⇒ドキュメント回廊

★エレキと運命をともにした「寺内タケシ」の人生

★エレキと運命をともにした「寺内タケシ」の人生

   昭和40年代のエレキギターブームで人気を集め、「エレキの神様」の愛称で親しまれたギタリストの寺内タケシ氏が、18日夜、横浜市内の病院で肺炎のため亡くなった。82歳だった(6月19日付・NHKニュースWeb版)。自分自身にとってはエレキギターは青春の思い出の一つだけに、いまでも、「寺内」「テラウチ」と見たり聞いただけで、つい「タケシ」と連想してしまう。

   エレキギターの音色が最初に耳に入ってくるようになったは、アメリカのバンド「ザ・ベンチャーズ」の来日(1965年1月)だった。自身はまだ小学生のころだ。ヒット曲「パイプライン」や「急がば廻れ(Walk, Don’t Run)」に刺激を受けたものだ。続いて、イギリスのバンド「ザ・ビートルズ 」の来日(1966年6月)に心がかき立てられた。

   音楽に興味がわいて、中学生になりブラスバンド部に入った。トロンボーンを始めた。ブラスバンド部で同じくエレキギターを趣味でやっていた仲間と知り合い、2年生のときにエレキギターとドラムによる独自のバンドを結成した。バンド名を「Bombs」とした。激しい音を出すので、「爆弾のようなバンドだ」と周囲からなじられ、bomb(爆弾)をバンド名にした。ビートルズのように歌えるボーカルがいなかったので、ベンチャーズのインストゥルメンタル・サウンドが中心だった。

   バンド「寺内タケシとブルージーンズ」にのめり込んだのは、いわゆる「テケテケ」と特徴のあるギターテクニックだった。とくに、ベートーベンの交響曲第5番をエレキギターで演奏する「レッツ・ゴー 運命」は当時エレキギターを志す誰しもが目指した曲でありテクニックだった。自身はサイドギターを担当し、ベンチャーズとブルージーンズの演奏曲を秋の文化祭で披露することにして練習を重ねた。公演も無事成功し、当時は「エレキの若大将」気取りだったかもしれない。

   ただ、そのころ教育界ではエレキギターは「不良の温床」と見なされていたようだ。中学3年とき学校の担任から「高校受験もあるのでことしは止めた方がよい」と指導された。その後、全国の多くの学校でいわゆる「エレキ禁止令」が広まった。寺内氏は、偏見を解いてもらおうと1974年から全国の高校を回る「ハイスクールコンサート」を始めた。ライフワークとして2016年まで続け、訪れた学校は1500ヵ所にもおよんだ。エレキギターと運命をともにした人生だった。

⇒19日(土)夜・金沢の天気      くもり

★『青山緑水』生命力あふれる自然の情景

★『青山緑水』生命力あふれる自然の情景

   二十四節気の一つ「芒種(ぼうしゅ)」のころ。穂先の尖った針のような部分を「芒(のぎ)」と呼んで、稲や麦など穀物を意味する言葉だ。かつて芒種は梅雨入り前に稲の田植えや麦を刈取る、野良仕事の季節の目安でもあった。いまは稲の品種改良も進んで5月のゴールデンウイークごろが田植えの時季になっている。

   芒種にちなんだわけではないが、我が家の和室も障子戸を外して簾(すだれ)をかけた。床の間の掛け軸も『五月晴れ』から『青山緑水』に取り換えた=写真=。山の木々は青々と輝き、山から流れ出る川水に緑が映える。生命力あふれる自然の情景を感じさせる。掛け軸の下の花入には、庭に咲いていたシモツケ、ズイナ、ツキヌキニンドウの3種を生けた。

   禅語辞典をくってみると『青山緑水是我家』という書もある。各地を行脚して歩く禅の修行僧の境涯を表現したもの。自然界では人の奢り高ぶった気持ちは通用しない。自然を我家として修行に励むことで、人は全ての生き物と同じように大自然の中に生かされているということを改め感じ、悟りをひらく。

