⇒トピック往来

★花の香り、肌の色

★花の香り、肌の色

   このころ金沢の庭に咲く季節の花といえば、スイセンとロウバイだ。晴れ間を見計らって裏庭に出て、2種の花を切ってきた。黄色い花のロウバイは「蝋梅」と漢字表記されるだけあって、ふくよかな香りがする。中国語ではラ -メイ(蝋梅)、英語ではWinter sweetと言い、人々はその香りを楽しんでいる。素人ながら、和室の床の間に活けてみた。今月3日付のブログでも紹介したが、花はこれほどまでに人の心を和ませてくれるものかと改めて想う。

   ネットでロウバイを調べてみると、これまた意味深い。昔から「雪中四友(せっちゅうしゆう)」と称され、雪の中で咲く4つの花の一つだそうだ。ちなみに、残りの3つの花はウメ、サザンカ、スイセンとなる。床の間に飾った花は雪中四友のうちの「ニ友」ということになるだろうか。

    話を肌の色に変える。 テニスの大坂なおみ選手とスポンサー契約を結ぶ日清食品のアニメーション動画の広告で、大阪選手の肌が実際より白く描かれているとの批判が起き、同社はアニメ動画を削除した(24日付ニュース)。誰が肌の色を問題視したのだろうかと気になっていた。というのも、実物写真を変色したのであれば、これは人権、捏造などから明らかに問題視される。しかし、アニメではそこまで問われるだろうか。大坂選手本人は全豪オープンに集中しているせいか、さほど気にしていないようだ。では、誰が問題視したのだろうか、と。

   たまたまCNNのWeb版(日本語)をチェックしていて関連記事があった。「日本の英字紙ジャパン・タイムズのコラムニストでアフリカ系米国人のバイエ・マクニール氏は、大坂選手のキャラクターが『白人化』されているのを見て『がっかりした』と書いている。」と。そこで、ジャパン・タイムズ紙のバイエ・マクニール氏のコラムを検索すると、今月19日付のコラム、「Someone lost their noodle making this new Nissin ad featuring Naomi Osaka」があった。

Sure, anime fans aren’t used to seeing women of color in the genre so … a few shades lighter on the skin here … a debroadening of the nose there … the de-exoticization of her hair … and, voila! The perfectly palatable girl next door. Not for this fan, though. Osaka’s de-blackening is as problematic to me as a Bobby Riggs tirade against female tennis players.

  コラムを自分なりに解釈すると。日清食品は日本の視聴者にターゲティングしてアニメ広告をつくった。日本のアニメファンは茶色の肌をした女性を見ることに慣れていないので、アニメでは肌の色を薄くして、完璧に美味しい女の子として表現した。しかし、大阪選手は自分の性格と能力が評価されることを望んでいる人間である。コマーシャルはYouTubeで流れており、その視聴者はグローバル、つまり潜在的な顧客は全世界である。昨年、全米オープン女子シングルスで初制覇したトップテニスプロは世界から注目されている。世界の人は大坂選手を白塗りにしたら奇異に感じるのではないだろうか。

   ぎこちない要約だが、バイエ・マクニール氏のコラムを読んでいると、アニメだからと言って、その個性を塗り変えてよいはずがない。個性や多様性を尊重することだ、と。とくに最後の一文が日本人に投げかけられた課題テーマのようで重い。You’re not “hungry to win,” but playing to lose.

⇒25日(金)朝・金沢の天気    はれ

☆能登にトキが飛来する日

☆能登にトキが飛来する日

   環境省は国の特別天然記念物のトキについて、自然の中での生息数が増えているとして、レッドリストのランクを「野生絶滅」から1ランク下げて「絶滅危惧種」に変更すると、きょう23日発表した。新潟県佐渡市では中国から譲り受けたトキの人工繁殖が進められ、2008年から自然への放鳥が始まった。2012年に放鳥のトキのつがいからひなが誕生し、現在では自然の中に353羽が生息している。

