⇒トピック往来

★「隠居」という人生の深淵

★「隠居」という人生の深淵

  「四畳半で隠居生活を送る」。ひょっとして人生の最高の贅沢かもしれないと思い勉強会に参加した。きょう(28日)富山市で開催された「茶の湯文化にふれる市民講座」(主催:表千家同門会富山県支部)。講師は歴史学者(日本文化史・茶道史)の熊倉功夫氏でテーマは「家元の代替わりと隠居」。昨年2月に表千家が14代家元・而妙斎(じみょうさい)から15代・猶有斎(ゆうゆうさい)に引き継がれたことからこのタイトルになったようだ。家元の隠居はどのような人生スタイルだったのか。

  茶道の流派のうち、三千家(さんせんけ)は表千家・裏千家・武者小路千家を総称する呼び名で、その三千家の祖が千利休の孫の宗旦(そうたん)であることは知られる。祖父の利休が豊臣秀吉により自刃に追い込まれたことから、自らは大名との関わりを避けたといわれる。「懸念(けんねん)の病(やまい)」、いわゆる心配性でノイローゼ状態だったともいわれる。大名というスポンサーがいないので清貧だった。「収入がないので利休の道具を売って暮らしていた」(熊倉氏)。

  その分、宗旦は侘び茶の精神を磨き上げた。隠居生活は4畳半の住まいで、2畳の広さの茶室だった。宗旦が80歳のときに描いた「茶杓絵賛」がある。「チヲハナレ ヤツノトシヨリ シナライテ ヤトセニナレト クラカリハヤミ」(乳離れして、八歳から(茶の湯を)習ってきたが、八十歳になっても、暗がりは闇である)と。茶道の暗中模索の心境が生涯続いたと表現している。

  代は飛ぶが、8代家元・啐啄斎(そくたくさい)は8歳で父の7代・如心斎(じょしんさい)を亡くし、父の高弟たちに家元として必要な知識を教えられた。40代半ばに京都の天明の大火(1788)で伝来道具を残して全てを失い、再興に全力を注ぐことになる。還暦60歳で9代・了々斎(りょうりょうさい)に家元を譲り、宗旦を名乗った。「木槿(むくげ)にも恥す二畳に大あくら」という句を残している。隠居生活は畳が2畳があれば十分だ、「一亭二客」の茶の湯を十分に楽しめると。火災を経験した人物の諦念というものを感じさせる。  

   幕末から明治維新という大変革のときに10代・吸江斎(きゅうこうさい)、11代・碌々斎(ろくそくさい)は生きた。吸江斎は幼くして千家に入り、家元を襲名した。大津絵の「鬼の念仏図」というユーモラスなタッチで描かれた絵がある。吸江斎筆の「不苦者有智」が賛がある。「福は内」の当て字である。その意味は「苦しまざる者に智有り」。その意味をかみしめると実に哲学的である。時代を生き抜く知恵があれば不安から解き放たれる、と。吸江斎は38歳で子の碌々斎に代を譲り隠居号・宗旦を名乗るが、43歳でその生涯を閉じる。

    碌々斎は天保8年(1837)に生まれ、19歳で家元を継ぐ。31歳のときに明治維新の時代の大波が押し寄せ、京都から東京に遷都。混沌とした世情の中で茶の湯も苦難の道を歩むことになる。大名というスポンサーを失ったことは言うまでもないが、追い打ちをかけたのが文明開化だった。時代の価値観が和の伝統文化から西洋文明へと向かう。当時の財閥の支援もあったとされるものの、家元は全国を行脚し、神社仏閣などで献茶式を行うことで茶の湯の普及にいそしんだ。この努力が地方の茶人とのコミュニケーションの場を創り出し、茶道復興の道筋をつくる。56歳で隠居して父同様に宗旦を名乗る。しかし、その直後、家元の屋敷が火災に遭う。74歳で生涯を終える。

