⇒トピック往来

☆能登に帰ってきた等伯の国宝「松林図屏風」 精細複製「楓図」も

☆能登に帰ってきた等伯の国宝「松林図屏風」 精細複製「楓図」も

安土桃山時代の絵師、長谷川等伯は能登半島の七尾で生まれ育った。等伯の代表作「松林図屏風」は日本水墨画の最高傑作とも言われ、東京国立博物館が所蔵する国宝でもある。作品が初めて能登に帰ってきたのは、2005年5月に開催された石川県七尾美術館の開館10周年特別展だった。その松林図屏風が20年ぶりに能登に帰ってきたので、きょうさっそく七尾美術館に見に行ってきた。

テーマは開館30周年記念・震災復興祈念「帰ってきた国宝・松林図屏風 長谷川等伯展」=写真・上=。等伯は33歳の時に妻子を連れて上洛。京都の本延寺本山のお抱え絵師となり創作活動に磨きをかけた。一方で、京都画壇の一大勢力となっていた狩野永徳らとのし烈な争いがあったとされる。等伯が松林図屏風を描いたのは長男・久蔵が没した翌年の1594年。等伯56歳だった。強風に耐え細く立ちすくむ能登のクロマツの風景に等伯は自らの心を重ねたのだろうか。展示会場では、松林図屏風のほかに、能登半島地震で被災した能登各地の寺院から救出された等伯の作品を含め19点が並んでいる。等伯展は10月16日まで。(※写真・中は、国宝「松林図屏風」=国立文化財機構所蔵品統合検索システムより)

等伯の国宝「楓図(かえでず)」の高精細複製=写真・下=も同じ七尾美術館で展示されている。金色の風景を背景に、楓の大木の幹や赤と緑の葉が描かれていて、秋の自然がダイナミックに描写された作品だ。京都の智積院が所蔵する国宝「楓図」を、精密機器メーカー「キヤノン」が独自のデジタル技術を使い、NPO法人「京都文化協会」と共同で複製したもの。キヤノンの担当スタッフの解説によると、カメラで分割して撮影したデータをつなぎ合わせ、特性の和紙に印刷。その上で京都の伝統工芸士が金箔などで装飾したものだという。

この複製品はキヤノンから地元の七尾市役所に寄贈され、美術館ではガラスケースなしで展示されていている。ある意味で国宝の技がリアルに観察できる。展示はあす21日午前中まで。

⇒20日(土)夜・金沢の天気  雷雨

☆スーパーに「ガイマイ」並ぶ 高騰するコメ価格への波及効果は

☆スーパーに「ガイマイ」並ぶ 高騰するコメ価格への波及効果は

金沢の自宅近くのスーパーでは「外米(ガイマイ)」が並ぶようになった。もう60年も前の話だが、小学生のころに遊び仲間と「ガイマイなんか食えるか」と言っていたことを思い出す。炊き上げがパサパサしていて粘りの少ないまずいご飯のことをガイマイと称していた。この言葉を覚えたきっかけは、学校給食が始まるころで、親たちは学校で集会を開き、「ガイマイを子どもたちに食わせるな」「内地米(ナイチマイ)を食べさせろ」と訴えていたのを覚えている。

その後、再びガイマイという言葉を聞いたのはそれから5、6年経ったころだった。能登から出て金沢の高校に通うようになった。下宿先の近くにラーメンのチェーン店ができた。高校の仲間と行き、このとき初めてチャーハンを食べた。仲間は「ガイマイのチャーハンは美味い」と称賛していた。自身もなるほど思い、このときからガイマイのイメージがプラスに転じた。それぞれの料理によって使うコメが変わり、チャーハンのほかにピラフやリゾットならばガイマイに限る。食の多様化とともにガイマイの裾野も広がっている。

ただ、冒頭述べたス-パーでのガイマイの販売は食の多様性というよりむしろ高騰するコメの価格が背景にあるようだ。売り場に並んでいたのはアメリカ・カリフォルニア産の「カルローズ米」。5㌔袋が税込みで3867円となっている=写真=。備蓄米より少々安価だ。政府は「MA(ミニマムアクセス)」と呼ばれる仕組みで、毎年およそ77万㌧のコメを関税をかけず義務的に輸入していて、このうち10万㌧を主食用として民間に入札で販売している。落札されたコメは、例年より3ヵ月早く、今月11日から卸売業者への引き渡しが始まっている。カルローズ米はこのMAで輸入されたもの。つまり、政府は国産米の新米の時季を見計らったタイミングでカリフォルニア米を市場に投入したのだろう。