   山中での修行と言えば、一度実物を鑑賞したいと思っている絵画がある。国宝の『出山釈迦図(しゅっさんしゃかず)』(東京国立博物館蔵)。髪やヒゲは伸び、やつれて衣も乱れ、山道を歩く釈迦の姿が描かれている。13世紀の中国・南宋時代のものとされる。これまで図録など見てきたが2つの解釈がある。東博の解説は、「本図は、永い修行にもかかわらず悟りを得られず、山を出る釈迦の姿を描いたものであるが、その精細で写実的な人物表現はきわめて秀逸」とある。一方、先の禅語辞典では「六年の苦行の後、ナイランジャナ河のほとり、菩提樹の下で成道した。梵天の勧請を受け、教化に踏み切ることを決意したが、そのために雪山(ヒマラヤ)を出る姿をあらわすのが出山の図である」(淡交社『茶席の禅語大辞典』)と。

   これまで聞いてきたのは、釈迦は6年の山中の苦行では悟りは得られず、命からがら山村に迷い込んで助けられ、菩提樹の下で悟りを得る。その後、民衆への教化のため俗界に下ったという説である。とすると、釈迦は2度山を出ている。図の姿は悟りを得られず山を出る姿なのか、あるいは、悟りを得て民衆への教化のために俗界に下る姿なのか。絵をじっくり見ながら思いをはせてみたい。とりとめのない話ではある。

⇒6日(日)夜・金沢の天気     くもり  

★「トーチキス」って何だ 時代の変化とカタカナ語

★「トーチキス」って何だ 時代の変化とカタカナ語

          きょう2日、ようやく金沢市のコロナワクチンコールセンターと電話がつながり接種の予約ができた。5月6日から予約が始まり、土日を除いて毎日繰り返し電話をしたがつながらず、「電話うつ」の状態だった。夕方になって繋がってもきょうの予約分はすでにいっぱいになっていて、係員から「あすまた電話をおかけください」と言われ、ショックを受けていた。電話そのものをかけたくなくなる状態だった。

   きょうは正午ごろにつながって、接種券の番号や住所・氏名、指定の病院、日時、当日持参する書類の確認など5分足らずの手続きだった。最後に「ほかに何か問い合わせがありますか」と聞かれたので、「なぜつながらないのか、予約の仕組みがおかしい」と一言文句を垂れようかと一瞬思った。が、電話の相手の男性のしゃがれ声に対応の疲労を察して、「お疲れ様、ありがとう、これで安心しました」と受話器を置いた。

   話はがらりと変わる。東京オリンピック・パラリンピックの「聖火リレー」が31日と1日の両日、石川県内で行われた。テレビでその様子を見ていた。石川県に適用されている新型コロナウイルスの「蔓延防止等重点措置」(今月13日まで)を受けて、公道でのリレーは中止になった。その代わり行われたのが無観客のセレモニー会場のステージで行われた「トーチキス」。ランナーは走らずにトーチで聖火を受け渡す=写真、東京オリ・パラ組織委員会公式ホームページより=。

   それにしても、「トーチキス」という言葉は今回初めて知った。それぞれトーチがまるでキスでも交わすように聖火を渡していくので、「トーチキス」。和製英語なのだろうか。

   昨年の新型コロナウイルスのパンデミック以来、次々とカタカナ語が飛び交っている。「ロックダウン」や「ソーシャルデスタンス」、「クラスター」などはその典型だろう。これらの言葉は聞いただけでなんとなく理解はできるが、戸惑うカタカナ語もある。この3月、テレビのニュースで東京都の小池知事が「ハンマー・アンド・ダンスという言葉があるが、今はダンスの時ではない」と語っていた。「ハンマー・アンド・ダンス(The Hammer &The Dance)」、ネットなどで調べると、ハンマーでたたくように対峙、そしてダンスを踊るように共存を意味する。アメリカでは医療従事者の間でよく使われる感染対策の理論のようだ。

   時代の変化とともにカタカナ語などがどんどんと生れ、移入してくる。そして時代が去れば言葉も死語と化す。言葉は生き物のようでもある。とりとめのない話になってしまった。

⇒2日(水)夜・金沢の天気      はれ

☆ワクチンへの期待と憂鬱

☆ワクチンへの期待と憂鬱

   新型コロナウイルスの感染状況が悪化している。朝日新聞Web版(5月14日付)によると、政府がきょう14日午前に開いた専門家による「基本的対処方針分科会」では、特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に、北海道、岡山、広島の3道県を新たに加える諮問を出し直し、了承された。期間は今月16日から31日まで。また、群馬と石川、熊本の3県は、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」の対象地域に加えた。期間は16日から6月13日まで。

