⇒トピック往来

★東京オリ・パラの感動をパリへ

★東京オリ・パラの感動をパリへ

   足掛け3ヵ月にわたるオリンピックとパラリンピックが無事に閉幕した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、パンデミックの下で1年間の延期や、開催をめぐる議論がメディアを巻き込んで沸き起こるなど、IOCの存在意義も問われた。アメリカのワシントン・ポストWeb版(2021年5月5日付)のコラムで、IOCのバッハ会長が「Baron Von Ripper-off」(ぼったくり男爵)と名指しされ、この言葉は世界中に広まった。世界の歴史に記憶されるオリ・パラになったに違いない。

   では、オリ・パラを終えて、総括的にメディアはどのように評しているのだろうか。先述のワシントン・ポストWeb版は「Athletes from Afghanistan carry their country’s flag in Paralympics Closing Ceremonies」の見出しで、アフガニスタンの2人の選手がパラリンピック閉会式で国旗を掲げて行進したことを伝えている。タリバンが政権奪取して、2人の選手は開会式は欠席し、大会ボランティアが代わりに「連帯の証」として旗を持って行進していた。

   ワシンポストは記事で、タリバン支配下でアフガンの女性は伝統的な役割と服装にとどまることが強いられる。アフガンの女性テコンドー選手は、男性と一緒に訓練している姿を見るだけでも、タリバンは「私たちを撃ってくるだろう」とインタビューで語ったと伝えている。文中では「two athletes ended Sunday in a poignant scene」と表現し、アフガンの2人の選手によって(パラが閉会した)日曜日は痛烈な場面で終わったと評している。

   2024年に開催されるパリ五輪のおひざ元のAFP通信Web版は閉会式の写真グラフ(16枚)を掲載し、IPC(国際パラリンピック委員会)のパーソンズ会長が閉会の宣言で、1年開催が延期された大会は「歴史的であったのみならず、素晴らしかった」と述べたと簡単に報じている。

   NHKニュースWeb版(5日付)はパーソンズ会長の閉会宣言の言葉をさらに詳しく報じている。「新記録を打ち出す選手の姿などを通して、東京大会は世界に自信や喜び、希望を与えた。これができたのは、私たち世界中の人々を受け入れ、選手に競技する機会と場所を与えてくれた日本のおかげだ」と感謝の言葉を述べた。そして「スポーツは扉を開いてくれた。私たちを隔てている障壁を壊す時が来た。東京大会はこれで閉会する。次はパリで会おう」と述べた。

   以下は自身の感想だ。オリンピック、そしてパラリンピックは期待を裏切らなかった。記録破りのスポーツの醍醐味を味わった。エジプトの卓球のパラアスリートが口でラケットをくわえ、身体を左右に大きく振りながらラリーを続け、強烈なレシーブを決める姿を見て、「人に不可能はない」と教えられた。当初、無観客はさみしいとも感じたが、毎日テレビで視聴していると違和感がなくなってきた。もちろん、無観客のオリ・パラの損益は明らかにすべきだ。

   桑田佳祐の『波乗りジョニー』はいまでも耳に残っている。「そして笑って もう一度 せつない胸に波音が打ちよせる・・・」。2024年のオリ・パラもぜひ盛り上がってほしいものだ。(※写真は8月8日の東京オリンピック閉会式で映し出された2024年のパリ五輪の映像=NHKテレビ)

⇒5日(土)夜・金沢の天気     はれ

☆パラリンピックで学ぶ「おもてなし」の心

☆パラリンピックで学ぶ「おもてなし」の心

   きのう夜のパラリンピック開会式をNHKテレビで視聴した=写真・上=。各国選手の入場行進を見ていると、先天的な障がいだけではなく、事故での障がいなどさまざまなケースがあることに気づかされた。エジプトの卓球に出場する男子選手は、10歳の時に列車事故で両腕を失い、ラケットを口にくわえ足でボールをつかんでトスを上げてプレーすると紹介されていた。どのようなプレーなのか見てみたい。

