⇒トピック往来

☆風と緑のベートーヴェン・チクスル

☆風と緑のベートーヴェン・チクスル

  昨年暮れ、クラシック音楽イベントがニュースとして石川県で話題になった。2008年5月から毎年ゴールデン・ウイーク(GW)を中心に開催されてきた「ラ・フォル・ジュルネ金沢」が突然終了するというのだ。GWのイベントとしてすっかり定着し、毎回10万人もの入場があっただけに、多くの地元クラシック音楽ファンは「なぜ」と首を傾げた。私もその一人だった。

  当時のニュースで地元の実行委員会が明かしたのは、ラ・フォル・ジュルネの運営をめぐるルネ・マルタン氏ら企画サイドと地元実行委員会の路線の対立だった。ラ・フォル・ジュルネは1995年にフランスの芸術監督ルネ・マルタン氏が手掛け、低価格で本格的なクラシックを売りに複数の会場で同時にコンサートを開くなど画期的な音楽祭だ。ところが、金沢ではそれに独自のプログラムを盛り込み、地元色を強くした。企画サイドとすると、フランスで制作した本来のプログラムを強く打ち出さなければ「ラ・フォル・ジュルネ」と銘打つ意味がない。一方で金沢の実行委員会側では当地のプロオーケストラ「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)」も巻き込んで金沢の独自色を出して盛り上げたい。双方の思惑の違いが鮮明になってきたというのだ。

  最終的に地元の実行委員会は「名称を変えて同様の音楽イベントを来年以降も続ける」と結論を出し、ルネ・マルタン氏ら企画サイドと袂を分かった。あれから4ヵ月、実行委員会は「風と緑の楽都音楽祭2017」と新たな看板を掲げた。

  先日、有料公演プログラムのパンフを手に入れた=写真=。内容はというと、ことしのテーマは「ベートーヴェンが金沢にやってきた!」だ。売りはベートーヴェンの交響曲第1番から第九までを5月3日からの3日間で全曲演奏(チクルス、ドイツ語Zyklus)をするというのだ。第九はもちろん合唱付き。演奏はOEKやカンマーシンフォニー(ベルリン)などプロのオーケストラが担当、指揮は広上淳一、ユルゲン・ブルンスら。このほか「皇帝」などピアノ協奏曲5曲やピアノソナタ全32曲をチクルスで。ラ・フォル・ジュルネと決別して独自の音楽祭を創り上げる気合いが伝わってくる。

  この内容ならぜひ「風と緑の楽都音楽祭2017」を聴いてみようと思い、さっそくチケットを購入した。実は、ベートーヴェンの全シンフォニーを聴くのは2度目だ。東京芸術劇場で行われた2005年12月31日から2006年1月1日の越年コンサートで、指揮者の岩城宏之(故人)が「振るマラソン」と称してで全シンフォニーを一夜で演奏した。途中休憩をはさみ正味9時間40分の演奏だった。第九のタクトがおろされたとき、指揮者とオーケストラ、聴衆が一体化した感動が込み上げてきた。今も忘れられない。今回は3日間だが、ベートーヴェンのチクルスの感動を再び味わえることを楽しみにしている。

⇒2日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆IoTを地方に

☆IoTを地方に

  正直、この講演を聴くまではICT(Information and Communication Technology)とIoT(Internet of Things)の違いも理解していなかった。ICTといえば、パソコンやスマートフォンなど情報通信機器がインターネットを介してネットワークとしてつながるというサービスの総称だったと理解している。では、IoTとは何ぞや。それが、2020年には鮮明になる。電力網と情報網が束ねられる。「スマートグリッド(Smart Grid)」。簡単に言えば、電力網に接続しているすべてのモノはインターネットにつながるというのだ。

  先日(今月27日)石川県加賀市のホテルで、元Googleアメリカ本社副社長兼日本法人代表取締役の村上憲郎氏の講演があった=写真=。講演の主催者は「スマート加賀IoT推進協議会」、地域の行政と産業界でつくる団体だ。IoTは物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続し相互に通信することで、自動認識や自動制御、遠隔計測なとどいったこれまになかったイノベーションを起こすといわれる。産業革命でもある。それを取り込もうと地方が動き始めている。