NHKニュース(16日付)によると、1㌔当たり341円の高い関税が課される民間のコメの輸入も急増していて、財務省の貿易統計によると、ことし7月の輸入量は2万6000㌧余りで、去年の同じ月のおよそ200倍になっているという。国産米の新米の価格が高値となる中、割安なガイマイ(外国産米)が市場に出ることで、今後のコメの価格はどうなっていくのか。価格の高騰は抑えられるのか。

⇒16日(火)午後・金沢の天気  はれ

☆「覆面のパロディ画家」バンクシーの作品 イギリス裁判所で物議

☆「覆面のパロディ画家」バンクシーの作品 イギリス裁判所で物議

けさ7時30分ごろ、金沢の自宅前の道路を登校する子どもたちのいつもの声が聞こえてきた。雨が結構降っていたが、その雨音に負けない子どもたちの元気な声だ。石川県内は、前線の影響で一時、大雨や洪水の警報が出されていたが、きょう8時すぎにすべて解除となった。日中は時折晴れ間ものぞく和らいだ天気だったが、気象台によると、このあとも大気の不安定な状態が続く見込みとのこと。

話は変わる。「覆面のパロディ画家」として知られるバンクシー。公共空間にスプレーと型紙で作品を描き去るストリートアーティストだ。ことし4月に金沢市内のデパートで「バンクシー新作版画展」の鑑賞に行ってきた。中でも面白かった作品が「JUDO」=写真・上、版画展チラシより=。柔道少年が大人の柔道家を投げるシーンが描かれている。2022年11月にウクライナの首都キーウ近郊にある街で発見された作品という。同年2月に始まったウクライナ侵攻でロシアは世界から批判にさらされることになる。プーチン大統領は柔道家としても知られる。少年がウクライナで大人の柔道家がロシアと見立てると、この絵は「ロシアに負けるな」というウクライナに対する応援メッセージと読み取れた。

バンクシー作品がまたメディアで話題になっている(※写真・下は、9日付・BBCニュースWeb版より)。バンクシーが9月8日に発表した新作。イギリス王立裁判所が入居する複合施設、クイーンズ・ビルディングの外壁に描かれた。イギリスの裁判官の衣装である黒いローブとかつらを身に着けた人物が、プラカードを掲げた抗議者を小槌で殴りつける様子が描写されている。抗議者は地面に横たわり、プラカードには血を思わせる赤い飛沫が飛んでいる。今回の壁画は9月6日にロンドンで行われたパレスチナ支持のデモで900人が拘束されたことへの抗議だという。

ただ、新作が発表されてすぐに、作品は大きなプラスチックシートと金属製バリケードで覆い隠され、2人の警備員による厳重な防御体制が敷かれていた。そして9月10日の朝、顔を覆い隠しヘルメットをかぶった業者によって、壁画は削り取られ、塗料で塗りつぶされたという。

バンクシーは大量生産や消費社会、そして時事性のある事柄を風刺してきたアーティストだ。今回、壁画は削り取られ、塗料で塗りつぶされたとなるとある意味でもったいない。ある見立てでは、壁画は最大500万ポンド(約10億円)で売れた可能性があったという。この一件でバンクシー作品の価値がさらに上がったようだ。

⇒11日(木)夜・金沢の天気  くもり

★イカキングの能登・小木のイカ 工夫凝らしラーメン限定販売  

★イカキングの能登・小木のイカ 工夫凝らしラーメン限定販売  

能登半島の先端部に位置する能登町の九十九(つくも)湾にイカの巨大モニュメントがある。全長13㍍、全幅9㍍、高さ4㍍のサイズ。素材は航空機などに使う繊維強化プラスチックのFRP製だ。名付けられた愛称は「イカキング」=写真・上=。能登のちょっとした名所にもなっていて、子どもたちが中に入って遊んだり、大人たちが写真を撮ったりと、けっこう人気がある。