   石川の「まん延防止等重点措置」の対象地域は金沢市となる。「重点措置」の適用が決まったことを受けて、石川県の谷本知事は、今月31日と来月1日に県内で行う予定の東京オリンピックの聖火リレーの公道での開催を中止すると発表した。聖火リレーの代替方法を検討するという(時事通信Web版)。

   金沢市に住んでいて、ただただ待っているのがワクチン接種だ。同市のワクチン接種の予約受付は今月6日に始まったが、自身の予約はまだ取れていない。市のコールセンタ-とはようやく12日に電話が繋がった。ところが、ワクチン接種を行う市内201の医療機関はすでに申し込みが満杯の状態で、今月31日から再度、予約受付を開始するとの返事だった。この日、予約受付に使用しているアメリカの顧客管理システム「Salesforce」が一時ダウン、予約受付もストップするなど混乱が続いていた。

   友人たちとメールでやり取りすると、「ワクチン神話はそのうち崩壊する。オレは接種しない」との意見もある。この声は少数派だが、確かに、石川県ではファイザー製のワクチンを2回接種(3月13日、4月3日)を終えた病院の女性職員が感染したことが報じられた(4月12日付・メディア各社)。2回のワクチン接種を完了しているにもかかわらず発症することを、「ブレイクスルー感染」と言うそうだ。また、全身にアレルギーが出たり、急に血圧が低下して気分が悪くなったという、アナフィラキシー・ショックを体感した知人もいる。さらに、次々と出現する変異株にワクチンがどこまで効果があるかは不透明という印象はぬぐえない。

   一方で、「ワクチン先進国」のアメリカの疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスを巡る指針を改定し、ワクチン接種を完了した人は屋外および屋内の大半の場所でのマスク着用は不要と定めた。また、 ソーシャルディスタンス(社会的距離)についても、大半の場所で維持する必要はないとした。ただ、航空機や電車、空港や駅、病院では引き続きマスクの着用を推奨した(5月13日付・ロイター通信Web版日本語)。

   アメリカでは、医療従事者の25%が接種拒否しているとニュース(2021年1月8日付・ロイター通信Web版日本語)になっていたが、その後、どのような展開になっているのか。日本でもことし2月から医療従事者480万人に対するワクチン接種が始まったが、これまで1回接種は336万人、2回接種は152万人となっている(総理官邸公式ホームページ・5月13日付)。単純に計算すると5月に入っても、144万人が1回も接種していないことになる。率換算で30%だ。これはワクチン配布の単なる遅れなのか、あるいは拒否なのか。

   日本ではワクチンの普及が遅れているがゆえにワクチンに対する疑心暗鬼が生じるのか。期待と憂鬱が交錯する。とりとめのない話になってしまった。(※写真は、ラファエロ作『アテネの学堂』)

⇒14日(金)夜・金沢の天気       くもり

★花咲けど、コロナ禍で「無常」の響き

★花咲けど、コロナ禍で「無常」の響き

   いまの時代にはふさわしくない表現かもしれいないが、「花にも格」というものがある。たとえば、古くからボタンは「花王」、シャクヤクは花の宰相、「花相」と呼ばれてきた。高貴な美しさを周囲に漂わせ、人は相応な愛で方をする。きのう玄関に庭のシャクヤクを飾った=写真=。敷板の上に唐銅の花入だ。花の姿は人の姿にもたとえられる。「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」と。花は精気を放ち、心を和ませてくれる。

   しかし、残念なことに人の世の精気が感じられない。東京オリンピック・パラリンピックは一体どのような展開になるのか。NHKニュースWeb版(5月12日付)によると、IOCは理事会後に広報責任者がオンラインで会見を行い、ファイザーなどから提供を受ける新型コロナウイルスのワクチンについて、「東京オリンピックの選手村に入る人の大多数が接種すると見通している」と述べた。また、各競技の予選について「全体の7割にあたる7800人以上の出場枠がこれまでに固まり、2割は世界ランキングをもとに決まる」と述べた。ところが、オンライン会見では質疑応答の最後に指名され、ヤフーの記者と紹介された男性が画面に向かって突然、英語で「東京オリンピックはない」と書かれた黒い布を掲げながら「オリンピックはいらない」などと繰り返し声を上げる一幕があり、映像はすぐに切り替わり会見は終了した。

   混沌とした東京オリンピックの状況を象徴するような出来事ではある。オリンピックだけではなく、「人の流れ」をともなうイベントや会議など催事が混迷を深めている。きょう届いたメールで能登半島で9月に予定しているイベントの担当者の苦悩が書かれてあった。

