⇒ドキュメント回廊

☆能登・千里浜から見える海の問題の数々

☆能登・千里浜から見える海の問題の数々

   波打ち際を乗用車やバスで走行できる海岸は世界で3ヵ所と言われる。アメリカ(フロリダ半島)のデイトナビーチ、ニュージーランド(北島)のワイタレレビーチ、そして能登半島の千里浜(ちりはま)海岸だ。全長8㌔だが、うち6㌔を車で走行することが可能で「千里浜なぎさドライブウェイ」とも呼ばれる。砂のきめの細かさと、適度に海水を含んで引き締まっていることでビーチが道路のようになる。観光バスでも走ることができ、能登半島の観光名所としても知られる=写真・上=。

        車だけではない。人も違和感なく走ることができる。 5月21日と6月1日には東京五輪・パラリンピックの聖火ランナーが石川県を走るが、このビーチもそのルートに入っている。ところが、この名所が危機に瀕している。このところ、地元メディアでも大きく報じられているが、波による砂浜の浸食で幅が狭まっている、うち300㍍ほどが消滅した状態になっている。

   浸食は以前から問題となっていた。河川災害を予防するためにつくられた砂防ダムや、コンクリートの護岸が設置されて、陸からの砂が海岸に運ばれなくなった。とくに、金沢港に建設された長い堤防の影響で、砂を含んだ加賀地方からの海流がせき止められて、千里浜海岸への流れが少なくなってしまった。波による砂浜の浸食は常に起こるが、それを補給する砂の海流が細ってしまったということだ。県や関係自治体では2011年に「千里浜再生プロジェクト」を設置して対策を検討している。

   さらに不安をかき立てるのが、地球温暖化による海面上昇だ。気象庁の調べによると、昨年の日本沿岸の平均の海面水位は、平年と比べて8㌢余り高く、統計を取り始めてから最も高くなった。地球温暖化の影響で海面上昇が進展していることに加え、特に昨年は周囲より暖かい黒潮が日本の沿岸付近を通ったことが背景にあると指摘している(2月28日付・NHKニュースWeb版)。1960年から2020年までの海面水位の変化を海域別に見た場合、北陸から九州の東シナ海側で他の海域に比べ大きな上昇傾向がみられる(気象庁公式ホームページ「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」)

   千里浜はもう一つの名所でも知られる。春や秋の波打ち際にシギやチドリといった渡り鳥の群れが次々と降りてきて、人々を和ませる=写真・下=。渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアを往復する。その途中で、能登半島の千里浜海岸に立ち寄る。お目当ては全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビ、ナミノリソコエビだ。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむ。

   ただ、このエビは砂質が粗くなり汚泥がたまると生息できなくなる。つまり、シギやチドリが降りる海岸はきれいな海のバロメーターでもある。しかし、砂浜の浸食によって波打ち際の生態系も危うくなっているのではないだろうか。

   砂浜の浸食だけでなく、能登半島の対岸からはポリタンクやペットボトル、食品トレー、医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着がある。海洋プラスティックごみ、そして海中のマイクプラスティックと海のめぐる問題は複雑化している。

⇒28日(日)午後・金沢の天気     はれ

★ウメは咲いたか、ワクチンはまだかいな

★ウメは咲いたか、ワクチンはまだかいな

   金沢では20日に春一番が吹いて、21日にはウメが開花した(金沢地方気象台「生物季節観測」より)。きのう22日は金沢で最高気温が19.6度まで上がり、昔から歌われる「梅は咲いたか 桜はまだかいな」のような春の気分だ。

   春気分に浮かれてはいけない。新型コロナウイルスはまだまだ治まっていない。NHKが公表している直近1週間(2月16-22日)の人口10万人あたりの感染者数で、地元石川県は9.14人と東京、千葉、埼玉、神奈川に次いで5番目だ。以下、福岡、茨木、大阪と続く。コロナ禍ではまるで大都会並み、実に「不名誉」な数字ではないだろうか。同じ北陸でも、福井1.56人、富山1.05人と石川に比べれば、感染対策をしっかりやっているという印象だ。

