⇒メディア時評

★テレビの経営環境と近未来

★テレビの経営環境と近未来

  2日に大阪市で開かれた民間放送全国大会の会場に立ち寄る機会を1時間余り得た。民放大会は経営陣が集まる会合で、どちらかというと「大人(おとな)しい」というイメージだったが、2つの点でかなり熱いものを感じた。

   一つは、「ライブドアとフジテレビジョン」、そして現在進行形の「楽天とTBS」と続くIT企業とテレビ局(東京キー局)をめぐる株式の争奪戦、経営統合問題である。まさに経営の根幹にかかわる事態だ。民放大会では「テレビとインターネットの融合に向けて」と題するシンポジウムが開催され、ネット企業トップやテレビ局幹部らが議論を繰り広げたようだ。「ようだ」というのは私は直接この議論を聞いたわけではないので、翌日の新聞報道から内容を以下引用する。

   議論の中で、ヤフーの井上雅博社長は「技術的に通信基盤で番組を流せるようになった結果、情報の流通業でもあるネット企業がテレビ番組を使いたいと考えるのは自然な流れだ」と述べた。これに対し、フジの飯島一暢上席執行役員は「ITと放送は異なる文化。連携はあっても融合するのは難しい。ただ、ネットの色々なものを取り込もうと努力している」と企業文化の違いを中心に説明した。飯島氏が言いたかったのは、いきなり土足で上がりこんできて、「あなたが好きだ」とプロポーズされるようなもので、そのような発想は今のテレビ業界は到底受け入れられるものではない、と言っているようにも読める。

    私が直接見て感じた今大会の「熱さ」のもう一つが「ワンセグ」である。まもなく実用化される最新技術をいち早く体験できるあって随分とにぎわっていた。地上デジタル放送の電波を構成する13セグメント(区分)の1つを利用して、携帯端末向けに番組(簡易動画)を放送する仕組みで、地上デジタルとは違った内容で放送となり、「ワンセグ放送」と呼ばれる。いまでも一部の携帯電話でアナログテレビ放送を視聴できるものもある。が、テロップ(字幕)までは読めない。ところが、ワンセグ放送では携帯の画面サイズに最適化された放送が実現され、テロップも読める画質だ。テレビ局が「ケータイの世界」に入り込む突破口になると期待されているのだ。

   このようにテレビには「次ぎ」の可能性が広がっている。IT企業はそこを見込んで、業務提携や経営統合とプロポーズをかけている。テレビ業界の経営環境と近未来が凝縮された大会だったと言えるかもしれない。

⇒4日(金)午前・金沢の天気   はれ

★「近い存在」「遠い存在」

★「近い存在」「遠い存在」

   「トヨタは年間の宣伝費のうち800億円をテレビで使っている。私だったらこの金で自前のテレビ局をつくる…」。そう言ったのは、10月14日に金沢市で講演したIT業界の論客、孫泰蔵氏(「アジアングルーヴ」代表取締役)だ。民放キー局系のBS放送の資本金が300億円ほどなので、年間800億円もあれば、相当なパワーをもったテレビメディアの構築は確かに可能である。

   TBSに対して共同持ち株会社による経営統合を提案した楽天の三木谷浩史会長兼社長はきのう(26日)、TBS株を持ち株比率で19.09%まで買い増したと発表した。楽天がこれまでTBS株の取得につぎ込んだ合計はざっと1110億円にのぼる。孫氏流に言えば、「この1110億円の金で、自前のテレビメディアをつくればいいじゃないか」となる。

   インターネット企業から見れば、テレビ局は「近い存在」と思うかもしれないが、テレビ局から見れば、インターネット企業は「遠い存在」である。楽天はインターネットという通信を利用して「仕組み」をつくり、その便利さを競って利用者を集めて使用料を取る。しかし、テレビ局は番組という商品をつくってスポンサーに売る。評判(視聴率)が悪ければ、次は買ってもらえない。テレビ局はメーカーなのである。これに対し、ネット企業はどちらかと言えばサービス産業に近い。ここに感覚のズレがある。「株を買占めたから会社を統合しよう」と迫る楽天の発想は株式の上で通用しても、実際の経営で果たして通用するのか。

