⇒ドキュメント回廊

☆2014ミサ・ソレニムス~6

☆2014ミサ・ソレニムス~6

  フィリピンのルソン島、マニラから北へ車で8時間ほどでイフガオに着く。ことしは2度訪れた。3月と11月。JICA草の根技術協力事業「世界農業遺産(GIAHS)『イフガオの棚田』の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」(通称:イフガオ里山マイスター養成プログラム)。イフガオの棚田は、ユネスコの世界文化遺産(1995年登録)、そして世界農業遺産(2005年認定)にもなっているが、若者の農業離れや都市部への流出により、耕作放棄地の増加が懸念され、独自の生活・文化を継承していく人材の養成が急務となっている。

  ~ フィリピンのイフガオと能登から発信する若者と里山の未来 ~

  そのため、金沢大学がフィリピン大学オープン・ユニバーシティ、ならびにイフガオ州大学と連携し、能登で実践している人材育成のノウハウを「イフガオ里山マイスター養成プログラム」として、現地の実情に応じた、魅力ある農業を実践する若手人材を養成するプログラムを実施している。地域での問題解決をソフト事業として移出するモデルとしても注目されている。

  3月25日にイフガオ州大学で、受講生20人を迎え開講式を執り行った。受講生は、棚田が広がるバナウエ、ホンデュワン、マユヤオの3つの町の20代から40代の社会人。職業は、農業を中心に環境ボランティア、大学教員、家事手伝いなど。20人のうち、15人が女性となっている。応募者は59人で書類選考と面接で選ばれた。

  受講した動機について何人かにインタビューした。ジェニファ・ランナオさん(38)=女性・農業=は、「最近は若い人たちだけでなく、中高年の人も棚田から離れていっています。そのため田んぼの水の分配も難しくなっています。どうしたら村のみんなが少しでも豊かになれるか学びたいと思って受講を希望しました」と話す。インフマン・レイノス・ジョシュスさん(24)=男性・環境ボランティア=は、「これから学ぶことをバナウエの棚田の保全に役立てたいと思います。そして、1年後に学んだことを周囲に広めたいと思います」と期待を込めた。ビッキー・マダギムさん(40)=女性・大学教員=は、「イフガオの伝統文化にとても興味があります。それは農業の歴史そのものでもあります。そして、イフガオに残るスキル(農業技術)を紹介していきたいと考えています」と意欲を見せた。

  9月には受講生のうち10人が能登で研修を受けにやってきた。ツアー前半のハイライトは能登見学だった。輪島市の千枚田では、棚田のオーナー田を管理する白米千枚田愛耕会の堂前助之新さんがオーナー制度の仕組みを説明。イフガオ受講生は愛耕会のメンバーの手ほどきで稲刈りを体験した。イフガオの稲は背丈が高く、カミソリのような道具で稲穂の部分のみ刈り取っており、カマを使って根元から刈る伝統的な日本式の稲刈りは初めて。イフガオの民族衣装を着た受講生たちは、収穫に感謝する歌と踊りを披露した。歌声は田んぼに響き、楽しく、そして美しいと感じる稲刈りとなった=写真・上=。

  能登ツアーの後半のハイライトは、能登のマイスター受講生やOBとの交流である。20日と21日は能登里山里海マイスター育成プログラムの2期生の修了課題発表会(22人発表、通訳・早川芳子氏)に参加し、能登マイスターの受講生の環境に配慮した米作りや、土地の食材を活かしたフレンチレストラン、古民家の活用などついて耳を傾けた。21日午後からはイフガオ里山マイスターの受講生5人が現在取り組んでいる「ドジョウの水田養殖」や「外来の巨大ミミズの駆除・管 理」などについて発表した。これに能登の受講生やOBがコメントするなど、研究課題の突き合わせを通じて、相互の理解を深めた。

  11月、イフガオを訪れて受講生のプレゼンに磨きがかかっているのに驚いた。受講生たちの研究の中間発表がイフガオ州知事らを前に開かれた。アマラ・ダーエンさん=民間事務職員=の研究テーマは「伝統的な薬用植物」。イフガオの集落の多くは人里離れており、伝統的な薬用植物を自前で調達してきた。咳止めや糖尿病に効くといわれる薬用植物を10種類採取し、専門家の意見を聞きデータ収集。市販も視野に。ジェネリン・リモングさん=自治体職員(農業)=の研究テーマ「市販飼料と有機飼料による養豚の比較」。市販の飼料による 養豚より、伝統の有機飼料の養豚の方がコストも発育も優れていることをデータにより示した。マリヤ・ナユサンさん=保育士=の研究テーマは「離乳食に活用する伝統のコメ品種」。保育士の立場から、離乳食の歴史を調べる。乳児の発育によいイフガオ伝統コメ品種を比較調査している。マイラ・ワチャイナさん=家事手伝い・主婦=の研究テーマは「伝統品種米の醸造加工」。親族が遺した伝統のライス・ワイン製造器を活用し、イネ品種や、イースト菌の違いによる酒味やコクを調査。売上の一部を棚田保全に役立てる販売システムを検討している。発表は理路整然として、そして熱意があった。イフガオ州知事のハバウエル氏=写真・下=が「州の発展に役立つものばかりだ。ぜひ実行してほしい。予算を考えたい」と賛辞を送った。

