⇒トピック往来

☆逆境に咲く花

☆逆境に咲く花

         ことしの冬は北陸豪雪。1月と2月に強烈な寒波に3度襲われ、金沢でも交通インフラなどは一時ガタガタになり、自宅周辺でも積雪量が150㌢になった。自然界にとっては逆境と思える環境の中で、自然の生命は力強い。金沢地方気象台はきのう29日午前、「金沢市で桜が開花した」と発表した。金沢地方気象台の敷地内にあるソメイヨシノの標本木に5、6輪の花が咲いたことで開花宣言となった。

    今年の開花は平年よりも6日早く、去年より6日早いのだ。確かにここ数日は青空が広がり、気温が20度近く上がった。まさに陽気だ。気温が上がったことでソメイヨシノの開花も急テンポで進んだようだ。きょう30日午後、兼六園周辺に出かけたついでに桜を見に行った。すでに、「ぼんぼり」が飾られ、満開を迎えるだけになっていた=写真=。それにしても、金沢地方気象台の発表によると、統計がある1953年以降で6番目に早い開花の観測だという。

   逆境に花を咲かせたのは北陸の桜だけではない。北朝鮮の外交攻勢もなんとなく状況は似ている。核とミサイル開発に対する国連安保理の経済制裁で苦境に陥り、何とか打開しようと韓国・平昌冬季オリンピックの参加をきっかけに、5月にも開催が予定されるアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩党委員長による米朝首脳会談が電撃的に決まり、そして、これも電撃的に金委員長の中国訪問と習近平国家主席の会談。そして来月27日には韓国の文在寅大統領との南北首脳会談がセットされた。

   北の外交のスピード感には舌を巻くが、一体どんなことが交渉に上っているのか、どこのメディアも明確に報じてはいない。当然「北朝鮮の非核化」に向けた会談でなければ意義がないのだが、それが聞こえてこない。こればかりは、徒(あだ)花であって欲しくはない。

   逆転という花もある。きょうの春の選抜高校野球大会(8日目)で、地元の航空石川は高知県の明徳義塾と対戦し、9回裏に劇的な逆転サヨナラ3ラン。センバツ初出場ながらベスト8入りを決めた。お見事、拍手を送りたい。

⇒30日(金)夜・金沢の天気    はれ

☆2年後のタイムラグ問題

☆2年後のタイムラグ問題

     平昌冬季オリンピックが韓国で開催されてよかったと思うことがある。それは時差がないことだ。17日に羽生結弦選手が金メダルを、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得したフィギュアスケート男子シングルの生中継(NHK総合・午後0時15分‐同2時41分)の平均視聴率は関東地区33.9%、18日に小平奈緒選手が金メダルだったスピードスケート女子500㍍の生中継(TBS・午後8時00分‐同10時00分)は同地区21.4%(いずれもビデオリサーチ調べ)だったと報じられている。まともな時間に中継を視聴できている。

     2016年8月のリオデジャネイロのときは時差が11時間(サマータイム)、体操の男子個人総合で内村航平選手がロンドンに続く2連覇を果たす瞬間を見たかったが、朝6時台だったので不覚にも寝過ごした。

   「まともな時間」と冒頭で述べたが、それでもフィギャースケートのハイライトと、スピードスケートのハイライトの開始時間が8時間もあるのはなぜか。韓国が開催国なのだから同国のテレビ視聴のゴールデンタイム(午後7時‐同10時)にハイライトを中継できないのか。と言いながらも、私はかつてテレビ局で番組づくりに携わっていたので、裏事情を明かすことにする。

     フィギュアスケートの人気が高い国はアメリカだ。アメリカのゴールデンタイムに放送時間が合わせてある。同競技が始まったのは韓国の時間で17日午前10時、アメリカ・ニューヨークとの時差は14時間、つまりニューヨークで16日午後8時のゴールデンタイムなのだ。羽生選手の優勝が決まると、日本のメディアとほぼ同時にニューヨーク・タイムズなどは「Yuzuru Hanyu Writes Another Chapter in Figure Skating Legend」(電子版)と報じた。また、スピードスケート女子500㍍は韓国の李相花選手がオリンピック3連覇を目指していただけに韓国国内で注目度が高く、韓国のゴールデンタイムだった。