   前回のオリンピック開会式(7月23日)との違いは主役がいて統一感があったことだ。とくに、車イスに乗って「片翼の小さな飛行機」の物語を演じた和合由依さんは実に表情豊かだった。中学2年の13歳。先天性の病気で、手足が自由に使えない。演技経験はなかったが、一般公募でオーディションに合格したと紹介されていた。その主役を盛り立てる演技も心に響いた。

   派手なデコレーショントラックで現れたロックバンドの布袋寅泰氏が幾何学模様のギターで、全盲のギタリストや手足に麻痺があるギタリストらとともに演奏し、ダンサーたちが音と光の中で迫力あるパフォーマンスを演じていた。じつに感動的な演出で、新国立競技場のスタジオと視聴者との間の一体感が醸し出されたのではないだろうか。

   パラリンピック開会式を見ていて、ふと、奥能登の農耕儀礼「あえのこと」を思い出した。2009年にユネスコ無形文化遺産にも登録されている。毎年12月5日に営まれる。コメの収穫に感謝して、農家の家々が「田の神さま」を招いてご馳走でもてなす、パフォーマンス(独り芝居)を演じる=写真・下=。もてなしの仕方は家々で異なるが、共通することが一つある。それは、田の神さまは目が不自由という設定になっている。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂でうっかり目を突いてしまったなどの伝承がある。   

   ホスト役の家の主人は田の神さまの障害に配慮して演じる。近くの田んぼに田の神さまを迎えに行き、座敷まで案内する際が、階段の上り下りでは介添えをする。また、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。もてなしを演じる主人たちは、自らが目を不自由だと想定しどう接してもらえば満足が得られるかと逆の立場で考え、独り芝居の工夫をしている。

   これまで「あえのこと」儀礼を何度か見学させてもらったが、この儀礼は健常者のちょっとした気遣いと行動で、障害者と共生する場を創ることができることを教えてくれる。「もてなし(ホスピタリティー)」の原点がここにあるのではないかと考える。

   「能登はやさしや土までも」と江戸時代の文献にも出てくる言葉がある。地理感覚、気候に対する備え、独特の風土であるがゆえの感覚の違いなど遠来者はある意味でさまざまハンディを背負って能登にやってくる。それに対し、能登人は丁寧に対応してくれるという含蓄のある言葉でもある。「あえのこと」儀礼がこの能登の風土を醸したのではないかと想像している。

   13日間のパラリンピックをテレビで視聴する機会も増える。障がい者とどう向き合うかを考えるチャンスにしたい。そして、日本人にとってそれが当たり前の日常になれば、日本のホスピタリティーやユニバーサルサービスが世界で評価されるかもしれない。

⇒25日(水)午前・金沢の天気   くもり

★河野太郎氏と「ブースター」の因縁

★河野太郎氏と「ブースター」の因縁

   「ブースター(booster)」という言葉をこのブログで何度か使っている。英語のboostは「押し上げる」や「強化する」といった意味合いで幅広く使う。日本でのブースターはアンテナや機械の増幅装置を指す言葉として使っている。このブログでキーワードになったこともある。2020年6月26日付「☆北の弾道ミサイル、能登沖200㌔落下から3年」の記述は以下。

「今月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備計画を撤回すると表明してから10日余りが経った。その理由は最初よく理解できなかったが、ミサイルの『ブースター』と呼ばれる推進補助装置を基地内で落下させる想定だったが、基地の外に落下する可能性もあり、設備に大幅な改修と追加コストが必須となることから撤回に踏み切ったと報道各社が報じている。」

   北朝鮮のミサイルが日本海めがけて発射されていて、山口県の自衛隊演習場にイージス・アショアの配備計画が進んでいた。しかし、防衛大臣だった河野太郎氏はミサイルのブースターが演習場外に落ちる可能性があり、周辺住民に被害が出る可能性もあり、導入を断念せざるをえなかった。その河野氏は菅内閣では行政改革担当大臣、ならびに「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当大臣」に任命されている。そして、河野氏は再び「ブースター」を口にすることになる。

