★「へんざいもん」の味
金沢大学が能登半島で展開している「里山里海自然学校」は廃校となった小学校の施設を再活用して開講している。ここでは生物多様性調査や里山保全活動、子供たちへの環境教育、キノコ山の再生などに取り組んでいる。もう一つの活動の目玉が「食文化プロジェクト」だ。
学校の施設だったので、給食をつくるための調理設備が残っていた。それに改修して、コミュニティ・レストランをつくろうと地域のNPOのメンバーたちが動き営業にこぎつけた。その食堂名が「へんざいもん」。愛嬌のある響きだが、人名ではない。この土地の方言で、漢字で当てると「辺採物」。自家菜園でつくった野菜などを指す。「これ、へんざいもんですけど食べてくだいね」と私自身、自然学校の近所の人たちから差し入れにあずかることがある。このへんざいもんこそ、生産者の顔が見える安心安全な食材である。
地元では「そーめんかぼちゃ」と呼ぶ金糸瓜(きんしうり)、大納言小豆など、それこそ地域ブランド野菜と呼ぶにふさわしい。そんな食材の数々を持ち寄って、毎週土曜日のお昼にコミュニティ・レストラン「へんざいもん」は営業する。コミュニティ・レストランを直訳すれば地域交流食堂だが、それこそ郷土料理の専門店なのである。ある日のメニューを紹介しよう。
ご飯:「すえひろ舞」(減農薬の米)
ごじる:大豆,ネギ
天ぷら:ナス,ピーマン
イカ飯:アカイカ,もち米
ユウガオのあんかけ:ユウガオ,エビ,花麩
ソウメンカボチャの酢の物:金糸瓜、キュウリ
カジメの煮物:カジメ,油揚げ
フキの煮物:フキ
インゲンのゴマ和え:インゲン
上記のメニューがワンセットで700円。すべて地域の食材でつくられたもの。郷土料理なので少々解説が必要だ。「ごじる」は汁物のこと。能登では、田の畦(あぜ)に枝豆を植えている農家が多い。大豆を収穫すると、粒のそろった良い大豆はそのまま保存されたり、味噌に加工されたりして、形の悪いもの、小さいものをすり潰して「ごじる」にして食する。カジメとは海藻のツルアラメのこと。海がシケの翌日は海岸に打ち上げられる。これを細く刻んで乾燥させる。能登では油揚げと炊き合わせて精進料理になる。
里山里海自然学校の研究員や、環境問題などの講義を受けにやって来る受講生や地域の人たちで40席ほどの食堂はすぐ満員になる。最近では小学校の児童やお年寄りのグループも訪れるようになった。週1回のコミュニティ・レストランだが、まさに地域交流の場となっている。金沢大学の直営ではなく、地域のNPOに場所貸しをしているだけなのだが、おそらく郷土料理を専門にした「学食」は全国でもここだけと自負している。
※写真・上は「へんざいもん」で料理を楽しむ。写真・下は文中のメニュー。赤ご膳が祭り料理風で和む
⇒19日(金)朝・金沢の天気 くもり