⇒トピック往来

★ニュース現場の凄み

★ニュース現場の凄み

  新聞とテレビの取材経験から、現場の迫力や凄(すご)みというものを十分に感じてきた。現場でしか実感できない怒りや悲しみ、有難さというものがあるものだ。だから、今でも現場に行きたいという欲求が湧いてくる。

  昨年9月22日、沖縄旅行で辺野古の現場に行った。翁長知事がジュネーブでの国連人権理事会でアメリカ軍基地の県内移設は「政府は沖縄をないがしろにしている」とスピーチを行った後のことで、連日100人ほどの基地反対派がアメリカ軍基地キャンプ・シュワブのゲート前に集まり、集会を開いていた。

  キャンプ・シュワブのゲート前、現場はものものしい雰囲気が漂っていた。正門の道路を挟んだ向こう側には基地反対派のテントが張られて入れ替わり、立ち代わり大音響でアジ演説が飛び交っていた。タクシーでその前を走行すると、「辺野古新基地NO!」などのプラカードが車から見えるように道路側に差し出される。車との接触が危ない。正面で陣取っていた人がいた。「辺野古埋立阻止」のプラカードを持って椅子に腰かけている。基地と歩道の境界線である黄色い線を超えないように公道スレスレのところでアピールしていた=写真・上=。数センチでも基地側に入れば、おそらく逮捕されるだろう。まさにギリギリの抗議行動がここで見えた。このような絵(映像写り)にならないシーンはテレビメディアでは放送されないだろう。

  国政選挙にはよく行く。夜だ。21時30分、金沢市の開票作業が始まるのに合わせて、金沢市営中央市民体育館に出かける。持参した双眼鏡で何か所かの開披台をのぞいて、開票者(自治体職員)の手元で裁かれる候補者名をチェックすれば、自分なりに候補者の「当落」の判断がつく。あるいは、ちょっとずるいが、テレビ局や新聞社の調査でアルバイトにきている学生たちが双眼鏡をのぞきこみながら=写真・中=、襟元の無線マイクで候補者名を本社に伝えているので、傍らにいれば自ずと聞こえる。どの候補者が現在優勢かということも判断できる。選挙は結果をいち速く知るというリアルタイムの凄みがこの場で体験できる。もちろん、開票作業は公正さを保つという意味で双眼鏡で開票者の手元をのぞくことは違法ではない。バードウオッチィングのようで楽しくもある。

    外国人の活動家が絡むニュースの現場に赴いたのは2011年5月5日だった。和歌山県の南紀に旅行した折に太地町に足を運んだ。日本のイルカ漁を批判したアメリカ映画「ザ・コーヴ」の舞台となった入り江へ。前日にイルカが網にかかっており、あす市場が再開するのでイルカを運搬するというその日だった。おそらく反捕鯨団体シーシェパードのスタッフをみられる外国人2人がカメラ撮影に来ていた。また、入り江の漁を監視する姿もあった=写真・下=。「和歌山県警」の腕章をつけた人も随所に配置されていて、入り江はものものしい緊張感が漂っていた。漁協の前では、外国人数人が、車から漁師風の男が下車するたびに近寄って、たどたどしい日本語で「イルカ漁をやめてほしい」とお札を数枚差し出していた。猟師は無視して漁協に向かった。

  この後、太地町の「くじらの博物館」を見て回った。古式捕鯨などがなぜ途絶えたかというと、これまで見たことない巨大なクジラがきて、漁師100人以上が犠牲になったと説明されていた。自然への恐れや畏怖の念を抱きながら、それでも太地の人たちは海からの恵みを得ようと歴史を刻んできた。そんな様子が見て取れた。

⇒5日(土)朝・金沢の天気   あめ

★テレビはスターだった

★テレビはスターだった

    金沢大学の総合科目の授業「マスメディアと現代を読み解く」を担当している。講義の中で、1953年(昭和28年)に日本でテレビ放送が始まったときの様子を学生たちにこう話す。「そのころテレビは国民のスターだった。黎明期はまだまだ家庭に普及せず、街頭テレビの時代だった。繁華街や鉄道駅、百貨店、公園など人の集まる場所にテレビが設置され、大勢の人たちが群がった。テレビは憧れの的だった」と。学生たちの反応は「信じられない」といった様子だ。

