沢の天気  はれ

★生物多様性のこと

★生物多様性のこと

 盛夏のころだというのに一日中雨か曇り、朝が晴れでも昼には雨だ。太陽が照りつける夏らしい天気は数日あったかどうか。海面水温の高い状態が半年以上続くエルニーニョ現象で、日本の場合、梅雨明けの時期が遅れ、冷夏や暖冬になりやすいとか。そんな空模様を気にしながら、8月頭に、金沢大学が主催して環境イベントを打った。「2デイ・エコツアー」と銘打った「能登エコ・スタジアム2009」のこと。8月1日と2日の両日、「里山里海の生業(なりわい)と生物多様性」をテーマに開催した。

 初日は、金沢からバスで出発し、石川県七尾市の能登演劇堂で開催された「環境国際シンポジウムin能登」に参加した。ノーベル平和賞を受賞した国連組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長の基調講演を楽しみにしていたが、博士は体調不良を理由に欠席。その代わり、ビデオレターが上映され、その中で「今、何かの手を打たなければ、多くの生態系が危機にさらされる」と訴えていた。翌朝は船に乗り、ぐるりと能登島を回る七尾湾洋上コースと能登島をバスで巡るコースに分かれてのエクスカ-ション。能登島のカタネという入り江にミナミバンドウイルカのファミリーの親子(5頭)がコロニーをつくっていて、船からは、時折背ビレを海面に突き出して回遊する様子を見ることができた。午後からは、奥能登・珠洲で実施されている「生き物田んぼ」を見学し、直播(じかまき)の水田で水生昆虫の調査の説明を聞いた=写真=。両日とも雨にたたられずに済んだ。

 能登の里山と里海を眺めながら、あの名著のことを思い出した。高校生のころ読んだ、アメリカのレイチェル・カーソンの「サイレント・スプリング(沈黙の春)」(1962年)。「春になっても鳥は鳴かず、生きものが静かにいなくなってしまった」の一文は脳裏に焼きついている。農薬や殺虫剤による環境汚染に警鐘を鳴らした原典ともなった。人間は衣、食、住のほか、薬剤などの必需品を何千種もの植物、動物から入手している。にもかかわらず、人は未だに乱開発や多量の農薬散布、海洋汚染や大気汚染など自然環境に過度の負荷をかけている。

 人間と自然との共生という点で、日本の里山はお手本だった。しかし、終戦後から、化石燃料を使った生活が目指すべき文明社会と喧伝され、炭や薪といった木質エネルギーは疎んじられてきた。その結果、森林は荒れ、里山から若者がいなくなった。過疎高齢化で休耕田や放置された森林がさらに増え、生物多様性が減少しているといわれている。レイチェル・カーソンは「私たちはどちらの道をとるのか」と警鐘を鳴らした。40年余りも前にである。そして、この30年で、3万種もの生物が絶滅したともいわれる。今年は、「種の起源」を著したチャールズ・ダーウィンの生誕200年に当たる。

 とはいえ、いまさら昔ながらの里山に戻ることはできない。ノスタルジーでは生きてはいけない。21世紀型の里山の生活スタイル、ないしは価値観、さらに産業イノベーションがどうしても必要なのだ。

⇒9日(日)夜・金沢の天気 あめ  

★七尾湾のゲストブック

★七尾湾のゲストブック

 地図を眺めると、能登半島が大きな口を開け、食べようとしているのが能登島である。そんな風に見える。能登島は周囲72km。口の部分を七尾湾と呼び、島で3つの支湾に仕切られる。南湾に加え西湾、北湾を総称して七尾湾と言う。かつて、能登半島の地図を眺め、その奇妙なカタチに興味を抱いて七尾湾を訪れた外国人がいた。

 今からちょうど120年前の明治22年(1889)5月、東京に滞在していたアメリカの天文学者パーシバル・ローエル(1855-1916)は能登半島の地形とNOTOという地名の語感に惹(ひ)かれ、鉄道や人力車を乗り継いで当地にやってきた。七尾湾では魚の見張り台である「ボラ待ち櫓(やぐら)」によじ登り、「ここは、フランスの小説でも読んでおればいい場所」と、後に著した「NOTO: An Unexplored Corner of Japan」(1891)で記した。ローエルが述べた「フランスの小説」とは、当時流行したエミ-ル・ガボリオの「ルコック探偵」など探偵小説のことを指すのだろうか。ローエルの好奇心のたくましさはその後、宇宙へと向かって行く。

 1893年に帰国したローエルはアリゾナ州に天文台を創設し、火星の研究に没頭する。その成果である「Mars(火星)」を発表し、火星の表面に見える細線状のものは運河であり、火星には高等生物が存在すると唱えた。ローエルの説は、H・G・ウエルズの「宇宙戦争」などアメリカのSF小説に影響力を与えていく。ローエルは1916年に海王星の彼方に惑星Xが存在と予知し、他界する。その弟子クライド・トンボーが1930年にローエルの予知通りに新惑星の発見し、プルートー(冥王星)と名付けた(2006年の分類変更で「準惑星」に)。初の冥王星探査機、NASAのニュー・ホライズンズは2006年1月に打ち上げられ、2015年7月14日に最接近する。

万葉の歌人、大友家持も七尾湾を船で訪れている。家持は29歳の時、当時、都があった平城京から越中国(現在の富山県と能登半島)へ、国守として赴任してきた。赴任3年目の天平20年(748)に能登を巡る。春に農民に種籾(たねもみ)を貸し出し、秋になって貸した分と利息分を合わせて徴収する、いわゆる公出挙(くすいこ)のため。七尾湾では、「香島より熊来(くまき)を指して漕ぐ船の楫(かじ)取る間なく都し思ほゆ」(「万葉集」巻17-4027)、「鳥総(とぶさ)立て船木伐(ふなきき)るといふ能登の島山今日見れば木立(こだち)繁(しげ)しも幾代神(いくよかむ)びそ 」(「万葉集」巻17-4026)と詠んでいる。「鳥総」の歌は、七尾湾周辺で当時、造船が行われていたことが読み取れる。