   講演で聴いた家元の隠居スタイルは実にリアリティのあるものだったが、もちろん、すべてが苦行続きだったわけではないだろう。話は現代に戻る。「生涯現役」という言葉もあり、隠居という言葉自体が時代遅れかもしれない。熊倉氏は講演の最後に「会場のみなさん、楽隠居されてはいかがですか」と参加者に投げかけた。楽をするためにあえて隠居するという考えもあるだろう。また、苦を背負い込んで人生を全うすることこそが人生を楽しむという生き方と考える人もいるだろう。そして最後に「即今(そっこん)」という言葉を付け加えた。「今という瞬間を大切に生きましょう。今日庵、不審庵という茶室名は今を生きてこそという生き方を問うています」。胸に刺さる一言だった。

   で、自身はどうするのか。4畳半の隠居生活で茶を点てる。同好の士が集えばそれでよい。隠居は楽しい。あとは何も考えない、か…。

⇒28日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆政局の地鳴りが聞こえるか

☆政局の地鳴りが聞こえるか

   おそくら深夜にも大勢が判明するのだろう。自民と公明とで改選124議席の過半数63の確保が確実になった。しかし、自民と公明、維新による「憲法改正勢力」は改憲発議に必要な参院の3分の2(164)を維持する85議席は微妙な情勢だ。

   安倍総理はテレビ朝日の選挙特番で、「改選議席の過半数を獲得できる見通しとなっているので勝利を得た。安定した政治基盤の上で国益を守る外交を進めていけという有権者からの判断をいただいたと思っている」と語っていた。

   各地で「異変」が起きている。新潟選挙区(改選数1)で、野党統一候補で無所属新人の打越さく良氏が、3選を目指す自民現職の塚田一郎氏を破り、初当選を確実にした。塚田氏は国土交通省副大臣のとき下関北九州道路を安倍総理や麻生財務大臣のお膝元であることに引っ掛けて「忖度」発言したことで起きた国会での騒動の責任を取って辞任している。

   れいわ新選組が比例選特定枠で出馬した重度障害者の舩後靖彦氏の初当選を確実にした。舩後氏は全身の筋肉が動かなくなる難病のALS・筋萎縮性側索硬化症だが、これまで会社経営に参画している。支援者が代読して、「なぜ私が立候補しようと思ったかというと、自分と同じ苦しみを障害者の仲間に味わわせたくないと考えたからだ。ボクという人間を見て、必要な支援とは何かを今一度、考え直してもらえる制度をつくっていきたい」と述べていた。感動的だった。寝たきりになっても声を国会に届けるということを国内だけでなく海外にも知らしめた。その存在感をぜひ国会で示してほしい。

   初陣はならず。静岡選挙区(改選数2)で現職2人に挑んだ、徳川宗家19代目で立憲民主の新人、徳川家広氏は敗戦だった。

   結果として、「安倍1強」の政治基盤は崩れずに維持する。自民の単独過半数の維持は厳しいが、連立を組む公明への配慮をしながら今後も政権を持続するだろう。衆院解散という選択肢をフリーハンドで握りながら、今後も政権運営に当たる。それにしても、参院選での野党の存在感はなかった。「立憲は22議席」との議席予想の読みもあったが、れいわ新選組の方が勢いがある。その風向きを読んでか、選挙特番で各社は安倍氏の次にインタビューしたのはれいわの山本太郎氏だった。

   今後野党の再編が本格化する。それが次なる政局へと展開する。今回の参院選が政治の大きな節目ではないだろうか。政局の地鳴りが聞こえ始めたような気がする。(※写真:21日午後21時15分、金沢市営中央市民体育館で開票作業が始まった)

⇒21日(日)夜・金沢の天気     くもり

★令和最初の国政選挙

★令和最初の国政選挙

         きょう(4日)参院選が公示され、立候補の受付が午後5時で締め切られた。報道によると、選挙区と比例代表合わせて370人が立候補した。夕刊の見出しをチェックすると、「安倍長期政権に審判」など政権に対する評価や消費税率引き上げの是非、それに年金制度や憲法改正などが争点だ=写真=。とにかく17日間の選挙戦に入った。

   全国45の選挙区には74人の定員に対し215人が立候補。政党別では自民党49人 、立憲民主党20人、国民民主党14人、公明党7人、共産党14人、日本維新の会8人、社民党3人などの既成政党のほかに、れいわ新選組1人、安楽死制度を考える会9人、NHKから国民を守る党37人、オリーブの木6人、幸福実現党が9人、労働者党6人 、諸派1人、無所属31人などとなっている。面白いのは、争点を1つに絞った、いわゆるシングルイシューの政党が目立っていることだ。