   「コロナ、なかなか収まりませんね。GW中に、ついに当市でも感染者が発生し、石川県が独自の緊急事態宣言を発出したことで、現在の市民感情は、イベントを開催することに不安を抱えている状態です。事務局サイドでも、今月末に企画発表会の開催を予定しておりましたが、コロナの状況を見極めて判断するということで延期することになりました。準備がちょっと進んだかなぁと思うと、スタート地点に引き戻される感じがしています」

   医療従事者480万人のうちワクチン2回接種を終えたのは139万人、65歳以上の高齢者3600万人のうち2回接種を終えたのはわずか3万人だ(5月12日現在・総理官邸公式ホームページより)。コロナ禍の収束はまだ先が見えていない。菅総理は7月末までに希望するすべての高齢者への2回接種を終えたいと述べているのだが。

   自然の中で花は毎年変わらず咲くが、人の世は変わってしまうものだ。先人たちはこれを「無常」と称した。「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」(平家物語)

⇒13日(木)午前・金沢の天気    くもり

★台湾ダム着工100年 「八田與一」考える座像の秘話

★台湾ダム着工100年 「八田與一」考える座像の秘話

   「八田與一」という名前を知っている人は台湾と金沢以外、ほとんどいないだろう。「はった・よいち」と読む。その八田與一の名前がNHKの全国ニュース(5月8日付)で流れた。以下、ニュースを紹介する。

   日本統治時代の台湾で、日本人技師、八田與一が建設に尽力した「烏山頭(うさんとう)ダム」の着工100年を祝う式典が8日、現地で行われ、蔡英文総統などが出席した。台湾南部の台南にある烏山頭ダムは、1920年に建設が始まり、工事を指導した、石川県金沢出身の八田技師は最大の功労者として台湾でも高く評価されている。八田技師の命日にあたる8日、ダム着工100年を祝う式典がダム近くの公園で行われ、蔡英文総統をはじめ首相に当たる行政院長や閣僚などの要人が出席した。式典では蔡総統が「ダムと灌漑施設の水は100年流れ続けている。台湾と日本の友情も双方の努力によって続いていくことだろう」と、功績をたたえた(NHKニュースWeb版を引用)。

   烏山頭ダムは10年の歳月をかけて1930年に完成したものの、日本国内では1923年に関東大震災があり、ダム建設のリ-ダーだった八田にとっては予算的にも想像を絶する難工事だった。5月8日が命日というのは、ダム建設後、軍の命令でフィリピンの綿花栽培のための灌漑施設の調査のため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で船が沈没し亡くなった。その日が1942年の5月8日だった。終戦直後、八田の妻は烏山頭ダムの放水口に身投げし後追い自殺する。

   当時としてはアジア最大級のダムで、同時に造られた灌漑施設によって周辺の地域は台湾の主要な穀倉地帯となり、現在も農業だけでなく工業用水や生活用水として利用されている。戦後も台湾の人たちに八田は高く評価され、台湾の民主化を成し遂げ、哲人政治家としても知られる元総統、李登輝氏(2020年7月死去)が2004年12月に金沢に来て、八田與一に関する展示と胸像がある「金沢ふるさと偉人館」を訪ねている。

   八田の功績は戦後日本と台湾の友好の絆をも育んだが、台湾の独立派と中国と台湾の統一派によるつばぜり合いが過熱する政治情勢では、政争のシンボルになることもある。2017年4月、烏山頭ダムの記念公園にある銅像(座像)の首が切断され、中台統一派の元台北市議が逮捕された。日本より中国との交流を優先せよというメッセージだ。同じ年の2月には新北市の大学キャンパスにあった蒋介石の立像の一部が切断され、独立派の学生たちが逮捕された。大陸からやってきた本省人が台湾の独立を妨げている、との主張だ。同4月にも台北市の蒋介石の座像の首切断事件があった。

   八田の座像はすぐさま修復され、同年5月7日に座像修復の除幕式、そして8日には金沢市から関係者を招いて慰霊祭が行われた。座像は、八田が考え事をしている時によくとっていたポーズとされる。農業発展のダムの先駆者と妻の後追いの悲話、日本と台湾の友好の絆、独立派と統一派による政争のシンボル。「いま八田は何思うのか」。意味深なポーズではある。

(※写真は、台湾・烏山頭ダムを見渡す記念公園に設置されている八田與一の座像=台北ナビ公式ホームページより)