   その石川もようやく重い腰を上げた。金沢の繁華街(片町1丁目、2丁目、木倉町)で酒類の提供を行うクラブやバー、居酒屋など飲食の2千店を対象に、石川県庁は営業時間を午後9時までとする時間短縮の要請をきのうから始めた。3月7日までの2週間で、時短要請の協力金は1店舗当たり56万円(1日4万円)だ。地元紙によると、2月に入ってからの県内の飲食関係クラスターの7例のうち6例が片町地区で発生し、新規感染者(2月3-16日)241人のうち、約5割に当たる113人が同地区の関係者だったことから時短要請に踏み切った(2月23日付・北陸中日新聞)

   こうなると待たれるのがワクチン接種だ。県内でも先行接種として、医療従事者を対象に19日から始まっているが、医師や看護師、薬剤師、歯科医に加え、コロナ患者と接触する可能性のある救急隊員なども含めると数万人の規模だろう。次なる65歳以上の高齢者への接種はいつからなのか。

   石川県庁の公式ホームページをチェックすると、「新型コロナワクチンについて」というページがある。さらに「県民のみなさまへ」のコーナーがあるが、県民へのワクチン接種についてのスケジュールの記載などはない。厚労省へのリンクがあり開くと、「(医療従事者への接種を先行)その後、高齢者、基礎疾患を有する方等の順に接種を進めていく見込みです。なお、高齢者への接種の開始は早くても4月1日以降になる見込みです」と。要は、接種の順番しか決まっていない。これが医療先進国・日本のコロナ対策の現状なのだ。

(※写真は自宅庭のウメ。23日午前8時撮影。金沢地方気象台の生物季節観測地点より山手にあり、まだ開花には至っていない)

⇒23日(祝)朝・金沢の天気   くもり

☆ある歯科医院の話

☆ある歯科医院の話

    半年ぶりにかかりつけの歯医者に行った。職場の金沢大学近くにある歯科医院「オードリー歯科(Audrey Dental Office)」。2009年4月、キャンディを噛んでいて右下あごの奥歯に被せてあった金属がポロリと取れ、駆け込んだのが「初診」だった。以前から気になっていたのが、「Audrey」という名称だった。院長はオードリー・ヘップバーンの大ファンで、それにちなんで名付けたのだろうと思っていた。

   通い始めて受付の女性職員に尋ねた。「オードリーという名は、院長先生がオードリー・ヘップバーンのファンなのですか」と。すると女性は「その質問はたまにあるのですが、大通りに面しているのでオードリーと名付けたようですよ」と。確かに、歯科医院は国道159号とつながる大通りに面している。そこから「Audrey」を発想するというのは、だじゃれというより、粋(いき)ではないかと感じ入ったものだ。

   それ以来、年に1回、最近では年に2回ほど、歯周病や虫歯の検診と歯石取りに出かけている。きょうも院長は「半年に1度くらいがちょうどいいですね。歯周病の予防に効果的だと思います。逆に期間が空きすぎると歯石の量も増えて固くなるので取る方も取られる方も大変ですよ」と言いながら、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning=プロによる歯のクリーニング)に取り掛かった。歯の表面についた歯垢や歯石、色素沈着などを専用の超音波器具(スケーラー)で取り除き、歯面を研磨した後、歯質強化に効果のあるフッ素を塗布する。全行程で20分足らずだった。

   いつも受付にいる女性職員が見当たらない。院長は「昨年の9月に辞めたんです。それ以来、ずっと一人で切り盛りしているんですよ」と。セッティングから片付けまで、事務処理と診療を一人で。「コロナのこともあり、なるべく人がいない方がいいですね。コロナが治まったら募集しようと思っているんですよ」と。通い始めた12年前は歯科衛生士や歯科助手もいた。金沢でも「歯科医院はコンビニより多い」と言われるくらいで、過当競争になっているのかも知れない。

   自身が小さいころ通った歯科医院も確か先生が1人だった。受診する側とすれば、丁寧に診療してくれればそれで充分なのだ。80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという「8020(ハチマルニイマル)運動」を歯科医師会などが進めている。地域住民に寄り添い、高齢者のQOLに地道に尽力していただくことを期待している。

⇒22日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆「冬の華」を楽しむ

☆「冬の華」を楽しむ

   目が覚めて外の景色をみると、樹木や道路に雪が積もっている。それほど寒くはない。積もっている雪をよく見ると、「綿雪」だ。ふんわりした、まるで綿をちぎったような形状=写真・上=。当地では「ぼたん雪」と称したりする。今季のこれまでの雪は強烈な寒波がやってきたときに降る「粉雪」が続いていた。2月もそろそろ中旬に差し掛かる。立春が過ぎて、季節のやわらぎを感じる。

