⇒トピック往来

☆「巣ごもり」脱し「のとキリシマツツジ」へ

☆「巣ごもり」脱し「のとキリシマツツジ」へ

        新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外出を控える風潮のことを「巣ごもり」という言葉で新聞やテレビメディアが紹介している。もともとは、鳥が巣の中に入ってじっとしていること、あるいは、冬を越すため虫などが土の中にもぐったままでいることの意味だ(三省堂『現代新国語辞典 第六版』)。なかなか言い得て妙かもしれない。

   この「巣ごもり」現象から派生して「巣ごもり消費」「巣ごもりグルメ」「巣ごもり銘柄」などさまざまな言葉が出てきているから面白い。確かに、近所でも宅配のトラックやバイクが普段より多く目にする。また、自身もスーパーマーケットでこれまで買わなかったカップ麺を手に取ったり、酒類などを買い込んでいる。まさに「巣ごもり消費」にシフトしてる。石川県白山市に本社があるドラッグストア(東証一部)は昨日の終値が前日より10%値を上げた。これは「巣ごもり銘柄」だろう。

   巣ごもりと言っても、鳥や虫のようにじっとしているわけではない。テレビを視聴したり、ネット検索など情報を得よう人は動いている。ネットを閲覧していて、目にとまったニュースがあった。19日に民放連(民間放送連盟)の大久保会長(日テレ会長)が記者会見し、コロナ感染拡大の影響で、テレビ視聴率が上昇しているのかとの記者からの質問に、「ここ2、3週間の視聴率などを見ていると、少し全世帯視聴率が上がっているのではないかと言うふうにテレビの編成の責任者が言っていたことを聞いたことがあります」と答えていた(19日付・スポーツ報知Web版)。これは「巣ごもり視聴」と言っていいだろう。

   巣ごもり視聴がトレンドかもしれないが、気になるのは、テレビCMが「ACジャパン」(公共広告機構)ものがやたらと多いと感じることだ。とくに、昼から夕方にかけてはスポットCMがつきにくくなっているのだろう。今月11日付のこのブログでも述べたが、電通がまとめた『2019年 日本の広告費』によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長。消費税率アップにともなう個人消費の落ち込みの中でも、全体を底上げしたのがインターネット広告費で、初めて2兆円超えてトップに。一方、テレビ広告費は減り、首位の明け渡した。これを電通は「広告業界の転換点」と伝えているが、その実感も伝わってきた。

  巣ごもりばかりでは気が滅入るので、きょう花展を見に金沢市の「しいのき迎賓館」に出かけた。深紅の花をつける「のとキリシマツツジ」=写真=。本来は5月に奥能登で見頃を迎えるのとキリシマツツジだが、花展を実施している地元のNPO法人と石川県立大の研究者が協力して開花時期を調整し、2ヵ月早く8分咲きのものが鑑賞できるようになった。深紅のツツジに生命力を感じる。「コロナウイルスなんかに負けるな」と励まされているようで、心が温まる。

⇒20日(金・祝)夜・金沢の天気   くもり

★「広告業界の転換点」 ネットがテレビを抜く

★「広告業界の転換点」 ネットがテレビを抜く

   きょうは「3月11日」。東日本大震災が起きて満9年になる。震災発生時、私は大学の公開講座で社会人を対象に広報の在り方について講義をしていた。テレビ速報を見た講座の担当教授が血相を変えて講義室に駆け込んできて、「東北が地震と津波で大変なことになっている」と耳打ちしてくれた。受講者には私から東北で地震があったことを口頭で伝えた。自宅に戻りテレビ画面でその惨状を見て愕然とした。

   2ヵ月後の5月11日に仙台市と気仙沼市を調査に訪れた。当時、気仙沼の街には海水の饐(す)えたような、腐海の匂いが立ち込めていた。岸壁付近では、津波で陸に打ち上げられた大型巻き網漁船が横わたっていた。この目で現場を見て、改めて津波のすさまじさを思い知らされた。死者・行方不明者は1万8千人、犠牲者へ哀悼の意をささげたい。

       「ついにこの日が来たか」と感じたニュースがあった。メディア各社が報じている、電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長だった。不透明な世界経済や相次ぐ自然災害、消費税率アップにともなう個人消費の落ち込みや弱含みのインバウンド消費など厳しい風向きの中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超えてトップの座に躍り出て全体を底上げした。一方、テレビ広告費(1兆8612億円)は減り、首位の座をネットに明け渡した。電通は「広告業界の転換点」と伝えている。