⇒11日(火)午後・金沢の天気  はれ時々くもり

☆カキツバタの「ため息」

☆カキツバタの「ため息」

   そろそろ金沢の兼六園のカキツバタが見ごろを迎える時節だ。毎年5月中ごろになると、カキツバタが咲く曲水の周囲=写真=には早朝から市民が三々五々訪れる。中には、かがんで耳に手をあて、じっと開花を眺めている人もいる。言い伝えだが、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」という。その花音を聞いたことがあるという人生の先輩が「美女のため息のよう」と自慢げに話していたので、自身もこれまで何度か早朝の兼六園で耳を傾けたことある。花咲く瞬間は見ることができたが、残念ながら「ため息」は聞いたことがない。ただ、「兼六園にカキツバタの花音を聞きに行く」、なんと風流な言葉か。その兼六園がしばらく閉鎖されるとのニュースが流れてきた。

   石川県の谷本知事はきのう(9日)新型コロナウイルスの対策本部会議を開き、これまでの石川独自の「非常事態宣言」をさらにレベルアップさせた「緊急事態宣言」(期間は今月31日まで)を発令した。県内ではGW明けから感染者が増え、8日に80人の感染者が出るなど直近1週間の新規感染者は306人となり、県のモニタリング指標でもっとも深刻なステージ4の基準(285人)を初めて超えた。県内の累計感染者は2869人、死者は85人に上る(石川県庁公式ホームページ)。

   緊急事態宣言の概要は、▽午後8時以降の外出自粛の呼びかけ、▽デパートや映画館、遊園地など85業種への営業時間の短縮を依頼、▽金沢市の飲食店では酒類の提供は午後7時、営業は同8時、▽兼六園、いしかわ動物園、のとじま水族館などの県有施設は閉園・閉館、▽時差出勤や自転車通勤の推進、午後8時以降の勤務の抑制やテレワークの促進、など人の流れを抑える対策だ。

   兼六園が今月31日まで閉鎖となると、カキツバタの観賞は6月までお預けとなる。感染拡大が止まらなければ、6月も緊急事態が延長となる可能性だってある。ワクチンが行き渡るまで、この緊急事態の繰り返しだろう。そのワクチンも金沢市では65歳以上の接種の予約受付が6日に始まっているが、きょうコールセンターに10回電話しても、いっこうに繋がらない。まるで見捨てられたような心境だ。

   「捨てられて   また咲く花や   かきつばた」(正岡子規)。人の心は花の色のように移ろいやすく、見飽きたカキツバタを捨てる人もいる。それをそっと拾って愛でる人もいて、カキツバタは人々の心に咲き続ける、という意味だろうか。なんともうらやましい花だ。 

⇒10日(月)午後・金沢の天気    くもり   

★ワクチン敗戦国の無残な姿~下

★ワクチン敗戦国の無残な姿~下

   新型コロナウイルスのワクチンをめぐって、興味深いニュースが流れていた。NHKニュースWeb版(5月6日付)によると、WTO(世界貿易機関)は、ワクチンの供給を拡大するためにワクチンの特許権を一時的に停止すべきかどうか協議している。南アフリカとインドが低価格のジェネリックワクチンを自由に生産できるよう、特許権を一時的に停止することを提案し、ワクチンを十分に確保できていない途上国の間で支持が広がっている。これについて、アメリカ政府は特許権の停止を支持すると表明した。

    予約で混乱、コロナ禍は拡大、まるで破滅の行進曲  

   また、時事通信Web版(同7日付)によると、ドイツ政府は生産能力の増強を目指すべきだとして消極的な姿勢を示した。報道官は声明で「ワクチン生産の障害となっているのは、生産能力と高い品質が要求されることであって、特許ではない」と強調。「知的財産権の保護は技術革新の源泉であり、将来もそうあるべきだ」と指摘した。

   記事を読んでの自身の感想で言えば、「ジェネリックワクチンはそう簡単ではない」ということだ。先発メーカーがコストと時間をかけて開発した新薬(先発医薬品)を安価に大量生産という目的のために簡単に技術を渡せるものなのか。特許権の一時的停止ではなく、むしろ、ワクチン製造メーカーが信頼がおけると判断したメーカーに委託生産をするという方式でなければ技術は伝わらない。この国際的な論議の中で、日本政府はどのような考えなのだろうか。日本国内での委託生産を積極的に受け入れると表明した方がよいでのはないか。