   NHKから国民を守る党は37人が立候補し、比例代表(定員50)にも4人が届け出ている。受信料を支払った人だけが視聴できるスクランブル放送化や受信料を払わない人を応援・サポートするとアピールしている政治団体だが、シングルイシューだからといって侮れない。先の東京都区議選(投開票4月21日)で17人が当選するなど、4月の統一地方選挙では立候補者47人のうち26人を当選させている。これで同党の地方議員は39人になった。単一論点を掲げる政党がこれほど議席を獲得するのは異例だろう。

   同党が参院選に挑むのは初めてだ。気になるのが政見放送だ。参院比例代表選挙の政見放送を流すはNHKのみで、全国同一内容で放送する。選挙区選挙については都道府県ごとにそれぞれのNHKと民放が放送する。同党の立候補者たちが何を語るのかはシングルイシューなので想像がつくが、問題はどう語るのか、だ。指定されたスタジオでの収録なので、立候補者たちは持ち前のキャクターでどう語るのか。

   今回、安楽死制度を考える会も9人を立候補させている。安楽死は、不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める。オランダやスイスは安楽死を合法化しているが、日本では安楽死に関する法律はない。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。

   参院選では立候補届け出の際の供託金が比例区が1人600万円、選挙区が1人300万円だ。一定の得票がないと没収される。令和最初の国政選挙だ。立候補者はそれぞれ「がっつり」と選挙戦を戦い、有権者のモチベーションを上げてほしい。投票行動へと走るように。

⇒4日(木)夜・金沢の天気    くもり

★「G20」 気になること

★「G20」 気になること

   あさって28日から大阪でG20サミット(20ヵ国・地域 首脳会議)が開かれる。安倍総理としては外交手腕の見せどころで、その成果を持って一気に参院選(公示7月4日、投開票21日)に持ち込みたいところだろう。G20のロゴマークは「富士山」と「桜」をモチーフに描かれている=外務省ホームページより=。

   G20を前に気になることがいくつある。「外交」問題でもつれている韓国の文在寅大統領との日韓首脳会談は行わなれないようだ。朝鮮中央日報の報道(26日)によれば、 大統領府の高官の話として、「我々は会談の準備はできているが、日本はまだ準備ができていないようだ」とし、日本側が大統領との首脳会談を事実上拒否したと伝えている。いわゆる元徴用工訴訟では韓国の外務省が日韓の企業が資金を拠出を提案したが、日本側は拒否した(19日)。日本が韓国に求める日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に韓国が応じる可能性もない。このような状況下であえて首脳会談を持つことはかえって白ける。

   アメリカのトランプ大統領は中東のホルムズ海峡で石油タンカーなど自国船を自ら守るべきだとのツイッター(24日)で投稿した。今月13日に起きた日本のタンカー襲撃事件を意識したものだろう。日本にとってはアメリカに海上警備を頼っているのが現状で、政府内でも波紋を広げた。自衛隊法の海上警備行動(82条)では人命や財産を危機に陥れる不審船が接近してきた場合、総理の承認で自衛隊を派遣できる。海賊対処法でも対応できる。ただ、多国間で対処すること前提で日本単独の派遣は難しい。しかし、これはあくまでも日本側の都合で、トランプ氏が指摘するようにホルムズ海峡の自国船を自衛する決断が必要だろう。

   安倍総理はあす27日、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨む。習氏が先週、北朝鮮を訪問したことを受け、今後の非核化の進め方について協議するほか、日本が目指す日朝首脳会談に向けた北朝鮮側の感触も探るのが総理の意向だろう。そのような首脳会談を前にきょうも中国海警局の船4隻が沖縄県尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を航行していると海上保安庁が発表した。領土問題と首脳会談は別なのだろうか。

   29日にはトランプ氏と習氏の米中首脳会談が行われるようだ。先月20日、習氏は江西省にある長征記念公園を訪れ、「我々はかつての長征の出発点にやってきた。いままた新たな長い道のりが始まった」と述べたと報じられた。長征は国民党軍に敗れた中国共産党が拠点のあった江西省瑞金を離れ、2年かけて1万2500㌔を徒歩で移動しその後攻勢に転じたとされる、苦難と栄光の歴史である。習氏は米中貿易戦争の現状を長征になぞらえたのだろう。「必ず勝つ」と。その後、同省にあるレアアース(希土類元素)の関連企業を視察した。レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。中国がレアアースを対米交渉のカードにする可能性は十分にある。今回のG20の最大の見どころではないだろうか。