   すでにイスラエルなど始まっている新型コロナウイルスの3回目のワクチン接種。アメリカではバイデン大統領が2回目の接種を終えてから8ヵ月経った人に対し、9月20日から3回目の接種を行う方針を明らかにした(8月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカでは3回目接種を「booster shot」と称している。追加接種の意味だ。

   そして、河野大臣も19日開かれた参議院内閣委員会で「ブースター接種が必要かどうかは厚生労働省の判断を待たなければならないが」と述べて、新型コロナの治療に当たる医療従事者に必要となれば対応できるよう準備している答弁した(同・TBSニュースWeb版)。ブースター接種を日本でも始めることを示唆している。

 
   ただ、追加接種には異論が起きている。WHOのテドロス事務局長は今月18日の記者会見でブースター接種を批判している。「The divide between the haves and have nots will only grow larger if manufacturers and leaders prioritise booster shots over supply to low- and middle-income countries.」。ワクチン接種を国民の75%に施した国は10ヵ国で、低所得国はかろうじて2%の接種に過ぎない。メーカーとリーダーが低所得国と中所得国への供給よりもブースターショットを優先すれば、持っている人と持っていない人の間の格差はさらに大きくなる、と。

   テドロス氏は、ブースター接種に有効性について、これまで得られているデータでは科学的な根拠はないとの認識を示している。また、相互接続された世界に住んでいる人類にとって、「ワクチンナショナリズム」にとらわれることは無意味だとも述べている。WHOは途上国でのワクチン接種を進めるため、9月末までは追加接種を行わないよう各国に呼びかけている。

   河野氏は「3回目の接種が必要かどうかは厚生労働省の判断を待つ」としながらも、国内で2回接種は全体の39%とまだ半数に満たない(8月19日公表・総理官邸公式ホームページ)。さらに、「多様性と調和」をテーマに東京オリンピック・パラリンピックを開催している日本が「ワクチンナショナリズム」と名指しされるのも不本意だろう。では、どの段階で、ブースター接種を打ち出せばよいのか。場面は異なるが、2度「ブースター」という言葉を発することになった河野氏の心境を聞いてみたいものだ。(※写真はワクチン接種を受ける河野太郎氏=同氏ツイッターより) 

⇒20日(金)午前・金沢の天気      はれ後くもり

★「失われゆくモノ」に見出す新たな芸術価値

★「失われゆくモノ」に見出す新たな芸術価値

   あと3週間で「奥能登国際芸術祭2020+」(9月4日-10月24日)が石川県珠洲市で開幕する。16の国と地域から53組の芸術家たちが参加する。ローカルメディアによると、現場ではすでにアーティスト・イン・レジデンスによる作品づくりが市民も巻き込んで盛り上がっている。

   自身も開幕の日から現地に赴き芸術の秋を堪能することにしている。楽しみにしているのは「大蔵ざらえプロジェクト」。能登半島の先端に位置する珠洲市は古来より陸や海の交易が盛んだった。珠洲にもたらされた当時の貴重な文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵に保管されたままになり忘れ去れたものも数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が新たに開設される。芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏のアイデアで、「失われゆくモノから新たな社会共通資本をつくろう」と新たなアートの可能性を創造する。

          大蔵ざらえで回収された文物は日用品のほか、農具や漁具、膳や椀、キリコ灯籠、屏風や掛け軸など、まさに行き場のなくなったモノが美術や民俗、人類学、歴史学などに分類される。さらに、アーティストたちの手が施されることによって、現在から数百年余り昔への時間の旅、そして海を越えてつながる各地の風景を感じさせる旅へと誘ってくれること楽しみにしている。「スズ・シアター・ミュージアム」そのものも廃校となった小学校を活用している。

