⇒トピック往来

★深夜の寝込みを襲った「震度3」

★深夜の寝込みを襲った「震度3」

   おそらく金沢に住む多くの人は今朝、寝不足ではないだろうか。午前2時50分ごろ、寝ていると下から突き上げるような揺れを感じて飛び起きた。テレビにスイッチを入れると地震速報が流れた。「金沢で震度3」だった。震源地は石川県と富山県の県境の富山側で震源地は深さ10㌔、マグニチュードは4.6と。その震度3の揺れは石川県の白山市や加賀市、そして福井県の坂井市にまで及んでいた。その後、本震が来るのではないかとしばらく身構えていたが、再び眠りに就いた。そのため、寝不足状態でブログを書いている。

    金沢での震度3の揺れは今年に入って2度目だ。3月13日、これも真夜中の午前2時18分だった。能登半島の輪島市で震度5強、穴水町で震度5弱、金沢市は震度3だった。マグニチュード5.5で、震源地はあの震度6強を記録した2007年3月25日の能登半島地震のときと同じ場所、輪島市門前町沖だ。今年入って2度も深夜の寝込みを襲った地震、不気味だ。  

   不気味と言えば、新型コロナウイルスの感染拡大が金沢市などで続いている。きのう1日、新たに男女27人の感染が確認された(県発表)。一日の人数としてはこれまでで最も多い。そして、また、医療機関がクラスターとなった。兼六園と道路を挟んだ隣にあり、土塀に囲まれた有名な総合病院「金沢医療センター」。ここで、入院患者と看護師ら16人の感染が確認され、前日の4人と合わせて20人となった。

   この病院では、はやくから感染対策を徹底していて、出入り口は正面玄関のみとし、その正面玄関でサーモグラフィーによる発熱者のチェックを行っている。マスク着用も徹底され、忘れてきた人向けに自動販売機も設置している。その病院が感染クラスターになるとは、病院側のショックも大きいのではないか。

   寝不足の上に、きょうも最高気温が35度以上になる猛暑日になると予報が出ている。猛暑はこのところずっと続いている。台風9号が東シナ海を北に進んで起きるフェーン現象のようだ。マスクをして外出すると熱中症が気になる。地震、コロナ禍、猛暑と熱中症、なんとうっとうしい夏だ。 (※写真は日本気象協会 tenki.jp公式ホームページより)

⇒2日(水)朝・金沢の天気     はれ

★「マスクを外す」猛暑日の新ニューノーマル

★「マスクを外す」猛暑日の新ニューノーマル

   きのう石川県内は強烈な暑さに見舞われた。最高気温が小松市で38.3度、金沢市で36.6度、七尾市で36.1度と加賀・金沢・能登、県全体が「猛暑日」となり、隣県の富山や岐阜でも38度を記録した(8月10日付・NHKニュースWeb版)。きのう午後、所用でマスクをして繁華街を歩いたが、息苦しさからマスクを外さざるをえなかった。新型コロナウイルス感染もさることながら、熱中症も怖くなった。

   コロナ感染も猛威をふるっている。石川県で10日、新たに12人の感染が確認されたとローカルニュースが伝えている。3日連続で二桁の感染者数だ。感染者はこれまで376人に上り、亡くなった方も28人になる。石川や日本だけでなく、世界でウイルス感染が拡大傾向にあり、ジョンズ・ホプキンズ大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)をチェックすると、世界全体で感染者1980万人と2千万人に迫り、死亡者は73万人に。

   これに追い打ちをかけているのが世界的な猛暑ではないだろうか。世界の人口の約30%が死者を伴うような猛暑に年間20日以上さらされており、温室効果ガスの排出量を削減できなければ、こうした猛暑のリスクが大きく高まるという研究報告もある(Nature Climate Change公式ホームページ)。コロナ感染に猛暑が加わり、人類は大きな危機に直面しているのではないかと考え込んでしまう。

   これまでのコロナ感染予防のための「新しい生活様式(ニューノーマル)に熱中症予防が加わって、さらなるライフスタイルが求められている。厚生労働省と環境省が最近つくったポスターは「マスクをはずしましょう」だ=写真・上=。マスクを着けたままだと、自らがはいた熱い息を吸うことで、熱中症のリスクが高まる、というのだ。そこで、人と人の間で2㍍以上の十分な距離がとれるのであれば、「マスクをはずしましょう」となる。さらに、家庭用エアコンは換気の機能がないため、コロナ対策としてこまめに換気をする。これが夏場の「新ニューノーマル」になっている。