   綿雪は雪の結晶がくっつき合っている。なので、樹木の枝などに降りかかると、まるで花のように見える。大学の校舎をバックした樹木はまるで、満開のソメイヨシノのようにも見えて壮観だ=写真・下=。ただ、気温が少し上がり、午前中には溶けてしまった。数時間だったが、冬の華を楽しませてもらった。

⇒8日(月)午前・金沢の天気   くもり

★100均のライトが浮かぶ雪明かり

★100均のライトが浮かぶ雪明かり

   庭先にソーラーライトを設置していたが、大雪でしばらく雪に埋もれていた。きょう夕方、ふと庭を眺めると雪が解けてソーラーライトが灯っている。光が雪に反射してあたりを明るく灯している。雪明かりだ=写真=。太陽の光を蓄電して、暗くなったら自動で明かりがともる。庭を飾るインテリアとして使っている。「100均」のソーラーライトだが、雪中の光に浮かんで見えて幻想的だ。

          こうしてブログを書いている間にも、再び雪が積もってきた。予報によると、発達した低気圧や強い冬型の気圧配置の影響で、北陸などを中心にあす30日にかけ、雪を伴って非常に強い風が吹き、猛烈なしけや大しけになるところがあるという。気象庁では暴風雪や暴風、高波に厳重に警戒するよう呼び掛けている。あす午後6時までに予想される24時間降雪量は、多いところで、北陸地方が60㌢、関東甲信地方や東海地方でも50㌢となっている。

   一月最後の週末も「雪ごもり」となりそうだ。そして、100均ライトの雪明りは当分お預けか。

⇒29日(金)夜・金沢の天気     ゆき

☆厳冬考察:ブラックアイスバーンとスタック

☆厳冬考察:ブラックアイスバーンとスタック

   寒さが厳しくなって気がついたこと。気温が氷点下の日などはエアコンのスイッチを入れても、すぐに暖房が入らないことだ。10分ほどしてようやく入ることが続いた。故障かなと思い、エアコンを購入した電気屋に電話した。「それは室外機の暖気運転をしているからです。寒さが厳しいとそうなります」との返事。「暖気運転」という言葉を初めて知った。エアコンを駆動させるために室外機の装置を暖めるのに少し時間がかかる、ということだった。

   前回のブログでショベルカーで雪道だった自宅前の道路で除雪作業が行われたと書いた。けさ、除雪された道路の路肩の雪をスコップで側溝に落としこんでいると、登校する子どもたちの声が聞こえてきた。男の子が「道路がブラックアイスバーンでツルツルになっているから気をつけろとお父さんから言われた」と。別の男の子が「ブラックアイスバーンって何」と。「よく分かんないけど、道路が凍っているということらしい」と答えていた。

   子どもたちの会話を聞いて、「ブラックアイスバーン」は自身も初耳だった。アイスバーンはスリップ事故にもつながるので気をつけている。子どもたちの会話を聞いて、なるほどと気がついた。きれいに除雪された道路に雨が降って、けさの冷え込みで路面が凍っている。いわゆる路面凍結だ。路肩の雪と対比すると、ブラックな道路、まさにブラックアイスバーンだ=写真=。このツルツル道路は滑って転ぶと痛いだろうと想像すると、親の注意も納得する。午前中には気温が上昇して氷も解けて普通の道路に戻るだろう。

   けさネットニュースをチェックしていて、「大雪で”路面状況”悪く スタックした車と衝突し71歳男性が死亡」との見出しで新潟市のニュースがあった(1月12日付・新潟総合テレビWeb版)。記事によると、市道上の坂道でスタックした普通乗用車がバックしたところ、後ろを歩いていた71歳の男性と衝突したという。「スタック」の言葉は初めてで理解できなかった。英語で「stuck」、「立ち往生」のことだ。ネットで調べると、「積雪の多い道路の運転では、雪にタイヤがはまり、前にも後ろにも進まなくなる『スタック』というトラブルに遭遇する可能性があります」(チューリッヒ保険会社公式ホームページ)。