   ただ心配しているのは、このところ続いている地震だ。14日午後10時38分ごろ、能登半島の先端東側を震源とするマグニチュード4.1の地震が発生し、珠洲市で震度3の揺れを観測している。この地域では7月に地震活動が活発になり、7月11日には最大震度4が観測されている(15日付・ウエザーニュース公式ホームページ)。アーティストが丹精込めて制作した作品群に被害が及ぶのではないかと、芸術祭ファンの一人として気がかりではある。

(※写真は「海揚がりの珠洲焼」。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、幻の古陶が時を超えて揚がってくることがある=「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより)

⇒16日(月)午前・金沢の天気     くもり

★「つづれ米」と米食い虫の話

★「つづれ米」と米食い虫の話

   「つづれ米」という言葉を初めて知った。自宅のガレージに置いていた米袋にガのような虫が群がっていた。さらに袋を開くと玄米に無数の虫が繁殖していた。毎日のようにガレージを出入りしていたが、一気に虫が繁殖したようだ。袋の底には玄米がまだ10㌔ほどある。袋ごと処分しようかとも考えたが、いただいた米でもあるのと「もったいない」の気持ちが心をよぎって、まず虫を除けることから始めた。

   米作りに詳しい知人にメールで処理の仕方を尋ねると、「つづれ米ですね。まず、ムシを除去して天日で乾燥してください」との返信だった。このとき、初めて「つづれ米」という言葉を知った次第。「綴(つづ)れ」は 破れ布をつぎ合わせた古着のことで、生まれ育った奥能登ではかつて農作業などでおじさんやおばさんたちが着ていたことを思い出した。 確かに虫がいる玄米の表面を見ると米が一部変色していて、糸でつながっているような「つづれ」に見える。

   米粒を通すほどの荒い目の金網と通さない細か目の金網の2種を近くの「カーマホームセンター」で購入。ポリバケツの上に金網を乗せて、その上から虫のついた玄米を注ぎ込む。虫は数種類いる。ガはパッと飛び散り、クワガタのような黒い虫は逃げ回っている。インターネットなどで調べると、ガのようなものは「ノシメマダラメイガ」、クワガタのようなものは「コクゾウムシ」、別名「米食い虫」と言うようだ。変色した米粒が白い糸のようなものでつながっているのは、ノシメマダラメイガのサナギが出す分泌物という。(※写真・左がノシメマダラメイガ、右がコクゾウムシ=「Wikipedia」より)

   金網でこした玄米を今度は広げた新聞紙の上で天日干しにする。ムシやサナギはなんとか除去できたが、おそらく米粒の間には卵もあるだろう。3時間ほど天日で乾かした後、今度は米粒を通さない目の細かな金網で干した玄米をふるう。卵だろうか、白い粉のようなものがパラパラと落ちてくる。そして、ふるった玄米を別のポリバケツに入れて、なんとか作業は完了した。

   玄米ご飯を食べるために精米せずに玄米のまま米袋に入れておいた。まさか、虫がつくとは思ってもいなかったのが甘かった。せめて袋の口をヒモでしっかり結ぶなどしておけばよかった。ボリバケツの中を乾燥させるため玄米の上に木炭を置いて、フタをする。なんと一日がかりの「つづれ米」作業となった。

⇒13日(金)午前・金沢の天気     あめ

☆オリンピックの政治利用って何だ

☆オリンピックの政治利用って何だ

   「オリンピックを政治利用してはならない」との言葉はこれまで繰り返し聞いてきた。先の東京都議選(7月4日投開票)でも、自民と公明は選挙公約にオリンピックを入れていなかったが、都民ファーストの会は「無観客での開催」を、共産は「中止」を、立憲民主は「延期または中止」をそれぞれ公約に掲げていた。無観客、中止、延期と言えども、オリンピックそのものを公約に掲げること自体が政治利用ではないのかと考える。