   熱中症予防と言えば、最近新しい用語が生まれた。「熱中症警戒アラート」=写真・下=。気象庁と環境省が共同でつくった指標だ。温度のほかに湿度や日射などを入れ込んだデータで、「熱中症警戒アラート」アプリを入れるとスマホなどにアラートが出る。ただ、試行段階なので関東甲信地方が対象地域にとどまっている。

   きょう11日も午後にかけて猛暑日になる所が増えると予想され、気象庁は全国の大半の地域に高温注意情報を出している。関東と山梨県には熱中症警戒アラートがすでに出された(8月11日付・時事通信Web版)。きょうもまた寝苦しい夜となりそうだ。アエコンを27度に設定して寝るとなんとかこの暑さから解放される。そんな日々が続いている。

⇒11日(火)朝・金沢の天気    はれ

☆されど墓参り

☆されど墓参り

          政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長がきのう夕方、臨時の記者会見で、政府として盆帰省に関する提言を出すべきと述べた。「盆と正月にはふるさとに帰る」とよく言う。ファミリーの絆(きずな)を確かめ合う場であり、とくに盆の墓参りは肉親を亡くして初盆を迎えるなど個々人によって意味合いがまったく異なる。それを政府に対して自粛や「オンライン帰省」を求めるというのは、こればかりは「おせっかい」の領域ではないだろうか。それぞれが考えて行動すればよいだけの話だ。 

   もし実家に祖父や祖母といった高齢者がいれば、接する機会を少なくし、飲酒・飲食の機会もなるべく避けた方がいい。基本的な感染防止策(手指の消毒やマスク着用、換気など)で気をつけることは、国から言われるまでもなく、すでにニューノーマルだ。

   そもそも盆帰省に国が関与する権限はない。墓参りをして先祖に感謝し自らの心の安寧を得るのは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。国がとやかく言うレベルのものではない、と考える。

   盆の帰省について、西村経済再生担当大臣はきのう4日の記者会見で、政府として一律に控えることまでは求めない考えを重ねて示したうえで、帰省先で重症化するリスクの高い高齢者に感染を広げないよう感染防止策の徹底を呼びかけた(8月4日付・NHKニュースWeb版)。また、大臣は帰省について「県をまたぐ移動については、国として『一律に控えてください』とは言ってはいない」と述べた(同)。その通りだ。盆帰省と旅行は趣が異なる。墓参りは個々人にとって年に1度の格式ある行事なのだ。

   個人的には墓参りで帰省したいと思っている。その場合、墓参をし、実家にあいさつし、「このご時世ですので」と飲食などを避け金沢に戻る。それでよいと思っている。

   ところで、知人から聞いた話だが、「ゴーグル墓参り」という有料サービスを石材店が実施しているという。ネットで検索すると、このサービスを行っているのは一般社団法人「全国優良石材店の会」で、依頼を受けた地域の加盟店のスタッフが墓参りを代行し、周囲360度を撮影したデータを依頼者に送る。依頼者はその動画データをスマホに入れ、VRゴーグルに接続して見る。墓参りを自宅で疑似体験することになる。

   体が不自由なシニアにとってはこのようなゴーグル墓参りであっても、墓参りをすることで安堵を得るだろう。墓参りも時代とともに変化する。たかが墓参り、されど墓参りではある。

⇒6日(木)朝・金沢の天気     はれ

☆ウィズコロナだから、次は「Society5.0」

☆ウィズコロナだから、次は「Society5.0」

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響で「3密」を避ける発想と同時に、「Society5.0」への関心がこれまで以上に高まっているのではないだろうか。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムで社会の課題解決をめざす新技術だ。「Society5.0」は2016年に策定された国の第5期科学技術計画の中で用いられ、日本が進むべき未来社会の姿として提唱されている。

   それによると、20世紀後半に到来した情報社会(Society4.0)では知識や情報が共有されず、年齢や障害の有無などで労働や行動範囲に格差や制約が生じた。さらに、少子高齢化や地方の過疎化などの諸課題にも十分に対応することが困難だった。Society5.0の社会ではAI(人工知能)によるロボットや自動走行車などで、ビジネス創造と課題解決が可能になるかもしれない。