   きのうの続き。金沢市は6日にワクチン接種の予約受付を開始したが、市内の医療機関に足を運んでも受け付けてもらえず、コールセンターに電話しても繋がらない状態だった。朝9時に受付開始なのでけさ電話したが、『回線が混み合ってるのでかけ直して下さい』と自動音声が繰り返されるだけだった。結局、きょうも予約はできなかった。別に焦ってはいないのだが、行動範囲が狭められていることに気分がうっ積している。

   金沢市で起きているワクチン接種の予約をめぐるトラブルは全国でも起きている。横浜市では、80歳以上の34万人を対象に今月3日午前9時に始まった。ところが、専用ホームページや電話での申し込みが殺到し、45分で受付中止となった。サーバーを増設するなどして5日に再開したものの、電話は終日かかりにくい状態が続いた。6日朝、今回用意した7万6千人分の予約が埋まり、受付はいったん締め切った(5月6日付・毎日新聞Web版)。電話が繋がらない、アプリでアクセスできない、そのように取り残されたシニアの人たちはどう思っているだろうか。北陸では「ワクチンよこせ」の一揆が起きそうな気配だ。

   オープンな接種はできないものだろうか。たとえば、選挙管理委員会と連携して、予約なしで有権者名簿をチェックするだけで市内の地区ごとで接種ができるようにすればどうだろう。場所は選挙のように体育館を使う。その代わり、地区によって接種日が異なる。そうなれば、少なくとも予約の混乱は防げるのではないか。

   きょう石川県は1日の感染者としては最多となる47人の感染が確認され、1人が亡くなったと発表した。県ではコロナ禍で感染拡大に歯止めがかからないとして、政府に対し、金沢市を対象地域として「まん延防止等重点措置」の適用を要請した(6日付・石川県庁公式ホームページ)。これにともない、金沢市内の飲食店の営業時間は午後8時までになる見通しだ。ワクチンは十分に届かない、コロナ禍はさらに拡大する。破滅の行進曲が聞こえてくるようだ。

(※写真はファイザー社のワクチン=同社の公式ホームページより)

⇒7日(金)夜・金沢の天気      くもり

☆ワクチン敗戦国の無残な姿~上

☆ワクチン敗戦国の無残な姿~上

   きょう6日、金沢市でも65歳以上を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種の予約受付が始まった。自身もその対象に入るのでさっそく自宅近くの内科医院へ申し込みに出かけた。「電話での申し込み」と市の説明書に書いてあったが、電話だと混雑してかかりにくいかもしれないと察して、直接申し込みに行くことにした。ところが、医院の受付の女性は「せっかくおいでいただきましたが、直接の申込受付はいたしておりません。市のコールセンターに電話して申し込むか、LINEでも予約ができます」とチラシ=写真=を出してきた。

      自国で開発できず、国民は求めさまよう、これが日本の姿か

   せっかく来たのにと文句の一つでもと思わないでもなかったが、「市の健康政策課の担当者からは医療機関に電話で直接申し込むことができる言われましたよ。わざわざ足を運んだのですから、受付の登録をしてくださいよ」とお願いした。すると、「当院では直接受け付けておりませんので市のコールセンターにお電話ください」の一点張りだ。すると、「そんなダラなね。せっかく来たのに」と背後から声がしたので振り返ると、順番待ちの人が5人いて、私と受付の女性のやり取り聞いていたようだ。「市のコールセンターに電話をかけたけど、電話が繋がらんからわざわざ来たんや。それがダメならどうすりゃいいんや」と、杖をついた高齢の男性が怒りだした。一触即発の状況だととっさに思い、「ここで言い合っていてもラチがあきませんので、自宅から気長にコールセンターに電話しましょう」と場をなだめて外に出た。

   そもそも、高齢者にLINEで予約を申し込めということ自体が間違っているのではないか。総務省「情報通信白書(令和2年版)」によると、70代(70-79歳)のSNS利用者は41%だ。さらに、「NTTドコモ」モバイル社会研究所のSNS利用動向についての調査リポート(2020年6月29日付)によると、スマホを所持する70代の46%がLINEを利用している。この割合でいくと、LINEを使っている70代は19%、つまり5人に1人ということになる。金沢市の65歳以上の人口は12万人なので、LINEで申し込んでいる人は2万2千人だ。残り9万8千人は電話で申し込むか、直接申し込むしかない。