   トキが急激に減少したとされる1900年代、日本は食糧増産に励んでいた。レチェル・カーソンが1960年代に記した名著『サイレント・スプリング』で、「春になっても鳥は鳴かず、生きものが静かにいなくなってしまった」と記した。農業は豊かになったけれども春が静かになった。1970年1月、本州最後の1羽だったトキが能登半島で捕獲された。オスで「能里(ノリ)」の愛称があった。繁殖のため佐渡のトキ保護センターに送られたが、翌1971年に死んだ。解剖された能里の肝臓や筋肉からはDDTなどの有機塩素系農薬や水銀が高濃度で検出された。2003年10月、佐渡で捕獲されたメスの「キン」が死んで、日本のトキは絶滅した。その後、同じ遺伝子の中国産のトキの人工繁殖が始まった。

    能登半島にトキがいなくなって37年後の2007年、金沢大学の「里山里海プロジェクト」の一環として、トキが再生する可能性を検証するポテンシャルマップの作成に携わった。珠洲市や輪島市で調査地区を設定した、生物多様性の調査だった。奥能登には大小1000以上ともいわれる水稲栽培用の溜め池が村落の共同体により維持されている。溜め池は中山間地にあり、上流に汚染源がないため水質が保たれている。ゲンゴロウやサンショウウオ、ドジョウなどの水生生物が量、種類とも豊富である。溜め池にプ-ルされている多様な水生生物は疏水を伝って水田へと分配されている。

    また、能登はトキが営巣するのに必要なアカマツ林が豊富である。かつて、昭和の中ごろまで揚げ浜式塩田や、瓦製造が盛んであったため、アカマツは燃料にされ、伐採と植林が行なわれた。また、能登はリアス式海岸で知られるように、平地より谷間が多い。警戒心が強いとされるトキは谷間の棚田で左右を警戒しながらドジョウやタニシなどの採餌行動をとる。豊富な食糧を担保する溜め池と水田、営巣に必要なアカマツ林、そしてコロニーを形成する谷という条件が能登にある。

   調査ヒアリングで、トキのカラー写真を熱心に撮影していた小学校の校長がいたという話を聞いて、遺族を訪ねた。輪島市三井小学校の校長だった岩田秀男氏は昭和30年代から、本州最後のトキを熱心に撮影して歩いた人だった。遺族から能登のトキを写真を見せられた時、胸が熱くなった。写真のトキが「能登に帰りたい」と叫んでいるような、そんな衝撃を受けた。岩田氏のクレジットを必ず入れることを条件に写真の使用許可をいただいた。

   今回、環境省が絶滅の危険度が1ランク低い「絶滅危惧種」に変更するということはトキの繁殖力に可能性があるということでもある。佐渡の西側から能登は距離にして100㌔余りだ。トキのつがいが能登に飛来すれば、第二の繁殖地になるのではないか、などと夢を描いている。(※写真は石川県輪島市三井町で営巣していたトキの親子=1957年・岩田秀男氏撮影)

⇒23日(水)夜・金沢の天気     あめ

★企業広告「嘘に慣れるな、嘘をやっつけろ」

★企業広告「嘘に慣れるな、嘘をやっつけろ」

         きょう7日の全国紙で「30段広告」を打って、「敵は、嘘。」「嘘つきは、戦争の始まり。」と吠えているのは出版社「宝島社」だ。30段広告とは左右の見開き全面広告のこと。それだけに目立つ。ここ数年、年明けになると、「ことしのテーマは何だろう」などと気にかけていた。今年のテーマはフェイクニュースを許すなとのメッセージだ。首をかしげるのは、「敵は、嘘。」のキャッチは読売新聞、「嘘つきは、戦争の始まり。」は朝日新聞の2パターンがあるのはなぜだ。

   読売の「敵は、嘘。」はデザインがイタリア・ローマにある石彫刻『真実の口』だ。嘘つきが手を口に入れると、手を抜く時にその手首を切り落とされる、手を噛み切られる、あるいは手が抜けなくなるという伝説がある。「いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」とフレーズが高揚している。この文を読めば、昨年国会で追及された一連の問題のことを指しているのかなと想像する。つまり、読売の読者には内政での嘘を見抜けと発破をかけているのではないか。