   雪の道路のわだちに入ってしまい、車の底が雪上に乗り上げて立ち往生するという現象は、運転歴40年以上の自身も何度か経験している。その時はスコップで車の底の雪を除き、他の人に後ろから車を押してもらいながら前進するとなんとか抜け出すことができた。この事故は想像するに、スタックで気が動転していた運転の女性は坂道だったのでバックギアを入れると動いたので、後方をよく確認せずにそのままアクセルを踏んでしまったのではないだろうか。雪道では気をつけていたとしても交通事故は起きる。それだけに痛ましい。

⇒13日(水)朝・金沢の天気     くもり

★厳冬考察:カーボンニュートラルと腰痛

★厳冬考察:カーボンニュートラルと腰痛

        朝起きると腰や右肩に痛みを感じた。時間が経つと少しやわらいできたがまだ痛みは残る。「頑張り過ぎたかな」と。昨夕方、自宅の玄関前やガレージ前などで雪すかし(除雪)をした。雪はじっとりと湿っていて重い。その雪を空きスペースに放り投げる。「エンヤコラ」と『ヨイトマケの唄』を心で歌いながら作業を60分ほど続けた。その反動が今朝の痛みだ。  

   屋根雪も随分と積もっていたが、少しずつ解け始めている。けさ近所の家の屋根をみると、ソーラー発電のパネルが見えていた=写真・上=。きょうは曇り空だが、5日ぶりの発電ではないだろうか。再生可能エネルギーの代表のような太陽光発電だが、今季のような豪雪では用を成さない。

   そこで思ったことは、菅総理は所信表明演説(2020年10月26日)で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指します」と声高に宣言した。そうなってほしいと自身も心から願うが、現実は容易ではないだろう。厳冬になれば、太陽光発電の電力供給が滞る一方で、電力需給がひっ迫してくるからだ。

   NHKニュースWeb版(12日付)によると、きのうの電力の使用率のピークは▽中国電力管内で午後6時台に97%、▽北陸電力管内で午後7時台に97%、▽四国電力で午前9時台に97%、▽中部電力と関西電力は午前10時台に96%、など全国的にひっ迫した。北陸電力送配電公式ホームページ「北陸エリアでんき予報」をチェックすると、きょう12日の需要ピーク時使用率は96%と予想値を出している。おそらく火力発電所を最大限に稼働させるなど、電力の現場では供給の確保に必死だろう。ちなみに同社の電源構成(2019年度)は石炭火力48%、水力28%、LNG11%、FIT(固定価格買取制度で調達した太陽光・風力発電)6%などとなっている(北電公式ホームページ)。北電の志賀原発は運転停止中だ。

   2050年カーボンニュートラル宣言は発出されたものの、現実問題として、二酸化炭素を出さずにエネルギー供給するとなると、電源として水力や風力、太陽光、原子力などのエネルギーミックスの有り様が問われる。経産省は第5次エネルギー基本計画(2018年7月)で、2030年度の電源構成を火力56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)、原子力22-20%、再生エネ22-24%とするエネルギーミックスを発表しているが、カーボンニュートラル宣言で石炭などを極力使わないとなると、原子力の比重が増すことになる。果たしてそのような単純な計算でよいのだろうか。

   午後1時ごろ、自宅前が騒々しくなってきた。道路の除雪作業をするショベルカーと雪を運ぶトラックがやってきた=写真・下=。自宅前の道路では積雪であちらこちらにわだちが出来ていて乗用車の立ち往生も起きていた。ショベルカーを写真で撮ろうと外に出たとたんに屋根雪がドドッーと落ちてきた。間一髪だった。ショベルカーが動くたびに地面にかすかな振動がしていた。その揺れで屋根雪が落ちたのか、あるいは偶然か。

   写真を撮り終え、玄関前の落雪のかたまりをスコップですくい、庭の空きスペースに放り投げる作業を始めた。落下した雪はとてつもなく重い。またまた、「エンヤコラ」と『ヨイトマケの唄』を心で歌いながら。20分ほどで終えたが、あすの朝も腰と右肩に痛みが走るかもしれない。腰と肩の痛みは冬場の日常と心得よ、と自身に言い聞かせる。