   事例を上げれば分かる。アメリカ・オンライン(AOL)と、CNNなどを傘下に持つ「タイムワーナー」が2000年に合併した。当時勢いのあったAOLは株価も高く、実質的にタイムワーナーを38兆円で買収したと話題になった。あれから5年、どうなったか。統合すると、タイムワーナー側の経営はAOLに比べ強固で安定していた。それに比べ、AOL側はネット不況による業績不振や粉飾決算疑惑などコンプライアンスの問題で、AOL側の経営陣が次々と駆逐され、結局、経営の主導権を握ったのはタイムワーナー側だった。企業名も「AOLタイムワーナー」から「タイムワーナー」に戻り、AOLはタイムワーナーの単なるネット部門に成り下がった。いまAOLを切り離そうと、株式の売却交渉が進んでいる。

   では、楽天には三木谷氏以外どれだけの経営陣がそろっているのか。仮に統合したとする。TBSはすでにデジタル化投資を終えた超優良企業だ。弱みはない。しかも、「モノづくり」や大手スポンサーとの交渉で鍛え上げてきたTBS側の実務スタッフと、楽天側が同じテーブルで論議すれば一目瞭然だろう。楽天側は論破され、太刀打ちできなくなる。楽天がAOLの轍(てつ)を踏むとまで言わないが、プロセスが似ている。

   再度、孫氏の言葉を引用する。「それだけお金があれば、自前でテレビメディアをつくればいいじゃないか」。孫氏が講演で語った真意は、確立されたメディア媒体を買収するより、ニューメディアをつくった方が企業価値は高くなる、と説いたのである。孫氏の言葉は正論に聞こえる。

⇒27日(木)朝・金沢の天気  はれ

★デジタルの進歩と判決

★デジタルの進歩と判決

  きょう(24日)、大阪地方裁判所で著作権をめぐる、ある意味で重大な判決があった。マスコミ各社はもっと大きく取り上げてもよいと思ったのだが、以外に扱いは小さい。マンションに住民共用のサーバーを設置し、住民が予約したテレビ番組を一括録画して好きな時間に視聴できるシステムは著作権を侵害するとして、大阪の民放5社が東京のシステム開発会社に販売差し止めなどを求め、訴訟を起こしていた。判決は、民放側の訴えを認め、この会社に5社の放送エリア(近畿2府4県)で販売しないよう命じた。

  このシステムは裁判沙汰になるほど画期的だ。開発した会社は「クロムサイズ」。このシステムの名称は「選撮見録(よりどりみどり)」、名前からして振るっている。システムはこうだ。マンション内の共用サーバーと各世帯がLAN回線でつながり、マンションの住人が事前に録画予約をした番組を好きな時間に配信を受けて視聴する。1台の共用サーバーで最大1000時間の録画が可能。住人は予約した番組しか視聴できないが、「全局予約」でセットすればすべての番組を見ることができる。まさに選撮見録なのだ。この装置は大阪市内のマンションに設置される予定だった。

  大阪の民放5社が「待った」をかけた理由は、著作権法で例外的に録画(複製)が認められている「私的使用目的」を逸脱しているとの言い分だ。言い方を変えれば、「録画代行サービスと変わらない」というわけだ。これに対し、クロムサイズ側は「あくまでも予約した番組を見るので私的複製と変わらない」と反論した。

  で、判決は冒頭の通り。ク社側の違法性を認めた理由は明快だった。「システムの設置者と使用者が異なり、私的使用に当たらない」と。つまり、装置を設置する管理組合が録画の主体であって、個人ではない、という判断だ。この判決は視聴者にはなかなか分かり難いかもしれない。なぜなら、管理組合は住人で構成する閉じた組織で、管理組合と住人を全く別の主体とみなすことに違和感を感じる人も多いだろう。「装置は共同管理というだけのこと、実態は私的使用目的ではないのか」と。