   片方の、朝日の「嘘つきは、戦争の始まり。」はデザインが湾岸戦争(1991年)のとき世界に広がった、重油にまみれた水鳥の画像だ。当時は、イラクのサダム・フセインがわざと油田の油を海に放出し、環境破壊で海の生物が犠牲になっていると報じられていた。そのシンボリックな写真だ。ただ、イラクがアメリカ海兵隊部隊の沿岸上陸を阻むためのものであるとの報道や、多国籍軍によるイラクの爆撃により原油の流出が生じたなど、その真偽はさだかではない。「今、人類が戦うべき相手は、原発よりウィルスより温暖化より、嘘である。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」とこれもテンションが高い。全体のトーンからアメリカのトランプ大統領の在り様を連想させる。つまり、朝日の読者にはアメリカの嘘を見抜けとけしかけているのではないか。

   宝島社のホームページによると、企業広告の意図が掲載されている。「気がつくと、世界中に嘘が蔓延しています。連日メディアを賑わしている隠蔽、陰謀、収賄、改ざん…。それらはすべて、つまりは嘘です。それを伝えるニュースでさえ、フェイクニュースが飛び交い、何が真実なのか見えにくい時代になってしまいました。人々は、次から次に出てくる嘘に慣れてしまい、怒ることを忘れているように見えます。いまを生きる人々に、嘘についてあらためて考えてほしい。そして、嘘に立ち向かってほしい。そんな思いをこめて制作しました。」
   
   ここまでくると、企業広告とはいえ、出版社のジャーナリズム性が問われる、と考察する。今度は宝島社そのものが、どうフェイクニュースと戦うのかそのスタンスを明示しなければ、企業広告の価値、そして企業そのものが問われるだろう。一度振り上げた拳(こぶし)は簡単に下ろせない。

   ちなみに、宝島社の年初広告は2018年1月5日付は「世界は、日本を待っている」。自然を崇拝し、異文化を融合させながら常に新しい文化を創造してきた国、日本がテーマ。2017年1月5日付は「忘却は、罪である」。前年にオバマ大統領の広島訪問、安倍総理の真珠湾訪問が実現した歴史的な年だったことから、世界平和をテーマとした。次なる宝島社の30段広告に期待したい。

⇒7日(月)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★ヨーロッパの「アマメハギ」

★ヨーロッパの「アマメハギ」

   けさ(3日)のNHKニュースを見て思わず、能登半島のアマメハギや秋田・男鹿半島のナマハゲはヨーロッパにもあるのだと、そのそっくりな仮面と動作に驚いた。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」が登録されることが決まったタイミングでの実にタイムリーなニュースだ。

  ニュースによると、オーストリア北部ホラブルンの伝統行事「クランプス(Krampus)祭」。クランプスはドイツやオーストリアなどヨーロッパの一部の地域で長年継承されている伝統行事。頭に角が生え、毛むくじゃらの姿は荒々しい山羊と悪魔を組み合わせたとされ、アマメハギの仮面とそっくりだ。12月初めの今の時期、子どもたちがいる家庭を回って、親の言うことを聞くよい子にはプレゼントを渡し、悪い子にはお仕置きをするのだという。そこで、ドイツ・ミュヘン市の公式ホームページをのぞくと「Krampus Run around the Munich Christmas Market」とさっそく特集が組まれていた。それほど現地では有名な行事なのだろう。

    面白く感じたのは、幼い子に接するコンセプト、つまり、「親の言うこと聞かない悪い子にはお仕置きをする」という動作だ。言うことを聞かない幼い子にクランプスは「また親の言うことを聞かないのか」と大声で脅す。すると子どもは「聞きます、聞きます」と親の後ろに逃げて隠れる。まるで、能登で演じられるアマメハギと同じ光景だ。毎年、クリスマスの12月初めにさまざまな姿のクランプスが登場し、現地では冬の風物詩として親しまれているようだ。