イカキングと隣接するのは観光交流センター「イカの駅つくモール」。イカ料理などが味わえるレストランやイカの加工品を中心とした物産の販売コーナーがある。九十九湾にイカの巨大モニュメントや観光交流センターが設置されたのは、同湾にある小木漁港がスルメイカなどイカ類では全国屈指の水揚げを誇るからだ。能登町が特産イカの知名度向上と観光誘客を狙って2020年6月にセンタ-、イカキングを翌年2021年4月に設置した。

前置きが長くなった。回転ずしチェーン店「スシロー」は小木漁港で水揚げされた「船凍イカ」を使ったラーメンをきょうから期間限定(今月28日まで)と販売数限定(45万食)で提供すると記事で掲載されていた(9日付・新聞メディア各社)。イカのラーメンは初めてだったので、さっそく食べに行った。船凍イカは獲れたてのスルメイカなどを船内で急速冷凍したもの。メニューには「能登小木港いかのせ いか白湯醤油ラーメン」(460円)と記されている。

回って来たラーメン丼のフタを開けるとイカの香ばしい匂いがした。イカの煮付けと鳥むね肉のチャーシュー、そして海苔、刻みネギがトッピンクされている=写真・下=。スープもイカの旨みが漂っている。以下は憶測だ。白湯醤油は煮干しを煮詰めてつくったタレ、そこにスルメイカを煮込んだ出汁を加えているのではないだろうか。先の記事によると、スシローは去年6月から「ジモメシ」プロジェクトとして銘打って、地域のご当地グルメとコラボした商品開発を行っている。今回は第3弾となる。プロジェクトだけに相当の調味の工夫とアイデアを凝らしたに違いない。

それと、小木漁港の特産が選ばれたのは能登半島地震で被災した地域の海産物を商品化することで復興に寄与したい、企業のそんな想いが込められているのではないだろうか。温かなラーメンをすすりながらふと思った。

⇒10日(水)夜・金沢の天気   くもり

★秋の夜長楽しむ「ひやおろし」 被災した奥能登の7銘柄も醸造

★秋の夜長楽しむ「ひやおろし」 被災した奥能登の7銘柄も醸造

残暑の酒、秋の限定酒、あるいは秋の夜長の酒とでも言おうか、石川県ではこの時節の日本酒が造られる。「ひやおろし」だ。冬場に仕込んだ酒を1度だけ火入れして保存し、夏の間は酒蔵でじっくり寝かせて熟成させ、この時季に瓶詰する。まろやかな丸みのある味わいが特徴で、ひやおろしを待ちこがれる酒通も多い。

酒通の知人から聞いた話だが、ひやおろしの歴史は古く、江戸時代の初期のころからあるそうだ。そもそも、ひやおろしの語源は日本酒で常温のことを「冷や」と言い、その状態で「卸す」、つまり蔵出しすることを意味する。江戸時代から秋の風物詩として親しまれていたようだ。

石川県の酒造メーカーでも個別にひやおろしの伝統を守ってきたところもあったが、2007年からは石川県酒造組合連合会が卸売酒販組合や小売酒販組合と連携して一斉販売を始めた。ことしは酒造メーカー23社が参加し、秋限定の日本酒「石川ひやおろし」を共通のレッテルとして、きのう5日に一斉発売した=写真、金沢市内のス-パーで撮影=。23銘柄はいずれも720㍉㍑入りで価格は1650円から2420円。メディア各社の報道によると、酒販店からの予約は前年とほぼ同数の3万4030本で好調のようだ。ひやおろしの販売は10月末まで。

去年元日の能登半島地震で被災した奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)からは前年より2社多い7社の酒造メーカーが「ひやおろし」に参加した。奥能登の酒造メーカーで酒蔵が倒壊したままとなっているところもあり、連携する加賀地方の酒蔵で醸造しているようだ。

ひやおろしに合う料理と言えば、なんと言っても9月1日に日本海側で解禁となった底引き網漁の新鮮な魚介だろう。刺身では甘エビやガスエビの甘さが、ひやおろしのまろやかな丸みのある味わいと合う。酒と料理のマリアージュで秋の夜長が楽しめる。

⇒6日(土)夜・金沢の天気  はれ

☆底引き網漁が解禁 金沢の近江町市場を彩る旬の海の幸

☆底引き網漁が解禁 金沢の近江町市場を彩る旬の海の幸

きょうは朝から熱風が吹いている。金沢の最高気温はきのうと同じ36度の予想(日本気象協会「tenki.jp」公式サイト)。気象庁と環境省による熱中症警戒アラートはきょうも石川県に出されていて、ことし37回目(初回7月4日)となる。年間の発出回数はこれまで2023年の36回が最多だったので、記録を更新したことになる。この猛暑、いつまで続くのか。