  講演を聴いて印象的だったIoTの先端的なキーワードをいくつか列記してみる。「スマート・コンタクトレンズ(Smart Contact Lens)」は目の弱った糖尿病の人たちたちのために眼球の毛細血管で血糖値を管理するものだ。身体障がい者の機能回復のために神経系統にIoTを活用することも進んでいる。「スマート義手」は脳から指令を送り、義手(機械)を動かす。神経系統とIoTデバイス(機材)の結合のことを「インプランタブル(Implantable)」と言い、人間のハンディを克服するために期待されている。

  冒頭の「スマートグリッド」の場合、遠く離れた高齢者の「見守り」というアプリも開発されるだろう。テレビやエアコンの電力消費量を遠くにいる親族がチェックすることで見守りになる。従来のインターネットの活用は人と人だったが、人とモノ、モノとモノなど多様なコミュニケーションが可能になるのがIoTの世界だ。

  村上氏の講演では「ビッグデータ」の話なども出たが、「AI(人工知能)」も長足の進歩を遂げている。そのポイントが言語処理。「推論機構」という、複雑な前提条件からIf、Then、言葉のルールを駆使して結論を推論するハードウエアの開発だ。村上氏が上げた、近い将来、AIに取って代わられるかもしれない仕事がたとえば、簿記の仕訳や弁護士の業務を補助するパラリーガルだという。

  では、加賀市ではIoTをどのように活かすことができるのか。自分なりに思案してみた。同市には片山津、山代、山中と有名な温泉地がある。インバウンドの客が増えている。そこで、スマートフォンとIoTを組み合わせた観光ガイドや、英語・中国語・スペイン語の客に対する多言語対応や双方向性といったことが必要だろう。さらに、温泉地を観光した日本人やインバウンドの人たちがツイッターやフェイスブックでどのようなことをつぶやいたのかを分析する「ソーシャルリスニング(Social Listening)」を活用することで新たなサービスの提供も可能ではないだろうか。

  また、加賀市といえば橋立港を中心とする漁業の街だ。漁獲はこれまで漁師の経験と勘に頼っていた。漁業の後継者は減っている。では、衛星通信で漁船同士が魚群探知機の情報を共有してはどうだろう。情報交換をすることで漁船の燃費の節約、労働力の交換、漁業資源の管理保護ということも可能かもしれない。「スマート漁業」の先駆けになる。

  今回の村上氏の講演でもIoTは医療分野が先行している印象だ。しかし、経済的にも社会的にも病んでいる地方にこそIoTが必要だ。加賀市でも人口減少が確実に進んでいる。働きやすい第一次産業や第二次産業、インバウンドなど多様性なニーズに対応する第三次産業を創出するためにもIoTが欠かせない。「IoTで産業革命を起こさねば、加賀市の未来はない」。地方の叫びが聞こえたような講演会だった。

⇒30日(木)朝・金沢の天気   はれ
 

★「大横綱」の風格

★「大横綱」の風格

    昨日の大相撲千秋楽はまさに「痛みに耐えてよく頑張った、感動した、おめでとう」 の言葉を発した、当時の小泉総理の気持ちだった。2001年5月の大相撲夏場所千秋楽で、負傷をおして千秋楽で優勝した貴乃花も劇的だったが、今場所の稀勢の里もさらに劇的  だった。これも、新横綱の優勝は1995年初場所の貴乃花以来、22年ぶりというから二重に凄みを感じさせてくれる。まさに「大横綱(だいよこづな)」と呼ぶにふさわしいのではないか。

    稀勢の里の魅力は、その気力と信念の強さだろう。日馬富士戦(13日目)での負傷に「新横綱の優勝はないな」と観戦した誰もが思っただろう。そして、鶴竜戦(14日目)での連敗には「これで休場か」と誰もが思ったことだろう。それだけに、千秋楽の本割(照ノ富士戦)は誰もが「無残な負けをさらすなよ」と思っていたはずだ。それを見事に裏切ってくれた。しかも2番続けて。