   かつて著作権法に私的使用目的が盛り込まれて、ビデオの録画装置が一気に家電の成長株となった。しかし、デジタル技術は日々進歩している。大容量の1台のサーバーで1000時間録画の時代だ。VHSでちまちまと録画をする時代はもう終わる。法と現実が乖離(かいり)しないためにも、著作権の新しい解釈や理念が必要なのかもしれない。

⇒24日(月)夜・金沢の天気   くもり

★続・NHKにCMは流れるか…

★続・NHKにCMは流れるか…

  12日付の「自在コラム」で「NHKにCMは流れるか…」のテーマでNHK民営化の可能性について触れた。その文末に安倍晋三氏あるいは中川昭一氏あたりがその口火を切るかもしれないと書いた。このブログを見たテレビ業界の知人がさっそくメールを送ってきた。「NHKへの関与が取り沙汰されている両氏が今度、民営化論を持ち出せば、それこそNHKいじめと見られないか」という内容だ。

   せっかくメールをもらったので、なぜ両氏の名を挙げたのかという点を深めて説明したい。理由は2点ある。NHKが政治家に「弱い」のは、NHKの予算審議などは政治マターだからである。放送法では、NHKの経営委員会メンバーは衆参両院の同意を得て、内閣総理大臣が任命することになっている(16条)。しかも、事業予算(平成17年度6687億円)も国会承認制である。従って、何かにつけてNHKの幹部は国会議員に「ご説明」をする。国会議員とすれば、説明を受ければ、「ところで…」と意見も言う。その意見が見方によっては「関与」にもなる。つまり、取り沙汰されている国会議員の関与問題は構造的なのだ。

   もしこのままNHKの受信料が不払いが拡大し、今後、経営のあり方をめぐって抜本的な論議がなされるなら、民営化案も俎(そ)上に載ることは間違いない。いみじくも、ことし3月15日の衆院総務委員会のNHK予算審議で民主党の委員が受信料の不払いが増えていることに関連して、「もうNHKは国営化か民営化だろう、そういう意見が(民主党内で)強い」と述べている。NHKの民営化というのは国会議員の間ではすでに視野に入っているのである。

   経営のあり方の論議がなされれば、関与の問題も当然出てくる。国営化ではさらに関与が深まることになり、ましてや「小さな政府」の流れで国家公務員を増やすことはないだろう。まず有権者が許さない。若者はNHKを見ていないのである。選択肢は民営化に大きく傾きつつある。この流れを読んで、「番組でもめた」安倍氏、中川氏らが関与問題を逆手に取って民営化の口火を切るのではないかと推測する。

   もう一つの理由は、NHKが持つ莫大な映像コンテンツである。経団連が「仕切り役」となってこの3月、テレビ業界や芸術・文化団体と権利調整し、番組コンテンツ(ドラマ)をブロードバンドで配信する際のライセンス料(情報量収入の8.95%)が設定された。この取り決めが一つの基準となり、東京キー局は競うようにネット配信に乗り出している。ところが、おそらく民放の何倍もの映像資産を持っているNHKは動けないのである。なぜか。民放がNHKの「業務拡大」を警戒しているのだ。NHKサイドでも受信料でつくった番組を有料でネット配信することに躊躇している。

   なかなか動かないNHKの背中を押したいと思っているのが、番組コンテンツの流通を市場として育てたいと苦心している経済産業省だ。この番組コンテンツ市場は本丸のNHKが参入しないことには弾みがつかない。この意味でNHKの民営化というのはタイムリー、まさに渡りに船なのである。その経済産業省の大臣が中川昭一氏である。以上が、私がNHKの民営化に向けて口火を切るは安倍氏であり中川氏かもしれないと推測した理由である。