  テレビ広告費ついてもう少し詳細に見てみる。テレビ広告費は地上波放送と衛星放送を合わせた数字だ。対前年比で言えば97.3%だった。地上波単体だと1兆7345億円で対前年比97.2%となる。スポット広告は、軽減税率関連やキャッシュレス関連のCMが増加した一方で、スポット全体としては、台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで、3年連続で減少した。業種別では「官公庁・団体」「金融・保険」などが増加し、「情報・通信」「化粧品・トイレタリー」などが減少した(※写真は電通「2019年 日本の広告費」から)。

  「広告業界の転換点」の意味は、2019年を機にすでに欧米で著しいネット広告へのシフトが日本でも加速すると示唆している。さらに今年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で経済が減速する中、テレビ広告にニーズが向くだろうか。放送と通信の同時配信、そして広告費の減収と民放テレビが大きく様変わりしていくだろう。

⇒11日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆経済不況という寒波

☆経済不況という寒波

  北陸にようやく雪が降った。今季初めてお目にかかる「初雪」だ。ただ、金沢の自宅周囲で数㌢なので、ごあいさつ程度の積雪だ=写真=。朝、ご近所さんと言葉を交わしたが、「ようやく降りましたね」と声がけすると、「もうちょっと降ってもらわんと心配やね」だった。北陸人にとっては降るべき時に降ってもらわないとこれからのシーズンで反動があるのではないかと不安が募る。これから1週間の天気予報をチェックすると、9日に雪マークがついている以外は、ほかに雪の予報はない。ひょっとして、これが名残雪(なごりゆき)か。

   日本でも広がり続く新型コロナウイルスだが、共同通信Web版(6日付)によると、中国本土の死者は6日現在で563人となり、感染者は2万7000人を超えた。武漢市の死者は414人、感染者は1万117人となった。きのうのブログでも述べたが、日本に帰国した邦人565人の感染率1.4%から推測しても、人口1100万人といわれる武漢市では感染者が15万4000人でも不思議ではない。おそらく検査体制が追い付いていないのだろう。現地の混乱ぶりがこの数字から読める。

   6日の東京株式の日経平均は大幅続伸して始まり、午前9時15分現在で前日比387円高の2万3706円。おそくら、ニューヨーク株式のダウが大幅に続伸し、9営業日ぶりに2万9000㌦台を回復したことを受けてのことだろう。勢いづく株式投資とは裏腹に、中国での経済減速の影も見え隠れしている。

   東証一部の上場企業である化学素材メーカー「小松マティーレ」(本社・石川県能美市)が、中国・江蘇省で計画していた合成繊維の加工・染色の新工場を見送り、連結子会社を解散・精算すると発表した、と地元各紙が伝えている。新工場で中国やヨーロッパ向けに衣料などの生産体制を増強する予定だったが、中国の経済の減速を受けて当初予定していた需要が見込めないと判断したようだ。要は、現地判断で経済復興は当面見込めないと判断し、投資を撤回したのだろう。

   もう一つ。「KOMTRAX(コムトラックス)」という「経済指標」がある。小松製作所(コマツ)が販売したブルドーザーなどにGPSをつけて自社製品の稼働状況を確認するために備え付けたデータだ。これによって各国に輸出した建機の稼働状況がわかり、経済状況もある意味で判断できる。昨年のデータ(前年同月比)を見ると、北米(アメリカ、カナダ)はプラスの月が多いが、日本、ヨーロッパ、中国はマイナスの月が多い。中でも中国は1月と10月に10数%の大幅なマイナスだ。

           では、日本はどうか。実はこの数字を眺めていて寒気を感じる。9月のプラス3.1%以外は11ヵ月すべてマイナスだ。9月のプラスは観測史上最強クラスのといわれた台風15号が関東を中心に甚大な被害を出したことから、ブルドーザーなどの需要があったのだろう。では、さら強力な台風19号が猛威をふるった10月はどうだったのか。関東・甲信越の河川の堤防が140ヵ所で決壊して甚大な被害があった。それでも、10月は7.9%、11月は2.9%のマイナスだった。少々不謹慎な言い方かもしれないが、もし台風19号が来なかったら中国並みの13.7%のマイナス、あるいはそれ以上だったかもしれない。財政支出の息切れでインフラ整備が滞り、経済不況がじわりと忍び寄っている。中国のことは言っておられない。