    ただ、今にして思えば、決定戦の前にテレビに映っていた、支度部屋での顔の表情は、不屈のオーラを放っているような、「勝って見せる」と気力あふれる形相だった。「最後まであきらめない」、勝負の世界の信念を見せつけてくれた。共感と感動の渦に巻き込んでくれたのだ。冒頭の「痛みに耐えてよく頑張った、感動した、おめでとう」だ。

    これほどの感動の背景には、いま日本を覆っている、ある種の閉塞感もあるのではないかと思う。「言った」「言わぬ」「忖度ある」「ない」が続く学校法人「森友学園」への国有地売却問題、さらに東京・築地市場の豊洲移転問題など。大相撲と違って勝ち負けのつかない問題を延々とテレビで見せつけられると心が塞ぐ。とくに、安倍総理側から100万円の寄付があったとされる問題が本筋で追及すべき国有地売却問題と外れて、一人歩きを始めているような、そんな違和感も漂っているのではないか。そんな、モヤモヤとした昨今の政治的な閉塞感を稀勢の里が一気に吹き飛ばしてくれた、そんな思いだ。

    稀勢の里の新横綱優勝と別に、郷土力士である遠藤が3場所ぶりに勝ち越してくれたことも朗報だった。

⇒27日(月)朝・金沢の天気   はれ

★能登の海岸から見える国際問題

★能登の海岸から見える国際問題

  能登の海は生物多様性に富んでいる。ブリやタラ、フグといった魚介類の種類の多さということもさることながら、波打ち際にも生き物がいる。ナミノリソコエビだ。初耳の人はサーフィンするエビとでも想像してしまうかもしれない。全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビだが、シギやチドリのような渡り鳥のエサになる。石川県では高松海岸などで波打ち際にシギやチドリが数10羽群れている光景をたまに見る。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむのだ。

   渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアまで渡っていく。その途中で、能登半島の海岸に好物のナミノリソコエビをついばみに空から降りてくる。ただ、ナミノリソコエビは砂質が粗くなったり、汚泥がたまると生息できなくなる。いまこの波打ち際の生態系が危うい。

  石川県廃棄物対策課のまとめによると2月27日から3月2日の4日間の調査で、県内の加賀市から珠洲市までの14の市と町の海岸で、合計962個のポリタンクが漂着していることが分かった(2日付の県庁ニュースリリース文)。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。さらに問題なのは、962個のうち37個には残留液があり、中には、殺菌剤や漂白剤などに使われる「過酸化水素」を表す化学式が表記されたものもあった。県ではポリタンクの中身を分析しているが、危険物が入っている可能性もあるので、ポリタンクに触らず、行政に連絡するよう呼びかけている。大量のポリタンクが漂着したのは今年だけではない。近年では2010年にも石川の海岸に1921個(全国22194個)が流れ着いている(環境省調査)。

  ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上で、うち900点余り中国語だった。このほか、ペットボトルなど飲料や食品トレーを含めれば膨大な漂着物が日本海を漂い、そして漂着していることが容易に想像できる。

  上記は目に見える漂着物だ。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックだ。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。陸上で小さくなったものも川を伝って海に流れる。そのマイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いといわれている。

  ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。バルセロナ条約は21カ国とEUが締約国として名を連ねる、地中海の汚染防止条約(1978年発効)がある。条約化に向けて主導したのは国連環境計画(UNEP)。UNEPのアルフォンス・カンブ氏と能登半島で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも染防止条約が必要だ、と。あれから10年ほど経つが、汚染が現実となっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。
(※写真は能登の海岸で地引網を楽しむ大学生たち。豊かな海を大切にしたい)

⇒3日(木)午後・金沢の天気   はれ

☆「ミズガニ、食べに来ませんか」

☆「ミズガニ、食べに来ませんか」

  きょう14日、福井市に住む友人から電話があった。「ミズガニ、食べに来ませんか」と。私は能登生まれで幼少よりカニをおやつ替わりに食べてきたことを自慢してきた。いまでもカニには目がない。とっさに「あすでもいいですよ」と返答した。さすがに先方は「できれば来週で」というので、来週23日に「カニの夜」を福井で楽しむことになった。