   たとえば、①社会保障費や医療費を増大させる高齢化対策として、人間の健康状態をセンサーを使って情報収集し、AI解析を活用して予防検診やロボット介護に反映させる  ②エネルギーの安定確保と温室効果ガスの排出削減のため、エネルギーの多様化と地産地消を図る ③食料の増産やロスを削減するため、農作業の自動化や最適な配送システムを確立する ④持続可能な産業化の推進と人手不足解消のため、最適なバリューチェーンと自動生産を整備するーなど(内閣府公式ホームページ「Society5.0」「第5期科学技術計画」より引用)。

   これらを実現させるためのキーテクノロジーとなるのがIoT、AI、VR(仮想現実)、ブロックチェーンなどに代表されるデジタルの新技術だ。そして、この新技術が社会の隅々にまで普及していく上で追い風になるのが通信インフラの「5G」だろう。

   このSociety5.0の中には、国連が2015年に定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」も入っている。SDGsは気候変動や海洋汚染などの環境問題や貧困や差別などの社会問題、雇用や教育の問題など、社会が抱えるさまざまな問題に対して取り組むもので、2030年に向けて世界で協力して達成するための17のゴール(目標)を設けている。デジタルの新技術はこれらの難題を切り拓くかもしれない。SDGsはビジネスにおける取引条件として、より重視されていくことは間違いない。

   安倍政権が「働き方改革」を声高に唱えても定着しなかったが、コロナ禍で一気に「テレワーク」「リモートワーク」が進んだ。次はSociety5.0だ。デジタル技術への理解や習熟も進んでいる。SDGsを念頭に入れてオープンイノベーションのあり方を描くことが、このウィズコロナの時代にこそ不可欠なのではないか。そしてチャンスではないか。

⇒23日(木)夜・金沢の天気  くもり時々あめ

☆ワインの独り夜話

☆ワインの独り夜話

    今月22日から始まる政府の観光支援事業「Go To トラベル」について、時期の見直しや感染者数の少ない地域から段階的に始めるべきといった意見が出ているようだ。一方で、「巣ごもり」生活もまだまだ続くのではないだろうか。先日、近くのスーパーマーケットの空き瓶回収箱に空き瓶を持って行った。自らも酒量が少々増えたせいか、このところ行く回数が増えている。回収箱を開けてその都度思うことだが、ワインの空き瓶が圧倒的に多い。酒瓶の全体の8割はおそらくワインだ。

   巣ごもり生活で家飲みが増えた。家族団らんで飲むとなると、日本酒や焼酎よりワインかビールが多いだろう。コンビニでも最近、ワインのコーナーがかなりの幅を取っていて、しかもフランス産やイタリア産もある。1本2千円近いものもあり、コンビニの売れ筋はワインではないだろうか。おそらく、昨年2019年2月に日本とEUとの経済連携協定(EPA)が発効して、ヨーロッパ産ワインの関税が撤廃されたことにもよるのだろう。日本にワインブームが起きている。今年になってさらにそれを加速させているのがコロナ禍だろう。

   昨夜、金沢市内のワインバーを知人と訪れた。客はまばらだったが、オーナーソムリエが別室でオンラインによるワイン教室を開いていた。受講者は8名でほとんどが女性。自宅でワインを飲みながら学べる、そんな気楽さもあってオンライン教室は人気だそうだ。

   数年前までコンビや酒販店に並んでいたワインはチリ産が多かった。日本とチリが2007年にEPAを結び、段階的に関税が引き下がられた効果でもあった。それが、昨年EUとのEPA発効でブランド中のブランドであるフランス産、イタリア産の輸入が急増し、女性たちがワイングラスを手にするようになった。ソムリエとそんな話をしたことがある。

   ワインバーでは、ブルゴーニュのワインを味わった。ブドウ品種はピノ・ノワール。ソムリエの解説によると、ピノ・ノワールは水はけがよい石灰質の土壌で冷涼な気候で育つが、病気にかかりやすくデリケートで栽培が難しい。農家泣かせのこの品種のことを欧米では「神がカベルネ・ソービニオンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った」と言うそうだ。ヴィンテージものだがまだ果実味もあり、優しく熟成を重ねたブルゴーニュワインだった。とりとめのないワインの独り夜話になってしまった。

⇒19日(日)夜・金沢の天気     くもり

★「世は常ならず」 ニューノーマルな日々

★「世は常ならず」 ニューノーマルな日々

   きのう高校時代からの友人と3人でランチを楽しむために金沢のステーキ店に入った。それぞれがステーキとサラダバーを注文した。さっそく、サラダを取りに行く。バイキング形式で色とりどりのサラダが並んでいて、好きなものを取って自らの皿に盛る。友人の一人がつぶやいた。「これでコロナ対策は大丈夫なのか」と。野菜をつまむトングは盛り皿ごとにそれぞれついているが、つまむ客が10人いれば10人が同じトングを使うことになる。友人の指摘は同じトングを使い回すサラダバーは、ウィズコロナのこのご時世に不適切という見方だ。確かに、箸のように1人で一つのトングを使う形式が時代のニーズだ。