     実は競技時間はIOC(国際オリンピック委員会)と各国のテレビ局との駆け引きでもある。日本の新聞のテレビ欄を見て気付くように、競技開始は午後9時過ぎが多い。これは冬季オリンピックの注目度が高いヨーロッパ向けの時間設定なのだ。オリンピックは世界のテレビ局の放送権料金で成り立っていると言っても過言ではない。著作権ビジネスなのだ。そのテレビ局の最大手がアメリカNBCだろう。2014年冬のソチ、16年夏のリオデジャネイロ、18年冬の平昌、20年夏の東京の4大会のアメリカ国内での放送権料(テレビ、ラジオ、インターネットなど)を43.8億㌦(1㌦106円換算で4643億円)で契約している。

     日本でオリンピック番組を仕切るのはNHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)。JCは1984年夏のロサンゼルス以来この枠組みで取り仕切っているが、IOCとの契約は同じ4大会で1020億円の契約。NHK70%・民放30%の負担割合となる。日本はアメリカの4分の1程度なのだ。NBCは全放送権料の50%以上を占めているといわれる。つまり、放送時間の設定について日本がIOCと交渉しても、NBCには到底かなわない、勝てないのだ。「刑事コロンボ」や「大草原の小さな家」など名番組の数々を世に出してきた世界のテレビ業界のリーダーであり、オリンピックの大スポンサーとの自覚もあるだろう。

     ここで一つの心配がある。2年後の東京オリンピックだ。テレビ業界ではよい時間で放送し、CMスポンサーに高く売るというのが日本でもアメリカでもビジネスの鉄則だ。アメリカで人気が高い夏の競技(陸上、競泳、体操など)の決勝の開始時間をアメリカのゴールンタイム(午後8時)に持ってくるようにNBCがIOCにごり押ししたらどうなるか。日本とニューヨークの夏の時差は13時間だ。日本時間で午前9時、勤務時間帯だ。東京オリンピックなのに、「まともな時間」と国民は納得して見るのかどうか。(※写真はアメリカNBCテレビのオリンピック特集サイトから)

⇒20日(火)午後・金沢の天気   くもり

★荒ぶる神の見えざる手

★荒ぶる神の見えざる手

  経済学でよく知られたキーワードに「神の見えざる手」がある。市場経済で個々人の利益追求であっても、社会全体の利益となる。アダム・スミスが『国富論』で提唱 したの考察だ。市場原理に重きを置いたこの言葉は、政府が政策的な介入しなくても需要と供給のバランスは自然に調整されるという意味合いでも使われる。

    先日、金沢大学の元留学生と立ち話をした。実家が上海にあり、正月休みでしばらく中国に帰っていた。「中国はネット通販が盛んだね。NHKのニュース特集でも取り上げられていたよ」と水を向けると。彼女は「そう、父も母も必要なとき以外は外出せずに、ネットで野菜や肉など食材を取り寄せている」と。「食品スーパーもネットで宅配、中国はすごいね」と同調すると、彼女は首を横に振った。「ネット通販は利便性ではないんです。PM2.5がすごくて多くの市民が外出を控えている。健康上の問題なんです」「宅配の車がまたオンボロで排気ガスを出しながら走っている。悪循環ですよ」と。

   さらに「でも、それはまもなく解消するんではないですか。だって、中国はEV(電気自動車)の導入では世界をリードしているでしょう。中国の政府はEVなどを自動車メーカーに対して生産や販売台数の10%を義務づけると日本でもニュースになっている。明るい未来じゃないですか」と話すと、彼女は「煤煙を出しているのは自動車だけじゃないんですよ。工場や各家庭だってそう」「それより、EVが電池切れで止まって、交通渋滞を引き起こせば、さらに煤煙が出るじゃないかと思う。その方が心配」と。ちょっと彼女は考え過ぎかもしれないと話題を変えた。

   電子マネーの話にした。「中国では買い物は8割くらいはスマホ払いだってね。これも日本のニュース番組でやっていたよ。日本は現金主義だし、中国の足元にも及ばないよ」と切り出した。すると、「確かにね。一元コインや五元札を数えるのは面倒なので、スマホ支払いが便利。最近は屋台の焼き芋屋さんでもQRコードですよ」「個人的には、中国のお札は汚いし、ニセ札も多いのでスマホで払えるようになってよかったと思う。でも、私の祖母はスマホを持たないので困っている」と。確かに、スマホしか受け付けない時代になると、大量の支払い難民も出てくるだろう。

