⇒トピック往来

★NHKへのシングルイシュー

★NHKへのシングルイシュー

  「NHKから国民を守る党」という政党がある。NHKに受信料を払わない人を応援・サポートする政治団体だとアピールしている。先の東京都の区議選(投開票今月21日)で、この団体からの立候補者が17人当選した。団体の党首のツイッター(22日)によると、「(今回の統一地方選で)47名立候補して、当選者が26名  現職13名と合わせて、NHKから国民を守る党の所属議員が39名になりました。7月の参議院選挙に挑戦する土台が出来ました」と。シングルイシュー(単一論点)を掲げる政党がこれほど議席を獲得するのは異例だろう。その背景には有権者のどんな思いが潜むのか、政治への不信なのか、NHKへの不信なのか。

   前もって述べておくが、私自身の自宅にはテレビがあり、選挙速報や異常気象、災害、地震の情報など、民放テレビ局では速報できないニュースをNHKがカバーしていて、その公共性の高さを考えれば、放送法64条にあるテレビが自宅に設置されていれば、受信料契約ならびに支払いは社会的にも認められると考える一人である。契約の自由を保障する憲法に違反するのかどうかが争われた裁判では、最高裁は合憲と判断している(2017年12月)=写真=。NHKが契約を求める裁判を起こして勝訴すれば契約が成立する。そして、テレビを設置した時点からの受信料を支払わなければならない。最高裁が出した答えは「義務」と同じだ。

   スマホ・携帯のワンセグへの課金も争われた。放送法64条では受信料の支払いは「受信設備を設置した者」と定められている。スマホにはワンセグのアプリがついている機種が多いが、普通に考えれば「設置」ではない。ましてや、テレビを視聴しようとスマホを求めた訳でもない。ワンセグへの受信料をめぐる判決は別れた。さいたま地裁判決は「受信契約の義務はない」と判断(2016年8月)、水戸地裁は「所有者に支払いの義務がある」と判断(2017年5月)、東京地裁は「ワンセグの携帯電話を持っていれば、契約を結ばなければならない」と判断(2017年12月)。控訴審で東京高裁は地裁の判決を支持した(2018年6月)。上告審の最高裁も高裁判決を支持し、NHK側の勝訴が確定した(2019年3月)。
    
   この勝訴でNHKへの不信が増大したかもしれない。学生たちからこんな話を何度か聞いた。NHKの契約社員(中年男性)がアパ-トに来て、「テレビがなくても、スマホでテレビを見ることができれば、NHKを見ても見なくても受信契約が必要です」と迫ってきた。学生が「親と相談しますから、帰ってください」と言うと、契約社員は「契約しないと法律違反になりますよ」と。学生が親と相談すると、法律違反になるくらいならと家族割の分を親元が払っている。

   学生たちは学ぶために親元を離れて仕送りをしてもらっているので実質的に「同居」だ。会社で働き自活するために親元を離れる別居とまったく状況が異なる。なぜ学生にまで受信料を課すのか。NHKは経済的理由で奨学金を受けている学生には全額免除するなど一部配慮はしているのだが。

   学生や若者たちのテレビ離れは加速している。「NHKから国民を守る」というシングルイシューが政治的な広がりを見せている背景は結構根深いのではないか。そして7月への参院選へと向かう。

⇒25日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆もったいない精神が創る「SDGsゆびぬき」

☆もったいない精神が創る「SDGsゆびぬき」

  金沢に古くから伝わる伝統的な裁縫道具に「加賀ゆびぬき」がある。針の背を押さえて縫ったり、針が滑るのを防いだりと、裁縫には欠かせない道具だった。絹糸の1本1本が隙間なく縫い詰められて、幾何学的な美しい模様を織りなす。そこで、最近ではアクセサリーとして指ぬきが注目されている。