   新型コロナウイルスの感染拡大で「ニューノーマル(new normal)」という言葉が広がった。新たな常識、という意味で解釈している。ウィズコロナの時代を生き抜く知恵としてのニューノーマルだ。身近な事例を拾ってみる。

   やはり、筆頭は「ソーシャルディスタンス(social distance)」だろう。人と人の距離を置く。スーパーマーケットのジレでは買い物客がさりげなく距離を空けて列をつくっている。レジで精算するときに買い物カゴとマイバッグをいっしょに出すと、以前は店員が商品をダイレクトにバッグに入れてくれたが、今はそれがない。買ったものは自らがマイバッグに入れる。これは客と店員のソーシャルディスタンスではある。

   「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉が金沢にあるが、このご時世は「弁当忘れてもマスク忘れるな」である。外出するときにマスクは必携だ。マスクをしていないと常識や人格までもが疑われる。さらに、マスクをしていても咳やくしゃみの音に周囲が過剰反応する。先日訪れたあるオフィスでマスクを着けていたものの、むせて2度咳をした。すると、「保健所にはやく行ってよ」と言わんばかりのきつい目線を浴びた。

   マスクのニューノーマールで言えば、使い捨てから洗濯で再利用が当たり前になった=写真=。マスクの色も黒や花柄など実にバリエーションに富んでいる。マスクに人の個性が表れている。人とマスクとの長い付き合いが始まったのだろう。

   最近では聞かれなくなったが、外出を控える社会現象を「巣ごもり」という言葉でたとえた。このブログで「巣ごもり」の言葉を使ったのが3月20日だった。ちなみに、アメリカでは「シャットイン(shut in)」と言うそうだ。この巣ごもりがその後、「テレワーク(telework )」や「リモートワーク(remote work)」という在宅勤務へと大きく展開した。安倍政権が「働き方改革」を声高に唱えても定着しなかったが、コロナ禍で一気にニューノーマル化した。自らもリモートワークで、会議はオンラインだ。たまに職場に行くとリフレッシュした気分になる。オンライン飲み会も結構楽しい。

   病院でのニューノーマルもある。4月22日に金沢市内の病院で検査で胃カメラ(内視鏡)を入れた。えずき(嘔吐反射)がつらいので、これまでは口からではなく鼻から入れてもらっていた。ところが、病院側では鼻から内視鏡を出し入れすると検査室にウイルスが飛び散る危険性があるということで、現在は口からでしか入れていない、と説得された。受け入れざるをえなかった。鎮静薬を注射して口から入れた。つらさはまったくなかった。

   病院でのニューノーマルをもう一つ。待合室はいつも混雑していたが、予約待ちの人たちだけなのだろう、コロナ以前に比べ人の入りが少ない。他の病院でも同じだ。「病院は3密、ちょっとしたことで病院にかからない」という社会風潮かもしれない。病院の経営にとってはマイナスだろう。逆にドラッグストアが混雑している。金沢市内でもこのところ新しいドラッグストアチェ-ンの店が次々と開店している。

   身近な事例でも、この社会的な常識の変化は著しい。「世は常ならず」。人の世には何が起こるか分からない。せめて、悔いのない毎日を送ろう。60歳も後半に入った友人たちとのランチもそんな会話でお開きとなった。

⇒17日(金)午前・金沢の天気   はれ

★持続可能な千枚田の風景~下

★持続可能な千枚田の風景~下

     輪島市白米町の千枚田の知恵と工夫は現代も生きる。棚田の中腹を貫く道路、国道249号にそれが見て取れる。今でも地滑り地帯であることから、斜面地への圧力を軽減する工夫がほどこされている。軽量の発泡スチロールのプロックを道路の盛土材として使用し道路全体を軽量化している。EPS(Expanded Polystyrene)工法と呼ばれ、完了した1987年には日本で初の施工例として紹介された。