  国産のテレビを最初に市場に送り込んだのはシャープだった。14インチで当時の価格は17万5000円だった。大卒の銀行マンの初任給が5600円の時代だ。庶民から遠い存在だったテレビが徐々に普及していった。NHKの「にっぽん くらしの記憶」のチラシ=写真=に掲載されている写真を見ると、子どもたちが大相撲の中継を夢中になって見ている。このチラシに写っているテレビがシャープ製の日本初のテレビだ。テレビが家庭に普及するとともに、シャープは家電事業の土台を固めて、成長の足場を築いたのだった。

  日本でテレビ放送がスタートして63年後、そのシャープが「身売り」することになった。メディア各社の報道によりと、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に、「支援」といわれながら、実質的に買収されることになった。鴻海の郭台銘会長は、カリスマ経営者でワンマンと言われる。シャープの経営陣はどのように対応しているのだろうか。知る由もないが、向かう先は一つだろう。

  鴻海はもともとアップルの下請け、その脱皮を狙っている。つまり、独自技術を手に入れ、自社ブランドを作ることにある。そのキーポイントが、シャープの液晶技術ということだろう。シャープの液晶技術は「主要ディスプレイ厚み20ミリ」「コントラスト比10万対1」などオンリーワンと言える。

  シャープの創業者の早川徳次は立志伝中の人だ。シャープペンシルの事業を関東大震災(1923年)で工場を失い、その事業を社員に引き渡して、自らは身ひとつで大阪へ赴く。当時、政府は災害報道に速報性が必要だとラジオ放送の開局を急いでいた。ここ注目した早川徳次は、1925年に国産第1号となる鉱石ラジオを製造し、同じ年にテレビ放送が始まった。鉱石ラジオを真空管ラジオへ進化させていく。戦後になり、テレビの国産第1号を世に送り出した。シャープは常にメディアツール(ラジオ、テレビ)のパイオニアだった。

  先端技術の流失などいろいろ議論はあるものの、鴻海とシャープが組んで次世代の画期的なメディアツールを開発してほしいと願う。

⇒2日(火)午後・金沢の天気   はれ

☆共存のモデル

☆共存のモデル

   「地方」という言葉は、地方に住む物にとってピンとこない。よく、中央である首都圏との対比として使われるからだ。かつて、「表日本」と「裏日本」という言葉があった。商工業で栄える太平洋側と、新幹線も走らず、寂れる日本海側といった比較で使われた。どこかと比較して、何かの基準の優劣だったら、比較されたほうが不快に感じるものだ。ただ、「地域」という言葉は関東地域、関西地域などそれぞれ独自の文化があり、その地域の固有性性を指す言葉のように感じる。単なる比較ではない。

    ただ、今政府が取り組んでいる「地方創生」という言葉は、ちょっとした凄みがある。それは「東京一極集中」VS「オール地方」という構図からだ。地方は地方で崖っぷちに立たされている。地域を再生させる総合戦略をそれぞに打ち立ている。東京の一極集中をこのまま放置してはならない、という地方の意気込みが見え始めている。それが凄みだ。では、どのような仕掛けがあるのか。

    今月5日、石破地方創生大臣が地域再生法の一部を改正する法律案を閣議決定したと記者会見で報じられた。それは、「企業版ふるさと納税」「日本版CCRC」のための措置、新型交付金を講じるという3本柱のだった。今年度内に成立させるという。なるほどと思ったのが企業版ふるさと納税だ。企業が自治体の総合戦略などに基づき、その意義に賛同してて寄付金をすることによって税制上の措置を講じ、企業と地域の連携をはかるという。「一社一村」運動の様相だ。