     逆に、ヨーロッパでクランプスを知る人たちにとっては、アマメハギやナマハゲがユネスコ無形文化遺産に登録されることが決まり、情報として接する機会も今後増え、同じようなことを考えるだろう。「日本の行事と同じだ」と。この際、鬼仮面の相互交流をしてはどうか。幼い子どもたちにとってたまったものではないが。(※上の写真はドイツ・ミュンヘン市のHPより、下の写真は能登町のHPより)

⇒3日(月)朝・金沢の天気  あめ

 

☆民俗文化を残す、至難の業

☆民俗文化を残す、至難の業

   審査待ちが長引きようやく決まったという印象だ。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」が登録されることが決まった。実際に見て、身近に知る伝統行事でユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、奥能登の農耕儀礼「あえのこと」(2009年)、七尾市の青柏祭が「山・鉾・屋台行事」(2016年)、そして輪島市と能登町の「アマメハギ」が今回登録された。3件ともすべて能登半島で連綿と守られ、続いてきた民俗文化なのだ。

    秋田ではナマハゲと称され、能登ではアマメハギと言う。節分にあたる2月3日に能登町秋吉地区で行われるアマメハギは高校生や小中学生の子どもが主役、つまり仮面をかぶった訪問神に扮する。囲炉裏やこたつに長くあたっているとできる「火だこ」のことをアマメと言い、能登では怠け者のしるしとされる。この火だこを「いつまでこたつにあたっているのだ」と剥ぎ取りに来るのがアマメハギである。主役は子どもたちなので驚かす相手は幼児や園児になる。幼児が怖さで泣き叫ぶ、その場を収めるために親がアマメハギにお年玉を渡す。

    この伝統行事は子どもたちへの小遣い渡しの行事でもあった。伝統行事を世話している地域の方からこんな話を聞いたことがある。かつて、アマメハギ行事での子どもたちへの小遣い渡しが教育委員会で問題となり、行事を自粛するよう要請されたこともあったそうだ。このことがきっかけで実際に自粛して、伝統行事が途絶えた地区もあったという。

    地域の民俗文化や伝統行事は社会現象によって衰退するケースが多々ある。そのほかにも、能登では伝統行事の男女平等が問われたことがある。奥能登では夏から秋にかけてキリコ祭りが盛んだが、併せて家々ではヨバレという客に対する「もてなし」がある。その際の祭りのご馳走をゴッツオと呼び、数日前から嫁、姑の女性たちが仕込みに入る。キリコ祭りのゴッツオをつくっている女性たちが祭りを楽しめないのは不平等ではないかとの声が上がり、ヨバレをしない家も増えてきた。このアマメハギでも、幼児を不必要に恐怖に陥れるのは「虐待ではないか」との声がないわけでもない。

    民俗文化や伝統の行事というのはそうした時代の尺度にさらされながら、しぶとく生き残ってきたのだろう。今回のユネスコ無形文化遺産の登録でアマメハギは国際評価を得た。少子高齢化と過疎化で伝統行事の継承そのものもが危ぶまれていたときだけに、何とか踏みとどまるチャンスを得たのではないだろうか。

⇒1日(土)朝・金沢の天気      くもり

★出雲大社と竹内まりや

★出雲大社と竹内まりや

    11月のことを旧暦の月名では神無月(かんなづき)と称する。ここ出雲では神在月(かみありづき)と称することを初めて知った。神無月と神在月は何がどう違うのか。島根県立古代出雲歴史博物館の企画展「神々が集う」のチラシによると、この時季、全国の神々、つまり八百万(やおよろず)の神が出雲に集い、全国各地では神がいなくなるので神無月に。出雲では全国から集うので神在月となるそうだ。さすが出雲は神話のスケール感が違う。