⇒13日(木)朝・金沢の天気   はれ

☆NHKにCMは流れるか…

☆NHKにCMは流れるか…

  一連の不祥事が表面化し受信料の不払いへと連鎖しているNHKを遠巻きに見ながら、民放業界はその周囲の動向をうかがっている。何しろ、受信料未納による減収は年間おそよ500億円にも上る。近い将来NHKが経営危機に直面した場合、国営化なのか民営化なのか、政府はどのように判断するのか、いつ口火を切るのか-。民放が注視しているのはこの点だ。

  NHKにとってショッキングな数字が10日付の日経新聞に掲載された。インターネットによる調査(サンプル1034)で、「NHKがなくなり、テレビ局が民放だけになったら困ると思いますか」の設問に、56.7%が「困らない」と回答した。困らない理由として▽NHKの番組がそれほど優れていない▽ほとんどNHKを見ていない▽受信料を払わなくてよくなる-などといった回答が並んだ。「困る」としたのは23.0%だった。この調査はインターネットによるもので、NHKを比較的よく視聴する高齢層の意見が反映されていないことを加味したとしても、NHKサイドは動揺しただろう。

   実はこの日経の調査でもう一つショッキングなデータが載った。「NHK受信料制度を今後どうしていくべきだと思いますか」の設問で、「廃止して民放のようにCM収入で運営」の回答が56.5%と過半数を占めた。「廃止して国の税金で運営」はわずか12.5%、「現状のままでよい」は10.5%である。つまり、NHKを民営化しろ、との意見が圧倒的に多い。確かに、ちまたでも「郵政も民営化するのだから、NHKがそうなって不思議ではない」という声を聞く。でもこの数字で衝撃を受けているのはむしろ民放の方だ。「民業圧迫だ」と。

   では、NHK民営化の議論が政府内部であるのだろうか。今年3月15日、衆議院総務委員会でNHKの予算審議が行われた。この中で何人かの委員が広告放送や有料放送化について質問している。その審議のやり取りはインターネットの「衆議院TV」でアーカイブされている。4時間余りの集中審議だ。この中で、麻生太郎総務大臣は「NHKがいまやらなければならないのは信頼回復」「(広告放送などを)検討すべきだと考えているが、今直ちにというつもりはない」との主旨の答弁を繰り返している。麻生大臣でこのレベルの発言ならば当面、 NHKの民営化やCM放送はないと見るべきだろう。

   それにしてもである。テレビ受信は全国で4600万件、うち未契約は985万件、1年以上の滞納は135万件、そして支払い拒否が130万件に及んでいる。つまり4件に1件以上が支払っていないのだ。上記のインターネット調査に応じた世代が世帯主になれば、この数字は加速度的に増えるだろう。NHKの経営危機は見えている。

   経営危機に見舞われたとしても、「小さな政府」の流れではNHKの国営化は可能性が薄い。とすれば、上記の世論調査のようなCM放送や民営化論が台頭してくるのは時間の問題だろう。では誰がその口火を切るのか。ひょっとして、「番組でもめた」安倍晋三あるいは中川昭一の両氏かもしれないというのはうがった見方か…。

⇒12日(水)朝・金沢の天気  はれ

★「メディア戦略」で負けたのか

★「メディア戦略」で負けたのか

  9月11日の衆院選挙での敗北の理由を、民主党は「メディア戦略」のせいにしているようだ。負けた側がその理由を分析できないのであれば、次の可能性はない。

  9日付の新聞報道によると、メディア対策で自民党に大きく後れをとったのも敗北の一因との反省から、民主党は「メディア戦略室」(仮称)を新設するという。前原代表の強い意向らしい。その理由として、民主党は選挙期間中に、年金制度改革や子育て支援などを政策を訴えたにもかかわらず、テレビなどはもっぱら「刺客」と言われた女性候補や、ホリエモンこと堀江貴文氏と亀井静香氏が演じた郵政対立劇を取り上げた、との見方をしているようだ。TVカメラが向いてくれなかった、だから民主党は負けたとの論理だ。