 イフガオの棚田で若者たちの取り組みの姿がほのかに見え始めた。若者の農業離れは、日本だけでなく、東アジア、さらにアメリカやヨーロッパでも起きていることだ。一方で、農業に目を向ける都会の若者たちもいる。パーマネント・アグリカルチャー(パーマカルチャー=持続型農業)を学びたいと農村へ移住してくる若者たち。ただ農業の伝統を守るだけではなく、伝統の上に21世紀の農業をどう創り上げていくか、その取り組みが能登とイフガでも始まったのである。

⇒29日(月)朝・金沢の天気   ゆき

★2014ミサ・ソレニムス~5

★2014ミサ・ソレニムス~5

  金沢大学では地域連携推進センターに身を置いて、よく珠洲市に通っている。知人や友人にそのことを話すと、「能登半島の先端で何をしているのか」とよく問われる。きょうはそのことを述べたい。金沢大学が三崎町の旧・小泊小学校の施設を珠洲市から借りて、「能登学舎」=写真・上=を開設して来年で9年目となる。2006年6月、生物多様性調査プログラム「能登半島 里山里海自然学校」を奥能登でスタートさせるための拠点を探していた。当時、珠洲市から紹介された旧校舎の背後に田畑や山林があり、3階の教室の窓からは海が眺望でき、「この場所こそ里山里海を学ぶ環境にふさわしい」と直感したものだった。

    ~ なぜ能登に通っているのか、能登にはすべきことが多様にあるから ~

 金沢大学では角間キャンパスの丘陵地に「角間の里山自然学校」(開設1999年)を設け、教育と研究、社会貢献を推進する「里山里海プロジェクト」(研究代表・中村浩二特任教授)を進めてきた。「能登半島 里山里海自然学校」は能登半島への第一歩だった。里山里海自然学校で実施したことは、生物多様性(植物・昆虫・鳥類・水生生物・キノコなど)の調査を市民と常駐する研究スタッフ(博士研究員)がいっしょになって調査するオープンリサーチ(協働調査)という手法だった。休耕田を利用した水辺ビオトープづくりや、雑木林を整備するキノコの山づくりを、地元のみなさんと進めてきた。このほか、トキやコウノトリが舞う能登の里山復興を目指した基礎研究や、「旅する蝶」アサギマダラの調査を通じた子供たちへ環境教育、郷土料理を通じた食育活動など多岐にわたった。こうした珠洲市の市民の協働活動の実績を踏まえて、NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海が2008年に設立された。

 能登は里山里海の自然資源、多様な生業(なりわい)とそれに伴う伝統行事や文化に恵まれているが、一方で過疎・高齢化などの問題に直面している。こうした地域の課題に対応し、地域活性化や再生に活かす地域人材を育てる事業が、2007年に能登学舎でスタートした「能登里山マイスター養成プログラム」だった。養成対象は社会人(45歳以下)で、5人の教員スタッフが駐在して指導している。2年間のカリキュラムで講義と実習を通し、環境配慮の農業や農産物に付加価値をつけて販売する「6次化」のノウハウや、地域の伝統文化や海や山の自然資源をツーリズムへと事業展開する方法などを学ぶ。2012年3月までの5年間で62人が修了、うち14人が県外からの移住者だった。地元自治体(珠洲市、輪島市、穴水町、能登町)から事業継続の要望があり、2012年10月から後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」を実施している。首都圏から能登空港を経由して通う受講生や金沢方面からの受講生も増えたため、濃縮したカリキュラムに工夫して月2回・1年間のコースに改編した。2014年9月まで7年間通算して107人の修了生が能登学舎を巣立った。

 ほかにも、里山里海の「いきもの」と人々の繋がりを伝える「能登いきものマイスター養成講座」や、3年間で1000人の学生や研究者を能登に呼び込む調査交流を目的とした「のと半島里山里海アクティビティの創出」などの事業を実施した。こうした人材養成や交流活動の実績が、能登の里山里海とその文化を「SATOYAMA、SATOUMI」として世界に発信する事業活動へと展開している。

 能登学舎を訪れた2人の国連関係者の方を紹介する。まず、アフメド・ジョグラフ氏。2010年の国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10、名古屋市)の事務局長を務められた方で、2008年9月に能登半島を視察された折に、能登学舎で「能登里山マイスター養成プログラム」の自然と共生する人材養成の取り組みに耳を傾け、「里山里海自然学校」が造成したビオトープを視察した=写真・下=。続いて、国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(世界重要農業遺産システム=GIAHS)の創始者で事務総長だったパルビス・クーハフカーン氏は2010年6月視察に訪れた。COP10では、日本からの提案で「SATOYAMAイニシアティブ」が採択され、日本の里山が注目されるようになった。2011年6月、FAOの世界農業遺産に「能登の里山里海」が日本で初めて佐渡とともに認定さた。認定に先立つFAOからの現地視察で、生物多様性など自然との調和を掲げた農業人材の育成に取り組む「能登里山マイスター養成プログラム」が、GIAHSコンセプトである持続可能な地域社会づくりに寄与するとして、高い評価を受けた。