 七尾湾に今、珍客が訪れている。北湾の通称「カタネ」と呼ばれる地域の入り江に、野生のイルカ(ミナミハンドウイルカ)がファミリー5匹でコロニーを作って生息している。観光ツアーの遊漁船や漁船が近づくと伴走してくれる。その様子は陸からでも観察することができる。石川県水産総合センター水産部能登島事業所の永田房雄さんによると、もともと島原半島の南端にある有明湾のコロニーにいたペアがやってきたのではないか、という。

   能登には、さまざまな客人を引き寄せ、その客人の才能を開花させるような、土壌がある。それがその地に住む人々なのか、自然なのか、あるいは地勢なのか定かではない。ひょっとすると三位一体となった、創発的な不思議な仕掛け=システムなのかもしれない。

 【お知らせ】七尾湾を船で周遊し、海の生物多様性を考察する「能登エコ・スタジアム2009」を8月2日実施します。野生イルカのコロニーも訪ねます。詳細は7月16日付の読売新聞石川版で記事紹介されました。

⇒19日(日)朝・金沢の天気  くもり 

☆オクトパス伝説

☆オクトパス伝説

 前回に引き続き、七尾市能登島での話題。16日に訪れた能登島で、「ちょっと面白いから」と石川県水産総合センター水産部能登島事業所の永田房雄さんに誘われて行った先が、野崎地区にあるタコの蓄養所、通称「タコ牧場」だった。個人の漁協者の経営で、タコ壺漁などで採れたマダコを一箇所に集め、大きく太らせてから出荷する。5メートル四方ほどの水槽がいくつかあり、常時、数百匹のタコが飼われている。

 なぜ蓄養かというと、市場では小さなタコは値がしない。すくなくとも1キロは必要で、キロ1000円が相場。難しいのは、水温が上がるとタコが弱ってしまうこと。このタコ牧場では海水をそのまま汲み上げている。太平洋側に比べ、日本海側は海水温が一定していない。そこで、水温が高くなるころを見計らって、大きなものから出荷する調整も必要とのこと。タコを飼うのも簡単ではない。

 ところで、「イモ、タコ、ナンキン」と呼ばれるくらい、日本人にとってタコはお気に入りの食材である。が、ヨーロッパやアフリカでは、タコやイカを「デビル・フィッシュ」(悪魔の魚)と呼び、忌み嫌う。海底の大ダコや大イカが人間を襲うという設定の映画もあるくらいで、まるで怪物か怪獣の扱い。前回のブログを読んでくれた友人から、「能登島ではタコは神様ですよ」とメールをもらった。以下、要約して紹介する。

 能登島・向田地区の愛宕(あたご)神社で執り行われる蛸祭。11月3日の祭りは神官の家から飯びつに2升に飯を盛り、蛸の頭の形にして、3日の未明に神社近くの中屋家のカマドの上に黙って置いてくる。家の主(あるじ)がこれでおにぎりを作り、隣近所に配る。300年ほど前の昔、向田地区で大火が相次いだ。すると、大ダコに乗った神様が中屋家にやってきて、「高台に祠(ほこら)を造れ」と告げた。当主がその通りすると、同地区では火災など災害がピタリと止んだという伝説である。以来、中屋家ではタコを食べることをタブーとしている。その祠が愛宕神社の由来だという。

⇒18日(土)朝・珠洲の天気  あめ

★「子落とし」狛犬の話

★「子落とし」狛犬の話

 神社の神殿や社寺の前庭には、さまざまな表情をした一対の狛犬(こまいぬ)が置かれているものだ。きょう(6月16日)訪ねた、石川県七尾市能登島の大宮神社の狛犬は凄みがあった。「獅子の子落とし」がモチーフなのである。

  大宮神社の狛犬は、獅子(ライオン)が千尋の谷に子供を落として、その子供を見守っているという姿で、左手の子は千尋の谷に落ちて仰向けになり、右手の子供は崖を這い上がっているという構図=写真=になっている。説明書きには、台座に使われている岩は富士山から運んだ溶岩であると記されている。これが黒く、ゴツゴツした感じで、崖というイメージにぴったり合っている。

  「獅子の子落とし」は、自分の子供に厳しい試練を与えて、立派な人間に育て上げることのたとえで使われる。インターネットで検索をかけてみると、「子落とし」をモチーフにした狛犬は、東京・赤坂の氷川神社など関東地方にいくつかある。この狛犬の寄進者が裏面に記されている。昭和14年(1939)、東京・亀戸の「野中菊太郎」となっている。ちょうど70年前のことだ。今回ガイド役を引き受けてくれた県水産総合センター水産部能登島事業所の永田房雄所長の話だと、野中は当地出身という。財を成して、生まれ故郷に報いたのだろう。

  内湾のため穏やかな七尾湾と海辺に青々と広がる田の海。のどかな半農半漁の里に似つかわしくない、激しいモチーフである。ただ、写真のように、崖を這い上がる子をじっと見守る親の表情がどことなく優しい。能登人の気風にあっているのかもしれない。

                  ◇

  ここからはお知らせ。では、なぜ能登島を訪ねたかというと、金沢大学と石川県が主催して実施する環境ツアー「能登エコ・スタジアム2009」の見学コースの確定のため。ツアーの詳細はきょう16日付の読売新聞石川版で記事紹介された。この狛犬はツアー2日目、午前の能登島バスめぐりのコースで見学できる。

⇒16日(木)夜・金沢の天気  あめ