     需要と供給の絶妙なバランスが「神の見えざる手」とすれば、アダム・スミスのこの言葉は中国経済においては不都合な現象とイノベーション(技術革新)の絶妙なコラボレーション、これは「荒ぶる神の見えざる手」ではないか。少々乱暴な表現か。

⇒31日(水)午前・金沢の天気    ゆき

    

☆続・冬の電磁パルス攻撃

☆続・冬の電磁パルス攻撃

    放送法施行規則第125、157条では、放送中断が15分以上となった場合には重大な事故として電波監理を管轄する総務省に報告の義務がある。今回の石川テレビと北陸放送の通信障害は10日午後7時ごろから、げさ午前10時ごろまでの応急復旧まで実に15時間におよんだ。

    きょうの地元各紙は今回の雷による放送中断を一面で大きく伝えている。2局が共用している送信鉄塔(160㍍)の高さ130㍍から140㍍の場所で内部のケーブルとアンテナ一部が焦げていた。鉄塔には2系統の配信設備(ケーブル)があり、1系統に問題が生じても、もう1系統を使って放送ができる仕組みになっているが、今回は落雷によって両方とも使用が不能になっていた。きょう午前中、石川テレビは緊急用の仮設アンテナを設置して応急復旧した。しかし、復旧したとは言え、確認のためテレビをつけてみると、画質がザラメ状態で見れたものではなかった=写真・上=。すぐにチャンネルを変えた。

            石川テレビの公式ツイッターでは「【視聴者の皆様へ】この度は、長時間にわたり放送が中断する事態となり、深くお詫び申し上げます。本日の午前10時30分ごろ、仮設アンテナの設置が完了し、地上波放送を再開しましたが、出力の関係で受信環境によっては依然視聴できないことも想定され、完全復旧をめざして全力を挙げております。」と釈明している。

    確かに地元各紙などでは大きく扱われた=写真・下=。問題は視聴者の反応だ。私の仲間内で今回の放送中断のことを話しても、関心度が低い。「そう言えば映ってなかったね」程度なのだ。「あの番組が見れなくて残念」とか「テレビの公共性を考えて、もっとしっかり対応を」などといった声は聞かれなかった。2局同時に放送が15時間も中断したにもかかわらず、である。テレビ局の存在感は一体どこにいってしまったのだろうか。むしろ、放送中断で別の問題が見えてきたようだ。

    それよりも周囲の関心事は今回の大雪だ。上空に強い寒気が来ていて、13日までは降り続くと予報が出ている。一方で、両局は総務省への報告に追われるだろう。また、CMスポンサーに対しどのように弁償するかといった対応もあるはずだ。シンシンと雪は積もっている。焼け焦げたケーブルの復旧作業はこの雪の中、進むのだろうか。他人事ながら、あれやこれやと考えてしまう。

⇒11日(木)夜・金沢の天気      ゆき   

    

     

    

★冬の電磁パルス攻撃

★冬の電磁パルス攻撃

   それにしても冬の雷は怖い。空が光ったとたんにバキバキ、ドンと落ちる。よく聞かされてきたことは、冬の落雷のエネルギーは夏のそれより数百倍も強い。また、雷雲は冬の方が夏より低く、必ずしもタテに落ちるのではなくヨコ、ナナメに落ちるものだ、と。幼いころから雷が落ちる様子を見ているが、「慣れる」ということはない。この歳になっても怖いものだ。

    その雷がテレビ局を襲った。10日午後8時ごろ、帰宅してテレビをつけたが、石川テレビ(フジ系)と北陸放送(TBS系)の2局が映らないのだ。ブラックアウトの状態になってる=写真=。エラー表示が出ていて、「放送が受診できません。リモコンで放送切替や選局を確認ください。またはアンテナの調整・接続を確認ください。雨や雪んどの影響で一時的に受診できない場合もあります」。このエラー表示は、雪が降る日にBS放送が視聴できなくなる場合に表示されることがままある。ただし、地上波では見たことがない。

   この日の夕方から雷音が鳴り響いていたので直感した。「ひょっとして雷の電磁パルスが送信鉄塔を襲ったか」と。理由があった。この2局が同時に映らないということは、2局が共用している金沢市観音町の送信鉄塔に異変が起きたとしか考えられなかったからだ。その異変とはやはり雷だろう。送信鉄塔には避雷針は当然ついているだろうが、冒頭述べたように冬の雷は必ずしも垂直に落ちる訳ではない。ヨコ、ナナメに落ちるケースもある。