  金沢大学の能登で実施している人材育成プログラム「能登里山里海マイスター」の修了生で、工芸作家の岩崎京子さんから加賀ゆびぬきの魅力について取材した。かつては加賀友禅をつくる仕立て人のお針子さんたちが自分たちの指にはめるために指ぬきをつくった。それも、友禅の作成過程で余った絹糸や布、真綿などをためておき、自分の好みの指ぬきを創作したという。岩崎さんの指ぬきは能登の植物を染色に生かす。廃材となった漆の木材チップや能登ヒバ「アテ」の葉、クルミの皮、海藻のホンダワラなどで絹糸を染める。漆の染め物は黒色や黄金色が鮮やかで高級感が漂う。「能登の自然を色という視点から見つめ直して、能登の自然を物語にしてみたんです」と。確かに指ぬきをじっと見ているとその色の背景にある里山里海の風景が浮かんでくる。

  最近創作を始めたのが、国連の持続可能な開発目標「SDGs」をテーマにした指ぬき=写真=。17のゴールを色として指ぬきに描く。その色が自然や文化を感じさせ、独特の存在感と輝きを放つ。森の恵みを活かして染めるという活動は生態系の保全への意識を高める環境教育にもなり、目標15「陸の豊かさも守ろう」につながる。海藻など活用した染色を通じて海洋資源を保全する活動は目標14「海の豊かさを守ろう」になる。友禅の作成過程で余った絹糸や布、真綿を活用することは目標12「つくる責任つかう責任」につながる。そのような発想から「SDGsゆびぬき」が生まれたのだと説明してくれた。

  話を聞いていると、日本人の「もったいない精神」が「加賀ゆびぬき」に彩りを添え、アクセサリーとしての価値を高め、そしてSDGsという新たなグローバルな価値創造へと向かっている。そんなふうに思えてきた。

⇒24日(水)夜・金沢の天気   あめ

★新元号、海外では理解されるのか

★新元号、海外では理解されるのか

   けさ3日の各紙は共同通信が1日と2日に実施した緊急世論調査(電話)の結果を報じている。新元号については73%が「好感が持てる」と答え、「好感が持てない」は15%だった。好感が持てると答えた理由は「新時代にふさわしい」35%、「耳で聞いて響きがよい」35%、「伝統を感じさせる」28%だった。逆に好感が持てない理由は「使われている漢字がよくない」42%、「耳で聞いて響きがよくない」38%だった。(※写真は総理官邸ホームページより)

   世論調査の結果は、周囲の反応と同じだ。「語感がスマートでいいね」「万葉集からの出典が新しさを感じさせる」という知人が多い中で、「令という文字が命令を連想して気にくわない」と顔をしかめた人もいた。

   1989年1月に小渕官房長官が「平成」を発表したとき、「薄っぺらい文字だ」との印象だった。その後、『史記』にある「内平外成」(内平かに外成る)の言葉を知り、国内が平和であってこそ、他国との関係も成立するという意味だと理解した。軍部の台頭から大戦を招いた昭和の経験を平成の世に活かそうという意義が二文字に込められているとも教えられ、大いに納得したものだ。

   それにしても新元号の発表によって、内閣支持率が前月から9ポイント伸びて52%、不支持率は8ポイント減り32%となった。一過性の数字かもしれないが、それだけ新元号の評価が高かった、ということだろう。

   ところが、海外メディアの反応をリサーチすると、「the new Japanese Era」「REIWA」を伝えているが、全般に「冷たい」との印象だ。イギリス「BBCテレビ」Webニュースでは、Japan has announced that the name of its new imperial era, set to begin on 1 May, will be “Reiwa” – signifying order and harmony.(日本は5月1日に始まる新しい天皇の時代の名称が「レイワ」になると発表、これは秩序と調和を意味する)と、令をorderとあて、淡々と伝えている。

   1日付のアメリカ「ニューヨークタイムズ」には首を傾げた。見出しでJapan’s New Era Gets a Name, but No One Can Agree What It Means日本の新時代の名称は決まったが、誰もそれが意味するものに同意できない)。Agreeは単に「意味が分かりにくい」という解釈かと思ったがそうではなかった。政治的な意味合いだった。

  記事では、Naruhito’s reign will be called Reiwa, a term with multiple meanings, including “order and peace,” “auspicious harmony” and “joyful harmony,” according to scholars quoted in the local news media.(日本の報道によると、ナルヒトの治世は「レイワ」と呼ばれ、「秩序と平和」「縁起の良い調和」「喜びの調和」などさまざまな意味がある)と述べている。