 こうした流れを受け、2010年より、国際協力機構(JICA)の研修「持続可能な自然資源管理による生物多様性保全と地域振興~SATOYAMAイニシアティブの推進~」が石川県で実施され、能登学舎は受け入れ拠点の一つとなっている。里山里海プロジェクトの活動の評価と実績が認められ、2013年度からのJICA草の根技術協力事業として、「フィリピン『イフガオの棚田』の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援」事業が採択され、能登で培われた人材養成の手法が海外へ移出展開することになるきっかけとなった。

 2014年8月、能登学舎を拠点に「学長と行く能登合宿」が実施された。2泊3日で学生40人余りが能登学舎周辺の小泊地区を中心としたお宅に民泊をさせていただきながら、山崎光悦学長と学生が珠洲市の山林で草刈りなど保全活動を体験した。山に入り作業を行うのはほとんどの学生たちにとって初めての経験だったが、チャレンジする心、精神力というものをこの場で得たようだ。能登の里山里海のフィールドを学生たちの「人間力」を鍛錬する場としても今後とも活用していく計画。これは「COC(地<知>の拠点整備事業)と呼ばれるプロジェクトの一環で、学生たちが地域に学び、地域のニーズと大学の研究を結ぶことで地域の課題解決を目指す、また、社会人の生涯教育を充実させる、3つのプログラムが成っている。珠洲市役所に隣接してCOC事業のサテライトプラザが新たに開設された。今後、金沢大学の学生・研究者が珠洲に行き交う光景がさらに増えることになる。

 2014年10月、珠洲市により寄付された「能登里山里海研究部門」が新たに金沢大学に設けられ、特任准教授と特任助教が能登学舎に着任した。これまでも、能登の里山里海研究を推進してきたが、これらの成果を活かし、さらに多様な専門性をもつ研究者の参画を得て、「能登の里山里海」の学際的評価を行うことになる。とくに、地域の自然や文化資源の調査活動などを通して、地域社会の活性化や自然共生型のライフスタイル、持続可能な地域社会と人づくり、里山里海をテーマとした国際的なネットワークの構築、地域課題の解決に向けた政策の提言などを目指す。こうした研究の成果をシンポジウムなど通じて、市民や行政に還元していく。

 能登学舎から見える里山里海の風景が心なしか明るくなっているように思えます。それは人の往来が少しづつではあるが、にぎやかになっているからだ。県内外、国内外の人々が能登を目指して、学びにやってきている。もうしばらくは能登通いが続く。

⇒28日(日)正午・金沢の天気  くもり

☆2014ミサ・ソレニムス~4

☆2014ミサ・ソレニムス~4

ニュースの仕入れ先は新聞やテレビという時代は確実に終わったようだ。ただ問題がある。先のブログでも紹介した、11月18日に実施した金沢大学の学生131人の意識調査の話にもう一度戻る。

   ~ ニュースなど情報の仕入れ先はインターネットだが、その信用度は別物 ~

 
 「ニュースの情報は主に何を使って収集していますか」という質問に対しては、「テレビ」が50.4%、「インターネット」が43.5%。この2つで9割を超え、新聞は6.1%だった。インターネットでニュースを仕入れる人のうち、「検索サイト(Yahoo!、Googleなど)」を使うのは82.1%、「ツイッター」を使うのは10.4%だった。さらに、「複数のメディアを使ってニュース情報を収集していますか」との問いには、77.9%が「はい」と答えたが、その組み合わせはやはり「テレビとインターネット」が最多で72.5%と圧倒的だった。

 ところで、「新聞を購読していますか」という質問に「はい」と答えたのは30.5%で、そのうち自分で購読している学生は30.0%、家族が購読している学生は62.5%だった。購読しない理由は、「お金の問題」が43.2%を占め、「他のメディアで十分」「時間がない」がそれぞれ19.3%だった。しかし、「もっとも信頼できるメディアは何だと思いますか」という問いには「新聞」との答えが43.1%と最多だった。続いて「テレビ」が35.4%で、「インターネット」は10.8%だった。玉石混交の情報がある中で信憑性も見分けれないという状態に陥っている。

  若者はインターネットという便利な百科事典を持っているようなものだ。携帯電話などの通信費が毎月かかり、その携帯電話でニュースを読めるならわざわざ新聞は購読しないだろう。しかし、その情報の信用性については学生も悩んでいるのではないかと推察する。便利だけれど、どこまで信じればよいのか。だから、新聞社のクレジットがついているニュースを読む傾向もある。

  では、テレビに対する学生の意識はどうか。「1日のテレビの視聴時間は」という質問には、「1時間以上3時間未満」が40.5%、「1時間未満」が37.4%で、「ゼロ」という学生も15.3%いた。「今のテレビについてどう思いますか」(回答は自由記述方式)という質問には、「図などを作ってわかりやすくなっていると思う」「情報をいち早く伝えている」などの肯定的な意見は少なく、「似たような番組ばかりで多様性がない」「つまらない」「意見の偏りを感じることがある」など否定的意見が実に多数を占めた。