  確かにテレビの取り上げ方は「ワイドショー選挙」という印象だ。しかし、民主党が敗北した理由は①郵政民営化に賛成の議員がいるにもかかわらず支持基盤の労組に配慮して反対した②郵政民営化に反対したことで国の構造改革にブレーキをかけていると有権者から判断された-の大きく2点だろう。小泉総理は選挙結果を受けた会見で「民主党の敗北は郵政民営化に反対したからだ」と即座に語ったが、的を得ている。テレビでの露出が少なかったから負けた、というのは分析が間違っている。

  今後、民主党がメディア戦略に力を注ぐというのであれば、それはテレビではなくインターネットだろう。9月14日に最高裁が判断した「在外選挙権訴訟」の違憲判決を受けて、インターネットの選挙利用について自民党や総務省が動き出しており、2007年夏の参院選には解禁となるはずだ。民主党にはブログを開設している議員が多い。いっそうのこと、すべての議員と立候補予定者にブログを書かせ、いまから「インターネット選挙」に向けて技を磨かせたらどうか。

  それでもテレビを利用したいというのであれば、笠(りゅう)浩史氏や小宮山洋子氏らテレビに精通した人材を軸に広報戦略チームをつくることだ。笠氏はテレビ朝日の政治部記者だった人。あの人当たりのよさは広報マンとしての素養には十分だ。小宮山氏はNHKの元アナウンサー。そもそも今回の総選挙で民主党は新聞広報に偏ったのが失敗だった。岡田代表の全面カラー広告を何度見せつけられたことか。有権者の中には「その金はどこから出ている。政党助成金という税金じゃないか」と反感を持った人も多かったはずだ。広告代理店にPR戦略を丸投げした弊害とも言える。一方、小泉総理を起用した自民党の全面広告は控えめに白黒が多かった。民主党のメディア戦略はそのようなところから考え直す必要があると思う。

⇒11日(火)午前・金沢の天気  はれ

☆続々・ブログと選挙

☆続々・ブログと選挙

  日本の国政選挙のあり方が大きく変わるかもしれない。これまで禁止されてきた選挙運動でのインターネット利用が解禁される見通しとなったからだ。

  公職選挙法(以下「公選法」)では、選挙運動のために使用する文書図画は、はがきやビラのほかは頒布することができないとの規定(142条)がある。パソコンのディスプレイで画面表示されたテキストや画像も文書図画に相当すると解釈されていて、候補者が個人のホームページで投票を呼びかけると違法な媒体を使った選挙運動とみなされる。だから、公示・告示以降はホームページやブログを更新して内容を書き換えることは事実上できない。これは候補者だけでなく、一個人であったとしても「候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない」(146条)。これに違反した場合、「2年以下の禁錮また50万円以下の罰金」(248条)である。

  アドバルーンを揚げたりネオンサインで投票を呼びかけたりする外国の選挙と比べ、かくのごとく地味で細やかな公選法の規定ができ上がった背景には、かつて「金のある者が勝つ」という状況が日本の選挙あったからで、選挙の公正を国会議員自らが追求した結果なのだ。ところが、インターネットの特性である低コストとボーダレスという2点で風穴が開いた。

  一つは、たとえば衆院選の小選挙区の立候補者が頒布できる通常はがきは3万5千枚、ビラ7万枚に制限されている。大量にビラをまける候補者が有利にならないよう、競争条件を等しくするための措置である。はがきもビラも使わない、安上がりの文書図画と言えばインターネットのブログだろう。なにしろサイトを構築する経費がかからない。コストのかからない選挙を目指すのであればインターネットを併用する方がいいのである。特に金も地縁も血縁もない新人候補が名前や政策を知ってもらうのにインターネットを利用しない手はない。