   そのことが確認できたのは、北陸放送の公式ツイッターだった。「この度は、送信機器の不具合により長時間にわたり県内の広い範囲で放送が中断する事態となり、誠に申し訳ありません。原因は送信鉄塔への雷の直撃が原因と見られますが、調査しているところです。現在、復旧に向け全力で作業に当たっております。」と伝えている。さらに驚いたのは、金沢市消防局の災害情報(ネット)には「19:36 観音堂町[チ]地内で建物火災が発生しています。」と。落雷で送信鉄塔に火災が発生したとなれば、復旧には当然時間がかかるだろう。

   いまでも断続的に雷が鳴っている。現場検証のため、鉄塔に上れば再度雷による二次災害も出る可能性もある。雷が止むまでは停波が状態が続くのか。まさに、冬の電磁パルス攻撃だ。

⇒10日(水)夜・金沢の天気   ゆき

★白濁りの幸福感

★白濁りの幸福感

  「どぶろく」という言葉を見聞きして脳裏に何が浮かぶだろうか。私は「岐阜・白川郷のどぶろく祭り」と「どぶろく裁判」の2つのキーワードを思い浮かべる。

   もう6年前になるが、2011年10月、白川郷の鳩谷八幡神社の「どぶろく祭り」に参加した。杯を400円で購入し、9杯飲んだところで酔いがぐらりと回ってきたことを覚えている。「どぶろく裁判」は、社会運動家の前田俊彦氏(故人)が公然とどぶろくを造り、仲間に飲ませて酒税法違反容疑で起訴され、「憲法で保障された幸福追求の権利だ」と反論し争った。1989年12月、最高裁は「自家生産の禁止は税収確保の見地より行政の裁量内」との判断を示し、前田氏の上告を棄却した。世の中は移り変わり、農業者が自家産米で仕込み、自ら経営する民宿などで提供することを条件に酒造りの免許を取得できる「どぶろく特区」制度が2003年に始まり、今では地域起こしの食文化資源になっている。

    前書きが長くなった。きょう能登半島の中ほどにある中能登町の天日陰比咩(あまひかげひめ)神社で「どぶろく祭り」が初めて開催されると誘いを受けて出かけた。もちろん、ノーカーで。午後6時、神社拝殿では創作の舞や雅楽「越天楽(えてんらく)」など生演奏で始まり、同40分からは三尺玉の花火が冬の夜空に10発上がり、ムードが盛り上がった。拝殿ではどぶろくが振る舞われ、列についた。禰宜(ねぎ)の方は「50年前は全国で43の神社がどぶろくの醸造免許を持っていたが、現在では30社ほどに減りました。造るには手間はかかるのですが、これは神社の伝統ですからね」と語った。ここで小さな紙コップで3杯いただいた。

   社務所に特設された「どぶろくミュージアム」では、醸造方法や江戸時代から続く歴史を示す古文書の内容について解説があった。神社の酒蔵(みくりや)で造られる=写真=。冬場に蒸した酒米に麹、水を混ぜ、熟成するのを待つ。ろ過はしないため白く濁る。「濁り酒」とも呼ばれる。その年の気温によって味やアルコール度数に違いが生じる。暖冬だとアルコール度数が落ち、酸っぱさが増すそうだ。毎年12月5日の新嘗祭で参拝客に振る舞われる。今年はこれまで最高の333㍑を造った。初詣にかけて「どぶろく参拝」が年々増えているそうだ。

   一つ質問をした。「天日陰比咩神社は2千年余りの歴史をもつ延喜式内社ですが、どぶろくは江戸時代から造られていると説明がありました。どぶろくの歴史は浅いような感じがするのですが」と。すると、解説を担当した禰宜の船木清祟さんは「文書の記録として残っているのは江戸期なんです。天正年(1574)の上杉謙信による能登侵攻で社殿は焼失しており、江戸期以前のどぶろく関連の文書がないのです」と。