  文字情報より映像情報が分かりやすいというのがテレビの魅力だろう。しかし、その時間にリモコンのボタンを押さなければならないし、ダビング(録画)も面倒で結構忘れる。一長一短だ。しかも、番組に多様性が感じられない。どのチャンネルも同じような内容だ。そう感じる学生たちのテレビへのスタンスは厳しいものがある。テレビ番組がインターネット化でも自由に視聴できるように、アーカイブ化の取り組みなどこれからが勝負どころだろう。もちろん、ライツ(著作権)という大きなハ-ドルがある。

⇒27日(土)夜・能登地方の天気    はれ
 
 

★2014ミサ・ソレニムス~3

★2014ミサ・ソレニムス~3

  東洋英和女学院大4年の学生22歳が、ホステスのアルバイト経験を理由に日本テレビからアナウンサーの内定を取り消され、採用を求めた民事訴訟できょう26日、東京地裁で和解勧告が行われたと報じられた。

   ~ テレビ局の力量が問われる、アナウンサー内定取り消し問題 ~

 和解協議は非公開で、詳しい内容は不明だが、双方の代理人が出席し、日テレ側から学生側に和解案が提示されたとみられる。学生は来年4月のアナウンス職での入社を求め、日テレも徹底抗戦の構えを見せていたが、入社もしくは金銭での補償を含んだ提案で、強硬姿勢を崩したかっこうだ。第2回の口頭弁論は予定通り、来年1月15日となっているが、年明けにも引き続き和解協議が行われる予定だという。

  そもそもなぜ内定が取り消されたのか、その理由が理解できない。ホステスのアルバイトがよくないというのならば、募集段階からホステスなど風俗のアルバト経験者は不可と明示すべきだろう。もちろん、日テレが内定を取り消したのは、採用後に週刊誌などでスキャンダルとして掲載されることを恐れたのだろうことは想像に難くない。それだったら、アナウンス職での採用であっても、しばらくは表(画面)に出さなければよい。人事の裁量権でなんとでもなる。要は、筆記試験、社員面接、重役面接、社長面接など難関を突破したのだから、つまり会社が見込んだのだからアルバイト経験だけで切り捨てることは無理がある。逆に、そうした経験をキャラとして使いこなせばよい。それがテレビ局の技量というものだ。

  さらに話を総合すると、学生は2015年度入社のアナウンサーとしの採用内定通知を渡され、ことし3月に、人事担当者に以前、母親の知り合い筋の銀座のクラブで短期間アルバイトをしていたことがあるとを告げた。すると、4月に入り、クラブでホステスをしていた経歴は、アナウンサーに求められる清廉性に相応しくないとの理由で、内定辞退を求める文書が送られて来たという。学生が辞退しないと答えたところ、5月末に内定取り消しの通知が届いた。

  一部のメディアで紹介されていたが、フジテレビの亀山千広社長が11月28日の定例記者会見で、今回の日テレの内定取り消し問題について、「(フジの場合は)内定を出した以上は採用すると思う」と独自の見解を話し、清廉性については視聴者がどう見るかに委ねたいと語ったという。これが本筋の話しだろう。

⇒26日(金)夜・金沢の天気     あめ

  
  
  

  

  

☆2014ミサ・ソレニムス~2

☆2014ミサ・ソレニムス~2

  11月18日に実施した金沢大学の学生131人の意識調査では、メディアや政治に関する内容も問うた。とくに最近の近隣国との緊張した関係を学生たちはどう感じているのだろうかと気になったからだ。「尖閣諸島や竹島など領土問題で、日本と中国・韓国との関係悪化が指摘されていますが、中国に親しみを感じますか」という問いには、「まったく感じない」または「あまり感じない」を選んだ学生が合わせて54.9%だった。「とても感じる」「やや感じる」の15.3%を大きく上回った。「韓国に親しみを感じますか」との質問でも、「まったく感じない」「あまり感じない」が51.9%で、「とても感じる」「やや感じる」は24.4%だった。つまり、学生たちの半数以上は近隣国とに親しみを感じないというのだ。

  ~ 近隣国に親しみ感じない学生半数、しかし、「外交努力で友好」望む73% ~

  一方で、「安倍総理や現役閣僚の靖国神社参拝が、中国や韓国の反発を招いていますが、靖国問題をどう思いますか」という質問には、回答した125人のうち、「戦争犠牲者を弔うのは当然」など肯定的と判断される意見が73件、「他国を刺激するので参拝すべきでない」など否定的とみられる意見の20件を上回った。「亡くなった人をお参りして周囲が騒ぐのはおかしい。でも他国の反応は想像がつくので考えて行動すべきだ」など中立的と判断される意見は19件あった。以上の数字だけでを読めば、大方の学生たちは日本にいろいろと干渉する隣国に随分と不快感を持っているようにも思える。

  別の角度から数字を眺めてみる。いわゆる「ヘイトスピーチ」が問題になっている在日特権を許さない市民の会(在特会)の主張をどう思うか聞くと、「反対」「どちらかというと反対」との答えが33.6%で、「賛成」「どちらかというと賛成」は29.8%。「わからない」が36.6%だった。