  二つ目の風穴は絶妙なタイミングで開いた。総選挙投票の3日後、9月14日に最高裁が判断した「在外選挙権訴訟」の違憲判決である。在外邦人の投票は、衆参両院の比例代表に限って認められていたが、選挙区についは、候補者が在外邦人にまで政策などの情報を伝えることは「極めて困難」などの理由で認められなかった。このため、イラク復興支援のためにサマワに派遣されている陸上自衛隊員600人も投票ができなかったくらいだ。今回の判決で最高裁は「通信手段の発達で候補者個人の情報を在外邦人に伝えることが著しく困難とは言えない」と指摘した。つまり、インターネットを使えば海外であろうと情報は届くと判断したのである。在外有権者はざっと72万人だ。

  この判決で、インターネットの選挙利用について自民党や総務省が動き出した。自民党のメディア戦略を担当している世耕弘成広報本部長代理(参議員)のブログ「世耕日記」の9月20日付によると「…総務省滝本選挙課長が来訪。選挙におけるネット利用に向けた公選法のあり方に関して基本的な部分について意見交換。最高裁判決が出た在外投票の問題や電子投票のあり方についても議論。」とある。判決を受けて、総務省の選挙担当課長が世耕氏のもとに根回しにやってきたのである。うがった見方をすれば、在外投票を電子投票にする構想なども話し合われたことは想像に難くない。

   自民党は、すでに最高裁判決前の9月9日の党選挙制度調査会で「選挙におけるインタ-ネット利用に関する小委員会」(仮称)の設置を決めている。また、民主党も以前からインターネットの選挙利用解禁に積極的であり、早ければ来年の通常国会にも公選法改正案が議員立法で提出されるだろう。「マニフェスト選挙」、「小泉劇場選挙」、そして2007年夏の参院選は「ネット選挙」あるいは「ブログ選挙」がキーワードとなるに違いない。

⇒25日(日)夕・金沢の天気   くもり

★民放とNHK、近未来の視界

★民放とNHK、近未来の視界

   テレビ業界をめぐる動きが急だ。そして、近未来の姿が見えてきたようだ。ソフトバンクがテレビ番組のインターネット配信に乗り出す方向で、テレビ朝日やフジテレビなど民放キー局5社と調整を進めていることが明らかになった。来春めどに専用サイトを開設し、ユーザーが好きな時にネットを通じて番組が視聴できるビデオオンデマンド方式を採用。収益はサイトの広告収入がメインで、一部番組の有料化も検討しているとう。USENのブロードバンド放送「Gyao」(ギャオ)のビジネスモデルを追いかけるかっこうとなる。

   配信コンテンツはニュースやスポーツ番組が中心で、著作権処理が済み次第、バラエティーやドラマも加えていく。ソフトバンクは民放キー局と組むことで、コンテンツ配信事業を拡大。民放キー局はこれまでの系列ローカル局以外に番組販売料を稼ぐことができ、収益源の多様化につながるというわけだ。

   このニュースを見て、おそらくローカル民放の経営陣は背筋に寒いものが走ったに違いない。再び「ローカル局の炭焼き小屋」論が脳裏をよぎった経営者もいることだろう。何しろ民放キー局のキラーコンテンツ(視聴率が取れる番組)が見たいときに見ることができるようになれば何も決まった時間にテレビにチャンネルを合わせる必要がなく、テレビ離れが起きる。そしてローカル局は細々と自社制作の番組をつくり続けるしか生き残る術(すべ)はなくなる。TVメディアにおける炭焼き小屋論だ。

   ましてローカル民放は来年12月までに莫大な投資(民放連試算で45億円)を伴うデジタル化をスタートさせなければならない。このタイミングで放送(キー局)と通信(インターネット)の融合のスピードが加速度的に進めば、特にローカル局に配分されているスポンサーの広告宣伝費はさらに通信へとシフトしていく。キー局の経営陣はローカル局のこうした焦燥感をどれほど理解しているだろうか。