  知恵と執念、そして感謝の念で継承する水田開発の歴史遺産

   しかし、農業の担い手の減少、若者の農業離れが現地でも進み、1004枚の棚田をどう維持するのか。そこで行政と地元の人たちが考えたのが、棚田オーナー制度だった。2007年から始めて、今では毎年100人ほどの会員が参加する。年間2万円で「マイ田んぼ」を得て、年間7回の作業(田起こし、あぜ塗り、田植え、草刈り3回、稲刈り)に参加する。会員が都合で参加できないときは、地元のグループ「白米千枚田愛耕会」が作業をカバーしてくれる。9月の収穫が終わると、精米10㌔と山菜が届けられる。休日に家族連れでやってきてマイ田んぼを楽しそうに耕す光景はグリ-ンツーリズム​でもある。

   収穫が終わると、千枚田は夜の観光地へとステージが変わる。畦道に取り付けられた2万5千個のLED「ペットボタル」がきらめく=写真・上、輪島市公式ホームページより=。棚田の夜を彩るイルミネーションイベントは2011年秋から始まり、毎年10月から3月まで楽しむことができる。

   毎年12月5日にこの地域の農家では農耕儀礼「あえのこと」が執り行われる。稲作の恵みを与えてくれた「田の神さま」にこの1年の田んぼの作業と収穫を報告し、ごちそうでもてなす=写真・下=。目が不自由とされる田の神さまを丁寧にもてなす「独り芝居」だ。先祖から受け継ぐ感謝の念でもある。あえのことはユネスコの無形文化遺産に2009年に登録されている。

   2011年6月、世界農業遺産に「能登の里山里海」が選ばれ、FAOの当時のGIAHS事務局長パルヴィス・クーハフカン氏が千枚田を視察に訪れた。案内役の輪島市長から説明を聞き、「すばらしい景観と同時に農業への知恵と執念を感じる。能登の千枚田は持続可能な水田開発の歴史的遺産だ」と印象を述べていた。

⇒17日(水)朝・金沢の天気      はれ

☆持続可能な千枚田の風景~上

☆持続可能な千枚田の風景~上

   ことしの梅雨は過激だ。降るとなる激しい。きょう16日も金沢地方気象台は金沢など加賀地方で昼過ぎから夕方まで急な強い雨や落雷があると注意警戒情報を出している。今月11日に北陸は梅雨入りしたが、すでに石川県内の各地で土砂崩れなどが起きている。

           深層崩壊から棚田をよみがえらせた2百年のレジリエンス

   雨による土砂崩れをとくに警戒しているのは能登半島の尖端部分の日本海に面した、いわゆる外浦(そとうら)に住む人たちだろう。防災科学技術研究所「地滑り地形分布図データベース」によると、過去に起きた土砂崩れ現場は能登半島ではこの外浦と石川県と富山県の県境に集中している。滑りやすいリアス式海岸の地形であることから大雨による土石流や地震による土砂災害、火山岩でできた凝灰岩の風化など要因がある。能登半島の里山里海をテーマに調査にでかけるとこの地に生きる人々の知恵に驚かされることもある。 

   輪島市白米町の千枚田は1004枚の棚田が海に向かって広がる=写真・上=。2001年に国の名勝に指定され、全国有数の観光地としても知られる。この地も地滑り地帯で、地元で語り継がれる「大(おお)ぬけ」と呼ばれる大規模災害が1684年(貞享元年)にあった。今の言葉でいう深層崩壊だ。その崩れた痕跡は今でも地肌がむき出しになった山側の斜面から見える。そして、田んぼのところどころに石に転がっていることからも、当時の様子が想像できる=写真・中=。その土砂崩れ現場を200年余りかけて、棚田としてよみがえらせた。

   深層崩壊が起きた理由の一つが山からの地下水が地盤を軟弱化させた。棚田を再生するあたっては、逆にその地下水を田んぼに流し込み、その水がすべての田ぼに回るように水路設計が施された。つまり、用水からの分岐ではなく、田から田への水の流れである=写真・下。このため、地域の人たちは田起こしや田植えといった作業をほぼ同時に行うことで水の回しもよくすることができた。

           こうした知恵と工夫で災害地を生産地に回復させた、いわゆるレジリエンス(resilience)の事例として、国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産(GIAHS)で評価されている。

⇒16日(火)午前・金沢の天気    はれ

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

   オープンを持ち望んでいる施設が金沢にある。同市出羽町に開館する国立工芸館。我が国で唯一の工芸を専門とする国立美術館となる。皇居の近く東京・千代田区北の丸公園にある東京国立近代美術館の分館である工芸館だった。地方創生の一環として東京に集中する国立の機関を地域に移す国の施策の一つとして金沢に移すことになった。移転を機に、分館から独立した国立美術館となる。石川県と金沢市が新たに受け入れの施設を用意した=写真=。