   神社境内で、農家民宿を経営する田中良夫さんが、自家製のどぶろくを振る舞っていた。「どぶろく 太郎右衛門」というボトルが販売されていたので買い求めた。農薬も化学肥料も使わない自然農法で栽培した酒米「五百万石」で酒麹をつくり、コシヒカリ、酵母、ミネラル分が豊かな井戸水を使用して醸造している。神社のどぶろくより甘味があった。田中さんは「コシヒカリを入れると甘みがつくんです」と。ここで6杯飲んだ。白川郷での経験から9杯で酔いがぐらりと回ってくるので、ここで自ら「お開き」とした。泊まった民宿では白濁りの幸福感に包まれながら爆睡した。

⇒16日(土)夜・中能登町の天気   くもりのち雨

☆ブリ起こしの雷

☆ブリ起こしの雷

    きのう20日の天気は落雷や突風、急な強い雨が降るとても不安定な天気だった。何しろ、天気予報では能登半島の先端、輪島の上空5千㍍でマイナス30℃以下の真冬並みの寒気が入り込んで、まさに大荒れの天気だった。荒れ模様の天気の中を車で走りながら、ある言葉が思い浮かんだ。「ブリ起こしの雷」。石川や富山など北陸ではこの時期、雷が鳴ると「寒ブリ」が揚がるとの言い伝えがある。

    その言い伝えは的中した。きょう21日朝、能登町沖の定置網で寒ブリ550本が水揚げされ、金沢市中央卸売市場では仲買人たちの威勢のいい声が飛び交い、次々と競り落とされたと昼のニュースで。体長90㌢、重さ10㌔の大物などが揚がっていて、シーズンの先駆けとなったようだ。この時期に能登半島沿岸で水揚げされた重さ7㌔以上のブリを「のと寒ぶり」のブランド名を付けて売られている。10㌔以上ともなると特上品だ。

では、なぜこの時期「ブリ起こしの雷」と言うのか。よく誤解されるのは、雷鳴に驚いて、ブリが能登沖や富山湾に逃げ込んで来るという説。むしろ、時化(しけ)で日本海も荒れるので、イワシといった魚が沿岸に寄って来る。それをブリが追いかけて網にかかるという説の方が納得がいく。

    タイミングよく、「かぶら鮨」の予約販売の案内が郵送で自宅に届いた。このかぶら鮨は、青カブに寒ブリの切り身をはさんで甘糀(あまこうじ)で漬け込む。漬け込みは2週間余り。金沢の冬の味覚の代名詞にもなっている。保存料などの添加物を使っていない手造り限定品なので、「桶上げ」という発送の日が決まっている。価格は簡易箱詰めの3枚入りが5400円、贈答用の化粧木樽詰めの3枚入りが5940円となっている。金沢に住んでいるとこれを食さないと正月が来ない。

    九谷焼の皿にかぶら鮨を盛って、辛口の吟醸酒でも飲めば、天下でも取ったような高揚感に満たされる。最近気ぜわしい浮世のニュースが目に余る。大相撲の横綱・日馬富士が幕内の貴ノ岩に暴行を加えたといわれる問題でテレビの報道番組のキャスターがああでもない、こうでもないと口をとがらせている。「良きに計らえ」とおおらかな心になりたいものだ。正月を楽しみに「12月27日発送分、簡易箱詰めの3枚入り5400円」の注文書をFAXにかけた。

⇒21日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆豊穣の海、国難の海

☆豊穣の海、国難の海

   今月6日午前0時を期して日本海側でズワイガニ漁が解禁された。香箱(こうばこ)ガニと呼ばれるメスは来月12月29日まで、オスは来年3月20日までの漁期。きょう8日夕方、近所のスーパーマーケットに季節のものを求めに。こうなると不思議と足取りが軽く速くなる。魚介類の売り場に着くと同じ思いの人たちだろうか、茹でガニのコーナーをじっとのぞき込んでいた。見ているのは産地と値札である。私は迷いなく、能登半島の「蛸島(たこじま)産」のものを選んだ。

   これは蛸島漁港で水揚げされたズワイガニだ。同漁港は能登半島の先端部分にある。金沢から距離にして150㌔、能登沖で漁をする漁船の水揚げの拠点になっている。半島の先端で、水揚げして、陸路で金沢に搬送することになり、海路で金沢港に持ち込むより時間的に速く、その分鮮度が保たれるというわけだ。茹でガニのパックを手にしてレジへ。3980円。価格は去年とほとんど変わらず。旬のものなので確かに高価だ。少し値段が落ちる、来週まで待てるかというとそうでもない。もし時化(しけ)が続いて、漁そのものができなければ、値段どころか、口にも入らない。旬が買い時だ、毎年同じようなことを思って自分を納得させて高値づかみをしている。