   NHKも悪いスパイラルに陥った。橋本元一会長はきのう(20日)、一連の不祥事による受信料不払いの拡大などを受けた新たな経営改革計画「新生プラン」を発表したが、このニュースを見て共感した視聴者はいるだろうか。それどころか、受信料の支払い拒否・保留130万件に対して、支払いを法的に督促することを正式に明らかにし、960万件にも上る未契約の人に対しても民事手続きを導入する構えを示した。身から出たサビで237億円の減収(上半期)となり、法的な強硬手段で訴えるという。

   一般の視聴者の反応はどうか。答えは簡単、「それならNHKはスクランブル化を導入せよ」だ。実際にテレビを見なくなっている世代や層が増えている。その人たちを納得させるのは並大抵ではない。つまるところ、「見る見ない」の判断はスクランブルが一番納得できる。しかし、スクランブルを導入すれば、拒否者は130万件どころではなくなる。劇薬というより毒薬になる可能性もある。

   法的手段と同時に、NHKは来年度から3年間で全職員の10%にあたる1200人を削減すると発表した。これをまず実行して、未払い・保留の視聴者の理解を得るのが本来の姿、つまりソフトランディングだろう。法は最終手段だ。

⇒21日(水)午後・金沢の天気 くもり

☆続・ブログと選挙

☆続・ブログと選挙

    私は反省したい。公示前の8月26日と27日付「自在コラム」で、小泉総理は選挙最終盤になって「年金の一本化を郵政民営化法案の可決直後に着手する」とブチ上げ、来年9月以降の総裁任期の延長を受け入れるだろうとの内容の予測を書いた。しかし総裁任期の延長について、小泉総理はいまでも否定している。当時の森喜朗氏らの総裁延長発言から推測したのだが読み違えてしまった。つまり、結果として「飛ばし」となってしまった。

      小泉総理の任期延長論は8月25日、自民党本部で小泉総理や森氏らが弁当を食べながら何かを話し合い、森氏が当日のテレビ朝日の番組(収録)で延長論をほのめかしたことによる。真実はどこにあるのか。前回に引き続き、同党の世耕弘成広報本部長代理(参議員)のブログ「世耕日記」に記されている当時の模様を引用してみる。

   「…小泉総理が党本部へやってくる。居合わせた森前総理、武部幹事長、二階総務局長と私とで総裁室で夕食、雑談。『今日はおいしい弁当だ』と森さんはうれしそう。やっぱり森さんと小泉さんは長年の盟友だ。干からびたチーズ事件の後遺症など微塵も見えない。」(8月25日)

   確かに文面を読む限り、「重要な話し合い」があったような緊張感というものが伝わってこない。要は和やかに夕食の弁当を食べていただけなのだろう。総理総裁、総裁派閥の会長、幹事長ら党幹部が集まったからと言って何か重要なことが話し合われたというのはちょっと早合点だった。このブログを先に読んでいれば「飛ばし」もなかったかもしれないと今は反省している。

    でもすごい世の中になった。国会議員がブログを書き、それを我々が読めて、政治の奥の部分を垣間見ることができるのである。もちろん政治家は都合の悪いことは書かないだろう。しかし、事象の前後左右をつなぎ合わせれば全体像が見えてくるものだ。そして嘘もバレる。ブログというのは国会議員へのチェック機能になったり、あるいは議員のアピールの場になったりとさまざまな役割を担うのではないか。その書き込みの誠実さが有権者に伝われば信頼され、そして支持される。

 ⇒18日(日)朝・金沢の天気  晴れ

★ブログと選挙

★ブログと選挙

   郵政民営化に反対した人たちの精神構造の一端が理解できるようなコメントだった。広島6区で堀江貴文氏に勝った亀井静香氏が12日、TVメディアのインタビューで、296議席を得た自民について感想をこう述べた。「国民は覚せいしないといけない。これでは民主主義が滅んでしまう」と。郵政民営化は小泉内閣の暴挙だと反対し、今回の選挙も小泉総理の暴政だと言い放っていた。そして、自民が圧勝すると今度はその批判の矛先を有権者に向けているのだ。東京10区の小林興起氏も「(小池百合子氏に敗れたのは)マスコミが煽ったせいだ」と述べていた。要は、相手を批難することで存在感を示したい人たちのようだ。