  その後の記事で、Some commentators noted that Mr. Abe’s cabinet, which is right-leaning and has advocated an expanded military role for Japan, chose a name containing a character that can mean “order” or “law”.(一部の評論家は、右寄りの安倍内閣は軍事的役割を拡大することを主張しているが、「秩序」または「法」を意味する文字を含む名前を選んだ、と述べた)と。全体の文脈は、安倍内閣は軍国化を進めるために、 “order” or “law”を意味する「令」という文字を込めており、この政治的に意図された元号に国民は同意していない、となる。

  この記事を読むと、日本人の感覚と随分とずれていると感じる。それでは、同意していない国民の世論の73%が新元号に好感を持つと答えた理由をニューヨークタイムズの記者にぜひ分析してほしいものだ。

⇒3日(水)夜・金沢の天気     くもり

★時代を象徴する出来事と元号

★時代を象徴する出来事と元号

   5月1日の新天皇の即位にともなう改元について、政府はあす4月1日午前中に臨時閣議を開き、「平成」に代わる新しい元号を決定し、午前11時半から官房長官が発表するとしている。元号の文字は歴史的な事件や災害などととともに、日本人の頭の中にインプットされている。自らの脳裏に記憶されている元号をこの機会に時系列で整理してみる。

   最初に出てくる元号は「大化」だ。日本史で習う代表的な言葉が「大化の改新」。645年、中大兄皇子らによる天皇を中心とした国づくりが始まった。当時は西暦という概念はなかったので、君主が時間を支配するという中国の思想をそのまま導入した。その中国では清朝時代の終焉(1911年)とともに元号は消滅している。次が「和同」だ。日本に貨幣経済が導入されたことを象徴する「和同開珎」は708年に鋳造された。「天平」もよく耳にした。井上靖の歴史小説『天平の甍』は有名で、遣唐使として大陸に渡った留学僧たちの物語は映画にもなった。「延暦」は比叡山延暦寺から連想する。最澄が延暦7年(788)に比叡山に薬師如来を祀る寺を建てたのが最初とされ、その後、山に建立された数々の寺を総称して延暦寺と呼ぶようになった。

    ところで、政府やメディアは「元号」と称しているが、一般、とくにシニア世代では「年号」が普通ではないだろうか。その由来を探ってみる。明治時代に入り、旧皇室典範で「一世一元」が明文化されたが、昭和の敗戦で、連合国軍総司令部(GHQ)のもとで新皇室典範からは元号の規定はなくなった。つまり、戦後は法的根拠もなく、慣習として昭和という元号を使っていた。ところが、昭和天皇の高齢化とともに、元号について議論され、1979年6月に元号法が成立した。元号は「政令で定める」「皇位の継承があった場合に限り改める」と一世一元が復活した。この時点で、一般的には年号だが、公式には元号が使われるようになった。

    脳裏に残る元号の話を続ける。「延喜」は延喜式内社の言葉が浮かび、神社めぐりによく使う。「応仁」は応仁の乱(1467‐77年)で刻まれる。京都の人が「先の戦(いくさ)」と言う場合は応仁の乱を指すとか。「天正」と「慶長」は寒川旭著『秀吉を襲った大震災~地震考古学で戦国史を読む~』に心象深い。1586年の天正地震。このとき豊臣秀吉は琵琶湖に面する坂本城にいた。当時、琵琶湖のシンボルはナマズで、ナマズが騒ぐと地震が起きるの土地の人たちの話を聞いた秀吉は「鯰(ナマズ)は地震」と頭にインプットしてしまった。その後、伏見城を建造する折、家臣たちに「ふしミ(伏見)のふしん(普請)なまつ(鯰)大事にて候まま、いかにもめんとう(面倒)いたし可申候間・・」と書簡をしたためている。現代語訳では「伏見城の築城工事は地震に備えることが大切で、十分な対策を講じる必要があるから・・・」(『秀吉を襲った大震災』より)と。この話には続きがある。