   では、オリンピック憲章ではどのように明記されているのか。憲章の50条2項ではこう記されている。「No kind of demonstration or political, religious or racial propaganda is permitted in any Olympic sites, venues or other areas.」(オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、 あるいは政治的、 宗教的、 人種的プロパガンダも許可されない)と。これだけだ。「オリンピックの場」における政治的なブロパガンダなどは許されないと限定的な解釈だ。

          今回の東京オリンピックで上記の憲章に反するとして、IOCの勧告を受けたのが韓国選手団が選手村のバルコニーに掲げた横断幕だった。豊臣秀吉の朝鮮出兵に抗した李舜臣将軍の言葉にちなんだと連想させる、「臣にはまだ5000万国民の応援と支持が残っています」とハングルで書かれた横断幕だった。IOCは政治的宣伝と判断。横断幕は先月17日に撤去された(7月18日付・AFP通信Web版日本語)。

   そもそもなぜ、オリンピックの政治利用がこれほど敏感になったのか。ルーツはドイツで開催された1936年のベルリン大会だった。オリンピックがナチスドイツに仕切られ、総統だったヒトラーが開会宣言を行うなど、まさに大衆の熱狂と国威発揚、いわゆるポピュリズムを醸し出す道具として使われた。その3年後、ドイツはポーランドを侵攻し、第二次世界大戦が始まる。戦後、1980年のモスクワ大会では、ソ連によるアフガニスタン侵攻への抗議のためアメリカを中心とした西側諸国がボイコット、日本も同調し不参加だった。1984年のロサンゼルス大会では、ソ連が安全上の懸念を理由にボイコットした。

   オリンピックはまさに国内政治の道具や、国際政治の駆け引きの材料に使われてきた。では、次なるオリンピックの政治の争点はどこに焦点が当てられるのか。来年2022年の北京冬季オリピックではないだろうか。すでに、EU欧州議会は7月8日、北京冬季オリンピックついて、中国政府が香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害を改善しない限り、政府代表や外交官の招待を辞退するようEUや加盟国に求める決議を採択している(7月9日付。時事通信Web版)。選手たちの北京ボイコットなどはおそらく、東京オリンピック・パラリンピック後に最大の課題になってくるのではないだろうか。

(※写真は、7月23日の東京オリンピック開会式の模様=NHK番組)

⇒2日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆ワクチンパスポート申請は「勇み足」なのか

☆ワクチンパスポート申請は「勇み足」なのか

            新型コロナウイルスのワクチンを無事に2回接種し、副反応もなかったことから知人たちと海外旅行に行こうかとオンランでやりとりをしている。きょう26日から全国の自治体で「ワクチンパスポート」の申請の受け付けが始まるというので、さっそく午前中に金沢市役所に郵送で申し込んだ。知人たちから「えっ、旅行先もまだ決めていないのに、急ぐ必要はないよ」「あせることはない」とたしなめられた。確かに、旅行先すら決まっていないのに。これは自身の性格だ。体よくいえば「先手必勝」、悪く言えば「勇み足」「先走り」。

   ワクチンパスポートはワクチン接種を受けたことを証明するものだ。これを入国時に提示すると、隔離措置などが免除される。ただし、当面はイタリア、オーストリア、トルコ、ブルガリア、ポーランドの5か国のみで、今後相手国の確認が取れれば随時公表していくとしている(外務省公式ホームページ)。

   必要書類は金沢市役所の公式ホームページに記載されている。まず、ホームページから交付申請書をダウンロード。その他に旅券、接種した病院が発行した予防接種済証(臨時)、マイナンバーカードか運転免許など住所を明示するもの、それぞれコピーの一式をそろえた。返信用の封筒に切手を貼って同封して、近くの郵便局で投函した。市のホームページには「受付から接種証明書の発行までは1週間程度要します」と記載されている。来月の初旬にはワクチンパスポートが自宅に届くだろう。