                ◇    

   ところで、今回の「自在コラム」のテーマではインターネットが今回の選挙にどうかかわったのか、抽象論に陥らないように具体例から考察したい。選挙公示前の8月25日夜、自民党がメールマガジンの発行者やブログのユーザー(ブロガー)と党幹部との懇親会を開いて話題となった。招待されたのはネットエイジや「はてな」の運営会社や「忙しいあなたの代わりに新聞読みます」などのメールマガジン運営者、それにブロガーら33人。自民党から出席したのは武部勤幹事長と世耕弘成広報本部長代理だった。

    自民党には「コミュニケーション戦略チーム」があり、有権者からのメールや電話の応対のほか、メディア対策も行っている。世耕氏はその中心メンバーだ。そして自らもブロガーである。今回の懇談会の仕掛け人はどうやら世耕氏であることが見えてきた。

     そこで「もしや」と思い、世耕氏のブログ「世耕日記」を読むと8月25日付があった。懇談会の模様を記した文を引用する。「夜7時からブログ、メルマガ作者の皆さん33名と武部幹事長とで懇談会。安倍さんは台風で新幹線に閉じ込められてしまって間に合わない。政党とブロガーの対話は日本ではじめての企画であり、武部さんとブロガーの皆さんの波長が合うだろうか等心配事も多かったが、非常に実りある懇談であった。終了後は皆さんを総裁室にご案内して見学してもらう。居合わせた竹中大臣にも顔を出してもらい、非常に和気藹々とした雰囲気の中、企画は終了した。台風の中来て下さった33名の皆さんに感謝だ。」

    ブログによると、和やかな雰囲気の会合であったことが分かる。とくに世耕氏が「政党とブロガーの対話は日本ではじめて」と記したように、確かに政党の取り組みとしては画期的なことではある。

     この懇談会に出席した人はどう受け取ったのか。泉あいさんというブロガー(「GripBlog~私が見た事実~」を開設)は懇談会に参加した一人。泉さんの場合、「取材させて」と頼み込んだらタイミングよく「どうぞ」となったらしい。泉さんはその経緯について、「blog.goo」の選挙特集の中で寄稿している。以下、懇談会の模様をこう記している。「天下の自民党には、こんな多彩なキャラクターのおじさんたちがいましたが、自民党だけではなく、選挙の取材で他の政党の政治家ともお会いして、難しい政策論争をしている政治家も、実は威張った嫌な奴なんかじゃなく、普通の人なのだと知り、今までよりも政治を身近なものと感じられるようになりました。」。元OLの泉さんの目には好意的に映った。

     ところが、違和感があったのはむしろ既存のマスメディアだったと記している。「今回の懇談会で威圧感を放っていたのは、政治家ではなくメディアの人たちでした。退室した後も、ガラスの壁に張り付いて中の会話に聞き耳を立てる必死な姿は、見習うべきものだと思いますが、どうも一段高い所から見下ろされているような気がして仕方がなかったです。」と。そして、「インターネットで、既存メディアとは違う、普通の人が身近に語ることのできる草の根ジャーナリズムを実現できる日が来るのは、そう遠くはない。自民党本部で私はそう感じました。」と記している。

     泉さんの言葉は画期的である。既存のメディアを向こうに回して「草の根ジャーナリズム」を目指すと宣言しているのだ。この後、彼女はデジカムを担いで西へ東へと党首の街頭演説の録画に自費で出かけている。泉さんだけではない。こうした志(こことざし)の高いブロガーの出現のおかげで、既存のメディアでは報じられなかった選挙の別の一面を知ることができたと私は思っている。

 ⇒13日(火)午後・金沢の天気   晴れ