⇒12日(火)午後・金沢の天気    くもり時々あめ 

★静かなる年末年始(8)「冬将軍と向き合う」

★静かなる年末年始(8)「冬将軍と向き合う」

   大晦日の雪景色が広がる。自宅周囲では正午過ぎに15㌢の積雪があり、きょう午後から元旦にかけてさらに「数年の一度の大雪」になるとの予報。大雪をともなった寒さが厳しい冬、まさに「冬将軍」の到来だ。

   北陸の人々は、長期予報で「ことしは暖冬」と伝えられていても、冬将軍の訪れに備えて自家用車のタイヤをスタッドレスに交換し、自宅では庭の雪吊りの備えを怠らない。たとえ期間は短くとも、冬将軍は必ずやってくるからだ。

   逆に、冬将軍が来ないと雪すかし(除雪)をしなくて楽なのだが、別の不安感もよぎる。暖冬だったある年に久しぶりに雪が降った。そのときのご近所さんとの会話だ。「ようやく降りましたね」と声がけすると、「もうちょっと降ってもらわんと心配やね」だった。北陸人にとっては降るべき時に降ってもらわないとこれからのシーズンで異常気象が起きるのではないかと不安が募るのだ。

  この季節感覚はなんだろう。北陸は四季がはっきりとしているからだと考える。日常の暮らしに季節の風景の変化があり、雪や雨の多少や温度や湿度の高低差がある。視野と肌感覚が実に敏感になっているのだろう。

  北陸人は粘り強いとか、めげないなどと評価されることがままある。「冬来たりなば春遠からじ」(イギリスの詩人シェリー『西風に寄せる歌』より)は北陸ではこの時節によく使われる言葉だ。辛いことがあっても辛抱しよう、そのうち良いことがあると心に言い聞かせながら耐え忍ぶ。季節感覚がそのような精神風土を育んでいるのかもしれない。

          ところで、民放テレビで気象ニュースを視聴していると、キー局の気象予報士が「吹雪で見通しが悪くなりますので、不要不急の外出は控えてください」といったコメントを繰り返している。新型コロナウイルスの感染を意識したようなコメントに聞こえ、違和感が残る。吹雪であっても小学生は学校に通っている。雪国で暮らす者にとっては余計なお世話と言いたくなる。言うのであれば、「スノータイヤに履き替えていない車での外出は控えてください」だろう。コメントに現場感を持たせてほしいものだ。雪国の人々は冬将軍と向き合って暮らしているのだ。

⇒31日(木)午後・金沢の天気    ゆき 

☆静かなる年末年始(7)「高値の大納会なれど」

☆静かなる年末年始(7)「高値の大納会なれど」

   石川県の地元企業である石川製作所(白山市、東証1部)の株価をたまにチェックしている。このところ、同社の株価が再び上昇に転じている。ことし最後、きょう大引けの日経平均は123円安の2万7444円と3日ぶりの反落にもかかわらず、同社の終値は1955円と40円(+2.09%)の上げだった。この「上げ」の背景を憶測してみる。

   石川製作所は北朝鮮の動きと連動する株価で知られる。段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業でもあり、朝鮮半島でキナ臭さが漂うと同社の株価に注目が集まる。2017年9月、アメリカのトランプ大統領が国連総会の演説で金正恩党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。トランプ氏が北に対して斬首作戦を決行するのではないかと憶測され、それまで1000円に満たなかった株価は急上昇し、10月には4435円の最高値をつけた。

   この一年の北の動きを振り返っても株価が敏感に反応していることが分かる。金氏がことし4月12日の最高人民会議を欠席し、祖父・金日成主席の誕生日である同月15日に安置所がある太陽宮殿への参拝がなかったことが報道されると株価は上昇に転じ、CNNの危篤説の報道(21日付)で1584円に。その後元山(ウォンサン)の別荘に停車している特別列車の衛星画像の公開され、死亡説まで取り沙汰されると4月28日は1710円に。ところが、金氏が姿を見せると、5月7日には152円安の1553円に。南北首脳会談の「板門店宣言」で建設された北南連絡事務所が6月16日に北によって爆破されると、翌日17日には1914円に上昇した。

   このところ再び1900円台での上昇が続いている。これをどう読むか。国連安保理が履行を求める国際社会による経済制裁、それに台風と洪水など自然災害の食糧危機などが重なって政治情勢が危ぶまれる。それに、党委員長である金氏の動静が伝わってこない不気味さだろうか。NHKニュースWeb版(12月27日付)によると、北朝鮮国営の朝鮮中央通信や朝鮮中央テレビなどがことし1月1日から今月27日までに伝えた金氏の情報は53件で、これは昨年の113件の半分以下。新型コロナウイルス対策で公の場での活動を控えた可能性がある、と伝えている。