   知人たちとのその後のメールのやりとり。自身は今月18日にワクチン接種の2回目を終えて安堵しているのだが、一人からこんなメールが。「接種を終えたからといって安心できないよ。毎日酒を飲んでいると抗体ができにくいらしい」と。これにはまたひと騒ぎが起きた。その知人が送ってくれたURLは読売新聞Web版の記事(6月6日付)だった。以下要約。

   千葉大医学部付属病院は、同院職員を対象とした新型コロナウイルスワクチンの有効性を調べる研究の経過報告を発表した。ファイザー社製ワクチンを2回接種した1774人のうち、99.9%の人に抗体の量を示す「抗体価」の上昇がみられたという。抗体価が上がりやすかったのは、コロナの罹患歴がある人や女性、抗アレルギー薬を内服している人。一方、副腎皮質ステロイドの内服や頻繁に飲酒をしている人などは、抗体価が上がりにくいことも分かった。ただ、同院は「十分な量の抗体ができていると考えられる」としている。

   上記の記事では「頻繁に飲酒をしている人などは、抗体価が上がりにくい」と記されている。続けて、「十分な量の抗体ができていると考えられる」とも書かれている。実に微妙な言い回しだ。知人たちは疑心暗鬼に陥った。本当は飲酒者には効果が低いのだが、正直にそのように報告書に掲載すると、社会が混乱する。そこで、「十分な抗体ができていると考えられる」とあえて付記しているのではないか、と。そもそも、「考えられる」は逃げの表現だ。

   オンラインでやり取りしている知人たちは皆、酒飲みだ。中には、繁華街に出る回数が減った分、毎日の家飲みが習慣化して家族関係が微妙になったと告白する輩もいる。ワクチンを2回接種したからと言って安心はできない、ということだ。ワクチンパスポートを持っているからと言って、抗体や免疫が担保されなければ意味がない。海外で感染すれば元も子もない。

   午前中の盛り上がりが午後には一転、海外旅行の話は急にトーンダウンしてしまった。ワクチンパスポートの申請はやはり「勇み足」だったのか。(※イラストは厚労省公式ホームページより)

⇒26日(月)午後・金沢の天気     はれ時々くもり

☆さいはての芸術祭 美術の最先端

☆さいはての芸術祭 美術の最先端

   能登半島の尖端に位置する石川県珠洲(すず)市でことし9月に開催される「奥能登国際芸術祭2020+」の市の担当者から先日、パンフレットを手渡しでいただいた。本来は昨年2020年の秋に開催だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で1年間延期となっていた。パンフに会期が9月4日から10月24日と記されていたので、「開催まで50日を切り、いよいよですね。前回(2017年)は『最涯(さいはて)』がテーマでしたが、今回は何ですか」と尋ねると、担当者は「大蔵ざらえなんですよ」と。「大蔵ざらえって、店仕舞いのセールスのときに使う言葉ですよね」と確かめると、「そうです。大蔵ざらえがアートになるんです」とにやりと笑った。

   パンフのメインの写真は、風でうなだれた海辺の松の木の下に六曲屏風や木桶、旧式のテレビ、壺などが置かれたものだ=写真=。よく見ると、「塩」と書かれた看板がある。珠洲は揚げ浜式塩田が栄えた土地なので、この家はかつてその塩を販売していた家なのかと想像した。不思議なもので、古い家具や道具などを見ると、つい、それを使っていた人々や生業、日常というもの思い浮かべてしまうものだ。では、それをどのようにアートにするのか。

   市内の廃校となった小学校体育館に家庭の蔵や納屋、押し入れやなどに眠っている古道具などのモノを集められ、それをもとにアーティストたちがいくつかの作品に仕上げていく。これに市民もサポーターとして参加し、古道具の搬入や、作品づくり欠かせない紐(ひも)を古着や古い布を材料につくるなど協力している。これまで市内の65軒から1500点を超える民具を収集したそうだ。