    1596年に慶長伏見地震があり、このとき秀吉は伏見城にいた。太閤となった秀吉は中国・明からの使節を迎えるため豪華絢爛に伏見城を改装・修築し準備をしていた。その伏見城の天守閣が地震で揺れで落ちた。さらに、建立間もない方広寺の大仏殿は無事だったが、本尊の大仏が大破したことに、秀吉は「国家安泰のために建てたのに、自分の身さえ守れぬのならば民衆は救えない」と怒りを大仏にぶつけ、解体してしまったという話も。さらに、秀吉の「なまつ大事にて候」の一文は時を超えて「安政」の江戸地震(1855年)に伝わる。余震に怯える江戸の民衆は、震災情報を求めて瓦版を買い求めたほか、鯰を諫(いさ)める錦絵=写真=を求めた(『秀吉を襲った大震災』より)。震災後、幕府が鎖国から開国へと政策転換を図るときに起こした「安政の大獄」もこの混乱の時代を象徴する。

   江戸時代の「元禄」(1688‐1704年)は「浮世」と称せられるほど民衆文化が花開く。戦後の高度経済成長時代の天下太平ぶりは「昭和元禄」ともいわれた。時代の様子は元号とともに、その時代を象徴する言葉として我々の脳裏に刻まれている。あす発表される新元号はどのような意味や意義が込められているのか。

⇒31日(日)午後・金沢の天気      あめ後時々ゆき

★SDGsの「あいうえお」

★SDGsの「あいうえお」

   きょう23日、金沢市文化ホールで国連大学サステイナビリティ高等研究所OUIKが主催するシンポジム「地域の未来をSDGsでカタチにしよう~Localizing SDGs~」が開催された。SDGsは「国連の持続可能な開発目標」なのだが、ゴールは17もあり、これを地域でどう合意を形成して政策として落とし込んでいけばよいのか。人類の難しい課題ではある。

   シンポジウムでは、内閣府の「SDGs未来都市」に選定された自治体が参加してセッション1「地域でのSDGs推進における自治体の役割とは」=写真=、SDGsと地域課題に取り組む会社や団体、大学関係者らが意見を交わすセッション2「SDGsパートナーシップのデザインとは」の 2部構成でパネル討論があった。その中でキーワードがいくつか出た。その一つが「シビックテック」。Civic(市民)とTech(技術)を合わせた造語で、テクノロジーを活用して社会への市民参加を促し、市民自らが地域課題を解決しようとする取り組み。市民参加型で課題の解決法を考え、それをICTで実現する。2014年2月に一般社団法人化して金沢を中心にITエンジニア、デザイナー、プランナーら100人が参画している。

   「グリーンインフラ」はグリーンインフラストラクチャ―(Green Infrastructure)のこと。自然の多様な機能や仕組み活用した社会資本整備や防災、国土管理の概念を指す。昨年、石川県内の4大学の研究者らで「北陸グリーンインフラ研究会」が結成された。モットーは「自然を賢く使う 自然と賢く付き合う」だ。防災と減災、生態系の保全をテーマに、たとえば道路やビル屋上の緑化、遊水機能を備えた公園、河川の多目的利用などの社会インフラの整備を進めることで、従来のインフラの補足手段や代替手段として用いることができる。自然が持つ多様な機能を活用するのは人類の課題でもある。

   閉会のあいさつでOUIKの渡辺綱男所長は「SGDsの5P」と「SDGsのあいうえお」を紹介した。「SGDsの5P」はSDGsを理解する上で世界の共通語でもある。人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ( Partnership)。そして、「SDGsのあいうえお」とは。明日のため、今のため、宇宙と暮らしの視点で、笑顔で、多くの人の参加で。実に分かりやすい。

⇒23日(土)夜・金沢の天気      はれ

☆土佐人の「龍馬愛」

☆土佐人の「龍馬愛」

    今月18日から20日まで高知大学主催のシンポジウムに参加するため、高知市を訪れた。プライベートでは2012年5月に家族旅行で訪れている。7年ぶりの高知で、変わらないのは地元土佐の人々の「龍馬愛」だろうか。まず、JR高知駅の広場にある三志士像。左から武市半平太、坂本龍馬、中岡慎太郎の像=写真・上=だ。設置されたのは2011年7月だが、初めて見た。前回は小松空港、羽田空港、高知龍馬空港と空の便で往復したので気が付かなかった。当時は桂浜にある竜馬の銅像を見て圧倒されたものだ。
        