    もう一つ、注目したのは日本版CCRCだ。都会から地方に移住したいという人々を地域が受け入れ、一つのコミュニティー(共同体)をつくることで新たな考えや発想、仕事が起こすという作戦。CCRC(Continuing Care Retirement Community)は高齢者が健康なうちに地方に移住し、終身過ごすことが可能な生活共同体のような小さなタウン。1970年代にアメリカで始まり、全米で2000ヵ所のCCRCがあるという。都会での孤独死を自らの最期にしてなるものか、と意欲あるシニアが次なるステージを探しているのだ。そうした人々を受け入れる仕組みが地方で創る、それが日本版CCRCの狙いだろう。

    日本版CCRCにしても、企業版ふるさと納税にしても、問題は国と地域の本気度だ。物事を成し遂げる実行可能性を見せることが必要だろう。石破大臣が7日、金沢市を訪れた。地方の雇用創出に向けて必要な課題や対応を考える政府の「地域しごと創生会議」第3回会合に出席するためだ。午前中は、複合型福祉交流施設の「シェア金沢」を視察した=写真=。

    ここでは、3万6000平方㍍の敷地の中に高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向けアパート、温泉、レストラン、カフェなどが点在している。つまり、高齢者や学生・若者、障害者らが一つのコミュニティーの中で生活している。全国でも珍しい、ある意味で先駆的な施設だ。温泉や売店など見学した石破大臣は「外から来ても楽しいだろうなという印象を持った」「若者、よそ者が地域に必要。その人たちが地域に新たな付加価値を生み出す」と、シェア金沢の取り組みを高く評価した。

    シェア金沢での石破大臣の視察は1時間30分にも及んだ。同施設への入りから出までの視察の様子を観察させてもらった。視線はどこにあるのか、どのような言葉を発するのか。その中に本気度を確かめたかった。案内してくれた人、招き入れてくれた人、それぞれに「ありがとう」と出がけに声をかけ、言葉に無駄がなかった。園内に飼っているアルパカを見て、質問した。「なぜこの施設にアルパカを飼っているの」と大臣。「吠えない、噛まない、やさしい動物なんです」と職員。「それだったら高齢者や障がい者も(アルパカを)お世話ができますね。なるほど」と大臣。その後、帰りがけに「さまざまな人が共存するというモデルがここ(シェア金沢)にある」と大臣が評価したのだった。

⇒8日(月)朝・金沢の天気   はれ

★分かれ道

★分かれ道

  きょう夕方、甘利明経済再生担当大臣が辞任した。「週刊文春」の報道を受けて、建設会社からの自身と秘書の建設金銭授受を認めたものだった。夕方からのNHK生中継で、甘利氏の記者会見を50分余り視聴した=写真=。

  自分なりにまとめると、甘利氏は大臣室と地元事務所で2回、建設会社側から現金100万円を受け取った。政治資金として処理するよう秘書に指示し、収支報告書に記載があったことを確認した。会見で面白いのは、菓子折りの中ののし袋に入った現金をやりとりだった。まるで、時代劇の悪徳商人が代官様に献上する菓子箱で、代官が「おぬしも悪よのう、ハッハッハー」と笑い、悪徳商人がペコリと頭を下げて、「よろしゅう、お頼み申し上げます」と言う、あの構図にそっくりだ。

  もう一つが、地元の公設秘書の問題。建設会社から500万円を受け取ったが、収支報告書には200万円の記載しかなく、300万円は秘書が使い込んでしまった、と甘利氏は説明した。結果的に政治資金規正法の虚偽記載となる。普通に考えれば、業務上横領に問われそうだ。刑事事件の可能性も出てきた。おそらく、調査を依頼した元特捜検事の弁護士が甘利氏にその可能性を示唆したのだろう。そして「(甘利氏が)秘書を告発すべきだ」と進言したのだろう。甘利氏は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意にまでこぎつけた立役者だ。2月4日の協定署名調印を目前に、分かれ道に迷い込んだ。

  北陸新幹線の開業後、低迷している羽田空港発着の小松線と富山線。ANA(全日空)は今月20日、3月27日からの夏ダイヤの路線便数計画を発表し、小松線と富山線を1日6往復から4往復に減便すると発表した。この発表を聞いて、JRの緻密な「2時間半」の移動選択の分かれ道にはまり込んだ、と思った。