この暑さの中できのう1日、日本海側の底引き網漁が解禁となった。底引き網漁は、袋状の網を海に入れて海底の魚をとるやり方。ある意味で一網打尽の漁法なので、海の資源を守るために7月と8月を禁漁とする期間を設けている。きのう漁が解禁、きょうが初競りの日で、金沢のスーパーなどの鮮魚売り場はにぎやかしくなる。何しろ、地元で取れた魚なので鮮度が違う。普段見かけることもない魚も並び、売り場では「底引き解禁だよー」と声が響くのがきょう2日だ。

午前中、「金沢の台所」でもある近江町市場をのぞいた。鮮魚店の売り棚には、水揚げされたばかりの甘エビやカレイ=写真=、ハタハタ、メギス、ノドグロなどがずらりと並び、店員が「底引き解禁だよ、脂がのっておいしいよ」と張り切っていて、多くの客が初物を買い求めていた。隣の青果店ではナシやモモなどが店頭を彩っていて、里山里海の味覚の秋の雰囲気を醸していた。

地元メディアの報道によると、解禁日に向けて8月31日夜に出漁した底引き網漁船は県内の各漁港から延べ72隻に上った。石川県沖の底引き網漁は、台風などのため2年連続で9月1日の解禁日に漁を開始できなかったので、ことしは3年ぶりに解禁初日に水揚げが始まったことになる。ただ、初日は海はあいにくのシケ。このため、漁を午前中に切り上げ、港に戻った漁船もあったようだ。きょう2日午前3時半から金沢市中央卸売市場で初競りが行われたが、初競りの入荷量は11.7㌧と例年の6割程度だったという。

去年元日の能登半島地震で漁港の海底が隆起したことから漁船を港外に出せず、11月になってようやく出漁が可能になった輪島漁港の底引き船団25隻もことしは解禁初日に初物を求めて出漁した。輪島沖では、ノドグロやカレイ、マダイなどが採れる。こうして底引き網漁の解禁日のニュースや近江町市場で並んだ初物を見ると、震災を超えて旬の味覚の日常が戻ってきたようで消費者の一人として率直にうれしくなる。

⇒2日(火)午後・金沢の天気  はれ

☆能登・祭りの輪~万博盛り上げるお熊甲、燈籠山、あばれ祭~

☆能登・祭りの輪~万博盛り上げるお熊甲、燈籠山、あばれ祭~

きょうも金沢は35度の猛暑日。熱中症警戒アラートも10日間連続で出ている。そんな暑さを吹き飛ばす、熱い催しが能登の祭りかもしれない。あす27日、大阪・関西万博のEXPOアリーナ「Matsuri」で「石川の日祭りイベント」が開催される。テーマは、「いしかわの祭り~未来へつなぐ伝統と能登復興の響き~」、能登と加賀を代表する祭りが一堂に会する。以下、大阪・関西万博イベント出展「石川の日」Webサイトより。

祭りイベントには石川県内の20の祭り団体、1000人余りが出演する。中でも注目は七尾市中島の「お熊甲(くまかぶと)祭り」だろう。毎年9月20日に行われることから、地元では「二十日祭り」とも呼ばれている。天狗面を着けた猿田彦が軽妙な舞をしながら先導し、男衆が高さ20㍍余りの深紅の枠旗を掲げ、「イヤサカサー」の掛け声と鉦‧太鼓を打ち鳴らし町内を練り歩く。見どころは「島田くずし」と呼ばれる旗を地面すれすれまで傾ける妙技だ=写真・上、「和倉温泉お祭り会館」公式サイトより=。約400年の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財に指定されている。あすは200人に及ぶ派遣団が万博会場で妙技を披露する。

きらびやかな山車は珠洲市飯田町の「燈籠山(とろやま)」だろう。高さが16㍍あり、「えびす様」の人形を載せている。夜になると、煌々と明かりを灯して、8基の曳山とともに街中を練る=写真・中、珠洲市公式サイト「GO TO SUZU  飯田燈籠山祭り」より=。毎年7月20日と21日に行われる江戸時代が起源とされる祭礼で、去年は能登半島地震で開催できなかったものの、ことしは2年ぶりに巡行した。木遣り歌『きゃーらげ』を大声で歌いながら、山車と曳山が万博会場を練る。