⇒6日(木)午前・金沢の天気    くもり

☆コロナウイルス感染、日本への影響

☆コロナウイルス感染、日本への影響

      中国・武漢のコロナウイルスが、いよいよ世界的に猛威をふるい始めている。日本を含む中国以外の13の国や地域でも感染者が見つかっている。それにしても中国が発表する数字が小出しだ、中国の国内感染者数の実数はどうなのか。検査結果の出ない感染疑いの患者が3人もいるとされ、中国だけで実際は万単位とも言われている。

   信じ難い話も次々と出ている。武漢では医療施設が不足していて現在建設が始まっているが、市長が「10日間で病院を建設するから大丈夫」と語ったそうだ。ベッド数は1000床、建設期間は10日間、来月3日には稼働する見通しという(25日付・毎日新聞Web版)。ただ、敷地面積は2万5000平方㍍あるので、プレハブ小屋を合体させた集合的な入院施設ならば1000床は可能かもしれない。プレハブという技術に中国はどのように対応できるのか理解できないので、あくまでも想像だ。完成予想図が提示されていないので医療施設のイメージがわかない。

   コロナウイルスは日本にとっても他人事ではない。きょう27日の東証は、483円も値下がりし2万3343円。コロナウイルスの感染拡大が世界経済に悪影響を与えるのではないかという懸念が広がってのことだ。もともと、アメリカとイランの緊張の高まりで、ことしの世界経済は下振れの警戒感が出ていて、今回さらに中国経済に打撃が加わったカタチだ。

   日本にとっても影響が大きいのは観光産業だろう。中国人旅行客の3割から4割が団体客だと言われているので、中国の団体での海外旅行禁止令は影響が大きい。インバウンド需要に影響が広がれば、当然日本の国内総生産(GDP)を押し下げることになる。このまま東アジアにコロナウイルスが蔓延することになれば、果たして東京オリンピックは無事開催できるのかなどと、個人的に憶測したりもする。

   不思議なのは、WHOをだんまりを決め込んでいることだ。今は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」ではないのか、WHO事務局長はいつ緊急事態を宣言するのか。

⇒27日(月)夜・金沢の天気     くもり

★坂網猟師とカモ、共生という関係

★坂網猟師とカモ、共生という関係

   冬のこの時期、北陸ではズワイガニや寒ブリなど海の幸もあるが、山の幸ではカモに魅かれる。交配種のアイガモではない、正真正銘のマガモだ。鮮やかな赤身の肉で、鳥肉としては高級感が漂う=写真・上=。鴨鍋よし、串焼きよし、おじやよしで満足度が高い。

   このカモの料理を楽しめるのは金沢の南、福井県との県境にある加賀市だ。ラムサール条約湿地の「片野の鴨池」がある。ここで伝統的な坂網猟(さかあみりょう)が受け継がれている。猟師にお願いして、狩猟の現場を見学させてもらったことがある。夕暮れになると、鴨池のカモがエサを求めて群れをなして飛び立つ。周囲の丘を飛び越えるのを狙って、群れをめがけて坂網を空に向かって投げ上げる。

   坂網は長さ3.5㍍、Y字形の網の部分は幅1.3㍍ほど=写真・下=。材質はヒノキと竹、ナイロン網などで、重さは800㌘ほどだろうか。ベテランの猟師は羽音で距離感を測り、カモの群れをめがけて数㍍、あるいは10㍍も投げ上げる。猟期は11月15日から2月15日までと決められている。猟師は19人。かつてカモが大量に飛来したときは、1人で300羽も捕れた時代もあったが、今では全員でも200羽ほどだそうだ。

   ではなぜ坂網猟のカモがおいしいのか。カモは坂網にかかった後、地上に落ちてくるが、ほどんどが無傷で生きたまま捕獲される。肉に血が回らないので、臭みがなく、肉の味を損なうこともない。猟銃で仕留めるカモとの違いだ。

   坂網猟が始まったのは300年ほど前で、大聖寺藩主が武士の鍛錬として坂網猟を奨励したのが始まりだった。この道のベテラン、小坂外喜雄氏からこんな話を聞いたことがある。戦前、金沢に司令部を置く陸軍第九師団が鴨池周辺の砂丘地などで演習を行うことがあり、音に驚いてカモが寄り付かなくなった。そこで、猟師たちは九師団長に嘆願書を提出して演習区域から外してもらったそうだ。