  JRは、かつて上越新幹線で東京と新潟間で「2時間半」を切り、航空便を相次いで撤退させた成功体験がある。JRのこの「2時間半」が移動を選択するときの分かれ道になるとの乗客心理をつかみ、マーケット戦略に位置づけている。そのため、北陸新幹線の最速列車「かがやき」では、あえて軽井沢に停車させず、東京と金沢を「2時間28分」と設定した。乗客はJR東京駅にに行くのか、羽田空港に行くのかの分かれ道。最初から航空便を意識した、したたかで奥深いJRの戦略が見えた。

⇒28日(木)夜・金沢の天気    はれ

★外は大荒れ、山は動く

★外は大荒れ、山は動く

  冬将軍がやってきた。急速に発達した低気圧、住んでいる金沢では風が強く、積雪は数センチながら横殴りの雪が降っている。石川県内全域に暴風雪警報が出された。未明から風が強く、ガタガタと雨戸が揺れて、よく眠れなかった。

   昨夜、ガソリンスンダドに給油に行った。会員価格だが1リットル109円とさらに安くなっていた=写真=。原油価格が下げ止まらない。「米国指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は一時1バレル28ドル台を付け、12年ぶりの安値をつけた。原油安を受けて資源国通貨は急落」と日経新聞WEB版(19日付)は伝えている。世界の経済も大荒れだ。

   芸能界も荒れた。「SMAP」が18日夜、フジテレビ番組「SMAP×SMAP」に生出演し、分裂騒動について5人そろって謝罪し、木村拓哉が「これから自分たちは、何があっても前を見て進みたい」と述べた。ジャニーズ事務所関係者によると、SMAPはこれまで通り5人グループとして存続するという。面白のは、このときの視聴率だ。報道によると、番組全体は関東地区で31.2%だった。瞬間最高視聴率は午後10時22分の37.2%で、キムタクが「前を見て進みたい」とあいさつし、5人がそろって頭を下げた場面だった。つまり謝罪効果が視聴者の共感を言えた、ということだ。それにしても37%、とは…。

   そして「山は動いた」。戦後半世紀以上も台湾の政治をリードしてきた国民党主導の政治だったが、今回の総統選挙では民進党主席の蔡英文候補が56%の得票率で勝利した。立法委員選挙でも、113議席のうち、民進党が68議席を獲得し、第1党に躍り出た。これまで民進党が総統を勝ち取ったことがあった。2000年は国民党分裂によるもので、ある意味で「漁夫の利」だったし、2004年の総統選は接戦の末に銃撃事件が起きて僅差での勝利だった。しかし、立法委員院では少数派だった。

   馬英九政権は中国にあまりにも接近し過ぎた。台湾の人たちにとっては、「中国」という存在が身近に迫ってきて窮屈に感じ始め、学生や若者たちを中心にそのリアクションとして「台湾」を意識し、それが投票行動につながったではないかと考えている。

⇒19日(火)朝・金沢の天気   ゆき

☆2016 年頭放言

☆2016 年頭放言

   穏やかな2016年の元旦を迎えた。金沢の天気は晴れ。積雪もない。外気温は8度(午前11時)だ。青い空を見上げながら、この2016年はどのような一年になるのだろうかと想像をたくましくしてみた。

   まず海外に目を向けると、11月のアメリカ合衆国の大統領選挙だ。前国務長官で民主党最有力候補のヒラリー・クリントン氏か、「イスラム教徒入国禁止」発言で物議をかもしながらも支持を広げる共和党最有力候補のドナルド・トランプ氏か。アメリカの世論調査で、大統領選に向けた共和党の指名争いをCNNなどが先月23日に発表した数字は首位のトランプ氏が39%の高い支持率を保ち、2位のテッド・クルーズ氏の18%を大きく引き離している。CNNは民主党寄りのテレビ局で知られており、実際の支持率はこの数字より高く見積もってよい。