    きのう(24日)高校時代の同級生おっさん3人のドライブ旅は朝に姫路を出発、正午ごろには松江を巡り、夕方に出雲に到着した。松江では島根名物「割子そば」を食した。朱塗りの丸い器が三段重ねになっていて、そばが盛ってある。それに 刻みねぎ、おろし、削り節などの薬味をのせ、つゆをかけて食べる。そのつゆはトロリとした濃いめで、ソースのような。そばと言えば、信州そばなのだが、物知りのおっさんの一人が「出雲のそばは松江藩初代の松平直政(徳川家康の孫)が、信州松本から出雲に国替えになってつくられるようになったそうだ」と教えてくれた。入ったそば屋のパンフにも、直政がそば職人を信州から一緒に連れて来たとも記されていた。出雲そばと信州そばは歴史的なつながりがあるようだ。

    そば屋を出て、国宝の松江城の堀を歩くと、城と堀と松の老木、そして白壁の武家屋敷街が一体となった歴史的な空間が心を和ませてくれる。少し坂を登ると、茶室「明々庵」がある。パンフには、大名茶人として知られた七代の松平治郷(号・不昧=ふまい)が造った。庭を眺めながら、そばの後の一服。不昧公はこう述べたそうだ。「茶をのみて 道具求めて そばを食ひ 庭をつくりて月花を見ん その外望みなし 大笑々々」。至福のひとときは現代でも通じるのでないか。

   話は冒頭の出雲の神の話に戻る。午後4時に出雲大社に到着すると。拝殿では神等去出(からさで)の神事が執り行われていた。出雲大社に集合した八百万の神が今度はそれぞれの国に帰る儀式。大社にある19の社(やしろ)の依代(よりしろ)が絹布で覆われて拝殿に移される=写真・上=。祝詞が奏上され、神官の一人が「お立ち、お立ち」と唱えた。この瞬間に神々は出雲を去った、とされる。まるでデジタルの発想だ。この神事を大勢の参拝客が見守っていた。

   「きょう竹内まりやさんはいらっしゃいますか」と旅館のフロントに尋ねると、「先週は来られたのですが、きょうはいません」と。出雲大社の門前町にある旅館「竹野屋」での会話。同級生おっさん3人は歌手の竹内まりやのフアン。出雲に泊まるのならば当地出身の竹内まりやゆかりの旅館で、となった。フロントでの質問は本人は時折帰省しているとの情報をネットで得ていたため。それにしても、明治初期に造られた老舗旅館は風格あるたたずまい。この家で生まれ、大社の境内で幼少期にはどんな遊びをしたのだろうかなどとおっさんたちの想像は膨らんだ。

   夕食にゆでカニが出た。島根県沖の日本海で取れた由緒正しい「松葉ガニ」かと想像したが、品書きには「ズワイガニ」と記してあった。けさ(25日)の朝食では「しじみ汁」が出されたので、「宍道湖のシジミですか」と問うと、男性の給仕係は「ジンザイコ産です」と。シジミと言えば、宍道湖産ではないのかと一瞬いぶかった。神西湖は大社の西側にある汽水湖で宍道湖よりも近い。竹野屋とすれば、神西湖で採れたシジミが地元産なのだ。カニはおそらく山陰地方の漁港で揚がったものではなかったのだろう。客とすれば「松葉ガニ」「宍道湖のシジミ」を期待するのだが、そうしたブランド物にあえてこだわらない経営方針なのだろう。「愚直」という言葉が脳裏に浮かんだ。温泉地ではない、参拝客が旅装を解く門前通りの旅館なのだ。

   竹内まりやはデビュー40周年だが、テレビメディアにはほとんど露出しない。ミュージシャンとしての人生を愚直に貫いている。その竹内まりやのライブ映像を映画化したシアターライブが今月23日から全国の映画館でロードショーされている=写真・下=。「あの伝説のライブが今、蘇る! お久しぶり、まりや!」がキャッチコピーだ。「神在月」でにぎわう出雲の一日を堪能した。