  とは言いながら、「ミズガニってなんだっけ」と、さっそくネットで検索した。ミズガニは福井独特の言い方で、脱皮して間もないオスのズワイガニのことを、当地ではミズガニというそうだ。透き通るような薄い赤の甲羅が特徴。漁は今月9日解禁されたばかりで、来月20日まで続く。ただ、ミズガニを食べる食習慣は加賀や能登ではないし、漁期の設定も聞いたことがない。※写真はズワイガニ

  さて、その食味は…。検索はさらに続く。ミズガニは身に水を多く含み、食べる時に足の身がズボッと取れることからズボガニとも呼ばれるそうだ。したがって、通常のズワイガニに比べて、価格は5分の1ほどと安い。越前の庶民の味なのだろう。

  私はカニに対する福井県民の執着心には脱帽している。20代の若いころ、別の福井の友人と「カニの早食い競争」をしたことがある。ハサミも包丁も使わずに、茹(ゆ)でたズワイガニを一匹丸ごと平らげるタイムを競った。福井の友人はパキパキと脚を折り、ズボッと身を口で吸い込み、カシャカシャと箸で甲羅の身を剥がす。黙々と。その速さは5分ほどだった。私は到底かなわなかった。

  そのカニ食い競争後に越前漁協にカニの水揚げ現場を案内してもらった。友人が言うには、「脚折れのカニは普通は商品価値が低いが、この漁協では折れたカニの脚を集めて、脚折れカニにうまく接合する技術がある」と。二度びっくり。そんなカニ脚の接合技術など石川では聞いたこともない。カニという商品をそれだけ大切に扱っているという証(あかし)だと当時思った。そして、同じ北陸でもカニにかけては福井人の執着心には絶対かなわないと自覚したものだ。

  さらに執拗に検索を進める。カニ料理のポイントは塩加減や茹で加減と言われる。単に茹でてカニが赤くなればよいのではない。福井では「カニ見十年、カニ炊き一生」という言葉がある。カニの目利きが上手にできるには十年かかり、カニを満足に茹で上げるには一生かかるという意味だそうだ。カニの大きさや身の付き具合はもちろん、水揚げされた日の気候などによって、塩加減や温度、茹で時間などを調整する、というのだ。とくに福井人が大好きなミズガニは茹で加減が難しく、かなりの熟練度が必要という。カニの商品価値を高めるための技と心意気をひしひしと感じる。23日のミズガニの夜がさらに楽しみになった。

⇒14日(火)午後・金沢の天気   くもりときどき雪  

★「あのとき」のケータイとネット

★「あのとき」のケータイとネット

   1995年1月17日5時46分、金沢も大きく揺れた。当時、テレビ局で報道デスクの仕事をしていた。確か、当時は成人式が1月15日だったので、翌16日は振り替え休日、その連休明けの朝だった。22年前の阪神淡路大震災のことである。

  さっそくテレビをつけた。「近畿地方で大きな地震がありました」とアナウンサーはコメントで繰り返し述べているが、映像が入ってこない。そこでキー局のテレビ朝日の報道デスクに電話をした。情報が錯綜していたのだろう、これもなかなかつながらない。地震で死者が出ていれば、取材の応援チームを現地のテレビ局(大阪ABC)に派遣する準備をしなければならないので、その情報が知りたかった。

   まもなくしてNHKで映し出された映像を見て仰天した。倒れたビル、横倒しになった高速道路などの空撮の映像が次々と。あの映像を見ただけでも、事態が容易に想像できた。すぐに若手の記者とカメラマンに現地に行くよう指示した。その時、記者に持たせたのが携帯電話だった。被災地では安否を親族に伝えるため、公衆電話に長い行列ができていたこともあり、当時会社に数台しかなかったケータイを連絡用に持たせた。

   このときは携帯電話は「売り切り制」(1994年)に移行した時期だった。つまり、それ以前はNTTとのレンタルで携帯電話を契約していた。デジタルホングループ(現在「ソフトバンク」)などが新規参入したころで、携帯電話が一般で普及する初期のころだった。その後、爆発的に普及したのは言うまでもない。