   民主党のクリントン氏も人気がある。調査会社ギャラップ社が先月28日発表した。世界で尊敬する人物に関する世論調査で、女性部門でクリントン氏が13%の支持を集め、男性部門ではオバマ大統領が17%でそれぞれトップだった。クリントン氏のトップは14年連続で根強い人気を見せつけた。男性部門のトップはオバマ氏だったが、2位はローマ法王フランシスコとトランプ氏がともに5%で並ぶ。ただし、尊敬と政治的な支持は次元が異なり、尊敬は現状評価、支持は期待評価の側面があり、そのときの国際的な政治、経済の状況によって、期待値が一気に膨らむ場合がある。たとえば、イスラム過激派組織「IS」が欧米でさらにテロ事件を引き起こすなど暴れるならば、トランプ氏に支持がさらに広がる可能もあるだろう。

   次は、日本の選挙だ。安保法制設立の次に安倍総理がめざすのは憲法改正だろう。国会発議は衆参両院で3分の2以上の賛成が必要だ。衆議院では自公で3分の2を上回るが、参議院でも3分の2を上回るためにはことし夏に予定される改選の121議席のうち、自公で96議席の獲得が必要となる。選挙はおそらく7月だろう。それに、衆院選挙を乗せて、「衆参同日選挙」を安倍総理がもくろんでいると、きょう元旦付の新聞各社は報じている。確かに自民側に勝算はある。5月26、27日に伊勢志摩サミット(先進国首脳会議)が開催される。議長国として世界に貢献する安倍政権のムードを一気に盛り上げ、支持率を上げて、衆参同日選挙に持っていくことを戦略に描いているだろう。ひょっとして自民圧勝ではないだろうか。

   その主な要因が、今回の選挙から始まる「18歳の投票権」だ。メディアや周囲に背中を押されるようにして、若者たちは投票場に足を運ぶだろう。若者たちの投票行動は意外にも保守的だろうと推測している。彼らは、「自分たちを戦争に駆り立てる政党に投じない」という発想は薄く、「この国を外敵から守ってくれる政党に投じる」という発想ではないか、と。当事者意識より、全体観の意識が強いのではないかと最近の若者たちを観察していて思うからだ。

   中国経済の今年はどうだろう。中国はリーマンショックのときに、4兆元(78兆円)の公共投資を実施して、強引にGDP目標を達成した。あのときの成功体験が忘れられないのだろう。今でもGDPを計画通りに動かそうとしているようだ。2012年8月、浙江省紹興市に視察に行った。バスの車中から高層マンションが林立しているのが見えた。中国人ガイドに「人は住んでいるのですか」とたずねると、「あれは鬼城ですよ」と。ほとんど住人がいない高層マンション群、投資売買目的のゴーストタウンだった。そのころはまだ不動産投資が活発だったので、お金は回っていたのだろう。あの高層マンション群は今どうなっているだろうか。低成長下では、非効率な投資に過ぎない。

   最近、中国で戸籍制度改革が動き出した。鬼城のようなマンションの在庫を一掃するための秘策だ。簡単に言えば、都市住民を増やすことだ。農民工と呼ばれる地方からの出稼ぎ労働者は農村戸籍のままで都市戸籍が取得できず、都市のマンションなどを買うことができない。そこで、農村戸籍の出稼ぎ者に都市戸籍を与えて都市住民にする。すると、不動産売買が活発化するという思惑だ。ところが、出稼ぎ者に十分な蓄えがあるのならいざ知らず、低成長下で雇用すら危ういとされる中で、物件を購入する余力はあるだろうか。低利融資でローンを組んだものの、さらなる経済の落ち込みでローン破たんは起きないだろうか、中国版リーマンショックは起きないだろうかと他人事ながら懸念している。

⇒1日(金)午前・金沢の天気     はれ

☆大阪の混迷

☆大阪の混迷

  大阪維新の会が22日に行われた、市長選と府知事選の大阪ダブル選で2勝した。獲得した票も府知事選では自民推薦の候補の倍、市長選では18万票も引き離し圧勝だった。この選挙結果によって、半年前の5月に住民の審判が下った大阪都構想への再挑戦に道が開けたということになる。しかし、北陸の地からこの選挙を眺めても、民意が読めない。