   1年前の6月18日、大阪北部地震が発生し震度6弱の揺れが襲った。G20がつつがなく終了することを祈る。

⇒26日(水)夜・金沢の天気      はれ   

★「かが」にドナルドを誘うシンゾーの気持ち

★「かが」にドナルドを誘うシンゾーの気持ち

   2年前の2017年7月、海上自衛隊で最大の護衛艦「かが」が金沢港に寄港したので見学した。その年の3月に就役したばかりで、艦名は「加賀」に由来するとのことで、海上自衛隊の基地以外の初の寄港地として金沢港が選ばれたということだった。一般公開の日ではなく、乗艦はできなかった。基準排水量1万9500トン、乗組員470人。全長248㍍、幅38㍍の広い甲板を有するヘリコプター空母型の護衛艦だ=写真=。甲板の前方に2機、中央に1機、後方に1機の計4機のヘリが駐機していた。

   広い飛行甲板を活用して、潜水艦を探す哨戒ヘリコプター5機を同時発着させることができる。海上自衛隊の潜水艦の探知や追跡力の向上を狙ったものとされるが、具体的には、性能の向上で探知が難しくなりつつある中国潜水艦への対応を念頭に置いているといわれる。陸上自衛隊との連携も想定していて、10機のヘリが収まる格納庫には、陸上自衛隊の大型トラック50台を搭載することもできる。また、陸上自衛隊が導入した新型輸送機MV22オスプレイも発着が可能となる。

   その護衛艦「かが」を、国賓として日本を訪れているトランプ大統領はきょう28日、安倍総理とともに視察する。今回の視察は安倍氏が打ち上げている「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」を具体的に見て理解してもらおうという意図でトランプ氏を誘ったようだ。インド太平洋構想はインド洋と太平洋でつないだ地域全体の経済成長をめざし、自由貿易やインフラ投資を推進する構想のこと。これは安全保障面ともリンクしていて、法の支配に基づく海洋の自由を訴え、 南シナ海で軍事拠点化づくりを進める中国を封じ込める狙いがある。昨年2018年6月、海上自衛隊、アメリカ海軍、インド海軍による共同訓練(マラバール2018)がグアム島の周辺海空域で実施している。2017年7月のマラバール2017ではインド南部チェンナイ沖で行っている。

   ではなぜ「かが」なのか。「かが」は今年4月に適用された新防衛計画の大綱で空母化が決まっている。大綱には「日米同盟の一層の強化には、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠」と記されており、防衛力の強化の象徴的なアクティビティが空母化といえる。安倍氏はそこをトランプ氏に強調したいのだろう。

  通商だけでなく、安全保障でも一体感を示す場としての「かが」だ。ところで、安倍氏は「かが」の意味をトランプ氏から問われたら、どのように説明するのだろうか。聞いてみたい。

⇒28日(火)朝・金沢の天気    あめ

☆シンゾーとドナルドの「レアアース談義」

☆シンゾーとドナルドの「レアアース談義」

         この写真を見て感じたことは、お笑いコンビのようだ、と。写真は総理官邸のツイッター(26日)で公開している。安倍総理と(右)とトランプ大統領(左)が千葉県のゴルフ場で自撮りした写真だ。とくに、安倍氏の顔がなんとなく、あの芸能人っぽく見える。アメリカのCNNニュース(日本版)は「外務省によれば、昼食は米国産の牛肉のダブルチーズバーガーだった。トランプ大統領は相撲観戦も行った。優勝した力士には、トロフィーの上部に翼を広げたワシをあしらった『トランプ杯』も贈呈した」と。米国産の牛肉のダブルチーズバーガーとあえて取材して伝えているところがアメリカのメディアらしい。