そして能登町宇出津の「あばれ祭」も万博であばれる。能登でキリコと呼ぶ「切子灯籠(きりことうろう)」を老若男女が担ぎ、「イヤサカヤッサイ」の掛け声で港町を練る=写真・下=。絶好調になると、神輿を川に投げ込んだり、火の中に放り込むなど、担ぎ手が思う存分に暴れる。それを神が喜ぶという伝説がある祭りだ。毎年7月4日と5日に開催され、夏場の能登のキリコ祭りの先陣を切る祭りでもある。

深紅の枠旗をたなびかせ、えびす様の山車と曳山が練り、イヤサカヤッサイとキリコがあばれる。祭りの担ぎ手は全国からの震災支援への感謝の気持ちを込めて担ぐだろう。 能登の祭りは万博会場を盛り上げるに違いない。

⇒26日(火)夜・金沢の天気  はれ

☆能登・祭りの輪~輪島を練る豪華キリコ、復興へ掛け声響く~

☆能登・祭りの輪~輪島を練る豪華キリコ、復興へ掛け声響く~

前回ブログの続き。能登半島地震の被災地を巡る日帰りバスツアー「能登半島地震を風化させないために(減災企画)」で輪島市の中心部を巡ると、輪島大祭が行われていた。市内の重蔵神社、奥津比咩神社、住吉神社、輪島前神社の4社で23日から25日まで連続して営まれる夏祭りが総称して「輪島大祭」と呼ばれている。

初日の23日は重蔵神社、奥津比咩神社の祭り。重蔵神社は中心部の河井町にあり、17本のキリコが出る。バスで訪れたのは午後4時過ぎだったが、市内を朱色のキリコが練り歩いていた=写真・上=。能登のキリコは白木が多いが、輪島のキリコは朱塗りされたものや、黒漆のものが多い。さらに、輪島塗蒔絵や金箔で飾りつけられたものが豪華さを引き立たせる=写真・下=。かついて聞いた話だが、地区がそれぞれ豪華さやきらびやかさを競ってキリコを造るため、1本2000万円くらいはするそうだ。

この日は輪島は35度ほどの暑だったが、威勢いい掛け声が街中に響き、猛暑を吹き飛ばす熱気だった。そして、面白い光景がその祭りの一服の様子。ビルの木陰で老若男女が笑いながら楽しく会話が弾んでいた=写真・下=。能登半島地震で金沢などに避難している人やほかの都市で就職した人たちが祭りの日に帰って来て、年に一度の祭りを楽しむ。お酒が入った勢いがあるのかもしれない。この後、また張り切ってキリコを担いで市内を練る。能登では、「1年365日は祭りの日のためにある」、「盆や正月に帰らんでいい、祭りのために帰って来い」とよく言われる。まさに、その祭りを楽しむ光景だった。

見学は30分ほどだったが、街中を歩くと公費解体で空き地が点在する。ワッショイ、ソリャッーと響く祭りの掛け声は輪島の人たちが復興へと心を一つにしているように聞こえた。

⇒24日(日)午前・金沢の天気   はれ

☆庭に咲くユリの花 同じユリでも外来種は駆除すべきか

☆庭に咲くユリの花 同じユリでも外来種は駆除すべきか

庭のタカサゴユリの花が開き始めた=写真・上=。例年ならば処暑(8月23日)のころが開花の時季だが、ことしは5日ほど早いようだ。旧盆が過ぎた今のこの頃は花の少ない時季でもあり、金沢では茶花として重宝されている。

10年ほど前の話だが、このタカサゴユリをめぐって意見を交わしたことがある。金沢大学で教員をしていたときのことだ。金沢ではタカサゴユリを茶花として床の間に飾ることを話すと、植物の研究者が「えっ、あんな外来種を床の間に飾るなんてバカげている」と嘲笑したのだ。自身もそのときまではあまり自覚はなかったが、タカサゴユリは漢字名で「高砂百合」。日本による台湾の統治時代の1924年ごろに園芸用として待ち込まれたようだ(Wikipedia「タカサゴユリ」)。当時としては外来種という意識もなく、ユリとして日本人になじんだのだろう。そして、茶室の床の間にも飾られるようになった=写真・下=。