   午後4時、コールセンターに30回目の電話をしたが、『回線が混み合ってるのでかけ直して下さい』と自動的に繰り返さるだけだった。そこで、近くの別の内科医院を探して申し込みに行った。この医院では窓口に「コロナワクチン受付」と貼り紙がしてあり、名簿に記入して待合室で順番を待った。番号は「165」だった。しばらくして受付の女性から名前が呼ばれた。「ウノさんは当院は初めてですよね。当院では通院をされておられる方のみワクチン接種は受け付けています。申し訳ありません」と。「えっ、でもコロナワクチン受付と書いてあるではないですか。ダメなんですか」と言うと、「配布されるワクチンの量が限られているということで仕方なく通院されている方を優先させていただいています」と。

   実に情けない気分になった。LINEは使わないことにしているので、わざわざ申し込みに出向いたのにこの様だ。その後、コ-ルセンターに電話しても繋がらない。高校時代からの友人が金沢に住んでいるので電話した。すると彼も通っている病院に申し込んだが、1週間後に再度申し込んでほしいと言われたという。「まるで日本はワクチン後進国だね」と言うと、彼は「いや、ワクチン敗戦国だよ」と返してきた。自国でワクチン開発をできず、他国の企業に頼らざるを得ない。一国の首相がわざわざ製薬会社の社長に電話して拝む頼むでワクチンの供給を懇願する。そして、国民はワクチンを求めてさまよっている。まさに、敗戦国の姿ではないか。

⇒6日(木)夜・金沢の天気     はれ

★「心の灯り」能登の祭りがことしも

★「心の灯り」能登の祭りがことしも

   地域の祭りが盛んな能登でよく使われる言葉がある。「盆や正月に帰らんでいい。祭りには帰っておいで」と。親たちが、ふるさとを離れて都会などで暮らす子どもたちによく言う。能登の祭りは「キリコ」と呼ぶ高さ10㍍ほどの奉灯(ほうとう)や曳山(ひきやま)がにぎやかに練り、地域にとっては年に一度のビッグイベントなのだ。その祭りがことしも開催が危ぶまれている。

   先日、輪島市門前町の「黒島天領祭」の関係者から電話でヒアリングがあった。黒島はかつて北前船船主が集住した街で、貞享元年(1684)に幕府の天領(直轄地)となり、立葵(たちあおい)の紋が贈られたことを祝って始まった祭礼とされる。輪島塗と金箔銀箔で飾った豪華な曳山=写真=が特徴で、毎年8月17、18日に行われる。自身もこれまで祭りに参加する学生たち40人ほどを連れて黒島を訪れている。昨年(2020年)は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため中止となっていた。

    ヒアリングは「ことし祭りを実施したら、学生のみなさんには参加してもらえるでしょうか」との内容だった。祭りの実施をめぐって祭礼実行委員会のメンバーの中で意見が分かれているとのこと。2台の曳山には曳き手や行列などでそれぞれ100人ほどが携わる。まさに「3密」状態となるので、コロナ禍が治まっていない現状ではことしも中止せざるを得ない、との意見。一方、これまで祭りの歴史にはさまざま困難はあったものの継続してきたので、規模を縮小してでも実施すべきとの意見に分かれている。

   ヒアリングでの問いにはこう答えた。「大学の講義でもオンラインと対面の授業に分かれている。この状況では学生たちも前向きに祭りに参加しようというモチベーションにはなれない」と。「ワクチン接種が行き届くまで待ちましょう」と付け加えた。黒島天領祭の実施の結論はまだ出ていないが、中止派が多数と聞いた。地域の人にとって祭りは「心の灯り」のようなものだ。その灯りを絶やしたくないという想いは双方同じだろう。

   能登を代表する祭りとして知られる七尾市「青柏祭」(5月3-5日)のメイン行事は高さ12㍍の山車「でか山」3基が街を練るが、昨年に続きことしも山車の運行は中止となった。そして、きょうの紙面では「金沢百万石まつり」(6月4-6日)がことしも中止の方向で検討されているようだ(4月29日付・北國新聞)。石川県の発表によると、きょう新たに新型コロナウイルス感染者39人を確認した。1日の感染者数としては過去最多となった。また、能登半島の尖端に位置する珠洲市で初めて陽性が確認され、県内の全市町で感染者が出たことになる。祭りの季節を前にコロナ禍がことしも立ち塞がる。

⇒29日(木)夜・金沢の天気      くもり時々あめ