   これを「大蔵ざらえプロジェクト」と名付けて発案したのは芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏のひらめきだという。パンフはこう解説がある。

「陸や海の交易などにより珠洲にもたらされた文物は、時代とともに使われる機会が減り、その多くが家の蔵に保管されています。過疎、高齢化が進む珠洲では『家じまい』も進んでいます。江戸、明治、大正、昭和、平成、各時代の文物を珠洲じゅうから集め、アーティストと専門家が関わり、モノが主役の博物館と劇場が一体化した『スズ・シアター・ミュージアム』が誕生します」

   珠洲市は高齢化率が50%を超え、空き家や高齢世帯の増加が深刻な問題になっている。その中から、これまでになかった新たなアートの可能性を見出していく。北川フラム氏がよく使う言葉は、「失われゆくモノから新たな社会共通資本をつくろう」だ。そして、「大蔵ざらえプロジェックト」と銘打って、古道具アートの展示場を、劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」と名付けた。

   奥能登国際芸術祭は「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端。」のキャッチで、16の国と地域から53組のアーティストが参加する。現場ではすでにアーチスト・イン・レジデンスによる作品づくりで、市民も巻き込んで盛り上がっているようだ。

   ちなみに、同市の人口は1万3400人で、石川県19市町のトップを切って4月13日に新型コロナウイルスのワクチン接種をスタートとさせ、8月中には中学生以上の希望者全員の接種を終える予定だ。感染者の累計は4人と県内でもっとも少ない。9月4日に始まる芸術祭を意識してコロナ対策の先手を打ってきたことが奏功している。

⇒21日(水)午後・金沢の天気      はれ

☆スルメイカの巨大モニュメントを見に行く

☆スルメイカの巨大モニュメントを見に行く

   名付けられた愛称は「イカキング」。能登半島の先端部分に位置する能登町の九十九湾に出現したスルメイカの巨大モニュメントは全長13㍍、全幅9㍍、高さ4㍍、重さは5㌧のサイズだ。素材は航空機などに使う繊維強化プラスチックのFRP製だ。子どもたちが中に入って遊んだり、大人たちが写真を撮ったりと、けっこう人気がある。自身も実物をぜひ見たいと思い、きょう能登町に行ってきた。

   同湾にある小木漁港は全国で屈指のイカ類の水揚げを誇る。このことから町では特産イカの知名度向上にと昨年6月に観光交流センター「イカの駅つくモール」をオープンさせ、イカ料理などが味わえるレストランやイカの加工品を中心とした物産販売コーナーを設けた。さらセンターの芝生庭にことし4月に創ったのがイカキングだ。新型コロナウイルスの収束後の観光誘客を狙ったものだが、制作費3000万円のうち、2500万円がコロナウイルス感染症対応として国が自治体に配分した地方創生臨時交付金だったことから、議論を呼んだ。

   担当した町ふるさと振興課の職員に直接聞くと、「コロナ対策に使うべき交付金ではないか。なぜモニュメントをつくるのかと着工の段階から疑問の声がいくつか寄せられていた」と話す。職員によると、臨時交付金には「地域の魅力磨き上げ事業」という項目があり、それに該当すると説明しているという。イカの駅つくモールは、オープン半年で6万8千人の来場があり、当初予測していた1年間で7万人の予想見込みを上回った。さらに、話題性のあるイカキングとの相乗効果に期待を寄せている。

   そして、担当者は「コロナ後はインバウンド観光客も」と口にした。モニュメントが交付金で創られたことを疑問視するニュースは本来ならばローカルニュースだ。ところが、スルメイカの巨大モニュメントというカタチの異様さが受けてか全国ニュースで取り上げられ、さらに、イギリスのBBCやフランスのAFP通信、アメリカのニューヨーク・タイムズなども写真付きで取り上げた。それがネットニュースとしても世界に拡散した。