⇒25日(日)午前・出雲市の天気    くもり

☆白鷺城と姫路おでん

☆白鷺城と姫路おでん

  きのう(23日)姫路市に到着した。夕方ホテルにチェックインしてテレビにスイッチを入れると、大阪の民放はテレビ特番を組んでいた。大阪誘致を目指す2025年国際博覧会(万博)の開催国を決めるBIE(博覧会国際事務局)の総会がパリであり、加盟国による投票の票読みなどが詳しく報じていた。大阪キー局の万博誘致への意気込みが伝わってきた。そして、真夜中に再びスイッチを入れると、日本がロシア(開催地エカテリンブルク)とアゼルバイジャン(開催地バクー)を破り、開催国に選ばれたと大騒ぎになっている。1970年の大阪万博の熱気が再び蘇るのか。今から48年前、南沙織の『17才』の歌に心を動かされた、あの時代でもある。

  まさに大阪万博のときに知り合った高校時代の同級生たちと連休を利用してドライブで姫路に来ている。北陸自動車道から、敦賀ジャクションで舞鶴若狭道へ、吉川ジャンクションから中国道、福崎インタージェンジを降りて、姫路市に到着した。ドライブ中は外の景色の山並みで紅葉が楽しめたが、同じ視界が数時間も続くとさすがに飽きてくる。それでも、山並みを見ると篠山あたりでは、人里と山には鉄線柵が連なっている地域も見えた。イノシシなどの獣害で悩まされている地域なのだと察した。

  姫路と言えば、姫路城。映像などで白壁の美しさと石垣の高さから「白鷺(しらさぎ)城」と呼ばれ、国宝、そして1993年には法隆寺とともにユネスコ世界遺産にも登録されている。姫路城に到着した時刻は午後4時を過ぎていて入場は叶わなかったが、その優雅な外観は堪能できた=写真・上=。残念に思ったことが一つある。城に入るまでのアクセスに緑が少ないことだ。確かに桜門を入ると桜の並木が広がる。問題はその下、グランドカバーは見た限りだが、雑草だった。また、三の丸の茶室「鷺庵(ろあん)」の庭も地面が見える。スギゴケなどで和風庭園らしいカバーできないものかと残念に思った次第だ。

   夕食は姫路駅周辺で探した。インバウンド観光の客なども多く、姫路城の観光効果を思い知った。仲間の一人が「姫路おでん」を食べに行こうと提案した。商店街の裏通りに居酒屋があり、のぼり旗の「姫路おでん」の文字が目に入った=写真・下=。カウンターに腰かける。さっそく大根や卵を注文し、地酒を頼んだ。ここのおでんは生姜(しょうが)醤油がかけてあり、風味がよい。辛口の日本酒が合う。

   カウンターの向こうにいるスタッフは会話が弾む女性たち。そう言えば、コンビニの定員、ホテルのフロントのスタッフは元気のよさそうな女性が多い。姫路とは「女子が元気な街」という意味かなどと話しながら、同級生おっさんたちはホテルに戻った。

⇒24日(土)朝・姫路市の天気   くもり

★「加賀停太郎」の広報戦略

★「加賀停太郎」の広報戦略

   役所が制作したPR動画なのだが、これが面白い。笑える。加賀市役所が2023年の北陸新幹線敦賀開通をにらみ、最速新幹線「かがやき」を加賀温泉駅に停める「新幹線対策室」を開設したという想定で、室長の加賀停太郎と室員が繰り広げる、役所をモチーフにした動画だ。総集編を入れて9本の動画の総視聴数は38万8千回(11月18日現在)にもなる。

   「どんな手を使っても加賀温泉駅に新幹線を停める!」と声を荒げる加賀停太郎役の横田栄司氏(文学座)ははまり役だ。昨年5月から8月にかけて公開した4本の動画のシリーズ。加賀市観光協会が地元のPRに頭を抱える会議の場にいきなり髭面の男、加賀停太郎が登場する。加賀市新幹線対策室が動き始め、新幹線招致に向けた作戦会議を行う。旅館の女将が思いついた名案は加賀美人たち総出のもてなし作戦。 加賀市の魅力的な観光スポットを求めて中央公園を訪れるが、閑散とした園内。加賀停太郎が乏しい観光資源を嘆きながらも「金沢には負けないぞ!」「調子に乗るな、金沢!」と叫ぶ自虐的なシーンが笑える。