   ところで、アメリカと中国の貿易戦争が安全保障問題と絡まって複雑さを増している。今月20日、習近平国家主席は江西省にある長征記念公園を訪れ、「我々はかつての長征の出発点にやってきた。いままた新たな長い道のりが始まった」と述べたと報じられている。長征は国民党軍に敗れた中国共産党が拠点のあった江西省瑞金を離れ、2年かけて1万2500㌔を徒歩で移動しその後攻勢に転じる、苦難と栄光の歴史である。習氏は米中貿易戦争の現状を長征になぞらえたのだろう。「必ず勝つ」と。

   中国にはもう一つの思惑があった。習氏は江西省にあるレアアース(希土類元素)の関連企業を視察した。レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。ハイテク技術を支えるレアアースはアメリカにとっても欠かせないが、中国からの輸入に依存している。ここで思い出す。2010年9月、尖閣諸島で海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件が起きて、中国が日本向けのレアアースの輸出を全面禁止にした経緯がある。今後、中国がレアアースを対米交渉のカードにする可能性は十分にある。

   あす27日、トランプ氏は即位した天皇陛下と外国首脳として初めて会見したあと、11回目となる日米首脳会談に臨むことになっている。ここでの日米首脳会談のタイムリーさがある。会談で数々の議題はあるが、優先課題としてトランプ氏はおそらく、中国が「レアアース輸出禁止」のカードを切ってきた場合、アメリカとしてどう対応すればよいのか、日中のレアアース問題を乗り越えた日本の経験知と対応策を教えてほしいと尋ねるだろう。そのとき、安倍氏は「脱中国化」を進言するに違いない。一つはレアアースの輸入先の分散化により、中国依存度を下げる。もう一つはアメリカ企業の研究開発力でレアアースの消費量そのものを下げる。その事例として、ホンダがレアアース不使用の磁石の開発に成功し、すでにハイブリッド車用駆動モーターとして実用化していること、などだ。

   1ヵ月後の「G20大阪サミット」(6月28、29日)では、習氏も日本を訪れる。トランプ氏とすれば、今後中国との貿易交渉で浮上するであろう「レアアース問題」に先手を打ちたいと考えるのは当然だろう。ひょっとして、米中の「レアアース問題」が日本の新たなビジネスチャンスとして浮上してくるかもしれない。冒頭のにっこり笑った2人の笑顔に次なる可能性が。

⇒26日(日)夜・金沢の天気     はれ    

★「十人十色」なSDGs

★「十人十色」なSDGs

   SDGs(国連の持続可能な開発目標)と日本語に親和性を感じことがある。「これってSDGsのことだよな」と。先日金沢の隣の野々市市を自家用車で移動していて、中学校の校舎に掲げてあった横看板=写真=もそうだった。「十人十色、みんなちがってみんないい」と。十人十色はそれぞれの個性や考え、立場をお互いに尊重するという意味合いでよく使う言葉だ。この言葉をSDGsの視点で考えれば、まさに基本理念に掲げる約束「誰も置き去りにしない」と同意義だろう。

   看板には「生徒会目標」と書かれている。看板の文字のバックの色合いを眺めてみると、10色ほど使ってあってなかなか芸が細かい。生徒たちのアイデアなのか、教員の指導なのか。ひょっとして最初からSDGsを意識したスローガンなのだろうかと思いながら校舎を後にした。

   小学生のころから「来た時よりも美しく」という言葉をよく使った。今でも大学のフィールド実習を終えての帰り際に学生たちと宿泊施設の清掃をするが、「来た時よりも美しく」と自身が声を出している。この「来た時よりも美しく」という言葉こそ、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のキ-ワードとなっているアップサイクルに通じる。持続可能なモノづくりを目指す場合に、単なるリサイクル(素材の原料化による再利用)ではなく、元の製品より付加価値の高いモノづくりへとイノベーションと研究開発を進める。このアップサイクルの精神こそが「来た時よりも美しく」ではないだろうか。

   偉そうに言うが、アップサイクルという言葉を知ったのは3ヵ月前だ。「第1回地方創生SDGs国際フォーラム」(2月13日・東京)で、基調講演の黒岩祐治神奈川県知事が鎌倉市由比ガ浜で打ち上げられたシロナガスクジラの胃の中から大量のプラスチックごみが発見されたことを機に、プラスチックの代替となる新素材の開発を進めていることを「アップサイクルの実証事業」と紹介していた。このときに、アップサイクルは「来た時よりも美しく」ではないだろうかとひらめいた。