    能登のズイワガニには能登の酒がマリアージュ(料理と酒の相性)と勝手に思い込んでいて、同漁港の近くの造り酒屋の「宗玄」と「赤大慶」を予め仕込んでおいた。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口の宗玄、カニ味噌(内臓)には風味がある赤大慶が私の口にはしっくりなじんだ。

    「豊穣の海」を感じる日本海だが、「国難の海」でもある。地元紙は連日のように、スルメイカの漁場・大和堆での北朝鮮漁船による違法操業について伝えている。大和堆は日本海のほぼ真ん中に位置し、もっとも浅いところで水深が200㍍。寒流と暖流が交わる海域でもありプランクトンの豊富な好漁場。日本のEEZ(排他的経済水域)であるにもかかわらず違法操業が続いている。

    北朝鮮の木造漁船はイカ網漁だが、集魚灯が装備されていない。日本のイカ釣り船団(中型イカ釣り船)がやってくると、そのそばに寄って来て網漁を行う。スクリューに網が絡まる事故を恐れる能登の船団などは、北海道沖の武蔵堆へ移動を余儀なくされている。これまでの報道では海上保安庁の取締船が8月までに延べ820隻に警告や散水して退去させたが、今も数百隻が居座り続けているようだ。

    石川県漁協では国への陳情を続け、臨検や拿捕(だほ)といった厳しい取り締まりを要望しているが、違法状態は続いている。弾道ミサイルを日本海に続けさまに撃ち込んでいる北朝鮮の情勢を推し測ると、これ以上の関わりを保安庁としては持ちたくないのだろうか。安倍政権は国難の打破を掲げて、衆院選を断行し再び政権の座に就いた。その公約を日本海で実装してほしい。

⇒8日(水)夜・金沢の天気    はれ

★「イノシシの天下」

★「イノシシの天下」

   「イノシシの天下」という言葉を初めて聞いた。能登半島はマツタケの産地なのだが、このところイノシシがマツタケをほじくって各地で大きな被害が出ているようだ。そのことを、土地の人たちは「もうマツタケは採れない、イノシシの天下や」と嘆いているのだ。

    きょう(3日)能登町でキノコ採りをしている知人から聞いた話だ。アカマツ林の根元が掘られて、毎年採れるマツタケがなくなっていた。根元がほじくられているので、「おそらく来年からは生えてこないだろう」と肩を落とした。あちこちでこうしたイノシシによる被害があり、「能登のマツタケは壊滅だ」という。マツと共生する菌根菌からマツタケなどのキノコが生えるが、イノシシによる土壌の掘り返しで他の菌が混ざるとキノコは生えなくなることが不安視されているのだ。

   春にはタケノコが同じくイノシシに荒らされたとも知人は嘆く。さらに、「ブドウ畑もやられているようだ」と話してくれた。赤ワイン用のソービニオン系の品種を栽培している農家が被害に遭っているという。

   こうしたイノシシの被害に対して、「デンサク」と呼ばれる電気柵を畑の周囲に張り巡らす方法がある。イノシシの鼻の高さの地上40㌢ほどで設定して、イノシシに電気ショックを与えると近寄ってこない。問題もある。面積が限られる畑の場合はそれでよいが、マツタケ山のような広範囲を張り巡らすことはコスト的に難しい。ましてや、農作物と違って、年によって不作の場合もあるキノコの場合、デンサクを設けても労力が報われない場合もあるのだ。

   石川県の「イノシシ管理計画」(平成29年5月)によると、一般にイノシシは多雪に弱く、積雪深30㌢以上の日が70日以上続くことが生息を制限する目安と言われているが、平成以降で「70日」を越える年は平成3年、7年、18年、23年、24年、27年の5回のみで、いわゆる暖冬傾向がイノシシの生息拡大に拍車をかけている。

   能登半島の先端である奥能登地域(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)では平成22年からイノシシによる農業被害が出始め、年々増えている。このイノシシ被害に危機感を持った人々の中には狩猟免許を取って、鉄檻を仕掛けて捕獲に乗り出すケースも増えている。自治体ではイノシシの捕獲報奨金として1頭当たり3万円(うり坊など幼獣は1万円)を出している。
輪島市で捕獲されたイノシシは平成28年度690頭(同27年度117頭)、珠洲市で平成28年度432頭(同27年度119頭)と格段に増えている。