   国立近代美術館工芸館では所蔵する明治以降から近現代の陶磁や漆工、染織、金工、木工、竹工、ガラス、人形、工業デザイン、グラフィック・デザインなどの作品を展示してきた。そのうち作品1900点余りを金沢に移す。うち1400点は人間国宝(重要無形文化財保持者)や日本芸術院会員の作品で、さらに日本の工芸の歴史を語るうえで欠かせない作品が集まる。日本文化である工芸の至宝の集積がやってくる。まさに「工芸のナショナルセンター」(石川県公式ホームページ)だ。

    自身が工芸に興味を持つきっかけは35年余り前、新聞記者時代に輪島の支局に赴いたときだった。輪島塗を創る作家や職人、塗師屋(ぬしや)と呼ばれる漆器の製造販売を手掛ける人たちへの取材を通じて、ものづくりの仕組みや工芸品の見立てというものを習った。漆芸の人間国宝・松田権六氏(1896-1986)を取材したのもこのころだった。「目を肥やす」という言葉があるが、実物を見なければ理解できない作品の価値、歴史に磨かれた輝きがあるのだと教わった。

   最近と言っても2017年1月だが、金沢にある石川県立美術館で国立近代美術館工芸館が所蔵する名品展を鑑賞した。お目当ては松田権六作品「蒔絵槇柏文(しんぱくもん)手箱」だった。黒漆に金蒔絵や貝殻を埋め込む螺鈿(らでん)などの加飾技法が精緻に施されている。人間国宝になった1955年の作品だ。この作品を含め国立近代美術館は松田権六作品を35点も所蔵している。金沢出身でもあるという縁で、ぜひオープンのあかつきには35点すべてを展示する特別展を企画してほしいと願っている。

   すでに完成している洋風の建物はもともと兼六園の近くにあった明治期の建物(旧陸軍の指令部庁舎)を移築し再建したもの。建物自体が国登録有形文化財でもある。出羽町周辺は、兼六園を中心に歴史的建物や文化施設が集積していて、緑に包まれた文化ゾーンでもある。金沢21世紀美術館も近くにある。建物など景観を楽しみ、作品が鑑賞できること待ち望んでいる。ただ、東京オリンピックに合わせての開館予定だったが、新型コロナウイルスの影響でオープンの日程はまだ決まっていないようだ。

⇒6日(振休)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★パンデミックの世に響く「アメージング・グレース」

★パンデミックの世に響く「アメージング・グレース」

   新型コロナウイルスによる世界の感染者は250万人を突破し、死亡者は17万人を超えた。死亡者のうちアメリカがもっとも多く4万4千人、イタリア2万4千人、スペイン2万1千人、フランス2万人、イギリス1万7千人と続く(ジョンズ・ホプキンス大学CSSEホームページ)。今もアメリカやヨーロッパのパンデミックの中で多くの人々はsocial-distance(社会的距離)を求められ、家で過ごす日々を送る。

   イタリアのテノール歌手、Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)氏が現地今月12日、キリストの復活祭「イースター」に、ミラノのドゥオーモ大聖堂で無観客のソロコンサートを開いた。テーマは「Music For Hope」。その様子がユーチューブで配信され、再生回数は3800万回(22日現在)を超えている。

   コンサートはドゥオーモ大聖堂のオルガンの伴奏で「パニス・アンジェリクス」や「アヴェ・マリア」など4曲を歌った後、大聖堂を背に賛美歌「アメージング・グレース」を熱唱する。黒の蝶ネクタイ、盲目のボチェッリ氏がスタンドマイクの前まで一歩一歩進み歌い始める。じっと聴いていると、目の前に光が差し込んでくるようで感動を覚える。

   「アメージング・グレース」を歌う映像では、人のいない閑散としたパリ、ロンドン、ニューヨークの街も映し出される。世界各地でロックダウン(都市封鎖)が強いられ、身近で亡くなった死者を葬る場に立ち会うこともできない人々の嘆きはいかばかりか。そんな中で、人々はネットでこの歌を聴き、涙しながら心を一つに結んでいるのではないだろうか。そう思えてならない。動画のコメントにはコロナ感染で亡くなした肉親への哀悼の気持ち、そしてボチェッリ氏への感謝の言葉が連綿と連なる。
(※絵はミケランジェロ「アダムの創造」、2006年1月撮影) 

⇒23日(木)未明・金沢の天気    くもり