  学生たちに近隣国との在り様を尋ねた。「近隣諸国との緊張状態が続く東アジアのなかで、日本はこれからどうすべきだと思いますか」という質問には、「外交努力で友好に務める」を選んだ学生が73.1%を占めた。「外交的圧力をかける」は13.8%、「軍備を増強して備える」は4.6%だった。つまり、近隣諸国とぎくしゃくし、親しみを感じられない学生が半数をしめながらも、外交努力すべきだという人が多く、冷静でバランスのとれた考え方の学生が多いのである。

  そして、「日中戦争の発端となった満州事変以来の戦争は侵略だったと思いますか」との質問には、「思う」「やや思う」が57.7%、「思わない」「あまり思わない」は17.5%だった。25.2%が「わからない」と答えた。戦争を引き起こしたことには日本に非があると思っている学生が半数以上だ。これは上記の「外交努力で友好に務める」73.1%の意識のバックにあるように推察できる。

  ジャーナリズム論を履修している学生に対する意識調査ということで、学生のスタンスを勘案しなければならないが、若者の政治や世の中への関心は決して低くない。消費増税など身近な話題から国際問題まで幅広く関心があると感じた。

⇒25日(木)午後の金沢の天気  ゆき  
 

★2014ミサ・ソレニムス~1

★2014ミサ・ソレニムス~1

  昨夜(23日)金沢市の石川県立音楽堂コンサートホールで催された、荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)の演奏に聴き入った。石川県音楽文化協会などの主催で、もう52回目となり、県内では季節の恒例のイベントとして定着している。「キリエ (Kyrie)憐れみの讃歌」、「グロリア (Gloria)栄光の讃歌」、「クレド (Credo)信仰宣言」、「サンクトゥス (Sanctus)感謝の讃歌」、「アニュス・デイ (Agnus Dei)平和の讃歌」と進むちうちに心が高まった。80分の演奏時間は、決して「長い」とは感じなかった。むしろこの一年の出来事が思い出され、脳裏が高揚感と清明感にあふれたのは私だけだろうか。今回のコンサートを聴きながら2014年を振り返るよいチャンスにもなった。「2014ミサ・ソレニムス」と題して、この1年を回顧したい。

      ~ 学生たちは総選挙に何を思ったのか、意識調査から推察したこと ~

  ことし1年の世情のニュースで衝撃だったのは、年の瀬の予期せぬ衆院選挙が。安倍内閣の支持率が下がっていたこのタイミングで、消費税増税の延期を国民に問うというシナリオで描かれた選挙だった。自民単独で290議席を確保した。民主党がアベノミクス(安倍政権の経済政策)の破たんを訴えたが、代案が見えてこないので国民は現政権をある意味で冷静に支持したのだろう。ただし、投票率は戦後最低に下がり52%だった。

  大学で学生たちに授業(メディア論)を行ったいて、いつも気になっているのが若者の政治参加のことだ。若者たちに政治参加する意欲や気持ちが失われれば、民主主義も早晩危ういと日頃感じているからだ。そんな折、12月14日の投開票の衆院選を、大学生はどう考えているのだろうかと調査する機会に恵まれた。朝日新聞社と北陸朝日放送の協力を得て、11月18日に金沢大の学生に、メディアや政治に関する意識調査を実施した。その中から、衆院選に関する質問についての回答を今回紹介する。回答者は私が担当する「ジャーナリズム論」の受講生131人。

  授業で選択式や自由記述の質問に答えてもらった。131人のうち男性は105人、女性26人で、18歳と19歳が112人を占め、文系が43人、理系が88人だった。

  「最近、気になるニュースは何ですか?(複数回答可)」という質問(回答は記述式)に対しては、「消費増税」の問題を30人が挙げ、最も多かった。続くのが「衆院の解散総選挙」に関する19人だ。このほか、「GDP(国内総生産)のマイナス成長」や赤サンゴ密漁をはじめ日中や日韓関係に関する問題が挙がった。「消費増税の先送りについて民意を問うという安倍総理の衆院解散について、党利党略という指摘がありますが、あなたは今回の衆院解散をどう思いますか」と聞くと(回答は選択式)、「賛成」または「どちらかといえば賛成」が計29.0%で、「反対」と「どちらかといえば反対」の計26.7%を上回った。ただし、44.3%は「わからない」と答えた。「党利党略という指摘」との説明がなければ賛成がもっと多かった可能性がある。質問の仕方が違うが、朝日新聞社の11月の世論調査では、「この時期の解散、総選挙」について「賛成」は18%、「反対」が62%だった。つまり、意識調査に参加した多くの学生たちには選挙権はないが選挙に賛成する傾向があった。その理由とは何だったのか。

 「選挙の最大の争点は何だと思いますか」という問い(記述式)では、回答した117人のうち55人が「消費増税」関連を書いた。続いて「アベノミクス」についての16人。このほか「憲法改正」「女性議員の登用」などが挙がり、「わからない」が26人だった。上記の数字から以下推察した。