   問題は、捕獲頭数が増えたから頭数が減ったといえるのか。その逆だ。絶対数が増えているから捕獲頭数が増えたにすぎないのだ。イノシシのメスは20頭の子を産むといわれる。「イノシシの天下」。この現実をどうすればよいのか。

⇒3日(祝)夜・金沢の天気   はれ

   

★大学連携の社会実装、11年目

★大学連携の社会実装、11年目

   日本が直面する課題、それは人口減少、急速な高齢化、老朽化するイ都市や道路のインフラ、活力を失う地方、荒廃する農地、財政を圧迫する社会保障全般など挙げればきりがない。まさに日本は課題先進国である。物質的な豊かさを享受した先進国ならではの解題でもある。むしろ、こうした課題の解決策を探ることができる日本は「課題解決先進国」でもある。

    こうした課題解決を目指すべき社会を「プラチナ社会」と定義し、地域でさまざまイノベーションに取り組んでいる自治体や企業、団体を表彰するのが、民間団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長:小宮山宏元東京大学総長)だ。ちなみに、金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げている。その「プラチナ大賞」の第3回大賞・総務大臣賞(2015年)に、珠洲市と金沢大学が共同でエントリーした「能登半島最先端の過疎地イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」が選ばれた。プラチナ構想ネットワーク事務局から、受賞から2年間の取り組みを報告してほしいと依頼され、過日(10月26日)、同市の担当者と2人で東京・イイノホールでに出かけた。
  
   以下、報告の概要だ。金沢大学から160㌔北、半島の最先端で珠洲市から廃校舎をお借りして、能登学舎を設立した。最初は、三井物産環境基金を活用して、市民交流と研究を兼ねた拠点である「里山里海自然学校」というプログラムをつくった。博士研究員を1人配置して、市民と一緒になって生物調査や田んぼの生き物など行った。研究者と市民がともに調査に参加する、オープンリサーチという手法だ。その翌年2017年に文科省の事業費で「能登里山マイスター養成プログラム」という社会人を対象とした人材養成プログラムをスタートさせた。

   能登の農業や森林や海の資源、文化資源を活用して地域の生業(なりわい)づくりをしていく若者を育てるというコンセプトだ。ここに若手教員や博士研究員らスタッフを増員して、独自の研究調査も実施している。能登における里山里海の価値を再評価すること、能登における持続可能な到達目標SDGsをどのように進めていくか、国連のFAOが認定する世界農業遺産のグローバル連携、そしてベンチャー・エコシテム、つまり起業環境の構築を併せてミッションとしている。マイスタープログラムの実施に当たっては、同市の自然共生室との連携を密にしている。大学の研究調査の総合窓口でもある。こうした大学の専用の窓口を持つ自治体は全国でも少ない。

   マイスタープログラムの卒業要件は卒業課題研究だ。15分の公開での発表を審査する。このプレゼンまでに調査やヒアリング、発表の技を磨くわけだが、受講生全員が発表にこぎつけることができるわけではない。人前で発表し、卒論の審査にパスしたという実積が本人のモチベーションをとても高めることになる。卒業課題研究のテーマは、農業に関することが25%ともっとも多く、次が林業、3番目が起業などとなっている。ツーリズムや子育て環境づくりなどとても多彩なテーマだ。144人の修了生を輩出したが、その後も自らの課題研究を極めて実装するケースが多く、社会的ビジネスとして起業したものが11人、農林漁業の担い手として14人が新規就業している。能登でノベーションを担うのは、彼らだと確信している。

   同市の担当課長はこの秋に実施した国際芸術祭に触れ、アートの地域インパクトの大きさを実例を挙げて報告した。さらに市長のビデオメッセージが会場に流してもらった。20分余りの報告だったがコンパクトにまとまったものとなった。会場の最前列で小宮山会長がうなずいて聞いておられる様子が見えた。

   同市と金沢大学の連携事業はもう11年になる。地域と大学との連携は型にはまったものではない。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法で社会実装する」。いつもの肝に銘じていることである。

⇒1日(水)朝・金沢の天気   はれ