  まず、選挙そのものが盛り上がっていない。前回のダブル選挙より、市長選は10.41㌽下回る50.51%、府知事選は7.41㌽下回る45.47%だった。見方によっては、大阪の有権者はさめていたということだろう。うがった見方をすれば、住民票で反対票を入れた有権者が今回は棄権したといえなくもない。「一度廃案になったものをまたぶり返すのか」というあきれた思いが多くの有権者の思いがあるだろう。かといって、今回自民党候補に投票するには抵抗感を感じるという有権者が結局、投票所に足を運ぶのをためらったということかと推測する。

  政令指定都市の大阪市を廃止して、東京23区のような特別区に分割して、大阪府と行政機能を再編する大阪都構想は東京一極集中を是正し、地域を立て直す起爆剤としたいとする思いは共鳴する。どこかの地域が東京一極集中の突破口を開く必要があるのだ。しかし、その大阪都構想は今年5月の大阪市の住民投票で反対が70万6千票と賛成を1万票上回り廃案となり、民意で決着がついた。そして橋下市長は責任を取って、「政界を引退する」とけじめをつけたのだった。

  票差が少なかったので、大阪都構想をあきらめ切れない市民から再挑戦の熱意が沸き上がったのならば話は別だが、今回の選挙の投票率の低さを読む限りでは、そうした民意が伝わってこない。ましてや、国政レベルでの維新の会の「内紛劇」が目立ったせいか、全国的には、大阪の有権者と候補者による、大阪だけの選挙という閉ざされたイメージがつきまとう。

  ダブル選挙の期間中のニュースを見ていても、候補者が「大阪都になって、中央省庁や企業を大阪に誘致する」と強調していたことが印象に残った。大阪から今の日本を変えるという志(こころざし)がどこに行ってしまったのか、と。全国の共感を得られた前回とまるで状況が異なる。

  ダブル選で圧勝したはと言え、大阪府と大阪市の双方の議会では自民など非維新勢力が過半数の議席を占めている。これまで、橋下市長の強気と強弁で乗り切ってきたが、その手法は新市長では役不足だろう。今後4年間、大阪都構想をめぐって大阪はどのように展開していくのか、変革を求める民意はどこまで高まるのか、あるいは混迷なのか。

⇒23日(祝)午前・金沢の天気      はれ

★北の破船

★北の破船

  ことし1月9日午前6時すぎ、能登半島の石川県志賀町安部屋の海岸で木造船が漂着した。自称北朝鮮在住の60代の男1人が船の近くにいた。男は「12月中旬、船の点検のため1人で乗船し、船体を固定していたロープをほどいたところ流された。8日夜に能登に漂着した」と。船には食料と水は底をついた状態で、男は数日間は何も食べていなかったようだ。船のエンジンは故障していた。男はイカ釣り漁船の管理点検の業務に就いていて、不法入国ではなかった。日本海側では、北朝鮮の船が国内に漂着する例は毎年数十件確認されているが、生存したまま保護されるケースは珍しい。

  今月20日、同じ能登半島の輪島市門前町の沖合で、国籍不明の漂流船2隻が見つかった。うち1隻で4人の遺体が発見された。同じ門前町の沖合で21日にも転覆船が見つかり、6人の遺体が収容された。ほかにももう一隻が漂流していた。人は乗っていなかった。2隻とも船体は長さ9㍍から10数㍍の木造で、エンジン付きだった。船底が平らで黒のタール状の塗料が塗られるなど、朝鮮半島の船に多い特徴だった。漁網や釣り針が見つかった。20日に引き揚げた船にはハングル文字で「朝鮮人民軍 第325」との表記があった。

  そして、きょう22日午前8時すぎ、福井県越前町の越前岬の沖合で、木造船が転覆し漂流していた。3人の遺体が確認された。

  北から破船はシケが続くこの時期に多い。エンジンが故障して、そのまま海流に乗って、能登半島などに漂着するのだ。遺体は男性とみられており、難民や、いわゆる脱北者ではなさそうだ。

  ここからは推測である。北朝鮮の沖合でイカ釣りなど漁をしていて、海が荒れて流される。ところが、日帰り、あるいは数泊の予定で食料や水、ガソリンも十分になく、そのまま漂流する。大陸の沖合を流れる寒流のリマン海流に、その後、対馬暖流に流され、で日本側の沖合にやってくる。エンジン付きの船なので、おそらく軍からガソリンを供給され、漁に出た者たちだろう。