 解散賛成が反対を上回った点について。円安で食料品を中心に値上がりしており、仕送りで生活する学生にとって消費増税はダブルパンチだ。そこで、増税延期への民意を問うというのだから選挙には賛成が多いのだろう推測した。気になるニュースや争点の質問でも増税やアベノミクスへの関心が高い。学生のアルバイトの時給がこのところ値上がり傾向で、アベノミクスを実感しているのは学生かもしれない。

  学生たちは自民や民主ほかの政治的な主張には耳を傾ける傾向は薄い。ただ、現実問題として政治が学生たちの生活にどうかかわるのかといった点では関心があるだろう。調査後に学生たちに感想を聞くと、「衆院選の争点が何かという設問が書きづらかった」(男性)、「政治に関する質問は、普段考えないので難しかった」(女性)という声があった。おそらく学生たちにとってこの意識調査が政治への関心の入り口になってほしいと個人的に期待したい。

⇒24日(水)朝・金沢の天気    くもり

  

  

☆目に留まった言葉

☆目に留まった言葉

 過日のコラムで、金沢市の東山界隈を元旦に歩いた様子を記した。茶屋街で知れた東山だが、寺院も点在している。その日、ある寺院の門前に貼りだされていた言葉がふと目に留まった。「信はなくて まぎれまわると 日に日に地獄がちかくなる」と=写真=。「蓮如上人」とあるので、室町時代に浄土真宗を全国に広めたとされる高僧のありがたい言葉だ。

 念仏を唱えたことすらない身なので、言葉の仏教的な意味合いは測りかねる。それでも目に留まったのは、勝手にいろいろと解釈し、現代的な意味合いが浮かんだからだった。こう解釈してみた。「自分の生き様の信念も持たず、情報化時代の中で右往左往していると、ろくな死に方もできない」と。「アラ還」の同年代を見渡しても、日常の中で、趣味を大切にして生きている友人たちや家族思いの心優しい友人たちは多くいる。ただ、世の矛盾と闘っている、あるいはチャリティ(慈善活動)に身を投じている、といった信念というものを感じる人はめったにお目にかかったことがない。もちろん自分のその一人だ。

 情報があふれ、「アベノミクスで株価がどうだ」「2020年 東京オリンピックだ」「2015年春 北陸新幹線開業だ」「靖国参拝で中国、韓国がどうだ」などといったニュースに目と心を奪われている日々ではないか。

 自宅に戻ってインターネットで「信はなくて まぎれまわると 日に日に地獄がちかくなる」を検索してみた。出展は『蓮如上人御一代記聞書讃解』とあり、この言葉に続きがあった。「信はなくて紛れまはると日に日に地獄がちかくなる、紛れまはるがあらはれば地獄がちかくなるなり。うち見は、信不信見えず候。遠くいのちをもたずして今日ばかりと思へ、と古き志の人申され候」

 ホームページの出展は省くが、以下の現代意訳が丁寧に付いていた。「真実の信心が得られないまま、世間の事に紛れ果てていると、日に日に地獄が近付いて来る。紛れ果てている証拠に、地獄そのものの生活が展開してしまうものである。外からは人の信・不信は見えないものである。しかしその当人にははっきりと自己の信・不信は明らかだと思われる。命というものが長々と続くものとは考えずに、今日只今だけの命と思って聞法に励むべしと先師はおっしゃっておられるが、まことにその通りではなかろうか」と。

 さらに私の勝手解釈が続く。「自分の生き様の信念も持たず、情報化時代の中で右往左往していると、ろくな死に方もできない。こうした情報過多の日常に埋没していると、自身に死が近づいていることすら分からなくなってしまう。自らの生き様を見極めることができるのは、決して他人ではなく、自分自身ではないか。人生は長くない、日々にいかに生きるか、目を凝らせ、考えよ、自らの信念を探せ」と。

⇒9日(木)朝・金沢の天気    はれ

★2013備忘録‐3

★2013備忘録‐3

  ことし1年はある意味で能登が注目された1年だった。3月31に能登有料道路が「のと里山海道」=写真=として無料化した。全長83㌔は信号機もなく、料金所という停止のバリアもなくなり、時速80㌔での走りは爽快である。ただこの無料化に関しては経緯がある。1982年の全線開通以降、1990年から石川県道路公社が道路を管理。総事業費625億円のうち、県から同公社への貸付金のうち未償還分の135億円を県が債権放棄するかたちで、無料化が実現した。つまり、116万県民が1人当たり1万1600円ほど負担したのである。

       「里山海道」から「和食」まで能登の豊富な資源

  5月には国連食糧農業機関が主催する世界農業遺産(GIAHS)国際会議が七尾市で開催された。20ヵ国600人が参加する会議では新たに日本から、静岡「茶草場農法」、熊本「阿蘇の草原と持続的農業」、大分「国東半島宇佐の農林漁業循環システム」が認定を受け、能登と佐渡に加えて国内5地域(サイト)となった。会議では「能登コミュニケ」が採択され、先進国と途上国のサイトが交流するという勧告が盛り込まれた。その流れをつかんで、金沢大学ではJICA草の根技術協力事業として、フィリピン・ルソン島のイフガオ棚田に、能登で実施している人材養成プログラムを移出することになった。「能登は一周遅れのトップランナー」と想いながら、毎週のように通っている。