   さらに終戦後、今度はGHQ(連合軍総司令部)のアメリカの中将らが鴨池に何度かやって来て銃でカモなど野鳥を撃ちまくった。当時の組合長は片野鴨池は古来より銃猟が禁止されている旨をGHQに直訴し、銃猟を止めさせたこともある。

   坂網の猟師たちは、一網打尽ではなく、伝統的な猟法を守ることで、カモと共生する関係性を築いてきた。そして、鴨池の野鳥を脅かす外部からのリスクには敢然と立ち向かってきたのだ。そんなストーリーを聞くと、坂網の鴨料理がさらにおいしく感じる。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    はれ

★資本主義の危うさ

★資本主義の危うさ

   仕事始めのきょう6日、東京株式市場は午前からほぼ全面安で下落幅は一時500円を超えた。大発会の鐘打ちイベントは麻生財務大臣を迎えて開催されたようだが、相場は波乱の幕開けだ。アメリカのトランプ大統領の指示でイラン革命防衛隊の司令官を殺害され、イランも報復を宣言した。中東情勢のキナ臭さが株価を直撃した。3日のニューヨークダウも反落、一時370㌦下げた。

   逆にきょう株価がストップ高になった銘柄が石川製作所(石川県白山市)だ。プラス400円の2184円、値上がり率は22%増。同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業でもある。キナ臭さが漂うと防衛株に注目が集まる。株価をストップ高にした要因はもう一つ。朝鮮労働党中央委員会総会が12月28日から31日まで開かれ、金正恩委員長は経済制裁を続けるアメリカを非難し、「世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる」と主張。非核化交渉に臨むアメリカの姿勢次第で核開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を再開する可能性を示した(1日付・日経新聞Web版)。

   2年前の状況が再び繰り返されるのかもしれない。2017年7月、北朝鮮が打ち上げたICBMはアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった。これを受けて、トランプ大統領は9月の国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。このころから石川製作所の株価は急上昇し、それまで1000円に満たなかったものが10月には4205円の最高値を記録した。

   ちょうど1年前も世界の株価は新年早々に「ネガティブサプライズ」に見舞われた。アメリカのアップル社が2018年10月-12月期の売上高の予想を下方修正し、840億㌦に留まる見込みと発表。その原因について、アップルのティム・クックCEOが中国の景気減速だと述べた。これを受け、ニューヨーク株式市場でアップル株が一時10%急落、ダウも下げ幅が一時600㌦を超えた。このころから中国の経済減速が世界の共通認識として広まった。

  「資本主義の総本山」ウォールストリートが揺れ、世界の経済に波及する。資本主義の危うさ、経済に翻弄される1年が始まった。

⇒6日(月)午後・金沢の天気    くもり

☆金沢を訪れる台湾人がダントツ多い、その伝説・・・

☆金沢を訪れる台湾人がダントツ多い、その伝説・・・

      前回(10日付)のこのブログで、金沢の兼六園を今年訪れたインバウンド観光客数が11月末時点で44万6千人となり、去年1年間の42万8500人を超えて過去最多を更新したと地元メディアの記事(12月6日付・北國新聞)を紹介した。すると、このブログをチェックしてくれた知り合いからメールで「ところで、兼六園ではインバウンド客の人数をどのようにカウントしているのでしょうか? よもや入場券売り場の人の目視ではないですよね」と鋭い指摘をいただいた。確かに、記事にはどのような調査方法なのか触れられていなかったので、兼六園の管理事務所に電話で外国人の入場者のカウント方法について問い合わせた。

  スタッフが丁寧に答えてくれた。以下はその要旨。兼六園には7つの入り口(料金所)がある。料金を受け取ると入場券とパンフを渡している。パンフは9ヵ国語(日本、英語、中国、台湾、韓国、フランス、イタリア、スペイン、タイ)で、それぞれのパンフがある。入場者にパンフを渡す際、必ず国名と人数を尋ねて渡している。団体、個人問わず、そのようにしてパンフを渡しているので正確な国・地域別の人数が出せるのだという。