   北朝鮮では年明けの1月上旬に最高指導機関と位置づける党大会が開催される予定(NHKニュースWeb版・同)で、ここで金氏が演説する姿を見せるかどうか。もし、不在ならば同社株価の乱高下は来年も続く。

   きょうの東証の大納会の模様がネット動画で配信されていた=写真=。年末終値としては史上最高値を付けた1989年(3万8915円)以来、31年ぶりの高値水準となった。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ことし3月に1万6552円まで下げている。コロナ禍のステージは、強烈な感染力をもつ異変種化へと進んでいる。はたしてワクチン接種で収まるのか。来年をどう読むか。

⇒30日(水)午後・金沢の天気   ゆき

★静かなる年末年始(6)「人と社会の基礎疾患」

★静かなる年末年始(6)「人と社会の基礎疾患」

   働き盛りの50代でも高血圧症や高脂血症、糖尿病などの基礎疾患があると、午後3時ごろに呼吸が荒くなり、容体が急変し、その90分後には亡くなるものなのか。これが新型コロナウイルスの怖さなのか。今月27日に亡くなった国会議員、羽田雄一郎氏の死亡が連日メディアで報じられている。自らも高血圧症であり、他人事ではないと感じている。高血圧症の場合は急性心不全という突然死の恐怖がつきまとうが、今回、ウイルスがどのように基礎疾患に作用して人を死に至らしめたのかぜひ解明してほしい。

   話は変わる。この一年で「社会の基礎疾患」というものを感じさせたのはクマの街中での出没だった。ことしは全国的にクマの出没が多発したが、石川県だけでも目撃・痕跡情報は1077件(12月21日現在)。金沢市がもっとも多く296件、以下小松市252件、加賀市197件と続く。クマによる人身被害も10件15人に上っている。出没が多発した3市は医王山や白山麓にあり、冬眠前にクマが食べるドングリの実が凶作だったことから人里に下りてきたのが原因とみられる。県では自宅庭のカキの果実を摘んでおくなどの対策を呼び掛けている。

   山から人里に下りてきているのはクマだけではない。金沢では住宅街にサル、イノシシ、シカが頻繁に出没している。エサ不足に加え、中山間地(里山)と奥山の区別がつかないほど里山が荒れ放題になっていて、野生動物がその領域の見分けがつかず、人里や住宅街に迷い込んでくる、とも言われている。繰り返しになるが、里山の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めた。

   過疎化だけではない。日本人の「自然離れ」もあるのではないだろうか。かつて、里山は木材や山菜などを調達する資源の場として、また、保水など環境保全の場として森を利用してきたが、その意識が薄らいでいる。また、文化資源としての利用も欠けている。川遊びや森を利用した遊びの文化が、地方でも少なくなっているのではないだろうか。子どもたちの「自然離れ」が進めば、近未来の里山はさらに奥山と化して、人里に野生動物の出没も増えることは想像に難くない。

   UNEP(国連環境計画)がこのほどまとめた報告書に「ズーノーシス(zoonosis)」という言葉が出てくる。新型コロナウイルスの発生源として論議を呼んでいるコウモリなど動物由来で人にも伝染する感性病を総称してズーノーシス(人畜共通伝染病)と呼ぶ。人々の生産活動が野生動物の領域であるジャングルなどの山間地に入れば、それだけ野生動物との接触度が増えて、感染リスクが高まる、という内容だ。エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、HIVなど、これまで人間が罹ってきた感染症はズーノーシスに含まれる。

   以下、少々乱暴な言い方になる。日本では今後、逆のズーノーシスが起きる可能性が高まっているのではないか。人々が自然から離れ、これまで手入れしてきた里山を放置して荒らすというのはある意味で「社会の基礎疾患」とも言える。放置が広がれば野生動物の領域がそれだけ広がり、人里や住宅街に接近することになる。切るべき樹木など伐採することで中山間地=里山を保全するなど行政の政策として「手当て」をしなければ、野生動物が新たな感染症をもたらすことになるかもしれない。

⇒29日(火)午前・金沢の天気     くもり