    ことし6月に公開した4本のシリーズ第2弾は、自虐的なコンセプトから一転する。順風満帆に見えた加賀市新幹線対策室にライバルが出現する。加賀停太郎の前に現れたのは、「かがやき」の停車駅候補ではライバル関係にある隣接・小松市の新幹線対策室の小松停太郎(俳優・伊藤明賢氏)。2人は加賀市と小松市がそれぞれがカニ料理や自慢の温泉、地酒で対決するというコンセプトだ。第2弾は「かがやき」停車というより、観光PRにシフトした印象を受ける。

    それにしても、加賀市の広報戦略は注目に値する。こうした動画だけでなく、加賀市は東京在住の海外メディア特派員を招いて、環境に優しいカモ猟として知られる「坂網猟」の現地見学会を通じて国際発信をしたり、ミス・インターナショナル世界大会に出場する国や地域の代表を招いて和装体験や温泉のお座敷遊びを楽しんでもらい、彼女たちのSNSを通じて加賀市をPRするなど、手の込んだ広報手段が目を引く。実にしたたかな広報戦略なのだ。(※写真は加賀市のHPより)

⇒18日(日)夜・金沢の天気    はれ

★にちにちこれこうじつ

★にちにちこれこうじつ

  「日日是好日」という禅語を掛軸や額で何度か見たことがあり、「ひびこれこうじつ」と読んでいた。意味も自分勝手に「日々生きる幸せな日」などと解釈していた。 きょう(23日)JR金沢駅前にあるイオンシネマ金沢フォーラスで映画『日日是好日』を鑑賞して、「にちにちこれこうじつ」と読み、意味ももっと深いことが分かり、自らの勝手解釈の浅はかさを思い知った。

    物語は樹木希林が演じる茶道の先生の元で、主人公を演じる黒木華が大学生の20歳の春にお茶を習い始めことから始まる。最初は少し息苦しさを感じた。何しろ、一つの茶室で帛紗(ふくさ)さばき、ちり打ちをして棗(なつめ)を「こ」の字で拭き清める。茶巾(ちゃきん)を使って「ゆ」の字で茶碗を拭く。多くのシーンは点前だ。主人公が少し重苦しい「静」の空間から出て、海辺でははしゃぐ「動」の空間を交互に交えながら物語が展開していく。

    面白いのは二十四節季の茶室が描かれ、茶道の四季を際立たせている。四季は「立春」「夏至」「立秋」「小雪」「大寒」などと移ろっていく。同時に掛け軸と茶花が変わり、炉から風炉へ、菓子も季節のものが次々と。外の風景も簀(す)戸、障子戸と季節が移ろう。夏のシーンで主人公が床の掛け軸の「瀧」と茶花のムケゲと矢羽ススキを拝見する姿がある。瀧の字は流れ落ちる滝のしぶきをイメージさせ、「文字は絵である」と悟る。小さな茶室での物語であるものの、季節感あふれる多様な茶道具に見入り、茶道の世界の広さと深さに圧倒される。

    樹木希林の演技はまさに「お茶の先生」。初釜の場面で、濃茶の点前をする長めのシーンがある。複雑な手順も自然にこなし、流れが身についていると感じさせる。作法と演技を一体化させる才能はどこから来るのだろうか。主人公は失敗と挫折、人生の岐路に立たされながらも、茶道を通じてその清楚さに磨きをかけ、ヒロインとして輝きを放つ。この映画はお茶室で繰り広げられる、茶道という「道」の壮大なドラマかもしれない。日日是好日の意味は、喜怒哀楽の現実を前向きに生きる、その一瞬一瞬の積み重ねが素晴らしい一日となる、そんな解釈だろうか。