      ところで、訪日観光客数は日本政府観光局(JNTO)の調べによると、中国742万人、韓国697万人、台湾454万人、香港215万人、タイ106万人と続く(2018年確定値)。もう一度記事を引用すると、ことし1月‐11月で兼六園を訪れた国・地域別では台湾が15万2千人と一番多く、次いで中国4万人、香港3万5千人、アメリカ2万9千人、イタリア2万人、オーストラリア1万9千人と続く。つまり、台湾からの訪日観光客が圧倒的に多い。これは北陸新幹線開業以前からの傾向で、台湾ではある意味で金沢の知名度が抜群なのだ。

   八田與一(はった・よいち、1886-1942)という人物がいた。台湾の日本統治時代、台南市に烏山頭(うさんとう)ダムが建設され、不毛の大地とされた原野を穀倉地帯に変えたとして、台湾の人たちに日本の功績として高く評価されている。このダム建設のリーダーが、金沢生まれの土木技師、八田與一だった。ダム建設後、八田は軍の命令でフィリピンの綿花栽培の灌漑施設の調査ため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で船が沈没し亡くなった。1942年(昭和17年)5月8日だった。終戦直後、八田の妻は烏山頭ダムの放水口に身投げし後追い自殺したことは台湾でも金沢でもよく知られた逸話だ。

   八田與一伝説が生きる台湾から、多くの観光客が「八田のふるさと金沢」を訪ねてくれている。(※2017年5月、八田與一の座像修復式には金沢市の関係者も訪れた=台湾・台南市役所ホームページより)

⇒12日(木)夜・金沢の天気     はれ

★インバウンド客を誘う兼六園の冬景色

★インバウンド客を誘う兼六園の冬景色

  金沢の兼六園を今年訪れたインバウンド観光客数が11月末時点で44万6千人となり、去年1年間の42万8500人を超えて過去最多を更新したと地元メディアが伝えている(12月6日付・北國新聞)。記事によると、国・地域別では台湾が15万2千人と一番多く、次いで中国4万、香港3万5千、アメリカ2万9千、イタリア2万、オーストラリア1万9千と続く。日本人を含めた全体では260万7千なので、インバウンド観光客が占める割合は17%だ。

  この季節、兼六園は雪吊りが施されていて、名木「唐崎の松」はまるでパラソルでもつつけたかのよう光景だ=写真=。インバウンド観光客が盛んにインスタ映えを狙ってシャッターを切っている。中国語や英語が飛び交っているという感じだ。そして、茶室「時雨(しぐれ)亭」で抹茶を楽しむ外国人客も増えている。茶席の静寂、広がる庭園、洗練された作法、季節の和菓子など「完成された日本の文化」がそこにある。外国人客のお目当ての一つが、和装の女性からお辞儀をしてもらえること、だとか。これだけでも随分と感動もののようだ。日本人でも、この茶席に座ると大人の時間が流れるような感じがする。

  ところで、笑うに笑えない話を兼六園通の知人から聞いた。インバウンド観光客を引率しているガイド(日本人)が、「加賀百万石」のことを「Kaga Million Stones」と直訳しているというのだ。「金沢には、金沢城の石垣を見ても理解できるように、Kaga Million Stonesと称される、すばらしい石の文化があります。県名も訳するとStone riverです」と。その説明で、インバウンド観光客の一行が納得してうなずいていた、という。漢字表記は確かに「石」だが、百万石の場合の「石」は180リットルに相当する米の量換算を指すので、完全に誤って伝えられていると知人は嘆いていた。兼六園には外国語に堪能なボランティアガイドも多くいるので、この話はおそらくレアケースだろうと想像する。ただ、同じような話を留学生からも聞いたことがある。

  今の日本の大人には「加賀百万石」という言葉は何となく、豊かさとして理解できるが、それを量換算として説明できる人は果たしてどれだけいるだろうか。1952年(昭和26年)の計量法により尺貫法の使用が禁止され、石という容量の単位は公式には使われてはいないのだ。将来、日本の子供たちの中にも「Kaga Million Stones」に納得する時代がやってくるかもしれない。兼六園の冬景色を眺めながら、ふと空を仰いでしまった。

⇒10日(火)朝・金沢の天気    くもり

★「ONE TEAM」 多国籍のチカラ

★「ONE TEAM」 多国籍のチカラ

   今年話題となった言葉を選ぶ「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に、ラグビーワールドカップの決勝トーナメントに進出した日本代表のスローガン「ONE TEAM」が選ばれた。予想通りだった。多国籍を超えて、日本チームとして結束しているところが見事だった。国歌斉唱では外国人選手も「君が代」を歌い、むしろグローバルさを感じたものだ。

