☆風と緑のベートーヴェン・チクスル
当時のニュースで地元の実行委員会が明かしたのは、ラ・フォル・ジュルネの運営をめぐるルネ・マルタン氏ら企画サイドと地元実行委員会の路線の対立だった。ラ・フォル・ジュルネは1995年にフランスの芸術監督ルネ・マルタン氏が手掛け、低価格で本格的なクラシックを売りに複数の会場で同時にコンサートを開くなど画期的な音楽祭だ。ところが、金沢ではそれに独自のプログラムを盛り込み、地元色を強くした。企画サイドとすると、フランスで制作した本来のプログラムを強く打ち出さなければ「ラ・フォル・ジュルネ」と銘打つ意味がない。一方で金沢の実行委員会側では当地のプロオーケストラ「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)」も巻き込んで金沢の独自色を出して盛り上げたい。双方の思惑の違いが鮮明になってきたというのだ。
最終的に地元の実行委員会は「名称を変えて同様の音楽イベントを来年以降も続ける」と結論を出し、ルネ・マルタン氏ら企画サイドと袂を分かった。あれから4ヵ月、実行委員会は「風と緑の楽都音楽祭2017」と新たな看板を掲げた。
先日、有料公演プログラムのパンフを手に入れた=写真=。内容はというと、ことしのテーマは「ベートーヴェンが金沢にやってきた!」だ。売りはベートーヴェンの交響曲第1番から第九までを5月3日からの3日間で全曲演奏(チクルス、ドイツ語Zyklus)をするというのだ。第九はもちろん合唱付き。演奏はOEKやカンマーシンフォニー(ベルリン)などプロのオーケストラが担当、指揮は広上淳一、ユルゲン・ブルンスら。このほか「皇帝」などピアノ協奏曲5曲やピアノソナタ全32曲をチクルスで。ラ・フォル・ジュルネと決別して独自の音楽祭を創り上げる気合いが伝わってくる。
この内容ならぜひ「風と緑の楽都音楽祭2017」を聴いてみようと思い、さっそくチケットを購入した。実は、ベートーヴェンの全シンフォニーを聴くのは2度目だ。東京芸術劇場で行われた2005年12月31日から2006年1月1日の越年コンサートで、指揮者の岩城宏之(故人)が「振るマラソン」と称してで全シンフォニーを一夜で演奏した。途中休憩をはさみ正味9時間40分の演奏だった。第九のタクトがおろされたとき、指揮者とオーケストラ、聴衆が一体化した感動が込み上げてきた。今も忘れられない。今回は3日間だが、ベートーヴェンのチクルスの感動を再び味わえることを楽しみにしている。
⇒2日(日)夜・金沢の天気 はれ