    三志士像は明治維新を動かした群像でもある。龍馬は開国と交易で日本を変革しようとした人物。その銅像はJR高知駅をバックに、太平洋を向いている。龍馬の盟友、中岡慎太郎武は陸援隊を率いて倒幕に奔走した。武市半平太は尊皇攘夷の中心人物で土佐勤王党を結成した。その中心に龍馬がいる。土佐人の誇りだ。

    市内に入ると、街角やホテルなどでは観光キャンペーン「リョーマの休日(Ryoma Holiday)」のポスターやパンフレット=写真・中=であふれている。リョーマは龍馬のこと。オードリー・ヘプバーン主演の映画「ローマの休日」とひっかけている。リョーマの休日は、「すべての人に、特別な時間が待っている。さあ、高知でパワーチャージ!」を合言葉に、県立牧野植物園や室戸ユネスコ世界ジオパークの見学など当地ならではの自然体験メニューを提供する。ことし12月まで実施している。

    2012年に訪れたときも「リョーマの休日」のポスターはあった。このときは、龍馬姿の当時の知事がスクーターに乗るパロディ化された写真が図柄に組み込まれていた。すでにその構図での木彫作品が発表されていて、著作権問題かとの議論もあった。今回はそうした図柄でもなく龍馬が万歳をしているデザインだ。

            喫茶店に入ると「龍馬カプチーノ」というメニュー(460円)があったのでさっそく注文する。すると、なんとクリーム状に泡立てた牛乳の上にココアパウダーで龍馬の顔が描かれている=写真・下=。「ここまでやるか」と思いながらも、土佐人の龍馬愛を感じた。薩摩人にとって「西郷どん」はある意味で敬いだろう。おそらく「カプチーノアート」にはなりにくいのではないなどと比較しながらコーヒーを味わった。

⇒20日(水)夜・金沢の天気     はれ 

☆SDGsは「三方よし」の社会循環

☆SDGsは「三方よし」の社会循環

         国連の持続可能な開発目標(SDGs)を目指す自治体など集まる「第1回地方創生SDGs国際フォーラム」がきょう(13日)東京・千代田区の日経ホールで開催された=写真=。内閣府の「SDGs未来都市」に採択された全国の29自治体の関係者や研究者、NPO関係者ら600人が参加する初めての集会でもあった。新たな価値観の共有の場でもある。その意味でフォーラムで飛び交った言葉は実に新鮮だった。そのいくつかを紹介する。

   基調講演に立った神奈川県の黒岩祐治知事。「昨年の夏に鎌倉市由比ガ浜でシロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられ、胃の中からプラスチックごみが発見されました。これを『クジラからのメッセージ』として真摯に受け止め、持続可能な社会を目指すSDGsの具体的な取組として、深刻化する海洋汚染、特にマイクロプラスチック問題に取り組んでいます。それが『かながわプラごみゼロ宣言』です」「新素材開発ベンチャー企業と連携して、石灰石を主成分とし、紙とプラの代替となる革新的新素材の開発を進めています。アップサイクルの実証事業です」  

    KDDI代表取締役会長の田中孝司氏の話には妙に納得した。「通信事業の社員には『つなげたい』という意識が強いんです。電波の届かない不感地はもちろん、世界中のモノとモノとつなげたい、多様な人たちをつなげたい。コネクティビティ(相互接続)は通信事業の社員のDNAなんです」

   山口県宇部市はSDGs未来都市に採択されている。久保田后子市長は「ICTやイノベーションを切り口にして、起業家やスタートアップ企業支援に力を入れています」と。地場の金融機関と連携し、セミナーや創業コンテストなどに積極的に取り組んでいる。その成果があって、年40件以上の起業件数に。久保田市長は「ICTクリエイティブ人財の育成にチカラを入れています。宇部は『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明氏を育てたまちなんです。宇部から全国区のスタートアップ企業を輩出するのが私の願いです」と。