  9月、能登から幕内力士が誕生した。穴水町出身の遠藤だ。秋場所の番付で昭和期以降で「最速」と注目を集めた、何しろ、春場所でデビューして、3場所でのスピード出世なのだから無理もない。同じ能登出身の力士に第6代横綱・阿武松緑之助(おうのまつ・みどりのすけ、1791‐1852)がいる。良く言えば慎重、立合いで「待った」が多く、江戸の庶民はじれったいことをすると、「待った、待ったと、阿武松でもあるめぇし…」と相手をなじった、という。遠藤には、こうした郷土の先輩のようにひと癖もふた癖もある関取になってほしい。

  12月、ユネスコの無形文化遺産に「和食文化」が登録された。世界の食文化では「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキ(麦かゆ食)の伝統」がすでに登録されている。和食文化の登録のポイントは、日本人の「自然を尊重する」という精神が和食を形づくったとのコンセプトを挙げている。大きく4つ。1つに多様で豊かな食材を新鮮なまま持ち味を活かす調理技術や道具があること、2つ目に主食のご飯を中心に汁ものを添えて魚や肉、豆腐、野菜を組みあわせた栄養バランスに優れたメニュー構成、3つ目に食器に紅葉の葉などのつまものを添えて季節感や自然の美しさを表現している、4つ目が年中行事とのかかわりで、正月のおせち料理や秋の収穫の祭り料理など家族や地域の人の絆(きずな)を強める食文化だ。手短に、ここで言うことのころ「和食」とは高級料亭のメニューではなく、家庭の、あるいは地域の郷土料理、能登で言うゴッツオ(ごちそう)なのである。そのポイントを能登の人たちはもってPRしてもよいのではないか。

⇒30日(月)午後・金沢の天気   くもり

  

☆2013備忘録‐2

☆2013備忘録‐2

  新しく世界農業遺産(GIAHS)サイトとして認定されたのは、「静岡の茶草場農法」(静岡県掛川市など)、「阿蘇の草原と持続的農業」(熊本県)、「国東(くにさき)半島宇佐の農林漁業循環システム」(大分県)、「会稽山の古代中国のトレヤ(カヤの木)」(中国・浙江省紹興市)、「宣化のブドウ栽培の都市農業遺産」(中国・河北省張家口市)、「海抜以下でのクッタナド農業システム」(インド・ケララ州)の6つだった。国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)、日本の農林水産省などが主催した「世界農業遺産国際会議」がことし5月、能登半島・七尾市で開催された=写真=。

        世界農業遺産を次世代につなぐプラットフォームとして

  国際会議には、FAOトップのグラジアーノ・ダ・シルバ事務局長をはじめ、農林水産省の副大臣など国内外の関係者600人(20ヵ国)が参加した。2年に一度の国際会議では冒頭の新たなサイトの認定だけでなく、「能登コミュニケ(共同声明)」が採択され、「先進国と開発途上国の間の認定地域の結びつきを促進する」ことなどの勧告が出された。

  このコミュニケを今後の能登にどう活かせばよいのか。「能登の里山里海」のGIAHSサイト認定(2011年6月)は、いわば、能登の暮らしそのものが国際的に高く評価されたということであり、能登地域の住民や自治体にとって大きな自信となっている。今回の世界農業遺産国際会議の成功は、その自信をさらに深めることとなり、その結果、能登地域では、世界農業遺産に対する地域住民や自治体の関心や、認定を活用した地域づくりへの機運や意欲が高まりを見せている。このチャンスを活かし、もう一歩踏み込んで、「能登の里山里海」を世界に発信できないか、金沢大学里山里海プロジェクトの代表、中村浩二教授と思案をめぐらしていた。

  アイデアがもたらされたのはことし5月上旬だった。JICA国際協力機構の北陸支部からの「草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)」の案件だった。この事業は、地方自治体やNGO、大学、公益法人などの団体による、開発途上国の地域住民を対象とした技術協力を、JICAが政府開発援助(ODA)の一環として実施している。ここでいう「技術協力」とは、人を介した協力を通じて、知識・技術や経験・制度などを移転することを指している。これが我々の腑に落ちた。

  金沢大学の里山里海プロジェクトが能登で実施している「能登里山里海マイスター」育成プログラムは人材養成、つまり社会人教育プログラムなのだ。これを7年続け、これまで84人が巣立っている。次なる目標を、国際的な視点を持ちながら地域の直面する課題解決に取り組むグローカル(グローバル+ローカル)な人材の育成に置いている。

  このノウハウ移出を同じ世界農業遺産であり、世界文化遺産(ユネスコ登録)でもあるフィリピン・ルソン島のイフガオ棚田で実施できないか。実は、これはフィリピン大学の教授たちから請われていたことでもある。1月に同大の教授2人を能登に招き、里山マイスターの修了生たちと意見交換してもらった。自然と共生(生物多様性)の視点、地域におけるビジネスを実践している彼らの話に熱心に耳を傾けていた。この後、「この人材養成プログラムをぜひイフガオでやってもらえないだろうか」とオファーがあった。若者の農業離れが進むイフガオで、世界遺産の国際価値を活かして未来につなげる若者の人材教育が必要だと痛感した、という。