   このとき、聞き慣れない言葉が飛び交った。「インターネット」だ。神戸大学の研究者たちが、インターネットを通じて被災地の状況を世界に発信したことがニュースとなった。当時はインターネット、メールを知る人も少なく、通信環境も一般化していない時代だった。私が勤務していた職場(テレビ局)で初めて、メールを使い始めたのは大震災から1年たった1996年だった。このときはネット環境をいち早く手掛けていた朝日新聞東京本社から中古のパソコン(確か富士通製)を払い下げてもらい、社内の数人で試験的に使ったのだった。その後、会社全体で通信環境が整備され、社内で一気にネット環境が整った。

   1995年、ケータイとネットの幕開けは阪神淡路大震災だった。その後、2011年3月の東日本大震災では避難所でケータイを使う姿が普通になっていた。

⇒17日(火)朝・金沢の天気    くもり

★2017年の賀状を「読む」

★2017年の賀状を「読む」

  正月3が日、金沢は晴天に恵まれ、穏やかな年の始めとなった。以下は私の年賀状。

    謹  賀  新  年
 
   今年もよろしくお願いいたします。還暦を過ぎて、自分の至らなさにハッとすることが多々あります。先日お寺が点在する金沢の東山界隈を歩いていると、山門の掲示板にあった「その人を憶(おも)いて、われは生き、その人を忘れてわれは迷う」という言葉が目に入りました。仏教的な解釈は別として、人は若いころは諸先輩の言葉に耳を傾けていても、加齢とともに聞く耳を持たなくなり、我がままに迷走するものだと。これって自分のことではないか、と気がついて掲示板を振り返った次第です・・・。荒れ模様の世界情勢ですが、引き続き、人生のよきお付き合いをお願いいたします。

   いただいた年賀状から。かつての仕事仲間(新聞・テレビメディア)からの賀状。「世界もテレビ業界もいよいよ激動の時代へ。メディアの胆力が問われます」、「放送コンテンツのネット同時配信に向けて動きが本格化しています。ネットワークの在り方にも変化が出始めました」、「・・・『空気』や『言葉』が言論を抑え込んでいる。そんな時代になっていないかと、考えました。その答えははまだ見つかりません・・・」。新聞も放送メディアも大きな岐路に立っている。短文だが、ひしひしとその気持ちが伝わってくる。

   ITベンチャーの社長からいただいた賀状。「当社は新たなサービスの開発を目的として、今後発展が期待されるIoT技術の活用やデジタルマーケティングについて研究を行うIoTマーケティングラボをスタートいたします」。金沢のホテルの社長兼支配人からいただいた賀状。「おもてなしの神様は、細部にこそ宿る・・・20世紀を代表する建築家ミース・ファン・デル・ローエの『神は細部に宿る』の言葉通り、細かな設え、おもてなしのすみずみまで、金沢らしいこだわりをもって、お客様をお迎えします」。

   漆芸の重要無形文化財保持者(人間国宝)からいただいた賀状。「うるしの木は植樹して、12年から15年ぐらいで樹液を採取出来ます。その事を漆を掻くといい、一本の樹から約180mlぐらいしか採れません。・・・・昨年暮れに届いた漆を使い今年も仕事が出来る事に感謝いたし、新年のご挨拶申し上げます。」。漆芸と人生をともにする謙虚な心根がこちらの心にも響く一文だった。

⇒3日(火)夜・金沢の天気    くもり

☆36年連続日本一の「もてなし伝説」

☆36年連続日本一の「もてなし伝説」

  能登半島・和倉温泉の旅館「加賀屋」はちょっとした誇りだった。全国の旅行会社の投票で選出する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(主催・旅行新聞新社)で36年連続総合1位を獲得したからだ。「日本で最高の温泉旅館があるのは能登の和倉温泉だよ」と金沢の市民もよく自慢していた。ところが、ことし第42回(今月11日発表)では残念ながら総合3位に甘んじてしまった。ちなみに、1位は福島県母畑温泉の八幡屋、2位は新潟県月岡温泉の白玉の湯泉慶・華鳳だった。しかし、よく考えてみれば、競争の激しい温泉旅館業界にあって、よく36年連続記録を打ち立てたものだと思う。今後35年間は破られることのない温泉旅館で最高記録の伝説をつくったのだ。