   古くから伝えられる近江商人の心得「三方よし」という言葉もSDGsとつながる。売り手、買い手、作り手がそれぞれに納得して利を得る。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のモデルのような調和の経済循環ではある。

⇒18日(土)夜・金沢の天気     くもり

★百花繚乱、五月晴れ

★百花繚乱、五月晴れ

   10連休も後半に入り、ようやく五月晴れに恵まれるようになった。まぶしい日差しの中で庭のイチリンソウ(一輪草)=写真・上=の花が白い輝きを放っている。「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」と称されるように、早春に芽を出し、白い花をつけ結実させて、初夏には地上からさっと姿を消す。春の一瞬に姿を現わし、可憐な花をつける様子が「春の妖精」の由来だろうか。

   1本の花茎に一つ花をつけるので「一輪草」の名だが、写真のように一群で植生する。ただ、可憐な姿とは裏腹に、有毒でむやみに摘んだりすると皮膚炎を起こしたり、間違って食べたりすると胃腸炎を引き起こすといわれる。手ごわい植物でもある。

   同じく白い花をつけているのがヤマシャクヤク=写真・中=だ。丸いボール型に咲く「抱え咲き」の白い花は実に清楚な感じがする。名前の由来の通り、もともと山中に自生している。根は生薬で山芍薬(やましゃくやく)といわれた鎮痛薬だ。薬名がそのまま花名にもなっている。かつて乱獲され、今では環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に登録されている。花言葉をネットで調べてみると「恥じらい」「はにかみ」。日陰にそっと咲くからだろうか。

   白い花はまだあった。ナルコユリ(鳴子ユリ)も咲き誇っている。鳴子百合の名前の由来をネットで調べてみると、こんな説があった。「この花姿が鳴子(なるこ)=田や畑で鳥を追い払うための音を出す道具に似ていることから」という。かつての農村の風景を思い出す。鳴子を稲はざの周囲に下げて、カランコロンと音が響いた懐かしい時代だ。

   ナルコユリと同じくぶら下がりの花はタイツリソウ=写真・下=もうそうだ。「鯛釣り草」と書く。面白い名前だ。花が枝にぶら下がった姿が何匹もの鯛が釣り竿にぶら下がった様子に似ていることからその名が付いたとされる。姿だけではなく、花の形も面白く、ピンクのハート形。そのせいか、ネットで検索すると花言葉は「心」に関係するものが多く、「恋心」「従順」「あなたに従います」「冷め始めた恋」「失恋」などいろいろと出てくる。

    花は実に個性的でイメージを膨らませてくれる。そして、シャクヤクがつぼみを膨らませている。「これまでの花は前座、次はいよいよ私の出番です」といわんばかりの生気を放っている。花が咲き競い、心を和ませてくれる。まさに百花繚乱の光景だ。

⇒3日(祝)午後・金沢の天気     はれ

★「ブルゴーニュ」で迎えた令和の幕開け

★「ブルゴーニュ」で迎えた令和の幕開け

   4月30日「平成の大晦日」の夜、金沢のワインバーで過ごした。じっとしておれない「わくわく感」がそうさせた。というより、テレビはどのチャンネルも「平成最後の・・・」のオンパレードである。誰に向けての番組コンテンツなのか、何を発信しようとしているのか、そしてコメンテーターやキャスターの敬語の乱用にも少々嫌気が差して、「オワコンだな」と思いながら外出した。

   店に到着したのは夜9時30分ごろ。休日の夜にもかかわらずカウンターがいっぱいだった。ソムリエのマスターに「さすが10連休ですね」と声掛けすると、マスターは「今夜は令和へのカウントダウンをしないのかと問い合わせ電話もありますよ。カウントダウンで盛り上がりますか」と。勧めてくれたワインが1976年産のブルゴーニュワインだった。ブドウ品種はピノ・ノワール。ボトルに「PREMIER  CRU」と書いてあり、「一級のブドウ畑」の意味だとか。ことし2月に日本とEUのEPA(経済連携協定)が発効して関税が撤廃、ヨーロッパ産ワインが求めやすくなったと同時に、フランス産の高級ワインも入ってくるようになった。