  能登とイフガオで人材養成プログラムを実施することの意味は、相互交流や技術協力、学術交流などさまざまにリンクする。世界農業遺産を次世代につなぐプラットフォームにできないか、ついそこまで期待を膨らませてしまった。5月30日、世界農業遺産国際会議の現地視察で同席させていただいた農林水産省の審議官にこの「夢」をこぼした。すると、同省の海外技術協力官の方を紹介いただき、アドバイスもいただいた。その後、6月25日に提案者が石川県、実施者が金沢大学という協力の枠組みで、「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の申請にこぎつけた。9月上旬に内定の知らせがあった。

  いくつかの意味付けがあると考えている。大きくは国際会議のコミュニケの履行だろう。さらに、地域のグローバル人材の育成も含んでいる。国際的なネットワークづくりの端緒をつかんで、能登地域の活性化をはかることにもなる。「能登の里山里海」の豊かな価値を地域住民自身が評価し、夢ある未来を描き、地域の課題に取り組むマインドの醸成につなげ、世界につながる魅力ある地域の創造により、若者の都市部への流出を防ぎ、都市部からの移住の促進につなげていく。また将来、本事業が育成する人材が中心となり、自然と共生し、持続可能な社会モデルを実現し、世界へ発信する「国際協力交流センター」の機能が能登に生み出されることを期待したい。夢はさらに膨らむ。

⇒29日(日)午前・金沢の天気    はれ

★2013備忘録‐1

★2013備忘録‐1

  寒波が来て、28日は金沢の自宅周辺でも5㌢ほどの積雪となった。その晴れ間には雪を頂いた松の木が青空に映えて晴れ晴れとした気分にさせてくれる=写真=。2013年を振り返れば、自身のこと、家族のこと、地域のこと、政治のこと、経済のこと、外交のこと、実にいろいろな展開があった。忘れないうちに書き留めておきたい。「2013備忘録」をシリーズで。

   あるアメリカ人女性の志(こころざし)

  ことし1月、知り合いのアメリカ人女性から「推薦状を書いてほしい」という相談の電話を受けた。聞けば、彼女はコロンビア大学の大学院に入りたいので推薦文が必要なのだという。私が彼女と初めて面識を持ったのは2010年だった。金沢大学が能登半島で運営している「能登里山マイスター」養成プログラム(Noto Satoyama Meister Training Program)に聴講生として彼女は入ってきた。このプログラムは、能登で生計を立てたいと願う若者たちの人材養成(Capacity building of Young Leaders)を行う。2年間のカリキュラムで、ここでは、環境に配慮した農林漁業や、山や海の自然資源を活用したビジネスを学ぶ。受講の可否を決める面接で印象的だったのは、彼女は能登を世界に向けて情報発信するいろいろなビジョンを持っていたことだった。

  彼女は2007年、中等教育のALT(外国語指導助手)として能登に赴任した。2009年からは、能登半島の先端に位置する珠洲市にある株式会社塩田村で雇用され、伝統的な産業である「塩づくり」を学ぶチャンスを得た。彼女はさっそく世界に向けた情報発信に取り掛かる。奥能登の揚げ浜式の製塩法は日本の重要無形民俗文化財に指定されている。しかし、英語での解説が不足していた。彼女は、同社のホームページでその資料や道具を英語で解説するコーナーをつくった。日本人ですら理解できないような道具の名前や機能について、作業に当たる高齢者から丹念に取材して、分かりやすく英語で解説した。さらに、プロモートビデオ『Agehama Shiki Introductory Video』を、自らナレーションを担当して英語版を完成させた。また、塩田をテーマにしたドキュメンタリー映画の制作に積極的に参加し、自らも出演した。

  私は、そうした彼女の意欲的な活動を評価し、2012年1月に金沢大学で教材として使うビデオ『GIAHS能登の里山里海』の英語版の作成協力を依頼した。この映像は、10分の解説映像だが、彼女は能登での体験をフルに生かして完成させた。英語を学ぶ学生たちにGIAHSを解説する際にこの英語版を活用、また、能登のGIAHSを調査に訪れる海外からの研究者にこのビデオを視聴してもらっている。その評判はとてもよい。ナレーションに能登を愛する気持ちがこもっているからである。 それは彼女の表現力でもある、

  2012年5月、彼女はナビゲーターとして、NHKワールドTVに出演。能登の伝統文化や貴重な民俗を世界に英語放送として発信した。彼女の夢は、地域の活性化のため、企業活動を改善できるような仕事に就くことである。 私は、彼女には、一次産品に二次(加工)、三次(サービス)の付加価値をつけ、景観や文化資源を環境ブランドとして展開していく事業センスが必要と考える。世界の事例からそれらを学び、その知見を広め、地域と世界をつなぐ橋渡し役として成長してもらいたいと考えている。そして、彼女はそのための努力は決して惜しまないだろう。現在コロンビア大学大学院で地域ビジネス論を学んでいる。

⇒28日(土)夜・金沢の天気   ゆき