   今回のフォーラムでいろいろな立場の人のSDGsに対する想いを聴いた。一つ感じたことは、話し手は楽しそうに熱く語っているのが印象的だった。さらに思ったのは、SDGsは古くから伝えられる近江商人の「三方よし」の心得ではないだろうか。これは私が知る事例なのだが、石川県小松市に腕のよい造り酒屋の杜氏がいる。買い手が満足してブランド化している。造り酒屋の近くには有機で造る酒米の農家の人たちがいる。造り酒屋は酒米を相場より高く買う。売り手、買い手、作り手がそれぞれに納得して利を得る。「三方よし」のモデルのような社会循環ではある。SDGsは日本に根付く「三方よし」の和の精神と合致するのではないか。楽しそうに語る講師の人たちを見てそんなことを考えた。

⇒13日(水)夜・金沢の天気     あめ

☆北陸の「春一番」

☆北陸の「春一番」

   金沢地方気象台はきょう、北陸地方で「春一番」が吹いたと発表し、全国ニュースにもなっている。北陸地方の春一番は統計を取り始めた1999年以降、最も早いという。気象台によると、昨年は2月14日で、10日も早い観測だ。そもそも、「春一番」は立春から春分までの最高気温が前の日を上回る暖かい日に、風速10㍍以上の南風を複数の地点で観測した場合に出される。きょうが立春に当たるので気象台も「一番だ」と勢いよく発表したのだろう。

   確かに、石川県内は昨夜から暖かい南からの強い風が吹いていた。気象台によると、午前11時までの最大瞬間風速は輪島市三井町で23.1㍍、金沢で22.8㍍だ。気温も午前0時すぎに金沢で18.5度だった。4月下旬並みだ。ただ、きょうの日中は金沢で午後1時に10度に落ちたが、それでも3月中ごろの暖かさ。この高気温で庭の積雪も一気に融けた。北陸だけでなく、関東や東海の各地では20度を超える5月中旬並みの暖かさとなっているようだ。

   これも「春一番」だろうか。旧正月の春節に合わせた中国人観光客が金沢にも多く訪れ、きょう歩いた兼六園や片町の繁華街は中国語が飛び交っていた。訪日ビザの発給要件が緩和されたことも、中国からの旅行客が増えた要因となっているようだ。また、貿易摩擦をめぐるアメリカとの対立で、旅行先としてアメリカを敬遠して日本を選ぶ傾向が強まっているとも報じられている。

   「爆買い」で知られる中国人旅行者だが、最近は少々変化があるようだ。地元テレビ局のニュースにもなっていたが、茶屋街で芸妓の三味線や踊りを見たりと体験型のツアーが人気だとか。ただ、この傾向はこれからも続くのどうか。中国経済の下ぶれが顕著になっているからだ。日立やパナソニックなど大手電機メーカーは相次いで、中国向けの産業用や家電の販売減少が見込まれるとして、ことし3月までの1年間の売上と営業利益を下方修正している。(※写真は、インバウンドの観光客でにぎわう兼六園)

⇒4日(月)夜・金沢の天気   はれ

★グランドスラム広告

★グランドスラム広告

   全豪オ-プンの女子シングルスで、全米オープンに続き4大大会の2連勝を遂げた大坂なおみ選手が、世界ランキングで男女を通じてアジア勢初の1位に輝き、日本、そして世界を沸かせている。まだ21歳、若きテニスの世界女王の誕生だ。29日付の全国紙の朝刊で、大坂選手のスポンサー日清食品の全面広告が目立った。

   「グランドスラム連覇 おめでとう!!」「歴史的快挙!すごすぎます!!」「世界ランキング1位!!!」「GOOD JOB!!NAOMI!!!」「謙虚さも世界一」「新女王誕生!これからもずっと応援します。」などお祝いのメッセージが躍っている=写真=。 大坂選手とスポンサー契約を結ぶ日清食品のアニメーション動画の広告で、大阪選手の肌が実際より白く描かれているとの批判が起き、同社は23日夜にアニメ動画を削除したばかり。それだけに、今回の全面広告は日清食品の商魂のたくましさを見せつけた。