  漂流してきた船は氷山の一角だと察せられる。途中で船が破損して沈没したものも多数あるだろう。今後北の政権が破たんし、今度は多くの難民が漁船で脱出した場合を想像しよう。一隻の船に何十人もの老若男女がやってくる。しかし、日本海は荒れ、漂流する。あるいは転覆する。想像を絶する阿鼻叫喚が日本海に響き渡る。考えるだけでゾッとする。

⇒22日(日)夜・金沢の天気   くもり
 

★観光の危機管理

★観光の危機管理

   JICA国際協力機構が開催した観光政策を課題とする研修会の研修成果発表会が2日、金沢市内であり、コメンテーターとして招かれた。一行は、アジアやアフリカなど11ヵ国から観光政策に携わる国・地方自治体の行政マン13人。9月26日から石川を始め、富山、東京、京都、奈良で現場を視察し、現場の担当者と意見を交してきた。

   石川では金沢のほか、能登を巡った。雨宮古墳(中能登町)、巌門(志賀町)、総持寺(輪島市)、塩田村(珠洲市)、能登ワイン(穴水町)、のとじま水族館(七尾市)など見学した。巌門では、貝の土産品店で地元で採れた貝をブローチなど工芸品や、輪島の海女が採ったアワビの殻を加工してさらに付加価値の高い装飾品など見入った。そのほか、観光施設の展示方法やツーリズムの組み立て方、エコツーリズム(生物多様性など)のノウハウなどに質問し、熱心にカメラを向けていた。

   その研修の仕上げとして、自国の観光政策として活かす「アクション・プラン」を組み立て、政策の概要、実施スケジュール、実施予算の見積もりまでを発表した。その間で、テーマとして上がったのか、「観光地の危機(リスク)管理」だった。チュニジアの観光省の事務局長はこう話した。同国には、世界遺産が多くあり、カルタゴ遺跡(1979年、文化遺産)やエル・ジェムの円形闘技場(1979年、文化遺産)、ケルクアンの古代カルタゴの町とその墓地遺跡(1985年、文化遺産)、イシュケル国立公園(1980年、自然遺産)はその代表例だ。しかし、2011年ごろから続く民衆を狙ったテロ、とくに今年に入ってから2度もテロ事件が起き、かつてヨーロッパなどから年間700万人もあった観光入り込みが半減している。これによって、観光に携わっていた3000人が職を失った。

   チュニジア政府はテロに対する危機管理政策、プラン、広報など緻密な政策を実施している。が、悩ましいのはテロは、政府を不利にするための国際世論を狙って、観光客をターゲットとする場合がある。実際、ことし3月、武装集団が首都チュニスのバルドー博物館で銃を乱射、日本人3人を含む外国人観光客ら21人が死亡している。観光客を守るための「観光警察」など配置すれば、今度はそこが狙わるという。本来ならば、大統領が「安全宣言」を行い、世界にアピールしたいところだが、それがかえってテロの標的とされる。なんとも危機的で、悩ましい事態なのだ。それでも観光を再興させたいと知恵をひねる担当者。この発表を聞いて、コメンテーターとして同席した私は言葉が出なかった。

   世界に誇る自然遺産がありながらも、アクセスなどの観光政策が伴わず焦っている国もある。ジンバブエの観光担当者の悔しさをにじませていた。世界一の瀑布はジンバブエとザンビアの国境にあるビクトリアの滝だ。滝幅は1700㍍、落差108㍍の威容を誇り、南米のイグアス、北米のナイアガラと並ぶ世界三大瀑布の一つに数えられる。ところが、ここを訪れるのは年間100万人、規模が劣るナイアガラは桁違いの1200万人だ。アクション・プランでは「2016年に200万人、2020年には500万人に観光客を増やしたい」と5倍計画を打ち上げた。国をあげての観光情報の発信をしていきたいと意欲を見せた。