  この「ONE TEAM」の在り様は、日本が取るべき将来の進路ではないかと考える。急速に進む少子高齢化で働き手や担い手が不足する中、日本の多国籍化を進めていく。国際化と言うと共通の理念が求められるが、目標に向かって結束する場合は多国籍化でよいのではないか。多国籍化が求められるのは、スポーツだけでなく、研究開発やマーケット戦略、生産性や教育分野など幅広い。市民生活でもあえて日本人の社会に溶け込む必要はない。たとえば、金沢に「ニュージーランド村」や「南アフリカ村」があってもいい。日本の法律の下でお互いに暮らし安さを追求すればそれでよいのではないか。そんなことを想起させてくれたのが「ONE TEAM」の戦いぶりだった。

   そのほか個人的に選ぶ流行語大賞は、やはり「令和」だ。4月1日午前11時35分から総理官邸で開かれた会見で、菅官房長官が墨書を掲げて新元号を公表する様子をネットの動画中継を見ていた。「大化」(645年)から248番目の元号が「令和」と発表されたとき、時代の転換点に立つような、改まった気分になった。安倍総理もその後の記者会見で、「春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように一人ひとりが明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたいとの願いを込めて決定した」と述べていた。 なんと平和なことか。昭和、平成、そして令和の時代を生きることは喜びではないかのか、ふと気づかされたものだ。平成の世と同じく、令和も戦争のない平和な時代であってほしいと願うばかりだ。

  「新紙幣」も個人的には流行語大賞だ。「令和」の発表の8日後、新紙幣を2024年度に発行すると麻生財務大臣が記者会見で発表した。1万円、5千円、千円の紙幣(日本銀行券)の全面的な刷新だ。平成の1万円札の主役を担った福沢諭吉から、令和は渋沢栄一に代わる。しかし、「独立自尊」の福沢の精神は未来も変わることはない。

⇒2日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆仮想通貨はどこへ行く

☆仮想通貨はどこへ行く

        金沢の山側環状道路を走行すると、道路沿いにイチョウ並木が見えてくる=写真=。青空と黄ばん並木の風景が西洋絵画の世界のようで心が和む。「オオイチョウ」という言葉があるくらい、長寿の樹木が多く、花言葉も「荘厳」「長寿」「鎮魂」などがある。イチョウ並木がある場所は野田山墓地の周辺。おそらく道路を新設する際に周辺の風景に配慮してイチョウを植栽したのだろう。 

   話は一転して俗世間に戻る。9月24日付のこのブログで、フェイスブックの仮想通貨「リブラ」の話題を取り上げた。その後、G7作業部会が報告書を発表し、リブラには各国の金融政策や通貨システムを揺るがすリスクがあると指摘した(10月18日)。これを受けて、G20財務相・中央銀行総裁会議はリブラを当面認めないと合意した(同日)。世界の中央銀行がリブラに対して警戒感を示している。この状況下でのリブラの発行には無理があるだろう。

   これをチャンスとして、中国の「デジタル人民元」が先んじるかもしれない。以下は憶測だ。その理由は単純だ。中国の中央銀行が発行するデジタル通貨にすれば、人民への監視がさらに行き届くからだ。アドレスと本人の結びつけを厳密に確認する通貨として、中央銀行が管理する。そうすれば、現金と違って履歴が残る。さらに、その履歴をAI分析を駆使すれば、個人の行動や生活状況、性格、嗜好など推測できる。デジタル通貨で人民を監視できるのであれば、導入しないという選択はないだろう。

   おそらく、中国はマネーロンダリングや脱税、詐欺などを防止する目的で仮想通貨を導入とすると人民に宣伝して導入するだろう。あるいは世界の基軸通貨を確立すると鼓舞して導入を進め、「一帯一路」の参加国にも導入を呼びかけるかもしれない。

   では、前段で述べたG20の合意との齟齬(そご)はないのか。G20には中国も入っているが、リブラは民間の仮想通貨なので警戒するが、デジタル人民元は中央銀行が自らが発行するので、G20合意には束縛されないと主張するだろう。リブラの失墜で、中国が仮想通貨で世界のトップランナーになる可能性をつかんだ、のかもしれない。キャッシュレス化が進んでいるとされる中国で、一気に仮想通貨が普及するかどうか。

⇒6日(水)朝・金沢の天気    はれ