   さあ、次は全仏オープンだ。5月下旬からパリのスタッド・ローラン・ギャロスで開催される。4大大会で唯一のクレーコートによる試合で、粘土と赤土でつくられたコートは球足が遅くなるため、選手の体力や精神力が試されると言われる。その次が6月下旬から7月にかけて行われる全英オープン(ウィンブルドン大会)。ロンドンのオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブの全面グラスコート(芝コート)だ。芝のコートは球が速く低く弾む特性があり、選手の得手不得手がはっきり出るとされる。開催場所のテニスクラブの規定で、選手は白いテニスウェアを身につけなければならない。

   大阪選手のグランドスラム4連覇はなるのか。日清の次なるグランドスラム広告も見てみたい。それにしても、全豪オ-プン優勝翌日の会見で記者から大会を終えて食べたいものは何ですかと問われた大坂選手は「カツ丼、アゲイン」と全米オープン優勝のときと同じメニューをあげて、記者たちの笑いを誘ったと報じられている。日清とすれば、「カップヌードル」、せめて「ラーメン」と答えてスポンサーの気持ちを忖度してほしかったと思っているに違いない。蛇足だが。

⇒30日(水)朝・金沢の天気   はれ  

☆施政方針演説の地方創生モデル「春蘭の里」

☆施政方針演説の地方創生モデル「春蘭の里」

   きのう(28日)第198回通常国会で安倍総理は施政方針演説の中で、能登半島の農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」(能登町)のことを述べた。「地方創生」の項目の中で、「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア。イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります。」と例に挙げ、「観光立国によって全国津々浦々、地方創生の核となる、たくましい一大産業が生まれた」と。

   「春蘭の里」が施政方針演説の中で取り上げられるまでに一つの大きな転機があった。世界の地域おこしを目指す草の根活動を表彰するイギリスBBCの番組「ワールドチャレンジ」。世界中から毎年600以上のプロジェクトの応募がある。最優秀賞(1組)には賞金2万ドル、優秀賞には1万ドルが贈られる。2011年のこの企画に能登半島からエントリーした『春蘭の里 持続可能な田舎のコミュニティ~日本~』が最終選考(12組)に残った。日本の団体が最終選考に残ったのは初めてだった。惜しくも結果は4位だったが、地元はいまでも「BBCに認められた」と鼻息が荒い。
        
         ちなみに、他の11組は、ナイル川の農業廃棄物を使って高級紙製品を作るエジプトの非営利企業や、ニューヨークのビルの屋上スペースで本格的な農業を行う取り組み、パラグアイの先住民と企業が協力して熱帯雨林でハープティーを育てる取り組みなどが選ばれていた。

   春蘭の里は50の農家民宿が実行委員会をつくって、インバウンド観光の里山ツアーや体験型の修学旅行の受けれを積極的に行っている。驚いたのは、BBCに取り上げられてからというもの、実行委員会の役員たちの名刺の裏は英語表記に、そして英語に堪能な若いスタッフも入れて、民宿経営の人たちは自動翻訳機を携え、ビジネスの「国際化」を地で行っている。
   
   春蘭の里がBBC放送にエントリーしたのは、突飛な話ではない。前年の2010年10月、名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の公認エクスカーション(石川コース)では、世界17ヵ国の研究者や環境NGO(非政府組織)メンバーら50人が参加し、春欄の里でワークショップを繰り広げた。そして翌年2011年6月、北京での国連食糧農業機関の会議で「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認証され、能登にはある意味での世界とつながる大きなチャンスが訪れた。春蘭の里はこの機会を見逃さずにエントリーしたのだった。

   チャンスを逃さず、グローバルに挑む。能登半島の小さな集落の壮大なチャレンジではある。それを「地方創生」のモデル事例として政府も見逃さなかった。(※写真=「春蘭の里」には世界から日本の里山を見学に訪れる。左はリーダーの多田喜一郎氏)

⇒29日(火)朝・金沢の天気     ゆき