   私がアドバイスしたのは。国際的な海外メディアを使うこと。たとえば、イギリスの公共放送BBCは世界の地域おこしを紹介する「ワールド・チャレンジ」コンテストを実施している。このファイナル10チームに残ると、地域を紹介する番組が繰り返し流れ、投票が呼びかけられる。PR効果は抜群だ。日本でも、2011年に能登半島の「春蘭の里」がファイナルに残り、今やここで宿泊する1割がいわゆるインバウンドの客だ。

   予算が確保できない国、テロに見舞われる国、政変が起きやすい国、いろいろな事情がそれぞれの国にある。ただ、それを理由にせず前向きに、観光と向き合う世界の人々と接することができたことが何よりの収穫だった。(※写真は、10月30日の能登ツアーで輪島・千枚田を訪れたときのショット。千枚田は大規模な土砂崩れ現場であり、今もリスク管理の一環として、ここを通る国道249号の地盤は発砲スチロールを使用し、道路の重さを軽減する工夫がなされている)

⇒3日(祝)朝・金沢の天気   はれときどき雨

      

   

☆オートドライブの意義

☆オートドライブの意義

   高齢者と自動車運転をめぐる事故が最近多い。先月28日午後、73歳の男性が運転する軽自動車が宮崎県宮崎市内の繁華街を暴走し、2人が死亡、4人が重軽傷を負ったとの事故のニュースが報じられた。事故現場の歩道にブレーキ痕がなく、途中で加速したとの目撃談もあり、制御不能の状態に陥っていたようだ。また、男性には認知症での入院歴もあったという。老人が運転する車の暴走、そして逆走の事故が目立っている。高齢化社会の歪みの一つだ。

   高齢者(65歳以上)の4人に1人が軽度の認知症を患う社会。認知症の老人が家出して、行方不明となった人はこれまで1万人いると言われる。では、一律に老人には車は危険だからと言って、取り上げることはできるのだろうか。むしろ買い物など老人こそ車を必要しているのではないか。能登半島に出向くと、車を運転する老人たちが多くいる。まさに車がないと暮らせない。

   その能登半島の先端、珠洲(すず)市で金沢大学の研究チームによる、自動運転(オートドライブ)が実証実験プロジェクトが進んでいる。実証実験は今年2月に開始され、障害物や信号などを把握するセンサーやカメラなどを取り付けたトヨタ「プリウス」を使用して自動運転し、対向車や歩行者の複雑な動きも予測できるようデータを積み上げている。2020年をめどに高齢者の移動手段としての実用化を目指している。

   同プロジェクトの実験ルートはこれまで1コース6.6㌔だったが、先月27日から4コース延べ60㌔に拡大した。ルートの新設は、さらに学術的に自動運転の技術を総合的に加速する必要があるからだ。もはやオートドライブのシステム構築は、国際競争の段階になっているからだ。と同時に、日本では高齢化社会の課題にもなっている老人と車の課題解決への貢献が期待されるのだ。

   過日(9月11日)、プロジェクトの菅沼直樹准教授(ロボット工学)にお願いして、実際に自動運転のプリウスに実際に乗せてもらい、珠洲市の公道を走った=写真=。車道から駐車場に入るため右折する際も、対向車が来た場合は一時停止する。また、道路脇に倒木などの障害物があっても上手に避ける。なんとも快適なドライブだった。この地域はトンネルも多いため、GPSは使わず、車道の白線を自動的に読み取って走る。なので、雪道をどうドライブするか、今後の課題として残る。また、信号機の赤青黄の情報も読み取るが、晴天では逆光になって信号機などの情報は読みにくくなるといった状態にもなり、いろいろ課題もある(菅沼准教授)という。

  実際の市街地や一般道のいわゆる公道で60㌔の実証実験の取り組みは全国でも例がないかもしれない。この実証実験を通じて、オートドライブの車が完成し、老人が「病院へ行ってくれ」と声をかけると、「どちらの病院ですか」などと対話して、自動走行する社会が実現したら、老人と車事故の課題は解決する。生活動線でオートドライブを実用化する、何とも夢のある話だ。(※写真は、オートドライブで走行中。実験中は、ハンドルには触れないが、万が一のためを想定し、ハンドルに手をかざし、すぐ握れる状態にしている)

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