           なぜ欧米のメディアがニュースにしたのか。憶測だが、欧米ではタコやイカはデビルフィッシュ(Devilfish)、「悪魔の魚」にたとえられ、巨大化したタコやイカと闘うアメリカ映画もある。スルメイカの巨大モニュメントそのものが、いわゆる「絵になる」のではないか。能登町の隣の珠洲市では今年9月から国際芸術祭が開催される。デビルフイッシュがこれだけ話題になると、「ついでに見に行こうか」と立ち寄る国内外の鑑賞者もいるのではないだろうか。

⇒10日(土)夜・金沢の天気       くもり 

☆「アナログ選挙」いつまで続けるのか

☆「アナログ選挙」いつまで続けるのか

   東京都議選のニュースを視聴していて、きのう3日に各党首が最後のお願いを街頭演説で訴えていた。共産党の志位委員長は「菅総理と小池知事が、何がなんでもオリンピックやるっていうんだったら、都民の意思を示そうじゃありませんか。あすの都議選で、審判を下そうではありませんか」と。日本維新の会副代表の吉村大阪府知事は世田谷区で行った街頭での応援演説に約200人が足を止めていたと報じられている(7月3日付・毎日新聞Web版)。都議選の街頭演説の様子を新聞・テレビのメディアで見る限り、かなり「密」の状態だ。

   その後のニュースで、東京都で新型コロナウイルスの感染が新たに716人に確認され、先週の土曜日より182人増え、14日連続で前の週の同じ曜日を上回った(7月3日付・NHKニュースWeb版)。単純な話、都議選こそコロナ感染者を増やしているのではないだろうか。街頭演説や集会で「人流」と「3密」をもたらしながら、東京オリンピックの是非を問うことに矛盾を感じる。大阪市が昨年11月1日に「大阪都構想」の是非をめぐる住民投票を実施。その後、大阪は第3波のコロナ禍に見舞われた。東京もこの後、第5波が襲ってくるのではないだろうか。

   都議選(定数127)はコロナ禍で選挙運動そのものが相当に制約されていたことは想像に難くない。きょう午後8時で締め切られた投票率を見れば、有権者が「コロナ選挙」をどう見ていたか分かる。前回2017年は「小池」と「都民ファーストの会」のブームもあり、投票率は51%だったが、今回はコロナ禍で42%と9ポイントもダウン。1997年の40%に次いで過去2番目の低さだった。一方で、期日前投票(3日まで)は142万と都議選としては過去最高だったと報じられている(7月4日付・NNNニュースWeb版)。これは、コロナ禍で当日の投票会場には行きたくないという都民の意思表示ではないだろうか。

          上記の傾向は今回の都議選だけはない。2020年に行われた知事選と県庁所在地の市長選挙合わせた13の選挙のうち、11の選挙で期日前投票をした有権者数がこれまでで最も多くなっている(2020年12月29日付・NHKニュースWeb版)。

   午後9時からNHKの都議会選の特番を見た。スタジオでは出口調査で各党の当選候補者数を予想していた=写真=。NHKは「選挙のNHK」と呼ばれるほど、出口調査や開披台調査などを独自で実施し、民放各社とは比べものにならないくらいの速さと正確性で「当選確実」を出している。なので、候補者はNHKの出口調査にもとづく当確を確認して万歳や勝利宣言のインタビューに応じている。

   ただ、いつまでこのようなアナログな選挙をやるのだろうか。NHKも出口調査や開披台調査といったアナログなデータをもとに選挙特番をやるのだろうか。選挙をデジタル化し、いつでもどこででもスマホやパソコンで投票できる投票システムに改めるべきではないだろうかと思っている。9月にデジタル庁が新設される。省庁のデジタル化推進だけではなく、選挙制度や経済、福祉、教育など国全体のデジタル化を急がなければ日本の時代の遅れは決定的となるのではないかと危惧する。

⇒4日(日)夜・金沢の天気        あめ