ところが、先の植物の研究者のように、立場が異なればタカサゴユリは外敵、目の敵だ。国立研究開発法人「国立環境研究所」の公式サイトには、「侵入生物データベース」にリストアップされている。侵入生物、まるでエイリアンのようなイメージだ。「学名」はLilium formosanum。注目したのは、「備考」だ。「全国的に分布を広げている種であり、自然植生に対して悪影響が及ばないよう、適宜管理を行う必要がある」と記載されている。ただ、以前読んだ「備考」では、「近年各地で繁茂しているが花がきれいなためなかなか駆除されない。少なくとも外来種であることを周知する必要がある」と書かれていて、苦々しさが伝わってくるような文面だった。いずれにしても要注意の植物と指摘している。

植えた覚えはないので、おそらく種子が風に乗って庭に落ちて、繁殖したのだろう。確かに繁殖力は強い。根ごと抜いてもいつの間にか生えてくる。前述のデータベースの「影響」の欄には、「植物病害ウイルスの宿主であることが報告されており、これらのウイルスを在来植物種に媒介するリスクが想定される」とあり、在来種を枯らす恐れもあるようだ。

花を見ていれば、心が和む。それを在来種に影響を与える外来種だと区別して駆除すべきなのか。ある意味悩ましいタカサゴユリではある。

⇒19日(火)午後・金沢の天気  はれ

☆能登半島地震から1年7ヵ月 文化財レスキューで新たな発掘と発見

☆能登半島地震から1年7ヵ月 文化財レスキューで新たな発掘と発見

前回ブログの続き。金沢市の石川県立歴史博物館で開かれている特別展『未来へつなぐ~能登半島地震とレスキュー文化財』ではこれまで知られた文化財だけでなく、被災した民家や蔵などでのレスキューで新たに発見された名画などもある。

林景村筆『猿猴図額(えんこうずがく)』=写真・上=。能登半島の中ほどにある中能登町能登部の被災家屋で見つかった。説明書きによると、被災家屋は個人宅で、解体前に所有者が同館に所有する美術品などの取り扱いについて同館に相談に訪れた。去年3月22日に現地調査し、7月23日にレスキューを行った。猿猴図額はその中の一つ。松の木に登る手長猿が描かれた額だ。作者は林景村とあるが不明の人物だった。そこで、同館が戦前の美術名鑑を調べると、能登で活躍した画家の貴重な作品であることが分かった。

景村は明治40年(1907)生まれ。さらに現地での聞き取り調査から、元の所有者が申年生まれであり、それにちなんだ作品でもあることが分かった、と説明書きにある。この作品を見て、時代は違うが同じ能登出身の安土桃山時代の絵師、長谷川等伯(1539-1610)の『松林図屏風』(国宝)を思い出した。靄(もや)の中に浮かび上がる浜辺のクロマツ林。能登の絵師にとって松の風景は絵のモチーフなのだろうか。

能登半島の尖端、珠洲市で中世を代表する焼き物、珠洲焼がある。室町時代から地域の生業(なりわい)として焼かれ、貿易品でもあった。船で運ぶ際に船が難破し、海底に何百年と眠っていた壺や甕(かめ)が漁船の底引き網に引っ掛かり、時を超えて揚がってくることがあり、「海揚がりの珠洲焼」として骨董の収集家の間では重宝されている。一方、山林から出土する壺もある。多くは骨壺だ。今回展示されているのは『珠洲叩壺・珠洲刻文叩壺』(鎌倉時代末期~南北朝時代、14世紀のもの)。所有者の珠洲の実家にあったが、被災したため、去年3月4日に同館に持ち込まれた。

そのほか、能登ならでの道具がある。『岩ノリ採りの道具』(昭和20年代に製作)。岩ノリの採取や加工に用いられた竹細工の数々だ。志賀町笹波や前浜地区では戦前まで全戸が副業として竹細工を営んでいた。戦後は捕鯨船の船員となり竹細工の副業から離れ、現在では1人のみがその技術を伝えている。「亡き父が作った竹細工がある。資料になるなら」と所有者から同館に声掛けがあり、去年10月10日に救出した。

発災から1年7ヵ月、震災の公費解体に伴いこうした希少な技術の作品や文化財が消滅する恐れがあると同館ではいまも文化財のレスキューを続けている。

⇒2日(土)午後・金沢の天気  くもり