    映画で、弟子の一人が建水を持って後ろ向きにひっくり返るシーンがある。静かな空間でのダイナミックな転倒にドキリとして、そして笑いが込み上げてくる。映画を見終えて、イオンシネマ金沢フォーラスを出ると、広場がある。そこにはヤカンがひっくり返り、フタが外れている芸術作品『やかん体、転倒する。』(三枝一将作)=写真・下=がある。映画のシーンとイメージがダブって、また笑いが込み上げてきた。映画を見た人でないと笑えないかもしれない。

⇒23日(火)夜・珠洲市の天気    はれ

★台風の日本海、政争渦巻く大陸

★台風の日本海、政争渦巻く大陸

   台風25号は北陸に大きな被害をもたらすことなく過ぎ去ったようだ。昨夜は能登地方の8つの市町に暴風警報が出され、北陸新幹線も午後6時以降は全面運休だった。昨日(6日)能登半島の尖端、珠洲市に行くと、台風に備えて漁船が停泊していた。高屋地区の港では、イカ釣り船などがロープで岸壁に係留されていた=写真=。漁師に尋ねると、台風が過ぎ去っても、しばらく波が高いので漁に出ない、とか。「板子(いたご)一枚下は地獄」。プロの漁師ほど用心深い。フェーン現象だろうか、海岸沿いでも汗ばむ暑さだった。乗用車の外気温は31度。日本海を覆う雲の流れをしばらく眺めていた。海の向こうは朝鮮半島、ロシア、中国だ。いろいろ思った。

   ロシアのプーチン大統領は、対岸のウラジオストクで開催した東方経済フォーラム(9月12日)の壇上で、同席した安倍総理に「年末までに平和条約を締結しよう」と突厥に提案した。金融専門メディア「ブルームバーグ」によるとに、総理は直ちには応答しなかったが、聴衆は喝さいした、という。安倍総理とすれば、「北方領土問題を解決して日本とロシアの国境を確定したうえで、平和条約を結ぶ」というのが日本の方針なので、「いいですね」とは即答できるはずもない。大統領はさらに「我々(日本とロシア)は70年にわたって交渉してきた。(総理に)アプローチを変えよう、と提案した。前提条件を付けずに締結しよう」と語った。

   うがった見方をすると、プーチン大統領の北朝鮮へのエールのようにも思える。北朝鮮は非核化交渉でアメリカに対し、朝鮮戦争の終戦宣言を求めている。終戦宣言をすれば朝鮮半島におけるアメリカ軍や国連軍が駐留を続けることに、国際世論として疑問符がついて、交渉は北の有利になるかもしれない。日本とロシアで年内に前提条件なしに平和条約を締結すれば、北はアメリカに対して「ロシアと日本も前提条件を付けずに平和条約を結びましたよ。まず、前提条件を付けずに終戦宣言をしましょう」と迫るのではないか。

   きょう新聞各紙は、北朝鮮で対米政策を担当する崔善姫外務次官が9日にモスクワで開催される中国、ロシアの外務次官級協議に出席し、3ヵ国の連携を確認すると報じている。アメリカから経済制裁(ロシア、北朝鮮)や貿易バッシング(中国)を受けている3ヵ国が対アメリカで連携を密にするということなのだろうか。

    もう一つ。ICPO(国際刑事警察機構、本部フランス・リヨン)の孟宏偉総裁が先月末に中国に帰国した後に連絡が取れなくなっていると海外メディアなどが伝えている。中国が国外への亡命者や反体制派の取り締まりのため、ICPOでの影響力を高めることを狙って猛氏を総裁に就かせたとの見方がある。今回の猛氏の帰国は、トランプ大統領をICPOの網にかけるための作戦を中国当局と練るためではないだろうか。根拠はないが。そのうち、フランスのオフィスに孟氏は何気ない素振りで戻るのではないか。

    海を隔てた彼方の大陸ではさまざま国際政治の思惑が渦巻いている。そのような妄想を抱きながら、次第に分厚くなる台風25号の雲行きを眺めていた。

⇒7日(日)午前・金沢の天気   くもり時々あめ