  加賀屋のもてなしは客室から見える七尾湾の海と相乗として自然だ。そのポイントは「笑顔で気働き」という言葉に集約されている。客に対する気遣いなのだが、マニュアルではなく、その場に応じて機転を利かせて、客のニーズを先読みして、行動することなのだ。

  たとえば、客室係は客が到着した瞬間から、客を観察する。普通の旅館だと浴衣は客室においてあり、自らサイズを「大」「中」の中から選ぶのだが、加賀屋では客室係が客の体格を判断して用意する。そこから「気働き」が始まる。茶と菓子を出しながら、さりげなく会話して、旅行の目的、誕生日や記念日などを聞いて、それにマッチするさりげない演出をして場を盛り上げる。たとえば、家族の命日であれば、陰膳を添える。客は「そこまでしなくても」と驚くだろう。しかし、それが加賀屋流なのかもしれない。小手先のサービスではない、心のもてなしなのである。客室係の動作は雰囲気の中で流れるように自然であり、決してお節介と感じさせない。さざ波の音のような心地よさがある。

  「もてなし」はホスピタリティ(hospitality)と訳される。癒されるような心地よさの原点は一体なんなのかと考える。この心地よさは、実は加賀屋だけでない、能登の心地よさなのだと思うことがある。先日(12月4、5日)、留学生や学生を連れて奥能登の農耕儀礼「あえのこと」を見学に行った。ユネスコの無形文化遺産に登録されている、「田の神さま」をもてなす儀礼である。粛々と執り行われる儀式。その丁寧さには理由がある。昔から当地の言い伝えで、田の神さまは目が不自由だという設定になっている。田んぼに恵みを与えてくれる神さまは、稲穂で目を突いてしまい目が不自由なのだから、神が転ばないようにも座敷へと案内をしなさい、並んでいるごちそうが何か分かるように説明しなさい、と先祖から受け継がれてきた。障がいのある神さまをもてなすという高度な技がこの地には伝わる。現代の言葉で、健常者と障がい者への分け隔てない接遇はユニバーサル・サービス(universal service)と呼ばれる。この接遇の風土は「能登はやさしや土までも」と称される。

  加賀屋が36年連続総合1位の伝説をつくることができたのも、そうした接遇の風土があるからなのだろうと勝手に想像している。

⇒13日(火)朝・金沢の天気    くもり
   

☆2つのデモを読む

☆2つのデモを読む

   トランプ大統領の誕生をどう見るか。現地アメリカのテレビをはじめ、日本のメディアでもその分析で忙しい。14日の時事通信WEB版では、1100万人超と言われる不法移民について、トランプ氏が犯罪歴のある200-300万人を強制送還する考えを明らかにした、と伝えている。選挙期間中、トランプ氏は不法移民全員を強制送還すると公約していたが、選挙戦の途中から犯罪歴のない不法移民の扱いをあいまいにしていた。また、焦点となっていたアメリカにおけるTPP(環太平洋経済連携協定)の議会承認手続きについて、オバマ大統領は任期中の実現を事実上断念したと13日付の朝日新聞などが伝えた。こんなたぐいのニュースがここしばらくは続くだろう。

   当のアメリカでは、トランプの大統領に反対するデモが各地で盛り上がっている。11日午後、ニューヨーク中心部の公園で開かれたデモ集会には数千人(主催者発表)が集まり、高校生や大学生らが「トランプは出ていけ」「Love trumps hate」(愛は憎しみに勝る)と叫び、抗議した。ロサンゼルスではデモが暴徒化して、逮捕者が180人にのぼったという。この日、アメリカ各地17ヵ所でデモが行われた。