   目の前のブルゴーニュワインは初対面だった。マスターの解説によると、ピノ・ノワールは水はけがよい石灰質の土壌で冷涼な気候で育つが病気にかかりやすく、なかなかデリケートで栽培が難しい。農家泣かせのこの品種のことを欧米では「神がカベルネ・ソービニオンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った」と言うそうだ。40年余りも年月が経っているので、コルク栓が柔らかく崩れてなかなか抜けない=写真=。コルクがそーっと抜かれると、芳しい香りが漂ってきた。ヴィンテージものだがまだ果実味もあり、優しく熟成を重ねたブルゴーニュワインだった。

     ワインの話で盛り上がっているうちに、カウントダウンが近づいた。5月1日まであと10秒。カウンターの客が「9、8、7、6、5、4、3、2、1」と声をそろえた。令和が始まった。すると、マスターがシャンパーニュを振る舞ってくれた。改めて、令和の幕開けに乾杯した。時は過ぎていく。その一刻一刻をワインで事実確認した思いだった。

⇒1日(水)午前・金沢の天気    こさめ

☆平成の大晦日

☆平成の大晦日

   行く年、来る年を迎える日が大晦日ならば、行く時代、来る時代を迎えるきょう30日は「平成の大晦日」だろう。テレビ各社は朝から特番を組んで退位の儀式の模様を伝えている。午前中、天皇は皇居の宮中三殿にある天照大神を祀る賢所(かしこどころ)で、日本古来の言葉で記した御告文(おつげぶみ)を読み上げて退位の礼を行うことを伝えられた。きょう夕方には、宮殿「松の間」で催される正殿の儀では、安倍総理の国民代表の辞に続き、天皇が在位中最後のお言葉を述べられる。

   海外メディアもさっそく取り上げている。イギリスBBCテレビは「Japan’s Emperor Akihito is set to step down from the throne on Tuesday, make him the first Japanese emperor to abdicate in more than 200 years.(日本のアキヒト天皇は火曜日で退位する。ここ200年余りで途中で皇位を降りる初めての天皇となる)=写真・上、BBC‐Web版=。アメリカのニューヨークタイムズ紙は皇位継承の特集を組んでいる。「His Father Was Called a God. She Called Him ‘Jimmy.’(父は神と呼ばれたが、彼はジミーと呼ばれた)」。終戦から1年後の1946年の秋、学習院に着任したアメリカ人の女性教師が、12歳の少年だった皇太子に「このクラスでは、あなたの名前はジミーです」と名付けたピソードを紹介している。

   天皇退位で思い浮かぶのはやはり、天皇皇后が被災地を訪れ、丁寧に被災者を見舞われたお姿だ。避難所を訪れ、膝をついて対話する姿は被災者に寄り添うお気持ちが伝わり、国民の共感を呼んだ。平成3年(1991)の雲仙・普賢岳(長崎県)の噴火の被災地への見舞いから始まり、その後の災害復興状況の視察を含め37回にも及ぶ(宮内庁HP)。国民はマスメディアを通じて、いつの間にか、この姿が天皇のシンボリックなイメージとして定着しているのではないだろうか。

   膝をついての国民との交流は被災地だけではない。平成27年(2015)5月、第66回全国植樹祭が石川県小松市の木場潟公園で開かれた。天皇はクロマツとケヤキなどの苗を植樹され、美智子さまはヤマモミジの苗を緑の少年の団の女の子といっしょに植えられた。このときも、膝をついて丁寧にお手植えされる姿が新聞の紙面にも掲載された=写真・下=。

   平成の大晦日、私自身の一日は骨董市と草むしり。習い始めている茶道に必要な香合と風炉先屏風を買い求めた。香合は炭点前には欠かせないがそれらしいものがないのに気が付き、ようやく手にすることができた。草むしりは大いに苦戦している。チドメグサとの闘いは難題だ。むしり取っても、むしり取ってもしばらくしてまた生えてくる。しかも、芝生やスギゴケといったグランドカバーに潜り込むようにして生えている。「おのれ、許さん」と挑むが、戦いはエンドレスなのだ。あすの令和も、晴れれば地べたをはっている。10連休の醍醐味ではある。

⇒30日(火)午後・金沢の天気     くもり