   こうした一連のデモで分析できる特徴的なことは、民族対立の様相を帯びてきていることだ。ロサンゼルスでは反トランプデモが連日行われ、ヒスパニック系や黒人の若者層が「KKKもトランプも出て行け」と叫んでいる。KKKは白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン」のこと。KKKは来月3日に拠点であるノースカロライナ州で、当選祝賀パレードをすると発表していて、民族対立のヤマ場になる可能性がある。今回の大統領選によって、アメリカ社会に修復できない亀裂ができてしまったようだ。それにしても、仮にクリントンだったら、反クリントンデモが各地で起きていただろうか。その違いを分析する必要がありそうだ。

   お隣、韓国では朴大統領の政治の私物化を糾弾する大規模なデモが12日、ソウルや釜山で市内であった。参加者は「下野しろ」などと迫るスローガンを掲げ、退陣要求を叫んでいることだ。面白いのは、現地のマスコミの報道ぶりだ。ソウルのデモ参加者数は主催者発表で100万人、警察推計で26万人だが、メディア各社は主催者発表の「100万」を見出しで躍らせている。日本のメディアは記事でも見出しでも「26万人」だ。

   上記の違いをどうとらえるか。韓国のメディアはおそらく「民衆の味方」としての立場で「100万人」をアピール、日本のメディアは客観的な報道としての警察推計の「26万人」を取る。見方によっては韓国のメディアは民衆を扇動しているとも受け取れる。この2国で同時多発で起きているデモ。デモを読めばその国のリアルな姿が見えてくる。

⇒14日(月)朝・金沢の天気    くもり

★千載一遇のチャンス

★千載一遇のチャンス

   アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利した=写真=。「番狂わせ」「予想外」の展開だった。そもそもアメリカの世論調査ではクリントン氏の優勢と伝えていた。たとえばCNNの「政治予測市場」は、クリントン氏が勝利する確率は先週いったん下がったものの、7日には91%に回復したと伝えていた。アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」も7日時点の全米世論調査の平均支持率で、クリントン氏44.8%、トランプ氏42.1%だった。ではなぜ、予想はひっくり返されたのか。

   面白いことに、アメリカのメディアは、その理由を「隠れトランプ票」があったためと伝えている。問題発言を繰り返すトランプ氏への支持を公言しにくいことや、メディアへの不信感から、世論調査に回答しない人たちの存在がこの「番狂わせ」「予想外」を招いたというのだ。言い訳としか聞こえない理由だが、世論調査の結果をひっくり返すほど、「隠れトランプ票」が多かったことは間違いない。

前回のブログ「トランプ現象と白人層の閉塞感」で、「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」について述べた。もともとは政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすこととしてアメリカでは認識されている。しかし、ポリティカル・コレクトネスは、本音が言えない、言葉の閉塞感として白人層を中心に受け止められている。心の根っこのところでそう思っていても、表だってはそうのように言わない人たちでもある。「隠れトランプ票」とはこうした人たちを指すのではないか。

    それにしても、9日の東京株式市場で、日経平均の下げ幅は一時1000円を超えた。開票作業が続く中で、トランプ氏優勢の報道を伝えられ、投資家にリスクを避けたいとの思いが強まったようだ。終値は前日より919円安い1万6251円だった。さらに、トランプ氏が勝利を決めたことで、日本とアメリカなど12ヵ国が参加するTPP(環太平洋経済連携協定)の発効に暗雲が立ち込めてきた。トランプ氏はTPPについて「大統領の就任初日に離脱する」と反対を表明しているからだ。白人の労働者層の支持を集めるための、プロバガンダだったが、クリントン氏もTPPには反対を表明していたので、ここは有言実行だろう。

    ほかにも、日本とアメリカの安保体制も懸念される。在日米軍の費用負担の全額を日本に負担させるとのトランプ氏の発言である。ある意味、これは「戦後レジーム」を見直す千載一遇のチャンスかもしれない。戦後70年余り経った現在でも「アメリカの核の傘の下」で、外交や防衛問題などアメリカにお伺いをたてているのが現状だ。過日、国連での核兵器禁止条約の制定交渉をめぐる決議案で日本が反対に回ったのは、その最たる事例だろう。この際、対米関係を見直すときが巡って来たと前向きに考えればよいのではないだろうか。もちろん、よきパートナーを目指して、である。

⇒9日(水)夜・金沢の天気    はれ